勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜 作:朴月イチロ
その男の登場に気分を削がれたのか、スレイは立ち上がるとそのまま舌打ちを打ってフロアから外へ出ていった。
荒事の元凶が去ったことを見届けると、緊張に張り詰めていた空気が一気に緩む。
「あ、あの……」
お礼を言いたかったアリシアだったが、先ほどプレッシャーに戸惑ってすぐに言葉が出てこなかった。それを悟ったのか、男はあっけらかんと答える。
「ついてなかったですね。あの男、腕は立つんですが自分の癪に障ることには見境なく噛み付くんですよ。それにしても、不意打ちとはいえ二級クラスのスレイを有無を言わさず転ばすとは。お嬢さん、若いのに内因魔法の扱いがお上手ですね」
「に、二級? 内因魔法? はい??」
褒められているということは理解できるのだが、初めて聞く単語の数々に内容がうまく頭に入ってこない。
混乱しているアリシアをよそに、男は傍らにいるヴァルドを一瞥して軽く会釈する。
――その視線が交わる間に、互いに品定めを行なっていた。
「それじゃあ僕はこれで」
男は何事もなかったかのように、そのまま受付の方に向かっていった。その際窓口から「え、もう終わったんですか!?」と驚きと感嘆の声が聞こえてくる。
「さっさと出よう」
「は、はい……」
何事もなかったかのように外に出ようとするヴァルドに後にアリシアも続く。
登録証の受け取りに再度受付までいく必要を考えると思うと、若干煩わしい。
しかしそれでも思わぬ収穫はあった。
◆◆◆
「はああ……心臓が潰れるかと思いましたよ……」
支部の外に設置されている簡易待合スペースに腰を下ろしたところで、アリシアは緊張で凝り固まった身体をほぐすように、思いっきり息を吐き出した。
「先に喧嘩をふっかけてきたのは向こうだし、周りに舐められないレベルのインパクトは残せたんだから、結果的には良かったんじゃないか? 場を収めてくれたあの男には感謝だな」
「結果的には、でしょう……」
アリシアはさらに深々とため息をつき、自分の右手をぐーぱーしながら訝しげに見つめた。
――内因魔法の扱いがお上手ですね。
先ほどの長身の男からの言葉を思い出す。
「ねえヴァルドさん。内因魔法ってなんですか?私、知らず知らずのうちに魔法師になってたんでしょうか?」
「そういう意味では、この国の住民はみんな魔法師の素質を持っていると言えるな」
「え!? そうなんですか!?」
初耳、と言わんばかりに、アリシアは目を丸くして手元に向けていた目線をこちらに向ける。
もう少し先になるかと思っていたが、本人にその“兆候”が見られるのなら、話すなら今だろう。ヴァルド自身にとっても、神々からの事前情報上の知識でしかないが。
「お前からしたら“魔法”は選ばれし者しか扱えない、特別技術に見えるんだろうが、そもそも“魔法”を扱うためのエネルギー……“魔力”は容量の差はあれど、この国の住民全員に備わっているものなんだよ。ただ大半はその自覚もないまま生活している」
淡々と説明しながら、ヴァルドはその指を弾くと、刹那の火花が散る。
「その中でも“魔力”を媒介に、意図的に自然現象を模倣した人工奇跡……一般的に“外因魔法”と呼ばれるのを取り扱うのが魔法師。一方で持っている魔力を“外”じゃなくて“中”……“身体機能の延長”で強化や代謝の促進にあてているのが“内因魔法”だ」
「はええ……魔法って、火とか雷をどかーんって出す他にも種類があるんですね」
「辺境の住民は特に魔法の取り扱いを学ぶ機会がない分、持て余した魔力を無意識に内因魔法に回すことが多いらしい。だから都より辺境の方が内因魔法の扱いがうまい上、身体能力の高い人材が多い。お前の村の住人もそうだったんじゃないか?」
言われて、アリシアは少しだけ視線を宙に泳がせた。
記憶を辿るように顎に指を当てる。
確かに老若男女関係なく、丸太や石材を軽々運んでいたが、あれははたから見たら変わった光景だったんだろうか。
そんな中、幼少時の苦い思い出を一つ思い出した。
「あ……そういえば小さい頃、農作業のお手伝いで、クワとかフォークとかよく折って壊しちゃうことがあったんですけど!?」
なんだそのお約束な馬鹿力キャラエピソードは。
「……内因魔法は身体強化だけじゃなくて、道具も身体の延長として強化できるから、多分お前が無意識に出力した魔力量に、道具の方が耐えられなかったんだろう」
「やっと謎が解けました……そのせいで一時期お手伝いを止められて、周りの友達には怪獣女って呼ばれてバカにされていたんですよっ……そこからはなんとなく、
思わぬところで悲しくなるような過去を持ち出してくるんじゃない。
内因魔法の存在を知り、アリシアは今まで経験してきた原因不明の理不尽の理由が腑に落ちる。
今まで普通に生活していく分には不相応で抑え込んでいた力を、ここ数回の戦闘で思い出しつつあるのだろう。
だがその事実が、かえって彼女を落ち着かなくさせた。アリシアは手元を見下ろしたまま、わなわなと指先を震わせてる。
ヴァルドは癖で深くフードを被り直す。
――自分から巻き込んでおきながら、“普通”からぶれ始めている彼女を見ると、複雑な気分になる。
「……でもでも!」
自身の中で整理がついたのか、アリシアは伏せていた顔をガバッと上げる。
「ポジティブに考えましょう! この先その内因魔法っていうのを使えるようになっておいた方が、強い魔物に会っても対抗しやすくなりますもんね!」
「……」
「ヴァルドさん、内因魔法の使い方教えてくださいっ」
虚勢は感じられない。
彼女の瞳には相変わらず迷いも曇りもない。
「切り替えが早いな。その力のせいで嫌な目にあっているのに、それでも使うのか?」
「仕方ないですよ、知らなかったんですもん。むしろ今のうちにコントロールできるようにならないと! さっきみたいに、ふとした弾みで人を転ばしちゃう方がまずいじゃないですか。“普通”をキープしておかないと!」
「ごもっとも」
そろそろ登録証発行の指定の三十分経つだろう。と、ヴァルドはおもむろに立ち上がった。
「安心しろ、内因魔法については俺よりいい師匠をつけてやる」
「え? 師匠? どこに?」
アリシアも立ち上がって周りをキョロキョロ見回している。
まあ、それは
さも自然な形で物語を紡いで見せよう。