勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜   作:朴月イチロ

25 / 26
3-13:独りにさせたくない

 ――その隙を女王は見逃さない。

 巨体に似合わぬ速度で一気に距離を詰め、氷に覆われた鉤爪を思いっきり振り下ろす。

 

 「――《防殻(シェル)》ッ」

 

 ヴァルドの《呪文(スペル)》と共に、半瞬早く結界が展開される。

 氷と衝撃がぶつかり、甲高い音を立てて結界が悲鳴を上げた。

 

 咄嗟に槍で受け身の姿勢を取りつつも、完全に衝撃を殺し切れず、レグナスは結界ごと吹き飛ばされた。

 

 そのままフロア内の床まで落下し、歯車の残骸に背を打ちつけて止まる。

 「……ッ、ぐ……」

 

 ヴァルドの《防殻(シェル)》のおかげで致命傷とまではいかないものの、衝撃による鈍痛に思わず苦悶の声が漏れた。

 霞む視界を振り払おうと、何度も強く瞬きを繰り返す。

 焦点の合わない視界の端に、女王の遠吠えとともに放たれた氷槍が、無理やり割り込んできた。

 

 ――いつもなら、このくらいの痛みでも問題なく動けるのに。

 頭にかかったノイズが消えない。

 あんな、昨日今日出会ったばかりの魔法師の言葉一つで、こんなに思考を乱されるとは。

 

「……まったく、情けないったらないな」

 

 視界が戻る頃には、氷槍はすでに眼前まで迫っていた。

 他人事のようにそれを眺めていた、その瞬間。

 一歩踏み込む気配とともに、白いローブが正面に割って入った。

 

「《火球(イグニス)》」

 

 轟音と共に放たれた火が、氷槍をあっという間に飲み込む。

 その後、女王の姿――座標ごと確認したヴァルドはそのまま声を上げた。

 

「飛ばすぞアリシア――《移動(ムーブ)》」

 

 その刹那、先ほどまで女王の背後だった空間に、

 ピッチフォークを構えたアリシアが現れていた。

 

「――とりゃーっ」

 

 完全な死角からの一突。

 だがその一撃は、先ほどのレグナスの一撃と同様、硬質化した毛皮に弾かれる。

 

「キィッ!!」

 

 思わぬ方向からの攻撃に、女王は氷の棘を踏み、反射的に距離を取る。

 だが――逃げた先の空間が、ふっと歪んだ。

 

 次の瞬間、そこにもアリシアがいた。

 

 間髪入れず、ノータイムの一突(ひとつき)

 女王は理解が追いつかないまま、再び身を翻す。

 

 だが、逃げるたびに。

 氷の上に現れる先には、必ずピッチフォークを構えた少女が立っている。

 

 女王の逃走経路そのものを先回りして、消えては現れてを繰り返していた。

 

 そのカラクリを、レグナスはすぐに理解する。

 

「……女王の逃走経路を予測して、彼女を魔法でその死角に移動させてるんですか? なかなか神経が削れそうな戦法を取りますね」

「……内因魔法(ないいんまほう)を使いこなせない今のあいつじゃ、また氷の棘を連発されたら()けきれないからな」

 

 レグナスの知る、魔法師の技量範囲で考えるなら、数回で根を上げるレベルの精密なコントロールが必要な技術だ。ましてこれほどフロア上に氷の障害物があれば、下手をすれば転移後、障害物と一体化して彼女が即死する事態にもなりかねない。

 

 それほどの高等技術を、この魔法師は何食わぬ顔で行使し、あまつさえ自分と会話する余力まである。

 ―― 一体、何者なのか。

 

「そうは言っても、あの女王個体の硬質化した毛皮を突破するのは、内因魔法(ないいんまほう)の身体強化込みの一撃じゃないと難しいと思いますよ」

「やっぱりそうだよな……」

 

 この戦いで、女王を倒すのに必要なのは『重い一撃』

 

 アリシアの村でのワイルドボアとの戦闘を思い出す。

 あの時はアリシアにあげた《異能(ギフト)》でピッチフォークを巨大化させて仕留めたが、今日の分の《異能(ギフト)》は先ほどの木はしごに使ってしまった。

 

 たとえ使えたとしても、ここで同じようにピッチフォークを巨大化させれば、時計塔全体が崩壊して、こちらもただでは済まなくなる。

 

 ――だとすれば、彼女には悪いが、()()()()()思い出してもらうしかない。

 幼少時に無意識に使用していた、内因魔法(ないいんまほう)を。

 

 ヴァルドは迷いを捨てた。

 

「アリシアー!」

「はいっ」

 

 女王の鉤爪をピッチフォークで牽制しながら、アリシアは頼もしく返事する。

 

「お前、小さい頃よく内因魔法(ないいんまほう)由来の魔力付与で、道具をよく壊したっていってたよな?」

「ええ!? なんで今その話が出て来るんですか!?」

「その時と同じような感じで、ピッチフォークへの魔力付与を今ここでもできるか?」

「い、いま!?」

 

 戦闘時につかわしくない、気の抜けた声がフロアをこだまする。

 

「いきなり何言うんですかっ! 子どもの頃ろくな使い方ができなかったものを、練習もなしにいきなり本番でやるんですか!?」

「心配するな、そのピッチフォークだったら、お前のデタラメな魔力量でも問題なく受け止められる。そうしないとあいつの硬い毛皮を突破できん」

「心配している所はそこじゃないんですよっ」

「あいつを倒さんと、いつまでも街が凍ったまま戻らないぞ!!」

「それは困ります!!……うー、わ、わかりましたようっ」

 

 そんな二人のやり取りの中、背後にいたレグナスがゆっくり立ち上がる。

 

「……ちょっと無茶振りが過ぎませんかね?」

「超感覚派のあいつには、このくらいがちょうど良いんだよ……動けるか?」

「なんとか。僕が時間を稼ぎましょうか?」

「頼む」

 

 承知です、とヴァルドとレグナスはその場から散開した。

 

 氷の棘を軽々と飛び越え、レグナスは女王に接敵して自分に注意が引くように誘い込む。戻ってきた彼の姿を見て、アリシアは少し安堵した。

 

「レグナスさん! 体大丈夫ですか!? 無理してないです??」

「お気になさらず、それなりに鍛えていますので。足止めは引き受けます。こいつへのとどめ、お願いしてもいいですか?」

「は、はい……」

「頼みましたよ」

 

 そう言ってレグナスは、アリシアを安心させるように微笑み返すと、意図的に大きく踏み込み、女王の視線と殺気をすべて自分に引き寄せる。アリシアとの間に、強引に距離を作るようにして扇動して離れた。

 

 アリシアは両手で不安げにピッチフォークを握りつつも、目を伏せて先端を女王にいる方向へ構える。

 

 ――物心ついた時から、自分の中には『よくわからないモノ』

 力の源泉のような湖があるように感じていた。

 

 その湖からは事あるごとに水が溢れて、

 そのせいで農具に限らず、色んなものを壊しては、何度も怒られた。

 

 止め方も、抑え方も分からず、どうすればいいのか誰も教えてくれない。

 

 最終的に、幼いアリシアが自分なりに出した結論は、その湖に大きな蛇口を作って、固く閉ざすことだった。

 湖全体、力の源泉を止めるしか『普通』でい続けることができなかったから。

 

 それがいつの間にか、

 その湖も、蛇口の存在ごと忘れてしまっていた。

 

 でも今は、この湖が『内因魔法(ないいんまほう)』として誰かの力になれる。

 正直、この蛇口を開けたらどうなるか、自分でも全くわからない。

 

 それでも、ローグアナをなんとかしてあげたい、という気持ちと、

 あの孤高に戦う槍使いに、これ以上傷ついてほしくない、と言う気持ちの方が勝った。

 

 アリシアは思い切って、源泉に通じる蛇口を開けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。