勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜   作:朴月イチロ

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3-15:お仲間が増えました!

 女王討伐のその後。

 

 全部終わった――と綺麗に締めたい所ではあるが、思っていた以上にユキイタチの残党討伐に時間を要した。

 女王が統制していた頃とは打って変わり、街中を脱兎のように逃げ回る彼らを掃討して周るのが、一番骨が折れたかも知れない。ローグアナ内で動ける傭兵総出で対応に追われ、その姿を見かけなくなる頃には、すっかり空は茜色に染まっていた。

 

 その次に時間を要したのは。氷像となった住民と傭兵たちの救出。

 

 全身丸ごと凍結している者を優先に、街に滞在していた魔法師をかき集めて、彼らの魔法で解凍作業に当たった。この作業においては、ヴァルドが一番の功労者であったことは言うまでもない。

 

 ケガの度合いも人それぞれで、それなりに治療が必要な者も多かったが、幸いなことに氷像化された人々、戦闘に赴いた傭兵たちすべて含めて、()()()()()()()()()()()()()()()()――()()()に。

 

 街の大部分は未だ凍結したままだったが、ギルド受付嬢のエルシェによると、すでに王都のギルド本部に事の顛末を報告した上で、原状回復のための魔法師の人員派遣を済ませているとのことだった。街の避難所で避難している住民たちも、数日のうちに元の生活に戻れるだろう、とのこと。

 

 おっとりしているように見えて、仕事が早い。さすがプロ。

 

 ――さらに驚くべきは。

 アリシアのギルド階級が今日一日で五級から四級へ昇格した、という点だ。

 登録日を考えれば、異例と言っていい。

 

「い、いいんですかね……だって私、昨日登録したばかりですよ?」

 

 ギルド支部に戻った所、エルシェから昇格の話を聞かされたアリシアは、戸惑いの気持ちの方が強く、所在なさげに両手の人差し指をツンツンと突き合わせていると、エルシェは彼女のその両手をガバッと掴む。

 

「なーに言ってるんですかぁ! 支部を守ってくれましたし、何より親玉である女王を倒してくれたんですから、昇格推薦には文句なしの成果ですよ! 本部に報告したら即決でしたー。個人的には三級まで飛び級させたかったんですけど、実績が足りないからって却下されちゃいました……」

 

 エルシェはしゅん、と残念そうな顔をすると、アリシアは慌てて首を横に振った。今の彼女にとっては十分すぎる待遇である。

 

 それと――と、エルシェはアリシアの後方で聞き役に徹していた、ヴァルドとレグナスに声をかける。

 

「今回の事件解決の報酬については、申し訳ないですけど少しお時間くださいね。特別手当とか含めると結構な金額なので……本部の承認をいただき次第、すぐお支払いしますので!」

「十分ですよ。こんな状況でも報酬の話を曖昧にしないあたり、やっぱり信用できますね」

 

 レグナスが飄々と返すと、エルシェは苦笑いで頭をかく。

 

「信用がモットーなので、こういう所マゴついていると、他の傭兵さんに怒られちゃいますからね――あ。そうだ」

 

 エルシェは思い出したと言わんばかりに、手を軽く叩く。

 

「街はこんな状態ですけど、ギルド支部で傭兵の皆さんと、ささやかな慰労会を行うつもりでして。よろしければ皆さんもいかがですか? 今回の功労者は間違いなく皆さんですから!」

「え、いいですか??」

「凍結していた物資類も、ヴァルドさんに解凍していただけましたし!」

 

 アリシアは振り向いて後ろの二人に弾む声で呼びかける。

 

「出てもいいですよね!?」

「お前が無理してるわけじゃないなら構わないが」

「大丈夫ですよー! レグナスさんと一緒に治療魔法かけてもらいましたので、痛みとかまったくないです!」

 

 片腕をブンブン振って元気アピールをするアリシアに対し、ヴァルドは目を細め、彼女の内側に流れる魔力量をそっと探る。

 

 ――特に異常は見られない。

 静かな湖面のように、魔力の流れは穏やかだった。

 

 初めての実戦使用でそれなりに消耗しているかと思ったが、無理をしている様子もない。痩せ我慢の兆しすら、感じ取れなかった。

 

 それなのに――。

 

 ヴァルドでも、普段の彼女から感じ取れる魔力量は、せいぜい人並み程度だ。

 時計塔の外へ女王を吹き飛ばすほどの身体強化を可能にした“あの力”を、今の彼女からはとても想像できない。

 

 ならば、あの爆発力は一体どこから来たのか。

 

 星綾士の権限を使えば、より詳細な解析も不可能ではない。

 だがそれは、彼女の根源に踏み込むことに等しい。

 

 できれば、そこまではしたくなかった。

 他人の“触れられたくない部分”を、好奇心で暴くほど、彼は無粋ではない。

 

「……一旦は、経過観察ってところか」

 

 彼女に聞こえぬほどの声で、ヴァルドはそう呟いた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 日も落ちて静まり返った氷の街で、一箇所――ギルド支部からは明るい光と活気に満ちていた。

 

「みなさん、ユキイタチ討伐お疲れ様でしたぁ! ささやかではありますが、今日は皆さんへの労いの場をご用意させていただきましたので、明日のためにぜひ飲んで食べていってくださいー! かんぱーい!」

 

 エルシェの音頭と共に、その場に集まった傭兵たちは盃を交わしていく。

 慰労会は立食形式で行われ、テーブルにはお酒のつまみとなり得るさまざまな料理が陳列されている。中には血煙亭で堪能した肉盛りのミニサイズ版も含まれており、アリシアは内心心躍らせていた。

 

 が、残念ながらこの場のアリシアには、料理をじっくり堪能している暇などなかった。実質、今日の主役は彼女なのである。

 

 昨日のギルド登録時に向けられていた、値踏みするような半信半疑の視線が嘘のように、今や傭兵たちからはどうやって倒したのかだの、どうしてその歳で傭兵稼業を始めたのかだの、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

 

 もはや疑いではなく、完全に“同業者”としての好奇心だった。

 

 かろうじて質問内容に節度が保たれていたのは、アリシアの隣で《赤貂(セキテン)》が無言のまま、周囲に睨みを効かせていたからに他ならない。

 軽口や品のない冗談を挟もうとした者が、ことごとく言葉を飲み込んでいた。

 ちょうどいい虫除けだ。

 

 そんな和気藹々《わきあいあい》としていた慰労会の空気を変えたのは、とある傭兵の男の質問に対する、アリシアの回答だった。

 

「なあアリシアちゃん、この後どうするつもり? しばらくはローグアナにいるの?」

「あ、いえ……私、このまま北の方に向かおうと思ってるんです。魔の土地に行きたくて」

 

 ――しん。

 

 周りの酒杯を持つ手が止まり、さっきまで浮かんでいた笑顔がそのまま固まった。

 予想外の反応に、アリシアは思わず周りをキョロキョロして、「あれ?」と言いたげに顔色を窺ってしまう。

 そんな中で平然としているのは、事情を把握しているヴァルドとレグナスだけだった。

 

 別の傭兵の男が呆気にとられたように口を開く。

 

「――お嬢ちゃん。あんた、魔の土地がどういう所か、わかって言ってる?」

 

 アリシアは戸惑いつつも臆せず返した。

 

「魔物が生まれてくる場所ですよね? 今魔物が増えている原因は、その魔の土地にいるすごく強い魔物の『魔王』がいるせいだって聞きました。だからそれをやっつけにいくんです」

 

 アリシアの返答に、周りの傭兵たちは一斉にどよめいた。

 

「魔王……?」「聞いたことないぞ、そんな話」

 誰かが小さく漏らした声を皮切りに、場は一気に騒がしくなる。

 

 出現する魔物の数が増えている、という情報までは傭兵たちの間でも共通認識だった。

 だが、その原因として“魔王”の存在を示唆されたのは、この場が初めてだっただろう。

 

 (そば)で話を聞いていたエルシェが、アリシアに対し少し前のめりになって問いかける。

 

「――アリシアさん、その『魔王』の情報って、どこから聞きました?」

「あ、えっと、それは――」

 

 アリシアが言葉を探しかけたところで、ヴァルドが一歩前に出た。

 「ちょっと王都の方に、情報を拾えるツテがあってね」

 

 さらりとした口調だったが、その場の視線が一斉にヴァルドへ向く。

 

「魔物の出現数が増加している原因を探るために、向こうで水面下に魔の土地の調査が入ってるらしい」

 

 傭兵たちは黙って続きを待っている。

 

「そこで――今まで観測されてきた瘴気とは、明らかに桁の違う反応が出た、って噂だ。何がいるのかまでは分からない。ただ、自然発生で片づけるには、さすがに大きすぎる」

 

 ヴァルドは一度言葉を切り、周囲を見回した。

 

「俺たちは、その“根っこ”を確かめに行くつもりでね」

 

 王都のツテとかは、半分はでたらめだ。

 だがヴァルドは、自分の肩書きが持つ重さを理解している。

 

 ギルド階級二級の魔法師。

 その立場から語られる「噂」は、ただの世迷い言では済まされない。

 

 それを聞いたエルシェは、慎重に言葉を選ぶように一瞬だけ間を置いた。

 

「……噂レベルで、似たような話が出ているのは、私も耳にしたことはあります。正式な情報としては、まだ降りてきていませんが……単純に、上層部が秘匿しているだけ、という可能性もありますね」

 

 エルシェはため息をついて、困った顔をアリシアに向ける。

 

「……あのですね、アリシアさん。魔の土地はオルヴィルでも特定禁足区域に指定されているので、今のアリシアさんじゃ、そもそも立ち入る資格自体がありません」

 

「それって、実力が足りないってことですか?」

 

「半分正解です……公に入るには条件が二つあって――王命を受けているか、もしくはギルド階級二級以上の傭兵が四人以上そろったパーティーで、本部の許可を取ること。それ以外は、完全に不法侵入扱いになります」

 

 アリシアは言葉を失った。

 単純に実力不足、という話なら、この先いくらでも努力するつもりでいた。

 だが――これは、自分一人が頑張ればどうにかなる問題ではない。

 

「――ヴァルドさん知ってました!? 資格がいるって!」

 

 思わず声を上げて振り返ると、当の本人は驚きもせず、淡々と答える。

 

「前に言っただろ。荒事に対する経験を積めって」

「え、で、でも……!」

「お前が実力をつけて二級に上がればいい。それだけの話だ」

「それだけじゃありませんよ!」

 

 アリシアは思わず食い下がった。

 

「四人ですよ!? 二級以上が四人以上って……私とヴァルドさんだけじゃ、どう頑張っても――」

 

 

「僕が一緒にいきましょうか?」

 

 

 なんでもないことのように告げられた、その一言。

 オロオロするアリシアの眼前で、レグナスは『それ』をそっと下ろしてみせた。

 

 革紐で通された、ギルドの階級を示す魔石。

 色は二級を表す、深い真紅。

 

「ちょうど北方に戻る理由を探していた所だったので、僕にとっても渡り舟です」

「……いいんですか?」

「足手まといにならない自負はありますよ」

 

 その言葉を聞き終えるより早く、「ありがとうございますー!!」とアリシアは彼の手を、魔石ごと両手で掴んでいた。

 全身で喜びを表すようにその場で跳ねると、当のレグナスはそれにされるがまま、体が前後にガクガクと揺れている。

 

 その様子を、周囲の傭兵たちは呆然と眺めていた。

 つい先ほどまで、無言の圧だけで距離を取らせていた《赤貂(セキテン)》が、今は少女一人に振り回されている。

「……あんな顔、するんだな」

 誰かが、ぽつりと漏らした。

 

 一方でその様子をヴァルドは、保護者じみた溜息を胸の内でつきながら、満足とも諦観ともつかない眼差しで二人を見つめていた。

 

 緊張感やら不穏な空気やら、全部まとめてアリシアがひっくり返してしまう。

 どうにも締まらない……それももう、慣れてしまったけれど。

 

 そして、アリシアがこちらに気を取られていない隙を見計らい、レグナスの背を軽く、控えめにこづいた。

 顔だけ振り向いたレグナスに、言葉は使わず、目配せと短い手振りだけで伝える。

 

(少し席を外す。そいつのこと、頼む)

(りょーかいです)

 

 肩をすくめるような軽い返事を受け取り、ヴァルドはそれ以上何も言わず、静かに踵を返した。

 

 皆の視線が向かないように、音も立てずに、その場を離れる。

 

 ――そろそろ《評価報告》の時間だ。

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