勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜 作:朴月イチロ
アリシアが「神さま」を連れてきた――その知らせは、あっという間に村中を駆け巡った。
叔父や叔母はもちろん、村長までが飛び出してきて大騒ぎである。
「あの謎の祠から神さまが現れたぁ!?」
「本当に本物!?」
「この辺りでは見かけたことない御仁だが……」
先ほどまで集会場には「神さま」を一目見ようと、村の住民が押し寄せて、てんやわんやな状況だったが、それもようやく落ち着く。
集会場内の上座には、アリシアが気まずそうに座らされており、その周りを囲むように険しい顔をした村の大人達が座っている。
彼らの視線の先にいるのは、アリシアの隣で静かに目を閉じる青年、ヴァルドである。
膝の上に手を置き、わずかに呼吸を整えるその姿は、まるで瞑想でもしているかのようだった。
(……寝てないですよね?)
アリシアはそっと彼の顔をのぞき込んだ。
小声で話しかけても返事はなく、ぴくりとも動かない。
「――で、その“神さま”は、アリシアが“魔王を討伐する”運命にある、とおっしゃってるわけだな?」
口火を切ったのは村長の低い声だった。
ヴァルドが気になっていて完全に油断していたアリシアは、一瞬心拍が高鳴ると慌てて姿勢を正した。
「は、はい! 何かの間違いだと……思うんですけど」
自分でも自信が持てなくて、語尾がつい尻すぼみになってしまう。
祠の前であったことはもしかしたら夢だったのかもしれない、と思い込もうにも、今もひっそりと握っている赤い水晶が、あれは紛れもない事実であることを物語っていた。
「冗談にしちゃあ、えらく重たい話だな」
片側の席から、叔父のグランが苦笑混じりに言った。
彼の隣で叔母のシンクレアが心配そうに口を挟む。
「そうよ。あんたは昔から運動神経はいい方だけど、戦うだなんて……傭兵じゃあるまいし、そんな危ないこと、させられるわけないでしょう?」
「でもよ、ここ最近、村の周辺が物騒なのは確かだぜ」
村人のひとりが声を上げる。
「北へ繋がる交易路で、旅人が魔物に襲われたって。それに、隣村でも家畜が何匹もやられたらしいじゃないか」
「確かに……」
もう一人が頷く。
「魔物なんざ、少し前までは大ネズミとか小さい奴らしか見かけなかったのにな。森の奥で、巨大な化け物の影を見たって話が出てる。ここも……もう時間の問題かもしれねぇ」
(へえ、思っていたより自覚があるんだな)
村民たちを観察し続けていたヴァルドは、ゆっくりと目を開く。
「あなた達の直感は正しい」
その低く響く声は、どこか現実離れした静けさをまとっており、村人たちは思わず息をのむ。
「この国で蔓延る魔物は、大元を辿れば最北の“魔の土地”の瘴気から生じたものだ。今まで辛うじて、人間が対処できる数だったから均衡が保たれていたが、今はその魔物の発生を誘発する、“魔王”とも呼ぶべき強力な個体が彼の地に現れた。その脅威はいずれ、ここにも届くだろう」
「魔の土地……!」
その場にいた全員が息を呑んだ。
魔の土地。
このオルヴィルに住まう者は誰しもその存在を知っている、国の最北端に存在する、有害な瘴気に覆われたエリアである。
この国で害を成す魔物はほぼすべて、この魔の土地から生まれ、外界へ出てきたものだと言われている。
「話が本当なら、王都へ急いで知らせるべきじゃないかい? 兵を呼ばなきゃ!」
「といっても実際に被害が出たわけではないし、こんな辺境な村まで来てくれるとは思えないねえ。」
「傭兵ギルドで用心棒を募集するのが現実的か……」
村人同士の声と声がぶつかり合い、集会所の中はたちまち混乱に包まれた。
「みんな少し落ち着こう……?」
アリシアの声は、騒音に飲まれるだけだった。
(……意志はあるんだがな)
ヴァルドはそれを横目に、改めて周りを見渡す。
(すんなり受け入れてもらえる話じゃないとは思っていたが、仕方ない)
「わ、私どうしたらいいんでしょう神さま……」
「その呼び方はやめてくれ」
すがるような彼女の視線を、ほんの一瞬だけ受け止める。
まずはこの少女に——
(……おそらくこれが
ヴァルドは、アリシアから見て死角となる位置で密かに指を鳴らす。
――次の瞬間。
会議のざわめきを切り裂くように、外から獣の咆哮が響いた。