勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜   作:朴月イチロ

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1-3:存外、真面目な話です

 アリシアが「神さま」を連れてきた――その知らせは、あっという間に村中を駆け巡った。

 叔父や叔母はもちろん、村長までが飛び出してきて大騒ぎである。

 

「あの謎の祠から神さまが現れたぁ!?」

「本当に本物!?」

「この辺りでは見かけたことない御仁だが……」

 

 先ほどまで集会場には「神さま」を一目見ようと、村の住民が押し寄せて、てんやわんやな状況だったが、それもようやく落ち着く。

 

 集会場内の上座には、アリシアが気まずそうに座らされており、その周りを囲むように険しい顔をした村の大人達が座っている。

 彼らの視線の先にいるのは、アリシアの隣で静かに目を閉じる青年、ヴァルドである。

 

 膝の上に手を置き、わずかに呼吸を整えるその姿は、まるで瞑想でもしているかのようだった。

 

(……寝てないですよね?)

 

 アリシアはそっと彼の顔をのぞき込んだ。

 小声で話しかけても返事はなく、ぴくりとも動かない。

 

 「――で、その“神さま”は、アリシアが“魔王を討伐する”運命にある、とおっしゃってるわけだな?」

 

 口火を切ったのは村長の低い声だった。

 ヴァルドが気になっていて完全に油断していたアリシアは、一瞬心拍が高鳴ると慌てて姿勢を正した。

 

「は、はい! 何かの間違いだと……思うんですけど」

 

 自分でも自信が持てなくて、語尾がつい尻すぼみになってしまう。

 祠の前であったことはもしかしたら夢だったのかもしれない、と思い込もうにも、今もひっそりと握っている赤い水晶が、あれは紛れもない事実であることを物語っていた。

 

「冗談にしちゃあ、えらく重たい話だな」

 

 片側の席から、叔父のグランが苦笑混じりに言った。

 彼の隣で叔母のシンクレアが心配そうに口を挟む。

 

「そうよ。あんたは昔から運動神経はいい方だけど、戦うだなんて……傭兵じゃあるまいし、そんな危ないこと、させられるわけないでしょう?」

 

「でもよ、ここ最近、村の周辺が物騒なのは確かだぜ」

 

 村人のひとりが声を上げる。

 

「北へ繋がる交易路で、旅人が魔物に襲われたって。それに、隣村でも家畜が何匹もやられたらしいじゃないか」

 

「確かに……」

 

 もう一人が頷く。

 

「魔物なんざ、少し前までは大ネズミとか小さい奴らしか見かけなかったのにな。森の奥で、巨大な化け物の影を見たって話が出てる。ここも……もう時間の問題かもしれねぇ」

 

(へえ、思っていたより自覚があるんだな)

 村民たちを観察し続けていたヴァルドは、ゆっくりと目を開く。

 

「あなた達の直感は正しい」

 

 その低く響く声は、どこか現実離れした静けさをまとっており、村人たちは思わず息をのむ。

 

「この国で蔓延る魔物は、大元を辿れば最北の“魔の土地”の瘴気から生じたものだ。今まで辛うじて、人間が対処できる数だったから均衡が保たれていたが、今はその魔物の発生を誘発する、“魔王”とも呼ぶべき強力な個体が彼の地に現れた。その脅威はいずれ、ここにも届くだろう」

 

「魔の土地……!」

 

 その場にいた全員が息を呑んだ。

 

 魔の土地。

 このオルヴィルに住まう者は誰しもその存在を知っている、国の最北端に存在する、有害な瘴気に覆われたエリアである。

 この国で害を成す魔物はほぼすべて、この魔の土地から生まれ、外界へ出てきたものだと言われている。

 

「話が本当なら、王都へ急いで知らせるべきじゃないかい? 兵を呼ばなきゃ!」

 

「といっても実際に被害が出たわけではないし、こんな辺境な村まで来てくれるとは思えないねえ。」

 

「傭兵ギルドで用心棒を募集するのが現実的か……」

 

 村人同士の声と声がぶつかり合い、集会所の中はたちまち混乱に包まれた。

 

 「みんな少し落ち着こう……?」

 アリシアの声は、騒音に飲まれるだけだった。

 

(……意志はあるんだがな)

 ヴァルドはそれを横目に、改めて周りを見渡す。

(すんなり受け入れてもらえる話じゃないとは思っていたが、仕方ない)

 

「わ、私どうしたらいいんでしょう神さま……」

「その呼び方はやめてくれ」

 

 すがるような彼女の視線を、ほんの一瞬だけ受け止める。

 まずはこの少女に——()()()()()()()()()()()

 

(……おそらくこれが()()()だ。悪いな)

 ヴァルドは、アリシアから見て死角となる位置で密かに指を鳴らす。

 

 ――次の瞬間。

 会議のざわめきを切り裂くように、外から獣の咆哮が響いた。

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