勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜   作:朴月イチロ

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4-2:魔女からの誘い

 その魔法師は、この町では『深緑の魔女』と呼ばれているらしい。

 

 ローグアナと王都を結ぶ街道外れの支点町――『フェルム』。

 森に一人暮らしているという“魔女”は、時々町に降りては住人の困りごとを解決し、また姿を消す。

 そんな気ままな生活を送っている、とのこと。

 

「……いい人そうで安心しました!」

 

 聞き込み結果をまとめたメモから顔を上げたアリシアの目は、期待に満ちて輝いている。

 

「お前、人助けしている連中は全員『いい人』判定になってないか?」

 

 ヴァルドは思わず口を挟む。

 

 レグナスの記憶頼りにたどり着いた町だが、印象としては思っていたよりも、ずっと静かだった。

 

 石畳はあるものの手入れは最低限で、往来する人影もまばらだ。

 商人の呼び声や露店の喧騒はなく、聞こえるのは荷馬車の軋む音と、風に揺れる木々の葉擦れだけ。

 

 それでも町が寂れているというわけではない。

 小規模ながら傭兵ギルドの支部も構えており、外からの来訪者はベルンやローグアナほどではないとしても、珍しくはないようで、住人からの過剰な警戒心は感じられない。

 

 この町なら、確かに“魔女”が出入りしていてもおかしくはない。

 森に住む異端者を、必要な時だけ頼り、深入りはしない。

 

 それでいて、排除もしない。

 

 フェルムという町は、そういう距離感を自然に受け入れる場所だった。

 

 アリシアは手元のメモを再度見返す。

 

「魔女さんの家の場所まで知っている人はいなかったですね……」

 

 住民からの証言で“魔女”の人となりは知れたが、住まいまで把握している者はどうにも見つからない。

 

「そこは彼女の方も、深入りさせないようにしてるんでしょう。僕も以前受けた依頼の際は、町の郊外で会話しましたからね。その時は確か『グレース』と名乗っていましたが、恐らく偽名でしょう」

 

「相当用心深いな……」

 

 星綾士の権限で居場所を暴くことは容易だが、下手に踏み込んで彼女の警戒心を煽れば、交渉はかえって難しくなる。

 

 ヴァルドが思案にふけっていると、アリシアが「あ」と声を上げた。

 

「レグナスさん、前はどうやって依頼を受けて、魔女さんと会ったんですか?」

 

「ギルド経由ですよ。遺跡調査に用心棒として同行してほしい、という話でしたね」

 

 それを聞いたアリシアがパチンと手を叩く。

 

「だったらその魔女さん、ギルドの方にまた新しい依頼出してないですかね。それを今回私たちで受ければいいんですよ!」

 

 ヴァルドとレグナスは、互いに顔を見合わせる。

 

「……お前それはさすがに」

 

「……ちょっと都合が良すぎるといいますか」

 

「わからないじゃないですか! 物は試しです、行ってみましょーよ!」

 

 そういってアリシアは二人の背中をどんっと押した。

 

 そんなキレイに、歯車が噛み合った展開があるものかと。

 少なくともこの時点での二人はそう思っていた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「あ、はい、奇遇ですね。ちょうど昨日、遺跡調査の同行者のご相談があったんですよ。三級以上の傭兵を希望されていたので、ローグアナの支部に掛け合うつもりだったんです」

 

「本当ですか!」

 

 ギルドの中年の男性職員の言葉に、アリシアが身を乗り出す。後ろのヴァルドとレグナスは、信じられないものを見るような目で眺めていた。

 

 カウンターの上に置かれた会員証の魔石が、色だけで語った。二級を示す深紅が二つ。まだ若い階級を示す淡緑が一つ。

 

「二級が二人、合同での受注ですね。戦力として申し分ないでしょう。ではこちらの方にサインを――」

 

 一応アリシアはまだ立場としては四級なので、ここは二級のレグナスがサインする。

 それを見て、アリシアは少し複雑な気持ちと共にため息が出た。

 

「はぁ……私がお二人に階級が追いつくのは、いつになりますかね……」

 

「まあ、そこは今考えても致し方ない事ですよ」

 

 サインを終えたレグナスは顔を上げ、目線をアリシアに移した。

 

「“あそこ”にたどり着くために、いずれ二級に上がってもらうことになりますが、“今すぐ追いつけ”って話でもない。一つずつ、昇級のための条件を満たしていきましょう」

 

「レグナスさん……!」

 

「二級になった暁には、是非ともこの間の内因魔法の身体強化込みで、手合わせを……」

 

 その先は言わせない、とでもいうように、ヴァルドは思わず杖で彼の頭をこづいた。

 

「そこは普通に励ましの言葉で終わらせておけ、戦闘中毒(バトルジャンキー)

 

 こういう話をする際のレグナスの声は、いつにも増して弾んでいるように聞こえる。

 どうして人は、自分の「好き」に触れた瞬間だけ、驚くほど思考が単純になるのだろう。

 

 ――悪いことではないのだが。

 

「……で、この先依頼人とどう合流するって?」

 

 ヴァルドの言葉に、アリシアは職員から渡された依頼書を見返す。

 

「えーっと地図が書いてますね『この依頼書を持って指定の場所へ出向いた者を迎えにいく』だそうです!……へえーどういう仕組みなんでしょう」

 

「僕の時とほぼ一緒ですね……今回の指定は森のはずれっぽいですが。では、早速行ってるとしますかね」

 

 三人はそのまま、ギルドを後にする。

 その中でもアリシアは一人、ワクワクを抑えられずにいた。

 

 ヴァルド以外で、初めて会う魔法師になる。

 単純に、友達になりたかった。

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