勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜 作:朴月イチロ
その魔法師は、この町では『深緑の魔女』と呼ばれているらしい。
ローグアナと王都を結ぶ街道外れの支点町――『フェルム』。
森に一人暮らしているという“魔女”は、時々町に降りては住人の困りごとを解決し、また姿を消す。
そんな気ままな生活を送っている、とのこと。
「……いい人そうで安心しました!」
聞き込み結果をまとめたメモから顔を上げたアリシアの目は、期待に満ちて輝いている。
「お前、人助けしている連中は全員『いい人』判定になってないか?」
ヴァルドは思わず口を挟む。
レグナスの記憶頼りにたどり着いた町だが、印象としては思っていたよりも、ずっと静かだった。
石畳はあるものの手入れは最低限で、往来する人影もまばらだ。
商人の呼び声や露店の喧騒はなく、聞こえるのは荷馬車の軋む音と、風に揺れる木々の葉擦れだけ。
それでも町が寂れているというわけではない。
小規模ながら傭兵ギルドの支部も構えており、外からの来訪者はベルンやローグアナほどではないとしても、珍しくはないようで、住人からの過剰な警戒心は感じられない。
この町なら、確かに“魔女”が出入りしていてもおかしくはない。
森に住む異端者を、必要な時だけ頼り、深入りはしない。
それでいて、排除もしない。
フェルムという町は、そういう距離感を自然に受け入れる場所だった。
アリシアは手元のメモを再度見返す。
「魔女さんの家の場所まで知っている人はいなかったですね……」
住民からの証言で“魔女”の人となりは知れたが、住まいまで把握している者はどうにも見つからない。
「そこは彼女の方も、深入りさせないようにしてるんでしょう。僕も以前受けた依頼の際は、町の郊外で会話しましたからね。その時は確か『グレース』と名乗っていましたが、恐らく偽名でしょう」
「相当用心深いな……」
星綾士の権限で居場所を暴くことは容易だが、下手に踏み込んで彼女の警戒心を煽れば、交渉はかえって難しくなる。
ヴァルドが思案にふけっていると、アリシアが「あ」と声を上げた。
「レグナスさん、前はどうやって依頼を受けて、魔女さんと会ったんですか?」
「ギルド経由ですよ。遺跡調査に用心棒として同行してほしい、という話でしたね」
それを聞いたアリシアがパチンと手を叩く。
「だったらその魔女さん、ギルドの方にまた新しい依頼出してないですかね。それを今回私たちで受ければいいんですよ!」
ヴァルドとレグナスは、互いに顔を見合わせる。
「……お前それはさすがに」
「……ちょっと都合が良すぎるといいますか」
「わからないじゃないですか! 物は試しです、行ってみましょーよ!」
そういってアリシアは二人の背中をどんっと押した。
そんなキレイに、歯車が噛み合った展開があるものかと。
少なくともこの時点での二人はそう思っていた。
◆◆◆
「あ、はい、奇遇ですね。ちょうど昨日、遺跡調査の同行者のご相談があったんですよ。三級以上の傭兵を希望されていたので、ローグアナの支部に掛け合うつもりだったんです」
「本当ですか!」
ギルドの中年の男性職員の言葉に、アリシアが身を乗り出す。後ろのヴァルドとレグナスは、信じられないものを見るような目で眺めていた。
カウンターの上に置かれた会員証の魔石が、色だけで語った。二級を示す深紅が二つ。まだ若い階級を示す淡緑が一つ。
「二級が二人、合同での受注ですね。戦力として申し分ないでしょう。ではこちらの方にサインを――」
一応アリシアはまだ立場としては四級なので、ここは二級のレグナスがサインする。
それを見て、アリシアは少し複雑な気持ちと共にため息が出た。
「はぁ……私がお二人に階級が追いつくのは、いつになりますかね……」
「まあ、そこは今考えても致し方ない事ですよ」
サインを終えたレグナスは顔を上げ、目線をアリシアに移した。
「“あそこ”にたどり着くために、いずれ二級に上がってもらうことになりますが、“今すぐ追いつけ”って話でもない。一つずつ、昇級のための条件を満たしていきましょう」
「レグナスさん……!」
「二級になった暁には、是非ともこの間の内因魔法の身体強化込みで、手合わせを……」
その先は言わせない、とでもいうように、ヴァルドは思わず杖で彼の頭をこづいた。
「そこは普通に励ましの言葉で終わらせておけ、
こういう話をする際のレグナスの声は、いつにも増して弾んでいるように聞こえる。
どうして人は、自分の「好き」に触れた瞬間だけ、驚くほど思考が単純になるのだろう。
――悪いことではないのだが。
「……で、この先依頼人とどう合流するって?」
ヴァルドの言葉に、アリシアは職員から渡された依頼書を見返す。
「えーっと地図が書いてますね『この依頼書を持って指定の場所へ出向いた者を迎えにいく』だそうです!……へえーどういう仕組みなんでしょう」
「僕の時とほぼ一緒ですね……今回の指定は森のはずれっぽいですが。では、早速行ってるとしますかね」
三人はそのまま、ギルドを後にする。
その中でもアリシアは一人、ワクワクを抑えられずにいた。
ヴァルド以外で、初めて会う魔法師になる。
単純に、友達になりたかった。