勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜 作:朴月イチロ
森への侵入者感知用の結界に、何者かが触れたのを感じた。
「――三人。想定より、多いわね」
樹上の枝葉に紛れつつ、リュミエールは森中に張り巡らせた“目”を通して侵入者を観察する。
視線の配り方、間合いの取り方、周囲への警戒。そのどれを見ても、三人のうち二人は素人ではない。
少なくとも、森に迷い込んだだけの連中ではなさそうだった。
気のせいか、その内の一人は、どこか見覚えがあるような気さえしてくる。
「依頼書に忍ばせておいた、マーキングが起動したと思って来てみれば……」
とはいえ、味方と判断するには情報が足りない。
先頭で歩く少女の姿は、傭兵と考えるにはやや
「はぁ……こういう『よくわからない』連中が一番、めんどくさいのよねぇ」
リュミエールは小さく息を吐き、ローブの内ポケットに忍ばせていた試験管を一本取り出すと、その中の薬品を静かに眼下の地面に注いだ。
「――《
《
これに苦戦する力量なら、追い出す。
話が通じそうな相手であれば、引く。
どちらでもないなら――とっとと逃げる。
魔女は口元にわずかな笑みを浮かべ、指先で方向を示すと、小さな土山はまるでモグラが地表を進むようにその方向へ向かっていった。
◆◆◆
それなりに周囲には警戒をしていたつもりだった。
――が、その違和感は地中の方からやってきた。
最初にその異常に気付いたレグナスが、即座にアラートを上げる。
「……避けて!」
その刹那。
三人の足元で、土がわずかに盛り上がる。
「えっ……ふええ!?」
依頼書に書かれた地図と睨めっこしていたアリシアは、一瞬遅れて飛び退く。
やがて“ソレ”は周りの土を取り込んで自身の体積を増やしていくと、三人の目の前に影を落とすほどの巨大な土の“ヒトガタ”と化した。
顔に当たる部分には、目と思われる二つの丸いパーツが赤く輝いている。
突如現れた謎の生命体に対し、アリシアだけが一人呆然と眺めてしまっていたが、思考が追いつくと、慌てて二人に声をかける。
「じ、地面からなんか大きい人が!? この子も魔物ですが?」
「いや、これは……」
ヴァルドの声を遮るように、その“ヒトガタ”が、ゆっくりとした動作でその巨大な腕を振り上げるのを見るや否や、三人はそれぞれの方向へその腕の被弾位置から逃げる。
「……どうしましょうかね、コレ」
隠れ脳筋のレグナスが、珍しく手を出しかねている。
言葉を交わしたわけでもないが、この“ヒトガタ”には――。
いまいち、こっちに対する殺気を感じ取れない。
「まあ、先にしかけて来たのはあっちだしな」
「え、倒しちゃうんですか……?」
アリシアは戸惑うように“ヒトガタ”を指差す。
そのずんぐりむっくりした体型に、思わず愛らしさを覚えてしまったことは、ここだけの話だ。
「これから対峙する魔物が、常に分かりやすく敵意を見せてくれるとは限らないからな。そうやって油断させることこそ、あいつの狙いなのかもしれない」
「うう……ですよね……」
アリシアは少し胸に罪悪感を覚えながら、手元にピッチフォークを呼び出す。
一方“ヒトガタ”は分散したターゲット位置を補足した上で、すべてを蹴散らそうとその太い両腕を振り回しす。
当たれば痛そうだが、その動きはどこか鈍臭い。
振り回される腕は大雑把で、致命傷を狙ってくる気配がない。
この間のユキイタチの女王との戦闘を思えば、空気がひりつくには向こうの“やる気”が、圧倒的に足りない。
――察するに、これは。
「面接、ですかね」
レグナスが、どこか楽しそうにそう言った。
「やっぱそう思うか?」
ヴァルドが間を置かずに応じる。
「面接??」
経験の差で一人理解が追いついていないアリシアだったが、その様子を横目に、ヴァルドは“ヒトガタ”に杖を向ける。
「濡れるかもしれないが、適当に避けてくれ――《
その《
下から大量の水流が一瞬噴き上げ、“ヒトガタ”の巨大な体躯を飲み込んだ。
その衝撃で、辺りに瞬間的な雨のように水飛沫が跳ねる。
全身ずぶ濡れになった“ヒトガタ”の動きが、一気に辿々しくなる。
それを見たアリシアは怪訝そうに問いかけた。
「……どうしたんでしょう?」
「あれは魔物じゃなくて、魔法師が魔力で操作している人形、“ゴーレム”とも呼ぶかな。体内の魔力循環を狂わせて、動かなくさせるのが一番手っ取り早い。今回あいつの素材は土っぽいから……」
「土と魔力の他に水という不純物を混ぜ込んだ、と」
なるほどなぁ、とレグナスは感心しつつ、かかった水滴を払うように髪をかき上げた。
そして、目線をアリシアに向ける。
「アリシアさん、どうやら魔女はコレくらい倒せる人じゃないと、仕事を任せてくれないらしいですよ?」
「ええっ!? それは困ります!」
「だから、あなたの『かっこいい所』、見せつけてあげてください」
「かっこいい所……?」
“かっこよさ”について、アリシアが自問自答している様を見て、ヴァルドはため息をついた。
「なに迷ってるんだ……“アレ”でいいだろ」
魔女の興味をこちらに引かせるなら、今が使いどきだろう。
「い、いいんですかねアレで」
「あなたらしさを出せばいいんですよ」
レグナスは槍を地面に突き立て、手のひらが上になるように組んだ。
――打ち上げる気だ。
それを見たアリシアは、一瞬息を呑む。
「――いきます!」
意を決してレグナスに駆け寄ると、彼にぶつかる数歩手前で跳躍する。
レグナスの腕に足をかけた、その刹那――彼女の華奢な体が、大空へと打ち上げられた。
“コレ”にはある程度『高さ』があった方が、威力が増す。
アリシアの手元に宿った電流のような光が、ピッチフォークに浸透する。
《大きくなーれ!》
《
寸前まで、ゴーレムの体躯に比べて、おもちゃのようなサイズのピッチフォーク。
それが金属の軋む音と共に、穂先が異様な速度で伸び――。
そのまま、巨体を正面から貫いた。
フォークに貫かれた瞬間、ゴーレムの動きがぴたりと止まる。
次いで、内部を巡っていたはずの魔力が行き場を失ったように散り、その支えを失った体が、重力に従って崩れ落ちていった。
それを見届けたアリシアは、水浸しになった地面に足を取られつつも問題なく着地して二人を見やる。
「ど、どうでしょうか……?」
「お見事。いやー、ほんと爽快ですねー」
「十分だろ」
レグナスが賞賛の拍手を贈る一方、ヴァルドは一人、内心ほくそ笑む。
そう、十分だ。
少なくてもその魔女がレグナスの言うように、根っからの研究者資質ということであれば、アリシアのこの“巨大化”の《
さて、『深緑の魔女』とやら。
俺たちはあんたの“お眼鏡”にかなうか?
ヴァルドは上空のとある一点に目線を向ける。
――まるでそこに、誰かの“目”があるように。