勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜 作:朴月イチロ
「野郎と同じ屋根の下で、寝られるわけないでしょう?」
――流石に、これほどストレートなリュミエールからの拒絶があったわけではないが、現実問題、彼女の隠れ家内の広さを考えると、全員床で横になるにはやや苦しい。
この問題に対する、手っ取り早い解決方法。
それは、野郎二人は外で夜を明かす選択である。
「……単純に、適当な理由をつけて、追い出されたような気もしなくもない」
「誰のせいだと思ってるんですかねー」
隠れ家が見える位置に床を構え、魔硝石のランプを囲いつつ、ヴァルドとレグナスは野郎水入らず晩酌……といきたいところだが、明日からの事を思えば大っぴらに羽目を外すわけにもいかず、マグカップに注いだ携帯用スープを互いに啜っていた。
――お前のいう“研究”っていうのは、なんだ?
あのやり取り以降、ヴァルドがリュミエールとまともに言葉を交わす場面を、見ていない。
「僕らがここに来た目的は、彼女をスカウトのためでしょう? せっかくアリシアさんや君みたいな『不可解な存在』を手土産にしてきたのに、『好感度下げ』から始めてどうするんですか」
レグナスの声色からは、憤りというよりは単純に呆れが滲み出ている。
「……彼女がどういう方面の研究者なのか、早めに知っておきたかったんだよ」
それは言い訳でもなんでもなく、ヴァルドの率直な気持ちだった。
星綾士という立場上、数多の箱庭世界を巡って“運命”の中心人物をプロデュースしてきた。
その中でも、数多くの研究肌の人物に会ってきたが、その性質は大きく分けて二種類に分けられると、ヴァルドは思っている。
一つは信念を持って真理を追い求めるタイプ。
もう一つは自分の知識欲に最後まで貪欲なタイプだ。
前者は素直に尊敬できるタイプなのだが、後者は常軌を逸した研究心……時に倫理観の欠如さえ見られるケースもある。そういうタイプを、今のアリシアの側に置いておく訳にはいかない。
知ろうと思えば、いくらでも知る術はある。だからこそ、信念だけは当人の口から聞きたかった――そう思うのは、我儘だろうか。
「君が心配するような人種ではないとは思いますがね、彼女は」
どこまで真意を汲み取ってくれたかは読めないが、レグナスはそう言って隠れ家の方向を見やる。向こうはまだ床についていないのか、明かり窓からうっすら室内の光が漏れ出ているのが見えた。
今頃リュミエールによる、アリシアへの質問攻めラッシュだろうか。いや、案外逆に質問攻めにされているかもしれない。
「二年前の時よりかは、用心深さは増しているようですけど」
「そこまでして、誰から隠れているんだかな」
「彼女を疎ましく思いつつ、古代の魔法文明をあまり表沙汰にしたくない……いくらか心当たりがいますが、いずれにせよ僕としては、あまり喧嘩したくない連中ですね」
レグナスからは意外な言葉が返ってきた。
「お前さんでも、“戦闘を避けたい”とか思う相手はいるんだな。救われる話だ」
感慨深くヴァルドがスープを啜るのを見て、レグナスは苦笑する。
「僕だって相手は選びますよ。喧嘩はいつでも大歓迎ですが、恨みはなるべく買いたくないですからね。後腐れなく本気を出せる、と言う意味では、魔物相手が一番最高なんですけど……」
レグナスはそこで言葉を切って、ただ黙ってヴァルドを見た。
その表情は、先ほどまで見せていた、友好を表す装い用のものではない。
その瞳の奥から、獲物を捕らえんとする、捕食者の光がちらついていた。
ローグアナのギルド支部で見せたものと同じ、肌を刺すようなプレッシャー。
「アリシアさんという例外を除いて、今一番、サシで勝負してみたいと思っているのは、君だったりするんですよ」
「…………」
「今回の件が一区切り済んだら――一戦、手合わせしませんか? 単純に、ただの勝負を」
それは純粋に、彼の武人としての誘い。
彼の中ではこれを、コミュニケーションの一環として捉えているのだろうか。並の傭兵だったら、まずこのプレッシャーの前に心が折れるだろう。
――まったく。
普段は微塵もそんな雰囲気を感じさせないくせに、獲物を見つけた途端にこうして牙を覗かせる。だから《
そう内心、ヴァルドは悪態をつきつつも、彼を“普通”に観ていた。
残念ながら、今の彼にはレグナスの期待に応えることはできない。
自分が
水準の異なるもの同士の力比べは――無意味。
そういうものは、同じ舞台で目線が合うもの同士で、初めて成立するものだ。
互いに目線を逸らさないまま、永遠とも錯覚するような沈黙が過ぎた後。
「――冗談ですよ」
ヴァルドの瞳の奥に何かを見たのか、レグナスは意外にも呆気なくに引いた。
先ほどまで見せていた殺気は――今は嘘のように影を潜めている。
「つまんないですねー。こういうのはサラッと受け流してくれるのが、君の持ち味でしょう」
「途中までマジだっただろうがよ……」
気持ちを落ち着かせるように、ヴァルドは残りのスープを飲み干すと、ふと空になったカップの底を見た。
――彼らのように、何かを注ぎ込み続けなければいられないほどの『熱』を、自分は過去に一度でも、持ち合わせたことがあっただろうか。
否、そもそも羨望することすら、許されない。
自分は『神々』の退屈を満たすために用意され、役目を終えれば何も残らない器。
徐々に消えていく、カップのぬくもりを指先で感じながら、ヴァルドは己が