勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜   作:朴月イチロ

34 / 36
4-6:魔法師の憂鬱

「野郎と同じ屋根の下で、寝られるわけないでしょう?」

 

 ――流石に、これほどストレートなリュミエールからの拒絶があったわけではないが、現実問題、彼女の隠れ家内の広さを考えると、全員床で横になるにはやや苦しい。

 

 この問題に対する、手っ取り早い解決方法。

 それは、野郎二人は外で夜を明かす選択である。

 

「……単純に、適当な理由をつけて、追い出されたような気もしなくもない」

 

「誰のせいだと思ってるんですかねー」

 

 隠れ家が見える位置に床を構え、魔硝石のランプを囲いつつ、ヴァルドとレグナスは野郎水入らず晩酌……といきたいところだが、明日からの事を思えば大っぴらに羽目を外すわけにもいかず、マグカップに注いだ携帯用スープを互いに啜っていた。

 

 ――お前のいう“研究”っていうのは、なんだ?

 

 あのやり取り以降、ヴァルドがリュミエールとまともに言葉を交わす場面を、見ていない。

 

「僕らがここに来た目的は、彼女をスカウトのためでしょう? せっかくアリシアさんや君みたいな『不可解な存在』を手土産にしてきたのに、『好感度下げ』から始めてどうするんですか」

 

 レグナスの声色からは、憤りというよりは単純に呆れが滲み出ている。

 

「……彼女がどういう方面の研究者なのか、早めに知っておきたかったんだよ」

 

 それは言い訳でもなんでもなく、ヴァルドの率直な気持ちだった。

 

 星綾士という立場上、数多の箱庭世界を巡って“運命”の中心人物をプロデュースしてきた。

 その中でも、数多くの研究肌の人物に会ってきたが、その性質は大きく分けて二種類に分けられると、ヴァルドは思っている。

 

 一つは信念を持って真理を追い求めるタイプ。

 もう一つは自分の知識欲に最後まで貪欲なタイプだ。

 

 前者は素直に尊敬できるタイプなのだが、後者は常軌を逸した研究心……時に倫理観の欠如さえ見られるケースもある。そういうタイプを、今のアリシアの側に置いておく訳にはいかない。

 

 知ろうと思えば、いくらでも知る術はある。だからこそ、信念だけは当人の口から聞きたかった――そう思うのは、我儘だろうか。

 

「君が心配するような人種ではないとは思いますがね、彼女は」

 

 どこまで真意を汲み取ってくれたかは読めないが、レグナスはそう言って隠れ家の方向を見やる。向こうはまだ床についていないのか、明かり窓からうっすら室内の光が漏れ出ているのが見えた。

 

 今頃リュミエールによる、アリシアへの質問攻めラッシュだろうか。いや、案外逆に質問攻めにされているかもしれない。

 

「二年前の時よりかは、用心深さは増しているようですけど」

 

「そこまでして、誰から隠れているんだかな」

 

「彼女を疎ましく思いつつ、古代の魔法文明をあまり表沙汰にしたくない……いくらか心当たりがいますが、いずれにせよ僕としては、あまり喧嘩したくない連中ですね」

 

 レグナスからは意外な言葉が返ってきた。

 

「お前さんでも、“戦闘を避けたい”とか思う相手はいるんだな。救われる話だ」

 

 感慨深くヴァルドがスープを啜るのを見て、レグナスは苦笑する。

 

「僕だって相手は選びますよ。喧嘩はいつでも大歓迎ですが、恨みはなるべく買いたくないですからね。後腐れなく本気を出せる、と言う意味では、魔物相手が一番最高なんですけど……」

 

 レグナスはそこで言葉を切って、ただ黙ってヴァルドを見た。

 その表情は、先ほどまで見せていた、友好を表す装い用のものではない。

 

 その瞳の奥から、獲物を捕らえんとする、捕食者の光がちらついていた。

 ローグアナのギルド支部で見せたものと同じ、肌を刺すようなプレッシャー。

 

「アリシアさんという例外を除いて、今一番、サシで勝負してみたいと思っているのは、君だったりするんですよ」

 

「…………」

 

「今回の件が一区切り済んだら――一戦、手合わせしませんか? 単純に、ただの勝負を」

 

 それは純粋に、彼の武人としての誘い。

 彼の中ではこれを、コミュニケーションの一環として捉えているのだろうか。並の傭兵だったら、まずこのプレッシャーの前に心が折れるだろう。

 

 ――まったく。

 

 普段は微塵もそんな雰囲気を感じさせないくせに、獲物を見つけた途端にこうして牙を覗かせる。だから《赤貂(セキテン)》なんてあだ名がつくんだ。

 

 そう内心、ヴァルドは悪態をつきつつも、彼を“普通”に観ていた。

 残念ながら、今の彼にはレグナスの期待に応えることはできない。

 

 自分が星綾士(ステラリスト)という『異物』である以上、彼らと舞台上での立ち位置が違う。

 

 水準の異なるもの同士の力比べは――無意味。

 

 そういうものは、同じ舞台で目線が合うもの同士で、初めて成立するものだ。

 

 互いに目線を逸らさないまま、永遠とも錯覚するような沈黙が過ぎた後。

 

「――冗談ですよ」

 

 ヴァルドの瞳の奥に何かを見たのか、レグナスは意外にも呆気なくに引いた。

 先ほどまで見せていた殺気は――今は嘘のように影を潜めている。

 

「つまんないですねー。こういうのはサラッと受け流してくれるのが、君の持ち味でしょう」

 

「途中までマジだっただろうがよ……」

 

 気持ちを落ち着かせるように、ヴァルドは残りのスープを飲み干すと、ふと空になったカップの底を見た。

 

 ――彼らのように、何かを注ぎ込み続けなければいられないほどの『熱』を、自分は過去に一度でも、持ち合わせたことがあっただろうか。

 

 否、そもそも羨望することすら、許されない。

 自分は『神々』の退屈を満たすために用意され、役目を終えれば何も残らない器。

 

 徐々に消えていく、カップのぬくもりを指先で感じながら、ヴァルドは己が(うつろ)と向き合っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。