勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜   作:朴月イチロ

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4-12:魔女と監理官

「――ようやく見つけたぞ、魔女」

 

 男が一人、人影の間を割って歩み出た。

 周囲の光球が、その姿を照らし出す。

 

 油で固められた髪も、軍服のような白い制服も、この遺跡の中、汚れ一つ寄せつけていない。

 細身のフレームの眼鏡の奥で、視線はリュミエールだけを正確に捉えていた。

 

「ここは今から我々の管轄対象だ。大人しく身を引くのであれば、危害は加えない」

 

「……随分、足が早いのね」

 

 外套の集団と男の顔を一瞥して、リュミエールは短くつぶやいた。

 

 少し前に、色々あってもめた連中だ。

 見間違えるはずもない。

 

「予想ではもう少し、あの《魔力紋(パターン)》の扉に手こずると思ってたんだけど。あなた達のこと、存外なめてたみたいね。フェルナー監理官」

 

「ああ。その辺りについては貴様の才能を認めざるを得ない。遺跡の発見から数日で、開錠の《魔力紋(パターン)》を再現するとは」

 

 そう言ってフェルナーは、懐から数本の棒を取り出す。

 

「貴様の性格上、“正攻法に近い手段を取る”だろうと踏んでいたからな。故に、あらかじめ細工をしておいた。扉に接触した《魔力紋(パターン)》を記録する《魔法言語(コード)》だ。それもお前たちがここに来る、数時間前だったが」

 

 数秒おいて、その言葉の真意を悟ったリュミエールは、目を丸くして声を荒げる。

 

「あんた、人が必死に組み直した《魔力紋(パターン)》を掠め取ったわね!?」

 

「そういうのは後にしとけ」

 

 前方から視線を外さないまま、半ば呆れつつヴァルドは彼女を制した。

 

 (どうやって入ってきたかはわかった。だが)

 

「あんたら、通路側から入ったのなら、途中で捕獲ギミックに引っかからなかったのか」

 

「何のことだ?」

 

「……いや」

 

 横目でリュミエールを見た。

 彼女も何かを言おうとして、口をつぐむ。

 おそらく、考えていることは一緒だ。

 

(どうして?)

 

 自分たちと彼らで、明確な捕獲ギミック作動に差がある。

 

 だが、思考にふける間はなかった。

 眼鏡を上げ直しつつ、フェルナーの低い声が響く。

 

「お前たちのことだ。既にここで行われていた事は、ある程度把握しているのだろう? 私は『聖遺構管理院』の監理官として、この遺跡を、忌まわしき記録ごと封印する。貴様には何一つとして渡さん、魔女」

 

「……そうね。確かにこの遺跡で行われていた研究は、人道的とは言えない」

 

 リュミエールは、強くその手を握りしめる。

 彼女の目は、真っ直ぐフェルナーを見据えていた。

 

「でも、それを理由に“なかったことにする”のは……私は違うと思う。“使ってはいけない”知識と、“知らなくていい”知識は、別よ」

 

「詭弁だな……古代魔法文明の遺物や遺跡が引き起こした厄災を、貴様も知らないわけじゃないだろう」

 

「それは私たちが『知らない』から起こるのよ! 『不要な知識』なんて存在しない! あんた達のやってる事は、ただ不都合な事実に目を背けているだけ! どうしてそれがわからないのよ!」

 

 フェルナーの目元が、わずかに細くなった。

 彼が片手を上げるのに合わせて、背後の白い外套の集団が、手持ちの杖を構える。

 

「やはり貴様とは永遠に平行線だな……実力行使しかなさそうだ」

 

 フェルナーの手が軽く振り下ろされると同時に。

 

「――《蒼雷放出(ブルーライトニング)》」

 

 それは相手の無力化を狙った一撃。

 薄暗い研究室内に、複数の蒼い雷光が四人に向かって走った。

 

「――《防殻(シェル)》」

 

 それに対し、ヴァルドのガラスのような防御壁が、一撃一撃をピンポイントに防ぐ。

 

「随分と手荒だが、これがあんたたちのスタイルか?」

 

「オルヴィルの民の脅威になり得るものは、すべて我々の敵だ」

 

「極端なことで」ヴァルドは小さく息をはいた。

 

「まあ、そっちがその気なら――こちらは身を守る行動をとりましょうか」

 

 雷光が飛び交う中――。

 レグナスは、その隙間を見定めて動いた。

 

 一歩で間合いを潰し、一気に魔法師の集団へ踏み込む。

 

「――っ!?」

 

 無力化まで、一人二撃。

 手に持っていた杖を槍で次々と弾き飛ばし、的確に相手の意識を飛ばす部位を狙って打ちつける。

 

 《呪文(スペル)》を詠唱する隙すら与えない、早業。

 

 次の一人に向かいかけた、その刹那――。

 

 間に入ったフェルナーが、レグナスの槍による打撃を、両腕で構えて防ぐ。

 手応えはまるで、白い壁のようだった。

 

「……随分と、魔法師との戦闘に慣れているようだな」

 

「ええ。魔法は確かに脅威ですけど、《呪文(スペル)》の詠唱には、どうしても思考のタイムラグがありますから」

 

 レグナスの紫紺の瞳が、静かに相手を測る。

 眼前で構えをとる管理官。

 その眼鏡の奥で、静かに目が据わっている。揺らぎはない。

 

 それを見て、《赤貂(セキテン)》として口角が上がってしまう。

 相手は確実に物理的な攻撃に対し、魔法で身体を硬質化している。

 ――『外因魔法』を重んじる教会関係者で、『内因魔法』を扱うとは、珍しい。

 

「……次のお相手はあなた、ですかね」

 

「そうだ」

 

「いいですね」

 

 ——二人の間の空気が変わった。

 剣呑というより、静かに研ぎ澄まされた何か。

 どちらも、動く前に終わらせる間合いを測っていた。

 

 その気迫を前に、周囲の魔法師たちは動けずに固まっている。

 

 それはヴァルドたちも同様だった。

 

(……レグナスのやつ、まーたそっち方面のスイッチ入ってるな……)

 

 やりすぎると、後々が面倒になる。

 内心舌打ちをしつつ、ヴァルドが二人の頭を冷やそうと、杖を構えかけた、その時。

 

 視界の端で、『彼女』が前に出た。

 

「――《大きくなーれ!》」

 

 薄暗い部屋の中、赤い閃光が走るのと同時に、こちらと向こう側の視界が、突如巨大な石影に遮られた。

 

 膨張した石壁が、天井と床にめり込むような形で止まる。

 その重みが鈍い振動となって、足裏から伝ってきた。

 

「ちょっと止まってくださーい!!」

 

 その石壁が『壁に並べられた石板』であると理解するまで、全員が言葉を失い、釘付けになる。

 

 一瞬での出来事に、フェルナーの目に初めて動揺の色が浮かんだ。

(……一体何が起こった?)

 

 その場にいた全員の、張り詰めた空気が緩んだ頃。

 

「あの……」

 

 少し遠慮がちに呼びかける少女の声がした。

 ふと見れば、巨大化した石板の端から、アリシアがおそるおそる、こちらに顔を覗かせていた。

 

「驚かせて、すみません……少しだけ、お話しませんか?」

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