勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜 作:朴月イチロ
「――ようやく見つけたぞ、魔女」
男が一人、人影の間を割って歩み出た。
周囲の光球が、その姿を照らし出す。
油で固められた髪も、軍服のような白い制服も、この遺跡の中、汚れ一つ寄せつけていない。
細身のフレームの眼鏡の奥で、視線はリュミエールだけを正確に捉えていた。
「ここは今から我々の管轄対象だ。大人しく身を引くのであれば、危害は加えない」
「……随分、足が早いのね」
外套の集団と男の顔を一瞥して、リュミエールは短くつぶやいた。
少し前に、色々あってもめた連中だ。
見間違えるはずもない。
「予想ではもう少し、あの《
「ああ。その辺りについては貴様の才能を認めざるを得ない。遺跡の発見から数日で、開錠の《
そう言ってフェルナーは、懐から数本の棒を取り出す。
「貴様の性格上、“正攻法に近い手段を取る”だろうと踏んでいたからな。故に、あらかじめ細工をしておいた。扉に接触した《
数秒おいて、その言葉の真意を悟ったリュミエールは、目を丸くして声を荒げる。
「あんた、人が必死に組み直した《
「そういうのは後にしとけ」
前方から視線を外さないまま、半ば呆れつつヴァルドは彼女を制した。
(どうやって入ってきたかはわかった。だが)
「あんたら、通路側から入ったのなら、途中で捕獲ギミックに引っかからなかったのか」
「何のことだ?」
「……いや」
横目でリュミエールを見た。
彼女も何かを言おうとして、口をつぐむ。
おそらく、考えていることは一緒だ。
(どうして?)
自分たちと彼らで、明確な捕獲ギミック作動に差がある。
だが、思考にふける間はなかった。
眼鏡を上げ直しつつ、フェルナーの低い声が響く。
「お前たちのことだ。既にここで行われていた事は、ある程度把握しているのだろう? 私は『聖遺構管理院』の監理官として、この遺跡を、忌まわしき記録ごと封印する。貴様には何一つとして渡さん、魔女」
「……そうね。確かにこの遺跡で行われていた研究は、人道的とは言えない」
リュミエールは、強くその手を握りしめる。
彼女の目は、真っ直ぐフェルナーを見据えていた。
「でも、それを理由に“なかったことにする”のは……私は違うと思う。“使ってはいけない”知識と、“知らなくていい”知識は、別よ」
「詭弁だな……古代魔法文明の遺物や遺跡が引き起こした厄災を、貴様も知らないわけじゃないだろう」
「それは私たちが『知らない』から起こるのよ! 『不要な知識』なんて存在しない! あんた達のやってる事は、ただ不都合な事実に目を背けているだけ! どうしてそれがわからないのよ!」
フェルナーの目元が、わずかに細くなった。
彼が片手を上げるのに合わせて、背後の白い外套の集団が、手持ちの杖を構える。
「やはり貴様とは永遠に平行線だな……実力行使しかなさそうだ」
フェルナーの手が軽く振り下ろされると同時に。
「――《
それは相手の無力化を狙った一撃。
薄暗い研究室内に、複数の蒼い雷光が四人に向かって走った。
「――《
それに対し、ヴァルドのガラスのような防御壁が、一撃一撃をピンポイントに防ぐ。
「随分と手荒だが、これがあんたたちのスタイルか?」
「オルヴィルの民の脅威になり得るものは、すべて我々の敵だ」
「極端なことで」ヴァルドは小さく息をはいた。
「まあ、そっちがその気なら――こちらは身を守る行動をとりましょうか」
雷光が飛び交う中――。
レグナスは、その隙間を見定めて動いた。
一歩で間合いを潰し、一気に魔法師の集団へ踏み込む。
「――っ!?」
無力化まで、一人二撃。
手に持っていた杖を槍で次々と弾き飛ばし、的確に相手の意識を飛ばす部位を狙って打ちつける。
《
次の一人に向かいかけた、その刹那――。
間に入ったフェルナーが、レグナスの槍による打撃を、両腕で構えて防ぐ。
手応えはまるで、白い壁のようだった。
「……随分と、魔法師との戦闘に慣れているようだな」
「ええ。魔法は確かに脅威ですけど、《
レグナスの紫紺の瞳が、静かに相手を測る。
眼前で構えをとる管理官。
その眼鏡の奥で、静かに目が据わっている。揺らぎはない。
それを見て、《
相手は確実に物理的な攻撃に対し、魔法で身体を硬質化している。
――『外因魔法』を重んじる教会関係者で、『内因魔法』を扱うとは、珍しい。
「……次のお相手はあなた、ですかね」
「そうだ」
「いいですね」
——二人の間の空気が変わった。
剣呑というより、静かに研ぎ澄まされた何か。
どちらも、動く前に終わらせる間合いを測っていた。
その気迫を前に、周囲の魔法師たちは動けずに固まっている。
それはヴァルドたちも同様だった。
(……レグナスのやつ、まーたそっち方面のスイッチ入ってるな……)
やりすぎると、後々が面倒になる。
内心舌打ちをしつつ、ヴァルドが二人の頭を冷やそうと、杖を構えかけた、その時。
視界の端で、『彼女』が前に出た。
「――《大きくなーれ!》」
薄暗い部屋の中、赤い閃光が走るのと同時に、こちらと向こう側の視界が、突如巨大な石影に遮られた。
膨張した石壁が、天井と床にめり込むような形で止まる。
その重みが鈍い振動となって、足裏から伝ってきた。
「ちょっと止まってくださーい!!」
その石壁が『壁に並べられた石板』であると理解するまで、全員が言葉を失い、釘付けになる。
一瞬での出来事に、フェルナーの目に初めて動揺の色が浮かんだ。
(……一体何が起こった?)
その場にいた全員の、張り詰めた空気が緩んだ頃。
「あの……」
少し遠慮がちに呼びかける少女の声がした。
ふと見れば、巨大化した石板の端から、アリシアがおそるおそる、こちらに顔を覗かせていた。
「驚かせて、すみません……少しだけ、お話しませんか?」