勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜   作:朴月イチロ

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幕間③-1:実験と考察の時間です

「どーしても、今のうちに試したいことがあるの!」

 

 それは、リュミエールの好奇心から始まった。

 

 街道から少し外れた、ひらけた野原。

 背の低い草が風に揺れるだけの、人気のない場所。

 

 そこにアリシアとリュミエールが、互いに向き合って対峙している。

 

 「――《土環構成(テラコンストラクト)土傀(ドール)》」

 

 リュミエールが試験管の薬品と共に、魔力を注ぐと、足元の地面に小さな小山が生まれる。

 やがてその小山は地を這うように、前方にいるアリシアの足元に向かった。

 

「いくわよアリちー。落ちないように気をつけて!」

 

 小山に“目”が浮かび上がる。

 そのまま周囲の土を取り込みながら、アリシアを上空へ押し上げるように、その体躯を形作っていく。アリシアは「ひゃあっ!?」と声を上げながら、必死に身体のバランスをとった。

 

 ずんぐりむっくりな体型をした土ゴーレムが、その場に現れた。

 

「……普通なら、この三メートルくらいが限界なんだけど」

 

 生成されたゴーレムを上から下まで眺めた後、リュミエールは頭上のアリシアに呼びかけた。

 

「アリちー、やってみて!」

 

「わかりましたーっ」

 

 アリシアはその両手を、ゴーレムの頭に優しく触れる。

 集中するように、深く息を吸った。

 

「――《大きくなーれ!》」

 

 アリシアの両手から放たれた赤い電流が、ゴーレムの全身を駆け抜ける。

 一瞬の力の奔流。

 確かに彼女の《異能(ギフト)》は発動した――。

 

 ――が、何も起こらない。

 

 ゴーレムは何の変化もないまま、ただその場で立ち尽くしている。

 

 やがてアリシアは、申し訳なさそうに、真下のリュミエールに声をかける。

 

「リュミエールさん、すみません……ゴーレムさんも、私の力じゃ大きくできないみたいです……」

 

「ええーっ!? ダメなのー!?」

 

 先ほどまで張り詰めていた空気が、霧散した。

 リュミエールが頭を抱えてうめく。

 

「生物は効果の対象に入らないって聞いたから、ゴーレムだったらいけると思ったのに〜」

 

 アリシアとリュミエールが結果に肩を落とす一方、ヴァルドとレグナスは少し距離を置き、その様子を眺めていた。

 

 嘆きも同情もなく、ヴァルドは淡々と声をかける。

 

「ある程度自立して動くモノも、効果の対象にはならないみたいだな」

 

「ちょっとショック……色々やってみたいことがあったのにー」

 

 リュミエールは不満げに口を尖らせる。

 その様子に、ヴァルドはわずかに疑いの目を向けた。

 

「……ちなみに。ゴーレムを巨大化させて、何をさせるつもりだったんだ?」

 

「大抵の魔物は踏んづけて倒せるし、作りたい時に作って壊せるから、移動用の乗り物として最適だと思ったのよ」

 

 ゴーレムが魔物を踏み潰す光景が脳裏をよぎる。

 ――それだけでヴァルドの思考回路に、頭痛というエラーが生じた。

 

 何より、それを見た神々が、何を言い出すかわからない。

 

 《異能(ギフト)》の対象外で、本当に良かった――と、心底そう思った。

 

「……さて、今度は僕の番ですかね」

 

 静観していたレグナスが槍を持って立ち上がる。

 離れた先にいる二人に、声を上げた。

 

「アリシアさーん、そのまま内因魔法の練習といきましょう。リュミエール、このままあのゴーレム、使ってしまって構いませんかねー」

 

 リュミエールは「いいわよー」と、こちらに足を向けながら、力なく手のひらを振った。

 

 レグナスが加わってから、定期的にアリシアの動きを見てもらっているが。

 いい塩梅で、教え方がうまい。

 

 ヴァルドが付け焼き刃で型を教えていた頃よりは、だいぶ様になった。

 

「はあああ――っ」

 

 ゴーレムを的に、助走をつけたピッチフォークの一突き。

 アリシアもかけ声からして、だいぶ頼もしくなった……。

 と、思ったのも束の間。

 

「……あ。あーっ!? あうううう……」

 

 打って変わって、情けない声が続く。

 ゴーレムの体に、ピッチフォークが中途半端に刺さって、抜けなくて慌てている。

 

「……相変わらず内因魔法が下手だな、あいつ」

 

「まともに練習し始めたの、最近なんでしょ? 無理もないんじゃない?」

 

 ヴァルドが視線を隣にずらすと、ちょうどリュミエールが腰を下ろすところだった。

 タマがクッション代わりに敷かれている。

 

「使えないわけじゃないはずなんだ」

 

 視線をまた、アリシアの方に戻す。

 そういえば、気になることがあった。

 リュミエールなら読み解けるだろうか。

 

「――リュミエール」

「なに?」

「あいつの魔力量、どう観る?」

 

 ヴァルドがアリシアを指差す。

 その先を目で追ったリュミエールは、眉をひそめた。

 

「? どういうこと」

「あいつの魔力量を観て、お前の見解を聞かせてほしい」

「?? まあ、いいけど――」

 

 釈然としないまま、リュミエールはローブ裏からペンデュラムを取り出した。

 目を伏せ、ペンデュラムを通じて、アリシアへ意識を向ける。

 

「――《魔影透視(マナリーディング)》」

 

 測定魔法で、アリシアの『器』の中に収まっている魔力量を読み取る。

 特に不自然な点は見当たらない。

 概ね、リュミエールが予想していた通りの結果だった。

 

「魔力量は中の上といったところかしら。魔法師の素質はそれなりって感じ。縁があったら、魔法学院にスカウトされていたかもね」

 

「そんなものか」

 

 彼女の見立ては、ヴァルド自身の印象と一致している。

 ただ、彼女の実力がその見立て通りだと、どうしても腑に落ちないことがあった。

 

 ――ローグアナでユキイタチを倒した、彼女のあの爆発力。

 今の彼女の持つ魔力量で発揮された力にしては、少々過剰な出力に思える。

 

 その話をヴァルドはリュミエールに振ると、彼女は思考を巡らせるように少し黙った。

 

「……小さい頃の経験がきっかけで、無意識に魔力を抑え込んで、生活しているっていうことはあるわね」

 

「……」

 

「ただ、本来持ってる魔力の総量まで変えられるものじゃないから、測定結果をそのまま信じていいと思うけど……」

 

 リュミエールはそこまで言って、何かに気づいたように言葉を詰まらせた。

 何の確証もない、今思いついた仮説。

 だが――。

 

「……測定魔法を騙すレベルで、自身で魔力の総量を偽っているの?」

 

「……そんなことが可能なのか?」

 

「測定魔法を誤魔化す手段は色々あるけど、あの子がそんなもの使う……? もしくは、第三者から意図的に魔力を封印されている……とか」

 

 考えれば考えるほど。

 アリシアに対して嫌な想像が加速していく。

 リュミエールにとって、少し抜けた所のある明るい少女にしか、見えなかったのに。

 彼女の抱える『闇』の一部を垣間見た気がして、背中に、冷たいものが走った。

 

 思わず、ヴァルドに向ける視線が厳しくなる。

 

「あなた、これを承知で、あの子にこんなことさせてるの?」

 

「だったらわざわざ、お前に見解を求めたりなんかしない」

 

 毅然とした口調だった。

 

 第三者を騙すレベルでの魔力の隠蔽。

 ――アリシアは。

 この自覚があるのだろうか。

 

 ――周りの友達には、怪獣女って呼ばれてバカにされていたんですよっ。

 

 幼少時、彼女が内因魔法の暴発に苦労した話は聞いている。

 アリシアは『過去の事』として笑って流していたが。

 

 当時の彼女は、何を思い、何を考え。

 あの村で暮らしていたのだろうか――。

 

 瞬間、

 空気が、爆ぜた。

 

「「!?」」

 

 互いに見合っていたヴァルドとリュミエールは、その視線を前方の『ソレ』に向ける。

 

 先ほどまで目線の先に、壁の如く存在していたゴーレム。

 その上半身が――跡形もなく消し飛んでいた。

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