勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜 作:朴月イチロ
「どーしても、今のうちに試したいことがあるの!」
それは、リュミエールの好奇心から始まった。
街道から少し外れた、ひらけた野原。
背の低い草が風に揺れるだけの、人気のない場所。
そこにアリシアとリュミエールが、互いに向き合って対峙している。
「――《
リュミエールが試験管の薬品と共に、魔力を注ぐと、足元の地面に小さな小山が生まれる。
やがてその小山は地を這うように、前方にいるアリシアの足元に向かった。
「いくわよアリちー。落ちないように気をつけて!」
小山に“目”が浮かび上がる。
そのまま周囲の土を取り込みながら、アリシアを上空へ押し上げるように、その体躯を形作っていく。アリシアは「ひゃあっ!?」と声を上げながら、必死に身体のバランスをとった。
ずんぐりむっくりな体型をした土ゴーレムが、その場に現れた。
「……普通なら、この三メートルくらいが限界なんだけど」
生成されたゴーレムを上から下まで眺めた後、リュミエールは頭上のアリシアに呼びかけた。
「アリちー、やってみて!」
「わかりましたーっ」
アリシアはその両手を、ゴーレムの頭に優しく触れる。
集中するように、深く息を吸った。
「――《大きくなーれ!》」
アリシアの両手から放たれた赤い電流が、ゴーレムの全身を駆け抜ける。
一瞬の力の奔流。
確かに彼女の《
――が、何も起こらない。
ゴーレムは何の変化もないまま、ただその場で立ち尽くしている。
やがてアリシアは、申し訳なさそうに、真下のリュミエールに声をかける。
「リュミエールさん、すみません……ゴーレムさんも、私の力じゃ大きくできないみたいです……」
「ええーっ!? ダメなのー!?」
先ほどまで張り詰めていた空気が、霧散した。
リュミエールが頭を抱えてうめく。
「生物は効果の対象に入らないって聞いたから、ゴーレムだったらいけると思ったのに〜」
アリシアとリュミエールが結果に肩を落とす一方、ヴァルドとレグナスは少し距離を置き、その様子を眺めていた。
嘆きも同情もなく、ヴァルドは淡々と声をかける。
「ある程度自立して動くモノも、効果の対象にはならないみたいだな」
「ちょっとショック……色々やってみたいことがあったのにー」
リュミエールは不満げに口を尖らせる。
その様子に、ヴァルドはわずかに疑いの目を向けた。
「……ちなみに。ゴーレムを巨大化させて、何をさせるつもりだったんだ?」
「大抵の魔物は踏んづけて倒せるし、作りたい時に作って壊せるから、移動用の乗り物として最適だと思ったのよ」
ゴーレムが魔物を踏み潰す光景が脳裏をよぎる。
――それだけでヴァルドの思考回路に、頭痛というエラーが生じた。
何より、それを見た神々が、何を言い出すかわからない。
《
「……さて、今度は僕の番ですかね」
静観していたレグナスが槍を持って立ち上がる。
離れた先にいる二人に、声を上げた。
「アリシアさーん、そのまま内因魔法の練習といきましょう。リュミエール、このままあのゴーレム、使ってしまって構いませんかねー」
リュミエールは「いいわよー」と、こちらに足を向けながら、力なく手のひらを振った。
レグナスが加わってから、定期的にアリシアの動きを見てもらっているが。
いい塩梅で、教え方がうまい。
ヴァルドが付け焼き刃で型を教えていた頃よりは、だいぶ様になった。
「はあああ――っ」
ゴーレムを的に、助走をつけたピッチフォークの一突き。
アリシアもかけ声からして、だいぶ頼もしくなった……。
と、思ったのも束の間。
「……あ。あーっ!? あうううう……」
打って変わって、情けない声が続く。
ゴーレムの体に、ピッチフォークが中途半端に刺さって、抜けなくて慌てている。
「……相変わらず内因魔法が下手だな、あいつ」
「まともに練習し始めたの、最近なんでしょ? 無理もないんじゃない?」
ヴァルドが視線を隣にずらすと、ちょうどリュミエールが腰を下ろすところだった。
タマがクッション代わりに敷かれている。
「使えないわけじゃないはずなんだ」
視線をまた、アリシアの方に戻す。
そういえば、気になることがあった。
リュミエールなら読み解けるだろうか。
「――リュミエール」
「なに?」
「あいつの魔力量、どう観る?」
ヴァルドがアリシアを指差す。
その先を目で追ったリュミエールは、眉をひそめた。
「? どういうこと」
「あいつの魔力量を観て、お前の見解を聞かせてほしい」
「?? まあ、いいけど――」
釈然としないまま、リュミエールはローブ裏からペンデュラムを取り出した。
目を伏せ、ペンデュラムを通じて、アリシアへ意識を向ける。
「――《
測定魔法で、アリシアの『器』の中に収まっている魔力量を読み取る。
特に不自然な点は見当たらない。
概ね、リュミエールが予想していた通りの結果だった。
「魔力量は中の上といったところかしら。魔法師の素質はそれなりって感じ。縁があったら、魔法学院にスカウトされていたかもね」
「そんなものか」
彼女の見立ては、ヴァルド自身の印象と一致している。
ただ、彼女の実力がその見立て通りだと、どうしても腑に落ちないことがあった。
――ローグアナでユキイタチを倒した、彼女のあの爆発力。
今の彼女の持つ魔力量で発揮された力にしては、少々過剰な出力に思える。
その話をヴァルドはリュミエールに振ると、彼女は思考を巡らせるように少し黙った。
「……小さい頃の経験がきっかけで、無意識に魔力を抑え込んで、生活しているっていうことはあるわね」
「……」
「ただ、本来持ってる魔力の総量まで変えられるものじゃないから、測定結果をそのまま信じていいと思うけど……」
リュミエールはそこまで言って、何かに気づいたように言葉を詰まらせた。
何の確証もない、今思いついた仮説。
だが――。
「……測定魔法を騙すレベルで、自身で魔力の総量を偽っているの?」
「……そんなことが可能なのか?」
「測定魔法を誤魔化す手段は色々あるけど、あの子がそんなもの使う……? もしくは、第三者から意図的に魔力を封印されている……とか」
考えれば考えるほど。
アリシアに対して嫌な想像が加速していく。
リュミエールにとって、少し抜けた所のある明るい少女にしか、見えなかったのに。
彼女の抱える『闇』の一部を垣間見た気がして、背中に、冷たいものが走った。
思わず、ヴァルドに向ける視線が厳しくなる。
「あなた、これを承知で、あの子にこんなことさせてるの?」
「だったらわざわざ、お前に見解を求めたりなんかしない」
毅然とした口調だった。
第三者を騙すレベルでの魔力の隠蔽。
――アリシアは。
この自覚があるのだろうか。
――周りの友達には、怪獣女って呼ばれてバカにされていたんですよっ。
幼少時、彼女が内因魔法の暴発に苦労した話は聞いている。
アリシアは『過去の事』として笑って流していたが。
当時の彼女は、何を思い、何を考え。
あの村で暮らしていたのだろうか――。
瞬間、
空気が、爆ぜた。
「「!?」」
互いに見合っていたヴァルドとリュミエールは、その視線を前方の『ソレ』に向ける。
先ほどまで目線の先に、壁の如く存在していたゴーレム。
その上半身が――跡形もなく消し飛んでいた。