勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜 作:朴月イチロ
話は少し前に遡る。
「……あ。あーっ!? あうううう……」
「力任せに引き抜くより、魔力を通し直した方が早いですよ」
少し離れた場所で見守っていたレグナスが、声をかける。
慌てふためく彼女に対し、相変わらずその声色は変わらない。
しばらく格闘していたアリシアだったが、小さくため息をつくと、刺さったままのピッチフォークから、手を離した。
「すみません……レグナスさんから内因魔法の扱い方を教えてもらってから、意識はしてるんですけど……どうもうまくいかなくて」
「ふむー」
傍らの槍に体重をかけつつ、レグナスは少し言葉を選ぶように間を置いてから、口を開いた。
「……アリシアさんの信条に則って、改めて“知ること”から始めましょうか」
「? と、言いますと?」
「アリシアさんは、自分の魔力がどういうモノか、考えたことはあります?」
例えば――とレグナスは続ける。
「内因魔法を扱う時は、魔力の“形”を定義した方が、制御する時に具体的なイメージが湧きやすくて、感覚が掴みやすいんですよ。風とか火とか。アリシアさんはそういうの、あります?」
レグナスの言葉に、アリシアは「ああ」と小さく声を上げた。
(……私の他にも、似たようなことを感じていた人がいたんだ)
漠然と、自分自身の中にあったモノ。
誰にも話したことがなかっただけで、ずっとそこにあった。
「……湖」
「へえ」
「底が見えないくらい深い湖、です」
「ほう」
「そのままだと使うのが不便だから、その湖の水を、水道と蛇口を通して使っていて……でも、この蛇口が固くて、使いたい時に使えない……みたいな」
「……ふむ」
そこまで具体的なイメージがあるのなら、話は早い。
なるほどな――と。
彼女の言葉に、レグナスは一つの答えに辿り着いた。
「アリシアさんは、その湖が怖いですか?」
「……」
即答気味の彼女が、珍しく目線を逸らして押し黙る。
どうやら、図星らしい。
「まずは、その湖と仲良くなることからですね」
「……仲良く?」
「この辺だと、ルナリア湖とかが有名どころですかね」
「?」
「晴れた日とか、光の加減で水面が碧にも見えて、とても綺麗なんですよ」
「??」
話の意図が飲み込めず、アリシアは反応できずにいた。
「湖も、見え方を変えれば、怖い側面ばかりじゃないってことです」
「……仲良くできるでしょうか」
「できますよ」
これはアリシアに対しての、お世辞でもなんでもない。
「その湖はあなたの力であって、敵じゃない」
怖いばかりじゃない。
敵じゃない。
アリシアはしばらくそう繰り返しながら、イメージの中の蛇口と向き合った。
その奥の方。
暗くてよく見えないが。
耳をすませば、かすかにさざなみの音がする。
その音を聞きながら、アリシアは再びゴーレムに刺さったままのピッチフォークに向き直った。
両手で静かに握る。
レグナスの声が、背後から届いた。
「――ローグアナと違って、ここでは誰にも迷惑はかからないですから。思いっきりやって大丈夫ですよ」
肌に触れる空気が、静電気を帯びるようにチリチリする。
ピッチフォークに触れる手が熱い。
鼓動が高鳴る。
正直、まだ怖い。
息を吸って、腹に力が入った。
そして。
内なる蛇口と、ピッチフォークを同時にひねった。
先ほどまでのビクともしない手応えが、嘘のように。
ピッチフォークは簡単に動いた。
ピッチフォークを中心に、ゴーレムの内側から光と熱が溢れる。
その瞬間、
空気が爆ぜた。
ズドォォォォ――――――ン!!
轟音と共に、その上半身は粉々の土塊となって辺りに吹き飛ぶ。
その光景に、アリシアはもちろん、レグナスもしばらく言葉が出てこなかった。
しばらくの沈黙後。
(できた……?できたのかな……?)
予想外の威力を前に、脳が処理しきれない。
アリシアがぎこちない動きで、レグナスに向き直る。
「……ふぉーく、ぬけました」
もっと言うべきセリフがあったと思うが、彼女も今はそれ以上のものが出てこなかった。
その目は、驚きと衝撃であさっての方向を見ている。
それまでの一連の流れを見守っていたレグナスは、思わず彼女に背を向けて、必死に体の震えと表情を隠した。
笑いが、抑えきれない。
それに混じって、武者震いも止まらない。
あの時、ローグアナで彼女の巨大化の《
本当に、この少女はどこか乾いた自分に、高揚感を与えてくれる。
――早く強くなってほしい、と、心の底からそう思う。
己の感情を覆い隠しつつ、レグナスは冷静を装ってアリシアに声をかけた。
「いや、その……お見事です」
普段のアリシアなら、その違和感に気づくだろうが、今は放心状態で固まったままだ。
レグナスはふと、ヴァルドとリュミエールのいる方向に目を向ける。
向こうの二人も、呆然としてこちらを見て固まっているのが見えた。
その視線にアリシアも気づいたのか、少し遅れて二人に手を振った。
その動きも、どこかまだぎこちない。
「お二人とも〜見てくださいよ〜レグナスさんのおかげで、私やりましたよぉ〜」
ヴァルドとリュミエールの間にあった重苦しい空気は、先ほどの爆発でまとめて吹き飛んだ。
リュミエールは静かに、ヴァルドに向けてつぶやく。
「……何はともあれ、アリちーには魔力のコントロールを覚えてもらうのが、急務かしらね」
「……そうだな」
二人は静かに、息を吐いた。