勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜   作:朴月イチロ

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幕間③-2:イメージと制御の時間です

 話は少し前に遡る。

 

「……あ。あーっ!? あうううう……」

 

「力任せに引き抜くより、魔力を通し直した方が早いですよ」

 

 少し離れた場所で見守っていたレグナスが、声をかける。

 慌てふためく彼女に対し、相変わらずその声色は変わらない。

 

 しばらく格闘していたアリシアだったが、小さくため息をつくと、刺さったままのピッチフォークから、手を離した。

 

「すみません……レグナスさんから内因魔法の扱い方を教えてもらってから、意識はしてるんですけど……どうもうまくいかなくて」

 

「ふむー」

 

 傍らの槍に体重をかけつつ、レグナスは少し言葉を選ぶように間を置いてから、口を開いた。

 

「……アリシアさんの信条に則って、改めて“知ること”から始めましょうか」

 

「? と、言いますと?」

 

「アリシアさんは、自分の魔力がどういうモノか、考えたことはあります?」

 

 例えば――とレグナスは続ける。

 

「内因魔法を扱う時は、魔力の“形”を定義した方が、制御する時に具体的なイメージが湧きやすくて、感覚が掴みやすいんですよ。風とか火とか。アリシアさんはそういうの、あります?」

 

 レグナスの言葉に、アリシアは「ああ」と小さく声を上げた。

 

(……私の他にも、似たようなことを感じていた人がいたんだ)

 

 漠然と、自分自身の中にあったモノ。

 誰にも話したことがなかっただけで、ずっとそこにあった。

 

「……湖」

「へえ」

「底が見えないくらい深い湖、です」

「ほう」

「そのままだと使うのが不便だから、その湖の水を、水道と蛇口を通して使っていて……でも、この蛇口が固くて、使いたい時に使えない……みたいな」

「……ふむ」

 

 そこまで具体的なイメージがあるのなら、話は早い。

 

 なるほどな――と。

 彼女の言葉に、レグナスは一つの答えに辿り着いた。

 

「アリシアさんは、その湖が怖いですか?」

「……」

 

 即答気味の彼女が、珍しく目線を逸らして押し黙る。

 どうやら、図星らしい。

 

「まずは、その湖と仲良くなることからですね」

「……仲良く?」

「この辺だと、ルナリア湖とかが有名どころですかね」

「?」

「晴れた日とか、光の加減で水面が碧にも見えて、とても綺麗なんですよ」

「??」

 

 話の意図が飲み込めず、アリシアは反応できずにいた。

 

「湖も、見え方を変えれば、怖い側面ばかりじゃないってことです」

「……仲良くできるでしょうか」

「できますよ」

 

 これはアリシアに対しての、お世辞でもなんでもない。

 

「その湖はあなたの力であって、敵じゃない」

 

 怖いばかりじゃない。

 敵じゃない。

 

 アリシアはしばらくそう繰り返しながら、イメージの中の蛇口と向き合った。

 

 その奥の方。

 暗くてよく見えないが。

 耳をすませば、かすかにさざなみの音がする。

 

 その音を聞きながら、アリシアは再びゴーレムに刺さったままのピッチフォークに向き直った。

 両手で静かに握る。

 

 レグナスの声が、背後から届いた。

「――ローグアナと違って、ここでは誰にも迷惑はかからないですから。思いっきりやって大丈夫ですよ」

 

 肌に触れる空気が、静電気を帯びるようにチリチリする。

 ピッチフォークに触れる手が熱い。

 鼓動が高鳴る。

 

 正直、まだ怖い。

 息を吸って、腹に力が入った。

 

 そして。

 内なる蛇口と、ピッチフォークを同時にひねった。

 

 先ほどまでのビクともしない手応えが、嘘のように。

 ピッチフォークは簡単に動いた。

 

 ピッチフォークを中心に、ゴーレムの内側から光と熱が溢れる。

 

 その瞬間、

 空気が爆ぜた。

 

 ズドォォォォ――――――ン!!

 

 轟音と共に、その上半身は粉々の土塊となって辺りに吹き飛ぶ。

 

 その光景に、アリシアはもちろん、レグナスもしばらく言葉が出てこなかった。

 

 しばらくの沈黙後。

 

(できた……?できたのかな……?)

 

 予想外の威力を前に、脳が処理しきれない。

 アリシアがぎこちない動きで、レグナスに向き直る。

 

「……ふぉーく、ぬけました」

 

 もっと言うべきセリフがあったと思うが、彼女も今はそれ以上のものが出てこなかった。

 その目は、驚きと衝撃であさっての方向を見ている。

 

 それまでの一連の流れを見守っていたレグナスは、思わず彼女に背を向けて、必死に体の震えと表情を隠した。

 

 笑いが、抑えきれない。

 それに混じって、武者震いも止まらない。

 

 あの時、ローグアナで彼女の巨大化の《異能(ギフト)》を、初めて目の当たりにした時と同じ。

 本当に、この少女はどこか乾いた自分に、高揚感を与えてくれる。

 

 ――早く強くなってほしい、と、心の底からそう思う。

 

 己の感情を覆い隠しつつ、レグナスは冷静を装ってアリシアに声をかけた。

 

「いや、その……お見事です」

 

 普段のアリシアなら、その違和感に気づくだろうが、今は放心状態で固まったままだ。

 

 レグナスはふと、ヴァルドとリュミエールのいる方向に目を向ける。

 向こうの二人も、呆然としてこちらを見て固まっているのが見えた。

 

 その視線にアリシアも気づいたのか、少し遅れて二人に手を振った。

 その動きも、どこかまだぎこちない。

 

「お二人とも〜見てくださいよ〜レグナスさんのおかげで、私やりましたよぉ〜」

 

 ヴァルドとリュミエールの間にあった重苦しい空気は、先ほどの爆発でまとめて吹き飛んだ。

 リュミエールは静かに、ヴァルドに向けてつぶやく。

 

「……何はともあれ、アリちーには魔力のコントロールを覚えてもらうのが、急務かしらね」

「……そうだな」

 

 二人は静かに、息を吐いた。

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