勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜 作:朴月イチロ
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習性そのものは、よく知られる蜂に近い。
だが、その見た目と危険度は別物だ。
握り拳ほどの体躯を覆うのは、薄い鉄板を幾重にも貼り合わせたような、漆黒の甲殻。羽音を立てて群れで襲いかかられれば、それだけで悪夢じみている。
「そいつらの群れが、山の麓の廃屋を陣取って巣を作ったようでしてね。最近は街道にも姿を見せ始めているそうです。実害が大きくなる前に駆除してほしいと。一人だと厄介な相手ですが――四人なら」
レグナスはそう言いながら、鉄板の上の野菜を箸で寄せ集め、即席の廃屋を作ってみせた。
「……蜂ってことは、飛ぶんですよね?」
アリシアはその野菜の山を見つめたまま、恐る恐る尋ねる。
「もちろん。団体行動という点においては、ユキイタチより厄介です。空から毒針で一斉に攻撃してきますから」
「あ。やっぱり毒とかもあるんですね……」
「麻痺毒ね。即死するほどのものじゃないから、前もって薬で耐性つけておけばしのげるはず。耐性薬なら私が用意しておくわ」
それを聞いた途端、アリシアの目がたちまち輝く。
そのわかりやすさに、リュミエールは少しだけ得意げになった。
「……仕掛けるとしたら、日中の方がいいか」
野菜を口に運びながら、ヴァルドが目を細める。
「夜間の方が、群れが巣に戻っている分、一網打尽にしやすいんですが、あいつらは夜目が効きますからね。働き蜂供を一箇所に集約させる策があれば、日中の方が戦いやすいと思います」
そこまで言って、レグナスはにこりと笑い、アリシアへ視線を向けた。
「——という依頼を、明日パーティー登録と合わせて受けたいと思っているんですが。どうです、リーダー?」
「……ふえ?」
間の抜けた声が漏れた。
気づけば、ヴァルドもリュミエールも、こちらを見ている。
——どくん、と胸が鳴る。
アリシアは慌てて背筋を伸ばした。
「……受けます」
一拍置いて、彼女は真っ直ぐ顔を上げる。
「大きな被害が出る前に、私たちで退治しましょう。鎧蜂」
その言葉に、三人の口元が揃って緩む。
レグナスがのんびりとした口調で続けた。
「いやー、パーティー最初の仕事が
ヴァルドが半笑いでぽつりと言う。
「……もうパーティーの仮名は《ハチ駆除隊》でいいか」
「なーんでそんな、ピンポイントな名前にしようとするのよ! レグナスもそーゆー不穏な一言足さない!」
「ああああ……本当に名前どうしよう……っ」
頭を抱えるアリシアをよそに、鉄板の上では新しい肉がじゅうじゅうと音を立てていた。
◆◆◆
パーティー名という難題は残ったものの。
その晩の猪肉鉄板焼きは、少なくともアリシアの悩みを一時的に吹き飛ばすだけの力を持っていた。
宿へ戻った彼女は、寝台へ大の字に倒れ込み、そのまま幸せそうに頬を緩めている。
肉の余韻がまだ口の中に残っている気さえした。
「……しあわせ」
今夜のような肉づくしは、ローグアナの《血煙亭》以来かもしれない。
満腹と満足に包まれ、今ならこのまま眠れそうですらある。
一方、部屋備え付けの机では、リュミエールが文献を山ほど広げ、
「……うん。手持ちの材料で
『今夜のうちに作っちゃいまス?』
「ええ。明日いろいろ手続きしたら、そのまま向かうだろうし。アリちー、バックパック触るわよー」
「どうぞー」
寝台の上から返事をしつつ、アリシアはむくりと起き上がる。
ヴァルドお手製、無限収納バックパック。
アリシアが旅立ち当初から持たされた物だが、今ではパーティー人数分の荷物が詰め込んである。それなのに見た目も重さもほとんど変わらない、不思議な代物である。
そこから調合器具を取り出しながら、リュミエールはぶつぶつと不満を漏らし始めた。
「何度見ても意味わかんないのよね、これ……無限収納なんて、古代魔法の中でも再現したい技術の上位なのに。それを何? お手製? どんだけ異常なことをしてるのか、自覚あるのかしら、あいつ……っ」
ごと、ごと、と器具を並べる手つきが若干荒い。
「やってることが、いちいち人外じみて腹立つのよ、あの魔法師……!」
机の周囲に、うっすら黒いオーラが漂って見えた。
アリシアは少しだけ身を引きながら、おそるおそる尋ねる。
「……作り方とか、聞かないんですか?」
「聞かない」
即答だった。
「私が自分で辿り着かなきゃ、意味がないもの」
「リュミエールさん……」
やっぱり格好いいなぁ。
そう思った矢先。
「あと単純に悔しいから。なんか負けた気がするからあああぁ!!」
「な、なんかごめんなさい!?」
突然声を荒げるリュミエールに対し、アリシアはつい、反射的に口から謝罪の言葉が出てしまった。
リュミエールが仲間になってから数日。
彼女がヴァルドへ妙な対抗意識を燃やしていることには、アリシアも薄々気づいていた。
特に、ヴァルドが魔法を使う時だ。
そのたびリュミエールは、まるで世界の常識を裏切られたような顔をする。
悔しそうで、信じられなさそうで、それでも目だけはしっかり見逃すまいとしている。
だが意外なことに、当のヴァルドへ必要以上に踏み込むことはしなかった。
ヴァルド自身、あまり深く立ち入られるのを好まない空気がある。
だからアリシアとしては、その距離感に少し安心していた。
……その反動なのだろう。
二人きりになると、こうして不満だけは山ほどこぼすのだ。
「……はあ。足の小指ぶつけるとか、ささやかな不幸があればいいのに」
『小さい……器が小さすぎるっス姐御……』
「うるさい」
ぺしん、とタマが叩かれた。
その様子をアリシアは唖然と眺めていたが、少し笑みがこぼれる。
ふと窓辺に視線を移す。
魔硝石のランプの灯りが、アルセインの街が闇に沈まないよう、暖かく照らしている。
——暗闇を照らす、
「……そういう感じの名前がいいな」
アリシアの独り言は、誰に聞かれることもなくアルセインの街中に溶けた。