勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜 作:朴月イチロ
村を旅立ってから道中でヴァルドが考えたこと。
それはアリシアには戦闘時の自分の動きを覚えてもらうことである。
「ひっ、ひゃあっ、うわっ!」
森を抜ける最中に差し向けた、今日のアリシアの対戦相手である
アリシアはその鎌を、ピッチフォークの柄や先端に引っ掛けてうまくいなしつつ、攻撃の隙を見計らっている……手元は危なっかしいが。
「《
村を旅立ってから道中でヴァルドが考えたこと。
それはアリシアには戦闘時の自分の動きを覚えてもらうことである。
「ひっ、ひゃあっ、うわっ!」
森を抜ける最中に差し向けた、今日のアリシアの対戦相手である
アリシアはその鎌を、ピッチフォークの柄や先端に引っ掛けてうまくいなしつつ、攻撃の隙を見計らっている……手元は危なっかしいが。
「《
ヴァルドの“呪文”に応えるように、
鎌の猛攻が止まる。
「――たあっ!」
アリシアは両鎌の間をすり抜け、ピッチフォーク先端を胸部の関節部分に食い込ませて、捻る。
――少し嫌な音を立てて、
……悪くない。
彼女の動きを見て、ヴァルドは素直に感心していた。
ついこの間まで普通の田舎娘だったことを考えれば、十分及第点をつけられる。
先のワイルドボア戦でも感じた所だが、窮地の際の判断力と度胸はある程度備わっている。あとは付け焼き刃レベルでも戦闘時の型を身につけて貰えば、ローグアナまでの道中の魔物相手であれば対処は容易だろう。
万が一手に余るようなケースが発生した場合は、先ほどのようにこの世界の“魔法”でフォローする。
それこそこの箱庭世界に入る際、ヴァルドが選んだ“表側”の役割だ。
「……どうでしたか?」
「もう少し落ち着いて相手の動きを見ろ、動きが危なっかしくてこっちがハラハラする……どうした?」
ヴァルドのそばに寄ってきたアリシアは、若干笑顔が引きつっていた。
「フォークを刺した感触が……なんとも言えない感じでぇ……あと若干体液的なものがですねぇ……早くお風呂入りたい……」
言い終わるよりも早く、ヴァルドはアリシアの頭上にそっと手をかざした。
「《
彼の手のひらから、心地よい風のような力の流れをアリシアは肌に感じた。それに混じって微かに石鹸の残り香のごとく、淡い白い香りが鼻先を掠める。
気が付けば、先ほどまで感じていた不快感は嘘のようになくなり、浴場でしっかり身を清めたような爽快感があった。
「え……ええーっ!すごい!これも魔法ですか?」
「これでマシになっただろう」
「もしかして、ヴァルドさんがいればこの先お風呂いらずになるのでは……?」
「人を便利屋扱いするんじゃねえ」
この神経の太さは、呆れを通り越してむしろ清々しさすら感じさせる。
「そんなに魔法が珍しいか?」
「話には聞いてましたけど、実際に使ってる所を見るのは初めてです!」
「……そうか」
アリシアが単純に世間知らずである可能性もあるが、辺境の地において自分が思っている以上に、魔法師と魔法は特異な存在らしい。
少なくとも王都付近の街に出るまで、目立つ魔法の使用はなるべく控えた方が良さそうだ。変に悪目立ちしたくない。
◆◆◆
ヴァルドが魔法で
これまでも旅の道中で倒してきた大ネズミの毛皮やスライムの構成核など収集してきたが、その中でも今回の鎌はサイズ的にも大物といえる。
アリシアは荷物入れのバックパックを引き寄せ、その口を開けた。
一見ただの皮袋だが……袋の口からは何も見えない。
ただポッカリと、真っ暗闇の空間がそこにあるように見える。
「それにしてもヴァルドさんがくれた、このバックパック便利ですよねー。どんなに大きなものも問題なく入りますし、いっぱい入っているはずなのに重さは感じないですし、取り出しも楽ですし……これも魔法ですか?」
アリシアが鎌の先端を口に入れると、まるで生き物のように、バックパックは差し出された鎌を飲み込んだ。
旅道具のほか、道中で倒してきた魔物素材もすべてこの中に収まっている。そのため、ほぼ手ぶらの状態で済んでいた。
「似たようなものだ。高価なものなんだから無くすなよ」
――と建前で返したものの、実はただの皮袋に精密に空間魔法を織り込んだ、この世界の住民にとっては、古代遺物のアーティファクトレベルの貴重品なのだが、この場では秘密。
アリシアは「そんなにすごいものなんですか!?」と、改めてバックパックをまじまじと見る。
「ほんと魔法って、いろんなことができるんですね! 魔法師って他にもたくさんいらっしゃるんですか?」
「王都まで行けば、俺よりすごい魔法を扱う魔法師はゴロゴロいるだろうよ」
事実を述べたつもりだったが。
今思えば、少しだけ突き放した言い方だったかもしれない。
「ちょっと楽しみです。お洗濯の魔法とか種まきの魔法とかあったらいいなー」
そうすればもっと村のみんなが楽になりそう、とアリシアの声を弾ませながらバックパックの口を閉じた。
――今のアリシアにとって魔法は戦闘面での攻撃力リソースじゃなくて、生活面での万能技術の方での印象が強いらしい。
その平和的な考え方も、いつまで保っていられるか。
先のことを案じてヴァルドは目を細めて物思いに耽っていると、アリシアは一瞬怪訝そうな顔をして笑いかける。
「大丈夫ですよヴァルドさん! 私、この先いろんな魔法師の人たちに会っても――」
私が一番すごいって思う魔法師は、これからもヴァルドさんですから。
と、その瞳に確かな輝きを宿して、臆面もないセリフを平然と言ってのける。
――なぜこちらが慰められているのか?
もしかして、『すごい魔法を扱う魔法師がゴロゴロいる』という発言に対し、こちらが傷ついたと思われた?
「……アリシアさん」
「?」
手招くヴァルドに対し、何も疑う様子なく近づいてきたアリシアの額に向かって――。
手に持った杖で軽く、突き放すようにこづく。
「え? ええ? なんですか??」
「……行くぞ。今日はもう少し先に進んでおきたい」
翻したローブの裏に、自分の動揺を隠すようにして歩き出す。 背後で「私、何か変なこと言いました!?」と困惑する彼女の声を背に、今は振り返ることができなかった。
『信頼』はあって越したことはない。
なのにどうして、こんなに胸が締め付けられるのだろう。