勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜   作:朴月イチロ

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第2話:キズを伴う人助け
2-1:都会の洗礼!?


 その町は、アリシアが生まれ育った村とは何もかもが違っていた。

 

「う、わあぁぁ……っ!!  すごい、すごいですヴァルドさん! 人がいっぱいです! お店もいっぱい!」

 

 村を出立してから数週間。

 街道に入りローグアナへ道を北上していた二人は、やがて一つ手前の中継地点『ベルン』にたどり着いた。

 石畳で舗装された大通り。すれ違う荷車の数。左右に立ち並ぶ露店からは、嗅いだことのない香ばしい匂いや、甘い香りが漂ってくる。村では見かけない色鮮やかな果物、煌びやかな装飾品、そして何より――視界を埋め尽くすほどの人、人、人。

 町の正門を抜けた途端、アリシアの目は輝きっぱなしだった。

 

「わかったから少しは落ち着け……。完全によそ者丸出しじゃねーか」

「ここまで遠くに来るの初めてなんですよ! あ、あそこの串焼き屋さんおいしそ〜。あそこの皮細工のお店もすごく素敵ですね!」

 

 ノリはすっかり普通の観光客である。

 隣を歩くヴァルドは、フードを目深にかぶり直しながらやれやれと肩をすくめた。元々補給と情報収集のために立ち寄った宿場町だが、村からほとんど外に出ることがなかったアリシアにとっては、ここも十分に都会なのだろう。

 

「いいかアリシア、ここは村とは違う。人が多いってことは、それだけ質の悪い連中も――」

「あ! ヴァルドさん、あの果物なんですか!? 星の形してますよ!」

「話聞けよ」

 

 アリシアは好奇心に引かれるまま、ふらふらと露店の方へと吸い寄せられていく。その隙だらけの背中は、獲物を探すハイエナたちにとっては絶好の“カモ”でしかなかった。

 

 瞬間、人混みの中から小柄な影が飛び出し、ドンッ! とアリシアにぶつかった。

 「あ、ご、ごめんなさい!」

 「いたっ……私こそごめんなさ……い?」

 

 ぶつかってきたのは、薄汚れた服を着た少年だった。少年は弾かれたように謝ると、アリシアの顔も見ずに脱兎のごとく人混みの中へ消えていく。

 

「危ないなぁ……あんなに急いで、大丈夫かなあの子」

「……アリシアさん」

「はい?」

 

 ヴァルドに「ん」と指をさされ、アリシアはきょとんとその先、自分の腰元に目をやる。そこには、村を出る時に叔母たちが持たせてくれた、大切な旅の資金が入ったポーチが――。

 

 「――あれ?」

 

 ――ない。ポーチの紐が、鋭利な刃物で切られている。

 

「……え? うそ? ……ええええええっ!?」

「ほーら言わんこっちゃない」

「お、お金! みんなからもらった大切なお金がぁっ!?」

「叫んでる暇があったら追いかけろ……まだ遠くには行ってないはずだ」

「は、はいっ」

 

 ヴァルドの叱咤で、ようやくアリシアのスイッチが入った。

 

 「こらーっ! 返しなさーいっ!」

 

 少年が消えた方向めがけて、アリシアは人混みをかき分けて走り出した。

 

   

 ◆◆◆

 

 

「……はは。ラクショー」

 

 その頃スリの少年は、アリシアから奪ったポーチの重み……お金の重みに勝利の余韻を味わっていた。あれほどわかりやすい、田舎者丸出しの小娘から財布を抜くなんてことは、彼にとっては赤子の手をひねるより簡単なのである。ポーチを開けて軽く総額を確認する。

 

「ちぇ、大した量じゃないな――言われたノルマにはまだ全然足りない」

 少年は苦々しく唇を噛み締めると、脳裏に一人の少女の笑顔がよぎった。

 

「……待ってろよニーナ、絶対助けてやるから……」

 決意を新たに、路地裏から再び表に出ようとした矢先――。

 

「――見つけたっ!! お金かえして!!」

 

 その気迫が入った声に当てられて、ビクッと少年の心臓は一瞬跳ねた。恐る恐る後ろを振り返ると、先ほど小馬鹿にしたばかりの小娘が、猛烈な勢いでこちらに迫ってきていた。

 

「やっべ……!」

「絶対逃さないから!」

 

 一目散に路地裏を飛び出した少年の背を追ってアリシアは駆け抜ける。人混みをすり抜け、物売りの樽を飛び越え、荷台を倒し、時にはちょっとした塀を駆け登って撒こうとも、それでも彼女は器用についてくる。

 

(くそっ、なんなんだよあのねーちゃん、鈍臭そうに見えたから狙ったのに、すげえ身軽じゃん……!)

 

 少年は知る由もないが、伊達にアリシアの方も牧場仕事、山遊びで足腰鍛えていないのである。

 逃げ道を探していくつか角を曲がると、やがて運悪く袋小路にぶつかった。

 

「しまっ――!」

「――つっかまえたーっ!!」

 

 ドンッ! っと背後からアリシアは少年に抱きつくようにタックルをかまし、その勢いで少年もろとも地面に倒れ伏した。手から革ポーチが離れ、石畳の上に重みのある音を立てて落ちる。

 

 「はぁ、はぁ……! さぁ、お金返してもらいますよ! 私とヴァルドさんの大事な旅の資金なんですから!」

「やーっと捕まえたか」

 

 アリシアが少年をそのまま石畳に押さえつけていると、その後ろから音もなく白いローブの青年――ヴァルドが現れた。

 

「――盗みとは感心しないな少年。お前さんが逃げる道中にかけてきたご近所迷惑の数々、地味にフォローして周るの大変だったんだからな」

「う、うぅ……。」

 

 ヴァルドの親切心など意に介さず、少年は観念するどころか、焦燥に歪んだ目で二人を睨みつけた。

 だが、そこにはうっすら涙が滲んで見える。

 

 「……離せよ。」

 「ダメ! 泥棒はいけません!」

 「うるせぇ! 俺には金が必要なんだよ! 今すぐに!」

 「だからって人のものを盗っていい理由にはなりません!」

 「綺麗事言ってんじゃねぇ! 金がなきゃ……金を持って帰らないと、妹が殺されるんだよ!!」

 

 悲痛な叫びが、路地裏に響いた。その言葉に、少年を押さえつけていたアリシアの手の力が少し緩む。

 

「妹さん……? 殺されるってどういうこと?」

 

 少年はふせったまま悔しそうに地面を拳で叩きながら呟く。

 

「……あいつら、廃教会に巣食ってるチンピラ共だ。俺の妹を人質にとって……期限内に指定の金を持っていかないと命はないって、誰かに助けを求めようとしても殺すって……」

 

 ――本来であれば最低限、話の信憑性は疑うものなのだろう。

 だがその少年の声が、あまりにも悲痛で。

 

「……ねえ、キミ。」

 

 スイッチが入った。

 

 少年が顔を上げると、 そこにいた少女は先ほどまでの能天気な印象はなく、まっすぐな“怒り”を宿した瞳でこちらを見据えている。

 

「その話、詳しく聞かせてもらってもいいかな?」

 

 かたわらで見守るヴァルドは、内心小さくため息をつく。

(……少しは話の信憑性を疑ってほしいものだが)

 

 それを言ったところで、彼女は自らの意志を曲げるつもりはないだろう。

 

(まあ、そんなことは二の次か)

 

 星綾士(ステラリスト)は、『止まらない人間』に合わせて動く。

 それだけのことだ。

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