プリキュア歴三年、過去に飛ばされました。   作:村正 ブレード

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プリキュア歴三年、過去に飛ばされました。前編

 

 闇の世界の深淵に位置する“ダークキャッスル”跡地。

 そこでは禍々しい気配に満ちた巨人と五人の少女が相対していた。

 

 巨人に付いた傷は少なく、逆に少女達は何も傷つき、衣服にも解れが目立っていた。

 

 「貴様らプリキュアも これで終わりだ

 

 巨人は掌から闇のエネルギー球を生み出し、頭上に掲げる。闇の世界に満ちた闇のエネルギーを無尽蔵に吸収し続けるエネルギー球は、巨人の何倍もの大きさまで膨れ上がる。

 この一撃が放たれれば、闇の世界ごと破壊し尽くすだろう。巨人は世界全てを支配する事よりも、目の前の仇敵(プリキュア)を滅ぼすことを選んだ。

 

 「滅びよ 我が野望とともに!

 

 巨人が渾身の念を込めて振り下ろしたエネルギー球は、空間を捻じ曲げ砕きながら少女たちに迫っていく。この戦いを見守る全ての人々が、世界の終焉を予期した。

 しかし、少女たちの瞳には絶望の色は彩られていなかった。

 

 「ううん! 終わりになんかさせない!

 

 一人、また一人と手を繋ぎ合わせて。

 

 「(わたくし)達は明日を、未来を生きていきたいから!

 

 言葉という糸を紡いでいく。

 

 「まだやりたい事沢山あるのに、アンタなんかに支配されてたまるかっての!

 

 繋がりが増えていく度に、彼女達の纏う光は強まり、色付いていく。

 

 「貴方という壁を乗り越える為に、私達は―――

 

 繋がりは五人だけに留まらず、世界の枠組みすら越えて広がる。

 

 「世界を繋いで、みんなと一つになる!

 

 人の世界、光の世界、そして…闇の世界すらも巻き込んで。

 

 「「「「「 !」」」」」

 

 五人の身体から放たれた一条の虹光がエネルギー球を貫き、光の中から一人の戦士が現れる。

 

 世界の垣根を越えて(オーバー)、眩く輝きが闇の世界を遍く照らす、巨大な虹光のプリキュア。

 

 「世界で彩り、繋げて交差(クロス)

 キュ

 

 「さあ、新しい物語を綴りましょう」

 

 キュアユニバースは慈愛の表情を浮かべながら巨人に手を差し伸べる。先程まで圧倒的に劣っていた存在がした自らを下に見るかの様な行動は、力と己による支配を望む巨人を激昂させるのには充分だった。

 

 「我を侮るな! プリキュアアアア!!

 「……っ! はあああああっ!!」

 

 巨人とキュアユニバースの拳がぶつかり合い、光と闇の衝撃波が世界を飲み込んだ。

 

 

 

 世界の命運を懸けた最終決戦から数ヶ月が経った。

 プリキュアの一員として戦っていた俺、“夜灯 包(よあかり つつむ)”は久しぶりに相棒の妖精の“ネオン”と過ごして居た。隣でふわふわと浮きながら美味そうに好物のソフトクリームを頬張るネオンを見ると、あの日々が昨日のことのように思い出せた。

 

 「で、光の世界は今どんな感じなんだ?」

 「うむ。ようやく復興が終わった所である。こうしてお主に会いに来れたのも、女王様から暇を頂いた故であるからしてな」

 「じゃあ、ルーチェとボンドもこっちに来てるのか?」

 

 ルーチェとボンド、共に戦った仲間の妖精二人の姿を思い浮かべる。あの二人もネオンと同じようにかつてのパートナー達と共にいるのかと問えば、ネオンは首を横に振った。

 

 「いや、姉上達はまだ…順番でこちらに来る予定なのだ。ボンドは吾輩の次、姉上は最後である」

 「ふーん……じゃ、再会を祝したパーティはまた今度だな」

 

 どうやら光の世界もそこまで余裕が出来たわけではないらしい。その後にお互いの近況を話し合っていると、また懐かしい気配を感じ取った。

 

 「……()の気配? …ネオン!」

 「あり得ぬ、あやつらはまだ人間の世界には来れぬはずだ!」

 

 ネオンの戸惑いを含んだ言葉に応じ、即座にプリキュアに変身して気配の出所を探る。

 北に500mの地点に居るな、と思ったら南東20kmに気配が移動、次は西55km、飛んで北東200m。あちこちで出ては消えてを繰り返す気配は()達の意識を掻き乱していく。

 

 「滅茶苦茶すぎる…! こういうのは初めてね」

 「気をつけろ! いつ何処から現れるか分からぬぞ!」

 

 広範囲に亘るワープを繰り返す相手に走り回るのは得策では無いと考えた私は、手に武器である“オーロライトセイバー”を出現させ、気配が動きを止めるのを待つ。

 北西44km。南89km。西40m。南東150km。速度がどんどん増していく。北12km。東南東300m。西北西5km。更に速くなった。南南西78km。北東900m。西南西42km。東15km。北北東66km。南西120m。東北東8km。

 

 北100km。

 それを最後に気配が消える。

 

 「……………消え」

 

 南1m。

 

 「後ろである!」

 「分かってる!」

 

 ネオンとほぼ同時に感知した気配に振り返り距離をとってセイバーを構えると、其処には黒一色の球体があった。不思議なことに、闇の気配を放ってはいるものの顔も無ければ手足もない。

 

 「…? “ネタマシー”じゃない?」

 「まん丸であるな…」

 

 想像とは異なる姿の来訪者に少し肩透かしを食らいつつ観察していると、球体は凄まじい引力を発生させて私を吸い込もうとする。

 

 「うわっ!?」

 「踏ん張るのだ! オーロラ!」

 「やってはいるけど…! くっ……!!」

 

 コンクリートが陥没する程に踏ん張っているものの球体の発する引力は強く、身体が今にも浮き上がりそうだ。ならばとセイバーを地面に杭打って耐えようとすると、阻止せんとばかりに球体から黒い触手が伸びてきた。

 

 「はあっ!? ちっ、しゃらくさい!」

 

 振り上げたセイバーで触手を切り払うが、溢れ出てくる数々の触手の雨は止まない。凌いでいる内にダメ押しとばかりに引力が強まり、とうとう踏ん張りきれなくなった私は浮かび上がってしまう。

 

 「しまっ……!?」

 

 なすすべなく吸い込まれてしまった私は、暗黒の中へ落ちていった。球体は先程までとは嘘の様に静まり返ると、フッ、と姿を消した。

 

 球体はその後、この時代の何処にも現れることは無かった。

 

 

 

 

 「―――ぉぉおおおおおっ!? 出た! 何処!? 街!?」

 

 球体の中に広がっていた漆黒の空間から抜け出した先は、闇の世界では無かった。上空凡そ3000m程の空中に投げ出された私は直下に街がある事に気付くと、ネオンに呼びかける。

 

 「ネオン! さっきの奴は!」

 「全く感じ取れぬ! 奴め、吾輩達を吸い込んで何処かに行きおった!」

 「探知は続けて! 地形を把握する!」

 

 セイバーを振るい、橙の力(形成)黄の力(変幻自在)を引き出す。セイバーから放たれた二色の光は紙飛行機を形造る。その上に着地し、滑空する飛行機の上から街並みを観察した。

 

 (知らない街…それに、()()デザインが多い)

 

 現代…2027年にしてはやけに古めかしい家が多く、看板などの広告に映る会社や商品にも馴染みの無いものばかり。とは言え外国に来た様にも見えない。

 現在位置を確認しようと、スマートフォン型の変身アイテム“CC(クロスキュア)フォン”を手に取り地図を開こうとするが……。

 

 「……圏外?」

 「オーロラ、やはり奴は消えた様である…すまぬが闇の気配すら感知できぬ」

 

 CCフォンの上部に付いたネオンの顔が語りかけてくるが、結果は芳しくはなかった様だ。

 

 「そう、ありがとう……っ、あれは?」

 「何か見つけたのか?」

 

 ふと、視界の端に映った看板を見る。そこには“ようこそ、まことみらい市へ!”と書かれていた。私の視界に入ったことでネオンも気が付いたのか、喜びの声を上げた。

 

 「おぉ、ここの地名であるな! ふぅ……人の世界…それも、日本のようであるな」

 (まことみらい市…? タウンじゃなかったっけ?)

 

 以前、救援で訪れた街を思い出したが、記憶にあった特徴と一致しないことに首を傾げつつも、街並みを観察しながら降下していく。地面に降り立った私は、周囲に誰もいない事を確認して変身を解除した後、一体化が解けてCCフォンから飛び出てきたネオンに声を掛ける。

 

 「さて……これからどうする?ネオン」

 「兎にも角にも、闇や光の世界でもないのは良いことであるが……状況を(みな)に知らせるべきでは無いか?」

 「そうは言ってもな……これ見てくれ」

 

 そう言いながらネオンに“圏外”が示されたままのCCフォンを見せると、ネオンはギョッとした顔になりCCフォンに顔を近づける。

 

 「なんと! ならば………むむむっ。光の世界との交信が取れぬ……」

 「ダメか……」

 

 光の世界との繋がりさえあれば何処でも通信可能なCCフォンが圏外な時点で薄々気付いてはいたが、ネオンでも連絡が取れないとなると現代では無いだろう。

 

 「異世界ではないようだけど……今ある情報だけで考えると、現代でも未来でもないだろうな」

 「なぜであるか?」

 「何にしても、デザインが古すぎる。家も広告も、車だってそうだ。それに俺の記憶が正しければ、まことみらい市ってのは“マコトミライタウン”の前の呼び名だった筈だ」

 

 いつだったかそんな話をテレビで見たことを思い出した。確か再開発で変わったんだったかな。それを踏まえて考えると、未来の可能性はまず無いだろう。

 

 「では、此処は過去の世界ということか?」

 「多分な…。どれくらい昔に飛んだかはわからないが……俺が産まれるより前なのは確かだ」

 

 プリキュアに変身すればまことみらい市から元いた“きずな町”に戻るのは10分もかからないだろう。しかし、此処が過去だとすればこのまま戻ったとしても俺の知る町ではないし、そもそも家だってあるか分からない。結婚する時に建てたって聞いたし。

 

 「ならば、まずは今が西暦何年かを調べるのが良いか……カレンダーの一つでもあれば良いが……」

 「そういうのも含めて、“ここ”で聞いてみようぜ」

 

 そう言って、俺は側にある“キュアット探偵事務所”と銘打たれた探偵事務所を示した。ネオンは興味深そうな顔で事務所を目を凝らして見つめ始める。

 

 「キュアット探偵事務所……何だか親近感のある名前であるな。それに……妖精の気配がある。いつの間にこのような物を?」

 「飛んでいる最中に見つけたんだ、俺も気になってな。こんな名前付けるのはプリキュア関係者って相場が決まってるだろ?」

 「むぅ…それにしては人の気配は感じぬが……」

 

 訝しむネオンを肩に乗せて俺は探偵事務所の玄関前に立った。呼び鈴を押そうと手を伸ばすも、それらしいものは見当たらない。

 

 「あれ?」

 「ノックするしかない様であるな」

 「えぇ…面倒だな……すみませーん!」

 

 コンコンと複数回ノックして応答を待つ。

 ……が、応答がない。もう一度ノックしてみるが、同じ結果だった。

 

 「……どう思う? 聞こえてないか、居留守か」

 「吾輩は聞こえていないに賭けよう。老いた妖精が番をしているやもしれぬ」

 「乗った。じゃあちょっと強引に行くか」

 

 扉を強めに揺らしてやれば来るだろうとドアノブを捻ると、意に反して扉はあっさり開いた。

 

 「………え? 開いた?」

 「なんと。もしや態と出てこんかったのか…?」

 「だとしたら相当偏屈な爺婆だぜ中の奴……。まあいい、入ってみよう」

 

 嫌な性格した老妖精の姿をイメージしながら事務所に入る。ごめんくださーい、と改めて声をかけるもやはり返答はない。玄関から周りを見渡すとどの部屋も明かりが付いておらず、少し埃被っているのが見える。およそ人が住んでいる様子の見えない事務所を見て、若干の警戒心が芽生える。

 

 「……ネオン、気配は一つだな?」

 「うむ。妖精のものが入って左の扉の中に一つ。他には人も闇も感じぬ」

 「そうか……もしかして空き家か? それに妖精が住み着いてるとか…まあ良いか、中に入って探そう。失礼しまーす…」

 

 いつでも変身出来るようにポケットのCCフォンに触れながら廊下を進む。左には扉が一つ、右には下り階段がある。少し奥には大きな振り子時計が見え、その先の廊下には仄かに光が差し込んでいるのがわかる。階段上の手すりから下を覗くが、そこには扉が一つあるだけだった。

 

 (下の部屋は……今はいいか)

 「包? どうした、入らぬのか」

 「今行く。中の様子はどうだ」

 「動きはない。吾輩たちには気付いているはずだが」

 「いいさ、待っててくれてるんだろ」

 

 そう言って俺は妖精がいるであろう部屋の扉を開いた。中は広く、応接室の様だった。部屋の明かりは日差しが差すだけで、廊下とさほど変わらない薄暗さだった。部屋を無言で見渡してみても、暫定家の主は姿を現さない。

 

 「……いるんだろ? 出てきてくれ、ちょっと頼みたい事があって…」

 「―――悪いが依頼は断ってる」

 

 痺れを切らして声を上げると、右側から声が聞こえてきた。少年の様な声色だった。声のした方を見るが、そこには机があるだけで誰もいない。

 

 (…………ネオン)

 (うむ)

 

 ネオンが肩から離れたのを感じ、机の後ろに回り込みながら視界を切り替え()()()()()()()()。机の真上、天井付近まで上昇したネオンの視界に金髪の少年が映る。

 

 (人型の妖精……融存(ユニゾン)してるのか?)

 

 俺がそう思考しながら机の後ろに到達するのとほぼ同時に、少年がネオンに気付いて顔を上げた。

 

 「妖精…? 見た事ない種族だ…」

 「なあ」

 「うわあああああっ!!?」

 

 ネオンに気を取られた少年に顔を寄せ声をかけると、少年はびっくりする程に驚き、その拍子に椅子から転落した。

 

 「いぃっ!? だ、大丈夫か……!?」

 「痛そうであるな……怪我はないか?」

 「痛た……あ、ああ…大丈夫」

 

 誰がどう見ても痛い落ち方をしたのを心配して近寄る俺達を制し、少年は立ち上がった。

 

 

 

 

 気を取り直した俺達と少年は向かい合う形でソファに座っていた。金髪碧眼、ゴーグルを首にかけ白衣を纏う少年の姿からは、探偵ではなく研究者に近い雰囲気を感じた。

 

 「……コホン! で、お前ら一体何者だ?」

 「ああ…俺は夜灯包、こっちはネオンだ。アンタは?」

 「僕はジェット、天才発明家だ! そうじゃなくて、何の用でここに来たのかって聞いてるんだ」

 「(……発明家? 探偵じゃなくて? …まあいいか)さっきも言った通り、俺たちは……」

 

 ジェットの肩書に疑問を覚えるが、後回しにして事情を説明する。長くない説明を終えた後、ジェットは怪訝そうな顔でこちらを見る。

 

 「言っとくが本当の話だぞ」

 「そうは言ってもな……未来から来たなんて、それこそ時空の妖精の力でもないと不可能だ」

 「黒い球体がその時空の妖精って可能性は?」

 「それはないな。僕は時空の妖精を知ってるが姿が違う。本物はピンクのクマみたいな見た目だ」

 「そうか……姿が違うといえば、ジェットは人の姿をしているけどここの探偵と融存(ユニゾン)しているのか?」

 「ユニゾン? なんだか知らないが、この姿は変身しているだけだ。本当の姿はほら……この通り」

 

 ジェットがそう言って額にハートの意匠が付いた黄色い妖精の姿へと変身するのを見て、俺とネオンは顔を見合わせる。

 

 (おいネオン、妖精って人に変身出来たのか?)

 (ふ、不可能である! 光の妖精は女王(ははうえ)を除いて融存(ユニゾン)なしでは人の姿はとれぬ! 人の世界に妖精が居たのも驚いたが、その上人にも変じれるとは……吾輩たちの時代では居なかったのが気になるが)

 (そうだな。闇の世界との闘いで居なくなったのかも……)

 「おい、何をコソコソしてるんだ?」

 「え、ああ! 悪い。それより……今が何年か教えてくれないか? 何年前に飛んできたのか知りたいんだ」

 

 誤魔化す様に話題を変えると、ジェットは少し首を傾げつつ壁に掛けてあるカレンダーを指差し、衝撃の一言を告げた。

 

 「今は1999年1月24日だ」

 「…………は? 1999年!? 28年前ェ!?」

 「なんと!? ……なるほど、光の世界と繋がらぬわけだ。まだ世界が分かたれていた頃だったという訳であったか」

 

 ネオンは理解できたかのように手を叩くが、俺の方は飛ばされてきた年月の方に固まってしまっていた。28年前って父さんたち今幾つだ?

 

 「28年前? ってことは…2027年から来たのか、お前ら。なんでそんな中途半端な未来から……そこは22世紀とかじゃないのか?」

 「ドラえもんじゃねぇかそれ。なんでってそれは俺たちが知りたいよ…」

 「包……」

 

 はぁ……と溜息を吐いて項垂れ始めた俺を見て、ジェットは気を利かせてコーヒーを淹れてくれた。

 

 「ありがとう……って甘っ! えっこれコーヒーだよな!?」

 

 湯気が立つティーカップに口をつけると、想像とは違う強い甘味が口の中に広がり思わず声を上げてしまう。

 

 「そうか? これくらいが丁度いいだろ」

 「いやいや……甘党が過ぎるだろ……砂糖何個入れたらこうなんだよ……」

 「どれ、吾輩も一口……おお! とても美味である! 気に入ったぞ!」

 「だろ?」

 「ウソだろここにもいたよ激甘党……」

 

 妖精たちの味覚の違いに驚愕するも、そのおかげで悲壮感も薄れてきた。残ったコーヒーをネオンに渡し、ジェットに疑問に思っていたことを尋ねる。

 

 「そういえばジェット、ジェットがそうじゃないなら、ここにいる探偵はどこに? 一度話をしてみたいんだけど…」

 「……さっきも言ったが、依頼は断ってる。ここにはもう探偵が居ないからな」

 「居ない? じゃあ、ジェットはなんでここにいたんだ? ……空き巣とか?」

 「バカ、違う! 僕はこの事務所を畳むために派遣されてきたんだ!」

 

 ジェットが言うには、どうやらここの主である探偵は少し前から行方不明となっているようで、捜索の甲斐なく今でも見つかっていないらしい。この状況を見かねたロンドンの本部がジェットをここに送り込んできた、というのが経緯らしい。

 

 「なるほど……。道理で人の気配がしないわけである」

 「そういうわけだ。悪いな、力になれなくて」

 「……うーん、困ったな…」

 

 当てが外れてしまった。こうなると、先ずは泊まれる場所を探さないといけないな……と、そこまで考えたところで、ふとあることに気づいて顔を青ざめる。

 

 (待った、28年前ってことは……持ってる金、使えないじゃん。しかも戸籍とか諸々ないよな!?)

 

 そうなると日々の生活すらままならない。元の時代に戻るどころか野垂れ死ぬことになってしまう。流石に飢えまではプリキュアの力でもどうにもならない。

 ……ここは、恥を忍んで頼むしかない。

 

 「な、なあ、事務所の片づけが終わるまででいいから……俺達をここに泊めさせて貰えないか?」

 「は? いや、そんなこと僕に言われても……」

 「頼むよ、俺達この時代には戸籍もなければ使えるお金も持ってないんだ。頼れるのはジェットいや、ジェットさんだけなんだ!」

 「…吾輩からも頼む、ジェット殿!」

 

 俺達二人はソファから降り、土下座の姿勢でジェットに頭を下げる。

 

 「お、おい! やめろよお前ら!」

 「お願いします! ここに居させてください!」

 「お願いする! 必ずや礼はする!」

 

 土下座を始めて数分後、ジェットから許可を貰うことが出来た俺達はキュアット探偵事務所に居候することになった。喜びのあまりジェットを高い高いしてしまい、怒られたのは内緒だ。

 

 

 

 

 事務所を片付けるとはいえ、暫くは生活するのだから日用品は必要だろうということで、俺達三人は街に繰り出し買い物をすることとなった。もちろん出資者はジェットだ。

 …と、ここで問題が起こった。なんとジェットはまことみらい市に来たばかりで、この街について何も知らないそうなのだ。俺達も空から見回しただけでどの店が何処にあるのか、は分からないので非常に困った……こういう時、記憶力が良い人が羨ましく思う。

 

 「まあ、片付けに来ただけの妖精(ひと)だし、しょうがないよな」

 

 とりあえず商店街に向かうことになった俺達だったが、その前に見つけたまことみらい市の案内図に立ち寄ることにした。大雑把だが、観光名所や商店街などのスポットが記載されており、ひと先ずはこの地図を見れば何とかなりそうだった。

 

 「商店街は……此処からだと少し遠いな。探偵事務所に帰るのは遅くなりそうだ」

 「こうしてみると、中々広い町であるな……きずな町よりも大きいのではないか?」

 「そうかもな…とりあえず写真撮っとこう」

 

 ネオンを片に乗せながらCCフォンで地図を撮影している最中、ジェットがネオンを見ながら声を掛けてくる。

 

 「ところで…そいつは隠さなくていいのか? 人間に変身できないみたいだし、他の奴らに見られたら騒ぎになるだろ」

 「ん? ああ…ネオンは普通の人には見えないから大丈夫だよ。な?」

 「その通り。吾輩達光の妖精は、適性のある人間しか見えないのである。ジェット殿達は違うのか?」

 「ああ、僕達は普通に人の目には映る。だから身を隠して暮らしている奴らも多い」

 「ふーん……よし、撮影終わりっ」

 「話を聞けよ! 全く…この話は帰ってからにするか」

 「では、出発である!」

 

 ネオンの音頭で俺達は商店街に向かって歩き始めた。

 

 

 

 「………あれって、もしかして……!」

 

 その背中を一人の少女が見つめていた……。

 瞳の中に、小さな妖精を映して。

 

 

 

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