プリキュア歴三年、過去に飛ばされました。 作:村正 ブレード
※追記 ゴウエモンのセリフを一部修正しました。
「は―――?」
「おっと、気付かれちまったか……!」
俺がネオンの警戒の言葉に反応するよりも早く、気取られた大男は鮮やかにみくるの手からペンダントを奪い取った。
「ファントムか!?」
「えっ……あっ! ペンダントが!」
「ハッハッハ! マコトジュエルは頂いて―――「シィッ!」うおっ!」
大男が戦利品を見せつけようとした隙を狙い、顔面に向けて蹴りを放つが大男にあっさり避けられる。追撃の拳を幾つか放つも、すべて回避され距離を取られてしまう。
「おっと…危ねぇ危ねぇ」
「チッ…見た目よりすばしっこい奴だ……なら」
「まさかお前は!」
次の攻撃に移るために構えを取ろうとした俺の横でジェットが驚愕の声を上げる。その声に反応し、大男は見せつけるように見得を切りながら言う。
「そのまさかよ! オレは“怪盗団ファントム”が一、ゴウエモン! さっきは言いそびれたんでもう一度言うが、このマコトジュエルはオレが頂いていく!」
「なっ…わたしのペンダントを返して!」
「そいつは無理な相談って奴だ」
「で……ファントムってなんだ?」
ゴウエモンはみくるの懇願を払い除ける中、俺は奴を知っているらしいジェットに声を掛ける。
「アイツら怪盗団ファントムはマコトジュエルを狙い盗みを働く、僕達キュアット探偵事務所の宿敵だ!」
「……えっ? ジェットさん、今なんて…」
「とりあえず敵って事だな、了解!」
ジェットの回答に納得した俺がゴウエモンに向けて走り出すと、ゴウエモンは跳び上がり、驚異的な跳躍力でビルの屋上に着地した。
「よっと! オマエを相手するのはちと疲れそうなんで遠慮させてもらうぜ。あばよ!」
ゴウエモンはそのまま身を翻すと、その場から逃げ出して視界から消えていった。
「待て!」
「ネオン!」
俺の言葉に反応したネオンが手を翳すと、俺の身体を赤い光が包み全身の力が増幅される。近くの路地裏まで飛び込んだ俺は強化された脚力を使って三角飛びの要領でビルの壁を登り、屋上まで跳び上がった。
「す、すごい…!」
「あいつ…本当に人間か…!?」
「こっちは任せろ! 二人は地上から追いかけてきてくれ!」
俺は二人に伝言を済ませると、ゴウエモンを追いかけ始めた。
「おい! 一人で行くなんて危険だ!」
「吾輩が先導する! 着いてくるのである!」
「わ、分かりました!」
「ゴウエモン!」
三人が動き出したのを視ながら、遠ざかる背中に向けて声を張り上げる。俺の声に気付いたゴウエモンがこちらを振り返るとその赤い瞳を見開いた。
「追ってきやがったか! これでも喰らいな!」
ゴウエモンは手に持った扇子を広げると、そこから桜色の光弾を放ってくる。頭部を狙って放たれたそれを紙一重で回避し距離を詰めていく。
「当たるかこんなもん! さっさと諦めてペンダントを渡せ!」
「そいつは無理な相談だな! そらよっ!」
俺の言葉を意に返さないゴウエモンは複数の光弾を放ってくるが、当たらぬ玉を避けてやる道理もなし。光弾の雨を潜り抜けた先、ビルの縁に脚を掛けていたゴウエモンに向かって跳躍し飛び蹴りを放つ。
「何っ!? ぐおっ!」
「捕まえたっ!」
飛び蹴りはゴウエモンの背中を捉え、それによってバランスを崩したゴウエモンと一緒に地上へ落下する。
「ぐえっ!」
「っと」
体勢を崩したゴウエモンが腹から落下し苦痛の声を上げるが、俺は直前で
「包ーーーっ!」
「無事か!?」
「来たか。助かったぜネオン。二人も……」
「ハァッ…! ハァッ…! ぇほっ! げほっ! や……やっと追いつけました…!」
「だ、大丈夫か…?」
落下したゴウエモンより重症なみくるに心配の声を掛けていると、ゴウエモンが起き上がった。
「ぐぐぐ……っ! な、中々やるじゃねぇか」
「観念しろ、もう逃げられないぞ!」
「さっさと諦めてペンダントを渡すのが身のためだ」
「……くくっ、そうはいかねぇな」
降伏勧告を前に、ゴウエモンは不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。まだ逃げる算段があるというのだろうか。今ならネオンもいる、逃げようとしたところを潰すのは容易ーーー。
(……いや、この口ぶりは…!)
「二人ともここから離れろ!」
「……えっ?」「何を言って…」
「ハッーーー! 嘘よ、覆え! 来やがれ、ハンニンダー!」
ゴウエモンは禍々しい力をペンダントに注ぎ込む。その力で塗り潰されたペンダントーーー正確にはマコトジュエルが、その姿を怪物へと変貌させていく。
ゴウエモンの倍以上はある巨躯、時計を思わせる容貌に黒いマントを羽織ったその姿は、俺に否応にも過去の敵を想起させた。
「ハンニンダー!」
「なんだ、コイツは…!」
「ひっ……!」
怪物ーーー“ハンニンダー”の雄叫びが空気を震わせ、威圧感を俺達に与えてくる。ジェットの愕然とした言葉に呼応する様に、ゴウエモンは高らかにそれを謳い上げ始める。
「こいつはハンニンダー! “ウソノワール”様が開発した新兵器、その試作品だ! どうだこの重厚感、その美しさ! ウソノワール様の芸術的センスが遺憾無く発揮されている!」
「ハン! ニン! ダー!」
ハンニンダーはゴウエモンの言葉に合わせてポージングを取ってアピールする。傍目から見ればシュールな光景だが、側で浴びる者に取ってその強さの誇示は恐怖感を高めるスパイスでしか無い。
「ぅ…あぁ…!」
「くっ……!」
俺とネオンは兎も角二人、特にみくるの方はかなり恐怖で震えている様子だ。ジェットの方も彼女よりマシとはいえ、額に汗を浮かべ警戒心を露わにしている。
(この状況で戦うのは不味いな…一先ず二人を安全な場所に―――)
「次はハンニンダーの力をその身で味わってもらうぜ。やっちまえ、ハンニンダー!」
「ハンニンダー!」
ゴウエモンは無慈悲にもハンニンダーを放って来た。ハンニンダーはその拳を構えると、俺に向かって振り下ろしてくる。
「っぶねぇ!」
巨体に見合わぬ速度で繰り出されたパンチをなんとか回避したが、その背後にあった建物は無事では済まなかった。巨大な衝突音と共に、店が破壊されて瓦礫が飛び散る。
「夜灯さん!」
「大丈夫! ネオン、民間人は!?」
「無事である、というか居ない! 吾輩達はハンニンダーが現れた瞬間から別空間に隔離されておる!」
「そうか、それは良い事聞いたな! っとぉ!」
ネオンの報告に安藤している隙を突かれてハンニンダーの回し蹴りが襲いかかってくるも、咄嗟に身体を伏せた事で回避できた。
が、そこからが問題だった。蹴撃によって発生した衝撃波が突風を引き起こし、離れた位置にいた二人に襲いかかったのだ。
「きゃあああっ!!」
「うわあっ…!」
「みくる! ジェット!」
衝撃波をモロに喰らった二人。ジェットはなんとか姿勢を崩さずにいられたものの、みくるは尻餅を着いてしまった。
その隙を見逃す相手では無く、ハンニンダーの視線が二人に向いた。
「ハンニンダー…!」
「ひぃ…っ!?」
「不っ味い、逃げろ二人とも!」
「くそっ……!? 何してる! 早く動け!」
回避行動を取ろうとしたジェットが、動けないままのみくるに気付いた。それに駆け寄ろうとするが、それよりもハンニンダーの方が早く動いた。
(早く…っ、はやく、逃げないと…!)
「ハンニンダー!」
「うぁ…っ!? きゃあああっ!!?」
「っそ、間に合え! ネオン!」
ハンニンダーの一撃がみくるに襲いかかる。みくるはなんとか防御姿勢を取るもその程度、ハンニンダーにとっては紙一枚より薄い防壁でしか無い。
バキバキッ
「ぐ…っ、ぁぁ…っ!」
「夜灯さんっ!?」
青い光を纏った俺はなんとかみくるを抱える事が出来たものの、回避しきれず右脚にハンニンダーの攻撃が当たる。建物を破壊するほどの威力を持ったパンチを耐えられる筈もなく、骨や筋肉が破壊される音と共に吹き飛ばされた。
みくるを抱えたままの俺はごろごろと転がった後、店と店の間の壁面に激突した。
「ぐ……っ! 痛ぅ…! 無事か、みくる…っ!?」
「あ、あぁ…っ! そんな、夜灯さん……っ!」
「ハッハッハ! その脚じゃもう動けねぇだろう! 止めを刺せハンニンダー!」
「ハンニンダー!」
ハンニンダーが追撃するべく動き出したその時、俺達の前にジェットが立ち塞がった。
「オープン! “プリキットライト”!」
「うおっ…!?」「ハンニンダーッ!?」
ジェットの手に現れたアイテムから眩い光が放たれ、ゴウエモンとハンニンダーの目を眩ませる。
「……逃げられたか。だが、あの脚じゃそう遠くまで逃げられない筈だ、引き摺り出せハンニンダー!」
「ハンニンッ、ダー!」
一瞬の隙を突いて俺達は、なんとか路地裏に逃げ込む事が出来た。そう遠くない位置で、ハンニンダーの声と破壊音が響いてくる。
「…っ! た、助かったぜジェット…っ! 恩に切るよ…っ」
「バカ、そんな事言ってる場合か!?」
ジェットに肩を貸してもらっていた俺は、壁に背を預けながら滑り落ちる様に座り込んだ。絶えず襲ってくる右脚の激痛で脂汗を浮かべていると、みくるが悲痛な顔で駆け寄ってくる。
「あ、あぁ……っ、ご、ごめんなさい夜灯さん…っ! わ、わたしの所為で……っ、あ、足が…!」
「へ、平気平気…! 君に怪我がなくて良かった…っ! ぐっ!?」
「包!」
涙を流し謝罪の言葉を吐くみくるに強がって見せるも、止まない激痛で苦痛の声を上げてしまう。
「強がりはよせ! その傷で平気なわけ無いだろうが!? 待ってろ、直ぐに救急箱を…!」
「待て…っ! 今動いたらアイツらに見つかる!」
「だけど!」
路地裏から出ようとしたジェットの腕を掴んで引き留めるが、力が入らない俺の腕では簡単に振り解かれてしまう。その状況の中、ネオンが俺の脚に寄って来た。
「大丈夫だ…っ! ネオン、頼めるか…っ?」
「うむ! 吾輩に任せよ!」
「えっ…ネオンさん、一体何を…!?」
ネオンの掌から、緑色の光が放たれて俺の右脚を包んでいく。その修復の力を司る光は、瞬く間に俺のぐちゃぐちゃの脚を治していく。一分と待たずに収まった光の後には、傷ひとつない脚が残った。試しに脚を屈伸させてみるが痛みは感じない。
「ふぅーー……っ」
「…えっ? 足が治った?!」
「どういう事だ…!? 何をしたんだ!?」
「吾輩達の力で包の脚を治したのだ。痛みはあるか?」
「全くなし、動ける!」
目の前で起きた超常現象にみくるとジェットは呆気に取られているが、直ぐに正気を取り戻して心配の声をかけてくる。
「ほ、本当に大丈夫なんですか…!?」
「痩せ我慢してる訳じゃないよな…!?」
「今度こそ平気だ、心配無用! それよりも…」
路地裏から顔を出し、破壊活動を続けるハンニンダーを見つける。アレをなんとかすることの方が重要だ。俺に続く形でハンニンダーを見るジェットが口を開いた。
「怪我が治ったのは良いが、これからどうする……このままじゃマコトジュエルが…じゃない、逃げる事さえ出来ないぞ」
「…………っ」
「包、やはりここは吾輩達が……」
「ああ……」
ネオンの言葉に頷き暴れるハンニンダーの動きを観察する。攻撃手段は今のところパンチとキックのみ。耐久性は不明だが、パワーはそこそこでスピードは生身の俺でなんとか回避できる位、特殊能力の有無は不明。ゴウエモンの方は観戦だけで今のところ何かする様子はない。
(…まあ、いけるな。初見の相手だから警戒したけど、よくよく考えたらネタマシーを相手するのとさほど変わらない)
「……よし、二人はここで―――」
勝算を固めて路地から出ようとしたその時みくるが俺の腕を掴んで止めていた。
「……みくる?」
「…も、もうペンダントは大丈夫ですから…っ。は、早くここを離れましょう…! また、あんな怪我をして欲しくありません…!」
そう言って腕にしがみつくみくるの声は震えている。命の危険に晒され恐怖を感じながらも、こちらの身を案じているのだ。
その健気な姿を見て、俺は弱かった昔の自分を思い出した。
俺は今日の出来事を、彼女にとっての“悪い思い出”で終わらせて欲しくはなかった。
「……心配しなくても大丈夫だ、君のペンダントは必ず取り戻してくるから、安心して待っててくれ。ジェット、みくるを頼む」
「えっ……」
「ッおい、待て!」
安心させるように笑い、みくるの頭を撫でて立ち上がる。俺の目論見に気付いたジェットの制止を無視し、足音を立てながらゴウエモンとハンニンダーの方へと向かう。
「ん? ……なんだ、いつの間に動ける様に…それよりも、まだ逃げてなかったのか」
「ハンニンダー?」
「―――ゴウエモン!
そのハンニンダーを消してペンダントを返し、もう悪事を働かないと誓えるなら…見逃してやる!」
ハンニンダーとゴウエモンを見つめながら啖呵を切る。ネオンもまた俺の隣で気炎を発し、やる気は十分だ。
『どんな悪いことをしてきた人にだって、やり直す機会はきっとあると思うの』
相棒のプリキュアの言葉を思い出す。いつも優しかった彼女は、必ず相手に改心の機会を与えていた。それを真似していたらいつの間にか、俺の中にも染み付いてしまったのだ。
「…さっきまで逃げてた奴が何を言ってやがる!? 悪いが、マコトジュエルはオレたちファントムに必要不可欠なもの。はいそうですかと返すわけにはいかねぇな。返して欲しけりゃ、あ奪い返して見せろぉ!」
「ハンニンダー!」
思い出に耽っている間にも時間は進み、ゴウエモンはこちらの言葉を意に返す事なく不敵な笑みを浮かべて大見得を切り、ハンニンダーもそれに合わせて雄叫びを上げた。どうやら敵は俺達を無力だと油断してくれているらしい。
(やっぱ、そう上手くはいかないか……)
ならもう、話は簡単だ。
ぶちのめして奪い返してやればいい。
「そうか、わかった」
「やっちまえ、ハンニンダー! 今度こそ止めを刺せ!」
「ハンニンダー!」
ハンニンダーが一瞬で目の前に現れ、巨大な拳が眼前に迫る。
「夜灯さんっ! 危ない!」
「逃げろ!」
「大丈夫だ、みくる、ジェット―――」
背後で心配する二人の声を聞きながら、前に翳したCCフォンのチェンジアプリを起動する。
「―――怖い怪物は、俺がやっつけてやる」
『笑顔プリーズ!』
「往くぞ、吾が騎士!」
インカメラに写る自分の姿を確認してシャッターを切ると、視界は住宅街から虹光の世界に切り替わる。
ネオンが姿を変えた“ブラックロストーン”を掴み、CCフォンにセットし口上を謳う。
「プリキュア! クロスチェンジ!」
『クロスチェンジ! オーロラ!』
ネオンが操るCCフォンが手から離れ、全身を納めてシャッターを切る。
ネオンと俺が一つに重なり、頭から爪先までが光に包まれる。光が弾けるように消え、『私』に変身する。瞳の色は紫から赤に変わり、短い黒髪は腰まで伸びてウェーブがかかり、半ばからオーロラ色に変わっていく。
瞬く間にシャッター音が鳴り続け、姿が変わっていく。
肩甲骨がざっくり縦に空いた貴族服とドレスの合いの子デザインのトップス、リボンが装飾されたひらひらのミニスカートを履く。
黒いアームカバーが手の甲まで伸び、甲には先が尖った十字マークの意匠。
太腿からは白いニーソが伸び、その先には黒いガラスヒール。
耳には月を象ったイヤリングに頭部には五本角の王冠を象った黄金のカチューシャ。ロングヘアはポニーテールに纏められる。
最後に左肩からオーロラ色のクリアマントが形成され、CCフォンが腰のクリアポーチに収まる。
変身は完了した。
かつて、或いは遙か未来で、闇の世界からの侵略者と戦った人間界の戦士の一人、極光の名を持つ黒きプリキュア―――。
「夜空を彩る神秘のベール! キュアオーロラ!」
「ハンニンダー!?」
「え、え? 夜灯さん、女の子だったんですか!?」
「あれは…プリキュア!?」
プリキュアに変身した姿を見て、三者三様に驚愕の声を上げる。注目の視線を浴びながら、私は久しぶりのちゃんとした変身を確かめる様に両手を握ったり開いていた。現代でのアレはノーカンだ。
「一人で変身するのも久しぶり…懐かしい」
「また共に戦えて嬉しく思うぞ、オーロラ」
「鈍ってないといいけどね」
ネオンと軽いやり取りをしていると、ただ一人フリーズしていたゴウエモンが口を開いた。
「な、何者だ! オマエは!」
「ん? ああ…そうね…」
聞かれたからには答えてあげるのが世の情け。とはいっても此処にはチームの仲間もいないし、元の名前を名乗るのは違う気がする。
『妖精を連れているということは…もしかして! キュアット探偵事務所の名探偵ですか!?』
『あれは…プリキュア!?』
みくるとジェットの言葉を思い出し……ひとつ、名前が思い浮かんだ。
勇気と安心感を与える為には、やっぱり肖るのが大切だと思う。
「私は………名探偵プリキュア!
…そう名乗らせてもらうわ」
「……名探偵…プリキュア…! やっぱり……!」
「……そうか、オマエが! ロンドンの奴らめ、新しいプリキュアを寄越したみたいだな!」
勝手に使った事は後で会った時に謝っておくとして、みくるの心象はいい感じみたい。逸れた思考を戻し、私はゴウエモンとハンニンダーを指差して告げる。
「さあ、魔法の解ける時間よ」
「…面白ぇ! やれ、ハンニンダー!」
「ハンニンダー!」
ハンニンダーが先程の焼き直しの様に殴りかかってくるが、先程よりもずっとスローだ。半身にして交わすと、間髪入れずに反対の拳を放ってくるが両腕をクロスさせて防く。三度目のパンチを私は片手で受け止めて掴んだ。
「ハ、ハンニンダー!?」
「大したことないわね……お返しよ!」
空いた拳で動きを止めたハンニンダーの腹部を殴り返し、ゴウエモンに向かって吹き飛ばす。
「うおおっ!?」
「ハ、ハンニンダー…」
ゴウエモンは向かってくるハンニンダーの巨体に驚くも、両腕でしっかり受け止めて見せた。ゴウエモンは眼を回すハンニンダーを押し返すと、強い口調で鼓舞する。
「オマエの力はそんなもんじゃねぇ筈だ! ハンニンダー!」
「! ハンニンダー!!」
ハンニンダーが自らの顔にある時計の針を時計回りにグルグルと回転させる。先ほどの何倍もの速度で回転し始めた針に連動するようにハンニンダーの動きもブレていく。
(…来る!)
「ハンニンダー!」
咄嗟に両腕を眼前でクロスさせると、その瞬間にハンニンダーの拳がヒットする。先ほど受け止めた一撃よりも重いパンチに後退りする。反撃に回し蹴りを放つも、ハンニンダーはすでに姿を消していた。
「消えた!?」
「いや違う、速すぎるんだ!」
ジェットの推測は正しい。あのハンニンダーは加速能力を持っているようで、消えたと思った瞬間からずっと私の周りを駆け回っている。巨大な足音が響いて地面や壁に大きな足跡が付いていく。
ベースにした物体を基にした特殊能力の発露。これがハンニンダーの…いや、マコトジュエルの力か。
背後で拳を振りかぶるハンニンダーを察知しガードを合わせるも、次の瞬間には別の方向で蹴りを放つハンニンダーの姿。その攻撃も防いで見せるが、ハンニンダーの攻撃の雨は止まない。あらゆる方向から波状攻撃を繰り出してくる。
「チッ…」
「夜灯さん…! ど、どうしようジェットさん! 防戦一方よ!」
「……くそッ! 僕には見えない! これじゃサポートしようにも……!」
「ハーッハッハ! どうだ! これがウソノワール様が開発したハンニンダーの力だ!」
「ハンニンダー!」
頭部を狙って放たれたハンニンダーのパンチを両腕で掴み取る。巨大な拳が眼前で静止し、次の動きに移ろうとしていたハンニンダーがつんのめる。
「ハンッ!?」
(……よし、もう目が慣れた。瞬間移動よりはよっぽど
「ネオン、青」
「承知。
私の体を青い光が包み、身体が軽くなって周囲がスローに見えるようになった。瞬間、ハンニンダーを引き寄せてミドルキックを叩き込む。
加速によって威力を増した一撃でハンニンダーを吹き飛ばした。
「ハンニンダー!?」
「何っ!?」
「やった!」
ハンニンダーはたたらを踏むと、驚いたようにこちらを見つめてくる。如何にも感情があります、って反応をするわね……こういうのはどうかしら。
「―――そんなにスピードに自信があるなら、勝負してあげましょうか?」
意地の悪そうな笑顔を作り指をクイクイと曲げてハンニンダーを挑発すると、思った通りハンニンダーは怒りの表情を浮かべ睨みつけてくる。
「……ハンニンダー!」
「……フッ!」
ハンニンダーと私は同時に動き出した。ハンニンダーは拳を振りかぶり、その長いリーチで先制攻撃を仕掛けてきたが、私は紙一重で攻撃を交わしハイキックでハンニンダーを蹴り飛ばした。
「ハンニ゛ンッ…!」
「私の勝ちね、ノロマさん」
ハンニンダーは吹き飛び、壁に叩きつけられた。衝撃とダメージで加速能力が解除されたハンニンダーに対し、ゴウエモンは更なる檄を飛ばした。
「ぐぐぐ…っ、ハンニンダー! オマエの奥の手を見せてやれ!」
「ハンニン、ダー!!」
ハンニンダーは負けじと雄叫びを上げると、最後の力を込めて時計の針を投げつけてきた。ブーメランのように回転した針は真っ直ぐこちらに向かってきており、風圧でガラスが割れるほどの勢いで迫ってくる。
青の力を発動している私なら回避は容易だったが……。背後にチラリと視線を向けると、体を覗かせながらこちらを見つめるみくるとジェットの姿が見えた。
「オーロラ!」
「分かってるわ」
腰のCCフォンをクリアポーチ越しにタップし、ツールアプリを開く。
『綺麗にアップ!』
「オーロライトセイバー!」
カメラ越しに投影された光の剣を手に取ると、光の剣はガラスのような輝きを放つ剣に姿を変えた。すかさずセイバーの峰にタッチし、
「【オーロラカーテン】!」
カーテンが回転する針を包む様に受け止めると、程なくして勢いを殺された針は地面に音を立てて転がった。
「ハ、ハンニンダー!?!?」
「すごい…! あの攻撃を受け止めた!」
「当然、この程度朝飯前である!」
「これで手札はおしまい? それなら、こちらの番よ」
右腕でセイバーを逆手に持ち、柄頭にCCフォンを取り付けフィニッシュアプリを起動。CCフォンのレンズでハンニンダーを捉える。
『笑顔プリーズ!』
「ハン……」
カシャ!
「ハ、ハンニンダー?!」
攻撃を予期し回避行動に移ろうとしたハンニンダーをカメラに納めてシャッターを切れば、ハンニンダーはその動きを止める。セイバーを順手に持ち変え、体の前で峰に手を添えて左手を振り抜くと、セイバーは応えるように七色の力を全て引き出した。
そのまま虹色に光り輝くセイバーで空間に円を描くと、その軌跡をなぞる様に虹のサークルが形作られる。右手を引き絞り、渾身の力を解放する。これが私の必殺技。
「プリキュア! 【オーロラレインボーストーム】!」
その叫びと共に、私はセイバーを突き出した。剣先から放たれた虹色の光はサークルを通って竜巻に変わり、ハンニンダーを貫くように襲いかかる。
「これにて終曲!」
「ハンニンダー……」
背後を振り返りセイバーを払うと剣に纏わる光は弾ける様に消え、ハンニンダーの体を浄化の光が包み込んだ。
ハンニンダーの亡骸から現れたペンダントを丁寧に掌に納めた後、ゴウエモンに向き直る。
「ペンダントは返してもらったわ、ゴウエモン」
「ほぉ…ハンニンダーを倒したその力…名探偵プリキュアを名乗るだけはある様だな」
「ふん! 負け惜しみは一端であるな!」
ハンニンダーを浄化されても焦った様子を見せないゴウエモンに剣先を突きつける。ここからが本番だ。
「次は貴方の…」
「見事だ!」
「…は?」
「そのマコトジュエルはオマエにやる。此処は大人しく退くとするぜ!」
ゴウエモンの潔い発言に勢いを削がれ剣先を下ろしていると、ゴウエモンは扇子を振り桜吹雪に包まれる。
「名探偵プリキュア、キュアオーロラ! その名前覚えておく。オレたち怪盗団ファントムの邪魔をするのなら、また会おう!」
「……消えた」
「思ったよりも潔い奴であるな」
ゴウエモンが消えると、破壊された商店街が元に戻っていく。怪盗団らしい周到さに評価を改めつつ、二人の元へ歩き出す。
「よ、夜灯さん!」
「みくる、ジェット」
「無事か!? ……その姿、やっぱりプリキュアなんだな」
「まあね」
ジェットに返答と共にウィンクするも、特に反応はなかった。それよりも、と目をキラキラさせているみくるの方に向くと、初めて会った時よりテンション高めのみくるが口を開く。
「やっぱり、夜灯さんは名探偵プリキュアだったんですね!」
「う~んと、まあ、プリキュアではあるわね。というかプリキュアの存在は知ってたのね」
「はい! わたしが憧れていたのも名探偵プリキュアでしたから! それよりも、どうして噓なんてついていたんですか!? わたし勘違いして申し訳ない気持ちになったのに! ひどいですよ!」
「えぇ……そこまで言う?」
「……あっ! そ、そうじゃなくて……、心配したんですよ!? いきなり飛び出していったりして―――」
笑顔になったりプンプン怒り出したり、かと思えば私を案じるような表情をしたりと、ちょっとおかしい様子のみくるは矢継ぎ早に話し続けていき、話を終える頃には肩で息をしていた。
「ハァ…っ、ハァ…っ!」
「…ねぇ、みくる?」
「ハァ…っ、な、なんですか…?」
「もう、怖くはない?」
「……え?」
みくるを見上げるようにしゃがみ込み、上目遣いでみくるを見つめる。みくるの表情には先ほどまであった恐怖の感情は見当たらず元気を取り戻しているようにも見える。それでも、やっぱり彼女の口から聞きたかった。
「……はい、おかげさまで。震えも止まっちゃいました」
「あら、それなら良かった。骨を折った甲斐があったわ」
「夜灯さん、冗談でも面白くないですよ……」
「大丈夫、見てたでしょ? 私強いんだから。次に襲われた時も必ず助けてあげるから安心してね。それで……」
「……それで?」
「いつか、あなたが名探偵になった時に私を助けてね」
私の言葉にみくるは一瞬泣きそうな顔になるも、その言葉に弾ける笑顔で答えてくれた。
「……っはい! 必ず!」
その笑顔が、私にとって一番の報酬だった。
みくると別れ、事務所が見えてきた頃。既に日没模様となった景色の中でジェットが口を開く。
「……なあ」
「ん、なんだジェット」
「お前、本当に名探偵プリキュアになる気はないか」
真剣な気配で問うてくるジェットに顔を向けると、やはりというかふざけた様子は見られない。
「……その、あれは半分悪ふざけのつもりだったんだが」
「僕は本気だ。些細な情報から真実を導き出す推理力に、ハンニンダーを倒した実力。無茶はする奴だが…名探偵プリキュアをやるのに申し分ないと思ってる」
「あれ推理じゃないんだけどな……それに、事務所畳むんじゃ無かったのかよ」
「あれは元いた名探偵プリキュアがいなくなったからだ。お前がやってくれるならその必要も無くなる…それに、お前にとっても悪い話じゃない筈だ」
「…なんで、そりゃ下宿に引け目は感じなくなるけどよ」
「お前たちが元の世界に戻る方法が見つかるかもしれない」
その言葉を聞いて足が止まる。
「……どう言う事だ」
「キュアット探偵事務所の使命は嘘を暴いて止めることと、ファントムからマコトジュエルを守ることだ。そうすれば自然とマコトジュエルを集める事になる」
「……マコトジュエルを集めて力を使えば、時空を超えることだって出来るかもしれないって事か」
「ああ、そうだ……もちろん、危険は伴う。今日みたいに大怪我を負うかもしれない……だけど、僕には…僕達には、お前達の力が必要なんだ」
「おお! まことか! 包、この話受けるべきであると吾輩は考えておるのだが!?」
ネオンのはしゃぐ姿を見ながら、少し考えてみる。ジェットが嘘を付いているとは思えないし、ハンニンダーとそれを生み出したゴウエモン達ファントムの力を見れば、マコトジュエルが持つ力は疑いようもない。探偵をやっていれば、自ずと奴等とも対峙する事になることは想像に難くない。
ジェットの言う様に、それがマコトジュエルを集める事にも繋がるだろう。
それに……。
『ねぇ、包君。わたしね―――』
元の時代に残してきた事を考えれば、答えは一つだった。
「……よし。ジェット、その話受けた。俺、名探偵プリキュアになるよ」
「本当か!」
「ま、困っている人を見過ごすわけにはいかないしな。探偵をやるついでに、ファントムを倒してやるさ……。元の世界に戻る方法は、その後見つければいい」
「……ありがとう」
「良くぞ言った包!」
ジェットに向けて手を差し出すと、ネオンは俺の手に重ねるように手を添えた。
「これからよろしくな、ジェット。俺の事は『お前』じゃなくて包って呼んでくれ」
「…なら、そっちも呼び捨てじゃなくて相応しい呼び方にしろよな」
「………ジェット所長とか?」
「その呼び方はやめろ。お前が事務所の所長になるんだから」
「えぇ…じゃあジェット先輩で」
「よし、それなら良い」
「ジェット殿! 吾輩の事は気軽にネオンと呼ぶが良い!」
こうして俺たち三人は握手を交わし、事務所に帰って歓迎パーティーを開いて過ごした。
「……そういえば、アイツのペンダントに宿ってたマコトジュエルはどうした?」
「え? そのままだけど」
「は!? 何でだよ」
「………なんとなく、みくるが持っていた方が良いと思ったんだ」
俺が探偵として数々の事件を解決し、新たに加わった名探偵プリキュア達と共にファントムと戦う事になるのは、もう少し先の話だ。
一九九九年一の月 虚空より 黒き戦士が現れる その者 真実を暴くものとなり 必ずや大王の誕生を妨げるだろう
翌朝。
キュアット探偵事務所の応接室にあるソファで眠っていた俺は、扉の開く音で目を覚ました。
バァン!
「うわっ! 朝っぱらからなんだよ!?」
「夜灯さん! いえ先生! 私を、キュアット探偵事務所に入れてください!」
「えぇ……昨日の今日で?」
ピンク色の探偵衣装に身を包んだみくるは、期待に満ちた表情で俺にそう言った。
わたし、小林みくる! この春中学二年生になったの!
今日は待ちに待った探偵テストの日、って思っていたら空から女の子と妖精が降ってきちゃった!
これって、もしかして先生が呼んでくれた試験官!?
よーし、絶対合格して、名探偵になってみせる!
次回、名探偵プリキュア!
『誕生! 名探偵プリキュア!』
その謎、キュアっと解決!