プリキュア歴三年、過去に飛ばされました。   作:村正 ブレード

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 今回、主人公の包の出番は少なめです。
 後、みくるがちょっと可哀そうな目に遭います。

 それはそうと、エクレールが記憶喪失だと判明して、誰が正体か分からなくなりましたね。
 それ以上に、次回予告でくれあが正体じゃないか!? ともなりましたけれども。


誕生! 名探偵プリキュア!

 

 「……すぅぅぅうっ、はぁぁぁぁあっ……」

 

 わたし―――小林みくるは、キュアット探偵事務所の前に立って深呼吸していた。髪だってきちんとセットしてきたし、お気に入りのピンクの探偵服に袖を通して探偵道具も完全装備、正に怖いもの無し! なのだが……。

 

 (大丈夫……大丈夫。今日のために沢山準備して来たんだから)

 

 外側は万全でも、内側―――つまり、心の方はまだ不安でいっぱいだった。先生と出会って数ヶ月、助手としてやっていく中でそれなりに経験を積んできた自信はある。

 それでも、やっぱり、いざとなると色々考えてしまって足踏みしてしまうのがわたしの悪い癖だった。

 探偵事務所の前に来てからずっとこの調子だった。もう約束の時間だって過ぎてしまっているのに。いつもなら、ノックだってせずに中に入っていたのに、何故か今日はそれが出来ないでいた。

 

 「……ん、んんんん〜〜っ! よし! よし!」

 

 頬を叩き、自らを叱咤する。覚悟を決めろ、小林みくる。ここで止まっていたら、いつ迄経っても名探偵には成れないぞ!

 

 「絶対、テストに受かる! おー!」

 

 大きな声を上げて自分を奮い立たせ、その勢いのまま、震える指で()()()()()()()()()()()()()に触れようとする。

 

 

 その瞬間、わたしの頭上で眩い光が溢れ出す。

 

 「ういぃっ!?」

 

 驚いたわたしは、玄関から離れてその光の正体を探ろうとする。光が収まっていく中、僅かに見える影をよく見ようと目を細めたその時、光は弾ける様に立ち消え、その中から、()()()()()()()が現れた。

 

 「うわぁぁあわわあぁぁあっ!!?」

 「ううぅぅえぇえっ!!?」

 

 息つく暇もなく、その少女は叫び声を上げながらわたしに向かって落下してくるが、わたしも思わず大声を出してしまって動けない。

 

 (……はっ!? そうだ、こういう時は……!)

 

 正気に戻ったわたしは少女を受け止める為に、腰に付けた“プリキット”の一つを取ろうと手を伸ばし―――。

 

 「ポォォォチィ!」

 「ぅぐっ!?」

 

 ―――その前に、大きな風船の様なものに押し潰された。衝撃と圧迫感により目を回すわたしの耳に、ほんの僅かだが声が聞こえてきた。

 

 「な、何なのぉ……」

 「ポチ!」

 「これの所為!? もうどうなってるの!? 訳わからないんだけど〜!?」

 

 段々と意識がはっきりしていき、遂に覚醒したわたしの視界に先程の少女と()()の姿が映った。飛び起きたわたしはその勢いのまま声を上げる。

 

 「妖精だっ!?」

 「ポチ?」

 

 わたしの声を聞いた少女は眼を瞬かせ、妖精は鳴き声を上げる。間違いない!

 

 「妖精と一緒ということは……! キュアット探偵事務所の名探偵ですね!? ……あれ?」

 「ぇ?」

 

 デジャブを感じる言葉を吐いたわたしは、その直ぐ後で首を傾げてしまう。

 今まで事務所で過ごす中で少女の顔に見覚えは無かったし、それにもう先生がいるのに、名探偵だったとしても何故ここに居るのだろうか。

 

 「あ、あのー?」

 (……………はっ! もしや! 彼女は探偵テストのために派遣されたロンドンの名探偵!? 先生がわたしの為に呼んでくれた、とか!?

  ……ん? じゃあ何で空から降って来たんだろう……実は先生にはわたしが遅刻する事が分かっていて、態とこんな登場の仕方をしてもらったとか? ありえそうね…先生って以外と―――)

 「あのっ! 聞こえてる!?」

 「わぁっ!? すみません!」

 

 すっかり思考の渦に呑まれていたわたしを、少女の大きな声が引き戻した。思わず謝ってしまったわたしは、咳払いを一つして気を取り直して自己紹介をする。

 

 「…申し遅れました。わたし、小林みくるです」

 「私“明智あんな”! ってぇ、そうじゃない! 妖精って何!? 部屋に居たのにどうして此処に!?」

 

 明智あんなと名乗った少女は、何が何やら分からないといった様子で訴えかけてくる。その後もわーわーと騒ぐあんなと妖精の声を聞きながら、一つの閃きが頭を過る。

 

 (もしかして、探偵テストはもう始まっている?)

 

 さっきの考えが正しければ目の前にいるあんなは探偵テストの試験官、その彼女があからさまに謎を提示しているこの状況。即ち、彼女の正体を探る事が第一のテスト、という事を意味するのではないか?

 

 (それなら……!)

 「もぉーっ!「お答えしましょう!」ん?」

 

 こういうシチュエーションは既に想定済み、謎を解くのはお茶の子さいさいだ。わたしは自信満々に見えるようにアピールしながら、事前に考えていた方法で推理を始めようとする。

 

 「かの有名な探偵、“シャーロック・ホームズ”は、靴の汚れや傷を見て何処から来たのか言い当てます! 貴女は、ずばり―――!」

 

 わたしはそこまで言ってから、取り出したルーペを手にあんなの足元を覗き込む。拡大された視界には予想していた物は無く、純白の靴下のみが写し出されていた。

 

 「くつ……履いてなぁーい!?

 

 

 

 場所は変わって靴屋さん。

 

 靴下のままでは良くないと考えたわたし達は事務所から移動し、あんなに靴を選んでもらっていた。その間も、わたしは心の中での考え事が止まなかった。

 

 (……良かったのかな、事務所から離れて……テストが開始されていたとしても、先生に挨拶もしていないのに……)

 「……ぴったりだ! うーん……ねぇ、どっちが良いと思う?」

 「こっち! ……じゃなーい!」

 

 あんなの提示した茶色とピンクの二つのブーツを見て思わずピンクの方を指差したわたしは、我に返って先程の話の続きを再開する。

 

 「部屋から落ちて来たなんてありえませんよ!」

 「本当だって」

 「ポチポチ!」

 「んー……、ポチポチじゃ分からないよ?」

 

 あんなと妖精のやり取りを聞きながら、わたしは妖精を見つめる。ピンクの犬? 猫? 何の妖精かは判断できないが、離れた空間に一瞬で移動する力を持っている様にはとても見えない。

 

 そう結論付けた証拠は、妖精が咥えたある物だ。

 

 「この子……おしゃぶりをしているし、赤ちゃんですよね? だから喋れないのかと」

 「え? でもさっき……」

 「移動した時に力を使い果たして、赤ちゃんになり喋れなくなったんじゃないでしょうか……? ……はっ! コホン、今の推理でどうでしょう、探偵テスト合格ですか!?」

 

 テストである事を忘れ普段通りに話していたのに気付き、慌てて誤魔化すとあんなは困惑した様子で口を開く。もしかして間違った推理をしてしまっただろうか……と思っていたわたしの耳に思わぬ言葉が入ってくる。

 

 「何? その探偵テストって……?」

 

 まるで何も知らない様な声色で聞いてきたあんなに違和感を覚えるも、すぐに納得した。なるほど、わたしが名探偵を目指すわけについて、あえて知らないふりをしているのだろう。わたしは自身有りげに腰に手を当て、あんなの質問に答える。

 

「―――その質問なら簡単です! 名探偵は……色々な事件を調べて解決し人々を助ける、みんなの…そしてわたしの憧れ! 希望! わたしは、そんな名探偵になる為に探偵テストを受けに来たんです!」

 「……! 名探偵って凄いんだね!」

 

 まるで本心から驚いているような表情をするあんなを見て、わたしは後ろを向いてガッツポーズをする。これで、彼女にもわたしの熱意は伝わった筈だ。この調子でテストを進めていけば……むふふ。

 

 「ポチ…? ポォー……チィ! ポチ!」

 「えっ? わああぁぁっ!?」

 

 口元を緩ませていたわたしの目の前で、突然妖精が光の帯をあんなに巻き付けたかと思えば、そのままあんなを引っ張って店の外に飛び出して行ってしまった。

 ……支払いをまだ済ませていない靴も一緒に。

 

 「……? えっ?」

 

 もしかして、これわたしが払わないといけないやつ?

 

 

 「……あっ! 見つけた!」

 

 店員さんの訝しんだ目に晒されたわたしは、泣く泣く自腹を切って支払いを済ませた後にあんなを追いかけた。幸いと言うべきか、すぐそこの通りで息を切らせた様子のあんなが目に入った。

 

 「ハァ……っ、ハァ……っ。あっ! お金払ってない!!」

 「……靴の代金、建て替えときました」

 「……ありがとう!」

 

 追いついたわたしは、あんなの肩に手を置いて答えると彼女は安堵するようにお礼を伝えてくる。どうやら妖精の動きは彼女にとっても不本意だった様だ。

 

 件の妖精は、自分が原因で起こった問題にお構いなく、わたし達から見て右の建物を指差して鳴いている。

 

 「ポチポチ!」

 「「ん?」」

 

 その先には。

 

 「ここって……」

 「結婚式場?」

 

 

 

 

 一方その頃キュアット探偵事務所の応接室では、一人の青年が険しい顔をしながら忙しない様子で部屋を往復していた。

 

 「…………」

 

 約束の時間を過ぎてからずっと同じ調子の青年を呆れた目で見つめていたジェットは、とうとう痺れを切らして声を掛ける。

 

 「そんなにアイツが心配なら連絡すれば良いだろ」

 「……そうはいってもなぁ……今日はあくまでテストっていう形式な訳で……俺から連絡したり迎えに行くと拗ねるかもしれないだろ? ……もしかして、体調を崩したのか…?」

 「仮にそうであるとしても、みくる殿ならば必ず連絡してくるであろう」

 

 いつになく心配性となった青年の憶測を、紅茶を優雅に飲んでいたネオンが一蹴する。その言葉を受けてもなお、青年の考えは止まらない。

 

 「そうだよな……なら、事件に巻き込まれてるとか……あぁ危険な目に遭ってるとかじゃないよな……いやでも……うーん……うーん……」

 「……はぁぁぁ……包」

 

 ジェットが溜め息と共に名前を呼ぶと、青年―――夜灯包は動きを止めてジェットを見る。

 

 「理由はどうあれ、みくるは事務所には来てないんだ。もう出発の時間が近いし、あいつを待つのはここまでにしておけ」

 「……そうか、もうそんな時間だったのか。……しょうがない、テストは次の機会に持ち越しだな」

 

 ジェットの言葉で踏ん切りが付いたのか、包は逡巡を止めて出発の準備を始める。数分も経たずに旅支度を終えた包はネオンを連れて玄関に立った。

 

 「……じゃあ、行ってくるよジェット先輩。二、三日帰れないと思うから、みくるから連絡来たら教えてくれ」

 「ああ、こっちの事は任せろ。他の依頼が来たら僕の方で止めておく」

 「頼んだ。……ああ、冷蔵庫に作り置きおいてあるからそれ食べてくれ。……いいか、ちゃんと食べろよ? またお菓子ばっか食べて、食べ切れてなかったら―――」

 「わかったわかった、さっさと行け! 飛行機の時間に間に合わないだろ!」

 

 口煩い説教が始まりそうなタイミングで、ジェットは包を押し出して話を強引に打ち切り彼を見送った。

 包が外に出ると、当然だがそこには誰も居ない。

 誰かを探すように視線を彷徨わせた後、観念する様に歩き出した。

 

 

 

 

 少し時間は流れて、わたしとあんなは結婚式場の中にある一室で、花嫁の“想田まり”さんとウェディングプランナーの“幸野さちよ”さんの話を聞いていた。

 

 「実は……式で付けるティアラが失くなったんです」

 「「ええっ!?」」

 

 どうしてこうなったかというと。結婚式場の中に入ったわたし達はロビーで探し物をしているさちよさんを見つけ、更にそこに花嫁姿のまりさんが現れた。二人が何やら話し込んでいる最中に、あんなが二人に声を掛けたのだ。

 

 『あの! 困っている事があるなら、お手伝いします!』

 

 その時あんなの真剣な表情と発した言葉は、わたしの目と耳に残っている。顔は似ても似つかないが、先生が依頼を受けるときにするものにそっくりだったからだ。

 そんな様子を見せたあんなが、わたしと同じく驚いた表情をしたのを見て、脳内に電流が奔る。

 

 (まさか……これが本当の探偵テスト!?)

 

 その閃きの後、悲しみに満ちた表情をするまりさんの方へ一歩踏み出したわたしは、この部屋の全員に聞こえるように宣言した。

 

 「絶対に……わたしが見つけて見せます!」

 

 その後わたし達は、まりさんが最後にティアラを見た後に部屋を出入りした人をさちよさんに呼び出してもらった。その人物とは、さちよさん、花嫁である想田さんを撮影しに来たカメラマンの“宇都見将太”さん、まりさんにお願いがあって来たという、友人である“藤井ともか”さんの三人だ。

 

 「この中に、ティアラを取った犯人がいます!」

 「「「…………」」」

 「そんな! ありえないですよ!?」

 「えっ。……で、ですよね~! ちょっと話を聴いてみようかな~……なんて」

 

 

 わたしは確信と共に三人を指差すもその反応は芳しくない。それどころか失くした本人であるまりさんの口から否定されてしまった。

 咄嗟に出た誤魔化しを口にしながら、わたしはこの場に先生が居なくて良かったと考えていた。仮に居たとしたら、きっと呆れられていたに違いない。

 折角のテストでその様な失態を見られて仕舞えば、不合格は必至。そうなったらわたしは立ち直れなかっただろう。

 気を取り直し、三人それぞれが部屋を訪れた理由を聞いてみると、将太さんは“花嫁であるまりさんの撮影のため”で、ともかさんは“まりさんにお願いがあった”という。その言葉を聞いたあんなは、まりさんに向けて質問を投げかけた。

 

 「お願いって?」

 「ブーケをともかの方に投げて欲しいって……」

 「あっ! ブーケトス!」

 「そう! 花嫁さんのブーケトスを受け取ると、幸せをお裾分けして貰えるの! ずっと憧れだったんだぁ!」

 「お願いってありなんだ……」

 「まり、OKって言ってくれたよね!」

 「ともかが珍しく、遅刻しないで来てくれたから……つい」

 

 ……まあともかさんの気持ちも分からないでもない。わたしも友達の結婚式に参列する事があれば同じ様に頼んでしまうかもしれない。二人の証言を手帳に書き込みつつ、続けてさちよさんに話を聴くと“式の準備のため”に出入りしていたという。

 こうして三人の話を聞いても、特に不審な点やティアラを盗む動機は見当たらない。

 

 (うーん……これだけじゃ何とも……)

 「みんな此処に来た時も同じ服装でしたか?」

 「ええ……。ティアラを隠せるようなものは何も……」

 「そうですか……」

 

 考えあぐねていた所であんなとまりさんの会話が耳に入ってくる。それを聞いて、ふとわたしの目に留まったのは将太さんのハンチング帽だった。もしあの帽子の中にティアラを入れて、外に持ち出したとしたらどうか。

 その事を伝えると、あんながまりさんのものと大きさがほとんど同じだという、代用のティアラを手に持って将太さんに声を掛けた。

 

 「帽子、いいですか?」

 「ああ」

 

 あんなは帽子を受け取ると、ティアラを帽子に当てて大きさを合わせようとするが……。

 

 「駄目だ、入らないよ」

 「……なら、ともかさんのバッグはどう?」

 「……こっちも駄目だね。さちよさんのポーチも……入らないと思う」 

 

 ……結局、全員の手荷物を調べてもティアラが入るスペースは見つからなかった。その後も調査を進めるが決定的な証拠は見つからず、その場はお開きになった。

 

 

 

 「ティアラを持ち出した方法が分かれば、犯人が分かる筈なのに……」

 

 探偵服から着替えたわたしは結婚式場の敷地内にある噴水の縁で座り込み、事件解決の糸口を見つけられなかった事に意気消沈していた。

 

 「その方法が分からない……。わたしって、いつも……」

 

 一人では何も解決できない、半人前の探偵助手のままだ。依頼人であるまりさんにティアラを諦めると口にさせてしまった時のあの悲しそうな表情を思い起こす度に胸が痛んだ。

 

 (先生なら……きっと、こんな事にはならなかったんだろうなぁ)

 

 いつも謙遜しているが、あの人の推理力はわたしの目から見てもかなり高い。先生がこの場に居たら、今頃は犯人が溢した不審点を付いてティアラの居場所を見つけた上、犯人を特定し華麗に事件を解決していただろう。

 

 「みくるちゃん?」

 

 それに比べてわたしはどうだ? 名探偵であるあんなの前で意気込んで見せても、結局は空回りして現場を掻き乱しただけだった。あんなはわたしに何も言わなかったけど、きっと彼女も内心ではわたしの事を、“依頼人を諦めさせるなんて探偵失格だ”と軽蔑していることだろう。

 そんなネガティブな感情がどんどん溢れ出し、わたしの脳内を埋め尽くしていって―――。

 

 「みくるちゃん!」

 「っ!?」

 「……平気?」

 

 手帳から目を離し前を向くと、あんなが気遣うような表情でわたしを見ていた。わたしは彼女の心配そうな瞳を見てつい、彼女に弱音を吐いてしまう。

 

 「分からないんです……これじゃあ、まりさんを笑顔に出来ない……名探偵にだって……」

 「どうして、名探偵になりたいの?」

 

 そう問いかけて来るあんなを見て、やっぱり先生に似ているな、と感じた。優しい顔で、わたしの事を知りたいと訴えかけてくる瞳。

 名探偵になる人は、共通する何かがあるのだろうか、なんて考えてからわたしは立ち上がる。

 

 「わたしも、助けられたから。今度は、わたしが名探偵になって……みんなを助けたい!」

 

 そうだ。ロンドンにいた頃も、先生に出会った時も、わたしは“名探偵”に助けられて来た。きっと、運が良かったんだと思う。だって、困った時に助けてくれる存在が二度も近くに居たんだから。

 次はわたしが、名探偵になって困っている人に手を伸ばす番だと思ったのだ。

 

 「やっぱり凄いんだね! 名探偵なら、ティアラを見つけてまりさんを笑顔に出来るんでしょ?」

 「……ええ、きっと!」

 「だったら成ろうよ、名探偵に!」

 

 わたしの心に火を灯る。これはきっと、あんなからの激励だ。彼女なりに、諦めかけていたわたしに発破をかけてくれているのだ。また名探偵に助けられてしまった。

 

 「一歩踏み出せば、答えはついて来る! 一歩の勇気が答えになる、だよ!」

 「ポチ!」

 

 あんなの一言が、わたしに過去を想起させた。

 あれは探偵助手になってすぐの頃。わたしはある依頼の中で、推理を大きく間違えてしまった事があった。そのミスを引き摺り、事務所に戻ってからも落ち込んでいたわたしに先生が言った。

 

 『みくるは熟考するのに、詰めが甘い所があるよな。なんて言うか……情報が出揃っていない状況でも、推理を始め様とする癖がある感じだ』

 『そう…でしょうか?』

 『うん、きっと事件を解決したい気持ちが強いんだろうな。……俺はそれが悪いとは思わないけど、それじゃドツボに嵌った時大変だろ? だから、そんな時は“自分がまだ調べていない箇所は無いか”を考えてみるのが良いと思うんだ』

 『……それ、考えてないですか?』

 『良いだろ? 長所を活かして短所を埋めるって事さ』

 

 あんなが言っているのは、きっとそれに近い。考えるより、悩むよりも先に、足を動かして思考材料を増やせという事だ。

 

 「もう一度全部調べ直そう!」

 「はい!……うっ」

 

 意気込んだ直後、突然強い風が吹いた拍子にわたしのリボンが一つ外れた。リボンはそのまま植え込みの中に入り込んでしまう。

 あんなは植え込みに近付くと、さっとリボンを手に取って言う。

 

 「今日二回目だ。さっきも植え込みの中にリボンが入って……花?」

 (そういえば、あの時の先生は雪に紛れたマフラーを見つけてたっけ……そうか!)

 

 その1ピースがきっかけとなり、わたしに閃きを授けてくれた。同時にあんなも何か思いついた顔でわたしの方を振り向いた。きっと同じ答えを導き出したのだという確信と共に、わたし達は見つめ合い同じ言葉を口にする。

 

 「「見えた! これが、答えだ!」」

 

 

 犯人は、きっとあの人だ!

 

 

 

 

 わたし達はもう一度、三人に部屋に集まってもらった。

 

 「犯人が分かりました!」

 「「「えっ?」」」

 「一体誰なんだ!?」

 

 将太さんのその言葉の後、わたしとあんなは声を合わせて、犯人を指差す。

 

 「「犯人は……貴女です!」」

 

 その指の先には、ともかさんが居た。彼女はわたし達の言葉に戸惑う表情を見せる。

 

 「えっ? ……やだなぁ、ティアラはポーチに入らなかったでしょ? 外に持ち出せる筈が無いよ」

 「ええ。ティアラはまだこの部屋にあるんです。貴女は、自分にブーケを投げて欲しいとまりさんに頼んで、ティアラをブーケの中に入れた」

 「そして……まりさんからブーケを受け取った後に、ティアラを抜き取るつもりだったんだ!」

 

 わたし達の推理を聞いたともかさんは顔を伏せ、みんなが彼女の方を向く。ティアラを抱えたあんなが隣に戻って来たのを見て一呼吸置き、わたしは話を続けた。

 

 「貴女は……本物のともかさんでは有りませんね?」

 「ええっ!?」

 「…………」

 

 わたしの言葉にまりさんが驚きの声を上げ、あんなもわたしの方を向く。しかし、偽物だと疑われている当の本人は表情を全く変えない。それを見て、わたしは自分の推理が正しかったのだと確証を得られた。

 

 「まりさん、ともかさんはいつも遅刻してこられるんですか?」

 「え? えぇ……昔から、イベントにはよく遅れて来るんです。悪気は無いのは分かっているんですけど……」

 「成る程……つまり、本物のともかさんが“普段しない”行動をとったという事。更に、まりさんのティアラはお母様の結婚式にも使われたという……()()()()()()()()()()

 

 わたしが最後に付け加えた言葉に、ともかさんの肩がピクリと反応する。やはり……彼女は。

 

 「そんな物を盗ろうとするという事は……貴女の正体は、怪盗団ファントムですね!」

 「怪盗団……ファントム?」

 「それって! 巷で話題のあの!?」

 「?? なにそれ……?」

 

 わたしの言葉に大きく驚く三人と、首を傾げるあんな。

 そして、称える様な拍手と共に立ち上がるともかさん、いや怪盗。

 

 「お見事、80点をあげよう。君の師匠なら、()()が誰なのかも当てただろうけど、ね!」

 

 怪盗はともかさんの皮を脱ぎ捨て、その姿を露わす。

 長い緑髪、赤い虹彩の中に十字が描かれた瞳を持った美麗痩躯。

 帽子に付いた薔薇と蝙蝠の様な羽が特徴の怪盗服。

 わたしは、彼の姿と名前を知っている。

 

 「ボクは“ニジー”! 君の推理通り、怪盗団ファントムの怪盗さ。惚れ惚れする変装だったろう?」

 「ニジー……! あんな、下がって!」

 「えっ?」

 

 ティアラを、マコトジュエルを奪われる訳にはいかない……!

 わたしはあんなを庇う様に前に立ち塞がり、迎え撃とうと構えを取る。護身術は先生に叩き込まれている、あんなを逃す位ならわたし一人でだって……!

 

 「おっと、怖い怖い……フッ!」

 

 ニジーは不敵な笑みで背中に手を回すと、軽やかな手付きで何かを放ってくる。わたしは反射的に、目の前に飛んできたそれを払い除けようとする。

 

 ボンッ!!

 

 「わっ!? げほっ、ごほっ!」

 「な、何これ!?」

 

 手に当たった瞬間、煙玉が衝撃で弾けて部屋中に煙幕が張られる。煙を至近距離で浴びたわたしとあんなは激しく咽せて咳き込んだ。

 その隙を付き、ニジーは素早い動きでわたし達の間をすり抜けて行く。

 

 「頂くよ」

 「げほっ、えほっ……あっ! ティアラがない!」

 「しまった!?」

 

 あんなの声を聞いたわたしは後ろを振り向くと、ニジーの姿は無く開かれた窓と風で靡くカーテンだけがあった。

 

 

 

 

 「待てーー!」

 「ん? ふっ……」

 

 ティアラを奪われた事に気付いたわたし達は、森の中を走っていた。

 

 「速い……!」

 

 人間とは思えぬ速さで森を駆けていくニジーに対し、わたし達はその背中に喰らいつくように地を蹴っている。

 以前までのわたしなら直ぐに体力が尽きている状況で走り続けられているのは、先生の提案で始めた早朝ランニングのお蔭だった。

 

 (体力付けておいてよかった…! ありがとうございます、先生!)

 

 だがこのままではそれも時間の問題だ、そう思っていた時にあんなの妖精が光の帯を出現させる。

 

 「ポチーーー!!」

 「ううぅ、わああああ!」

 「っ、これなら!」

 

 光の帯をあんなに巻きつけた妖精は、靴屋で見せた様にあんなを凄い速さで引っ張り、そのまま空を飛んで行こうとする。それを見たわたしは、置いていかれない様力を振り絞ってあんなの腰に抱きついた。

 

 「「うわあああああっっ!!」」

 

 わたし達はニジーを追い越し、森の中の広場に着地する。ニジーもまた広場に足を踏み入れると、立ち止まってわたし達に告げる。

 

 「困ったベイビーだね……」

 「ティアラを返して!」

 「出来ない相談だ。このティアラには、マコトジュエルが宿っているからね」

 「やっぱり…!」

 「マコトジュエル…?」

 

 予想付けていたわたしと、対照的に疑問を口にしたあんな。彼女の言葉を聞いて、ニジーは笑みを浮かべてティアラに手を添え、ライトグリーンのマコトジュエルをその手に収めた。

 

 「花嫁がティアラを大切にする思いが、マコトジュエルを引き寄せたのさ!」

 

 わたしのペンダントの時と同じだ。

 そして現れたマコトジュエルを集めるのが怪盗団ファントムの目的。

 

 「そうだ! ティアラの代わりに、素敵なショーをお見せするよ!」

 「……っ!!」

 

 ニジーのその言葉に予感を感じたわたしは体を硬直させる。

 

 来る……っ!

 

 「嘘よ覆え! 出でよ、ハンニンダー!」

 

 ニジーが薔薇を突き刺す様にしてマコトジュエルに力を注ぎ込むと、ティアラを媒介にその姿を怪物へと変じさせていく。

 大きなマントにシルクハットを纏い、ティアラを象った怪物は世界に自分の存在を示すかの様に産声を上げた。

 

 「ハンニンダー!」

 

 その醜悪な姿を前にしたわたし達は竦み、微かな声を上げるしか出来なかった。その間もニジーは話し続ける。

 

 「ファントムが開発していたハンニンダー、それが遂に完成したのさ! 試作品とは比べ物にならないスピードとパワーを併せ持った優れものだよ。……さぁ、ショータイムだよ、ベイベー!」

 「ハンニン…ダー!」

 

 ニジーの命令を受けたハンニンダーは、腕を振るい斬撃をわたし達に向かって飛ばしてくる。それになんとか反応できたわたしはあんなの前に出て、懐のプリキットを取り出す。

 

 「みくるちゃんっ!?」

 「オープン! “プリキットライト”! やああっ!」

 

 掌サイズのライトを構え、空に円を描く。光の軌道に沿って形作られたエネルギーは盾となり、ハンニンダーの攻撃を受け止めた。

 

 「へぇ……パワーアップしたハンニンダーの攻撃を防ぐなんて、思ったよりやるじゃないか。でも……」

 「ハァ……っ、ハァ……っ!」

 

 ニジーの言葉通り、光の盾は亀裂が走りそのまま消えてしまった。ジェット先輩が護身用にと特別に強化してくれたプリキットライトですら、一度しか耐えられない威力。はたして、わたしはどれだけ持ち堪えられるだろうか。

 

 (怯んじゃダメ! わたしがあんなを守らなきゃいけないのよ…!)

 「くるなら…きなさい! ぜんぶっ、ふせいでやるわ!」

 「ふっ……健気だね、その震えた体で?

 (……?)

 

 気合いを入れて構え直したわたしに向かって、ニジーが嘲笑を浮かべて何か言って来るが、わたしの耳は情報を受け取れなかった。その後もニジーは喋り続けるだけで、ハンニンダーも何もしてこない。

 

 「みくるちゃん、みくるちゃん!

 「はっ、はっ、はぁっ! な、なに? あぶないから、あんなはうしろにさがって……」

 「何言ってるの!? 凄い汗だよ!?」

 「え……?」

 

 あんなの鬼気迫る表情と共に告げられた言葉をなんとか聞き取れたわたしは、そこで漸く自分を俯瞰する事が出来た。冷や汗が止めどなく流れ出し、手足はガタガタと震えている。それに気付いたと同時に、視界がぼやけ始めて身体の力が一気に抜けてしまう。

 

 「みくるちゃん! 大丈夫!?」

 「はっ、はっ、はっ、んぐ…っ、はぁはぁはぁ…!」

 

 倒れ込みそうになったわたしをあんなが受け止める。彼女に感謝を伝えようと口を開くが、わたしの喉は何も発する事が出来なかった。

 

 「貴方、みくるちゃんに何をしたの!?」

 「ボクは何も? 彼女はただ、自分の中にある恐怖に怯えているだけさ。……そういえば君は、奴がいない時にハンニンダーと対峙するのは初めてだったかな?」

 「ぅ、うぅぅ……っ」

 

 わたしの目から涙が溢れ出し、呼吸も浅くなっていく。震えを抑え込もうと両手で肩を抱き竦めるが、身体の震えはどんどん大きくなっていく。

 商店街でハンニンダーを目の前にした時のトラウマがわたしを苦しめていた。考えない様に必死に目を瞑っても、脳内にはハンニンダーの姿がこびり付いて離れない。肥大化された恐怖は、より強固なものとなってわたしを雁字搦めにする。

 

 「哀れなものだ。他人を守ろうと勇気を振り絞って立ち塞がっても、刻み込まれた恐怖と苦痛は掻き消せない」

 「ハンニンダー…」

 「っ来ないで!」

 

 あんなはわたし取り落としたプリキットライトをハンニンダーに向けて構える。それを見たニジーは、何かを思いついた様に声を弾ませた。

 

 「……そうだ! 君達の亡骸を奴に差し出してやろう! 君達の無惨な姿を見れば、さしもの奴もボク達に恐れ慄く筈だ!」

 「「……っ!?」」

 

 ニジーが告げた残酷な提案に、わたしとあんなは揃って顔を歪ませる。

 

 「ふぅっ……! ふぅぅぅぅ……っ」

 「……っ。わたしが、何とかしないと……!」

 「……さ、これでお終いだよ。探偵気取りの真っ赤な偽物に、せめて有終の美を飾らせてあげようじゃないか」

 「ハンニンダー!」

 

 「……本物だよ! みくるちゃんは名探偵になるんだ!」

 「……!」

 

 あんなの一言に、わたしは思わず目を見開いて彼女を見る。

 

 「名探偵……? 流石にあり得ないよ。君も見ただろう? 彼女が怯え、何も出来ない様を」

 「成れる! 助けたいって気持ちがあるから!」

 「あんな……!」

 「……強がっているけど、君も本当は怖いんだろ?」

 

 ニジーの言葉通り、あんなのプリキットライトを持つ手は震えている。それでも、あんなは顔を上げて力を振り絞り声を出していく。

 

 「そうだよ、怖いよ……怖いけど! ティアラを取り返したい! 困っているまりさんを、わたしも助けたい!」

 

 「みくるちゃんと一緒に!」

 「……っ!」

 

 あんなの純粋な信頼と親愛が込められた言葉は、すっとわたしの心に染み渡っていく。

 ……気付けば、体の震えは止まっていた。わたしはなんとか身体を持ち上げ、あんなの、プリキットライトを持つ手に掌を重ねた。

 

 「……みくるちゃん」

 

 そうだ、ここで怯えてどうする、怖がってどうする、立ち止まってどうする!

 それじゃ困っている人を助けられない! 笑顔に出来ない!

 

 名探偵になんて、成れない!

 

 「一歩の、勇気が……!」

 「……答えになる!」

 

 わたしとあんなは、その言葉と共にお互いを支え合って立ち上がる。生涯の相棒を見つけたような、不思議な感覚に思わず笑みが溢れ出し、勇気がどんどん湧いて来る。

 

 「……見せて貰おうかな、その答えとやらを!」

 「ハンニンダー!」

 

 「「(わたし)達で、取り返す!」」

 

 その瞬間、あんなのポケットから光が飛び出てペンダントが目の前に現れ、わたしの懐にあったペンダントもまた現れる。

 

 「私のと……」

 「同じ?」

 

 ペンダントを掌に収めると、二つのペンダントは光り輝き、二人の体を覆い隠していく。その眩い光はニジーの目を眩ませ、妖精が祝福の祝詞を叫んだ。

 

 「ぐ……っ!」

 

 「ぷいきゅあーーー!」

 

 

 

 光溢れる空間の中で背を向け合った私たちは、ペンダントを開いて心に浮かんだ単語を謳い上げる。

 

 「「オープン!」」

 

 ペンダントが光りその姿を変えていく中で、わたし達はそれを高く放り投げる。交差する様に飛び上がった光は、懐中時計となって戻ってきた。

 

 「「ジュエルキュアウォッチ!」」

 

 ウォッチを構え、マコトジュエルをセットする。

 

 「「プリキュア! メイクアップタイム! サン!」」

 「見つける!」

 

 時計の長針を3の位置に揃えてウォッチを振るう。

 あんなのヘアスタイルがお団子のツインテールに変わり、髪色がピンクのグラデーションがかった紫色になると同時に瞳の色も水色に変化する。

 わたしの方はハートを象った三つ編みのツインテールに変わり、髪色はあんなと反対の紫がかった鮮やかなピンク色になり、瞳の色も紫色に変化する。

 

 「「ロク!」向き合う!」

 

 あんなと手を合わせ、長針を6の位置に合わせると、今度は衣装が現れた。

 あんなはオフショルダーワンピースに身を包み、スカートを叩けばフリルをあしらったミニスカートが現れる。その背中には綺麗な黄色いリボンが付いた。

 わたしもまた、オフショルダーのワンピースを纏って、フリルスカートを履いた。その背中に、あんなの瞳と同じ色のリボンが付く。

 

 「「キュー!奇跡のふたり!」」

 

 

 体全体で数字の9を作り、長針もそれを指し示した。

 わたし達の足に光が集まり、白いソックスとそれぞれの色に合わせた靴が現れた。

 手を繋いだわたし達の手に光が集まって弾けたら、オープンフィンガーレスグローブの先でネイルが輝いて見えた。

 

 「クルッと回して!」

 「キュートに決めるよ!」

 

 踊る様にお互いを回転させたわたし達は、長針を11の位置まで回した。

 あんなのお団子を羽の付いたリボンの髪飾りが包んで、その耳元にピンクのピアス付けられる。

 わたしも髪を指でなぞれば、ティアラが合わさったカチューシャが付いて両耳では水色のピアスが揺れ動く。

 胸元にはネクタイ型のリボンが付いて、肩が出るくらいのミニケープを重ね着する。

 最後に、ウォッチをこしのポーチに入れて封をする。

 

 変身は完了した。

 

 「どんな謎でも、はなまる解決! 名探偵キュアアンサー!

 「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵キュアミスティック!

 

 鮮やかな名乗りを上げたわたし達はお互いに向かって歩き出し、手を繋ぎ合わせてから指を突き出した。

 

 「「名探偵プリキュア!」」

 

 「私の答え、見せてあげる!」

 

 キュアアンサー、キュアミスティック。

 

 今ここに、当代のプリキュアが誕生した。

 

 

 

 光の空間が消え、現実空間に戻って来たわたし達の目の前で、ハンニンダーが拳を振りかぶる。

 わたしとアンサーは息を合わせて跳び上がり、繰り出されたパンチを蹴り上げて吹き飛ばした。

 

 「ハンっ! ニン、ダー……!」

 

 ひらりと舞い降りたわたし達は、各々変身の感触を確かめていた。

 凄い、力が湧き上がって来る! それに、この可愛い衣装……最っ高!

 

 「私、プリキュアって…!」

 「名探偵! わたしが成りたかった、名探偵プリキュア!」

 「ええっ!? これが!?」

 「ポッチィ!」

 

 わたしは感極まり、疑問を呈したアンサーに向かってそう告げれば、木陰で隠れた妖精が喜びの声を上げていた。

 

 「けほっ……プリキュアだって? また新しいプリキュアが現れたっていうのか…!」

 「ハンニンダー!」

 

 「ひひひっ♡うひひぃっ♡やった、やったぁ♡」

 「……! ミスティック!」

 

 喜びのあまり飛び跳ねていたわたしを笑顔で見つめるアンサーは、向かって来るハンニンダーに気付きわたしを呼んだ。

 

 「ダー!」

 

 強靭な脚力で距離を縮めたハンニンダーは、その勢いのまま回転し大砲となって突進して来る。それを見たわたし達は頷き合い、腰を落として両手を構えた。

 

 「「ぐ―――っ! ぬぬぅぅぅうううっ!!」」

 

 ハンニンダーの突撃を二人で受け止めるも、その威力は凄まじくて大きく後退する。それでも、足を踏ん張り耐え抜いてみせた。

 

 「「はぁぁぁぁーーーっ!!」」

 

 動きを止めたハンニンダーに向かって、回転して勢いを付けた後足蹴りを繰り出した。無防備なハンニンダーはその一撃をまともに喰らい、空高くまで吹き飛んでいく。

 

 「その程度では倒せないよ! ハンニンダー!」

 「ハンニンダー!」

 

 ニジーの命令を受け、雄叫びを上げたハンニンダーは胴体部のティアラに力を集めて最後の一撃を放とうとするが、それを見過ごすわたし達ではない。

 名探偵の鉄則その一、犯人には何もさせないこと! 

 

 「一歩の勇気が―――!」

 「―――答えになる!」

 

 頷き合ったわたし達は、ポーチからウォッチを取り出して長針を11まで回す。ウォッチで増幅されたマコトジュエルの力がわたし達の肉体に伝播し、次の一撃の威力を跳ね上げさせた。

 

 「「これが(わたし)達の! アンサーだぁああーーーっ!!」」

 

 跳躍し、二条の光の矢となったわたし達は、ハンニンダーを貫いて着地した。

 

 「「キュアっと解決!!」」

 

 光が瞬き、地面から立ち上った大きな輝きがハンニンダーを包み浄化していく。

 

 「ハン…ニン…ダー…」

 

 そしてハンニンダーは消滅し、アンサーの掌にマコトジュエルが落ちてきた。それを見たわたしは、漸く自分のトラウマを乗り越えることが出来たのだと悟った。

 

 「くっ……! 今日は幕を下ろしておこう!」

 「……居なくなった!?」

 

 ニジーはハンニンダーが消滅したことを確認すると、悔しげな表情を浮かべて煙に紛れて去っていった。

 

 

 

 

 その後、無事にティアラをまりさんに渡せたわたし達は、変身した状態のまま、結婚式場の屋根から式を見ていた。

 まりさんと旦那さんがウェディングロードを歩く姿はとても絵になる光景で、参列した人達もそれを見て祝福の声を上げていた。

 

 「良かった…! 式に間に合って」

 

 アンサーが安堵した表情で見下ろす中、わたしは彼女に向き直り感謝の言葉を伝えた。彼女には大路多くの事で助けてもらったし感謝しても仕切れない。

 

 「……ありがとうございました!」

 「私のお蔭というか……あっ、怪盗!」

 

 アンサーの一言で式の方を見れば、本物のともかさんが走り込んできたのが見えた。

 

 「あれは本物のともかさんですよ」

 

 苦笑して答えている間に、まりさんのブーケが放り投げられともかさんの手に収まった。ニジーが付いた嘘が回り回って、本物の祝福としてともかさんに降り掛かったのだ。

 思わず笑みを浮かべていたわたし達だったが、アンサーが思い出したかの様に声を上げる。

 

 「あっ! 私、帰らないと! 今日誕生日パーティーだ!」

 

 アンサーの言葉に別れの気配を感じ取ったわたしは、確認を求める様に彼女に言った。

 

 「プリキュアに成れたって事は……! テスト合格ですよね!? 1999年4月、とうとうわたしもキュアット探偵事務所の名探偵になったんだぁ〜〜!!」

 「……1999年? また訳分からない事を……」

 「ポチ?」

 

 アンサーの心底不思議そうな言葉を聞いて、こっちこそ意味が分からなかった。彼女の間違いを訂正する様に声を張り上げる。

 

 「いやいや、今日は1999年4月2日、春です! ―――ほら!」

 

 わたしはそう言ってから、桜生い茂る場所を指差した。花びらが舞い落ちる様を見れば、誰がどう考えても春を想起させるに違いない。

 

 「桜……? 私が居たのは2027年1月冬……もしかして! わたし、昔にタイムスリップしちゃったのぉ〜〜〜!?」

 

 

 アンサーの、いや明智あんなのその叫びが、まことみらい市全体に響き渡った。

 

 

 





 プリキュアって何、タイムスリップって何!?
 みくるはなんだか青ざめてたし、訳わからないよ~!
 ……私、本当に、昔に来ちゃったんだね

 次回、名探偵プリキュア!
 『キュアット探偵事務所へようこそ!』
 その謎、キュアっと解決!
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