プリキュア歴三年、過去に飛ばされました。 作:村正 ブレード
花嫁さんのティアラを無事に取り返した私とみくるは、マコトミライタウンがあった場所まで移動していた。
「えっとね〜……此処が私の家!」
「へぇ〜!」
私がそう言って指差したのは勿論、自宅である高層マンションの一室……ではなく、“マコトミライタウン完成予想図”と書かれたただの写真だった。写真が貼られた看板の向こうには、私が産まれた街の代わりに真っ平な空き地だけが広がっていた。
「……街ごと無いんだけどぉぉ〜〜!!!」
「未来から来たって本当だったのぉ!!?」
その光景を見た私は驚愕の声を上げ、その私を見たみくるもまた同じく、大声を出して焦り散らかしていた。
「探偵事務所の名探偵じゃなかったの!?」
「だから私、嘘吐かないって!? 誕生日パーティーが有るの! 帰らないと! 名探偵でしょ助けてぇ〜!!」
「それを言うなら貴女も名探偵ぃぃ〜〜!?」
知らない場所、知らない時間にタイムスリップした事をここに来てようやく理解した私は、みくるの肩を力一杯揺すって彼女に縋る。しかし彼女は目を回して戸惑うばかりで、打開策を出してくれはしなかった。
「……そうだ! 先生なら何か知ってるかも!」
「先生?」
何か閃いた様子のみくるは、いそいそと懐を探りながら続きを話す。
学校の先生にタイムスリップに詳しい人でもいるのかな? 理科の先生とか。などと考えていると、彼女の口から今日何度目かの驚愕の事実が判明する。
「そう! わたし達と同じ名探偵プリキュアの先輩! 先生ならきっと、あんなの事だって解決してくれる筈!」
「わぁ……本当!? それなら、すぐその人に会いに行こう!」
「焦らないで、あんな! ……あった!」
みくるは懐から何かを取り出して私に見せてくる。ミニチュアサイズのぬいぐるみの様にも見えるそれの首元に赤いネクタイが付いているだけで、パッと見では何に使うのかよく分からない。
「この“プリキットボイスメモ”を使えば! 何時でも何処でも連絡を取ることが出来る、の……………」
「凄い! じゃあ早く……? みくるちゃん?」
みくるのその一言に期待に声を膨らませていた私だったけれど、みくるはそこまで言って固まってしまう。不思議に思って顔を覗き込むと、その顔色はみるみる青褪めていく。
すわ恐怖がぶり返して来たのかも、また震え出してしまうのではと心配していたら、みくるはさっきの私に負けない位の声量で叫んだ。
「……わ、忘れてたぁーー!!!!」
今まで以上に焦った様子でその一言を叫んだみくるは、私を置いてもの凄い速さで駆け出していってしまった。
「……えっ? ま、待ってよぉーー!!!」
「ポチィーーー!!!」
みくるを追いかけて辿り着いたのは、何処か見覚えのある建物だった。私はそれを見つけてすぐに、此処がこの時代にやって来て最初に降り立った場所だという事に気が付いた。
「此処って……あっ! みくるちゃん!?」
「先生ぇーー!! ジェット
記憶を思い返していたのも束の間、みくるは脇目も振らず玄関の扉を勢い良く開けて中に入っていく。また置いていかれそうになった私も急いで続く。
みくるが入って直ぐの扉をスパァン! と開け放つと、中で何やら作業をしていた金髪の少年の体が大きく跳ねる。
「うわぁっ!? おい……! 勝手に入ってくるな……って、なんだみくるか」
気を散らされた少年はすぐに作業を中止して下手人に怒りを露わにしたが、その顔を見て溜飲を下げるように声を落ち着かせた。
「ジェット先輩!」
「先輩? この子が?」
どうみても同い年、どころか年下にしか見えない少年を先輩と呼ぶみくる、その光景に首を傾げる私を置き去りにして話は進んでいく。
「お前なぁ……、今まで何処で何してたんだ。アイツ心配してたぞ」
「そんなことより先生は!?」
「……アイツならとっくに出発した。今頃はロンドン行きの飛行機の中だろうな」
「飛行機って……それにロンドン!? なんで!?」
「何でって……お前の探偵テストのために決まってるだろ。まあテストを受ける当人はこうして大遅刻してきた訳だが……ん?」
じろ、とジェットは非難するようにみくるを見つめるも、その隣に立つ私に気が付いてその碧眼を丸くした。彼は話を打ち切ると、そのまま私に声を掛けてくる。
「……お……あー、君はみくるの知り合いか?」
「私、明智あんな! よろしくね!」
「あんなか、よろしくな。……まあいい、それで? 今頃やってきた理由は何だ?」
「……そう、そうなのよジェット先輩! わたし達、名探偵プリキュアになったの!」
ジェットはみくるの突然の一言に動揺することなく、それどころか呆れた表情で返した。
「はぁ……言うに事欠いて名探偵プリキュアになった? 冗談も休み休み言え」
「本当だよ! それに私、タイムスリップしちゃったの!」
「……タイムスリップだって?」
私の発したタイムスリップという単語に反応したのか、ジェットはまたもや目を丸くして固まってしまった。
一旦情報を整理するため、私達は気を取り直してソファに座った。ジェットにわたしのペンダントを手渡すと、代わりにと飴をくれた。
「ほら、とりあえずこれでも舐めてろ」
「わぁ、飴! ありがとう!」
「ありがとう、ジェット先輩」
「気にするな……それにしても、これでプリキュアに変身しただと?」
ジェットはそう言うと、短眼鏡でペンダントを観察し始める。手持ち無沙汰になった私はみくるに、彼のことについて質問してみた。
「ねぇみくるちゃん、この人って名探偵じゃないんだよね?」
「この人はジェット先輩。わたしと同じで、キュアット探偵事務所で探偵助手をしてるの」
「……はぁ、何度言えば分かるんだ。僕は助手じゃなくて天・才・発・明・家! 探偵道具を発明するのが仕事だ」
「へぇ……まだ小さいのに凄いね!」
探偵道具を発明……てことは、みくるの持っていたライトやボイスメモもジェットが作ったのかな。そう考えつつ第一印象を無意識に声に出したところ、ジェットはムスッとした顔でペンダントから目を離した。
「……小さい? 僕は222歳だ! そういうお前は何歳だ?」
「私、14歳だよ」
「えっ!? わたしももうすぐ14歳!」
「そうなの!? はなまるびっくり~! 敬語で話してるから年上かと思ってたよ。同い年なんだから敬語はナシ! あんなでいいよ」
「じゃあわたしもみくるで!」
「分かった!」
ジェットの非現実的な実年齢を聞き流したわたしとみくるは流れるように打ち解け合い、ハイタッチを交わした。それを聴いていたジェットは、再び呆れた表情でこちらを見つめている。
「これだから子供は……で、あんなはどこでこれを手に入れた? みくるの方は確か……」
「前に話した通り、ずっと前にお婆ちゃんに貰ったの。でも詳しいことは分からなくて、代々受け継がれて来た物ってだけ……」
「私はね、自分の机の上にペンダントが置いてあって、そしたらポチタンが現れたの」
「「ポチタン…?」」
私がポチタンの名前を出すと、ジェットだけじゃなくみくるまで首を傾げた。そういえば、みくるにはポチタンの名前言ってなかったかも……と思い出したところで、いつの間にかポチタンの姿が見えないことに気付く。
その瞬間、事務所内にアラームと共に電子音声が響き渡った。
『シンニュウシャ! シンニュウシャ!』
「……研究室か!」
音の出所に思い当たったジェットはソファから飛び起きて部屋を出ていく。それに続いて、私達も彼を追って地下にある研究室に突入した。
「……うわぁっ!? 僕のおやつ!」
「「凄い量!!?」」
部屋に入ると地下室の天井が割れて中から大量のお菓子が漏れ出ており、床の上で山を形成していた。それを見て驚く私とみくるだったが、ハッとしたみくるはジェットに近付いて行く。
「ジェット先輩~? また先生に黙ってお菓子貯め込んでたのね!?」
「これは…っ、発明で頭を使うからエネルギーが必要なんだよ~! アイツには黙っておいてくれ、頼む~!」
「あはは……あっ、ポチタン!」
「ポチ~!」
さっきと立場を逆転させたみくるがジェットに詰め寄って子供っぽい言い訳を引き出している間に、お菓子の山に顔を突っ込んでいるポチタンを見つけた。同時にポチタンも私達が目に入ったようで、お菓子の山から飛び出してきた。
飛んできたポチタンを抱き止めると、ポチタンを見てジェットが驚いた表情をする。
「時空の妖精!?」
「「ん?」」
「時間と空間をワープするとても珍しい妖精だ。……そうか、タイムスリップの原因はお前か! (……だとすると、アイツとは別の方法で来たってことか……だけど)この妖精を使えば、元の時代に帰れるかも!」
ジェットが告げた驚くべき内容に、私は喜びのあまりポチタンを持ち上げて言う。何やら他にも呟いていたが、それは聞き取れなかった。
「えっ!? やった!」
「良かった~!」
しかし喜びも束の間、ジェットが顎に手を当てて疑問を口にしたことがきっかけでその期待も霧散することになった。
「……待て、そもそも赤ちゃんじゃなかっただろ」
「うん、ポチタン普通に喋ってた」
「タイムスリップで力を使い切ったんだ。…元の姿に戻らないと、タイムスリップは出来ないだろう」
そんな……。
芽生えたと思った希望があっさり消え去ったことに落ち込む私達だったものの次のジェットの言葉で持ち直した。
「……マコトジュエルなら」
「?」「それって……!」
「真実の力が秘められた宝石だ。みくるも散々見た事あるだろ」
「ええ……って、あ!」
つい最近聞いた言葉に反応してみくるを見ると、彼女の方も気付いたのか私を見つめていた。ジェットが話し続けている間にポケットを探ってみると、すぐにその感触があった。
「そうなんだよな……ジュエルは全部アイツが持って行ってるし…今から見つけるのは難し「これのこと?」い……持ってるの~!!?」
ティアラに宿っていたライトグリーンのマコトジュエルを見せるとジェットは今までで一番と言っていい位に驚愕しつつも、すぐ我に返って言う。
「これで元に戻る!」
「「やった〜!」」
早速ポチタンに向かってマコトジュエルを翳すと、胸元のハートマークが発光し、それに呼応してジュエルも光を放った。ジュエルはポチタンに吸い込まれていき、そのまま消失した。
「消えた!?」
「……ポポポポポッ」
「元に戻るの!?」
ジュエルを吸収したポチタンが力を貯めるように屈み、その頭上に虹色の光が溢れ出していく。思わず息を呑んでそれを見守ると、遂に光が頂点に達しーーー。
「ポチィーーー!」
ーーーポチタンから、哺乳瓶の様な物が飛び出して来た。
「「「えっ」」」
応接室に戻って来た私は、ポチタンを抱き抱えてミルクを飲ませていた。ポチタンが美味しそうにミルクを飲む様子を見てみくるが頭を抱える。
「戻ってなぁい!」
「もっとマコトジュエルが必要か……やっぱり、包が帰ってくるのを待つしか無いな」
「包……って、みくるが言ってた名探偵プリキュアの先輩の事?」
ミルクを飲み終えたポチタンの頭を撫でながらジェットに質問すると彼は頷く。
「そうだ。夜灯包、ここの所長をやってる名探偵プリキュアだ。さっきも話したが今はロンドンに行ってて二、三日は戻らない」
「そうなんだ……」
夜灯包さん……どんな人なんだろう。みくるが先生って呼ぶ位だし、きっといい人に違いないけど……私が元の時代に戻るのにも協力してくれると良いな。
そう思案していると、ジェットは私達に疑念をぶつけてくる。
「……というか、僕はまだお前達がプリキュアだとは認めてない。僕はこの眼で見た物しか信じないからな」
「……むぅ…っ! じゃあプリキュアだって証拠を見せてあげ」
ゴーン ゴーン ゴーン
事務所の廊下に置かれた振り子時計が17時を知らせた。プリキュアを証明するタイミングを逃したみくるは、顔を膨らませたまま話を中断して立ち上がった。
「……と思ったけど帰る、学校の寮門限だから! 証拠は明日見せてあげる!」
「えっ」
「……みくる!?」
私が呼び止めたのも虚しくそのまま立ち去ろうとした彼女だったが、思い出したかの様に戻って来てジェットに言った。
「あんな達泊めてあげて! わたしの着替えとか使って良いから!」
「……は? 何言って「駄目って言うなら、先生にお菓子の事報告するけど」っ、わかった……」
みくるのお願いを拒否しようとするジェットだったが、みくるの言葉に痛い所を突かれて呆気なく折れた。その返答に満足した様に頷き、みくるは今度こそ事務所から出て行った。
残されたのは気まずい雰囲気の私達だけ。何か話題をと口を開いたところで、私の腹の虫が鳴いた。そういえば、こっちに来てから何も食べてなかった……。
「……はぁ、とりあえず晩御飯にしよう。ちょっと待ってろ」
「あ、うん……ありがとう」
「気にするな。僕も丁度腹が空いてたんだ」
料理を食べ終え片付けを済ませた僕は、あんなを風呂に入れている間にボイスメモを起動する。何度かコール音が鳴った後、今朝聞いたばかりの男の声が聞こえてくる。
『もしもし』
「僕だ。今大丈夫か?」
『ああ。もしかしてみくるから連絡来たのか?』
「まあ…そんな感じだ。あの娘、遅刻して来たと思ったらお前と同じタイムスリッパーを連れて来たぞ」
『何だって? その人も黒いやつに襲われたのか?!』
電話の向こうで動揺を露わにする彼を嗜めつつ、現在わかっている事を端的に伝える。
「いや、その娘は時空の妖精が連れて来たみたいだ。みくるが見つけて、どうやったかは知らないがマコトジュエルまで持ってた。とりあえず詳しい話は明日聞いてみるつもりだ」
『へぇ……ま、取り敢えずみくるが無事だったんならそれで良いや。後の事は帰ってから教えてくれ』
「そっちの状況はどうなんだ?」
『んー…と、ぼちぼちって感じだ。元々みくる一人で解決してもらうつもりだった依頼だし、思ったよりもすぐに解決出来そうだ』
「そうか…。包、お前が持ってるマコトジュエルだが、漸く使う目処が立ったぞ」
『本当か? タイムマシン……じゃないな、さっき言ってた時空の妖精か?』
相変わらず頭の回る探偵に頬を緩ませながらそれに同意する。
「そうだ。ポチタンって言うんだが、そいつにお前の持ってるマコトジュエルを全て与えれば、今日やって来た娘とお前らを未来に帰せるかもしれない」
『そう上手くいくと良いんだけどな……俺の考えじゃ、多分もっと必要になるぞ』
「……それも経験則か?」
『ん……というか、予感とか予測が近いかな。ファントムの奴らも俺が来るずっと前から活動してる訳だろ? とするとマコトジュエルが
「……うーん、お前の予感は当たるからな。気に留めておく」
『ま、そこら辺も含めて本部の方で聞いてみるさ。丁度ロンドンにいる事だしな』
「ロンドンのキュアット探偵事務所か……あそこは相当な秘密主義だからな、お前がプリキュアとはいえ果たして何処まで教えてくれるか……っとそうだ忘れてた。みくるの事なんだが……」
『どうした? やっぱり何かあったのか?』
彼女がプリキュアになったらしい、と言おうとしたが包ならあっさり信じそうな気がしてきてやめた。明日になって証明が済んでからでも遅くは無いだろう。
「……なんでも無い、あの娘がお前に会いたがっていたってだけだ。いつ帰って来れそうなんだ?」
『え、そうなの? いや〜、寂しがり屋な弟子を持つと師匠は大変だな〜……なんて。明日の夜か、明後日の朝には帰れそうだ。それまでは変わらず頼むぜ』
「ああ……また何かあったら連絡する。じゃあな」
『はいよ。お土産楽しみにしててな』
そのやりとりを最後に通信が切れ、程なくしてみくるの泊まり用寝着を着たあんなも風呂から上がってきた。
お風呂でさっぱりした私は、用意された下着とパジャマを着て応接室に戻って来た。一緒に入ったポチタンもお風呂のおかげでツヤツヤしていて、何だか眠たそうだ。
「ポチ〜……」
「ジェットさん、お風呂空いたよ」
「ん……ああ、分かった」
私が声を掛けると、ジェットはこちらを向いて手に持ったボイスメモを懐にしまう。
「それってボイスメモだよね、誰かに連絡してたの?」
「…みくるから聞いてたのか。そうだ、包にあんなの事を話してたんだ。あいつは早ければ明日の夜帰ってこれるらしい」
「そうなんだ…!」
「ポチ!」
高まる帰還への期待に思わず破顔して喜ぶ私を見て、ジェットは申し訳なさそうな顔で頭をガシガシ掻いて言う。
「あ〜……取り敢えず、寝室に案内する」
「……? うん」
歯切れの悪い返しに疑問符を浮かべつつ、ジェットについて行き部屋を出た。応接室奥の通路、更に渡り廊下を越えた先にある別館の中に入って直ぐの部屋に案内される。
部屋は簡素な造りだったが、隅々まで整理整頓が行き届いており、どこか落ち着いた空気が漂っていた。棚や机の上にはアロマディフューザーや小さな観葉植物、更にガラス細工などもあった。
「ここが客室だ。少しの間此処で寝て貰うことになる」
「わ……綺麗。色々物が置いてあるけど……これは?」
「あぁ……みくるの私物だ。あの娘、よく泊まりに来てるからな」
「そうなんだ……」
探偵テストとやらで外泊する事は寮に言っているのだろうし、どうせなら泊まっていけば良かったのに。微かに覚える淋しさが胸にチクリと刺さって、普段なら考えない様な事が脳裏に過ぎる。
「とりあえず、僕は研究室の方に居るから。何かあったら来てくれ」
「……ジェットさんって、優しいね」
「…僕だって、一人で放り出された子供の気持ち位少しはわかる。じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみなさい」
不意な言葉に若干照れた様子のジェットさんを見送った後、ポチタンと一緒に部屋に入り早々に横になった。
今日は濃密な一日だった。誕生日パーティーを目前に控えていた時にウォッチを見つけ、この時代にやって来た。みくると出会い、結婚式場で起こった事件を共に解決し、プリキュアになった。そしてこの事務所に向かい、ジェットさんと晩御飯を一緒に食べた。
(……ハンバーグ。そういえば、お母さんにパーティーで作って貰う様に頼んでたんだった)
此処で食べたハンバーグも美味しかったが、やっぱりお母さんのものが一番美味しい。帰ったら沢山味わって食べよう。ケーキもあった。プレゼントは……ウォッチだったけど、スマホももしかしたら貰えるかも知れない。
淡い期待と、淋しさを胸に抱きながら瞼を閉じた。
朝目が覚めて最初に目に入ったのは知らない天井だった。身体を起こし部屋を見回しても、私の知っている物は何一つない。
隣で眠るポチタンを見て漸く、昨日の事が夢じゃない事を理解した。
本当に、昔に来てしまったんだ。
時間が過ぎるのはあっという間で、もう私が此処に来てから二日が経ち、包さんが帰ってくる日になっていた。
朝悟飯を食べ一息吐いた矢先、ポチタンによって連れ出された私はジェットとみくると共にパティスリー“チュチュ”に到着し、そこで大切なペンを失くしたという小説家“来栖エリザ”と出会い捜索に協力する事になった。
ファンを名乗ったお婆さんの情報を得た私は、みくるの推理でその正体がファントムである事が分かった。公園に逃げ込んだ彼女を挟み撃ちの形で追いかけたものの見失ってしまい途方に暮れる中、電波障害の中で携帯を使っていた女子高生に不審感を覚え問い詰めた所、変装を解き正体を現した。
再び現れたニジーがペンを使いハンニンダーを出現させ、私達もまたそれに対抗しプリキュアに変身する。苦戦するものの何とかハンニンダーを倒した私達は、無事にペンをエリザさんに返す事が出来たのだった。
「……っと、こんな感じでいい? ジェット“先輩”?」
「うん、取り敢えずこれで良いだろう。名探偵になったからには、報告書も作れる様にならないとだからな」
「やっぱり二人だと早いわね〜。先生、いっつも時間かかってたし」
「あいつが凝り性なのもあるが……事件の規模も今日のよりずっと大きいから仕方ない」
「へぇ…そうなんだ」
いつか私達もそんな依頼を受ける日が来るのだろうか……と考えた所で、ふとハンニンダーと戦うために変身した私達の後ろでジェット先輩が口にした言葉を思い出した。
『自分の心の中にあるマコトジュエルで変身した……!
あいつとは違う、
あれは一体どう言う意味だったのだろう。聞いてもはぐらかされてしまい教えてくれなかったが、それもいつかわかる日が来るのかな。
その時、応接室の扉が開かれ、キャリーケースを引いた青年が軽い足取りで中に入ってくる。その肩には王子様みたいな服を着た黒い妖精が乗っている。
「ただいまー!」
「ただいまであるー」
「先生! おかえりなさい!」
「おかえり」
彼の姿が目に入った瞬間みくるが一目散に駆け寄っていく。その笑顔を見て安堵した顔になった彼はキャリーケースを開けて中身を漁る。
「……はい、ロンドン土産! こっちはジェット先輩に」
「これは……本か? 随分分厚いな」
ジェットに手渡したのは辞書ほどの厚みのある革装丁の本。ずっしりとした重みを見るからに感じる本を開いたジェット先輩は眉を顰める。
「……随分古い妖精語だな。僕でも読めないなんて初めてだ」
「けど…イラストもいっぱいあるね」
「先生、これは?」
「ロンドンのキュアット探偵事務所本部に保管されてた伝説のプリキットが記された本だって」
「はぁっ!? 禁書クラスの代物じゃないか!? まさか盗んだんじゃ……!?」
「違う違う、本部に行った時に貰ったんだよ。師匠だっていうお婆さんの妖精がジェットへの最後の課題にって」
「シニアが? ……まだ子供扱いしてるのか」
お土産にしては随分物騒なものの様だが、ジェットにとっては師匠からの贈り物という事もあって何だか嬉しそうだ。
「先生! わたしの分は!?」
「みくるの方は探偵関係ないんだけど……はいこれ」
「……サイン色紙?」
みくるに渡したのはジェットとは真反対、一枚の色紙だった。それに書かれたサインを見て彼女は目の色を変えた。
「こっこれ!? “家入しるく”さんの直筆サイン!?!? わたしの名前書いてある!?」
「ふふ〜ん。ロンドンで丁度サイン会があってな、みくる宛てに書いてもらった。好きって言ってたからな」
「家入しるくだって!? 僕の分は!?」
「え……ないけど。欲しかったのか?」
「はぁ!? 何の為にロンドンまで行ったと思ってるんだ! もう一回行ってこい!」
「そんなに……?」
本を貰った時よりも感情を荒ぶらせるジェットを見つつ、知らない名前が出て来たので聞いてみると、青年が苦笑しながら答えてくれた。
「家入しるくさんって?」
「あ〜…この時代で人気の俳優だ。テレビにもよく出てるし、その内見られるよ」
「へ〜……ん?」
危うく流しそうになったが、どうして彼は私がしるくさんを知らないことに疑問を持たないのだろうか。みくるとジェット先輩の反応を見れば、誰もが知るであろう有名人だというのは想像に難くないのに。
「君の事はジェット先輩から聞いてたからな。未来から来たんだろ? じゃあ知らない事もある」
「……そういえば、ジェット先輩が電話してたんだっけ」
青年はキャリーケースを手早く閉じると、私の目の前に座り自己紹介をしてくれる。
「改めて、俺はキュアット探偵事務所所長代理の夜灯包だ。よろしくね」
「はい! 私、明智あんなっていいます! これからよろしくお願いします!」
「敬語はいいよ、ちょっと歳が離れてる位だし。俺の事も好きに呼んでくれ」
そういえば……先生と呼ばれている割にはとても若く見える。高校生くらいじゃないだろうか。まあ、普通に話しても良いというのなら、そっちの方が楽だ。
「じゃあ、お言葉に甘えて。これからよろしくね、包さん!」
後編は早めに出します