プリキュア歴三年、過去に飛ばされました。 作:村正 ブレード
自己紹介を終えた私達は、インテリアを買いに商店街を歩いていた。
私と、新たにこの屋敷で暮らすことになったもう一人の部屋を整えるため、というのが一つ。もう一つは、名探偵の一員として迎えられた私たちに応接室の模様替えを任せてもらえることになったからだ。
名探偵プリキュアになったとみくるが包に伝えた所、彼はあっさりと信じてくれた。
『名探偵プリキュアに? ……分かった。信じるよ』
とは彼の言だ。ジェットの時とは違い過ぎて拍子抜けしてしまったものの、まあ良しとした。
「どうせなら可愛くアレンジしたいわよね〜。来てくれるお客さんに今まで以上に素敵って思ってもらえる事務所にしたいし!」
「うん! でも本当に良いの、包さん? 私達の好きにして」
「良いさ。元々みくるが来たら変えるつもりだったからな。今の事務所は外装と内装のギャップが大きくて初めてのお客さんに変な印象を与えてるみたいだし」
「むむむ……吾輩のセンスはあれで良いと言っておったのであるが……」
後ろを歩く包に再度確認を取ろうと振り向けば、彼は穏やかな顔で快諾してくれる。
確かに、事務所を外から見た時には可愛らしいデザインが目に入るが、内装はクラシカルなザ・探偵事務所と言うべきインテリアばかりという、ちぐはぐな状態の様に感じた。みくるの様な探偵好きには好評なのだろうが、ただのお客さんに同じ反応を求めるのは厳しいと思う。
そう考えたタイミングで、静かだったジェットが飴から口を離した。
「お客さんか……うちは来てくれた依頼は基本全て引き受けるのがポリシーだし、勿論二人にも同じ様にしてもらうけど、僕達の使命は怪盗団ファントムを止める事だ」
「分かってるって!」
ジェットの言葉にみくると同じ様に頷きつつも、良い機会だからと疑問を口にしてみる。
「ねぇ、ずっと気になってたんだよね。私の時代は嘘で覆われた世界じゃないし、ファントムなんて聞いた事がない。此処と変わらないよ? 平和だよ?」
そう、2027年の未来では怪盗団ファントムの『か』の字も無かった。
「未来は常に変わるんだ。僕達が頑張らないと、ここもお前達の時代も、嘘で覆われた世界になるかもしれない。
……いけ好かない妖精の手に堕ちる可能性がある」
ジェットは私の質問に答えると共に、何やら気になる言葉を吐いた。
いけ好かない妖精とは、一体何の事だろうか?
「言ってなかったっけ? ファントムのやつらは、僕達と同じ妖精なんだ」
あんな達のいる世界とは別次元に存在するファントムのアジト。劇場の様な空間の中に、一際存在感を放つ者がいた。大きなステージの向かいにある所謂VIP席に座る仮面の男だ。
仮面の男は側の書見台に立て掛けた書を開き、白紙のページに現れた光文字に視線を向けながら、失態を重ねる配下に告げる。
「“
ステージの上にて糾弾を一身に受ける緑髪の男―――ニジーは、恭しく一礼し深く詫びる。その姿を上階の席にてゴウエモンと妖精を連れた少女が見ていた。
「ウソノワール様、申し訳ありません。まさか新たな名探偵プリキュアが現れるとは……!」
背後で前回の戦いの映像を流しながらも釈明を述べるニジーを一瞥する事なく、ウソノワールは書に新たに浮かんだ光文字に目を走らせる。
「
「…!「アッハハ!」…っ」
ウソノワールの呟きに名誉挽回のチャンスを感じ取るニジーだったが、快活な笑い声と共に背後の幕が開かれる。ニジーが背後を振り返ると、ピンクがかったオレンジ色の髪を持つ女性が姿を現した。ニジーやゴウエモンと同じく、緑の瞳の中に十字模様を浮かべながら露出の多い派手な衣装を身に纏っている彼女の姿を見て、ニジーは不快感を露わにする様に顔を顰める。
「今回は、アゲが行くしかないっしょ!」
「“アゲセーヌ”! 何故お前が!」
「アンタのギャルの変装? ちょー下手! あり得ない! チョベリバぁ!」
「聞き捨てならないな!」
「また騒がしいこと……」
「うん」
ニジーとアゲセーヌの見苦しい口論を紫色の妖精と少女が呆れた様に見つめる。少女は配下で唯一瞳の中に十字を持たない存在であり、その手にはいつの間にか二段アイスが握られていた。
「ウソノワール様! このボク、ニジーにお任せを!」
「行け! アゲセーヌ。華麗に優雅に奪って来るのだ」
ニジーの懇願も虚しく、ウソノワールはアゲセーヌに出動を命じた。これにはニジーの側でアピールをしていた彼女も大喜びだ。
「そ、そんな!? ボクにチャンスを!」
「ライライサー!」
ニジーは尚も引き下がるまいとするものの、ウソノワールの有無を言わせぬ圧力に諦めるしかなかった。
「「ライライサー!」」
そんな事は露知らず、私達は目的のインテリアショップ“KAMELLIA INTERIA”に到着した。ショップには様々なインテリアや雑貨が並んでおり、まさに色取り取り選り取り見取り、といった感じだ。
「おぉー! はなまる素敵ー!」
「ポチー!」
「可愛いもので溢れてる!」
「いらっしゃいませ!」
おしゃれな品揃えに感激する私とみくる、ポチタンは早速目に入ったガラスの置物に近付いていく。亀を再現したガラス細工に、私達は思わず感嘆の声を漏らした。
「これ可愛い!」「本当だ!」
「亀か? これ」
「ポォア〜」
私が見惚れている中、ポチタンが興味深そうに亀の置物に触れようと近付いているのに気付き、制止した。
「駄目、ガラスだから割れると大変でしょ? 包さん、ジェット先輩! この子欲しい!」
「いや、それは……」
「ごめんなさい、それ売り物じゃないんです」
購入を検討しようと二人に声を掛けた所、包さんが苦笑しながら口を開こうとする前に店員さんから非売品だと告げられた。
店員さんが言うには、この亀の置物はこの店のシンボルであり、『亀みたいに歩みは遅くても、一歩ずつ前に進んでいこう。そしていつかもっと広くて素敵なお店にしよう』という意味が込められているそうだ。店の皆で大切にして、この置物を見る度に頑張ろうという気持ちを思い出している、らしい。
「素敵……!」
「これはお売り出来ませんけど…他の物ならご案内します!」
「「お願いします!」」
その時、店員さんの後ろから別の店員さんがやって来る。
「あっ、ちほさん! ボクが戻しておきますよ」
「ありがとう卓也君! 何かお探しの者はありますか?」
「えっと……」
「新しい部屋の飾り付けがしたいんです!」
「でしたら……」
「…………?」
私達は店員のちほさんの後について行き、インテリアコーナーに足を運んだ。そこで目に入った数々のインテリアに、私とみくるは目を輝かせる。
「「うわぁ…! 可愛いソファ!」」
「口を開けば可愛いだな……ソファなら有るだろ」
「まあまあ、そう言わない」
「でしたらクッションは如何ですか? お持ちのソファに合わせてみては」
ちほさんの提案に私達は渋る言葉を吐くジェットを見た。彼は後ろで肩揉みをしながら宥める包の存在もあってか、渋々首肯した。それを見てちほさんはクッションを取りに行ってくれた。
ちほさんを待っている間に、私は壁に架けられた黄色いリーフ柄のカーテンを見つけた。
「あ! このカーテン良くない!?」
「派手じゃないか…?」
「うーん、ならこれはどう!? 名探偵って感じじゃない!?」
「いや、うちの応接室一階だからな?」
続くみくるがブラインドを提案するも、包の言葉にあえなく撃沈する。その後もアレはどうだ、コレはどうだと吟味し続ける私とみくるを見て、ジェットが呟いた。
「お前ら、楽しそうだな……」
「良いじゃないか、ショッピングの醍醐味だろ? 俺も見てて楽しい」
「……吾輩も混ざりたいのである〜……」
「……ポッ、ポチィ〜〜!?」
突然ポチタンが鳴き声を上げ、モゾモゾと動き始める。初めて見る奇行に驚く包とネオンは兎も角、私にとっては三度目の現象という事もあってすぐに気付くことが出来た。
「もしかしてまた事件!?」
「あぁっ!?」
ちほさんの叫び声が聞こえそちらの方へ向かうと、事件現場にはちほさんと置物が置いてあったクッションだけが残っていた。
「どうしたんですか!?」
「無いんです……置物が!」
「さっきまで有ったのに…!」
「タチュケテ……」
ポチタンの拙い助けを求める一言に、遂に確信を持って事件が起きた事を理解した。しかし……。
「これが事件?」
「あの置物にマコトジュエルが宿っていたのかも。ほら、今までにポチタンが連れて来た時って、マコトジュエルが危険な時、盗られた時だったでしょ?」
「なるほど、有り得るな……」
「……なら、名探偵ならこの事件を前にしてどうする?」
包さんの一言を聞いて私とみくるが振り向くと、彼は真剣な眼差しを向けて返答を待っている。
「必ず事件を解決する!」
「そうね! わたし達は名探偵なんだから!」
「……よし、その意気だ! 今回の事件、実力を見せてもらう為に二人で事件を解いてもらう」
「「……!
「これは依頼じゃ無い、失敗したとしても俺がフォローするから気負わず行って良い」
私は頼もしい言葉に再び頷きつつ、絶対に解決する気持ちを燃え上がらせてちほさんに声を掛ける。
「私達に任せて下さい!」
「「えっ?」」
不意に掛けられた声に気の抜けた声を上げるちほさんと卓也さんの前で、ポケットから“プリキットブック”を取り出した。
「「オープン! プリキットブック!」」
「……!」
「小さくして持ち運べるんだ、天才だろ!」
ジェットの自慢気な声を背後で聞きながら、私達は二人に向かって名乗りを上げた。
「「
「探偵……それにキュアット探偵事務所って…! お願いします!」
無事に事件調査の許可を貰えた私達は、現在店内に居た店員とお客さんを呼んでもらっていた。
容疑者となったのは四人。店員の“前田ちほ”さんと“仲手川卓也”さん、お客さんの“賀来さえこ”さんと“トム・ミラー”さんだ。
「お店に居るのはこれで全員…!」
「犯人は別の誰かで、こっそり入って盗って出て行っちゃったとかは?」
「でも、ドアを開けると鳴るベルは鳴っていません」
「他に出入り口はありませんか?」
「家具を出し入れする搬入口があります」
ちほさんの話を聞くに、犯人が出入り出来たのは搬入口のみである事が分かる。
「犯人はここから入って、置物を持って出て行ったのかな?」
「かもしれないけど決めつけるには早い、此処にまだ犯人がいる可能性も考えないと」
「でも、皆置物は持ってなさそうだ……」
ジェットからの情報を加えつつ考えていると、みくるが閃いた様に顔を上げた。
「結婚式の時のティアラと同じかも!」
「そうか! 何処かに隠してるとか!?」
そうとなれば早速と店内を探すも、インテリア店という事もあり隠す場所が多く虱潰しに探すのも大変そうだった。どう探すべきかを考えると、置物の素材について思い出すことができた。
「あの置物ってガラスだったよね!」
「うん。隠すなら割れる心配のない場所……」
……! ピンときた!
私達はカウンター側にあったクッションコーナーに駆け寄り、丁寧にクッション達を避けていく。店にいる全員が固唾を飲んで見守る中、遂に私達は亀の置物を見つける事が出来た。
「「あった!」」
「ありがとうございます!」
置物を裏返した状態で運ぶと、卓也さんが前に出て受け取り置物を観察する。
「1、2……6
「「……?」」
「ヒュ〜!」
「棚に戻しておきます」
「ありがとう」
卓也さんの言い方に少し違和感を覚えて思わず包の方を見たが、彼は微笑みを湛えるだけで何も口を出さなかった。私の聞き間違いなのだろうか。
「……これで事件解決?」
「まだでしょ! 置物を狙った犯人が、ファントムがこの中にいるはず!」
であれば、次に行うべき調査は……やはり、聞き込み調査だ!
プリキットブックとペンを手に、容疑者それぞれに対して犯行時に何処に居たのかを聞いてみる。まずはトムさんからだ……と思ったのだが、此処で問題が発生した。
「Oh, i can’t speak japanese」
「英語だぁ、どうしよ〜」
「ん〜……」
「……あー、俺が話そうか?」
言語の違いからいきなり躓いてしまった私達を見兼ねて包がこちらにやって来ようとする前に、ジェットがそれを手で制して言う。
「まあ待て、そんな時にはこの天才の発明品“プリキットグミ”がある」
「お、確かに……」
ジェットのその言葉で、渡されたプリキットの中にそれが有るのを思い出す事ができた。早速取り出して中を開けてみると、鍵の形をしたグミが二つセットになっているのが見てとれた。
「はなまる可愛い〜」
「食べてみろ」
グミの見た目に違わず甘い果実のような味が口の中に広がっていく感覚から、お菓子好きのジェットの拘りを感じ取れた。
「「んん〜! 美味しい〜!」」
「美味しいだけじゃ無いぞ、食べればどんな言葉も理解して話せる様になる!」
「へぇ〜! すごーい!」
「凄いって、何が?」
「言葉が分かる!」
英語が日本語のように聞き取れたことに驚きを隠せない私達だったものの、続くジェットの一言で効果が3分しか続かない事を知ったことで、急いで話を聴くことにした……。
全員から話を聞くことに成功した私達は、集まって情報を整理する事にした。まずトムさんだが、卓也さんに“置物に似た柄のスカーフ”を選んで貰っていたらしい。その卓也さんからは、“家庭菜園が趣味の母親が好きな柄だと思った”という事を聞く事ができた。次にさえこさんは“カウンターで猫を撫でていた”と言っており、撫でられていた猫から“撫でられた”という驚くべき証言も出た!
残るのはちほさんと卓也さんだが、ちほさんは確かに、私達の為にクッションを探してくれていた状況で、その隙に置物を盗み運ぶ事は可能だ。しかし、彼女が思い入れの強い置物を盗むとは考え辛かったし、態々盗まれた事を明らかにする必要性はないだろうと考えた。
卓也さんの方は、置物を受け取った反応やスカーフの件で違和感の拭えなさを感じるものの、同じく店員である彼が盗む動機も証拠もない。
「あの〜。母が待ってるから、もう行かないと」
考え込んでいる間に告げられたトムさんのその一言で、タイムリミットが近づいて来たのを肌で感じ取った。なんとか引き留めようと私がアクションを起こす前に、ちほさんが卓也さんを注意するのが聞こえて来た。
「卓也君、プレゼント用のシール貼り忘れてる」
「あぁ、すみません……」
「もう……シールをサービスしております。この中からお好きなものをお選び下さい」
「この6枚の中から選ぶの? 悩むな〜。スカーフの色と合わせるかな〜」
トムさんは手渡された“向日葵”のイラストが描かれたシールを見ながら考え込む様子を見て、漸く私達は違和感の正体が理解できた。
「「見えた! これが、答えだ!」」
置物、スカーフの柄、向日葵……これらのキーワードから導き出される犯人は……あの人しかいない!
「犯人が分かりました!」
「置物を盗んだ犯人は……」
「「貴方です!」」
私達は卓也さんを指差しながらそう告げた。犯人扱いされた事に戸惑う彼はそれを当然のように否定する。
「……ボ、ボクが? そんな訳ないでしょ」
「いいえ、貴方しか考えられない!」
「今回の事件の謎を解く鍵はスカーフです」
「…スカーフ?」
犯行の仕方はこうだ。
卓也さんは置物を盗み、店員である事を利用して搬入口から出ようとした。しかしその時入店したトムさんに、スカーフが欲しいと頼まれた事で慌てた彼は置物をクッションの中に隠した……そこなら置物が割れる心配もないから。
「そんな、言い掛かりですよ!」
「卓也君がまさか……」
私達の推理を聞いて否定する卓也さんとちほさん。次なる一手として私はトムさんにある事をお願いした。
「トムさん、卓也さんがあの置物みたいな柄のスカーフを、お母さんへのプレゼントに選んだって言いましたよね。見せてもらえませんか?」
「はい、これだよ」
そういってトムさんが見せてくれたのは予想通り、向日葵柄のスカーフだった。
「花…?」
「ええ。あの置物とそっくりでしょう?」
「えぇっ!?」
「そう、卓也さんは花の形をした置物だと思ってたの」
「亀の置物なのにね!」
「か、亀……?」
卓也さんの要領を得ない反応を見つつ推理を続ける。最初に違和感を覚えたのはクッションの中から置物が見つかった時だ。
『6枚揃ってる! 何処も壊れてない!』
「おかしいと思った、亀の頭と足、しっぽを6
「花だと勘違いしてたから6枚って言ったの! 花びらを数えるみたいに!」
「店員の卓也さんがそんな間違いをする筈がない!」
「「あなたは卓也さんじゃない!」」
私達が再び彼に化けたファントムを指差すと、彼は押し黙ってしまう。このまま黙秘するつもりなのか……と思った所で包が動き出した。
「彼女達の推理に一つ付け加えさせてくれ。卓也さん、あなたの正体についてだ」
「……!」
「まずは、なぜあなたが亀の置物を花だと間違えたのか。これについてだが……先程の反応から、単純に亀を知らないということが一つ考えられる。もう一つは……これだ」
そう言いながら置物の前に立った包は、そのすぐ近くにある向日葵の絵を持ち上げて皆に見せつけた。
「こんなものが近くにあれば、初めて置物を見た人は花の形だと勘違いしてしまうかもしれませんね」
「……そ、それは」
「ああ、確かに! 彼は置物と一緒に、その絵も見せてくれたよ!」
トムさんの一言で彼が勘違いしていたという事実が補強され、更に追い込まれていく。
「変装して盗みをするという点から、正々堂々の盗みを好むゴウエモンは外れる。次にニジーだけど……あいつはこんなしょうもないミスはしない」
(そうなんだ……)
「というわけで、残ったのは怪盗団ファントムのメンバーの中で一番世間知らずの考えなし、つまり―――」
「―――アゲセーヌ。卓也さんに化けているのはお前だな?」
包の煽りが含まれた物言いが癪に障るのか、卓也さんのこめかみがピクピク震え始め、程なくして決壊した。
「……マジチョベリバぁ!」
卓也さんはメイクブラシを手に持ち、化粧によりその正体を現した。ピンクがかったオレンジ色の長髪に、二次―と同じく十字模様の入った緑の瞳を持ったギャル風の衣装を纏った女性の姿をした妖精。
「そう、アタシは怪盗団ファントムのアゲセーヌ! ていうか、アンタ相変わらずムカつく~!」
「ならもう少し本を読むなり外に出るなりしたほうがいい」
「はっ、余計なお世話だっての!」
置物目掛けて駆け出しそうとするアゲセーヌの前に包が立ち塞がり応戦の構えを取った。
「させると思うか?」
「あ~もう邪魔! フゥーー!」
置物を守ろうとする包だったが、アゲセーヌが一息吹いて現れたハイビスカスの幻覚に目を欺かれて動きを止められてしまう。
「チッ……目くらましか!」
「頂いていくし~!」
その隙を付いたアゲセーヌが置物を手に取り店の外に出て行ってしまった。それを追いかける私達だったが、アゲセーヌは軽やかにビルの屋上まで飛び上がり立ち去ってしまう。
「追うぞ!」
「「
包を先頭にアゲセーヌが逃げた方へ走り出す。私達より足の速い包が迷わず路地裏に飛び込んでいくのを見てそれを追っていくと、一つ向こうの通りで包とアゲセーヌが対峙しているのを見つけた。
「シィッ!」
「うわっ! 危ないでしょ!」
「「あっ! 居た!」」
アゲセーヌを挟む形で追い込んだ私達だったが、不敵な笑みを浮かべる彼女を見て気を引き締めた。
「……チッ、面倒だけど、ウソノワール様の為なら相手してやるっしょ!
嘘よ、覆え! チョベリグにしちゃって! ハンニンダー!」
アゲセーヌは手に出現させたハイビスカスをマコトジュエルに吹き放って力を注ぎこんでいく。嘘に覆われたマコトジュエルはその姿を変貌させ、向日葵を思わせる怪物となった。
「ハンニンダー!」
それと同時に、私達の周りを透明なフィールドが囲っていき、周囲の空間から隔離される。
「これって……!」
「これでアンタたち以外いない密室ができた訳だし、これで事件は迷宮入りっしょ!」
「そうは―――」
包が懐に手を伸ばそうとする前に、私達はペンダントを握りしめて叫んだ。
「「オープン! ジュエルキュアウォッチ!」」
ペンダントがジュエルキュアウォッチに変化し、マコトジュエルをそれにセットする。
「「プリキュア! ウェイクアップタイム!」」
光輝く空間の中で変身を終えた私達は、高らかに名乗りを上げる。
「どんな謎でも、はなまる解決! 名探偵キュアアンサー!」
「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵キュアミスティック!」
「「名探偵プリキュア!」」
「私の答え、見せてあげる!」
私達の変身を見届けた包は懐から手を離し、感慨深いように表情を緩ませた。
「なるほど……あの娘たちが、この時代のプリキュアってわけだ」
「ハンニン…ダー!」
彼の呟きに気付いていないハンニンダーは、私達二人に向かい蔓状の腕を振るってくるが、それを飛び上がって回避する。
「花じゃなくって亀だってば!」
「はぁぁぁっ!!」
ミスティックの我慢ならないといった叫びを聞きながら、私は回転し勢いを付けた回し蹴りを叩き込んだ。その威力に顔を仰け反らせたハンニンダーに向かって、ミスティックが追撃のストンピングを食らわせる。たまらず倒れ込んだハンニンダーに向かって檄を飛ばすアゲセーヌだったが……。
「何やってんのハンニンダー! チョベリバー!」
「チョベリバ?」
「最悪! って意味だ、ちょっと前に流行った言い方」
へぇ、そんなのがあったんだ。何かの略称なのかな?
「アゲ的には今もブームだし―――って痛っ!」
「隙だらけだ!」
ジェットの一言に怒りを隠せないアゲセーヌの後頭部目掛けて、包が上段回し蹴りを繰り出す。モロに食らい頭にたんこぶを作ったアゲセーヌは涙目になりながらも、ハンニンダーに命令を出した。
「っああもうウザい! まとめてやっちゃてハンニンダー!」
「ハン……ニン、ダー!」
その命令に従い、ハンニンダーはマントの中から新たに二本の蔓を生やして私達、そして包に向かって振り下ろしてくる。私達はそれを跳び上がることで回避し、側にいたジェットは戦闘に巻き込まれない様にポチタンを抱えて走っていく。
「包!」
「俺はいい! コレを持って二人の方へ!」
「……良かろう!」
私は包がネオンに何やら渡しているのを視界に入れつつ、建物の壁を走りハンニンダーに近付いていく。だが続くハンニンダーの攻撃で再び高くジャンプし、落下の勢いを乗せたダブルパンチを振り下ろそうとした。
「「はぁぁーーー!!」」
「ハンニン、ダー!」
「「きゃっ、くっ……!」」
二度も同じ攻撃は通用しないとばかりに、ハンニンダーの顔が光り、そこから多数の光弾が放たれる。攻撃に意識を集中させていた私達は回避しきれず腕をクロスさせてガードするしか無かった。その隙を見逃さず、ハンニンダーはその四本の腕を使い私とミスティックを拘束した。
「あっ!」「ポチ!」
「ハンニンダ〜……!」
「「う、ぐぅ……っ」」
ミシミシと蔓で硬く締め付けながらハンニンダーは再び顔部を光らせると、動けない私達に向かって光弾の雨を降らせてくる。
「させぬ!」
成す術なくやられてしまうのか、という所で私達をネオンが庇い、手に持つプリキットライトで盾を作り出した。藍色の光を纏う盾は光弾を見事に防いでいるが、それを構えるネオンの顔は険しい。
「ネオンさん……!」
「済まぬが、長くは保たぬぞ…!」
「くっ……! 解けない!」
ネオンの助力を無駄にするまいと力を込めて引きちぎろうとするも、蔓はびくともしない。絶体絶命な状況を見ているアゲセーヌは勝利を確信する様にダブルピースすると、何もない空間に呼び掛けた。
「イェーイ! アゲの活躍見てる〜? ウソノワール様〜!
…アンタは変身しなくてイイワケ? このままじゃアイツらやられちゃうけどぉ?」
「アンサー! ミスティック! 聞け!」
「「……っ!」」
「それは唯の蔓だ、毒もなければ溶けもしない! プリキュアの力なら簡単に解ける! 今君達が背負っている物を思い出せ!」
煽るアゲセーヌを無視しながら告げられた包のアドバイスを聞き、私達はちほさんの言葉を思い出す。
『これは店のシンボルなんです』
「そうだ…マコトジュエルも大事だけど、マコトジュエルだけじゃない…!」
息を肺いっぱいに吸い込んで、同時に脱力する。反発力が無くなり蔓の締め付けが強くなるが、それすらも自分の力に変えるつもりで気持ちを高めていく。
『亀みたいに歩みは遅くても、一歩ずつ前に進んで行こうって』
「ちほさんの想いが込められた大切なものを取り戻す為にも……!」
気持ちの昂りに感応した心のマコトジュエルが、私達に限界以上のパワーを与えてくれる。
「「
そして、溜めに溜めた力を一気に開放する!
「「っぐぅ……! はぁああっ!!」」
「よし!」
「ハ、ハンニンダー……」
見事に蔓の拘束を破り抜け出した私達は、腕を全て失い体勢を崩したハンニンダーに向けて最後の一撃を放つ。
「「これが
「ハン…ニン…ダー!」
ハンニンダーは最後の抵抗に光弾を撃ち放って来るが、閃光となった私達には最早障害にならずにハンニンダーに突き進んでいく。
「「アンサーだぁーーー!!」」
二つの拳がハンニンダーを貫き、その体内に浄化のエネルギーを注ぎ込んだ。ハンニンダーを突き抜けて着地した私達は高らかに勝利を宣言した。
「「キュアっと解決!」」
「ハン、ニン、ダー……」
浄化されたハンニンダーから現れたマコトジュエルを手に取り、ポチタンに取り込ませると、マコトジュエルを取り戻した事に喜びの声を上げる。
「ポチポチ、キュアキュア〜!」
ハンニンダーが浄化された事で隔離フィールドも消滅し、商店街の景色が元に戻っていく。その様子を悔しげな表情で睨むアゲセーヌが叫ぶ。
「ぐぅぅ……超ムカつく〜!」
彼女はマコトジュエルをまんまと奪い返された負け惜しみを口にすると、ハイビスカスに紛れて華麗に退散していった。
「あの娘達、中々やるじゃない」
「……帰ろう、マシュタン」
「……? ええ」
そして、プリキュアとハンニンダーの戦いを見ていた少女は表情を変えぬまま、妖精を抱えて立ち上がり、そのまま去っていった。
「ありがとうございます、探偵さん!」
ちほさんに取り戻した亀の置物を返すと、彼女はお礼の言葉を口にする。これで一件落着だ、と思っていた矢先で店の入り口が開かれ、卓也さんが中へ入ってきた。
「ただいま戻りましたー」
「えっ!?」
「…本物の卓也さんだと思います」
店での事件を知らない卓也さんは申し訳ないという顔でちほさんに報告する。
「買って来いって頼まれたハイビスカス、どこにも売ってなくて」
「私頼んでないけど…」
それを聞いて合点がいったという顔で包とジェットが頷いて言う。
「きっとアゲセーヌがちほさんに化けて頼んだろ」
「この場所で鉢合わせないようにする為の、いつもの手口だ」
「……そういえば、先生はいつから犯人が分かっていたんですか?」
それは私も気になっていた。私達が調査している時や推理を披露している間の彼の様子を見るに、私やみくるよりも早い段階で気付いていた様に思える。
「何時って、最初に卓也さんに化けたアゲセーヌが出てきた時から?」
「「えぇーー!?」」
「それって最初からじゃないですか!」
「吾輩の目にはしっかり、妖精の気配が映っていたのである!」
「そうじゃなくても、亀の置物を受け取った時にわざわざひっくり返す奴は見た事なかったからな」
なんてことない言い方でとんでもない事を口にする包に私とみくるは驚愕した。私なんてあの時、卓也さんの事なんて全く意識していなかったのに!
これが名探偵の観察眼……!
「探偵を志すなら、そうじゃなくてもプリキュアなら目に入るもの全てを怪しまないと駄目だぞ?」
「無理だよそんなの!?」
そんなやり取りをしてしばらく、購入したインテリアを持ち帰った私達は早速模様替えに取り掛かった。
少しして……。
「「出来た~~~!!」」
「ポチ~!」
「せ、先月の収入が全部飛んだ……」
「恐るべし女子中学生のこだわり……」
クラシカルな雰囲気から一転明るく可愛らしい雰囲気に生まれ変わった事務所を見て、私とみくるは歓喜の声を上げて喜んだ。背後で包とジェットの嘆きの声が聞こえてきたような気もするが、気付かないふりをした。
「いい感じに出来たね」
「ええ!」
事務所の外に出てきた私とみくるは、キュアット探偵事務所の看板を見ながら呟く。私達が此処で探偵になって初めての依頼は、一体どのようなものになるだろうか。そうみくるに聞いてみると彼女は私の方を向いてこう言った。
「わたし決めてるの、初めての依頼人」
「……私!?」
「ええ、あんな。貴女を元の時代に帰すって!
わたしに依頼してよあんな!」
みくるの頼もしさを感じる言葉が、私の心に大きく響いて染み渡っていく。泣きそうになる気持ちをなんとか抑えながら、彼女にお願いをする。
「みくる……私を、元の時代に帰して!」
「うん、その依頼引き受けた! ……貴女の事件を解決するためにも、頑張って立派な名探偵にならないと!」
「そうだね、一緒に協力して立派な名探偵になろう!」
「ポチィ!」
あんなとみくるが気持ちを新たに名探偵を目指そうとしている所を、窓の中から包とジェット暖かい目で見守っていた。
「似た者同士、いいコンビになりそうだな」
「ああ。……お前はあの娘に依頼、しなくてもいいのか?」
「……今ここで俺があそこに割って入ったら、折角作った名探偵のイメージが崩れるだろ」
「はっ。今更そんなの気にする奴じゃない癖に」
二人のやりとりには、数ヵ月という短い月日の中で築かれた信頼関係が見て取れる。
「……これから忙しくなりそうだ」
「そうだな。僕も早くアレを完成させないとだ」
二人の目には、笑顔を浮かべるあんなとみくるの姿が名画のように映っていた。
「……ネオン、アゲセーヌと一緒に居た女の子だけど…気付いてたか」
「うむ。二人の戦いを観察していたようであるな」
「ネオンの目には、あの娘はどう映った?」
「……黒、あるいは白、であるな」
「敵か味方か、そのどちらにせよ事情を抱えてそうだが……
まぁ、いずれ俺達の前に出てきてくれるだろうさ」
初めての依頼を解決した私達は向かうところ敵なし!
かと思ったら、二人の気持ちはちぐはぐで怪しい雲行きに……
このままじゃ、マコトジュエルを奪われちゃうよ!
次回、名探偵プリキュア!
「もう一人の名探偵」
その謎も、キュアっと解決!