プリキュア歴三年、過去に飛ばされました。   作:村正 ブレード

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 いや~遂にキュアエクレールの正体が判明しましたね。
 正直構想的には誰が正体でも良かったんですけれども、これからが楽しみですね。

 今回は一話にまとめたので長めです、ご容赦ください。


もう一人の名探偵

 

 

 明智あんなと小林みくるがキュアット探偵事務所の探偵になって初めての依頼を無事に解決して少しして。このまことみらい市にも新学期がやって来た。

 

 応接室の扉の前で、あんなとみくるが向かい合っている。一着しかない私服を着ているあんなが表情を明るくしているのに対して、私立まことみらい学園の制服に身を包むみくるの表情は少しだけ暗い。探偵とはいえその本分は学生である彼女は学校を休む訳にもいかず、それによって過去に来たばかりのあんなを残していく事が気掛かりだったのだ。

 

 「……本当に平気?」

 「大丈夫! 包さんもネオンもジェット先輩も居るし!」

 「でも……先生とネオンさんは兎も角、ジェット先輩はずーっと研究室に篭ってるし「うわぁぁぁっ!!?」……あはは」

 

 話題に出したばかりの少年の叫び声が落下音と共に耳に入ってきて、みくるは苦笑いを浮かべた。保護者役の一人がああではあんなも気が休まらないだろう、そう考えたのだ。

 

 「それに、ポチタンも居るし!」

 

 あんなが背後を振り返ると、窓際のテーブルの上で文房具やマグカップなど様々な物を小さな身体に取り込んでいくポチタンと、それを興味深そうに見守るネオンの姿が見える。

 

 「ポチ〜!」

 「ふむ……ポチタン殿が今取り込んでおる物はマコトジュエルと同じ空間に収納されておるのか?」

 「ポチ? ポチポチ」

 「ほぉ…意外と便利な能力であるな。物を出す時はどんな感じなのだ?」

 「ポチ? ポポポ……ポッチィ!」

 

 ネオンの問いにポチタンは、首元から取り込んだ消しゴムをポトンと落とす形で答えた。どうやら今の力ではこれが限界のようで、その後も力を込めて発射しようとしてポトポト落としていた。

 

 「ポチタンと話してる……」

 「昨日から色々入れるのが楽しいみたい。マコトジュエルで成長してるって事だよ」

 

 二人の妖精の微笑ましい光景を見ていた二人の横に、エプロン姿の包がやって来た。

 

 「お、まだ出てなかったみたいだな、いや良かった良かった」

 「包さん?」「先生?」

 

 雲の多い空模様でも太陽が燦々と大地を照らす様に、どことなく湿った雰囲気を醸し出す二人とは対照的な明るい雰囲気を纏った包は、みくるに包みを手渡した。

 

 「はいこれ、お弁当」

 「え……良いんですか?」

 「うん、中身は開けてからのお楽しみって事で。……もしかして要らなかったか?」

 「……いえ、いただきます! 先生の料理は美味しいですし」

 「…………」

 

 思いがけないプレゼントを受け取り笑顔を浮かべたみくるを、あんなはじっと見つめていた。それを見て何を勘違いしたのか、包はあんなに揶揄う様な目線を向ける。

 

 「……おやおや、あんなさんは食いしん坊ですねぇ。ちゃんと君の分もあるから安心しなさい」

 「えぇっ!? ち、違うよ! …そ、そんな事より! 急がないと学校遅刻するよ!」

 「ふふっ……。何かあったら、ボイスメモで連絡して! 先生もですよ!」

 「はいはい」

 

 気の抜けた包の返事を聞きながら応接室の扉の向こうに立ったみくるは、やって来たポチタンとネオンを含めた四人に向かって手を振って言う。

 

 「いってきます!」

 「「「いってらっしゃい(である)」」」

 「ポチィ!」

 

 出発するみくるを見送った四人はそれぞれ行動し始める。包は研究漬けのジェットへ差し入れを持っていき、ポチタンとネオンは再び遊び始めた。

 住人が一人居なくなった事務所の風景を静かに見ていたあんなは、誰にも聞こえない声で呟いた。

 

 「……静かだな」

 

 

 

 みくるが学校へ行って暫くした頃、あんなはサンルームに置かれた席に座ってポチタンとネオンに話しかけていた。

 

 「みくる大丈夫かな…今日から中学二年生でしょ? 新しいクラスで緊張してないかな」

 「……心配しなくても大丈夫じゃないか? あの娘は人当たりが良いからな。…カフェオレで良かったか?」

 「包さん。うん、ありがとう」

 

 みくるを心配する一言に反応した包は、あんなに淹れたてのカフェオレを差し出して対面に座る。それを受け取り礼を言った彼女は、飲み物に口を付けた彼に視線を向けた。

 

 「……包さんって、みくるとは付き合い長いんだっけ」

 「ん? ……うーん、俺がこっち来てからだから…二ヶ月位かな」

 「そうなんだ…意外と短いんだね」

 

 てっきり何年も一緒にいるのかと、あんなは内心思っていた。1999年にタイムスリップして数日しか経っていないが、その間にも包とみくるの間にある確かな信頼関係を目の当たりにする瞬間が幾つもあったからだ。

 

 プリキュアに変身して共に戦っているのはあんなであると言うのに。

 

 「……みくるって、友達多いの?」

 「うん、そうみたいだな。一緒に街を歩いている時も何度か話しかけられてたし、紹介された事も結構あるよ」

 「ふーん……」

 

 何だか心がチクチクと痛む気がして、あんなは側に置いた地球儀を指で回した。回転する様子を黙って見つめる彼女のつまらなそうな顔を見て、包は苦笑しながら考えていた提案を伝えようとする。

 

 「……なぁ、あんな。もし良かったら―――」

 「ポチーー!」

 

 それよりもほんの少し早く、ポチタンが回る地球儀に反応して声を上げた。驚く二人の目の前で、彼は地球儀を宙に浮かせ始める。

 

 「ポ、ポチタン!?」

 「何する気だ…?」

 「ポ…ポッチィーー!」

 「ポチタン殿! やめておいた方が……」

 

 地球儀を瞬く間に光に変換したポチタンは、他の物と同じ様に取り込もうとする。それを見たネオンは慌てて止めようと声を掛けるが……。

 

 「ポ……チィ!?」

 「「うわぁっ!?」」

 「あぁ……」

 

 制止の声も虚しく、許容オーバーしてしまったポチタンは地球儀と一緒に取り込んだ物全てを吐き出してテーブルに散らばらせた。

 

 「ほら……無理して入れるから」

 「ポチ……」

 「…ネオン、ちゃんと見てないと駄目だろ?」

 「わ、吾輩が悪いのであるか!?」

 

 そんな和やかな雰囲気の中、サンルームに差す太陽の光が陰る。それを見たあんなは、逃がしていたマグカップを置き直す包に聞こえる声で呟いた。

 

 「ん……? なんか雨が降りそうだね。みくるに傘持ってってあげようか」

 「良いんじゃないか、次いでに学校の様子も見てくると良い」

 「……? うん!」

 

 部屋の電気を付けた頃、傘を一本手に持ったあんなが応接室を出ようという時にジェットが走って入ってくる。

 

 「ん?」

 「……出来た! 古い本にあった、伝説のプリキット!」

 「伝説!? それって、包さんが持って来た本に書いてあったやつ?」

 「ああ! あぁいや…それとはまた別だ。詳しい事は分からないけど、名探偵プリキュアの危機を救ってくれるらしい!」

 「凄い!」

 

 その返答に笑顔を浮かべたジェットは、そこで漸くあんなが傘を手に持っているのに気付き問い掛ける。

 

 「出掛けるのか?」

 「うん! みくるに傘持って行くの」

 「…じゃあ、みくるにも渡してくれ」

 「分かった! ありがとう!」

 

 ジェットからプリキットを受け取ったあんなは、ハートマークが特徴のスティックの形をした二つのそれを見つめて呟いた。

 

 「…お揃いだね」

 

 

 

 曇り空の中を軽い足取りで進むあんなは、腰にぶら下げたポチタンに声を掛ける。

 

 「流石に名探偵みくるでも、天気までは読めないよね……」

 「ポチ?」

 

 包なら実は読めたりするのだろうか……、なんて考えを思い付いた所であんなははたと気づく。

 

 「……あっ!? みくるの分しか持って来てない……」

 「ポチ……」

 

 うっかりな彼女を呆れた目で見ながら鳴くポチタンに苦笑しながら、あんなは足を早めた。

 

 「雨が降る前に届けて早く帰ろう!」

 

 

 

 あんなは走ったお陰か、曇り空が少し深くなって来た頃に学校に着くことが出来た。

 

 「ここだ、みくるの学校! ……あ!」

 

 そして、あんなは幸運にも二階の連絡通路で立ち止まるみくるを見つける事に成功した。

 

 「みくるだ! みく「み〜くるっ!」…っ」

 

 傘を持ち上げ、声を張り上げてみくるを呼ぼうとしたあんなを遮る形で、赤毛の少女がみくるの背中に飛びついた。突然の事に驚いた様子もなく、彼女は()()()()()()()()()笑顔で応対する。

 

 「ちょっとぉ…りえ!」

 「また同じクラスになれるなんて〜」

 「嬉しいよぉ!」

 「ええ、宜しくね!」

 

 仲良さそうに会話する三人を見てあんなは力なく腕を下ろすも、みくるは変わらず彼女に気付いていない様子だった。

 

 「……なんか降りそうだね」

 「傘忘れちゃった…」

 「わたし持ってるから一緒に帰ろう!」

 「…ありがとう!」

 「もぉ…忘れちゃ駄目だよ? みくる〜」

 「降ると思わなかったんだもん!」

 「「「ふふ…あはは!」」」

 

 「…………」

 『一緒に街を歩いている時も何度か話しかけられてたし、紹介された事も結構あるよ』

 (そうだよね……みくる、友達多いんだもんね)

 

 楽し気に笑うみくるの姿を見て今朝の包の言葉を思い出したあんなは、惨めな気持ちになりその場から逃げ出そうとする。

 

 「……っ、あっ!?」

 

 しかし、走り出そうという所であんなは前から歩いて来た人物とぶつかってしまう。

 

 「ごめんなさい!」

 「いえ…こちらこそぼーっとしてて……」

 「ポチ……?」

 

 あんなはぶつかった拍子に落とした写真を拾いながらその人物を見ると、その相手は先程見た少女よりも濃い赤色の髪をした女性だった。女性は何処からか聞こえて来た鳴き声に反応して首を傾げる。

 

 「ぽち?」

 「あっ!? ……その、私もこんな写真…ぽ、ぽち〜っ! 欲しいな〜って……あはは」

 「…ありがとうございます。妹なんです」

 「……仲良さそうですね」

 

 二人の女性がピースサインを取っている写真を受け取った女性の、事情がありそうな表情を見てあんなは話を聞いてみる事にした。

 彼女……“北村真理子”が言うには、写真に写っているもう一人の女性の名は“北村恵子”といって、みくると同じ私立まことみらい学園の高等部に通う二年生。交換留学でロンドンに行っている筈の恵子を最近街で見かけたと言われた真理子は、自身も今朝大学に行く途中の駅前で彼女を見かけたと言うのだ。それを追いかけて此処に辿り着いた真理子が学校に確認するも恵子は変わらずロンドンに居ると言われ、当の彼女に連絡を取ろうと電話したが出なかったという。

 

 「何だか心配で……」

 「……私に「はい、そこまで」わぷっ!?」

 

 思い詰めた表情をとる真理子を見ていてもたっても居られなくなったあんなが声を上げようとした所で、またもや遮られてしまう。頭をポンと軽く抑えつけられたあんなは声のした方を見る。

 

 「…包さん!? どうして此処に!?」

 「貴方は……探偵さん?」

 「お久しぶりです、真理子さん」

 

 そこに居たのは、先程別れたばかりの包だった。

 

 「って言うか、二人とも知り合いだったの!?」

 「ええ…以前、失くしものを探していただいて…」

 「その節はどうも……そんな事よりもあんな、途中から話は聴かせて貰ってたけど、今一人で依頼を受けようとしただろ」

 「ぅ……」

 

 痛い所を突かれたあんなが押し黙っているのを見て、不思議に思った真理子が包に問い掛ける。

 

 「依頼?」

 「……と言うのは違いましたね。この娘は真理子さんの悩みを解決しようとしてたんです」

 「…そうなの?」

 「うん……恵子さんを見つけてあげられないかなって」

 

 出鼻を挫かれたあんなだったものの、気を取り直して真理子を見つめ、自分の気持ちを伝える。

 

 「あんなちゃんも、事務所の探偵なんですか?」

 「ええ、自慢の愛弟子…違うか、後輩ですよ」

 「そうなのね……なら、お願いしようかしら」

 「え?」

 

 微かに笑顔を浮かべた真理子は写真をあんなに手渡しながら告げる。

 

 「わたしの依頼を引き受けてくれるかしら、探偵さん。恵子を見つけて欲しいの」

 「……はい、必ず! 私がはなまる解決して見せます!」

 

 二人が写った写真を受け取ったあんなは、真理子からの依頼を真剣な顔で引き受けた。その姿が何だか微笑ましくなって、真理子は笑顔を浮かべる。

 

 「それじゃあ、わたしはこれで」

 「……ああ、真理子さん。一つ頼みたい事が」

 「……? どうしたの包さん?」

 

 立ち去ろうとした真理子を引き留めた包にあんなが首を傾げていると、彼は続きを話した。

 

 「恵子さんにもう一度電話をかけて欲しいんです。出来れば…16時以降に」

 「構いませんけど……どうしてその時間に?」

 「日本の方がロンドンよりも9時間進んでいますから」

 「……あ! そっか、そうでしたね。焦って忘れてました……ありがとうございます、やってみますね」

 「お願いします。それと、雨が降りそうなのでこれを」

 「あっ、傘……」

 「ここまでしていただくなんて……! ありがとうございます!」

 

 包に二本持っていた傘の片方を渡され、そのまま頭を下げて立ち去る真理子を見送った二人。先程の頼みが気になったあんなは、歩きながら包を問い質す。

 

 「さっきのって、どう言う事?」

 「時差だよ。日本とロンドンは経度にして−135度前後離れているから、日本での16時はロンドンでは大体6〜7時になるんだ。授業で習わなかったか?」

 「えっ……えぇっと…うん、まあ?」

 

 やった様なやっていない様な、といった表情のあんなを呆れた目で見る包は、彼女の気も知らずに此処にいないもう一人の名前を出した。

 

 「みくるならもっと正確な時間を知ってる筈だから、後で聞いてみると良い」

 「…………みくるが?」

 「うん、ロンドン出身だからな」

 「……そうなんだ、知らなかった」

 

 また、あんなの知らないみくるの情報がさらっと出た。

 

 「よぉし! 早速情報集めだ、行くぞあんな!」

 「……え? 何処に?」

 「学校! 折角来たんだし、な」

 

 そう言って包は柵の向こう、校舎を指差した。その一言を聞いて、あんなは一瞬みくるの顔を思い浮かべた。

 

 『何かあったら、ボイスメモで連絡して!』

 (そうだ、みくるにも言っておかないと……)

 

 『み〜くる!』

 『ちょっとぉ……りえ!』

 『『『あはは!』』』

 

 「…………っ!」

 

 つい先程目にしたばかりの光景が頭に浮かんできて、あんなは手に取ったボイスメモを再び懐に戻し包の後を追った。

 

 

 

 

 場面は変わり中等部の校舎の中。みくるは友人の二人と共に歩いていた所、背後から呼び止められた。

 

 「みくるさん」

 「ん……あ、れい?」

 「生徒会長だ、どうしたの?」

 

 そこに居たのは、中等部の生徒会長であり友達でもある“金田れい”だった。相変わらず表情を硬くした彼女は、端的に用事を伝える。

 

 「みくるさんを理事長がお呼びです」

 「え……」

 

 二人に一言断った後、みくるは理事長室の中で理事長と話していた。

 

 「態々すみませんね。聞きましたよ? 寮を出て探偵事務所に入ったと。夢に一歩近付きましたね」

 「はい、お陰様で!」

 

 こう言ってはいるが実の所、理事長はみくるの夢の応援とキュアット探偵事務所の存在を教えただけなのだが……彼女はそれでも世話になった恩師に改めて感謝を伝える。

 

 「そこで…と言っては何ですが、みくるさんにお願いがあります。事件を解決して欲しいんです……幽霊騒ぎを」

 「……ん?」

 

 お世話になった理事長の頼みとあれば何でも引き受けるつもりだったみくるは、補足された説明に驚愕の声を上げる。

 

 「…………え、ゆ…ゆゆゆ、幽霊〜〜!!?

 

 

 

 

 

 無事に学校の敷地内に入り込めた二人は、燕の像の前で来客用の札を下げながら立っていた。

 

 「同じ敷地に中学と高校があるんだ…」

 「ああ、だからここで聞き込みすれば、恵子さんの情報も集まる筈だ」

 「……それにしても」

 

 周囲から寄せられる奇異の視線を二身に浴びているこの状況に、あんなは思わず口を震わせる。

 

 「浮いてるかも……」

 「ま、私服の男と中学生が高等部に居ればこうもなるな」

 「……そうだ! 包さんこっち!」

 「あっ、おい!」

 

 何か思いついた様子のあんなは包の手を引き、逃げる様にして校舎裏に隠れた。そこであんなは懐に手を入れ、プリキットを一つ取り出した。

 

 「オープン! “プリキットグロス”!」

 

 本来の姿になったリップグロスを唇に塗り、あんなはジェットの言っていた通りにイメージを固める。すると彼女を光が包み、そこから高校生程に成長し高等部の制服を着た姿で再び現れた。

 

 「おぉ〜……よく似合ってる」

 「ポチ?」

 「ふふん、どう? 女子高生、明智あんなだよ」

 「……だけど、制服は別のにした方が良かったんじゃないか? ゲスト札が目立つと思うんだけど…」

 「あっ、そこは考えてなかった」

 「……まあいいか」

 

 良くはないだろうが、取り敢えず良い事になった。

 

 「よし、じゃあ二手に別れよう。それぞれで恵子さんの情報を集めて、何か分かったら集合するって事で」

 「うん! ……あっ、でも写真は一枚しかないよ?」

 

 恵子さんの顔が写った写真は、真理子さんから貰ったものしかない。それなのに別行動しても良いのだろうかと考えていたあんなに向けて、包は自らのプリキットブックを開いて見せた。

 

 「これ、恵子さんの似顔絵!? 上手っ!」

 「ポチ!」

 「これなら問題ないだろ?」

 

 写真に写る顔とそっくりに描かれた見事な似顔絵を見て、あんなは思わず驚きの声を上げた。画伯の弟子とは大違いの画力だ、流石名探偵は格が違う。

 

 「……よし、調査開始! おー!」

 「「おー!」」

 「ポチー!」

 

 

 

 あんなと包は二手に別れて調査を開始した。あんなは早速見つけた女子高生の背中に声を掛ける。

 

 「あの、この娘を捜してるんですけど」

 「ん? あぁ、恵子? わたし同じクラスだよ」

 

 なんと、一発目から当たりを引き当てた様だ。自分の運の良さに心の中でガッツポーズを取ったあんなは、続けて話を聞くために口を開こうとしたが……。

 

 ピピピピピピ!

 

 「はっ!? プリキットボイスメモだ……!」

 「……携帯? バレたら取り上げられちゃうよ」

 「え!? あぁ…っ、ち、違うんです……!?」

 

 なんて悪いタイミングでかかって来るんだ、とあんなは内心で愚痴を溢しながら、相手も確かめずにボイスメモを背中に隠した。

 

 (包さんには後でかけ直そうっと…)

 「話の途中ですみません、恵子さんなんですけど……」

 「昨日の夜、ロンドンからメール来たよ?」

 「メールかぁ……」

 

 内容は兎も角として、リアルタイムの電話と違い予約送信も出来るであろうメールは少々証拠として扱い辛い。他に何かないか、更に聞き込みを続ける事にした。

 

 

 

 「すんません、話した事ないんで……」

 「あぁ、いえ……ご協力ありがとうございました」

 

 対する包の方の収穫は芳しくなかった。あんなと別れてから何人かに話を聞いてみるも、偶然にも同クラスの人を見つけることすら出来ずに撃沈していたのだ。

 

 「さぁて、どうしたもんかな…」

 「包、もう少し聞き込みを続けるべきである。根気強く探せば、きっと知り合いもいる筈なのである」

 「ああ、言ってみただけだよ」

 

 ピピピピピピ!

 

 すると突然、包の持つボイスメモが着信音声を流し始める。どうやら相方は早速情報を手に入れた様だ。

 

 「(優秀だな、感心感心)俺だ。そっちはどうだあんな? 俺の方は生憎収穫なしで―――」

 『……先生? わたしです、みくるです』

 「げっ、みくる!?」

 

 思ったのと違う相手、しかも今一番聞きたくなかった声が流れて来たことで、思わず声を上げてしまった包を電話の相手が厳しく追及する。

 

 『げっ、て何ですか先生……はっ! まさかわたしに黙って、二人で依頼を引き受けたんじゃないですよね……?』

 「いやいや、そんな事ないぞみくる。あんなとはちょっと買い物に出てて……」

 『……嘘ですよね。さっきあんなに電話したけど出なかったんです、連絡を無視するなんて…何か事件があったからに違いありません』

 (なんで出なかったんだよあんな〜!?)

 

 後輩の珍しく杜撰な対応に思わず内心で叫ぶ包は、追及を交わそうと試みる。

 

 『ちょっと、聞いてるんですか先生! わたしの方もこれから―――』

 「あ、あー! 何だか急に電波が〜!? 電話が繋がり難くなってるなぁ〜!?」

 『え? でもこっちは―――』

 

 態とらしく恍けた言い方に戸惑うみくるの返事を待たず、包は電話を切断し、すぐに自分の行為に溜息を吐いてしまう。

 

 「はぁ……ついやっちゃった」

 「後が怖いであるな……」

 

 

 

 「二人とも、どうして…?」

 

 事務所の仲間に相次いで袖にされたみくるは、疎外感を感じながらボイスメモを下ろした。

 

 「……取り敢えず、一人で調査しよう! 二人には後でじっくり聞かせて貰おうっと」

 

 気を取り直したみくるは、幽霊を見たと言うこの学校の警備員に話を聞くことにした。

 

 「……警備員さん、幽霊を見たって理事長から聞きました。詳しく聞かせて下さい」

 「あぁ……。高等部の中庭でね、怪しい人影を見たんで行ってみると……」

 

 みくるの質問に眼鏡を光らせた警備員の男性は、まるで怪談を話すかのような口調で続きを話し始める。

 

 「フッ、と。消えたんだ!」

 「ぅ、ううううっっ……」

 「それも、見たのは一度や二度じゃない!」

 「うううぅぅ……!!」

 「……話聞かせてって言ったのに、聞いてないじゃない」

 「幽霊いや! お化け嫌い!」

 

 ……結局、幽霊を怖がったみくるは警備員から話を聞くことはついぞ叶わなかった。彼女は校舎傍に植えられた生垣の縁に腰掛けながら曇り空を見上げる。

 

 「なんか、嫌な天気……」

 

 自分の今の心情を表している様で、何だか不気味に思えて膝を抱えるみくる。その背後で、生垣が音を立てて揺れ動いた。

 

 「うひぃっ!? だ、誰かいるの!?」

 

 即座に反応して飛び退いたみくるは鞄とプリキットライトの二重盾を前に突き出して反応を待つ。しかし彼女の思惑とは裏腹に生垣が揺れる大きさはどんどん増していく。

 

 「…な、何なのぉ……!?」

 

 余りにも恐ろしい事態を前にふと、みくるは過去の情景を思い出した。

 あんながやって来る以前、包と共に同じ様な案件の依頼を受けた事があった。神社の近くにある森の中で現れると言われる幽霊の正体を探ると言った内容で、夜中に潜入したのだ。

 そこで二人はなんと、世にも恐ろしき赤い人魂を見てしまったのだ!

 

 『うぎゃあああぁっ!?!? 先生ぇ〜!?!?』

 『おわあああ引っ付くな!? 動けないでしょうがぁ!?』

 

 幽霊が大の苦手な二人は慄き震えてしまった……が、その正体が実は丑の刻参りをしていた唯の人間であったので何とか切り抜けることが出来た。

 

 その焼き増しとも言うべき今の状況に涙目になったみくるの目の前で、生垣から()()()()()()が姿を現した。

 

 「「うわああああぁあぁっっ!?!?」」

(助けてあんな!! ポチタン!! ジェット先輩!! ネオンさん!! 先生ー!!)

 「みくる! 私だよ!」

 

 この場にいない仲間の名前を心の中で叫びながら影に背を向けて蹲っていると、背後からあんなの声が聞こえてきた。思わず振り向いて正体を確かめると、そこに居たのは怪物ではなく枝を二本持っただけのあんなだった。

 いつの間にか高等部の制服を着ていた彼女は元の姿に戻ると、生垣を乗り越えて近づいてくる。

 

 

 「ぁんな……?」

 「何があった!!? って……何だこの状況?」

 

 更に、みくるの悲鳴を聞いた包が現場に飛び込み、困惑の声を漏らした。

 

 

 一階の連絡通路に移動した三人は、それぞれの状況を話し合う……という事にはならなかった。

 

 「二人で依頼を引き受けた!? 何で相談してくれないの!?」

 「…みくる学校だし、なんか…悪いかなって」

 

 みくるの怒り混じりの問いかけにどこか拗ねた様子で返すあんな。真面目に取り合っていないように見えたみくるは、そんなあんなに改めて伝える。

 

 「……分かってるでしょ!? わたしには学校も探偵も、どっちも大切だって! 一人で調査して、もし上手くいかなかったら!? 依頼人に迷惑がかかるでしょ!?」

 「……俺もいるし一人じゃ…」

 「先生は黙ってて!」

 「はい……はぁ」

 「ここは静かにしておくべきであるな……」

 

 厳しい言葉を吐くみくるから庇おうとした包だったが、あえなく跳ね除けられて仕方なく階段に腰掛ける。

 支援を失い、みくるの説教を一身に受ける事になったあんなは、泣きそうな顔で下唇を噛みながら耐えていたが、遂に決壊して反撃する。

 

 「…みくるだって! 一人で依頼引き受けたでしょ!」

 「ボイスメモで連絡したけど、出ないから…先生は誤魔化すし」

 「ひゅ、ひゅ〜ひゅ〜……」

 「だって、調査中だったから…。それこそ、調査が失敗したら真理子さんが悲しむよ!」

 「真理子さんって…?」

 「依頼人! 妹の恵子さんを探してて……」

 

 その時だった。みくるの視界、あんなの向こう側にある燕の像の前に一人の女子高生が立っているのに気付いた。像をじっと見つめていた彼女は、振り返って立ち去ろうとしているのが見えて思わず声を上げてしまったみくるを、あんなが不思議に思う。

 

 「みくる…?」

 「…ごめん! 行かないと!」

 「みくる!? ……話の途中なのに…」

 

 あんなの制止を振り切り走り去ってしまうみくる。

 

 すれ違う二人の様子を見て、包はあんなを手招いた。

 

 「……あんな、ちょっと話そう」

 「……え? う、うん」

 

 隣にちょこんと座ったあんなを暖かな瞳で見る包は、努めて優しい声色を作って彼女に問いを投げる。

 

 「今日はどうしたんだ、何かあったのか?」

 「……気付いてたんだ、包さん」

 「まあな。今朝も本当は弁当じゃなくて、みくるを見てたんだろ?」

 「……うん」

 

 何でもお見通しといった風な包の言葉に諦めたのか、あんなはポツポツと話出した。

 

 「最初はね、なんて事無かったんだ。みくるが学校に行くってなっても、楽しみにしてたのが分かってたから。……ちょっと寂しかったけど、みんながいるし」

 「……うん」

 「でも、みくるに傘を届けに行って、友達といるみくるを見て……声、掛けられなかったの」

 「…………」

 「笑ってたんだ。友達と、見た事ない…知らないみくるで。私の知らない、みくるの世界があるんだって」

 「……それは」

 「分かってる、出会ったばかりだから知らなくて当然だよね。

  ……でも、凄く嫌な気持ちになったんだ。初めて出会った時からそう、みくるの周りには世界が出来上がってて、私がそこに割って入ったみたいな感じがずっとあったの」

 「あんな……」

 

 そう、そうなのだ。あんなにとって、ただ一人しかいない相棒の傍には既に頼れる師匠も仲間もいて、友達も一杯いる……有り体に言えば満ち足りている様に見えたのだ。

 ……彼女には、みくるしか居ないというのに。みくるが居なくなれば、ひとりぼっちなのに。

 

 「私の知らないみくるの事を包さんやジェット先輩に聞かされる度に、胸がチクチクして、モヤモヤして……」

 「………っ」

 「嫉妬してたの、みんなに。みくるの事を私よりも沢山知ってるのが悔しかった。…………っ寂しかったの!」

 「……そうか」

 「……この時代に来て……、ひとりぼっちで…っ、私にはっみくるしか居ないのに…うぅっ、それなのに…私の気も知らないで、前に…進んでいくみくるがっ嫌だったのっ! 置いていかないでって……思って……っ」

 「ポチ…」

 

 気付けば、あんなの瞳からは涙が流れていた。自分の気持ちを吐き出す事で涙腺が緩み、悲しみの感情と一緒にとめどなく溢れ出て止まらない。

 

 「うぅ……っ、ふっ…ふうっ、ぐすっ……」

 「…………」

 

 腕で瞼を押さえ、蹲って泣きじゃくるあんなを包はじっと見つめていた。同じく未来からやって来た彼には、あんなの気持ちが痛いほどよく分かっていた。。知らない土地や人の中で過ごさなければならない不安、無くならない望郷の念、大切な人に会いたいという気持ちは、今も包の中で燻っている。

 

 「……あんなの気持ちは、俺にもよく分かるよ」

 「……え?」

 「俺にはネオンが居たからまだマシだったけど…あんなは本当に一人で来たのに、よく耐えた方だと思うよ」

 「どういうこと……?」

 

 暗闇の中で一人、誰も手を引いてくれないで歩く時の気持ちは包もよく知っていたから。だから彼は……あんなに真実を伝える事を決めた。

 

 「俺も未来から来たからな。あんなと同じ、2027年から」

 「………証拠は?」

 「これでいいか?」

 

 あんなの訝しむ視線を受けて包が懐から取り出したのは、モノクロで配色された一個のスマートフォン。それをあんなに差し出す。

 

 「これって…スマホ!?」

 「ああ。最も、こっちに来てからは電話も繋がらないしアプリも開けないしで、完全にお守り代わりだけどな」

 「……本当に、未来から来たの?」

 「うん。俺は2027年の1月24日から1999年1月24日に来たから……丁度28年分かな」

 「私と同じ…ううん、もっと前に……じゃあ、包さんもポチタンが?」

 「ポチ?」

 「…いや、俺達は別の奴が原因だ。黒い……こんな感じの球体に、ぐおおおって吸い込まれてな」

 

 そう言って包は黒い球体に触手が生えたおどろおどろしいイラストを見せる。

 

 「何これ……」

 「変だろ? これに比べたら、ポチタンは可愛いもんさ」

 「うむうむ」

 「ポチ〜」

 

 話を聞いていたポチタンは何だか褒められた気がして頭を掻きながら照れる。その様子を見て、あんなは可笑しくなって笑顔になった。

 

 「……ふふっ」

 「…だから、さ。今度からは俺にも頼ってくれ……みくるが居ない時で良いからさ」

 「包さん……」

 「これからは、俺も君の笑顔を守るよ。良い思い出沢山作って、笑って未来に帰ろう」

 

 包は気持ちの良い笑顔であんなにそう言った。それを見て初めて、あんなはみくる以外の人に暖かな気持ちを抱くことが出来た気がした。

 

 「……ありがとう」

 「……そうだ、みくるにもちゃんと話せよさっきの話」

 「え?」

 「自分の気持ちを全部伝えて、話し合えば……きっと仲直り出来るさ。みくるだってあんなの事が嫌いになった訳じゃない。……あんなにもそれは分かってるだろ?」

 「……うん」

 

 あんなが少し調子を取り戻した表情でコクリと頷いたのを見て、包は膝を叩いて立ち上がった。

 

 「よし! それならさっさと事件を解決して、話す時間を作らないとな!」

 「…うん! 頑張ろう!」

 「ポチー!」

 

 

 

 一方その頃みくるは、先程見つけた女子高生の背中に声を掛けていた。

 

 「……あの!」

 「うん?」

 

 みくるの声を聞いた女子高生は振り向き、彼女と目を合わせた。その姿はあんな達が探している恵子そっくりであったが、それを知らないみくるが気付く筈もない。

 

 「……幽霊じゃないよね…い、いえ! あの…この辺で何か変わった物を見てませんか」

 「さぁ、特には……」

 

 みくるの問い掛けに首を傾げる恵子?を見て当てが外れたと感じたみくるの視界に、一羽の燕が映る。その燕は二人の間を飛び回った後、満足したかの様に遠くへ飛び去っていってしまう。

 

 「…………」

 「…降りそうですね」

 「?」

 「良く言いませんか?燕が低く飛ぶと雨が降るって」

 「……その手があったか

 「え?」

 

 みくるの蘊蓄を聞いた恵子?は得心がいったかの様に小さく声を出すと、そのまま立ち去ろうとする。

 

 「ううん。お陰で助かったわ」

 「はぁ……」

 

 一度あんな達の元に戻ろうと踵を返すみくるの背後で、笑顔を浮かべる恵子?の瞳には、いつの間にか十字模様が入っていた。

 

 少し歩いた所でみくるが見たものは、物凄い速さで走り込んでくるあんなとポチタン、それを追う包とネオンの姿だった。

 

 「ポチィーーーー!!!」

 「うぇぇぇっ!!? もしかしてマコトジュエル!?」

 「何だってこんな時にこんな場所で!? 今までそれっぽい物無かっただろ!?」

 「言っている場合ではないぞ包! 急がねば!」

 「あ! みくる!」

 

 みくるが呆気に取られていた所、あんなに見つかり名前を呼ばれてしまう。彼女が咄嗟に出した声は余りにも情けなかった。

 

 「いぃっ!?」

 「みくる! マコトジュエルが危ない!」

 「えっ!? えっうぇえっ!?」

 

 全く状況が分かっていないみくるの手を引いて更に駆けていくあんな達。辿り着いたのは幸いにも近場、この学校のシンボルである燕の像の前だった。

 像を見上げた所で縁に降り立ったのは、この場の全員が知っている顔だった。

 

 「恵子さん!?」

 「えっ!?」

 「私が捜してた人!」

 

 混乱するみくるに事情を話したあんな。それを聞き何とか話を飲み込む事ができたみくるの前で、恵子?が告げる。

 

 「恵子じゃないよ」

 

 そして、その巧みな変装を脱ぎ捨てて不適な笑みを浮かべた怪盗が現れた。

 

 「ニジー!?」

 「ふっ…」

 「なるほどな、真理子さんが見た恵子さんの正体はお前だった訳だ」

 

 包の言葉の裏で思考を纏めたみくるは、あんなに自分の考えを伝った。

 

 「捜してる恵子さん、ロンドンに居るって言ってたけど…寝てたのかも! こっちが朝8時だとしたら、4月のロンドンは夜中の12時だから!」

 「…包さんも、同じ事言ってた!」

 「わたしに話してくれれば直ぐに分かったのに!」

 「……さっき話そうとしたらみくるが行っちゃったんでしょ!?」

 「仕方ないでしょ!? わたしも事件を追ってたんだから〜!」

 

 「今そんな事話してる場合か二人とも!」

 「「うっ……」」

 

 二人が敵の前にも関わらず口論を始めようとした所で、包の一喝が飛んでくる。

 

 「……コホン! ボクを除け者にしないでいただきたい」

 「何で恵子さんに変装したの!?」

 「留学した生徒を利用したのさ…彼女は海の向こうにいるから、思いがけず会う事なんて絶対にないだろう? お陰で昼夜問わず好きなだけ調べられたよ」

 「……一体何を調べてたの?」

 

 その問いにニジーは口角を上げ、足元にある燕の像を爪先で叩いて答えた。

 

 「この像をどう運ぶかさ。街で何を使えば、この大きな像を運べるのか…兎に角調べ考えに考えた」

 「……そうか、その姿を真理子さん達が見つけたんだな…」

 「……ふっ、どう運ぶかを決めかねていたんだが…キミのお陰で思い付いたよ。……燕さ」

 「「……!」」

 

 ニジーがやろうとしている事に気付いた二人だったが、もう遅い。

 

 「嘘よ、覆え! 出よ、ハンニンダー!」

 

 ニジーは薔薇を像に突き刺し、その中に宿る()()()マコトジュエルに嘘の力を注ぎ込んで染め上げていく。間も無くして、完全に嘘に覆われたジュエルはその姿を変貌させた。

 

 「「ハンニンダー!」」

 「ハンニンダーが二体……あれにはマコトジュエルが二つも宿っていたのか!」

 「その通り、そして…大きな像も燕の様にして運べば良い! 燕の様に飛んで行けば、簡単に運ぶ事が出来る!」

 

 現れた燕を模した怪物が二体―――ここではハンニンダー♂、♀と呼称する―――現れ、その姿をニジーは見せつける様に示した。

 勿論、そんな好き勝手をさせるプリキュアの二人ではない。

 

 「……みくる!」

 「ええ!」

 

 「「オープン! ジュエルキュアウォッチ!」」

 

 身体に染みついた動きは、二人の精神状態に関わらずに動く事ができた。

 

 「どんな謎でも、はなまる解決! 名探偵キュアアンサー!

 「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵キュアミスティック!

 

 「「名探偵プリキュア!」」

 「わたしの答え、見せてあげます!」

 

 いつもの様に変身を完了した二人の前でも余裕を崩さないニジーは、ハンニンダーを見上げて呟く。

 

 「一気に二つもマコトジュエルを手に入れられるとは…正に一石二鳥」

 「渡さない! 幸せを運ぶと言われる燕はこの学校のシンボルなの! 生徒と先生達の思いが込もった像なの!」

 (そうだったんだ……そんな大切な物を、許せない!)

 「ふっ…このボクにも、幸せを運んでくれた様だね。ハンニンダー!」

 「「ハンニンダー!」」

 

 ニジーの号令を受け、ハンニンダー♂♀は雄叫びを上げて戦意を高揚させて飛び立った。

 

 「来るぞ二人とも! 構えろ!」

 (初の二体二……さて、どう動く?)

 「「……っ!」」

 「あっ……?」

 

 戦いを始める二人のプリキュアを、お手並み拝見とばかりに見ていた包だったが次の行動に驚いてしまう。なにしろ、二人はハンニンダー♂♀の攻撃を回避するべく()()()()()()と動いたのだから。

 

 「「痛っ…!」」

 「お馬鹿! 味方の方へ飛ぶ奴があるか!」

 「「ハンニンダー!」」

 

 勿論その隙を見逃す敵ではない。ぶつかって体勢を崩したアンサーとミスティックに向かって飛翔したハンニンダー♂♀は、その巨体を直撃させる事に成功した。

 

 「あぁっ!?」

 「ぐっ!?」

 

 見事に跳ね飛ばされた二人の着弾地点では砂埃が舞う。その無様な姿を見たニジーは微笑みを湛えた。

 

 「見事だろう? 息の合ったハンニンダーの攻撃! それに比べて惨めだねぇ…キミ達はまるで足並みが揃っていない」

 「「くっ……!」」

 「しっかりしろ! 直ぐに次が来るぞ!」

 

 包の言う通り、ハンニンダー♂♀は痛みに呻きながらも立ち上がるプリキュアに向かって更なる追撃をかけにきた。

 

 「ハン!」

 「ニン!」

 「「ダー!」」

 「「きゃぁぁあっ!?」」

 

 包の声掛けも虚しく、アンサーとミスティックはハンニンダー♂♀のダブルパンチによって再び吹き飛ばされる結果となった。

 

 「…ああもう、何やってるんだ! しゃんとしろ二人とも!」

 「ポ、ポチ……!」

 「……全くもって相手にならないな。今のキミ達からならば逃げ去る事は容易……だが、名探偵プリキュアを倒せば…ウソノワール様もお喜びになる! ご覧になられていますか! ウソノワール様!」

 

 ニジーは何処かで見ている筈の自らの主人に向かって、自らのやろうとしている事をアピールした。その姿を見ていたウソノワールも思わず感嘆する。

 

 「っまだだよ!」

 「アンサー!?」

 

 ハンニンダー達が動き出すよりも早く立て直したアンサーは、負けじと一人で突撃を敢行する。ウォッチを取り出して力を解放させた彼女は、ハンニンダー♂目掛けて拳を振るい上げた。

 

 「【アンサーアタック】!」

 

 しかし、破れかぶれの攻撃を難なく交わしたハンニンダー♂は、ハンニンダー♀と共に攻撃直後で硬直したままのアンサーを蹴り飛ばした。

 

 「「ハンニンダー!」」

 「ぅああああっ!?」

 「アンサー! きゃあっ!?」

 

 無防備な状態で二体の攻撃が直撃したアンサーは、ミスティックに受け止められるもあえなく吹き飛ぶ。

 

 

 「アンサー、しっかり…!」

 「ごめん、ミスティック…!」

 「……ではこれより、素晴らしいショーをご覧に入れます…ウソノワール様!」

 

 ニジーはボロボロのプリキュアを見ながら指を鳴らし、ハンニンダー♂♀を突撃させた。それを前にしても諦めない二人は、何とか起き上がって立ち向かおうとする。

 

 「像を取り返す…!」

 「…マコトジュエルを取り返す!」

 (駄目だ、今攻撃しても…!)

 「た―――」

 

 アンサーとミスティックがハンニンダー♂♀を迎え撃つ体勢をとったのを愚策と判断した包だったが、指示を伝えるよりも二人が行動する方が早かった。

 二人は共にジュエルキュアウォッチの長針を11に揃え、最大のパワーを解放して飛び掛かった。

 

 「「これが(わたし)達の、アンサーだぁーーー!!」」

 

 必殺の一撃は閃光となって真っ直ぐハンニンダー♂♀の方へ向かい、その肉体を今までの様に―――。

 

 

 「「ハン!」」

 「「えっ……!?」」

 

 

 ―――貫くことはなく、ハンニンダー♂♀の翳した掌で呆気なく受け止められてしまった。

 

 「同じ台詞を言わせないで欲しいな…。足並みが揃っていないんだ」

 「「ハン、ニン…ダー!」」

 「「ああっ!?」」

 

 ニジーの嘲笑する様な台詞の後で放たれたハンニンダーの攻撃によって、アンサーとミスティックはもう何度目かの吹き飛ばしを食らう羽目になった。

 

 「さぁ、そろそろ舞台から降りてもらおうか」

 「ぐ…っ、うぅ…!」

 

 幾度も攻撃を食らい、その痛みに呻くしか出来ないアンサーの目の前に、懐に入れていたスティック形のプリキットが転がってきた。

 

 (……!)

 『名探偵プリキュアの危機を救ってくれるらしい!』

 (信じるよ、ジェット先輩……!)

 

 ジェットの言葉を思い出し、最後の望みを賭けてアンサーはそれを掴んで立ち上がった。それを見たミスティックと包は同じ感想を述べる。

 

 「何…それ…」

 「新しいプリキットか…?(あれが逆転の一手になれば……!)」

 

 「……オープン!」

 

 

 

 何も起こらない。

 

 「……え?」

 

 手に持ったプリキットは、アンサーの詠唱を聞いてもピクリとも動かない。

 

 「オープン! オープン! オープン!」

 

 いくら彼女が叫んでも、結果は変わらなかった。ミスティックの目には、ただ叫ぶ奇妙なアンサーの姿が映っているだけだった。

 

 「そんな……!? どうして……!」

 (……これ以上は見てる訳には行かない)

 「ネオン!」

 「その言葉を待っておったぞ、包!」

 

 逆転の目が尽きたアンサーとミスティックの姿に見切りを付けた包は、ネオンを伴い建物の陰から飛び出していった。

 

 

 「キミ達にはもう舞台に上がる資格がないのさ! 名探偵プリキュア!」

 「ハンニンダー!!」

 

 勝利を確信したニジーの言葉が木霊し、ハンニンダー♂は翼を広げて万策尽きたプリキュアに止めを刺すべく羽ばたいた。

 

 「くっ……!」

 

 力尽き、戦意喪失したプリキュアの二人には最早成す術はなく、そのままやられるのをただ待つしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 「なら、その舞台に飛び入りさせて貰おうか」

 

 衝突の瞬間、二人の前に一つの影が現れ、突進するハンニンダーの嘴をその拳で打ち抜いた。

 

 「な、なんだ!?」

 

 驚愕の声を上げるニジーと困惑する二人の目に、影の正体がはっきりと写った。

 

 「……やっぱ硬くなってんな……増強(あか)ありきでも生身で殴るとちょっと痛い」

 「格好付けるから悪い、のである」

 

 ハンニンダー♂を吹き飛ばしたのはそう、拳を赤く輝かせた夜灯包とそのオトモ妖精ネオン。飛んで来たハンニンダー♂を受け止めたハンニンダー♀は、彼等の参戦に対して警戒を強くした。

 

 「ハン、ハンニンダー…」

 「せ、先生……!」

 「包さん……」

 「悪いなニジー、良い気分に水を差して」

 「くっ……」

 

 プリキュアを倒す絶好の機会を不意にされたニジーは一瞬口惜しげに顔を歪めたが、直ぐに気にしていない風に口角を上げて包の心にもない言葉に返答した。

 

 「……随分出て来るのが遅かったじゃないか。このまま見てるだけなのかと思ったよ」

 「複数体を相手にする良い機会だと思ったんだけどな……それはまたの機会にするよ」

 「フン……ハンニンダーを練習台扱いか、相変わらず癪に障る奴だなキミは」

 「それは良かった。敵に好かれて良い経験無かったから」

 

 包は背後を振り返り、動けないままのアンサーとミスティックを見て言った。

 

 「……少し油断し過ぎだな。何回か倒したといっても、心を乱したまま勝てる相手じゃ無い事は分かっていたはずだ」

 「「…………っ!」」

 「連携が取れないなら取れないなりに、分断して一対一に持ち込む手もあっただろうに。焦って思考が狭まったな」

 

 先程の戦闘の様子を合理的に分析し二人の粗を指摘する包の言葉を聞き、アンサーとミスティックの表情が曇る。

 

 「ごめんなさい、先生……」

 「……兎に角説教は後だ、俺が今言いたいのは一つだけ。この経験を忘れない事! そうすれば、明日の二人はもっと強くなれる」

 「包さん……?」

 

 叱責の言葉が続くと思っていたアンサーは、代わりに告げられた激励の言葉に困惑する。包は優しい目で二人を見つめた後、前を向いてアンサーに命令する。

 

 「アンサー、動けるならミスティックを連れて少し下がっててくれ」

 「えっ…でも、マコトジュエルが……」

 「良いから、二人はしっかり見ていなさい」

 「う、うん……」

 

 二人が戦場から離れていくのを背中で感じ取りながら包は目の前の敵を見据える。彼の顔つきは、既に戦士のそれへと変わっていた。

 

 「……話は終わったかい?」

 「ああ、お陰様でな。後ろから襲って来ると思ってたよ」

 「ボクのせめてもの情けさ……弟子の前で呆気なく散るキミも見てみたかったけどね」

 

 ニジーがその言葉と共に指を鳴らすと、体勢を立て直したハンニンダー♂♀がその左右に立つ。

 

 「「ハンニンダー……」」

 「さぁ、次はキミを倒す姿をウソノワール様に見ていただく番だ! 残った二人は、その後じっくり調理させて貰うよ!」

 

 ニジーの言葉を意に返さず、包はポケットからモノクロ配色のスマートフォンを取り出す。それを見てアンサーは無意識に声を発した。

 

 「あれって……」

 「ポチ…?」

 

 「後輩の前で無様な姿を晒す訳にはいかぬな、包」

 「……ああ、そのつもりだ!」

 『笑顔プリーズ!』

 

 CC(クロスキュア)フォンのチェンジアプリを起動し、変身シークエンスを開始する。目の前に翳した液晶画面に写る包は、その紫眼を煌々と輝かせながらシャッターを切った。

 

 瞬間、虹色の光が世界に広がり覆い尽くしていく。

 

 「うっ……!」

 「「ハンニンダー…!」」

 「眩しい…!」

 「ポチィ!」

 

 ニジーやハンニンダー、アンサーとポチタンがその輝きに目を覆う中、ミスティックただ一人だけがそれを目に焼き付けていた。

 

 「プリキュア、クロスチェンジ!」

 『クロスチェンジ! オーロラ!』

 

 光空間の中に形成されたスクリーンの前に立つ包は、ブラックロストーンとなったネオンをCCフォンにセットし、それを感知したCCフォンが操作権をネオンに譲渡する。

 包の全身が薄い虹色のスポットライトで照らされ、彼はその顔を手の甲で隠す。すかさずフラッシュが焚かれ、それを浴びた彼の身体が女性の姿へと変身する。

 腰まで伸びた黒髪はオーロラの如く虹がかかり、紫色の瞳はグラデーションの様に赤に染まる。

 体の各所をスポットライトが照らし、カメラのレンズがそれを追う。彼女はポーズを決めると、カメラに向かってアピールする。

 ネオンがそれに応える様にシャッターを切り、彼女もまた次々に別のポーズを取っていく。

 

 貴族服とドレスを思わせる左右非対称の衣装がその身を包み、リボン装飾のミニスカートが出現する。

 腕に纏わった尖った十字マークの意匠が付いたアームカバーの先には光沢のある黒ネイルが塗られ、脚部では白いニーソと黒いガラスヒールのコントラストが光る。

 月を象ったイヤリングが光に照らされ、五本角の王冠を象った黄金のカチューシャの向こうでは髪が一つに纏まっていく。

 左肩の装飾から伸びる虹のクリアマントが旗めく姿は、さながら翼の様だ。

 腰に付いたクリアポーチにCCフォンが収まり、変身シークエンスが終了する。

 

 彼女は右手で視界に映る夜空を掴む様に撫でてから、クリアマントを左手で手繰り寄せて身体を覆い、次いでそれを振り払って左腕を上げ高らかに名乗りを上げる。

 

 「夜空を彩る神秘のベール! 名探偵キュアオーロラ!

 

 「さぁ、魔法が解ける時間よ」

 

 

 瞬き一つよりも短い間に終えられた変身の後、大地を踏み締めるキュアオーロラの姿を見たアンサーは驚愕する。

 

 「え、ええ!? 包さんが女の子になっちゃった!?」

 「ええ、そう! あれが先生のプリキュアとしての姿―――キュアオーロラ!」

 

 黒き虹に憧れた少女が相棒に向かって誇らしげに語る最中も世界は進む。オーロラは最後の警告とばかりにニジーに問い掛けた。

 

 「ニジー、マコトジュエルを置いて改心するっていうなら見逃してあげるけど、どうする?」

 「しつこいね…答えは勿論、ノーだ! やれ! ハンニンダー!」

 「「ハンニンダー!」」

 

 キュアオーロラの提案を跳ね除け、憎々しげに睨むニジーはハンニンダー♂♀を飛び掛からせた。強敵を前にしても臆した様子もなく、変わらず息の合った二体の怪物は、飛翔し勢いを付けた拳を全くの同時に叩き付けようとする。

 

 「……ふっ!」

 

 仁王立ちしたままのオーロラは、アンサーとミスティックを吹き飛ばした時以上の威力を誇るその一撃を、片手一つずつで簡単に受け止め、更に強靭な体幹により後退り一つしなかった。

 

 「「ハッ!?」」

 「はぁっ!」

 「「ハン!? ニン…」」

 

 拳を受け止めたオーロラはその両腕を振るい、寄り添う様にくっ付いたハンニンダーの巨体を引き剥がしてすぐさまお互いを叩き付ける。ハンニンダー♂♀はその攻撃で目を回し、彼女の前で無防備な姿を晒した。

 

 「せいっ!」

 「「ダーーっ!!?!」」

 

 勿論その隙を見逃すオーロラではなく、軽やかなステップで宙に浮いた彼女は回転し加速を載せた回し蹴りを叩き込んだ。ハンニンダー♂♀はそれをモロに食らいニジーの背後にある燕の像跡の方まで吹き飛ばされる。ニジーは二体のハンニンダーが転がる姿を目にし、動揺を隠せないでいた。

 

 「馬鹿なっ!? ハンニンダーがパワーアップしているだけじゃなく、マコトジュエル二つ分の力があるんだぞ!?」

 「見て分からないの? それよりも私の方が強いってだけでしょ」

 

 オーロラは心底馬鹿にした表情を作り、ニジー達を手招きする。

 

 「ほら、かかって来ないの? 私を倒すんじゃなかったのかしら?」

 「ちぃ……っ! ハンニンダー!」

 「「ハンニンダー…!」」

 

 ニジーの苛立ち混じりの命令を受けたハンニンダー♂♀はオーロラを取り囲む様に左右に立つ。

 

 「今度は挟撃のつもり?」

 「「ハンニンダー!!」」

 

 視線を左右に見遣るオーロラは呆れた声を出す中で、ハンニンダーは同時に間合いを詰めるべく飛び込んだ。片方に対処してももう片方の攻撃は防げないだろう、という思惑で放たれた二撃がオーロラに迫る。

 

 「先生!」

 「オーロラ!」

 「「ハンニン……っ!?」」

 

 アンサーとミスティックが危機を察知し彼女を呼ぶも虚しく、ハンニンダーの攻撃が直撃する―――その直前、オーロラの姿が搔き消えた。空振った拳同士を搗ち合わせる事となったハンニンダー達はその痛みを逃がす為に手を振った。

 紙一重で跳躍しハンニンダーの直上まで飛び上がったオーロラは、動きを止めたハンニンダー♂♀の顔面を狙い、バネの如く開脚し蹴り飛ばした。

 

 「「ダァァーっ……!!?」」

 「よっと」

 

 ハンニンダーを建物まで吹き飛ばしたオーロラは踵を鳴らしながら降り立ち、一仕事終えた様な表情で手をパンパンと払って見せる。

 

 「ハンニンダーをあんな簡単に!」

 「先生やっぱり凄い……!」

 「ぐ、ぅぅ……っ!」

 

 

 

 戦闘に参加し、当たり前の様にハンニンダーを圧倒する光景を見たウソノワールは、鬱陶しいものを見た様に目を細めた。

 

 「キュアオーロラ……やはり厄介だな

 

 それを時を同じくして、その配下である少女もまたオーロラを見ていた。胸元で抱いた妖精を抱きしめる力を強め、呟いた。

 

 「あれが、キュアオーロラの力……」

 「るるか?」

 

 

 

 視点はオーロラ達に戻る。

 

 「……さっきから見てて思ってたんだけど、貴方って連携の何たるかが全然分かってないわね」

 「……何だって?」

 「今までやった攻撃といえば、突進、同時攻撃、挟んで同時攻撃……これだけ。三つしかないじゃない」

 

 指を折り、数えた三本指を立てて振りニジーを煽るオーロラ。実際には連携攻撃をする隙を与えずにいた彼女の所為でもあるのだが、それすら理解して煽りの材料としていた。

 

 「しかも力押しばかりときた……はぁ…。不安定でガタガタの二人相手にたまたま勝てただけで、私一人相手には全く通用してないじゃない」

 「うるさいな……!」

 「二対一っていう数的有利を活かすなら…絶え間なく多段攻撃を仕掛けるとか、片方が時間を稼いでいる間に敵や環境を分析して弱点を突くとか……色々考え付くでしょう」

 「黙れ!」

 「ハンニンダーにそんな知能が無い? じゃあ貴方何のためにここにいるのよ、指揮官なんでしょ? 頭の足りない部下が居るなら、それに代わって戦術を考えて指示を出すのが役割なのに、突っ込めと馬鹿の一つ覚えに命令するだけで丸投げ。貴方は自分より強い相手と戦う為の術を全く理解していない!

 ……盗みに使う頭脳を、少しは戦闘(こっち)に回したら?」

 

 「黙れと言っているんだ!

 

 オーロラの挑発の数々に怒りを抑えきれないニジーは、肩を上下させ荒い息を吐く。その姿を彼女は侮蔑する様に見下している。

 

 「……そして、これだけ言われているのに殴り掛かっても来ない、どうしようもない“弱さ”。この有様じゃ、私が来てから一度もマコトジュエルを奪えないのも道理ね」

 「…ハンニンダー! 何をしている、早く立ち上がれ!」

 「ほら、完全に人任せ。はぁ……健気なハンニンダーが不憫で堪らないわ」

 「「ハン、ニン、ダー…!」」

 

 ハンニンダー♂♀はニジーの命令を聞いて何とか立ち上がり闘志を燃やしていくが、オーロラにとっては風に靡かれるよりも弱い刺激に過ぎなかった。

 

 「……な、なんかオーロラと性格違くないミスティック?」

 「そんなこと言われても……。わ、わたしだってこんな先生初めてで……」

 

 普段の優しい彼とあまりにも異なる師の言動に驚愕と困惑を隠せないアンサーとミスティックは、両手を繋ぎ合わせて見ているしか出来なかった。

 

 「……まだだ! まだ終わってない! ハンニンダー!」

 「「ハンニンダー!!」」

 「あら、まだ出せる手があるじゃないの。スピードを活かすの? それとも空中戦がお望み?

  ほら、さっさと出しなさいよ。はーやーく、はーやーく!」

 

 ニジーの檄に呼応し、ハンニンダー♂♀が空中へと飛翔する。それを見たオーロラは冷ややかな目で手を叩き、冷徹に続きを催促する。ハンニンダー達は回転する様に飛び回った後、力を合わせるかの様に空中で交差した。

 眩い光が周囲を照らし、ハンニンダーの体の中で共鳴する二つのマコトジュエルが更なる力を引き出す。二対のハンニンダーはお互いの体を融合させ、大きな二対の翼を持つ燕へとその姿を変貌させた。

 

 「ハンニンダーー!!」

 「はぁ……考え得る限り最悪の手ね」

 『綺麗にアップ!』

 「やれ、ハンニンダー!」

 

 合体したハンニンダーは翼を大きく広げ、周囲の空間に無数のエネルギー体を発生させる。

 そしてそこから、小さな燕状のエネルギー弾をオーロラ目掛けて発射した。

 

 「ああっ!?」

 「先生!?」

 

 一度だけの発射では終わらせないと燕弾は嵐の如くオーロラに降り注ぎ、砂埃が煙となってその姿を隠していく。一頻り発射したと感じたハンニンダーは掃射を止め、その場で滞空した。

 

 「そんな……」

 「ハンニンダー!!」

 「……ふふふ、ハハハ! アーッハッハッハ!! どうだ、これが合体したハンニンダーの力だ! ひとたまりもないだろう! これならキミもタダでは……!」

 

 

 「ただでは、何? 最後まで言わないの?」

 

 

 「はっ……!?」

 

 倒したと思った敵の声が耳に入り、勝利を確信していたニジーは高笑いを止めて声のする煙の中に目を凝らす。ハンニンダーの攻撃で余りにも舞い上がった煙はしかし、剣の一振りで霧散した。

 そしてその中に佇む無傷のオーロラの姿を見てニジーは驚愕する。その周囲半径80センチ程の地面には一発の弾痕もなく、真っ新な状態のままだった。

 

 「ば、馬鹿な……!? あれだけの攻撃を受けて……!」

 「全部切り払ったわよ、この剣で」

 

 そう言ってオーロラが見せつけるように構えたのは、プリズムの様に反射するガラスの片手剣“オーロライトセイバー”。ハンニンダーが合体した瞬間にこれを顕現させた彼女は、あの豪雨の中で一粒もその身体に当てることなく見事凌ぎ切ってみせたのだ。

 

 「綺麗……」

 「……っだが、空を飛べないキミはハンニンダーに対して不利! このまま空中で磨り潰せば……!」

 「それが出来ればね」

 

 ニジーの一言を事もなげに返すオーロラはセイバーの刀身に触れ、その刃に橙色の光を宿して呟く。

 

 「形成」

 「っハン、ニンダー!」

 

 光るセイバーを携えて跳躍したオーロラに反応し、ハンニンダーは更に空高くへ飛んでいく。変身によって驚異的に上昇した跳躍力を持ってしても届かず、彼女は程なくして落下が始まりそうになる。

 

 「ふっ…やはり」

 

 カァン!

 

 「何!?」

 

 落下の瞬間、オーロラが何もない空間を蹴り上げ再度跳躍する。あっという間にハンニンダーを追い越した彼女はセイバーを振り上げ、両腕で振り下ろした。

 

 「墜ちろっ!」

 「ハン゛! ニンダぁぁーー……!」

 

 回避し切れず片翼に斬撃を受けたハンニンダーは滞空出来ずに落下して行き、墜落した。それを追って降下したオーロラは軽やかに()()()()()()()()

 

 「何だって……!?」

 「ど、どういう事!? 宙に浮いてるよ!?」

 「……待って! 先生の足元をよく見て!」

 「足元……あっ!」

 

 アンサーが目を凝らすと、オーロラのガラスの靴の足裏に薄い光の板が見えた。よく気付いたと言わんばかりに目を細めたオーロラは講釈する様にセイバーを抱えて示す。

 

 「そう、これが私の力の一つ。橙色の光の力…“形成”。単純な構造の物だけだけど、自由自在に物を形作る事が出来る」

 「…その力で、空中に足場を作ったという訳か。だからハンニンダーを追えた……」

 「そういう事。私の方が速い以上、今更空を飛んで逃げようとしたって無駄よ」

 「…………っ」

 

 実質的な勝利宣言にニジーは拳を握り締めて顔を顰める。しかし、彼にも怪盗としてのプライドがあるのか、先程のように声を荒げることはしなかった。

 

 「……どう? これが理不尽な相手との戦い。死力は勿論、ありとあらゆる手を尽くしてもなお全てを上回られる恐怖と絶望。それを前にして、貴方は逃げる? それとも誇りを守って死ぬ?」

 「……悪いけれど、ボク達ファントムにマコトジュエルを諦めるという選択肢は……ないのさ!」

 「ハンニンダー!!」

 

 ニジーの一言で、息を潜めていたハンニンダーが最後の力を振り絞って飛び上がり、オーロラに特攻を仕掛ける。差し違えんという勢いで迫るハンニンダーを前に、オーロラは冷静にCCフォンを柄頭にあるコネクタ部にセットする。

 

 「そう、なら遠慮なく止めを刺してあげる」

 『笑顔プリーズ!』

 

カシャ!

 

 CCフォンに搭載されたフィニッシュアプリが起動し、液晶に写るハンニンダーの動きの一切を停止させる。

 

 「ハ、ハンニンダー……!!」

 

 オーロラは刀身を掌で振り抜き七色に煌かせ、真上に掲げて大きく円を描く。形成されたサークルの向こう側にいるハンニンダーを狙って右腕を引き絞り、抉る様に突き出した。

 

 「プリキュア! 【オーロラレインボーストーム】!」

 

 刃の先から放出された虹光の奔流は、サークルの先で嵐となってハンニンダーを貫き、その体を削ぎ落としていく。

 

 「ハ、ハン……ッ!」

 「―――これにて終曲!」

 

 オーロラはゆっくりと背後に振り向き、血振りをする様に剣を振るって光を消す。それと同時に、達磨となったハンニンダーが浄化の光に飲み込まれて消滅していく。

 

 「ハン…ニン…ダー…」

 

 ハンニンダーが浄化されたことで元の姿を取り戻した二つのマコトジュエルを手に取り、オーロラは地面に降り立つ。そして彼女はそのジュエルをアンサーとミスティックに投げ渡した。

 

 「「わっ……ととっ!」」

 「ポチタンにあげておいて。私が持ってても仕方ないから」

 「く……っ!」

 「ポチ〜!」

 

 マコトジュエルを取り返した事でポチタンは歓喜の声を上げる。その愛らしい姿を視界に入れながら、オーロラは項垂れるニジーに剣を向ける。

 

 「ハンニンダーを安易に合体させたのは間違いだったわね。パワーが倍になっても、手数が半分になったら意味がない。“力を合わせる”って意味を履き違えてるんじゃない?」

 「……だが、あのままではキミに傷一つ負わせられ無かった」

 「そうね…お陰で纏めて浄化できたわ、ありがとう」

 

 相変わらずの物言いにニジーは舌を打ちそうになったが、何をされるか分からないので止めた。そんな彼の考えも露知らず、オーロラは話を続ける。

 

 「そもそも貴方は、私が前に出てきた時点で尻尾を巻いて逃げるべきだったのよ。そうすれば今頃、マコトジュエルを二つも持ち帰れたのに」

 「……敗北を恐れておめおめと逃げ出すのは、ボクの美学に反するのさ」

 「怪盗としてのプライドって奴ね……そんな物はね、高さを自由に変えられる様にしておくものよ」

 

 そこまで言ってオーロラは剣を下げた。自らに向けられた死の気配が遠のくのを感じ取ったニジーは、顔を上げ彼女を見つめる。

 

 「……ボクを見逃すのか?」

 「この娘達に血を見せたくはないの。今逃げるのなら追いはしないわ」

 

 ずいぶん過保護な師匠だとニジーは思ったが生殺与奪権を奪われている状況でそれを口に出すのは憚られた。だが逃げられるのなら恩の字と腰を浮かせた所で、アンサーとミスティックの持つマコトジュエルに視線を向ける。

 未だにポチタンに納められていない二つのジュエル、ニジーのスキルを持ってすれば手から掠め取るのは訳ない事だ。最大の障害であるオーロラも、今は自らへの警戒を完全に解いている。

 

 ニジーはチャンスだと思った。ここでマコトジュエルを奪い返し上手く逃げ仰せられれば、奴の鼻をあかすだけでなくウソノワールへ自分の力量をアピールできると。

 自信はあった。何せ、今迄のマコトジュエル争奪戦の間アンサーとミスティックの二人は勿論、オーロラ相手ですら“盗み”の段階で阻止された事は無かったからだ。

 

 「……キミのその甘さが……命取りなのさ!」

 

 そう呟き、ニジーはマコトジュエル目掛けて駆け出した。突然の行動に驚く二人のプリキュアは体を硬直させており、動き出すのに数秒はかかるだろう。彼の駿足なら数秒掛からずして二人の元へ辿り着き、その手からジュエルを奪う事が出来る。

 

 (勝った……!)

 

 

 

 (馬鹿が)

 

 その背後でガラスの剣が虹光を放つ。ニジーが動き出した瞬間にセイバーを振り上げていたオーロラは、内心で罵りながら目の前の愚者に向けて剣を振り下ろした。剣速は光の様に速く、一秒も掛からずニジーを両断するだろう。刃は彼の無防備な背中に磁石の如く吸い込まれていき―――。

 

 

 ―――それよりも尚速く、ポチタンがアンサーとミスティックの前に飛び込んだ。

 

 「ポチィーーー!!!」

 

 ポチタンはのシンボルから、オーロラのものとは似て非なる虹色の光を放ちながら秘められた力を解放した。不可視であり不定形の力はニジーの壁となり、その行く手を阻む。

 

 「な―――何だ!?」

 「ポチタン…?」

 「これは……!」

 

 ポチタンが初めて見せる力の発露に、ニジーは勿論アンサーとミスティックも驚きを隠せず、オーロラもその力を目にして思わず剣を下ろした。

 

 「だが、こんなもの……!?」

 「ポ―――チィーーー!!」

 

 ニジーは諦めずにマコトジュエルに近付こうと試みるが、ポチタンが続けて放った衝撃波によって燕の象まであっけなく吹き飛ばされた。

 

 「があああぁぁっ!!? ……くそっ、次こそは……!」

 

 成す術なく像に衝突したニジーはよろよろと立ち上がると、悔しさを吐き捨てながら煙幕と共に学校から立ち去り、現場に残ったのは三人のプリキュアとポチタンだけ。

 

 「……? これって…」

 (今のは……空間を固定化して、それを押し出したのかしら。時間と空間をワープする以外に、これだけの力を持っているなんて……)

 「……あっ!? ポチタン!?」

 「ポ、ポチ……」

 

 ポチタンの力に反応するかの様に微かに光るミラールーペを見つめ首を傾げるアンサー、ポチタンの力を考察するオーロラを他所に、ミスティックが倒れるポチタンに気付いた。他の二人もまたその声を聞いてポチタンに駆け寄る。

 

 「ポチタン!」

 「しっかりして、ポチタン!」

 「ポチィ…」

 「……怪我はないみたい、力を使い過ぎた反動ね」

 

 心配し声を掛ける二人に弱々しい反応を示すポチタンを見てオーロラは冷静に状態を把握し、指示を飛ばす。

 

 「さっき手に入れたマコトジュエルをポチタンに。それで少しは良くなる筈よ」

 「う、うん!」

 

 アンサーとミスティックがそれぞれの手にあるジュエルをポチタンに取り込ませると、呼吸が落ち着き表情も和らいでいく。それを見てアンサーが安堵の息を吐いた。

 

 「……よかったぁ…」

 「それに……燕の像も戻った……けど」

 

 ミスティックの言う通り、ハンニンダーに変わっていた燕の像も元に戻っている。幽霊の正体であるニジーの企みも潰えた以上、幽霊騒ぎも次第に収まっていくだろう。

 しかしオーロラの目には、依然として二人の表情は暗く、心に影を落としたままであるように見えた。

 

 (これで万事解決……とは、いかないでしょうね)

 

 

 

 

 

 「妹と連絡が取れました! いや〜、寝てて電話に出なかったみたいで!」

 

 事件を解決した事を真理子に伝えるべく呼び出すと、彼女の方も無事に連絡が取れた様で安心した笑顔を浮かべていた。

 

 「時間を変えて電話したのは正解でしたね」

 「……ロンドンは夜中だったからですね」

 「みくると包さんが言った通りだ……」

 

 対するキュアット探偵事務所のメンバーは、包を除いて何処か上の空といった風であった。明らかに精彩を欠いている二人を見かねた包はその背中を軽く叩く。

 

 「「!」」

 (依頼人の前でそんな顔しちゃ駄目だ、笑顔笑顔)

 「……あ、あはは」

 「よ、良かったぁ……恵子さんが無事で」

 「? 兎に角、ありがとうございました!」

 

 あまりにもぎこちない笑顔を浮かべる二人と、それに溜息を付く包の姿を見て真理子は首を傾げつつ、溢れんばかりの感謝の言葉を述べた。

 その後、三人は何度も感謝を告げながら事務所を去る真理子を見送った。

 

 「「はぁ……」」

 「やっぱり……ちょっと重症かな……」

 

 

 

 

 

 「時空の妖精……!!

 

 ウソノワールは不倶戴天の敵の出現に腑が煮えくり返る思いを口しながら、手に持ったオペラグラスを固く握り締める。苛立ちを隠そうともしない主を部下達が戦々恐々した様子で見つめる。

 

 「ウソノワール様があれほど動揺されるとは……」

 「何……? アイツってそんなにヤバい奴な訳…!?」

 「遂に、奴とキュアオーロラが揃ってしまった……

 

 実の所を言えば、ウソノワールにとってその二人は単体ではそこそこ以上の脅威でしかない。キュアオーロラはこれまで見てきた歴代の名探偵プリキュアの中でも最強と言える強さを誇るが、彼であれば十分な勝算を持って臨める相手ではある。

 時空の妖精はマコトジュエルの守護者であり、その居所を自由自在に転移させられる厄介極まりない敵ではあるが、彼の手に未來自由(ミラージュ)の書がある以上追跡は可能だ。

 しかし、その両方が共にいる場合に限っては話は別だ。折角マコトジュエルを発見してもキュアオーロラが立ち塞がり、時間を稼がれている間に別の場所に移され逃げられる……その繰り返し、正に最悪のイタチごっこだ。

 

 「奴らを引き剥がす手を考えねばならんな……

 

 そう言って、ウソノワールは背後のコレクションを見やる。

 この半年間で集めに集めた古今東西の宝物の数々、そのいずれにもマコトジュエル()()()が宿っている。

 

 「……やむを得んか

 

 

 

 




 私達、何も出来なかった……。

 先生に助けられて、二人だけじゃマコトジュエルを守れなかった。
 ……でも、それじゃあ駄目なんだ!
 わたし達は、ふたりで強くならなくっちゃ!

 次回、名探偵プリキュア!
 「奇跡を起こせ、プリキットミラールーペ!」
 その謎も、キュアっと解決!
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