俺の転生先、13歳女子で人生ハードモードなんだが   作:蘇芳ありさ

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第十三話『苦い自覚と残された道』

 

 

 

 まるで夢から覚めたように、俺は茫然とその光景を見送るしかなった。

 

 

「やだもやだもん! せいちゃんちーちゃんちに泊まるんだい!!」

 

「はいはい。今日はお仕事できていますからダメですよ、せりなさん」

 

「ふぁっきんしっと!!」

 

「かぐらさんもあまり駄々をこねると酷いですよ、色々……」

 

「にぇ……えへ、えへへ……」

 

 

 捕獲された犬か何かのように、ルナステラの二人組がマネージャーの腕の中で観念する。

 

 足は完全に床から浮いていて、それでも腕だけは空中で何かを掴もうとしていた。

 

 

「あいるびーばっく!!」

 

「今度はみんなも連れてくるにぇ!!」

 

 

 そんな物騒な宣言を最後に、推しの姿はぶいけんっのオフィスから消えていった。

 

 

「んじゃ今日はもう遅えし、俺らも帰るな」

 

「あたしも疲れた。やっぱり慣れないことはするもんじゃないわね」

 

「詳しい報告は後日になりますので、今夜はゆっくりお休みください」

 

「おやさみなさい。夜更かししないでちゃんと寝るのよ、ちはや」

 

 

 そしてぶいけんっの仲間たちも温かい言葉を残して帰っていく。

 

 その一部始終を体験していたはずなのに、未だ興奮冷めやらぬ俺にはぼんやりした記憶の断片しか残っていなかった。

 

 

 まるでキャーキャーと楽しそうな女の子たちを、電柱の陰から眺めている不審者のような記憶が俺に告げる。

 

 ちはやさんの人生を決める大舞台だったっていうのに、俺は死ぬほど役に立っていなかったな、と……。

 

 

「……やっちまった。マジで何してんだよ、俺」

 

 

 推しとの邂逅というあまりの至福に我を忘れただけではなく、一緒になって女子会を満喫した挙句、風呂場で“洗いっこ”までしちまった。

 

 中身はオッサンなのに目を瞑るどころかガン見までして、女神の肢体を余すところなく記憶に焼き付けた俺は、俺は──。

 

 

「やべえ。“キモい”の意味を頭ではなく魂で理解しちまった」

 

 

 うん、とりあえず氏んどけって話だ。

 

 

 あまりの申し訳なさに、俺はせめてコラボの反響だけでも確認しようとスマホを取り出し、すぐに後悔させられた。

 

 震える指で開いたのは、YourTubeのアナリティクス系まとめと、SNSのトレンド欄だった。

 

 そこに並んでいた数字を見て、思考が完全に停止する。

 

 

「……は?」

 

 

 ──同時接続者数はYourTube史上最高の1300万。

 ──スパチャの総額も100億円突破は確実。

 ──ルナステラ×ぶいけんっコラボ、全世界トレンド独占。

 

 

 どれも、現実の言葉としては重すぎる桁だった。

 

 画面をスクロールする指先が、汗で滑る。

 

 

「……いや、壊れてるだろこれ」

 

 

 思わず漏れた声は、乾いていた。

 

 そのタイミングで、とても嬉しそうな声を認識する。

 

 

『全部おじさんのおかげだよ』

 

『ああ、そうだね。何もかも俺の所為だ』

 

『ちがうよ、おじさん。“所為”じゃなくて“おかげ”だよ』

 

 

 俺は元々そこまで孤独な人生を送っていたわけじゃない。

 

 だから誰かに認められたいと思って行動したこともなかったが、なるほど、これは悪くない。

 

 

『ありがとう、ちはやさん。おかげで救われた気分だ』

 

『大袈裟だね。でもどういたしまして、おじさん』

 

 

 そう言って馬鹿みたいに見つめ合ったあとで同時に吹き出す。

 

 

 ちはやさんとの関係も極めて良好。

 

 その日、寝室で目を瞑った直後に寝入った俺は、久しぶりに夢も見ないほど熟睡するのだった。

 

 

 

 

 

 そして、それから二日後──俺たちは南国の無人島まで問答無用で拉致されるのだった。

 

 

「『…………』」

 

 

 ぶいけんっの仲間たちの沈黙が悲壮感すら醸し出す。

 

 

ちー(・・)、とりあえず説明しろ」

 

「うん、夏といったら海だからね。コラボの打ち上げはここにしようかなって」

 

「だからって屋上に行ったら透明なヘリに乗せられて、無人島まで拉致られるとは思わなかったわよ」

 

「わたしも最初はグァム辺りがいいかなって思ったんだけど、サーニャに警備上の問題があるって言われてね。急遽変更になったみたい」

 

 

 うん、まぁ、ちはやさんが一般のビーチに行ったら大変な騒ぎが予想されるからね。

 

 無人島を買い取ってプライベートビーチにするのは、俺も悪くない選択だと思うよ。

 

 

 でもね、でもね……それだけで済ませるには、あまりにも規模が狂っている。

 

 しかも、ここにいる全員がすでに“そういうもの”として受け入れているのがさらに怖い。

 

 

「ふむ、やはり開けた砂浜はここしかありませんか。仕方ありません。工兵隊はあちらにベースキャンプを構築。レンジャー隊は安全確保を。ただし火器の使用は厳禁。大型の肉食獣を発見したときは麻酔銃で対処するように」

 

「『イエスマムッ!!』」

 

 

 気づけば島は、ただの無人島ではなくなっていた。

 

 あっという間に整備される砂浜。

 

 異様に手慣れたスタッフたちがなぜ軍服を着用しているのか、何の説明もされないまま秩序だけが完成していく。

 

 

 俺もそうだが、ぶいけんっの仲間たちが流す冷や汗の大半は、全部このヒトの所為なんだけど、本当にサーニャさんって何者なんだよ……?

 

 

「さ、貴方たちも着替えましょう。女の子たちはヘリの客室で、男の子たちはその辺の草むらで水着に着替えるのよ」

 

「にゃ」

 

 

 俺にはこの光景に微塵も動じないメイドたちと飼い猫も怖いわ。

 

 

 特にエミリアさん。

 

 この職場を全力で楽しんでる笑顔がかるくホラーだよ。

 

 

「……ま、連れてこられたもんはしゃーないけど、あたし水着の用意なんてしてないわよ?」

 

「水着はメイドたちが一通り買い占めてくれたのがあるから、気に入ったのを使ってよ」

 

「あら、水着だけじゃなくパーカーとパレオまであるのね。それなら私はこちらを使わせていただこうかしら」

 

 

 と、いかんいかん……危うく前日の過ちを繰り返すところだった。

 

 俺は大胆な少女たちの着替えを視界から外して深呼吸。気持ちを切り替える。

 

 

 相変わらずちはやさんのスケールと猪突猛進には驚かされるが、今回はそれが上手いこと噛み合ってサプライズとして機能しており。

 

 突発的な思いつきに付き合わされたぶいけんっの女子たちも、今では悲観とも諦観とも無縁の顔つきだからな。

 

 叱言の類は必要ないだろうと、俺もこのバカンスを楽しむことにしたわけだが……みっちゃんはともかくゆー君は大丈夫だろうか?

 

 

 ……そんな一抹の不安が現実のものとなる。

 

 着替えを済ませて集合するや、ゆー君の照れ顔は世界の終焉に立ち会ったかのような絶望に染まった。

 

 

「それじゃゆー君、日焼け止めお願いね」

 

「私も円谷くんにお願いするわ。お尻に触っても気にしなくていいからね」

 

 

 さらには地獄の巻き添えにされたみっちゃんも渡された日焼け止めをじっと眺め、あーちゃんがまたしても女の子がしてはいけない顔になる。

 

 

「ほらほら。せっかくのご要望なんだから、しっかり働きなさいよ男子ぃ?」

 

 

 ──ああ、無情。

 

 俺には絶望に打ちひしがれる彼らの気持ちがよく分かる。

 

 そして魂の根幹で人知れず歓喜する煩悩の存在も──。

 

 

「なぁ道隆。こういう目に遭うって分かりきっていたのに、俺たちはどうしてホイホイついてきちまったんだろな?」

 

「それは僕たちも男の子だからかもしれませんね」

 

 

 おう、とりあえずリア充爆発しろ。

 

 

 今さら言うまでもないが、今回の最大の被害者はこの俺である。

 

 とても嬉しそうにシートの上に寝転がるちはやさんは言うに及ばず、玲ちゃんも控えめな胸以外は完璧な美少女だ。そんな少女たちがあられもない姿で寝そべり、その素肌を同級生の中学男子に委ねるというのだ。なんという、なんという、うらやまけしからん。しかも俺は当事者として日焼け止めクリームを塗られる立場なのだ。意外と柔らかいゆー君の手のひらが頸から背中に触れた時点で、俺をかるく悶絶した。なにこれ、女の子の感度ってこんなに敏感なの? ちはやさんも「うんっ」とか言っちゃってるし、ゆー君がブラ紐をほどいたらドキドキしちゃうし。いやあのね、玲ちゃんももう少し声を抑えて? だからマズいって! さっきからあーちゃんがスマホでこの光景を撮影してるのお願いだから誰か気づいて……??

 

 

「んふふ。これをSNSで投稿したらどうなるかなぁ〜? とりあえず炎上必死は間違いないけど、あたしの中の悪魔が指をポチッとしちゃいそう……」

 

「言っとくけど、お前それやったら絶交じゃすまねえからな……?」

 

「僕も社会的に死にたくはありませんから、それだけは勘弁していただけませんかね?」

 

 

 そんな漫才も満喫しつつ、日焼け止めを塗り終えた女子たちは「さて、どうしようか」と口を揃えた。

 

 

 うん、まぁ、その顔はわかってる顔だから俺からとやかく言わないけど、これが青春の対価ってことだよキミタチ。

 

 その後も海水浴、ビーチバレー、バーベキューで大いに振り回されたのは確かだろうけど、男の役割ってのはそんなものだ。

 

 

 なにを考えているか分からない女子の顔色を伺って、苦労させられることを楽しむのが男の生き様である。

 

 俺も、家族とと海水浴に行ったときは、馬鹿みたいにはしゃぐ妹の面倒を──。

 

 

『急に気持ちが沈んじゃって、どうしたのおじさん?』

 

『いや。なんでもないよちはやさん。トウモロコシが熱いから気をつけてね』

 

 

 ……咄嗟に誤魔化したが、今のは危なかった。

 

 

 俺とちはやさんは“同一人物”として感情を共有している。

 

 あまり過去の思いに囚われるのはよそう……。

 

 

「しかしコラボの反響、すごいコトになってるわね。世間の反応もそうだけど、セレスタ側の反応もさ」

 

「ああ、ディスコでなんか言ってきたのか?」

 

「うん、そうなの。ちーの奴が出発前にあたしたちと打ち上げに行くって書き込んだからか、参加したいってルナステラの二人組以外からも」

 

「他にもコラボの嘆願がかなり見受けられますね。一夜にして稼ぎ出したスパチャの額もそうですが、ルナステラのチャンネル登録者数も100万近い伸びですから、セレスタ側の反応はむしろ当然ですが……」

 

「さすがに全員とのコラボは非現実的だから、期生ごと、グループごとのコラボになるのかしら?」

 

「いや、その前にちーのLive2Aを完成させるのが先だな。それさえ出来ちまえば、こいつもVTuberとして独り立ちできるし、俺たちぶいけんっの役割も大半が完了するからな」

 

「そうですね。そうなれば僕たちも裏方に専念できます。楽なもんですよ」

 

 

 ……そうだな。でもみんなは楽になるけど、俺はどうなるんだろうな。

 

 このままちはやさんと二人三脚を続けることになるのか、それともどっちかの人格に“寄って”しまうのか、それすらも俺には予測できない。

 

 

 ただ、どっちになっても妹にはもう会えない。

 

 合わせる顔もないし、何を伝えりゃいいのかもわからない。

 

 だから会えない。

 

 俺はちはやさんに気づかれないように、胸の内を吐き出すのだった。

 

 

 

 その日の夜、なぜか温泉を発見したメイド長の手引きで、女子から順番に旅の疲れを癒したあと。

 

 俺は夜の海岸でちはやさんと涼しげな海風に当たっていた。

 

 

「おじさん、今日は楽しかった?」

 

 

 うん、楽しかった。とても楽しかったよ、ちはやさん。

 

 

「特にどんなところが楽しかった?」

 

 

 うん? 君たちのバカンスに俺まで若返った気分だけど、特筆するならそうだな……やっぱりゆー君たちが女風呂を覗きにきて、メイドさんたちのトラップに引っ掛かったことかな。

 

 

「ああ、あれすごかったね。外の枝が跳ね上がって、足首をロープで引っ張られたゆー君たちが宙吊りになってさ」

 

 

 あはは、傑作だったよね。

 

 俺もあの二人なら覗きはないと思ったけど、さすがは中学男子だ。

 

 見事なまでに様式美を完遂してくれたから、おじさん感激しちゃったよ。

 

 

「様式美?」

 

 

 あ、ごめん。今のはちょっと理解しづらかったね。

 

 実は漫画やアニメなどの創作の話になるけど、この手のバカンスで女風呂を覗きに行かないってのは、君たち女の子の魅力を頭ごなしに否定するのに等しいって妙なこだわりがあってさ。

 

 ゆー君たちもそのお約束を踏まえて、今回はあえて損な役割に徹してくれたんだと思うと、なんか嬉しくって……。

 

 

「……そっか。好きな子に振り向いてもらえないのは辛いもんね。だからゆー君はわたしの裸を見たがることで自分の気持ちを伝えようとしたんだ」

 

 

 そうそう。

 

 ちはやさんはあまり気にしてないけど、彼らも宙吊りになったときに君たちを見ないように必死だったし、お説教はあーちゃんがしてくれたからね。

 

 今度会ったら笑いながら「ゆー君のエッチ」とでも伝えてあげなよ。

 

 それだけで、きっと彼は満足すると思うよ。

 

 

「うん、そうする。……おじさんってホントになんでも知ってるんだね」

 

 

 なんでもじゃないよ。

 

 俺のアドバイスなんてただの知ったかぶりだから。

 

 

「でも、おじさんのおかげでわたしは変われた。息苦しい空気がなくなって、毎日楽しく暮らせるようになったんだよ。……だからね? わたしどうしたらおじさんに恩返しできるんだろうってずっと考えて、今回のバカンスもおじさんに楽しんでもらうのが一番の目的だったんだ」

 

 

 ……ちはやさんが普通の女の子になれたのは君自身の努力の賜物だよ。

 

 俺のアドバイスなんて、要所要所で進むべき道を示した程度の些細なものさ。

 

 

「わたしはそう思えないよ。だっておじさんが居なきゃわたしは女子ボクシングのときに何をしてたかわからないし、もしそうなっていたらセレスタの人たちにも怖がられちゃって、ぶいけんっとコラボしようとは思わなかっただろうし……だから、だからね? 全部おじさんのおかげだって気付いたら、わたし怖くなって……」

 

 

 ちはやさん。怖いって、何が……?

 

 

「だって、おじさんは前世のわたしなんだよね? おじさんが生まれ変わったからわたしが生まれた……最初にそう気付いたときは、ならいいかなって、そう思ったの」

 

 

 その言葉にドキリとする。

 

 

 そうだ。俺が“ちはやさん”を脳内天使と誤認していた頃、彼女は妙に落ち着いていた。

 

 この“俺”という人格が生まれてきたことを疑問にも思わず、自分の一部として行動の大半を委ねてきた理由は、まさに“自棄”だったのだ。

 

 

 だから俺は、そんなちはやさんを見ていられず、肩入れして──。

 

 

「……おかしいよね。わたしを遠ざけた両親にも死なれて、もう生きていたくないとまで思ってたのに、ちょっと色々と噛み合ったら途端に消えるのが怖くなって、おじさんがわたしに成り代わったら、みんなもすぐにわたしのコトを忘れるんじゃないかって怯えて、それでわたし」

 

 

 ちはやさん、ちはやさん。いい機会だから伝えるけど、全然変じゃないよ。

 

 誰だって消えるのは怖い。忘れられるのはもっと怖い。だから安心してくれ。

 

 俺は君の味方だ。俺に君から肉体の主導権を奪うつもりはない。

 

 ただ君の人生の同行者として傍にあることを許してもらえたら、俺は十分に幸せだ。

 

 

「おじさん──」

 

 

 感極まったちはやさんに抱きつかれる。あらためて小さな体でよく頑張ってるよ。

 

 ちはやさん。君の人生は君のものだ。誰に遠慮することもない。大いに楽しみ、幸せにおなりよ。

 

 

「……うんっ! うんッッ!!」

 

 

 その夜。女子のテントに戻ったちはやさんは、憑き物が取れたような寝顔を見せてくれた。

 

 

 だが、俺は眠れなかった。

 

 前向きになったちはやさんが自分の心を見つめ直したように、俺もまた過去の因縁を直視させられたからだ。

 

 

 ……言えない。口が裂けてもこんな台詞を言う気にはなれない。

 

 ちはやさん。君が大変な人生を送る羽目になったのは、全部、全部、転生管理局の悪行に加担した俺の所為だなんて……。

 

 

 あまりにも醜い欺瞞に反吐が出そうになる。

 

 未だにあれこれ理由をつけて、かつての家族に会おうともしない俺は、はたしてこの先、ちはやさんとともに歩む資格があるのか。

 

 

 そんな自己嫌悪を咎めたのは、夜中に起き出した飼い猫の視線だけのように思えた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 南の島から帰還した翌日。

 

 俺こと新海悠二は近くの猫カフェでその女と会っていた。

 

 

「……すみません。わざわざ時間を割いてもらって。せめせここの支払いくらいは任せてください」

 

「いや、気にすんなよ。俺もちはやに用があるし、使い道が思いつかないほどの大金が振り込まれたばかりだからな。恩に着るなら接待費の増額に協力してくれや」

 

 

 俺が答えると、再会してからずっと緊張しっぱなしだったその女は一瞬の間のあと、少しだけ口元を柔らかいものに変えた。

 

 なんだよ。今までが今までだから随分と暗い女だと思ってたけど、そういう顔もできるんじゃねえか。

 

 なら微笑(わら)ってろ。ちはやの奴もそうだが、女はそういう笑顔のときが一番可愛い。

 

 

「すごいですね。ルナステラとのコラボの収益ですか?」

 

「ああ。ちはやの奴が全額俺らに押し付けてきてな。あかねの家は全員大喜びだとよ」

 

「ふふ。……でもわたしが一番驚いたのはちはやさんの呼び方ですけどね。今日はちー(・・)じゃないんですか?」

 

 

 ……前言撤回。やっぱり全然可愛かねえ。

 

 姉貴とあかねの悪いところを詰め込んだ性格しやがって、そんなんじゃ嫁の貰い手に困るぞとパスタを口の中に放り込む。

 

 

ちー(・・)との約束は2時からだし、お前も昼まだだろ。いいから何か食っとけ」

 

「はい、ご馳走になります。……それと取って付けたように呼び方を変えなくて大丈夫ですよ。ゆー君がちーちゃんと仲良しなのはみんな知ってますから」

 

「うっせ。あれは全部台本のせいだ」

 

 

 まぁ辛気臭くなくなったからいいけどよ。

 

 女ってどうしてこう、男の弱みを握ることに喜びを見出すかな……?

 

 

 約束の時間まであと50分ほど。

 

 俺はそれまでにこの女をギャフンと言わせようと、密かに知恵を絞るのであった。

 

 

 

 

 





※いよいよ正念場。運命の対峙までもう間もなくである。

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