俺の転生先、13歳女子で人生ハードモードなんだが   作:観測班

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第七話『依存と侵食』

 

 

 

 なんか、みんな忙しそうにしてる。

 

 いや、何をしているのかは分かるよ。

 

 これから“ぶいけんっ”の復帰配信をやるのだ。

 

 配信機材の確認。

 

 コメント欄の監視。

 

 進行表の最終チェック。

 

 なぜか、わたしは関わらせてもらえないけれども。

 

 本当に、なんとなく楽しい。

 

 なんだろうね、これ。

 

 みんなが楽しそうにしているからかな。

 

 目的があるから楽しいのか。

 

 みんなで集まっているから楽しいのか。

 

 よく分からないけど、なんだか見ているこっちまで楽しくなってくる。

 

 だからきっと、今日の配信は上手くいく。

 

 根拠はないけど、そんな気がした──。

 

 

 

 

 

 ……なぁ、今から妹に「キモい」と言われそうなコトを言ってもいいか?

 

 なんかね。俺の中のちはやさんがもの凄く落ち着いていらっしゃるんだわ。

 

 だから可愛い。ちはやさんの見た目で上品に微笑(わら)ってると、なんというかお姫様オーラが半端ない。

 

 ゆー君が見たら「誰だオマエは」って言いそうなほど可憐なお姿なのよ。

 

 

 理由というか、原因は明白。

 

 やっぱりぶいけんっのみんなは、ちはやさんにすごく良い影響を与えてるな。

 

 

 これならちはやさんもやらかさずに済みそうだと、俺は思いっきり安堵したね。

 

 ただ残念ながら、彼女のメンタルを観測できるのは俺だけ。

 

 ちはやさん本人が周囲から信用されているわけではないのが、俺としてはちょっと辛い。

 

 

「──いいですね? 今からあなたは動物園のレッサーパンダです。飼育員の皆様の言うことをよく聞いて、余計な口を利いてはいけません。ちゃんと愛想を振りまくのですよ?」

 

 

 ……だって、育ての親も同然のサーニャさんからしてこの扱いだもんな。

 

 俺は余計なコトを言わず、素直に「うん、わかった」と返事をしたが、正直なところちはやさんのために反論したい気分もあった。

 

 

「そんじゃ5時になったら、あっちのソファーでぶいけっんの配信をやるけど、基本あんたはお菓子でも食べてりゃいいから」

 

「うん、そうする」

 

「それとサーニャさんがLineでちょくちょく指示を出すけど、大事なことだから見逃すんじゃないわよ……?」

 

「うんうん。楽しみだね、あーちゃん」

 

 

 保護者同伴。お口にチャックした上で、厳重監視下での配信活動か。

 

 これでは本当に檻の中の怪獣である。

 

 

 たぶんちはやさんが憶えてないだけで、過去に何度もやらかしてるからこうなったんだろうな。

 

 信用が失墜したんじゃなく、ちはやさんがやらかす前提で場が作られている。

 

 だからこれは自業自得だ。思うことこそあれど、俺がそれを口にすることはない。

 

 

 ……しかし。

 

 こういうのを見てしまうと、ちはやさんのために何とかしてやりたくなる。

 

 

 過去のやらかしを無かったことにはできなくとも。

 

 さっき聞いたばかりの全日本柔道代表入りの経緯のように。

 

 ちはやさんなりの理由があるんだって、わかってもらえるように──。

 

 

 そんなことを考えていたら、脳内のちはやさんにクイクイと袖を引っ張られた。

 

 

『……あの、何か?』

 

『そんなに警戒しないで。わたしおじさんには期待してるんだから』

 

『期待してるって、何を?』

 

『大人の余裕』

 

 

 そこでちはやさんはニッコリと笑った。

 

 

『わたしのことを好きになってくれてありがとう。わたしもおじさんのこと結構好きだよ』

 

 

 ……まいったね、こりゃ。

 

 そんなふうに言われたら張り切らないわけにはいかないよな。

 

 

「それではちはやさん。そろそろ配信を開始しますので、こちらのソファーにお越しください」

 

「はぁ〜〜い」

 

 

 と、もうそんな時間か。

 

 俺はみっちゃんの言われるままに着席する。

 

 

 目の前のテーブルにはノート型パソコンとカメラ。そして大量のお菓子。

 

 両脇の席にはゆー君とあーちゃん。

 

 みっちゃんと玲ちゃんは着席せず、俺の背後に。

 

 保護者のサーニャさんに見守られる形で、ちはやさん悲願のぶいけんっの活動が再開する──って、なんじゃこりゃあ!?

 

 思わず顔が引き攣りそうになったが、これにはちゃんとした理由がある。聞いてほしい。

 

 

 ……今ね。パソコンの配信が目を見たのよ。

 

 そしたらなんと、“ぶいけんっ”のチャンネル登録者がなんと、870万人。

 

 同時接続者も140万とか表示されて、お兄さんビックリしちゃったのよ。

 

 ぶいけんっのメンバーをデフォルメしたオープニングのアニメ動画といい、これはもう完全にプロの仕事だ。

 

 

 みっちゃん。ゆー君。玲ちゃん。あーちゃん──どうやらこの子たちも、俺の想像以上に普通じゃないみたいだ──。

 

 

「はいっ! みなさんどうもお待たせしました。ぶいけんっのプロデューサー円谷道隆(つむらみちたか)です」

 

「ぶいけんっのマネちゃん担当堀川あかね! 颯爽登場!!」

 

「ぶいけんっのSE担当内海玲奈(うつみれいな)よ。よろしくね」

 

「同じく、イラストレーターの新海悠二(しんかいゆうじ)です。今日もよろしくお願いします」

 

「──って、ゆー君が敬語を使ってる!?」

 

「こら、余計なこと言ってないでアンタも挨拶っ!!」

 

 

 あっ、しまった。

 

 ついみんなの本名という新情報と役職に気を取られて──。

 

 

「どうもこんにちわー! ぶいけんっの葛葉ちはやです。みんなよろしくねー。わー、パチパチパチ」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします。まずはちはやさん、オリンピック出場お疲れ様でした。

 ……どうですか、実際に出場してみて。今後の抱負などお聞かせ願いたいんですが?」

 

 

 えっ? 初っ端から俺の出番なの?

 

 そう思ってそれとなくスマホを確認したら、サーニャさんが「すぐにお答えしなさい」って。

 

 怖っ……。

 

 

「う〜ん? なんか思ってたのと違ったから、もういいかなって」

 

「と、おっしゃいますと?」

 

「なんか交通事故の映像量産してるって言われた」

 

「実際その通りだからしゃーないわよ」

 

「誰だよ、こいつに柔道やらせたヤツ」

 

「少なくともあたしじゃあないわね」

 

「なら未成年なんだし、責任はちはやを国際的なスポーツの祭典に放り込んだ大人に取ってもらいましょう」

 

「そうですね。そちらの契約はちはやさんの試合が終わったことをもって完了した、というのが僕らぶいけんっの認識ですが、もしまだ何かあるなら僕がお伺いしますよ」

 

 

 なるほど。まずは冒頭で、ちはやさんの失踪にまつわるやらかしの幕引きを図るのか。

 

 

 ……うん。俺もこれぐらいのあっさり風味でいいと思う。

 

 ここで経緯やら何やを暴露しても敵を増やすだけだし、世論も荒れる。

 

 視聴者のコメントも随分と理解があり、詳しく聞きたがってるのはごく少数だ。

 

 

 これならば問題ない。

 

 ちはやさん本人はどこまでもそういったものに無頓着だけど、俺としては彼女に波瀾万丈な人生ではなく、平穏無事な学生生活を送ってもらいたい。

 

 その方が、俺のメンタルもだいぶ助かる……。

 

 

「さて、そうなると今後のちはやさんの活動ですが……初志貫徹でVTuberを目指されると?」

 

「もちろん! ちょっと前もセレスタの事務所にお邪魔させてもらったけど、担当者がいないからまた今度って言われたの。だから、やっぱり柔道をやってるから乱暴な子って思われたのかなって……」

 

「なるほど。柔道家からVTuberへの転身を図っているのはそうした理由からでしたか」

 

「うん、ここらで華麗に生まれ変わって、人畜無害なVTuberとしてルナステラの二人と仲良くやりたいんだ」

 

「ああ、ちはや一推しセレスティアプロダクションの最強コンビね」

 

「それは知ってたけど、突撃って、オマエまたやったのかよ……」

 

「やったみたいね。また話を聞いてもらえなかったって、パリに飛ぶ前のちーがブー垂れてた気がするわ」

 

「あのですね、ちはやさん……そういうのはもうこっちで全部やりますから、くれぐれも再チャレンジだけはしないでくださいね?」

 

 

 いやホントだよ。

 

 最推しが俺も好きなセレスタのかぐちとせいちゃんとか、そんな大事なことを記憶の外側から掘り返して、この土壇場でこっちに投げつけるのは勘弁してもらえませんかねえ?

 

 さすがにフォローしきれないけど、やるしかないか……。

 

 

「わたしだって迷惑をかける気はないよ。でも本気なの」

 

 

 ここで必要なのは小賢しい理屈じゃない。純粋な子供の言葉だ。

 

 例えば、ちはやさんがついさっき、俺に言ってくれたような──。

 

 

「わたしはルナステラのかぐちが好き。せいちゃんが好き。セレスタのみんなが大好きで、辛いときにもいっぱい元気をもらった」

 

 

 大人の俺が口にするのも小っ恥ずかしい、純粋な13歳の女の子の切実な想い──それを全力で訴える。

 

 

 俺は()ってる。

 

 

 両親が交通事故で亡くなったと報されたちはやさんの姿を。

 

 人目のあるところでは明るく振る舞っても、独りになると肩を落とした。

 

 そんなちはやさんを立ち直らせたのは推しの配信。

 

 業界一のポンコツ姫と、彼女と絡むときだけ互角のライバルになる歌姫の二人だった。

 

 

「だからわたしは恩返しがしたい。わたしの動機なんてそれだけだよ」

 

 

 俺がそう言い切ると、明らかに配信の空気が変わった。

 

 配信のコメントからも、選手村での失踪などを論うものが消え、光の滝は共感一色に。

 

 みんなの視線も温かいものとなり──。

 

 

「ま、そういうコトなら仕方ねえか」

 

「そうだね。……でもさ、そういうコトはもっと早く言ってもらえる? あたしだってあんたのことは親友だって思ってるんだから、単なる思いつきと本気の目標じゃこっちの気合いも変わるっての」

 

「そうね。そうと知ってたらお給料なんて請求しなかったわ。Your Tubeの収益だから頂くけど」

 

「そうですね。これはもっと本気で打ち込んでいい案件です。僕らも気合を入れ直しましょうか」

 

「やった! みんな大好き──!!」

 

「って、ちょっと褒めたらこれかよ……って、やめろちー(・・)! こっちにまで抱きつこうとすんな!!」

 

 

 知らない。ちはやさんなら必ずこうするだろうし、俺も君のことはかなり好きな部類だ。

 

 なので思春期男子には酷だと思うが、ちはやさんのハグを受け取ってもらおう……。

 

 

「さて、とりあえず新海くんには泣いてもらうとして、その他の進捗を確認しましょうか。堀川さん、内海さん、お願いします」

 

「ええと……とりあえず企業案件はいっぱい来てるから、VTuberになっても仕事には困らないと思うけど、いま言ってるのはガワの話だよね?」

 

「ええ。こっちもちはやに頼まれた仕事はほとんど終わってるけど、3Dモデルはね……。こればかりは悠二がデザインを上げてくれないとどうにもならないのよ」

 

「なるほど。新海くん、内海さんがこう仰ってますが、ちはやさんのお使いになるVTuberの基礎モデルはもう少しかかりますか」

 

「くそ、俺を見捨てやがったくせに……それなら幾つか出来てるよ」

 

 

 俺(ちはやさん)を押し除けるのを諦めたゆー君が、ブツクサ言いながらパソコンを操作する。

 

 すると出るわ出るわ。まるで写真のように精巧なアニメ風のちはやさんの数々が。

 

 

 これはたまげた。普通にすごい。とでもじゃないが中学生の作品とは思えない。

 

 しかし、この作風は……。

 

 

「すごいね! さすがゆー君。まるでわたしの写真をAIに渡して、アニメ風に書き直してもらったみたいだよ……!!」

 

 

 ああ、言ってしまわれた。

 

 

「悠二。貴方、まさか……」

 

「ちげえよ! 姉貴も俺の能力は知ってんだろ!? 全部自作。ただ俺の瞬間記憶と精密模写が悪い方に噛み合って、生成AI見たくなっちまっただけだ……」

 

「つまり自覚はあるのね? これじゃ扱い物にならないって」

 

「うっ……」

 

 

 そしてさすがはお姉さん。弟に容赦ない。

 

 

「いえいえ、新海くんもそんなに落ち込まないでください。こうした課題を解決するのもぶいけんっの肝ですから」

 

「それはそうなんだけど、どうすりゃいいんだか……。とりあえず悠ちゃんもデフォルメができないってワケじゃないよね。実際オープニングのアニメでやってるし」

 

「そうなんだが、俺としては下手なものを作れないって気負いもあってな。どうしても記憶の中にあるちー(・・)の正確な再現に拘っちまうんだ」

 

「えっ? これって全部、あんたがちーをガン見した結果なの? キモっ……」

 

「確かに気持ち悪いわね。悪気はないと思うんだけど──「キモくないよ!?」」

 

 

 気がつくと俺は立ち上がり、ゆー君を庇っていた。

 

 

「だってこれはわたしがVTuberのデザインを頼んだからだもん! だからわたしがモデルをやるのは当然。ゆー君は先生として当然のことをしただけなの……!!」

 

 

 勿論、これはちはやさんの言葉ではない。

 

 これは俺の言葉だ。自分でも何故だか判らないが、俺の中の何かがゆー君の擁護に駆り立てる。

 

 

「だからゆー君はキモくない。すぐ目を逸らしちゃうのにわたしのことをずっと目で追ってたのはキモいけど、キモくないよゆー君」

 

「庇い立てたアンタがトドメを刺してどうするのよ」

 

 

 すると面食らったような顔をしていたあーちゃんが、なんでかものすごぉ〜〜く邪悪な顔になって。

 

 

「いやぁ、でもごめんね〜? あんたの“ゆー君”のことをわるく言っちゃって?」

 

「あらあら、そんなに真っ赤になっちゃって……二人とも可愛いわね」

 

「ハッキリと放送事故ですが、撮れ高でもありますから、まあヨシとしましょう。……ところでアーカイブの収録はどうします?」

 

「消せッ! このんなもん世に残すなッ!!」

 

 

 ……これ、ちはやさんを笑えませんよね?

 

 サーニャさんも「あとで話があります」みたいな顔でこっちを見てるし、俺としたことがとんでもない黒歴史を生産してしまった。

 

 

 それなのに、何故か──。

 

 

『いいよ。すっごく嬉しかった』

 

 

 なぜか、俺の中のちはやさんは満悦で。

 

 俺は針の筵に等しい空気のなか、バカみたいに立ち尽くすより他になかったのである……。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 鳴らないスマホを眺めるのはもう飽きた。

 

 結局あたしの両親は「そのうち帰ってくる」と気楽に構えてるし、内緒で相談した警察も頼りにならない。

 

 財布やスマホを置いて居なくなるなんてどう考えても普通じゃないのに、誰も分かってくれないのだ。

 

 

 ……おかしいよ。

 

 みんな絶対おかしいって。

 

 

 突然居なくなった兄だけじゃない。

 

 それを平然と受け入れる両親も普通じゃない。

 

 

 そんな違和感に頭がどうにかなりそうだった翌日の夕方に、ひとつだけ朗報があった。

 

 と言っても、何か進展があったわけじゃない。

 

 ただとある国民的アイドルが、Your Tubeで久しぶりの配信をやるというのだ。

 

 

 葛葉ちはや。相性はちーちゃん。

 

 たった4人の仲間とともにオリンピックの柔道を完全制覇。

 

 痛快なコメントと誰にも真似できない活躍で世間とマスコミの度肝を抜き、男社会に風穴を開けるその子はあたしも大好きだ。

 

 

 ……そうだね。

 

 お兄ちゃんのことは気になるけど、あまり根を詰めても仕方ない。

 

 ここらで息抜きも必要だと、あたしは手元のスマホを操作した。

 

 

『どうもこんにちわー! ぶいけんっの葛葉ちはやです。みんなよろしくねー。わー、パチパチパチ』

 

 

 そしてすぐに気がついた。

 

 ちーちゃんのスマホに、前回は付いてなかったものを見つけたのだ。

 

 

「これって……」

 

 

 ちーちゃんが買い逃したって悔しがってた、とあるVTuberの限定ストラップ。

 

 あたしがお兄ちゃんにプレゼントしたそれが、どうしてちーちゃんの手元にあるのか……。

 

 

 そう思いかけて、自分のほっぺたをパチンと叩く。

 

 

「ふぅ、ダメダメ。全然息抜きできてないじゃんか、あたし」

 

 

 そうだよ。たしかに正規ルートでの購入は難しいかもしれないけど、ちーちゃんならフリマで高額出品されてるのを確保するなり、コネを使うなりするなら入手自体は不可能じゃない。

 

 それなのに勝手に結びつけて、「なんであたしがお兄ちゃんにあげたヤツがそこにあるの?」って、我ながら被害妄想にしても酷すぎでしょうが。反省しろ。

 

 

 あたしはそんなふうに気持ちを切り替えて、ちーちゃんの配信を楽しむことにした。

 

 

 ……うん。もちろん楽しい。

 

 でもなんか、胸がざわつく。

 

 

 スマホの中にいるのはいつものちーちゃんなのに。

 

 なんでかお兄ちゃんの影がちらつく。

 

 

「……ダメだ。思ってたよりも重症じゃん」

 

 

 こういうのを認知バイアスっていうのかな。

 

 兄があたしを悩ませるから、何でもかんでも結びつけてしまう。

 

 

 だから忘れよう。あんな兄のことは。

 

 そうでもしないとちーちゃんに申し訳ない。

 

 

 そう自分に言い聞かせて、テーブルのペットボトルに手を伸ばし──。

 

 

『キモくないよ!? だってこれはわたしがVTuberのデザインを頼んだからだもん! だからわたしがモデルをやるのは当然。ゆー君は先生として当然のことをしただけなの……!!』

 

 

 

 その瞬間。

 

 心臓が嫌な音を立てた。

 

 

『だからゆー君はキモくない。すぐ目を逸らしちゃうのにわたしのことをずっと目で追ってたのはキモいけど、キモくないよゆー君』

 

『庇い立てたアンタがトドメを刺してどうするのよ』

 

 

 画面の向こうで笑いが起きる。

 

 コメント欄も盛り上がっている。

 

 でも、あたしは笑えなかった。

 

 

 その言い方を知っている。

 

 その理屈を知っている。

 

 昔、お父さんに向かって「キモい」と言ったとき。

 

 顔を真っ赤にしたお兄ちゃんが、ほとんど同じことを言ったからだ。

 

 

 ……もちろん偶然かもしれない。

 

 世の中には似たような考え方の人なんて沢山いる。

 

 

 それに。

 

 ちーちゃんはちーちゃんだ。

 

 お兄ちゃんじゃない。

 

 そんなことは分かっている。

 

 分かっているはずなの──。

 

 

「……やだなぁ」

 

 

 思わず苦笑いが漏れた。

 

 最近、お兄ちゃんのことばかり考えている。

 

 だから何でもかんでも結び付けてしまうのだ。

 

 

 きっとそう。

 

 きっと、気のせい。

 

 そう自分に言い聞かせながら、あたしはスマホの画面へ視線を戻した。

 

 

 

 

 

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