荒野の椿   作:クワ

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戦術の読みあい

 日が出始めた頃、(だる)い体を起こし魔歩から()い出る。

「腹減ったなぁ」

 幸いなことに昨日は襲撃が無く寝られたが、狭い中に閉じ込められていたおかげで体の節々が固まっているような感覚だ。

 

 三木が軽くストレッチを行っていると、みなゆっくりと起きて来る。

「おはようございます」

 笑いながら利津子が挨拶をしてくる。

 

 三木が適当に返事を返すと利津子は少し納得のいかない表情を出して朝食を取りに向かった。

「おじさん、おばさんご飯下さい」

「ああ、利津子ちゃんかい、ほうら持ってお行き」

 そんな会話を聞いていると、いつあの娘が輜重隊の人たちと仲良くなったのかと三木は驚いていた。

 

「あの娘ええ子やね」

 いつの間にか川濱が横に陣取るとそんな話を振ってきた。

「まあ、色々な人間がいるわな」

 曖昧に誤魔化して会話を終わらせ地面を蹴って立ち上がった。

 

椿の執務室

 

「えっ昨日敵の斥候を見た?」

「護衛はどれ位連れていきました?」

「歩兵と砲兵、それに魔歩をそれぞれ1中隊ほど」

「足りない!」

 素っ頓狂な声を上げると、椿は朝食もほどほどに執務室を飛び出し各部隊長を叩き起こした。

 

「すぐに準備をしなさい。輜重隊が危険です」

「それと、あなた、今日の直掩当番に今の内容の通信筒を味方部隊に落とすように手配してください」

 

 通信室へ駆け込むと通信兵を捕まえ荒い口調で(まく)し立てた。

「オドルスの部隊に連絡を付けます、回線を回してください」

「はっ」

 驚いた通信兵が回線をつなぐと向こうの通信兵との連絡にまごつき、焦りからイライラした椿は通信兵から受話器を取り上げ相手の通信兵に捲し立てる。

「急いで、昔町中将につないでください」

 電話の向こうで焦った通信兵が走る音が聞こえるとしばらくの静寂な時間が起こる。椿の指をトントンと叩く音を除いて。

 

 しばらく待つと電話口に昔町が現れ「どうなさいました」と悠長に答えた。

「そちらに向かっている輜重隊が今晩襲撃されます、こちらからも兵を送りますので、そちらからも送ってください」

「うーむ、してどれくらいの敵が来ますかな?」

「目下、確認中です

「それと、敵の駐屯地に空襲をかけて下さい。それで大体の兵の数がわかるはずです」

 早口で捲し立てる椿にウンザリしながらも「承知しました」と言い電話を切った。

 

「どうでしたか、何かありましたか?」

 第5師団の参謀の1人が話を振ると、困ったように今聞いた話を語った。

「とりあえず、航空隊に連絡し伝えてくれ」

「陸兵の方は」

「出さざるを得ないだろう。そちらの準備も頼む」

 そう指示して中断していた地雷を埋める作業の指揮に戻った。

 

バガルス航空隊詰所

 

「おし、出撃じゃあ」

 訓練を予定していた航空隊は初めての実戦の者も多く士気が空の上に上がるがごとく高く、増魔石(ぞうませき)、爆弾等急遽(きゅうきょ)準備にも関わらずテキパキとこなして出立の準備を整えた。

 増魔石と言うのは魔力をため込んだ石で、この石を積んで、そこから魔力を得ることにより飛行距離を伸ばす代物だ。

 

「ホウキの調子はどうだ?」

「万全であります」

「それにしても、ホウキとは昔の人は面白い表現をしたもんだよ」

「確かに、発動機からでた魔力エネルギーの帯がホウキの掃く部分に似ていると言えば似てますからね」

「まったくだ」

 

 そんな話をしている内に準備が整う。

「では、出撃」

 急なこともあり出発が遅れ、敵上空に到達するのは正午過ぎ、帰還は夕方になるだろう。

「がんばれー」

 整備兵やら留守の者やら帽子など思い思いの物を振って見送った。

 

オモテンキャブ駐屯所

 

 乃本元帥に留守を任せ、椿自身が引き抜いた2連隊ほどを引き連れ輜重隊の後を追いかけた。

「間に合えばよいのですが」

 

プロイデンベルク軍

 

 エルウィンは指揮車両の中で横になり考え事をしていた。

「閣下、準備は整っております」

 バイエルンイン参謀が車両を覗き込み声をかけてきた。

 

「ああ、日が落ちるまでにはまだまだ時間があるね」

「第9師団と第90軽機械化師団・504重魔歩兵はすでに作戦行動に移っており、第15・21師団および508重魔歩兵もそろそろ出発する時刻です。

「ふふ、ご苦労様」

「それでは……」

「時間になったら呼んでくれ」

「はっ」

 

楼湖上空

 

 航空隊の騎体にはキラキラとまぶしい太陽光が当たり周囲に跳ね返している。

「各騎速度上げ、増魔石捨て」

 騎体からクルクルと増魔石が切り離され落ちてゆく。

 

「来たぜ!」

 西の空にまるで星が煌めいているのかと思うほどキラキラと光を放っている一角がある。

「手筈通り、爆撃騎の直掩隊はそのまま進め、残りは俺に続けぇ」

 

 しばらく格闘戦を行い敵を掃討した後、地上の追討に移る。

「俺が見ているからお前らは地上の施設に魔銃掃射(まじゅうそうしゃ)を掛けろ」

 その掛け声とともに、僚騎は高度を下げて狼のように地上の標的に対して魔銃を撃ちかける。

 

 タカタカタカ

「……」

 タカタカタカ

「……おかしいな」

 一通り打ちかけると、急いで爆撃隊と合流する。

 

「なあ、おかしくなかったか」

 熟練の爆撃騎のパイロットが話しかけてきた。

「ああ、感じた、まるでブリキやべニアを攻撃しているような感じだ」

「ああ、それだ!」

 表面上は魔銃を撃ちかけてきたのだが、やはりみな感じていたのか地上の施設に手ごたえが無かった。

「司令に暗号を打っておくか」

 

バガルス基地

 

 通信兵が攻撃隊から暗号を受け取り昔町中将のもとへ走る。

「中将、攻撃隊からこのような連絡が」

 その内容を一目見て「当たっていたのかもな」と呟き白武中将の元を尋ねると、白武はあらかた聞いていたのか知将らしく物静かな佇まいで「出撃ですか」と笑った。

 

 昔町は一言声をかけ無線内容を渡すと「我が隊が行くので留守を頼む」といい出て行ってしまった。

「やれやれ、せっかちだなと言いたいがこうもしてられない」

 そう呟いてゆっくりと立ち上がった。

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