数日後の夜。
王都リ・エスティーゼ、とある酒場にて。
「それじゃあ、戦勝を祝して、乾杯!」
蒼の薔薇のリーダー、ラキュースが音頭を取った。
「「「乾杯!」」」
そして他の者たちが叫び、エールを呷った。
今この場には先日の八本指襲撃に参加した者の殆どが居る。
イビルアイは酒が苦手と断りいないが、本当はアンデッドなので食べることが出来ないので居ない。
吸血鬼系アンデッドは飲むことは出来ても食べる事は出来ない。
ルシフェルもエールを飲むが炭酸が舌に会わずうえっとなっていた。
ルシフェルの隣にガゼフが座り、ガゼフが深く頭を下げた。
「ルシフェル殿には感謝してもしたりない。貴女の力で王国はより良い方向に向かうだろう……!」
「僕としてはやりたい事やっただけだから、そう言われても困る」
ルシフェルはそう軽く返しつまみを食べる。
ルシフェルは歓待を受け、楽しいパーティとなるのだった。
■
王国と帝国は毎年秋、十月ごろに戦争をしている。
戦争の目的は王国の国力をそぐためだ。
秋、つまり収穫の時期に戦争を起こす事で作物の収穫を遅らせ実りを悪くするのだ。
更に戦争を起こすには人件費がかかる。
移動費、移動時の食費など、金はかかりまくる。
そう言ったもろもろで国力を少しずつ削り、弱ったところを帝国軍が攻め落とすつもりなのだ。
今年も戦争となり、カッツェ平野で王国軍と帝国軍がにらみ合っていた。
王国軍二十万と帝国軍六万の軍勢だ。
「ルシフェル殿……」
王の近くで、ガゼフは心配そうにつぶやいた。
ルシフェルはこの戦争が始まる前、妙に興奮していた。
まるで遠足前の子供の用な笑顔を浮かべていたのだ。
何かあったのか、と尋たら面白いことが出来るようになったとだけ。
ガゼフはこの戦争がどうなるのか気になってしょうがなかった。
「いやはやしかしあの宮廷魔術師殿は一体どんな魔法を使うのでしょうね」
ガゼフ近くの貴族がそう周りにも聞こえる声で言った。
「ずいぶんと自信ありげでしたからきっと魔法一つで帝国軍の半分でも倒してくれるのでしょうねぇ」
そう返すのは別の貴族だ。
ルシフェルが自信ありげに王に「戦争の最初の一手は僕に任せて欲しい」などと言ったものだから他の貴族から嫌味が出ているのだ。
そして帝国から開戦の使者が着て、ついに戦争が始まった。
王国軍の空をルシフェルが飛んだ。
翼を生やして飛ぶのを初めて見た王国の貴族たちはあんなことも出来たのかと感心する。
そうして帝国軍の前の空に浮かんだルシフェルは笑みを浮かべた。
帝国軍は動かない──理由はある。
王国の売国奴が帝国に情報を流し強力な魔法を開戦の一手とすると知っているからだ。
帝国軍の中にはフールーダ・パラダインも交じっており空を飛んでいるルシフェルをその魔眼で見た。
フールーダは見えんな、とつぶやく。
フールーダの
相手が魔力系に限り第何位階の魔法まで使えるのか、どれだけの魔力を持つのか見破れるのだ。
ただこれは探知系や情報系に対策を積んでいない相手に限る。ルシフェルは探知系に対策を積んでいるので見れなかった。
ルシフェルが翼を広げ──それに合わせて何百何千という魔法陣が翼のように広がった。
この魔法は使う事で魔法を込める事が出来るという物でリリースのワードで込めた魔法を任意のタイミングでMP消費なしで発動できるという物だ。
勿論込める際にはMPを消費するが。
この魔法はユグドラシル時代の仕様は一つの魔法しか込められなかった。
だが、この世界に来たことで仕様が変わった。
ルシフェルはその仕様を見て思った。
──
そしてそれは可能だった。
三重化した
ルシフェルはこの仕様を使い前日にありったけの魔法を
その結果が帝国軍を被うように浮かぶ魔法陣だ。
「死ね──リリース」
ルシフェルが呟く事で魔法が発動した。
放つ魔法は幾つもある。
普段使いの熱線、着弾地点で爆発する光線、切断の光線、
レーザーと魔法の嵐が帝国軍全体を襲う。
皇帝はミスを犯した。
突撃時に魔法を喰らい人が総崩れになるのを恐れ最初に一撃貰ってから進軍するという選択肢は過ちだったのだ。
だが皇帝が一概に悪いとは言えない。
帝国の予想ではルシフェルは高くても第五位階魔法の使い手でしかなく、空を覆うような魔法陣を出すような存在とは到底思っていなかったのだ。
魔法陣から魔法が放たれ続ける。
騎士の頭部を消し飛ばし、光線が着弾し爆発し悲鳴が木霊する。
フールーダとその高弟は
悲鳴が上がり、肉が焼ける音と臭いがし、絶望が蔓延する。
「なにこれすっごい快感!」
ルシフェルがひっくり返ったポーズのまま子供のように笑った。
「なんと……なんという……」
その光景を見てフールーダは顔を暗く──せずむしろ明るくした。
何だ、この魔法は。どうやって作った、いやそもそも第何位階の魔法だ?
フールーダは居てもたってもおられず高弟を無視してルシフェルの元まで飛んで行った。
ルシフェルは笑い続け地上の悲劇を見て笑ってるので気づかなかった。
だからフールーダの接近を許した。
フールーダは声が届く距離まで近づくと叫んだ。
「王国の宮廷魔術師殿! 貴女と話したい! 貴女は第何位階の魔法まで使えるのか?!」
フールーダのその叫びでルシフェルは笑うのを辞めちゃんと真っすぐと空に立ち迎えた。
「あー、笑った笑った……で、お前なに? まずは自己紹介からしろよ」
ルシフェルのその言葉にそれもそうか、とフールーダは襟を正した。
「それは失礼した。私はフールーダ・パラダイン。帝国の宮廷魔術師筆頭である」
「あぁ、例の二百年生きてるとかいう……で、僕が何位階まで使えるかだって? 勿論第十位階も超位魔法も使えるよ」
第十位、という言葉にフールーダは眼をカッと見開いた。
「それが事実とあらば探知対策の魔法を解除してほしい! 私の目で見たい!」
その言葉にルシフェルは怪訝な顔をするもまぁいいかと返した。
そのまま課金で見えなくしている指輪の一つ、探知阻害の指輪の能力をオフにする。
瞬間ルシフェルから威圧感が放たれる。
絶対的強者のオーラ。立ち上る冒涜的な魔力。
「お、ぉお、おおお!」
それを見てフールーダは感動の声を上げた。
間違いない、これは第十位階を示すオーラ!
フールーダは空を飛びながら器用に土下座の姿勢を取った。
「魔法を司るという小神を信仰しておりました。貴女がその神でないというのなら、信仰は今終わりました」
フールーダは飛行の応用で土下座の姿勢を維持したままルシフェルに近寄った。
「どうか、私を弟子にしてください! そのためならば何でも致します! 師よ、どうか私に魔法の深淵を!」
それに対しルシフェルは笑みを浮かべた。
「そこまで言うならさ、靴でも舐めなよ」
そうルシフェルは自身の右足を差し出した。
右足にはブーツを履いている。黒い革靴だ。
フールーダは迷うことなく靴を舐めた。
それを見て流石のルシフェルも若干引いた。
「も、もういいよ……後日王宮に来い、そこで魔法省の副大臣にでもしてやる」
「おお! 感謝いたします、師よ!」
こうして帝国軍は壊滅した。