地霊殿の奥には、地図に載らない水路がある。
地上の川でもない。
霧の湖の底でもない。
人里の井戸でもない。
それは、幻想郷の下を這う古い流れだった。
岩の隙間を抜け、熱を帯びた石の下を通り、忘れられた排水溝を伝い、時には境界のほつれに触れながら、静かに流れている。
水音は、最初は細かった。
だが奥へ進むほど、その音は太くなる。
ごう、ごう、と。
まるで地底そのものが喉を鳴らしているようだった。
博麗霊夢は、湿った岩道を進みながら顔をしかめた。
「本当に嫌な場所ね」
隣を飛ぶ魔理沙が笑う。
「地底のさらに奥だぜ。快適だったら逆に怖いだろ」
「それもそうだけど」
足元には黒い水が流れていた。
水というより、薄い墨を混ぜたような色だった。濁りは強く、表面に細かな金属粉が浮いている。
にとりがその水を見て、低く言った。
「濃くなってる」
「地上へ行く前の濁りか」
村紗が尋ねる。
「たぶんね。ここで混ぜて、それぞれの水路へ薄めながら流してる」
鈴仙が小瓶に水を取る。
「師匠、成分がかなり強いです」
八意永琳は瓶を受け取り、少し振った。
「毒ではない。けれど、水としては使えない。人里の井戸に流れれば、すぐに不安が広がる濃さね」
「人を倒すためじゃなく、不安にさせるための濁り」
早苗が呟く。
永琳は頷いた。
「ええ。よく考えられているわ。悪意としては中途半端。商売としては優秀」
霊夢は舌打ちした。
「褒めないで」
「事実よ」
先頭を歩いていた古明地さとりが足を止めた。
「ここから先です」
その先には、大きな空洞があった。
地底の岩盤が丸くくり抜かれたような空間。
天井からは何本もの古い管が垂れ下がり、壁には錆びた水門が並んでいる。中央には黒い水溜まりがあり、その周囲を青い金属筒が取り囲んでいた。
水はそこへ集められ、濁りを加えられ、別の管へ送られている。
まるで、水の賭場だった。
流れを止め、流れを変え、流れに値段をつけるための場所。
にとりが息を呑んだ。
「青筒の中枢管……本当に残ってたのか」
霊夢が聞く。
「知ってたの?」
「噂だけ。古い河童が作った水路調整場だって。でも、とっくに潰れたと思ってた」
村紗は水溜まりを見て、嫌悪を隠さなかった。
「船乗りの前で、よくこんな真似ができる」
咲夜は壁の水門を見た。
「紅魔館の地下へ繋がるものもありますね」
早苗も言う。
「守矢の水車へ戻る水路も」
永琳が静かに指差した。
「竹林と永遠亭の薬用水もある」
紫は扇で口元を隠しながら、空洞の奥を見ていた。
「境界水脈にも触れているわ。無理に壊せば、水だけでは済まない」
「またそれ?」
霊夢が睨む。
「事実よ」
「じゃあ壊さず止める」
「簡単に言うわね」
「簡単じゃないから、あんたたちがいるんでしょ」
紫は少しだけ笑った。
「使われる側になった気分は複雑ね」
「慣れなさい」
その時、空洞の奥から拍手が聞こえた。
ぱち、ぱち、ぱち。
乾いた音が、水音の中に響く。
青い作業着を着た河童たちが、影の中から現れた。十人ほど。いずれも工具を持ち、目元を濡れ布で覆っている。
その中心に、一人だけ年老いた河童がいた。
背は低い。
だが、腰は曲がっていない。
青く錆びた金属筒を杖のように持ち、霊夢をまっすぐ見ている。
にとりが低く言った。
「青筒組の頭領……筒守玄水」
玄水と呼ばれた河童は、しわがれた声で笑った。
「河城の娘か。お前も地上の連中と来たか」
「水を売るために濁らせる連中と一緒にするな」
「若いな」
玄水は霊夢へ視線を移す。
「博麗の巫女。ようやく来たか」
「呼ばれた覚えはないわ」
「水を止めれば、いずれ来る。博麗はそういう場所だ」
「人の神社を呼び鈴みたいに言わないで」
玄水は笑った。
「違うのか? 人里が困れば博麗を呼ぶ。妖怪が騒げば博麗を呼ぶ。水が止まれば博麗を呼ぶ。ならば、博麗に話を通すのが一番早い」
霊夢は水溜まりを見た。
「これが話を通すやり方?」
「水を見せているだけだ」
「濁らせてるでしょ」
「濁りもまた、情報だ」
玄水は青い杖で地面を叩いた。
「霧の湖が減った。人里の井戸が濁った。紅魔館の貯水槽が震えた。守矢の水車が止まった。命蓮寺の船が動かなくなった。永遠亭の薬用水が揺らいだ。そこで初めて、全員が水の流れを見た」
霊夢は黙っている。
玄水は続けた。
「誰も見ていなかった。使う者はいた。囲う者はいた。売る者もいた。だが、流れそのものに責任を持つ者はいなかった」
神奈子に似た言葉だった。
だが、神奈子の言葉と違うのは、そこに責任ではなく値段の匂いがあることだった。
早苗が一歩前に出た。
「だから、水を止めたんですか」
「そうだ」
「人里の井戸まで濁らせて?」
「少しだけだ」
「少しでも、人は不安になります」
「その不安が、管理の必要性を教える」
村紗が怒りを含んだ声で言った。
「命蓮寺の船も止めたな」
「船が動かなければ、荷の価値が分かる。水路の価値も分かる」
「水運を脅しに使うな」
「水運は元から力だろう。お前たちはそれを救済と呼ぶ。我々は管理と呼ぶ。違いは名前だけだ」
白蓮がいれば、静かに反論したかもしれない。
だがここにいる村紗は、拳を握るだけだった。
咲夜が静かに口を開いた。
「紅魔館の封印紙を偽造したのもあなた方ですか」
「一部はな」
「一部?」
「偽造は分業だ。博麗の札、紅魔館の封印、守矢の神紋、命蓮寺の荷札。全てを青筒だけで作ったわけではない」
霊夢の目が細くなる。
「誰が協力したの」
玄水は笑った。
「水は広い。金も広い。困っている者、儲けたい者、責任を押しつけたい者。そういう者はどこにでもいる」
さとりが静かに言った。
「彼は具体名を隠しています。ただ、複数の勢力の末端と取引したのは事実です」
玄水はさとりを見る。
「心を読む妖怪は厄介だな」
「濁った心は、濁った水より見やすいものです」
霊夢は御札を取り出した。
「もういいわ。水を戻しなさい」
「戻すとも」
玄水は頷いた。
「条件がある」
「聞かない」
「聞くことになる」
玄水が青い杖を掲げた。
その瞬間、空洞の水門が一斉に軋んだ。
ごごご、と岩が震える。
黒い水溜まりの水位が下がり始める。
同時に、壁の管へ水が吸い込まれていく。
にとりが叫んだ。
「まずい! 全水門を閉じる気だ!」
「どうなるの」
霊夢が聞く。
「地上側の流れが一気に止まる。霧の湖、人里、命蓮寺、紅魔館、全部だ!」
永琳が険しい顔で言った。
「永遠亭の薬用水も止まるわ。水質以前に、水が来なくなる」
玄水は落ち着いた声で言った。
「博麗神社に、正式な水裁定を求める。青筒組を幻想郷水利管理者として認めろ。認めれば水を戻す」
「認めなかったら?」
「一晩、水を止める」
早苗が息を呑む。
「一晩……」
「死者は出ない。だが、全員が水の価値を思い知る」
霊夢の表情が消えた。
「一晩なら許されると思ってるの?」
「許すかどうかを決めるのが博麗だろう」
「じゃあ今決めるわ」
霊夢は札を構えた。
「不許可」
玄水は笑った。
「早すぎる裁定だ」
「水を止めた奴に、水は任せない」
その言葉と同時に、霊夢は飛んだ。
だが、玄水の周囲に青い水柱が立ち上がる。
水柱は壁の管から噴き出し、霊夢の進路を塞いだ。
魔理沙が横から光を放つ。
「どけ!」
光が水柱を裂く。
しかし水はすぐに形を戻した。
にとりが工具箱を開け、叫ぶ。
「霊夢! 玄水を殴っても駄目だ! 水門を止めないと!」
「どれ!」
「全部!」
「最悪じゃない!」
村紗が碇を振り、水の流れを読む。
「あの中央の水溜まりが親だ! そこから各水門へ圧が行ってる!」
咲夜が一瞬で動いた。
空洞のあちこちに、紅い刃が閃く。
水門の操作具に刺さり、いくつかの管が止まる。
「一部、固定しました」
早苗は御幣を振るい、風で水流を押さえた。
「守矢側の管、流れを逆に押さえます!」
にとりは水門へ飛びつき、工具で青い筒を外そうとする。
「くそ、古い型なのに厄介な固定してる!」
鈴仙は濁った水が飛び散らないように、薬箱から布と薬液を取り出して負傷者用の場所を作る。永琳は水質を確認しながら、どの管を先に止めるべきか指示した。
「人里の井戸へ向かう管を優先。次に薬用水。命蓮寺の水運は一時的に後回しでも持つ」
村紗が怒る。
「後回しかよ!」
「船は待てる。飲み水と薬は待てない」
村紗は一瞬だけ黙り、それから頷いた。
「分かった。命蓮寺の分は私が持たせる」
紫は境界の裂け目をいくつも開き、水の逃げ道を一時的にずらした。
「無理に塞がないで。逃がしながら戻すのよ」
霊夢は玄水を睨む。
「逃げ道を作るのは得意ね」
「あなたほどではないわ」
「今は褒めてない」
さとりは青筒組の河童たちの動きを読み、お燐へ指示した。
「右奥の二人、逃げるつもりです」
「はいよ!」
お燐が車輪を走らせ、河童たちの退路を塞ぐ。
さらに空洞の天井近くで、霊烏路空が姿を見せた。
「さとり様、あれ燃やしていい?」
「駄目です」
「ちょっとだけ」
「駄目です」
霊夢が叫ぶ。
「絶対駄目!」
空は不満そうに頬を膨らませた。
玄水はその混乱を見ても、まだ落ち着いていた。
「見事だ。だが、寄せ集めでは水は戻らない。博麗、今からでも遅くはない。青筒を認めろ。我々なら、全ての水門を一つの帳面で管理できる」
霊夢は水柱を避けながら答えた。
「帳面で水を支配する気?」
「支配ではない。管理だ」
「止めてから言う管理なんて、ただの脅しよ」
「脅しも交渉の一部だ」
「それを言った時点で、終わり」
霊夢は本物の博麗札を取り出した。
だが、札を貼る場所がない。
中央の水溜まりに貼れば、流れは一時的に止まるかもしれない。
しかし、境界水脈にも干渉する恐れがある。
紫が霊夢の考えを読んだように言った。
「そこに貼れば、地上の水は止まるわよ」
「分かってる」
「でも、貼らないと青筒の流れは止まらない」
「それも分かってる」
霊夢は歯を噛んだ。
力で封じれば早い。
だが、それでは青筒組と同じだ。
水を止めて解決した気になるだけ。
その時、にとりが叫んだ。
「霊夢! 貼るなら水溜まりじゃない! 古い分岐だ!」
「どこ!」
にとりは黒い水に膝まで浸かりながら、壁の奥を指した。
「中央の裏! 青筒が後付けした管じゃなくて、元からあった分岐! そこに貼れば、水を止めるんじゃなくて、元の流れへ戻せる!」
紫が目を細める。
「なるほど。境界を閉じるのではなく、流れの境目を戻すのね」
「できるの?」
魔理沙が聞く。
紫は霊夢を見る。
「博麗なら」
「またそういう言い方」
霊夢は飛んだ。
玄水が杖を振る。
水柱が霊夢を追う。
魔理沙の光がそれを弾く。
「行け、霊夢!」
咲夜が時間を切るように動き、水流の一瞬の隙間を作る。
早苗の風が霊夢の背を押す。
村紗が碇で水の流れを横へずらす。
紫が隙間を開き、霊夢の進路を一瞬だけ短くする。
霊夢は中央の水溜まりの裏側へ回り込んだ。
そこに、古い石の継ぎ目があった。
水が、そこから泣くように漏れている。
青筒組の管は、その継ぎ目に無理やり差し込まれていた。
水は本来の流れを曲げられ、濁りの中へ引き込まれていた。
霊夢は札を構えた。
玄水の声が響く。
「貼るな、博麗! そこを戻せば、水はまた誰のものでもなくなる!」
「それでいいのよ!」
霊夢は本物の博麗札を、古い分岐に貼った。
瞬間、空洞の水音が消えた。
一呼吸。
完全な静寂。
次の瞬間、水が動いた。
黒い水溜まりに集まっていた流れが、逆にほどけていく。
無理やり吸い込まれていた水が、本来の管へ戻り始める。
青筒組の青い筒が次々と震え、いくつかは弾けるように外れた。
にとりが叫ぶ。
「戻った! 人里側、流れた!」
早苗が御幣を握りしめる。
「守矢側も、少しずつ戻っています!」
咲夜が言った。
「紅魔館の地下管、逆流が止まりました」
村紗が水音を聞いた。
「命蓮寺の水路にも戻る。浅いが、流れはある」
鈴仙が小瓶を確認する。
「薬用水の濁りも薄くなっています!」
永琳は静かに頷いた。
「応急処置としては上出来ね」
魔理沙が笑う。
「霊夢にしては繊細だったな」
「うるさい」
霊夢は濡れた袖を払った。
玄水は青い杖を握ったまま、動かなかった。
彼の足元には、外れた青筒が転がっている。
「水が……戻った」
「そうよ」
霊夢は玄水の前に立った。
「誰のものでもない場所にね」
玄水は笑おうとした。
だが、笑えなかった。
「一時的だ。古い水路はまた詰まる。誰かが管理しなければ、また同じことが起きる」
「それは否定しない」
霊夢の答えに、玄水は顔を上げた。
「なら」
「でも、あんたたちには任せない」
霊夢はきっぱりと言った。
「水を止めて、濁らせて、不安に値段をつけた。そんな奴が管理者になれるわけないでしょ」
玄水は低く言った。
「青筒なしで、幻想郷の水路を維持できると思うのか」
「できるかどうかは知らない」
霊夢は周囲を見た。
にとり。
早苗。
咲夜。
村紗。
鈴仙。
永琳。
さとり。
紫。
魔理沙。
「でも、あんたたちだけで握らせるよりはマシよ」
さとりが捕らえた河童たちを見た。
「逃げる心が増えています」
お燐が車輪を鳴らした。
「じゃあ、逃がさないようにしないとね」
咲夜が静かにナイフを構える。
「紅魔館の名を使った分は、きちんと話を聞かせていただきます」
早苗も御幣を下ろさなかった。
「守矢の名を使ったことも」
村紗は碇を肩に担いだ。
「命蓮寺の水路を止めたこともな」
にとりは玄水を見て、苦い顔をした。
「河童の面汚しだよ」
玄水は周囲を見回した。
そして、小さく笑った。
「ならば、博麗神社で裁け」
霊夢は眉をひそめる。
「何?」
「ここで我々を捕まえて終わりにしても、水の問題は残る。紅魔館の貯水槽。守矢の水利計画。命蓮寺の水運。永遠亭の薬用水。人里の井戸。八雲の境界水脈」
玄水の声は、まだ消えていなかった。
「全てを表に出して裁けるのか、博麗」
霊夢は黙った。
玄水の言葉は、最後の悪あがきだった。
だが、間違ってはいない。
青筒組を捕まえれば、水は一時的に戻る。
しかし、水をめぐる利権は消えない。
紅魔館はこれからも湖の水を引く。
守矢は水利計画を諦めない。
命蓮寺は水運を続ける。
永遠亭は薬用水を必要とする。
人里は井戸を守らなければならない。
紫は境界水脈を隠したがる。
裁かなければならないのは、青筒組だけではない。
霊夢は短く息を吐いた。
「いいわ」
魔理沙が目を丸くした。
「いいのか?」
「博麗神社に全員呼ぶ」
紫が少し笑った。
「また大変なことを言い出したわね」
「元はと言えば、あんたも隠してたでしょ」
「否定はしないわ」
「なら来なさい」
永琳が言った。
「永遠亭も?」
「当然」
「面倒ね」
「私が一番面倒だと思ってるわよ」
にとりが聞いた。
「河童はどうする?」
「青筒組は拘束。にとり、あんたが河童側の説明役」
「私かよ」
「他に信用できる河童がいるの?」
にとりは言葉に詰まり、ため息をついた。
「分かったよ」
村紗は頷いた。
「命蓮寺へ伝える。白蓮も来るだろう」
咲夜も言った。
「紅魔館には私が連絡します。お嬢様は必ず来るでしょう」
「来なくていいのに」
霊夢が呟く。
「必ず来ます」
「でしょうね」
早苗は御幣を握り直した。
「守矢も出席します。神奈子様に伝えます」
鈴仙も頭を下げる。
「師匠と一緒に永遠亭の分析結果を持っていきます」
さとりは玄水たちを見る。
「青筒組はこちらで一時拘束します。逃げようとすれば、心を読んで止めます」
お燐が笑う。
「地底で逃げるのはおすすめしないよ」
空が少し残念そうに言った。
「燃やさないの?」
「燃やしません」
さとりが即答した。
霊夢は中央の水溜まりを見た。
黒い濁りは、少しずつ薄くなっていた。
水はまだ完全には戻っていない。
だが、止まってはいない。
流れ始めた。
それだけで十分だった。
地上へ戻る頃には、夜になっていた。
霧の湖の水位はまだ低い。
人里の井戸も完全には澄んでいない。
命蓮寺の船はまだ浅瀬に引っかかり、紅魔館の地下水路は応急封鎖中。守矢の水車も止まったままだ。
だが、水は少しずつ戻っている。
博麗神社の境内には、すでに明かりが灯されていた。
霊夢が連絡を出す前から、いくつかの勢力は来始めていた。
人里からは慧音と妹紅。
守矢からは神奈子と諏訪子。
紅魔館からはレミリアと咲夜。
命蓮寺からは白蓮と村紗。
永遠亭からは永琳と鈴仙。
河童からはにとり。
八雲紫は、当然のように縁側の端にいた。
地霊殿からはさとりが、青筒組の拘束報告を持って来ている。
魔理沙は境内を見回した。
「また全員集合だな」
霊夢は賽銭箱の前に立った。
「今度は神社でやる」
慧音が静かに聞いた。
「裁定か」
「そうよ」
「記録する」
「好きにしなさい」
妹紅が腕を組んだ。
「青筒組だけを悪者にして終わらせる気じゃないだろうな」
霊夢は妹紅を見た。
「そんな楽な終わり方、できると思う?」
妹紅は少しだけ笑った。
「思わない」
霊夢は境内に集まった者たちを見た。
水を囲った者。
水を計画した者。
水を運んだ者。
水を使った者。
水を隠した者。
水を止めた者。
そして、水を裁く者。
全員が、少しずつ後ろ暗い。
だからこそ、博麗が前に立つ。
霊夢は濡れた袖を払うと、賽銭箱の前に本物の札を置いた。
「始めるわ」
その声で、境内のざわめきが止まった。
「博麗水裁定を」