東方無頼郷「幻想郷に善人はいない」   作:たこ焼き 龍月

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第三章 命蓮寺の供養札

 

 

 命蓮寺の鐘は、昼前に鳴った。

 

 その音は、白玉楼の桜の下で聞く風の音とは違う。

 人里に近く、生者の暮らしに近い音だった。

 

 米を炊く煙。

 荷車の車輪。

 子供の声。

 寺へ向かう足音。

 供養に来た者の小さなため息。

 

 命蓮寺は、死者だけの場所ではない。

 

 生きている者が、死んだ者を思い出すために来る場所だ。

 

 魂魄妖夢は、寺の門前に立っていた。

 

 隣には博麗霊夢。

 少し後ろには霧雨魔理沙。

 魔理沙の小脇には、無縁塚で奪ってきた灰帳会の帳面がある。

 

 妖夢の手には、白玉楼から持ち出された古印の入った箱。

 

 そしてもう一つ。

 

 命蓮寺の供養札に似せた札。

 

 無縁塚の市で見つかったものだ。

 

 霊夢は寺の門を見上げた。

 

「また寺ね」

 

 魔理沙が笑う。

 

「前の水の件でも来たしな。最近、命蓮寺も揉め事の中心だぜ」

 

「寺が揉め事を呼ぶんじゃない。揉め事が寺を利用するのよ」

 

 妖夢は静かに言った。

 

 霊夢は横目で見る。

 

「今の、幽々子っぽいわね」

 

「……そうでしょうか」

 

「うつってるわ」

 

 妖夢は少し複雑な顔をした。

 

 門の内側では、供養に来た人々が列を作っていた。

 

 家族の名を書いた札を持つ者。

 小さな包みを抱える者。

 古い位牌を持つ者。

 ただ手を合わせるだけの者。

 

 命蓮寺の僧たちは、それぞれに札を渡し、名前を聞き、帳面に書きつけている。

 

 妖夢はその様子を見て、胸の奥が重くなった。

 

 名前が並んでいる。

 

 だが、無縁塚で見た名前とは違う。

 

 ここでは、名が金の担保ではなく、祈りとして扱われているように見えた。

 

 けれど、その祈りを示す供養札が、灰帳会に使われていた。

 

 それが許せなかった。

 

「妖夢」

 

 霊夢が声をかける。

 

「最初から斬り込まないでよ」

 

「斬り込みません」

 

「今、ちょっと顔が斬り込む顔だった」

 

「……気をつけます」

 

 寺の奥から、雲居一輪が現れた。

 

 妖夢たちを見ると、少し驚いた顔をする。

 

「博麗の巫女に、白玉楼の剣士。今日は何の用だい」

 

 霊夢は短く答えた。

 

「供養札の件」

 

 一輪の表情が変わった。

 

 それだけで、命蓮寺もすでに何かを知っていることが分かった。

 

「白蓮様を呼ぶよ」

 

 通されたのは、本堂の脇にある座敷だった。

 

 畳の上には、いくつもの帳面が積まれている。

 供養の記録。

 寄進の控え。

 故人の名を書いた札束。

 寺に預けられた古い品。

 

 その奥に、聖白蓮が座っていた。

 

 穏やかな顔。

 けれど、目は笑っていない。

 

 彼女の隣には村紗水蜜が立っていた。

 腕を組み、妖夢を見るなり眉をひそめる。

 

「白玉楼が今度は寺に何の用だ」

 

 妖夢も村紗を見る。

 

「命蓮寺の供養札が、死者名義の偽証文に使われています」

 

 村紗の目が鋭くなった。

 

「うちがやったと言いたいのか」

 

「そうではありません」

 

「なら、言い方を選べ」

 

 妖夢の手がわずかに刀へ動きかける。

 

 霊夢が咳払いをした。

 

「はい、始まる前に止めるわよ」

 

 白蓮が静かに言った。

 

「村紗」

 

 村紗は口を閉じた。

 

 白蓮は妖夢へ向き直る。

 

「供養札を見せてください」

 

 妖夢は無縁塚で見つけた札を差し出した。

 

 白蓮はそれを手に取り、しばらく見つめた。

 

 そして、小さく息を吐いた。

 

「命蓮寺の正式な札ではありません」

 

 妖夢の肩から少し力が抜ける。

 

 しかし白蓮は続けた。

 

「ですが、古い札の型をよく写しています。紙も、墨も、経文の癖も、外の者が一目で見抜くのは難しいでしょう」

 

 魔理沙が灰帳会の帳面を広げた。

 

「この中に、命蓮寺の供養札の番号が載ってる。あと、供養済みかどうかの欄もあるぜ」

 

 白蓮の表情がさらに曇った。

 

 村紗が帳面を覗き込み、舌打ちする。

 

「何で、うちの供養記録がこんな所にある」

 

「無縁塚の市にあった」

 

 霊夢が言う。

 

「灰帳会が集めてた。死者の名前、遺品、白玉楼の印、命蓮寺の札、人里の土地情報。全部まとめてね」

 

 白蓮は帳面のページをめくった。

 

 そこには、寺で供養された死者の名があった。

 一部は本物。

 一部は存在しない名。

 一部は供養済みと偽って書かれている。

 

 その横には、こう書かれていた。

 

 **命蓮寺供養済。白玉楼名義預かり。債権整理可。**

 

 妖夢はその一文を見て、声を低くした。

 

「これは、どういう意味ですか」

 

 白蓮は答えなかった。

 

 代わりに、村紗が吐き捨てるように言った。

 

「供養された死者だから、名義は整理済み。白玉楼が預かっているから、死者の証文を動かしてもいい。そういう理屈にしたんだろう」

 

「そんな理屈が通るのですか」

 

「通らない」

 

 村紗は強く言った。

 

「でも、札と印と帳面が揃えば、信じる奴はいる」

 

 霊夢が頷く。

 

「人里の商人には十分ね。死者の名義なんて、普通は確かめようがない」

 

 妖夢は白蓮を見た。

 

「命蓮寺は、供養札をどう管理しているのですか」

 

 その声は、問いではあったが、責めにも聞こえた。

 

 村紗が一歩前に出る。

 

「おい」

 

「村紗」

 

 白蓮が再び止める。

 

 白蓮は妖夢の問いを受け止めた。

 

「供養札は、供養を終えた証として渡します。遺族が持ち帰るものもあれば、寺で保管するものもあります。古いものは焼納することもあります」

 

「焼納したはずの札が、無縁塚に流れていました」

 

「そのようですね」

 

「管理が甘かったのではありませんか」

 

 座敷の空気が硬くなった。

 

 村紗の目に怒りが宿る。

 

「白玉楼こそどうなんだ。古印を持ち出されておいて、寺の札だけ責めるのか」

 

 妖夢は言い返す。

 

「白玉楼の管理に問題があったことは認めます」

 

「なら、命蓮寺だけを責めるな」

 

「死者を救うと言いながら、名義を守れなかったのではないですか」

 

「死者を囲ってる白玉楼に言われたくないね」

 

 妖夢の表情が変わった。

 

「囲っている?」

 

「冥界にいるから、死者の名は全部自分たちのものだと思ってるんじゃないのか」

 

「そのようなことはありません」

 

「本当に?」

 

 村紗の声は鋭い。

 

「白玉楼は死者を預かる。命蓮寺は供養する。彼岸は裁く。人里は記録する。みんな、自分の役目を言う。だが、死者本人はどこにいる?」

 

 妖夢は答えられなかった。

 

 その問いは、灰原の言葉と重なった。

 

 白玉楼が、すべての死者を覚えていると?

 

 妖夢の胸の奥に、迷いが生まれる。

 

 白蓮が静かに口を開いた。

 

「村紗、それ以上はやめなさい」

 

 村紗は不満そうだったが、引いた。

 

 白蓮は妖夢を見た。

 

「妖夢さん。あなたの怒りは正しいと思います。ですが、命蓮寺の供養もまた、生きている者と死んだ者の間にあるものです」

 

 白蓮は帳面に手を置いた。

 

「供養には祈りが必要です。ですが、それだけでは成り立ちません。札を作る紙、墨、僧の手、記録の管理、遺族への説明。そこには人手も物資も必要です」

 

 霊夢が小さく言う。

 

「つまり金もいる」

 

 白蓮は頷いた。

 

「はい。そこを隠して、ただ綺麗なことだけを言えば、また誰かにつけ込まれます」

 

 妖夢は何も言わなかった。

 

 供養は清らかなものだと思っていた。

 

 だが、清らかなものを支えるためにも、帳面と金と管理がいる。

 その現実を灰帳会は利用した。

 

 白蓮は札を見つめる。

 

「この偽札は、命蓮寺の弱さを突いています」

 

「弱さ?」

 

「供養を受けた者の名を、遺族が安心のために持ち帰る。古い札を焼納する。記録を寺に残す。その流れのどこかで、札の型や番号が外に出たのでしょう」

 

 魔理沙が帳面をめくる。

 

「ここに“札番抜き”って書いてあるな」

 

 白蓮の眉が動く。

 

「札番抜き?」

 

「供養札の番号だけを抜き出して、別の死者名義に合わせる。そうすれば、実在する供養記録に見える」

 

 霊夢が呆れたように言う。

 

「死者の名義を偽造するために、供養の記録まで使ってるのね」

 

 妖夢は拳を握った。

 

 怒りだけではない。

 

 恥ずかしさもあった。

 

 白玉楼だけが死者を守っていると思いかけていた。

 だが、命蓮寺にも守っているものがある。

 そして、その守り方にも穴があった。

 

 穴があるのは、白玉楼も同じだった。

 

 その時、本堂の外が騒がしくなった。

 

 一輪が戸を開ける。

 

「白蓮様、人里から人が来ています。供養札の件で」

 

 入ってきたのは、中年の女だった。

 

 顔色が悪い。

 手には古い供養札と、灰色の証文を持っている。

 

 女は座敷に入るなり、白蓮に頭を下げた。

 

「この札は、本当に供養済みの証なのですか」

 

 白蓮は穏やかに言った。

 

「見せてください」

 

 女は札と証文を差し出した。

 

 証文には、亡くなった夫の名が書かれていた。

 借主として。

 

 担保には、小さな畑。

 そして末尾には、白玉楼の古印に似た印と、命蓮寺の供養札番号。

 

 女は震える声で言った。

 

「夫は、ちゃんと供養してもらいました。借金など、聞いていません。でも、これを持った男が来て、供養済みの名義だから、白玉楼を通じて整理すると……」

 

 妖夢は証文を見た。

 

 また、死者の名が使われている。

 

 白蓮は供養札を確認した。

 

「この札は、本物です」

 

 女の顔が青ざめる。

 

「では、証文も……」

 

「いいえ」

 

 白蓮の声ははっきりしていた。

 

「札は本物ですが、証文は偽物です」

 

 霊夢が横から言う。

 

「本物の供養札を、偽の借金に貼りつけたのよ」

 

 女は膝から崩れそうになった。

 

 妖夢が支える。

 

「大丈夫です。この名義は、必ず正します」

 

 女は妖夢を見た。

 

「でも、あの人の名前が……」

 

 妖夢は言葉に詰まった。

 

 名前を汚された者の家族。

 その不安は、紙を偽物だと証明するだけでは消えない。

 

 白蓮が女の前に座った。

 

「命蓮寺は、この供養札の記録を再確認します。あなたの夫の名が、借金に使われることはありません」

 

 妖夢も言った。

 

「白玉楼も、その名義を認めません」

 

 霊夢は証文を手に取った。

 

「博麗も、この証文を無効として扱う」

 

 女は何度も頭を下げた。

 

「ありがとうございます……ありがとうございます……」

 

 女が去った後、座敷はしばらく静かだった。

 

 村紗が低く言う。

 

「灰帳会は、遺族の不安まで使っている」

 

「死者は文句を言わない」

 

 妖夢が呟いた。

 

「だから、生者を脅す」

 

 霊夢は証文を見た。

 

「やり口が見えてきたわね」

 

 魔理沙が帳面を指差す。

 

「まず無縁塚で死者の情報を拾う。人里の死亡記録、遺品、家系、土地情報。次に命蓮寺の供養札番号を合わせる。白玉楼の古印を押す。これで、死者名義の証文がそれっぽくなる」

 

「そして遺族や現在の土地使用者に取り立てる」

 

 白蓮が言う。

 

「供養された死者だから、名義は整理済み。白玉楼が預かっている。そう言われれば、普通の人は反論できません」

 

 村紗が拳を握る。

 

「胸糞悪い」

 

 妖夢は白蓮を見る。

 

「命蓮寺は、供養札の全記録を確認できますか」

 

「できます。ただし時間がかかります」

 

「白玉楼の記録と照合します」

 

 白蓮は頷いた。

 

「お願いします」

 

 その言葉に、妖夢は少し驚いた。

 

 命蓮寺と白玉楼。

 

 供養する者と、死者を預かる者。

 互いに疑い合えば、灰帳会の思う壺だ。

 

 白蓮はそれを分かっている。

 

 霊夢が言った。

 

「慧音も入れなさい」

 

「人里の死亡記録ですね」

 

 白蓮が言う。

 

「ええ。寺と白玉楼だけで照合したら、人里が疑う。人里の記録も合わせる」

 

 魔理沙が笑った。

 

「また慧音の帳面が分厚くなるな」

 

「最初から分厚いわよ」

 

 霊夢は立ち上がった。

 

「とにかく、命蓮寺は偽札と本物の供養札の区別をつけて。灰帳会に流れた番号も洗い出す」

 

 白蓮は頷いた。

 

「命蓮寺として協力します」

 

 村紗も渋々頷く。

 

「水の次は札か。寺も暇じゃないんだがな」

 

 霊夢が返す。

 

「暇な勢力なんてないわよ。暇そうに見えるのは白玉楼くらい」

 

 妖夢が少し睨む。

 

「白玉楼も暇ではありません」

 

「幽々子は暇そうだけど」

 

「幽々子様は……」

 

 妖夢は言いかけて、止まった。

 

 その時、座敷の空気がふっと冷えた。

 

 桜の花びらが一枚、畳の上に落ちた。

 

 命蓮寺の中であるにもかかわらず。

 

 白蓮が顔を上げる。

 

 戸口に、西行寺幽々子が立っていた。

 

 いつの間に来たのか、誰にも分からなかった。

 

 幽々子は穏やかに微笑んでいる。

 

「あら。暇そうって聞こえた気がしたわ」

 

 霊夢は露骨に嫌そうな顔をした。

 

「来たのね」

 

「ええ。死者の話だもの」

 

 妖夢が立ち上がる。

 

「幽々子様。古印は取り戻しました」

 

「よくやったわ、妖夢」

 

 幽々子はそう言ってから、白蓮へ向き直った。

 

「白蓮。供養札を使われたそうね」

 

 白蓮は静かに頷いた。

 

「命蓮寺の責任です」

 

「白玉楼の古印も使われたわ」

 

「はい」

 

「どちらも、死者の名を守るためのものだったはず」

 

 幽々子は座敷に入り、畳に落ちた桜の花びらを拾った。

 

「供養は、死者を眠らせるためのもの。名前を起こすためのものではないわ」

 

 白蓮はその言葉を受け止めた。

 

「その通りです」

 

「でも、眠らせるには、誰かが名前を覚えていなければならない」

 

「はい」

 

「覚えるには、札も帳面も必要。綺麗な祈りだけでは足りない」

 

 白蓮は少し目を伏せる。

 

「だからこそ、そこを悪用されました」

 

 幽々子は微笑んだ。

 

「ええ。白玉楼も同じよ」

 

 妖夢は幽々子を見た。

 

 幽々子は続ける。

 

「死者の名前は、ただ美しいものではないわ。残された借りも、恨みも、道具も、土地も、全部まとわりつく。私たちは、それを静かにほどくために名を預かる」

 

 村紗が言った。

 

「灰帳会は、それを結び直して金にした」

 

「そうね」

 

 幽々子の笑みが、わずかに冷たくなる。

 

「とても無粋だわ」

 

 白蓮は幽々子を見た。

 

「命蓮寺は、供養札の再確認を行います。白玉楼、人里、博麗と照合します」

 

「助かるわ」

 

 幽々子は妖夢へ視線を向けた。

 

「妖夢」

 

「はい」

 

「命蓮寺と共に動きなさい。死者の名は、白玉楼だけで守るものではないと覚えておくの」

 

 妖夢は少しだけ驚いた。

 

「白玉楼だけではない……」

 

「そうよ。白玉楼は眠る場所。命蓮寺は祈る場所。人里は覚える場所。彼岸は裁く場所。どれか一つだけでは、名前は守れない」

 

 妖夢は深く頭を下げた。

 

「承知しました」

 

 その時、寺の門の方から、慌ただしい足音が響いた。

 

 一輪が再び駆け込んでくる。

 

「白蓮様! 外に、小野塚小町が」

 

 霊夢が眉をひそめる。

 

「小町?」

 

 白蓮の表情が変わる。

 

 幽々子は、少しだけ目を細めた。

 

「彼岸が動いたのね」

 

 門前に出ると、小野塚小町が鎌を肩に担いで立っていた。

 

 いつものような気だるげな顔ではない。

 珍しく、真面目な表情をしている。

 

「よお。揃ってるね」

 

 霊夢が聞く。

 

「何しに来たの」

 

「仕事だよ。珍しくね」

 

 小町は懐から一枚の紙を出した。

 

 彼岸の帳面の写し。

 

「死んだ奴の名前が、彼岸で詰まり始めてる」

 

 妖夢の顔が強張る。

 

「詰まる?」

 

「渡るはずの魂が、“未精算”扱いで止められてる。借りが残ってる、名義が整理されてない、供養記録と白玉楼記録が食い違ってる。そんな理由でね」

 

 白蓮が息を呑む。

 

 幽々子は静かに言った。

 

「生者の証文が、彼岸にまで届いたのね」

 

 小町は頷いた。

 

「映姫様が怒ってる。かなり」

 

 霊夢は空を見た。

 

「面倒な相手が増えたわね」

 

「映姫様は言ってたよ」

 

 小町は紙を開いた。

 

「死者の裁きに、生者の金勘定を混ぜるな、ってさ」

 

 その言葉に、全員が黙った。

 

 供養札。

 白玉楼の古印。

 灰帳会の帳面。

 死者名義の証文。

 そして彼岸の帳面。

 

 死者の名前を使った抗争は、もう人里や白玉楼だけの話ではなくなっていた。

 

 妖夢は、握っていた印箱に力を込めた。

 

 取り戻すべき名前は、まだ増えている。

 

 幽々子は小町を見て、静かに言った。

 

「では、彼岸へ行きましょうか」

 

 霊夢がため息をつく。

 

「次は彼岸ね」

 

 魔理沙が肩をすくめた。

 

「死者の名前ってのは、どこまでも流れるんだな」

 

 妖夢は答えた。

 

「だから、止めなければなりません」

 

 白蓮が頷く。

 

「命蓮寺も同行します」

 

 村紗は碇を肩に担いだ。

 

「供養札を使われたままじゃ、腹の虫が収まらない」

 

 小町は苦笑した。

 

「彼岸で暴れないでくれよ。映姫様の説教が長くなる」

 

 霊夢は言った。

 

「説教は短くしてもらいなさい」

 

「無理だね」

 

 小町は即答した。

 

 命蓮寺の鐘が、夕方を告げた。

 

 その音は、まだ少し重かった。

 

 だが、妖夢には分かった。

 

 これは終わりの鐘ではない。

 

 次の帳面が開かれる音だった。

 

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