人里の空は、灰色だった。
雨が降るほどではない。
けれど、晴れる気配もない。
雲は低く、空気は重く、道を歩く人々の声もいつもより小さい。
博麗霊夢たちが人里へ戻った時、すでに騒ぎは始まっていた。
商家の前に人が集まっている。
畑の持ち主が怒鳴っている。
古道具屋の主人が青い顔で証文を握っている。
寺子屋の前には、子供を迎えに来た親たちが不安げに立っていた。
死者名義の証文が、また出回っていた。
しかも、今度は一枚や二枚ではない。
何十枚も。
霊夢は人里の通りに降り立つなり、顔をしかめた。
「一気に来たわね」
霧雨魔理沙は箒から飛び降り、騒ぎの中心を見た。
「彼岸で札が増えてたのと同時か。灰帳会、動きが早いな」
魂魄妖夢は何も言わなかった。
彼女の手には、白玉楼の古印を納めた箱がある。
腰には楼観剣と白楼剣。
その目は、今までよりも静かだった。
怒りはある。
けれど、その怒りのまま斬ってはいけないことを、彼岸で学んだ。
斬るべきものは、死者の名ではない。
記録でもない。
供養でもない。
偽りの上書きだ。
上白沢慧音は、寺子屋の前で帳面を抱えていた。
周囲には、人里の商人、農家、火消し、問屋たちが集まっている。
その誰もが、証文の写しを持っていた。
慧音の隣には藤原妹紅が立っている。
妹紅は腕を組み、路地の向こうを睨んでいた。
「遅かったな」
妹紅が言う。
霊夢は肩をすくめた。
「彼岸経由だったのよ」
「また面倒なところへ行ってたな」
「今回は全部面倒よ」
慧音は妖夢を見た。
「彼岸はどうだった」
妖夢は短く答えた。
「死者の名が、未精算として止められていました」
周囲の人々がざわついた。
未精算。
その言葉は、生者にも死者にも嫌な響きを持っている。
慧音は筆を握り直した。
「つまり、証文は人里だけの問題ではなくなった」
「はい」
白蓮と村紗も、少し遅れて到着した。
村紗は肩に碇を担ぎ、周囲の混乱を見て舌打ちする。
「寺の供養札まで使って、この騒ぎか」
白蓮は静かに手を合わせた。
「まずは、名を確認しましょう」
慧音は寺子屋の机を外へ出させた。
そこに証文を集める。
一枚ずつ、名を読み、記録と照合する。
借主。
保証人。
担保。
日付。
印。
供養札番号。
白玉楼の古印。
灰帳会の債権印。
妖夢はその紙の山を見つめた。
どの紙にも名前がある。
死んだ者の名前。
その家族の名前。
今も人里で暮らす者の名前。
名前があるだけで、人は不安になる。
たとえ偽物だとしても、紙に書かれた自分の親や祖父の名前を見れば、心は揺れる。
灰帳会はそれを知っている。
霊夢が証文を一枚持ち上げた。
「これは?」
慧音が確認する。
「借主は十年前に亡くなった米問屋。担保は今の共同倉庫の一部。保証人は、その弟。弟もすでに死亡している」
魔理沙が覗き込む。
「死者だけで回してるな」
妹紅が低く言う。
「死人に保証人をさせるとはな。便利な紙だ」
妖夢はその言葉に胸が痛んだ。
便利。
死者の名が、便利な道具として使われている。
慧音は別の証文を取る。
「こちらは、古い酒蔵を担保にしている。彼岸で止められていた加納宗助の名だ」
「さっきの幽霊か」
霊夢が呟く。
妖夢は証文を受け取り、じっと見た。
加納宗助。
彼岸で「息子たちを困らせないでくれ」と言った幽霊の名。
その名が、今ここで酒蔵を奪うための紙にされている。
妖夢は白楼剣の柄に手を置いた。
慧音が言う。
「妖夢」
「はい」
「斬れるか」
妖夢は頷いた。
「名は斬りません。偽りだけを斬ります」
妖夢は証文を机に置いた。
白楼剣を抜く。
周囲の人々が息を呑んだ。
妖夢は紙の上に刃を滑らせた。
加納宗助の名には触れない。
命蓮寺の供養札番号にも触れない。
白玉楼の古印の写しにも触れない。
その上に重ねられた、灰帳会の債権印だけを斬る。
刃が走る。
灰色の印が、紙から剥がれた。
薄い灰となって、風に消える。
証文は力を失い、ただの紙になった。
周囲から小さな声が漏れた。
「消えた……」
「名前は残ってる」
「借金だけが消えたのか」
慧音はすぐに帳面へ書き込む。
「加納宗助名義証文、灰帳会債権印を剥離。名は保存。債権効力なし」
霊夢はそれを見て頷いた。
「使えるわね」
魔理沙が笑う。
「妖夢、すっかり帳面仕事向きの剣士だな」
「褒めているのですか」
「かなり」
妖夢は少しだけ困った顔をした。
だが、すぐに次の証文へ向き直る。
まだ山ほどある。
その時、通りの奥から怒号が聞こえた。
「倉庫を開けろ!」
妹紅が顔を上げる。
「来たな」
慧音の表情が険しくなる。
「記録倉庫だ」
人里東側の古い倉庫。
前回の水利抗争の後、そこには各勢力の証文や記録の写し、人里の土地記録、死亡記録の控えが保管されていた。
灰帳会の帳面にも、その図面が載っていた場所。
そこを押さえられれば、死者名義の偽証文はいくらでも作れる。
霊夢は袖から御札を出した。
「行くわよ」
妹紅はすでに走っていた。
妖夢も続く。
古い倉庫の前には、灰色の羽織を着た者たちが集まっていた。
笠をかぶった取立屋。
帳面を抱えた男。
紙束を持つ女。
無縁塚で見た露店商のような者もいる。
彼らは、倉庫の扉に証文を貼りつけていた。
死者名義の証文。
担保、共同記録倉庫。
保証、白玉楼名義預かり。
供養済確認、命蓮寺。
債権管理、灰帳会。
まるで、紙で倉庫を縛っているようだった。
倉庫の前には、人里の火消しや問屋が立っているが、手が出せない。
紙には、彼らの親や祖父の名前が書かれているからだ。
妹紅が前に出た。
「そこをどけ」
灰色の男が振り返る。
序章で見た取立屋と同じような笠。
だが、今度は数が多い。
「これは正当な債権回収です」
「死んだ奴の名前でか」
「死者の名義は残ります」
「残った名前を踏むな」
妹紅の声に、周囲の空気が熱を帯びる。
霊夢が妹紅の肩を軽く叩いた。
「燃やさないでよ」
「努力する」
「本当に努力しなさい」
妖夢は倉庫の扉に貼られた証文を見た。
紙の一枚に、見覚えのある名前があった。
白玉楼で胸に証文の切れ端を貼られていた薄い幽霊。
「名前を返して」と言っていた者の名。
それが、倉庫を押さえるための保証人にされていた。
妖夢の表情が消えた。
取立屋の一人が言った。
「その倉庫は、古い死者名義の担保に含まれています。今後は灰帳会が整理します」
慧音が遅れて到着し、強い声で言った。
「その倉庫は人里の共同管理だ。死者名義の個人担保にはできない」
「記録はありますか」
帳面を抱えた男が言う。
慧音は答えた。
「ある。この倉庫の中に」
「では、開けて確認しましょう」
「開ければ、あなたたちが記録を奪う」
「疑い深いですね」
「記録を守る者は、疑うのが仕事だ」
男は薄く笑った。
その笑みに、妖夢は無縁塚の灰原を思い出した。
同じ種類の笑み。
死者は文句を言わない。
紙があれば、名は使える。
記録があれば、金になる。
霊夢が前に出た。
「博麗がこの証文を認めない」
灰色の男たちがざわつく。
帳面の男は静かに言った。
「博麗神社は、生者側の調停者です。死者名義の処理には、白玉楼の裁定が必要では?」
霊夢は妖夢を見る。
「だってさ」
妖夢は一歩前に出た。
「白玉楼も認めません」
「あなた一人の判断で?」
「私は魂魄妖夢。西行寺組の実働を任されています」
妖夢の声は、静かだった。
「死者の名を回収しに来ました」
取立屋たちは、少しだけ後ずさる。
だが、帳面の男は笑った。
「なら、証文を斬りますか。そこには死者の名が書かれていますよ」
妖夢は答えた。
「名は斬りません」
白楼剣を抜く。
「偽りを斬ります」
妖夢は駆けた。
倉庫の扉に貼られた証文の前へ。
取立屋たちが紙束を投げる。
紙が空中に舞う。
死者の名前が壁になる。
妖夢は一瞬だけ目を閉じた。
斬るべきものを間違えない。
白楼剣が走る。
名前は残す。
供養の記録は残す。
古印の写しも、証拠として残す。
灰帳会の債権印だけを剥がす。
紙片から灰が落ちる。
一枚。
二枚。
三枚。
取立屋たちの表情が変わる。
彼らにとって、証文は盾だった。
死者の名を盾にすれば、生者は手を出せない。
だが妖夢は、名前を傷つけずに盾だけを剥がしていく。
妹紅はその隙に前へ出た。
取立屋たちが退く。
「荒事は嫌いじゃないが」
妹紅は低く言う。
「今回は紙の後ろに隠れる奴が相手か。やりにくいな」
それでも、彼女は取立屋の行く手を塞ぐ。
炎は使わない。
使えば、紙も名前も燃える。
だから妹紅は、素手で道を塞いだ。
霊夢は倉庫の扉に本物の札を貼る。
「博麗封鎖。勝手に開けたら、次は人里の問題じゃなくて異変として扱うわよ」
魔理沙は箒で空から紙束を散らし、灰帳会の男たちの動きを妨害する。
「おいおい、こんなに証文ばらまいて。紙代だけで赤字じゃないのか?」
男の一人が叫ぶ。
「その帳面を返せ!」
「嫌だね。これは証拠品だ」
「盗人が!」
「借りてるだけだ!」
慧音は火消したちに指示を飛ばす。
「倉庫の裏口を押さえろ! 証文を拾ったら燃やすな、私のところへ持ってこい! 名前を汚すな!」
人里の者たちが動き始める。
最初は怯えていた。
だが、妖夢が偽りだけを斬り、慧音が記録し、霊夢が封鎖し、妹紅が前に立つことで、少しずつ足が戻る。
灰帳会の帳面男は、舌打ちした。
「思ったより早い」
その時、倉庫の屋根の上に、灰原が現れた。
無縁塚で見た、灰帳会の帳付。
魔理沙が指差す。
「出たな」
灰原は静かに頭を下げた。
「皆様、お揃いで」
霊夢が見上げる。
「降りてきなさい」
「遠慮します。下は少々騒がしい」
妖夢は灰原を睨んだ。
「死者の名を使って、倉庫を奪うつもりですか」
「奪うのではありません。整理するのです」
「またそれですか」
「記録は、持つ者の力になります。人里が持てば人里の力に。白玉楼が持てば白玉楼の力に。命蓮寺が持てば命蓮寺の力に。なら、灰帳会が持ってもよいでしょう」
慧音が強い声で言う。
「死者の記録は、力の道具ではない」
灰原は慧音を見る。
「歴史もまた力でしょう。上白沢慧音」
慧音の目が鋭くなる。
「歴史は、奪うために残すものではない」
「では、誰のために?」
「生きた者と、残された者のためだ」
灰原は薄く笑う。
「綺麗な言葉です。命蓮寺の供養にも、白玉楼の眠りにも似ている」
村紗が前に出た。
「その綺麗なものを汚してるのが、お前たちだろうが」
白蓮も到着していた。
彼女は灰原を見上げる。
「灰帳会。命蓮寺の供養札を使った証文は、すべて無効です」
灰原は少しだけ首を傾げた。
「無効と言えば、無効になるのですか」
幽々子の声がした。
「ええ。なるわ」
その場の空気が冷えた。
倉庫の前、桜の花びらが一枚落ちる。
人里の空に桜はない。
それでも花びらは落ちた。
西行寺幽々子が、路地の奥から歩いてきた。
いつものように柔らかく微笑んでいる。
しかし、灰帳会の者たちは一斉に黙った。
幽々子は妖夢の横に立った。
「白玉楼も、その証文を認めないわ」
灰原は屋根の上から幽々子を見る。
「西行寺様。死者の名義を白玉楼だけが預かる理由はありません」
「そうね」
幽々子はあっさり頷いた。
灰原の表情がわずかに動く。
「では」
「でも、あなたたちが預かる理由はもっとないわ」
幽々子の声は静かだった。
「死者の名前を食べる者に、死者は預けられない」
灰原は黙った。
幽々子は続ける。
「白玉楼も、命蓮寺も、人里も、彼岸も、完全ではない。名前をこぼすこともある。忘れることもある。間違えることもある」
妖夢は幽々子を見た。
「だから、照合するのよ。だから、記録するのよ。だから、供養するのよ。だから、裁くのよ」
幽々子の目が、灰原を捉える。
「あなたたちは、こぼれた名前を拾ったのではない。拾った名前を売った」
灰原の顔から笑みが消えた。
霊夢が御札を構える。
「そろそろ終わりにしなさい」
灰原は少しだけ息を吐いた。
「終わりではありません」
彼は懐から一冊の黒い帳面を取り出した。
灰色ではない。
黒い帳面。
それを見た瞬間、幽々子の目が細くなった。
「それは」
妖夢も感じた。
その帳面から、白玉楼の古い空気がする。
灰原は言った。
「西行寺家の裏帳面の写しです」
妖夢は息を呑んだ。
「なぜ、それを」
幽々子は静かに言う。
「灰帳会。あなたたち、本当に深くまで手を伸ばしたのね」
灰原は帳面を掲げた。
「白玉楼も死者の名義を扱っていた。命蓮寺も供養で名を管理していた。人里も記録で死者を縛っていた。彼岸も帳面で裁いている。ならば、我々だけが悪だと言えるのですか」
その声は、倉庫前に集まった人々へ向けられていた。
生者の不安を煽る声。
「死者の名を扱う者は、みな同じです」
妖夢は拳を握った。
その問いは、ずっと胸にあった。
守ることと、囲うことは違うのか。
預かることと、使うことは違うのか。
灰原はそこを突いてくる。
だが、今の妖夢は無縁塚にいた時とは違った。
彼岸で、疲れた幽霊の声を聞いた。
命蓮寺で、遺族の震える声を聞いた。
人里で、不安に揺れる人々を見た。
妖夢は一歩前に出た。
「違います」
灰原が見る。
「死者の名を扱うことと、死者の名で生者を脅すことは違います」
幽々子が少し微笑む。
霊夢も黙って見ている。
妖夢は続けた。
「白玉楼にも責任はあります。命蓮寺にも。人里にも。彼岸にも。だからこそ、それぞれが照合し、記録し、正すのです」
白楼剣を構える。
「あなたたちは正さない。売るだけです」
灰原の目が冷える。
「なら、その違いを証明してみせなさい」
彼は黒い帳面を開いた。
そこから無数の紙片が舞い上がる。
今までの証文よりも古い。
白玉楼の裏帳面に由来する死者名義の断片。
古い借り。
古い約束。
古い遺品。
古い恨み。
それらが、倉庫の周囲に渦を作る。
妖夢は走った。
白楼剣が光る。
名前は斬らない。
記録は斬らない。
古い約束も斬らない。
斬るのは、灰帳会がその上に貼りつけた債権印。
しかし、数が多い。
妖夢の刃が追いつかない。
紙片の一部が人々の方へ飛ぶ。
慧音が帳面を掲げ、声を張る。
「名前を呼べ!」
人々が戸惑う。
慧音は叫ぶ。
「知っている名があるなら、呼べ! それは紙のものではない。お前たちの記憶のものだ!」
古道具屋の主人が、震えながら声を上げた。
「佐吉さん!」
酒屋の息子が叫ぶ。
「宗助、親父!」
別の者が、祖母の名を呼ぶ。
誰かが、師匠の名を呼ぶ。
誰かが、亡くなった子の名を呼ぶ。
名前が、人の声で呼ばれる。
紙に縛られていた名が、少しずつ軽くなる。
灰帳会の印が浮き上がる。
妖夢はその印だけを斬る。
妹紅は飛んできた紙片を燃やさず、手で叩き落とす。
「紙は燃やすな! 名がある!」
村紗が碇で風を起こし、紙片の流れを変える。
白蓮が経を唱え、供養札の偽りを鎮める。
霊夢が御札を放ち、倉庫そのものを守る。
魔理沙は灰原の持つ黒い帳面を狙い、光を放った。
灰原は後ろへ下がる。
その瞬間、幽々子が静かに手を伸ばした。
桜の花びらが舞う。
黒い帳面の頁が、勝手にめくられる。
灰原の手が止まる。
「これは……」
幽々子は微笑んだ。
「それは白玉楼の帳面の写しでしょう。なら、少しはこちらの言うことも聞くわ」
黒い帳面から、灰色の印だけが浮かび上がる。
妖夢は飛んだ。
刃が走る。
灰帳会の印が、帳面から切り離された。
黒い帳面は力を失い、灰原の手から落ちる。
魔理沙がそれを受け取った。
「今度こそ借りるぜ」
灰原は後ろへ飛び退いた。
霊夢が御札を投げる。
だが、灰原は路地の影へ滑り込んだ。
「逃がすか!」
妹紅が追おうとする。
幽々子が止めた。
「追わなくていいわ」
「なぜ」
「彼は白玉楼へ来る」
妖夢が振り返る。
「幽々子様」
「ここまで来たら、最後は死者の領分で決着をつけたいでしょう」
霊夢はため息をついた。
「白玉楼ね」
魔理沙が黒い帳面を抱えながら笑う。
「舞台としては派手だな」
慧音は倉庫の扉の前で、散らばった証文を集めていた。
「まだ終わっていない」
「分かってるわよ」
霊夢は倉庫を見る。
守られた。
だが、被害がなかったわけではない。
人々の不安は残った。
死者の名は傷ついた。
白玉楼の裏帳面の写しまで流出していた。
妖夢は人里の人々を見た。
誰もが、自分の死者の名を抱えている。
白玉楼だけでは守れない。
それでも、白玉楼が逃げていい理由にはならない。
妖夢は幽々子に向かって頭を下げた。
「幽々子様。白玉楼で裁定を」
幽々子はにこりと笑った。
「ええ。そろそろ、死者の名前を食べた者に、お仕置きしないと」
その声は、いつも通り柔らかかった。
だが、その場にいた者は全員、同じことを思った。
白玉楼での裁定は、博麗の裁定とは違う。
それは騒ぎを収めるためのものではない。
死者の静けさを取り戻すためのものだ。
慧音は帳面に書き込んだ。
**幽冥債権。
灰帳会、人里記録倉庫を狙う。
死者名義の証文を大量散布。
白玉楼古印、命蓮寺供養札、人里死亡記録、彼岸未精算処理を悪用。
倉庫は守られる。
ただし、白玉楼裏帳面の写し流出を確認。
次、白玉楼にて裁定。**
空はまだ灰色だった。
だが、人里の通りには少しずつ声が戻っていた。
死者の名を呼ぶ声が。
それを記録する筆の音が。
そして、偽りを斬る刃の音が。