東方無頼郷「幻想郷に善人はいない」   作:たこ焼き 龍月

26 / 34
第三章 橙の猫道

 

 

 人間は、道を地面に見る。

 

 土の上に踏み固められた線。

 石を並べた参道。

 荷車の轍。

 寺へ向かう坂道。

 山へ続く登り道。

 

 けれど、猫は違う。

 

 猫にとっての道は、地面だけにあるものではない。

 

 塀の上。

 屋根の端。

 木の枝。

 祠の裏。

 井戸の縁。

 人の背丈では見えない草の隙間。

 雨の日だけ開く軒下の細い通り。

 

 そこには、地図に載らない道がある。

 

 橙は、その道をよく知っていた。

 

 人里の屋根から屋根へ跳び移り、古い土蔵の庇を抜け、寺子屋の裏庭へ降りる。そこから井戸の脇を通り、石垣を登る。塀の上には、すでに三匹の猫が待っていた。

 

 一匹は黒。

 一匹は白。

 一匹は尻尾の先だけ茶色。

 

 橙は三匹を見る。

 

「どこ?」

 

 黒猫が短く鳴き、尻尾で北を示した。

 

 白猫は屋根の方を見上げる。

 茶色の尻尾の猫は、祠の裏へ走った。

 

 橙は頷いた。

 

「分かった。順番に見るよ」

 

 今日の橙の仕事は、猫道の調査だった。

 

 藍は人里の寺子屋で、慧音や霊夢たちと共有境界台帳を作っている。

 大きな道は、大人たちが見る。

 

 博麗参道。

 命蓮寺の荷車道。

 竹林の救急路。

 妖怪の山へ向かう信仰路。

 紅魔館へ続く湖畔線。

 

 だが、橙には橙の仕事がある。

 

 猫道。

 

 それは大きな道ではない。

 けれど、塞がれれば困る者がいる。

 

 猫。

 小さな妖怪。

 妖精。

 使い走り。

 子供。

 人に見つかりたくない者。

 大きな道を通れない者。

 

 そういう者たちが使う道だ。

 

 橙は塀の上を走った。

 

 人里の屋根は、朝の光を受けて少し湿っている。

 遠くでは、道迷いを知らせる鐘が鳴っていた。昨日から何度も鳴っている鐘だ。

 

 人里の外へ出た商人が戻れない。

 命蓮寺へ向かった荷車が同じ坂を回る。

 永遠亭へ急ぐ者が竹林の入口で違う道に誘導される。

 

 大人たちはその大きな異常で忙しい。

 

 だが、橙が見ている異常は、もっと小さかった。

 

 寺子屋の裏にある小さな祠。

 

 普段なら、祠の後ろに猫一匹分の隙間がある。そこを抜けると、人里の北口へ早く出られる。

 

 だが、そこに札が貼られていた。

 

 黄色がかった紙。

 紫色の線。

 偽の八雲印。

 

 橙はしゃがみ込んだ。

 

 猫たちが後ろで不安そうに鳴く。

 

「またこれ」

 

 札には小さく番号が書かれている。

 

 **乙二号 小通行路用**

 

 橙は顔をしかめた。

 

 大きな関所ではない。

 人間から見れば、ただの祠の裏の隙間だ。

 

 しかし、猫にとっては道だ。

 

 札はそこに貼られ、隙間を微妙にずらしていた。通ろうとすると、祠の前へ戻される。何度入っても同じ場所へ出る。猫たちは、それで先へ進めなくなっていた。

 

 橙は札に触れようとして、手を止めた。

 

 藍に言われている。

 

 触るな。

 場所を記録しろ。

 札の種類を確認しろ。

 無理に剥がすと、道がさらに歪む。

 

 橙は唇を尖らせた。

 

「分かってるよ」

 

 誰に言ったわけでもない。

 

 札の位置を紙に書く。

 

 **寺子屋裏、祠後方。乙二号。猫道遮断。**

 

 黒猫が低く鳴いた。

 

「分かってる。通れないと困るよね」

 

 橙は祠の上へ飛び、別の抜け道へ回った。

 

 次は、古道具屋の屋根。

 

 屋根の端には、人里の猫たちがよく昼寝する細い瓦の列がある。そこを渡ると、井戸の近くへ出られる。

 

 だが、そこにも札があった。

 

 **乙三号 屋根道用**

 

 橙は歯を食いしばった。

 

「屋根道まで種類分けしてる」

 

 ただ道を塞いでいるのではない。

 縁目会は、小さな道を分類している。

 

 人間用。

 荷車用。

 救急路用。

 猫道用。

 屋根道用。

 

 まるで、道を品物のように分けている。

 

 橙は、藍が言っていた言葉を思い出した。

 

 小さな道を塞げば、情報が止まる。

 

 その意味が、少しずつ分かってきた。

 

 寺子屋の裏から北口へ抜けられない。

 屋根の上から井戸へ行けない。

 祠の裏を通れない。

 そうすると、猫たちはいつものように人里の様子を見られない。小さな妖怪たちは、危険を知らせに走れない。子供が迷っても、近道で助けに行けない。

 

 大きな道だけではない。

 

 小さな道も、幻想郷を動かしている。

 

 橙は屋根の上で立ち上がった。

 

「次」

 

 白猫が走り出す。

 

 橙も続いた。

 

   *

 

 昼過ぎには、橙の紙は札の位置でいっぱいになっていた。

 

 祠の裏。

 寺子屋の塀。

 古井戸の脇。

 人里北口の石垣。

 畑へ抜ける獣道。

 命蓮寺の参道裏の軒下。

 博麗神社へ向かう旧道の木の根元。

 

 どれも、普通の地図には載らない。

 

 けれど、猫たちは知っている道だった。

 

 橙は紙を見ながら、鼻をひくつかせた。

 

「同じ匂いがする」

 

 黒猫が鳴いた。

 

「うん。札を貼った人、同じじゃないかも。でも、墨が同じ」

 

 墨には独特の匂いがあった。

 

 古い紙。

 湿った土。

 無縁塚の埃。

 そして、薄く境界の匂い。

 

 八雲のものではない。

 だが、八雲を真似た匂い。

 

 橙は、その匂いを追った。

 

 人里の北側から、古い土塀沿いへ。

 土塀の先には、使われなくなった小さな門がある。

 

 昔は畑へ出る道だったらしい。今は草が伸びて、人間はほとんど通らない。

 

 だが、猫は通る。

 

 橙が門の上へ飛び乗ると、下に小さな看板が立っていた。

 

 **縁目案内所**

 **小道安全札 一枚二文**

 

 橙の尻尾が逆立った。

 

 小道安全札。

 

 猫道にまで値段をつけている。

 

 看板の横には、灰色の羽織を着た若い男が座っていた。男は小さな札束を並べ、妖精や小さな妖怪たちへ声をかけている。

 

「迷わず帰れる札だよ。屋根の上でも、祠の裏でも、塀の隙間でも使える。今なら一枚二文」

 

 小さな妖精が札を覗き込んでいた。

 

「これ持ってたら、寺子屋の裏に出られる?」

 

「出られるとも」

 

「ほんと?」

 

「縁目会の札だからね」

 

 橙は門の上から飛び降りた。

 

「買っちゃだめ!」

 

 妖精がびくっとする。

 

 灰色の羽織の男は、橙を見て穏やかに笑った。

 

「これはこれは。八雲の猫のお嬢さん」

 

「猫じゃない」

 

「では、八雲の式のお嬢さん」

 

「橙」

 

「失礼。橙さん」

 

 男は丁寧に頭を下げた。

 

 橙は妖精を後ろに下がらせる。

 

「その札、偽物でしょ」

 

「偽物とは心外ですね。安全に通るための札です」

 

「通れなくしてるのは、そっちじゃない」

 

「道が乱れているのです。我々は、それを整えているだけ」

 

「嘘」

 

 橙は即答した。

 

 男は笑みを崩さない。

 

「なぜ、そう思います」

 

「猫道は昨日まで通れた。今日、札が貼られて通れなくなった。だから、貼った人が悪い」

 

「単純ですね」

 

「単純でいい」

 

 橙は睨んだ。

 

「道は、帰るためにあるんだよ。売るためじゃない」

 

 男は少しだけ目を細めた。

 

「帰るための道だから、値がつくのです」

 

 橙は一瞬、言葉に詰まった。

 

 男は続けた。

 

「大きな道だけが道ではありません。小さな道も、塞げば値がつく。猫の道、妖精の道、子供の抜け道。通れなくなって困る者がいるなら、それは価値ある道です」

 

 橙は拳を握った。

 

「困らせてるのは、そっち」

 

「困っている者に道を売っているだけです」

 

「先に困らせてから売るのは、ずるい」

 

「世の中には、そういう商売もあります」

 

「そんな商売、いらない」

 

 男は小さく笑った。

 

「あなたはまだ幼い」

 

 橙の目が鋭くなった。

 

「幼くても、分かるよ」

 

 後ろで猫たちが集まり始めていた。

 

 黒猫。

 白猫。

 尻尾の茶色い猫。

 屋根の上から三匹。

 井戸の脇から二匹。

 畑の草むらから、さらに数匹。

 

 妖精たちも、少しずつ橙の後ろへ下がる。

 

 男は周囲を見た。

 

「猫を集めたところで、境界札は剥がせませんよ」

 

「剥がさない」

 

 橙は紙を取り出した。

 

 そこには、猫道の札の位置がびっしり書かれている。

 

「全部、藍さまに渡す」

 

 男の笑みが、ほんの少しだけ薄れた。

 

「八雲藍に?」

 

「うん」

 

「それは困りますね」

 

 男の袖から、小さな札が滑り落ちた。

 

 乙二号ではない。

 

 もっと細い札。

 

 **乙零号 迷走誘導**

 

 橙が身構える。

 

 男は札を地面へ貼った。

 

 瞬間、橙の足元の道が歪む。

 

 土塀。

 門。

 看板。

 猫たち。

 妖精たち。

 

 全部が遠くなる。

 

 橙は走ろうとした。

 

 だが、足が同じ場所へ戻る。

 

「橙!」

 

 妖精の声が遠く聞こえる。

 

 男の声も聞こえた。

 

「小さな道は、簡単に迷路になります。猫の足でも抜けられませんよ」

 

 橙は歯を食いしばった。

 

 道が回っている。

 

 右へ走っても門に戻る。

 左へ飛んでも看板の前。

 塀に登っても、また同じ土の上。

 

 同じ場所を走らされる。

 

 子供が泣いていた道と同じだ。

 

 橙は目を閉じた。

 

 藍なら、台帳を見る。

 紫なら、境界を裂く。

 霊夢なら、札ごと壊す。

 

 でも、橙には橙の道がある。

 

 猫道は、目で見るものではない。

 

 匂い。

 足裏の感触。

 風の抜け方。

 屋根の温度。

 石の湿り気。

 猫たちが残した爪の跡。

 

 橙は地面に手をついた。

 

 土の下に、細い流れがある。

 

 人間が道と呼ばない道。

 

 門の下の隙間。

 土塀の影。

 草の根の間。

 猫一匹が体をねじ込めるだけの、ほんの細い抜け道。

 

 札はそこまで完全には塞いでいない。

 

「見つけた」

 

 橙は小さく呟いた。

 

 そして、体を低くした。

 

 猫のように。

 いや、猫よりも速く。

 

 地面すれすれを走り、門の下の影へ滑り込む。

 

 景色が一瞬だけ裂けた。

 

 次の瞬間、橙は男の背後に出ていた。

 

 男が驚いて振り返る。

 

「なっ」

 

 橙は男の手元の札束を蹴り上げた。

 

 札が宙に舞う。

 

 猫たちが一斉に飛びかかった。

 

 札を咥え、爪で押さえ、屋根の上へ運ぶ。

 

 妖精たちは慌てて逃げる。

 

 橙は男の前に着地した。

 

「猫道をなめないで」

 

 男は後ろへ下がった。

 

 だが、すぐに笑みを戻す。

 

「面白い。やはり、小道にも価値がありますね」

 

「まだ言うの?」

 

「ええ。今日のところは、良い勉強になりました」

 

 男は袖から別の札を出す。

 

 そこには、縁目会の印があった。

 

「霞堂様へ報告しておきます。八雲の小さな式は、猫道を守る、と」

 

「逃げる気?」

 

「案内人は、退路を持つものです」

 

 男の足元に細い裂け目が開く。

 

 八雲の隙間ではない。

 道の傷を無理に広げた、粗い穴。

 

 橙は飛びかかった。

 

 だが、男はその裂け目へ滑り込んだ。

 

 残ったのは、一枚の札だけ。

 

 橙はそれを拾う。

 

 札の裏には、細い文字が書かれていた。

 

 **縁目会小道係 曲戸路平**

 

 橙はその名を紙に書き留めた。

 

   *

 

 夕方、橙は寺子屋へ戻った。

 

 藍たちはまだ地図を広げていた。

 

 慧音が人里の古道を読み上げ、藍が共有境界台帳に書き込み、霊夢が偽札の回収場所を記録している。魔理沙は横で退屈そうにしていたが、時々役に立つ情報を口にしていた。

 

 橙は戸を開けるなり叫んだ。

 

「藍さま!」

 

 藍が顔を上げた。

 

「橙。無事か」

 

「うん。でも、見つけた!」

 

 橙は机の上に紙を広げた。

 

 札の位置。

 種類。

 猫道の迂回路。

 縁目会の小道係の名。

 看板の場所。

 小道安全札の値段。

 

 藍はそれを見て、表情を引き締めた。

 

「よく調べた」

 

 橙は少し胸を張る。

 

「猫たちもがんばった」

 

「あとで礼をする」

 

「煮干し?」

 

「用意する」

 

 橙は満足そうに頷いた。

 

 慧音が紙を見て言った。

 

「これは重要だ。人間用の地図では見えない封鎖線が分かる」

 

 霊夢も覗き込む。

 

「縁目会、小道まで商売にしてるのね」

 

 魔理沙が言う。

 

「一枚二文か。子供や妖精なら払えそうな額にしてるのが嫌らしいな」

 

 橙は拳を握った。

 

「困ってる子たちに売ってた」

 

 藍は静かに問う。

 

「そいつは何と言っていた」

 

「大きな道だけが道じゃない。小さな道も、塞げば値がつくって」

 

 部屋の空気が沈んだ。

 

 妹紅が低く言う。

 

「本当に腐ってるな」

 

 慧音は筆を走らせた。

 

「小道封鎖確認。縁目会、小型通行路を商材化。被害、猫、小妖怪、妖精、子供の移動に及ぶ」

 

 藍は橙の紙を共有境界台帳に重ねた。

 

 大きな道の地図の上に、猫道が細く走る。

 

 すると、奇妙なことが分かった。

 

 縁目会が貼った小道札は、人里を囲む主要札の隙間を埋めるように配置されている。

 

 大きな道を閉じる。

 小さな道も閉じる。

 そうすれば、人里は完全ではないにせよ、外と繋がりにくくなる。

 

 藍は低く言った。

 

「縁目会は、本気で人里を囲むつもりだ」

 

 霊夢が顔をしかめる。

 

「逃げ道まで塞ぐために猫道を売ってたのね」

 

「はい」

 

 橙が言う。

 

「でも、全部は塞げてないよ」

 

 藍が見る。

 

 橙は紙の端を指差した。

 

「ここ。門の下の細いところ。あと、古井戸の裏。人間は無理だけど、猫なら通れる。妖精もたぶん通れる。あと、私も」

 

「緊急連絡路として使える」

 

 藍はすぐに書き込んだ。

 

 **猫道一号、寺子屋裏—人里北口。緊急連絡路。売買禁止。縁目会札未完全。**

 

 橙が嬉しそうに言った。

 

「一号!」

 

「これから増える」

 

 藍は橙を見た。

 

「橙。猫道の地図を作る。お前が中心だ」

 

「私が?」

 

「そうだ」

 

 橙は目を丸くした。

 

 藍は真剣だった。

 

「八雲の台帳には、大きな境界しか載っていなかった。だが、今回分かった。小さな道が塞がれれば、幻想郷の声が止まる」

 

 橙は少し照れたように耳を動かした。

 

「猫道も、ちゃんと道?」

 

「ああ」

 

 藍は頷いた。

 

「ちゃんと道だ」

 

 霊夢が言った。

 

「じゃあ、その猫道で縁目会の裏を取れるかもね」

 

 魔理沙が笑う。

 

「大通りは料金所。なら、裏道から店主を叩くってわけだ」

 

 慧音は地図を見た。

 

「縁目会の小道札は、人里の外周に沿っている。だが、猫道一号と二号が残っているなら、外へ連絡を出せる」

 

 妹紅が言った。

 

「それで命蓮寺や永遠亭へ知らせられるか」

 

 橙は頷いた。

 

「猫たちなら行ける。私も行ける」

 

 藍は少し迷った。

 

「危険だ」

 

 橙はまっすぐ藍を見る。

 

「でも、道は帰るためにあるんでしょ」

 

 藍は黙った。

 

 橙は続けた。

 

「帰れない子がいたら、迎えに行く道もいるよ」

 

 藍はその言葉を受け止めた。

 

 そして、静かに頷く。

 

「分かった。ただし、一人で深追いはするな。必ず猫たちと動け。偽札を見つけても、無理に剥がすな。場所と種類を記録する」

 

「うん!」

 

 霊夢が横から言う。

 

「あと、変な料金所を見つけたら私に言いなさい」

 

 橙が聞く。

 

「どうするの?」

 

「壊す」

 

 藍がすぐに言う。

 

「できれば生け捕りで」

 

「努力する」

 

 魔理沙が笑った。

 

「最近そればっかだな」

 

   *

 

 夜、人里の屋根の上に猫たちが集まった。

 

 橙はその真ん中に立っていた。

 

 手には、小さな地図。

 藍が作ってくれた、猫道用の白紙台帳だった。

 

 猫たちは、それぞれ自分の知っている道を鳴き声と尻尾で示す。

 

 あの塀は通れる。

 あの屋根は滑る。

 あの祠の裏は札がある。

 あの井戸の影はまだ抜けられる。

 あの竹やぶは匂いがおかしい。

 あの蔵の裏は、昨日まで道だったのに、今日は戻される。

 

 橙は一つずつ書いた。

 

 字は藍ほど綺麗ではない。

 

 でも、道は確かにそこにある。

 

 屋根の上から見る人里は、昼とは違って見えた。

 

 大きな道は暗い。

 けれど、小さな道が生きている。

 

 猫の目には、細い線がいくつも見える。

 

 帰るための線。

 知らせるための線。

 迎えに行くための線。

 

 遠く、人里の外れで、偽の関所の灯りが揺れていた。

 

 縁目会は道を売っている。

 

 でも、まだ売れない道がある。

 

 猫たちが知っている道。

 橙が走る道。

 藍がこれから台帳に入れる道。

 

 橙は地図の端に、少し大きな字で書いた。

 

 **猫道。

 売り物じゃない。

 帰るための道。**

 

 そして、顔を上げた。

 

 夜風が吹く。

 

 猫たちが一斉に鳴いた。

 

 その声は小さかったが、人里の屋根から屋根へ伝わっていった。

 

 大きな道が閉じられようとしている夜に、

 小さな道は、まだ生きていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。