東方無頼郷「幻想郷に善人はいない」   作:たこ焼き 龍月

30 / 34
最終章 知らない道

 

 

 八雲裁定が終わった翌朝、人里の道標は戻っていた。

 

 北口の松のそばには、古い木の道標が立っている。

 左、博麗神社。

 右、命蓮寺。

 まっすぐ行けば畑と山道。

 その奥へ進めば、迷いの竹林へ向かう道もある。

 

 見慣れた道だった。

 

 だが、以前とまったく同じではない。

 

 道標の下には、新しい小さな札がかかっていた。

 

 **この道、博麗神社へ通ず。

 通行料不要。

 ただし、賽銭歓迎。**

 

 それを見た博麗霊夢は、しばらく黙っていた。

 

 隣で魔理沙が笑いをこらえている。

 

「おい霊夢、なかなかいい札じゃないか」

 

「私じゃないわよ」

 

「でも、あんたっぽいぜ」

 

「誰が書いたのよ」

 

 霊夢が周囲を見回すと、寺子屋の前で上白沢慧音が帳面を抱えていた。

 

 慧音は目を合わせずに言った。

 

「私は知らない」

 

「今、絶対に知ってる顔したわ」

 

「道標は人里の共有物だ。誰か一人の責任ではない」

 

「そういう逃げ方するのね」

 

 妹紅が門にもたれて笑っている。

 

「まあ、通行料よりはいいだろ」

 

「比べる対象が低すぎるのよ」

 

 人里は、少しずつ元に戻っていた。

 

 命蓮寺への荷車は動き始めた。

 永遠亭への救急路には、新しい案内印が置かれた。

 守矢へ向かう山道には、信徒用の札と一般通行用の札が分けられた。

 紅魔館周辺の湖畔道には、咲夜が用意した簡素な注意書きが立っている。

 白玉楼への冥界道は、妖夢が立会い札を確認することになった。

 地霊殿への縦穴は、さとりとお燐が監視記録を出すことになった。

 

 すべてが完全に開かれたわけではない。

 

 危険な道は、危険なままだ。

 隠すべき道もある。

 閉じなければならない境界もある。

 

 だが、閉じた理由を誰も知らない道は、減ることになった。

 

 それが、八雲裁定の後に残った変化だった。

 

   *

 

 八雲の屋敷では、藍が朝から台帳を整理していた。

 

 長机の上には、いくつもの紙束がある。

 

 **共有境界台帳 第一分冊**

 **人里生活路控**

 **博麗参道補助記録**

 **命蓮寺物流路照合簿**

 **竹林救急路限定開示帳**

 **守矢山道・信仰路区分表**

 **紅魔館湖畔通行制限控**

 **白玉楼冥界道立会記録**

 **地底旧連絡路監視簿**

 

 そして、少し離れたところに、橙の字で書かれた一冊の薄い帳面が置かれていた。

 

 **猫道台帳 一号**

 

 字は少し曲がっている。

 だが、線は細かい。

 

 塀の上。

 井戸の裏。

 屋根の端。

 祠の後ろ。

 木の根の隙間。

 寺子屋裏から人里北口へ抜ける道。

 子供を帰した細い道。

 

 その一つ一つに、橙の注意書きが添えられている。

 

 **雨の日はすべる。**

 **黒猫がよく寝ている。踏まない。**

 **人間は無理。妖精ならたぶん通れる。**

 **通行料禁止。煮干しは可。**

 **帰れない子がいたら使う。**

 

 藍はその最後の一文を見て、少しだけ筆を止めた。

 

「藍さま」

 

 橙が障子の隙間から顔を出す。

 

「猫道台帳、見た?」

 

「ああ」

 

「変なところある?」

 

「いくつか字が間違っている」

 

「え」

 

「だが、道は合っている」

 

 橙はほっとした顔をした。

 

「じゃあ、台帳に入る?」

 

「入る」

 

「ほんと?」

 

「正式に、八雲一家の緊急連絡路台帳へ入れる」

 

 橙の顔がぱっと明るくなった。

 

「やった!」

 

「ただし、増やす時は私に報告しろ。勝手に書き足して、後から分からなくなると困る」

 

「うん!」

 

「あと、猫たちに勝手に札を作らせるな」

 

「作らないよ。札は売らない」

 

「それでいい」

 

 藍は猫道台帳に朱で印を入れた。

 

 **八雲共有境界台帳、補助路として採用。

 売買禁止。

 緊急連絡、迷子救助、異常報告に限り使用。**

 

 橙はその文字をじっと見ていた。

 

「藍さま」

 

「何だ」

 

「猫道も、境界?」

 

「そうだ」

 

「じゃあ、私も境界を守ってる?」

 

 藍は橙を見る。

 

 橙は冗談ではなく、本気で聞いていた。

 

 藍は静かに頷いた。

 

「守っている」

 

 橙は何も言わず、嬉しそうに尻尾を揺らした。

 

 そこへ、八雲紫が現れた。

 

 いつものように隙間からではない。

 廊下を歩いてきた。

 

 それだけで、藍は少し驚いた。

 

「紫様」

 

「今日は普通に来たのよ」

 

「珍しいですね」

 

「境界ばかり使うと、藍に怒られそうだから」

 

 橙が小さく笑った。

 

 紫は長机の上の台帳を眺めた。

 

「ずいぶん増えたわね」

 

「必要な分です」

 

「これを全部管理するの?」

 

「管理します」

 

「大変ね」

 

「紫様の昔の隠し事を整理するよりは、楽です」

 

 紫は扇で口元を隠した。

 

「藍、少し意地悪になった?」

 

「実務です」

 

「便利な言葉ね」

 

 紫は猫道台帳を手に取った。

 

 橙が少し緊張する。

 

 紫は頁をめくり、木の根の隙間の記録で指を止めた。

 

「ここ、私も知らないわ」

 

 藍が顔を上げる。

 

「紫様が?」

 

「ええ。知らない」

 

 橙は目を丸くした。

 

「紫さまも知らない道があるの?」

 

「あるわよ」

 

「全部知ってると思ってた」

 

 紫は少し笑った。

 

「私が全部知っていたら、幻想郷はもっとつまらないわ」

 

 藍はその言葉を、以前なら紫らしい冗談として聞き流したかもしれない。

 

 だが、今は違った。

 

「知らない道を、なかったことにしない」

 

 藍が言う。

 

 紫は藍を見る。

 

「それが、これからの八雲一家の仕事です」

 

 紫はしばらく黙った。

 

 そして、ゆっくり頷いた。

 

「そうね」

 

 それは短い返事だった。

 

 だが、藍には十分だった。

 

   *

 

 その日の昼、縁目会の残党整理が行われた。

 

 場所は人里の外れ、かつて火除け道の終点だった古い辻。

 

 縁目会が人里封鎖の中心に使った場所だ。

 

 今は偽札が剥がされ、地面には薄い円形の跡だけが残っている。

 

 霞堂縁吏は、そこに立っていた。

 

 両手を縛られてはいない。

 

 だが、霊夢の札、藍の境界符、慧音の記録札が周囲を囲んでいる。逃げ道はない。

 

 彼の後ろには、縁目会の者たちが並んでいた。

 

 全員が罪人というわけではない。

 

 札を売った者。

 偽札を作った者。

 道を狂わせた者。

 ただ案内だけをしていた者。

 昔の道を知っていただけの者。

 

 藍は一人ずつ名前を確認した。

 

 慧音が記録する。

 

「曲戸路平」

 

 小道係だった男が一歩前に出た。

 

 橙が少しだけ睨む。

 

 曲戸は気まずそうに目を逸らした。

 

 藍は言った。

 

「猫道、小通行路、子供の抜け道に対する通行料徴収を確認しています」

 

「はい」

 

「今後、小通行路の売買を禁じます」

 

「はい」

 

「ただし、小道の知識は必要です。監視下で、小通行路異常の報告係として再登録を認めます」

 

 曲戸は顔を上げた。

 

「よろしいのですか」

 

「売らなければ」

 

 橙が横から言った。

 

「猫道に値段つけたら、今度こそ怒るから」

 

 曲戸は深く頭を下げた。

 

「承知しました」

 

 次に、荷車道を扱っていた者。

 竹林救急路を売ろうとした者。

 山道札を作った者。

 

 それぞれに処分が下る。

 

 札の作成禁止。

 通行料徴収禁止。

 関係勢力監視下での再登録。

 悪質な者は博麗預かり。

 危険路をわざと狂わせた者は、彼岸ではなく、まず人里と八雲の帳面で責任を確定させる。

 

 霊夢は横で退屈そうにしていた。

 

「こういうの、地味ね」

 

 慧音が言う。

 

「地味な処理を怠ると、また抗争になる」

 

「分かってるわよ」

 

 魔理沙が札束を覗き込む。

 

「この偽札、研究用に一枚くらい」

 

「駄目だ」

 

 慧音、藍、霊夢が同時に言った。

 

 魔理沙は帽子を押さえた。

 

「三方向から来たな」

 

 最後に、霞堂縁吏の番になった。

 

 霞堂は静かに藍を見ていた。

 

「私の処分は?」

 

 藍は台帳を開いた。

 

「縁目会の通行権販売を主導。偽八雲札の流通。人里封鎖。境界市場の開設。主要道および小通行路の商材化」

 

「よく記録されていますね」

 

「記録します」

 

「でしょうね」

 

 霞堂は薄く笑った。

 

「では、私はどうなりますか。博麗に引き渡されるか。八雲に封じられるか。それとも無縁塚に戻されるか」

 

 藍は静かに言った。

 

「あなたには、道を戻す仕事をしてもらいます」

 

 霞堂の表情がわずかに動いた。

 

「仕事?」

 

「縁目会が狂わせた道の残滓を、八雲、博麗、人里立会いのもとで修正する。あなたは道を知りすぎています。その知識を、売るためではなく戻すために使ってもらう」

 

「罰ですか」

 

「罰であり、責任です」

 

 霞堂は笑った。

 

「道を売った者に、道を戻させる」

 

「はい」

 

「実務的ですね」

 

「実務です」

 

 霞堂は目を伏せた。

 

「あなたは、紫様とは違う」

 

「違います」

 

「紫様なら、私をもっと綺麗に消したでしょう」

 

 藍は答えなかった。

 

 その代わり、紫が後ろから言った。

 

「昔の私ならね」

 

 霞堂が紫を見る。

 

「紫様」

 

「久しぶりね、霞堂」

 

「お久しぶりです」

 

 その声には、皮肉とも敬意ともつかない響きがあった。

 

 紫は藍の横に立った。

 

「昔、あなたたちを切った時、私は道を消したつもりだった」

 

 霞堂は静かに言う。

 

「消えていませんでした」

 

「ええ。消えていなかった。だから、藍が記録することにした」

 

「記録されれば、また誰かが使います」

 

 紫は微笑む。

 

「使うでしょうね」

 

 霞堂の目が細くなる。

 

「それでも?」

 

「使わせ方を、これから考えるのよ」

 

 霞堂は黙った。

 

 藍が言う。

 

「道は、誰か一人が完全に管理できるものではありません。だから、照合する。立ち会う。記録する。戻す」

 

 霞堂は小さく笑った。

 

「面倒な仕組みです」

 

「ええ」

 

「縁目会の札の方が、ずっと早い」

 

「早い道が、正しい道とは限りません」

 

 霞堂はその言葉に、少しだけ目を伏せた。

 

 そして、深く頭を下げた。

 

「八雲裁定、受け入れます」

 

 慧音が筆を走らせる。

 

 その音が、古い辻に響いた。

 

   *

 

 夕方、人里に新しい道標が立てられた。

 

 大きなものではない。

 

 昔からあった道標の横に、小さな札が増えただけだ。

 

 **博麗神社方面**

 **命蓮寺方面**

 **永遠亭救急路 通常通行不可**

 **守矢山道 天候注意**

 **紅魔館湖畔 夜間立入注意**

 **猫道 人間通行不可**

 

 最後の一行を見て、橙はふくれた。

 

「人間通行不可って書くと、なんか偉そう」

 

 藍は言った。

 

「実際、人間は通れない」

 

「でも、妖精は通れるよ」

 

「では、後で“妖精要相談”と追記しよう」

 

「ほんと?」

 

「必要なら」

 

 霊夢が道標を見上げる。

 

「ずいぶん説明が増えたわね」

 

 慧音は頷く。

 

「道標は、ただ方向を示すだけでは足りなくなった」

 

「面倒な幻想郷ね」

 

「元からだ」

 

 魔理沙は道標の下に、こっそり小さな札を貼ろうとしていた。

 

 **魔理沙の近道案内 相談無料**

 

 霊夢が即座に剥がした。

 

「便乗するな」

 

「無料だぜ」

 

「無料でも駄目」

 

 村紗が命蓮寺方面の札を確認し、早苗が山道の注意書きを見て神奈子へ報告すると言い、咲夜は紅魔館湖畔の表記を少し修正した。鈴仙は永遠亭救急路の札を確認し、「急患の場合は寺子屋か博麗神社経由で連絡」と追記した。

 

 白蓮は手を合わせた。

 

「道が戻ると、人も戻りますね」

 

 幽々子は微笑む。

 

「死者も、道を間違えずに済むわ」

 

 妖夢が真面目に頷いた。

 

「冥界道の札は、私が確認します」

 

 さとりは遠くから道標を見ていた。

 

「心の道標も、これくらい分かりやすければいいのですが」

 

 お燐が笑う。

 

「そりゃ無理だね」

 

 人里の子供たちが、橙の周りに集まっていた。

 

「橙ちゃん、猫道って本当にあるの?」

 

「あるよ」

 

「見たい!」

 

「人間は通れない」

 

「えー」

 

 橙は少し考えた。

 

「でも、迷ったら迎えに行く」

 

 子供たちは嬉しそうに笑った。

 

 その言葉を、藍は少し離れた場所で聞いていた。

 

 道は、売るためにあるのではない。

 帰るためにある。

 迎えに行くためにある。

 

 橙の言葉は、今回の抗争の中で何度も繰り返された。

 

 今では、それが八雲一家の新しい台帳の中心になっている。

 

   *

 

 夜、八雲の屋敷。

 

 藍は最後の記録を書いていた。

 

 紫は縁側で月を見ている。

 橙は猫たちと一緒に、煮干しを分けていた。

 

 机の上には、共有境界台帳が開かれている。

 

 藍は筆を取り、最後の頁に記す。

 

 **境界通行抗争。

 縁目会、八雲旧式境界札および外部委託記録を悪用。

 博麗参道、人里外周、命蓮寺物流路、竹林救急路、守矢山道、紅魔館湖畔線、白玉楼冥界道、地底連絡路、猫道に偽札を展開。

 人里封鎖をもって境界通行権承認を要求。

 八雲裁定により、縁目会の通行権販売を無効。

 偽八雲札回収。旧式境界札廃止。

 共有境界台帳を設置。

 主要生活路、物流路、救急路、参道、連絡路は関係勢力と照合。

 猫道を緊急連絡路として認定。

 八雲一家、過去の外部委託記録を提出。

 境界は、片側のものではない。**

 

 藍は筆を置いた。

 

 しばらく、その文字を見ていた。

 

 紫が声をかける。

 

「満足?」

 

「満足するには早いです」

 

「そうね。これからが面倒だもの」

 

「はい」

 

 藍は帳面を閉じた。

 

「ですが、これで隠したままにはなりません」

 

 紫は月を見たまま言う。

 

「隠して守るだけでは、もう足りないのね」

 

「はい」

 

 紫は少し笑った。

 

「あなたにそう言われると、よく分かるわ」

 

 藍は紫の隣へ座った。

 

 庭の向こうには、いくつもの見えない道がある。

 

 人里へ。

 神社へ。

 寺へ。

 山へ。

 湖へ。

 竹林へ。

 地底へ。

 冥界へ。

 

 そして、藍も紫も知らない、小さな道がまだある。

 

 猫だけが知る道。

 子供だけが通る道。

 誰かが帰るために必要になる道。

 

 橙が煮干しを持ってやって来た。

 

「藍さま、紫さま、猫たちからお礼」

 

 紫は煮干しを見て、少し困った顔をした。

 

「私も?」

 

「うん」

 

 藍は真面目に受け取った。

 

「礼を言う」

 

 紫も一本受け取る。

 

「ありがとう」

 

 橙は満足そうに笑った。

 

「猫道台帳、二号も作るね」

 

「もう二号か」

 

「うん。まだ知らない道、いっぱいある」

 

 紫が橙を見る。

 

「私が知らない道も?」

 

「あるよ」

 

 橙は当然のように言った。

 

「紫さまが知らなくても、道はあるよ」

 

 紫は一瞬だけ驚き、それから静かに笑った。

 

「そうね」

 

 藍はその言葉を、台帳には書かなかった。

 

 書かなくても、覚えておくべき言葉だった。

 

   *

 

 翌朝、博麗神社へ向かう道はまっすぐだった。

 

 霊夢は石段を上がり、鳥居をくぐり、賽銭箱の前に立つ。

 

 賽銭箱の前に、料金所はない。

 

 偽札もない。

 縄もない。

 灰色の羽織の男もいない。

 

 ただ、道がある。

 

 霊夢は少しだけ満足げに頷いた。

 

 そこへ魔理沙がやって来る。

 

「お、今日はちゃんと神社に着いたな」

 

「当たり前でしょ」

 

「いや、当たり前ってのはありがたいもんだぜ」

 

 霊夢は賽銭箱を見る。

 

「ありがたいと思うなら入れなさい」

 

「それとこれとは別だ」

 

「別じゃない」

 

 鳥居の外では、橙が猫たちと塀の上を走っていた。

 

 その後ろで、藍が新しい台帳を抱えている。

 

 紫は少し離れた場所で、扇を開いて眺めていた。

 

 霊夢はそれを見て、声をかけた。

 

「八雲」

 

 藍が振り返る。

 

「はい」

 

「道、戻ったわね」

 

「はい」

 

「次に料金所が出たら?」

 

「出させません」

 

「頼もしいじゃない」

 

 藍は少しだけ頭を下げた。

 

 紫が横から言う。

 

「霊夢、賽銭箱の札は残してもよかったのではなくて?」

 

「何の札よ」

 

「通行料不要。ただし賽銭歓迎」

 

「やっぱりあんたが書いたの?」

 

 紫は笑って答えない。

 

 霊夢が睨む。

 魔理沙が笑う。

 橙が猫たちと屋根の上を走る。

 藍は台帳に新しい道を書き足す。

 

 幻想郷の道は、今日もどこかで揺れている。

 

 完全に安定することはない。

 境界とは、そういうものだから。

 

 けれど、揺れた時に誰かが気づく。

 誰かが記録する。

 誰かが迎えに行く。

 

 それなら、道はまだ帰るためにある。

 

 八雲藍は、参道の端に立ち、遠く人里を見た。

 

 そして、静かに呟いた。

 

「知らない道を、なかったことにしない」

 

 それが、八雲一家の新しい仕事だった。

 

 境界は、片側のものではない。

 

 道は、値段をつけるためにあるのではない。

 

 誰かが帰るためにある。

 

 朝の風が吹く。

 

 塀の上で猫が鳴いた。

 

 その声は、小さな道を通って、人里の方へ抜けていった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。