安寧祭の朝、人里の広場には人が集まっていた。
中央は空けられている。
何も置かない場所。
誰のものでもない場所。
守矢へも、命蓮寺へも、屋台へも、井戸へも、寺子屋へも抜けられる通り道。
上白沢慧音がそう決めた。
博麗霊夢は「面倒なことを考える」と言ったが、反対はしなかった。
八坂神奈子は不満そうだったが、守矢の舞台を北側へ移した。
聖白蓮は静かに受け入れ、命蓮寺の灯籠を南側へ並べた。
形だけ見れば、収まっている。
北に守矢。
南に命蓮寺。
中央に人里。
だが、形が整ったからといって、心まで整うわけではない。
朝早くから、人々は迷っていた。
「まず守矢へ行くか」
「うちは先に命蓮寺の灯籠へ行く」
「両方行くなら、どちらを先にするんだ」
「博麗の方は何をするんだい」
「中央はただの通り道らしい」
「通り道って、祭りの中心なのかね」
その声を、慧音は聞いていた。
祭りの準備を手伝う子供たちが、中央の通り道を走っていく。
その脇を、守矢の御札を持った老人が歩く。
反対側では、命蓮寺の灯籠に名前を書こうか迷っている女が立っている。
誰も怒ってはいない。
誰も相手を罵ってはいない。
それでも人里は、すでに二つの方角を意識していた。
北か。
南か。
御利益か。
救済か。
慧音は帳面を開き、まだ何も書かずに閉じた。
今日は、書くことが多くなる。
*
守矢の舞台では、早苗が防災祈願の準備をしていた。
舞台の横には板書が立っている。
**水害時の避難場所**
**井戸の確認日**
**山道通行注意**
**非常食保管場所**
**高齢者・子供の確認方法**
前回と違い、名簿は二つに分けられている。
防災用。
祈願用。
寄進箱も舞台の端に置かれ、名簿とは離されていた。
早苗は、それを何度も確認する。
「防災名簿はこちらです。祈願や寄進とは別です。非常時の支援は、寄進の有無で変わりません」
早苗は同じ説明を、何度も繰り返していた。
声に疲れはある。
だが、逃げてはいない。
神奈子は舞台の後ろからそれを見ていた。
「そこまで言わなくても伝わるだろう」
早苗は振り返る。
「伝わらないから、何度も言います」
「信仰は疑われた時点で弱くなる」
「説明しない信仰は、もっと弱くなります」
神奈子は少しだけ目を細めた。
以前の早苗なら、そこで言葉を飲んだかもしれない。
だが、今の早苗は飲まなかった。
「人里の方々は、安心したいんです。でも、安心をもらう代わりに信仰を求められていると思えば、また不安になります」
神奈子は舞台の外へ視線を向けた。
人々が並んでいる。
守矢の防災説明を聞きに来た者。
収穫祈願を頼みに来た者。
御札を求める者。
ただ、様子を見に来ただけの者。
神奈子は低く言った。
「人里を守るには、信仰がいる」
「分かっています」
「信仰を求めずに神を動かせというのは、都合がよすぎる」
「それも分かっています」
早苗はまっすぐ神奈子を見る。
「でも、信仰してくれないなら助けられない、とは言いたくありません」
神奈子は答えなかった。
その沈黙は、不機嫌にも見えた。
しかし早苗には、神奈子が考えているのも分かった。
*
南側では、命蓮寺の灯籠に火が入れられ始めていた。
白蓮は本堂ではなく、人里の広場に立っている。
並べられた灯籠には、名前が書かれているものもあれば、何も書かれていないものもある。
白蓮は、名前を書くことを強制しなかった。
「名前を書きたい方は書いてください。書けない方、書きたくない方は、何も書かずに灯して構いません」
その言葉に、ほっとする者がいた。
反対に、困った顔をする者もいた。
「名前を書かないと、供養にならないんじゃないか」
「書かなくてもよいと言われたが、では何を供養するんだ」
「命蓮寺に相談したことは、記録されるのか」
「また来てもいいのか」
「寄進できないが、灯籠を使ってもいいのか」
白蓮は一つずつ答える。
「無理に記録しません」
「供養は、形だけではありません」
「寄進できない方も構いません」
「相談は、望む範囲だけ残します」
優しい言葉だった。
だが、その優しさにも限界はある。
村紗は灯籠の数を見て、渋い顔をしていた。
「足りない」
一輪が小声で返す。
「昨日増やしました」
「それでも足りない」
「人が多すぎますね」
「多すぎるって言ったら、白蓮に怒られる」
「怒りはしないでしょう」
「悲しい顔をする。怒られるよりきつい」
一輪は苦笑した。
村紗は灯籠の列を見ながら、さらに言う。
「寄進できない者も使っていい。名前を書けなくてもいい。相談だけでもいい。全部いい。いいけど、その分こっちが抱える」
一輪は帳面を閉じた。
「受け入れるというのは、そういうことです」
「分かってる。でも、受け入れ続けたら寺が沈む」
村紗の声は低い。
「船と同じだ。助けたいからって、限界を超えて乗せたら全員沈む」
白蓮はその声を聞いていた。
振り返りはしなかった。
ただ、次の相談者へ向き直る前に、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
聞こえている。
それでも拒めない。
村紗は、その背中を見て舌打ちを飲み込んだ。
*
祭りは、穏やかに始まった。
屋台には人が並び、子供たちは中央の通り道を走る。
博麗の小さな祭壇は、中央の端に置かれた。
霊夢は賽銭箱を置こうとして、慧音に止められたため、小皿だけ置こうとした。
それも止められた。
「何よ。皿くらいいいじゃない」
「駄目だ」
「祭壇に皿がないのは不自然でしょ」
「賽銭皿だろう」
「ただの皿よ」
「嘘をつくな」
魔理沙が横で笑っている。
「博麗も信仰心を集める気満々じゃないか」
「うるさい。守矢と命蓮寺が集めてるのに、博麗だけ空気ってわけにはいかないでしょ」
「本音が出たな」
慧音はため息をついた。
「霊夢。今日は調停役だ」
「分かってるわよ」
「本当に分かっている顔ではない」
「顔まで管理しないで」
霊夢は不満そうに御幣を肩に担いだ。
しかし、中央を空けるという約束は守っている。
それだけでも、慧音はよしとした。
昼前、守矢の舞台で防災祈願が始まった。
早苗が人々の前に立ち、避難場所と井戸の位置を説明する。
その後、神奈子が舞台へ上がった。
空気が変わる。
神の声は、人間の声より強い。
神奈子が立つだけで、人々の背筋が伸びる。
「人里の者たちよ」
神奈子の声が広場に響いた。
「ここしばらく、幻想郷では多くの騒ぎがあった。水は濁り、道は歪み、死者の名まで揺らいだ。人里が不安になるのは当然だ」
人々は静かに聞く。
「だからこそ、備えがいる。祈りだけでは足りない。名簿も、避難路も、井戸の確認も、非常食もいる。だが、仕組みだけでも足りない」
神奈子は一度、空を見た。
「信仰は力だ。信じる心が集まれば、神はそれを力に変えられる。水を鎮める力、道を守る力、田畑を実らせる力、人里を支える力だ」
ざわめきはない。
ただ、人々の目が真剣になる。
神奈子の言葉は強い。
分かりやすく、頼もしい。
「守矢は、人里の暮らしを守る。守られたい者は、ただ怯えるのではなく、共に備えよ。共に祈れ。共に力を集めよ」
早苗は舞台の端で聞いていた。
胸の中に、誇らしさと不安が同時に湧いた。
神奈子の言葉は正しい。
だが、強すぎる。
守られたいなら、共に祈れ。
それは、人によっては励ましに聞こえる。
だが、人によっては圧にも聞こえる。
舞台の下で、寄進できない男が目を伏せたのを、早苗は見逃せなかった。
*
同じ頃、南側では命蓮寺の灯籠供養が始まった。
白蓮は静かに手を合わせる。
神奈子の声が力なら、白蓮の声は水のようだった。
低く、穏やかで、染み込むように広がる。
「ここに灯す灯は、亡き方だけのものではありません」
人々が灯籠の前に立つ。
「名を呼べる方は、名を呼んでください。まだ呼べない方は、ただ灯を見てください。悲しみを言葉にできない方は、黙っていて構いません」
命蓮寺側に集まった人々の中には、守矢の防災名簿に名前を書いた者もいた。
その者たちは、どこか後ろめたそうにしている。
白蓮は、それに気づいていた。
「ここに来たからといって、どこかの信仰を捨てたことにはなりません。守矢へ祈った方も、博麗へ参った方も、どこにも祈れない方も、ここにいて構いません」
その言葉に、何人かが顔を上げた。
「信仰は、苦しむ者を見捨てないための道です。ここでは、信じられる者だけを選びません」
その言葉もまた、強かった。
優しいが、強い。
命蓮寺の側へ、人が少しずつ増えていく。
北で神奈子の話を聞いた者が、南の灯籠へ向かう。
南で供養を終えた者が、北の防災説明へ向かう。
中央の通り道は、確かに機能していた。
だが、その行き来を見て、守矢の者たちは複雑な顔をする。
命蓮寺の者たちも、守矢の舞台に向かう人々を見て、少し表情を曇らせる。
通り道があるからこそ、誰がどちらへ向かったかが見える。
見えてしまう。
慧音は、中央でそれを見ていた。
「難しいな」
妹紅が横で言う。
「通り道にしても、結局見えるんだな」
「信仰の行き先は、足で見えてしまう」
「厄介だ」
「厄介だ」
*
昼を少し過ぎた頃、最初の衝突が起きた。
命蓮寺側に、小さな妖怪たちがやって来た。
大きな妖怪ではない。
人里を荒らすような者でもない。
命蓮寺の救済会に来ていた者たちだ。
人間と同じ灯籠の前には立たず、少し離れた場所で手を合わせている。
だが、人里の者の一部がざわついた。
「妖怪も来るのか」
「命蓮寺だからな」
「でも、今日は人里の祭りだろう」
「子供もいるんだぞ」
その声は、すぐに守矢側にも届いた。
神奈子が舞台から降り、南側へ向かう。
早苗も慌てて後を追った。
白蓮は妖怪たちの前に立っていた。
村紗は少し離れた場所で、人里の者たちの反応を見ている。
神奈子は白蓮に言った。
「これは聞いていない」
白蓮は静かに答える。
「命蓮寺の供養に来た者たちです」
「人里の安寧祭だ」
「人里の安寧は、妖怪を遠ざければ得られるものですか」
神奈子の表情が硬くなる。
「今の人里には不安が残っている。妖怪への恐怖もある。そこへ何の説明もなく同じ場に立たせれば、逆効果だ」
白蓮は言う。
「恐れがあるからこそ、同じ場に立つ必要があります」
「理想論だ」
「恐れをそのままにすれば、いつまでも線は消えません」
「線を消すために、人里の不安を無視するな」
「不安を理由に、救いを求める者を外へ追いやることもできません」
二人の声は大きくなかった。
だが、広場全体が聞いていた。
早苗は白蓮を見る。
白蓮の言葉は分かる。
命蓮寺は、妖怪も救済する寺だ。
ここで妖怪を追い返せば、命蓮寺の信仰そのものが揺らぐ。
だが、神奈子の言葉も分かる。
人里には、まだ恐れがある。
抗争の記憶は薄れていない。
子供を連れた親が不安になるのも当然だ。
早苗は、どちらも間違っていないことが苦しかった。
慧音が前へ出た。
「白蓮。今日参加する妖怪の名と目的は、人里側へ説明しているか」
白蓮は少しだけ沈黙した。
「全ては、まだ」
慧音は神奈子を見る。
「神奈子。危険があると判断する具体的な理由は」
神奈子は妖怪たちへ視線を向ける。
「今この場で危険を起こすとは言っていない。だが、人里の者が安心していない」
「不安が理由か」
「不安も安全の一部だ」
慧音は頷いた。
「その通りだ」
白蓮が慧音を見る。
慧音は続ける。
「だが、不安だけを理由に排除すれば、命蓮寺の言う救済は成り立たない」
今度は神奈子が慧音を見る。
慧音は両者に向かって言った。
「説明が足りない」
短い言葉だった。
だが、重い。
「命蓮寺は、妖怪を参加させるなら、人里へ説明する責任がある。誰が、何のために来ているのか。どこに立つのか。人里の者が怖がった時、どうするのか」
白蓮は静かに頷いた。
「はい」
「守矢は、安全上の不安を出すなら、ただ怖いからでは済ませるな。何が危険で、どうすれば軽減できるのかを示せ」
神奈子は腕を組む。
「分かった」
霊夢が横から言った。
「で、今日どうするの」
慧音は少し考えた。
「妖怪たちは命蓮寺の灯籠側に留まる。命蓮寺が説明する。人里の者が無理に近づく必要はない。守矢は、危険があればすぐ博麗と人里に知らせる。勝手に追い出さない」
村紗が不満そうに言う。
「区画分けみたいだな」
慧音は村紗を見る。
「区画ではない。説明が終わるまでの距離だ」
白蓮は村紗へ静かに首を振った。
「受け入れます」
神奈子も言った。
「守矢も受け入れる」
しかし、そこで終わらなかった。
白蓮が神奈子へ向き直る。
「神奈子さん」
「何かしら」
「人里の不安を理由に、妖怪を遠ざけ続ければ、命蓮寺の信仰は否定されます」
神奈子は返す。
「妖怪との共生を理由に、人里の不安を軽んじれば、守矢の安心は崩れる」
白蓮は目を伏せない。
「では、どうすれば」
神奈子は即答する。
「まず生き残る仕組みだ」
白蓮も即答する。
「仕組みからこぼれた者を拾う場所です」
二人の間に、また沈黙が落ちた。
そして、神奈子が言った。
「救いだけでは、川は止まらない。米も実らない。屋根も直らない」
白蓮は静かに返した。
「御利益だけでは、眠れない夜を越えられません」
神奈子の声が少し低くなる。
「人里に必要なのは、まず生き残る仕組みだ」
白蓮の声もまた、静かに強くなる。
「仕組みからこぼれた者を、誰が拾うのですか」
「全部を拾おうとすれば、寺が人里を抱え込む」
「全部を管理しようとすれば、神社が人里を囲い込む」
広場は完全に静まった。
屋台の火の音だけが聞こえる。
子供たちも走るのをやめていた。
霊夢は眉間を押さえた。
「これ、祭りよね」
魔理沙が横で言う。
「信仰抗争って感じになってきたな」
「言わなくていい」
*
神奈子と白蓮の口論は、すぐに決着しなかった。
そもそも、決着する性質のものではない。
守矢は、暮らしを守るための仕組みを求める。
命蓮寺は、仕組みからこぼれる者を救おうとする。
その二つは本来、両方必要なはずだった。
しかし、どちらも自分の信仰の中心に関わるため、簡単には譲れない。
早苗は、神奈子の後ろで立ち尽くしていた。
白蓮の言葉が胸に残る。
仕組みからこぼれた者を、誰が拾うのか。
守矢の安心講は、こぼれる者を作っていないと言い切れるだろうか。
一方で、神奈子の言葉も残る。
救いだけでは、川は止まらない。
命蓮寺の救済は、人里の屋根を直せるだろうか。
井戸を守れるだろうか。
山道を整えられるだろうか。
どちらも足りない。
どちらも必要。
そして、どちらも自分たちだけで人里を救えると思い始めている。
早苗はそれが怖かった。
*
夕方、安寧祭は予定より早く静かになった。
屋台は残っている。
灯籠も燃えている。
守矢の舞台も片づけられてはいない。
だが、人々の声は少ない。
祭りというより、評定の後のような空気だった。
慧音は寺子屋へ戻り、帳面を開いた。
妹紅は窓際に座る。
「荒れたな」
「静かに荒れた」
「一番面倒なやつだ」
「そうだ」
慧音は筆を取る。
今日の記録は長くなる。
**安寧祭当日。
守矢神社、防災祈願および生活防衛を主張。
命蓮寺、灯籠供養および救済を実施。
中央通り道は機能するも、人里の信仰先は可視化。
命蓮寺、妖怪参加を実施。
守矢、人里の不安を理由に懸念。
神奈子、生活を守る仕組みを主張。
白蓮、仕組みからこぼれる者の救済を主張。
双方、相手の囲い込みを指摘。
結論なし。
信仰心の線引き、さらに進行。**
筆を止める。
慧音はしばらく紙を見つめていた。
妹紅が言う。
「結論なし、か」
「今日はな」
「明日は?」
「もっと悪くなるかもしれない」
「根拠は」
慧音は窓の外を見る。
人里の通りに、守矢の御札を持った家族が歩いている。
反対側には、命蓮寺の灯籠を持って帰る女がいる。
二組はすれ違う時、少しだけ目を伏せた。
「もう互いを見ている」
妹紅は外を見て、苦い顔をした。
「ただ信じる先が違うだけだろ」
「その“だけ”が、今は重い」
慧音は帳面を閉じた。
広場の中央に置かれた通り道は、まだ残っている。
だが、人々の心の中では、北と南が少しずつ遠くなっていた。
*
その夜、早苗は守矢の舞台の片づけを一人でしていた。
神奈子は山へ戻った。
諏訪子も姿を消した。
舞台の上には、使われなかった御札が残っている。
早苗はそれを一枚ずつ箱へ戻した。
そこへ、白蓮がやって来た。
「お疲れさまでした」
早苗は少し驚き、すぐに頭を下げた。
「白蓮さんこそ」
しばらく、二人は黙っていた。
祭りの後の広場は、昼間よりずっと広く見える。
北の舞台。
南の灯籠。
中央の通り道。
白蓮が静かに言った。
「今日は、難しい日でした」
「はい」
早苗は頷いた。
「神奈子様の言葉も、白蓮さんの言葉も、どちらも分かりました」
「私も、神奈子さんの言葉は分かります」
白蓮は舞台の板書を見る。
「救いだけでは、川は止まりません」
早苗は南側の灯籠を見た。
「御利益だけでは、眠れない夜は越えられません」
二人は互いに目を合わせた。
敵ではない。
けれど、同じでもない。
白蓮は言った。
「早苗さん。守矢神社は、人里を守ろうとしているのでしょう」
「はい」
「命蓮寺も、人里を救おうとしています」
「はい」
「それでも、ぶつかるのですね」
早苗は小さく息を吐いた。
「はい」
白蓮は少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「信仰とは、難しいものです」
早苗も苦笑した。
「霊夢さんにも同じようなことを言われました」
「そうですか」
その時、広場の端から霊夢の声が飛んだ。
「聞こえてるわよ」
二人が振り返ると、霊夢が中央の通り道に立っていた。
「神も仏も、夜まで反省会?」
早苗は少し慌てる。
「反省会というか」
白蓮は静かに笑った。
「そのようなものです」
霊夢は二人を見た。
「反省するなら、明日からにして。今日はもう帰りなさい」
「霊夢さんは?」
「私は見回り」
魔理沙の声が後ろからする。
「本当は屋台の残りを探してたぜ」
「黙りなさい」
少しだけ空気が和らいだ。
しかし、霊夢の目は真面目だった。
「早苗、白蓮」
「はい」
「今日ので終わったと思わない方がいいわよ」
二人は黙った。
霊夢は続けた。
「人里は、たぶん明日からもっと気にする。誰がどっちへ行ったか。誰がどっちに近いか。誰がどちらにも行ってないか」
早苗の顔が曇る。
白蓮も目を伏せる。
「信仰って、見えないうちは自由だけど、見えた途端に線になる」
霊夢は中央の通り道を足で軽く踏んだ。
「ここを通れるうちに、ちゃんと考えなさい」
そう言って、霊夢は背を向けた。
早苗と白蓮は、しばらくその場に立っていた。
夜風が吹く。
北側の守矢の旗が揺れる。
南側の命蓮寺の灯籠が揺れる。
中央の何もない道に、月明かりが落ちている。
人は、神に祈る。
人は、寺にすがる。
時には、どちらにも行けない。
その心を、誰がどう受け止めるのか。
答えはまだ出ていない。
ただ一つ確かなのは、今日の口論で、守矢と命蓮寺の違いは人里中に見えてしまったということだった。
神と仏の言葉は、どちらも正しかった。
そして、正しい言葉ほど、人を分けることがある。