東方無頼郷「幻想郷に善人はいない」   作:たこ焼き 龍月

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第一章 霧の湖の縄張り

 

 

 霧の湖は、いつも白い。

 

 朝でも昼でも、晴れていても、どこかに薄い霧がかかっている。水面は静かで、岸辺の草は濡れ、遠くには紅魔館の赤い影がぼんやりと浮かぶ。

 

 だが、その日の湖は少し違っていた。

 

 白いはずの霧が、ところどころ灰色に濁っている。

 水面は低く、岸辺の泥がむき出しになっていた。

 普段なら湖の中に隠れている石や根が、まるで骨のように顔を出している。

 

 博麗霊夢は、湖畔に立って眉をひそめた。

 

「思ったより下がってるわね」

 

 隣で霧雨魔理沙がしゃがみ込み、水際を指でなぞった。

 

「昨日見た時より、さらに下がってるな。ほら、ここに水の跡がある」

 

 岸辺の石には、古い水位の線が残っていた。

 そこから今の水面までは、子供の膝ほどの差がある。

 

 霊夢は面倒くさそうに息を吐く。

 

「湖って、そんな簡単に減るものなの?」

 

「普通は減らない。少なくとも、一晩でこうはならない」

 

 後ろから河城にとりが答えた。

 

 にとりは大きな鞄を背負い、腰には工具をいくつも下げている。

 普段なら商売っ気のある笑みを浮かべているが、今日は表情が硬い。

 

「水門でも開けたのか」

 

 魔理沙が聞く。

 

「霧の湖に、そんな分かりやすい水門はないよ。古い水路や地下の抜け道はあるけどね」

 

「それをいじれるのが河童ってわけだ」

 

 霊夢が言うと、にとりは少しだけ視線を逸らした。

 

「河童なら、全員できるわけじゃない。水脈に手を出せるのは、専門の連中だ」

 

「青筒組?」

 

「たぶんね」

 

 にとりは湖面を見つめた。

 

「でも、あいつらが本気で水を止めるなら、もっと綺麗にやる。こんなふうに岸辺を荒らしたり、偽札を残したりしない」

 

「偽札を残したのは、誰かに見つけさせるためかもしれないわ」

 

 霊夢は袖から、序章で魔理沙が拾った濡れた札を取り出した。

 

 博麗の結界札に似せた偽物。

 湖の底に貼られていたもの。

 

 にとりはそれを見て、苦々しく言った。

 

「紙は河童製。水に強い加工もしてある。けど、印が雑だ。博麗の札をよく知らない奴が、遠目で似せた感じだね」

 

「よく知らないくせに、博麗の名は使うのね」

 

 霊夢の声が少し低くなった。

 

 その時、湖の方から甲高い声が響いた。

 

「おーい! あんたたち、何してんのよ!」

 

 氷の羽を揺らしながら、チルノが飛んできた。

 後ろには大妖精もいる。大妖精は不安そうに湖の方を振り返っていた。

 

 チルノは霊夢たちの前に降り立つなり、びしっと湖を指差した。

 

「湖が変なのよ! 水が少ない! 氷が薄い! 魚も変なところにいる!」

 

「魚の心配までするのね」

 

 霊夢が言うと、チルノは胸を張った。

 

「あたいは湖の最強だからね! 湖のことは分かるの!」

 

 魔理沙がにやりと笑う。

 

「じゃあ、何が変なんだ?」

 

 チルノは得意げに言いかけて、少し考えた。

 

「えーと……下が冷たい」

 

「湖は冷たいだろ」

 

「違うの! いつもの冷たさじゃないの! 底の方から、変な冷たさが来てるの!」

 

 霊夢は顔を上げた。

 

「底?」

 

 大妖精がおずおずと言った。

 

「湖の真ん中あたりで、泡が出てました。水が吸い込まれてるみたいで……チルノちゃんが近づいたら、氷が割れそうになって」

 

「あたいは割れてない!」

 

「割れそうになっただけだよ」

 

 にとりの表情が変わった。

 

「吸い込みか……」

 

「心当たりがあるの?」

 

 霊夢が尋ねる。

 

「古い地下水路が開いてるのかもしれない。霧の湖の下には、昔の河童が掘った管がいくつか残ってる。今はほとんど使われてないけど」

 

「それを青筒組が使ってる?」

 

「可能性はある」

 

 その時、霧の向こうから規則正しい足音が聞こえた。

 

 現れたのは十六夜咲夜だった。

 

 銀髪を揺らし、いつものように整った姿で湖畔を歩いてくる。

 彼女の後ろには、紅魔館の使いが数人いた。皆、湖の岸に沿って何かを調べている。

 

「博麗の巫女。お待ちしておりました」

 

「待たれてた覚えはないわ」

 

「お嬢様は大変お怒りです」

 

「でしょうね」

 

 霊夢は紅魔館の方を見る。

 

 霧の向こうで、赤い館が沈黙している。

 沈黙しているのに、不機嫌なのが分かる。そういう館だった。

 

 咲夜は湖面を見た。

 

「霧の湖は紅魔館の防衛圏であり、景観の一部でもあります。勝手に湖底を掘られるのは困ります」

 

 にとりがすぐ反論した。

 

「河童が勝手に掘ったって決まったわけじゃないだろ」

 

「では、河童以外に湖底の管を扱える者が?」

 

「守矢とか、八雲とか、地底とか、色々いるだろ」

 

 咲夜は静かににとりを見る。

 

「その中で、一番工具を持っているのは河童です」

 

「工具を持ってるだけで犯人扱いかよ」

 

「刃物を持っていれば料理人にもなれますし、犯人にもなれます」

 

 魔理沙が小声で言う。

 

「咲夜が言うと説得力があるな」

 

「黙ってなさい」

 

 霊夢が言った。

 

 空気が少しずつ悪くなっている。

 

 湖の水が減った。

 人里の井戸が濁った。

 博麗の偽札が見つかった。

 河童の紙が使われている。

 紅魔館の庭先が荒らされている。

 

 それだけで、もう十分に揉める。

 

 霊夢は咲夜へ向き直った。

 

「紅魔館は何か知ってるの?」

 

「こちらも被害者です」

 

「そう言う奴ほど、だいたい何か隠してるのよ」

 

 咲夜は少しだけ微笑んだ。

 

「では、正直に申し上げます。紅魔館は湖の水を一部、地下貯水槽へ引いています」

 

 にとりが目を丸くした。

 

「は?」

 

 魔理沙が笑う。

 

「ほらな。やっぱり何かやってた」

 

 咲夜は悪びれない。

 

「庭園、館内設備、防火、その他諸々のためです。湖畔に館を構える以上、当然の備えです」

 

「当然かどうかは知らないけど、勝手に引いてたわけね」

 

 霊夢が言う。

 

「博麗に許可を取った覚えは?」

 

「ございません」

 

「堂々と言うわね」

 

「今まで問題になりませんでしたので」

 

 霊夢はこめかみを押さえた。

 

「問題になってないんじゃなくて、私が知らなかっただけでしょ」

 

「同じことでは?」

 

「違うわよ」

 

 咲夜は涼しい顔のまま続けた。

 

「ただし、今回の水位低下は紅魔館の貯水量では説明できません。むしろ、こちらの貯水槽にも異常が出ています」

 

「異常?」

 

「水の流入が細り、底に細かな金属粉のようなものが混じっていました」

 

 咲夜は布に包まれた破片を取り出した。

 

 金属製の管の一部だった。

 水に濡れ、ところどころ青く変色している。

 

 にとりが受け取った瞬間、顔色を変えた。

 

「これ……河童の管だ」

 

「やっぱり」

 

 咲夜が静かに言う。

 

「待て、早い。これは確かに河童の管だけど、古い型だ。今のうちの工房じゃ使わない」

 

「青筒組は?」

 

 霊夢が聞く。

 

 にとりは答えに詰まった。

 

「……使うかもしれない」

 

 その時、湖畔の反対側から、今度は東風谷早苗が現れた。

 

 早苗は走ってきたらしく、少し息を切らしている。

 だが、表情は真剣だった。

 

「霊夢さん、守矢の水路調査班が湖の北側で妙なものを見つけました」

 

「今度は何」

 

「水を測る杭が、勝手に打たれています。守矢のものではありません。でも、神紋に似た印が刻まれていて……」

 

 早苗は言葉を切った。

 

 霊夢は嫌な予感がした。

 

「似た印?」

 

「はい。守矢がやったように見える形です」

 

 咲夜がにとりを見る。

 

「博麗の偽札に、河童の管に、守矢に似た杭ですか」

 

 にとりは苛立ったように言った。

 

「分かりやすすぎるだろ。誰かが全部を揉めさせようとしてる」

 

「その誰かが河童ではない証拠は?」

 

「ないよ」

 

 にとりの声が荒くなった。

 

「でも、紅魔館だって勝手に水を引いてた。守矢だって水利計画を進めてる。博麗だって偽札を使われてる。みんな無関係じゃないだろ」

 

 早苗が一歩前に出る。

 

「守矢は正式に協議を申し入れています。今回は勝手には進めません」

 

「今回は、ね」

 

 咲夜の声がわずかに冷える。

 

 早苗は唇を噛んだ。

 

 前回の守矢の講をめぐる騒動は、まだ全員の記憶に残っている。

 早苗が慎重に動いているのは分かる。

 だが、守矢が人里や水利に入り込もうとしている事実は変わらない。

 

 霊夢は手を叩いた。

 

「はい、そこまで」

 

 全員が黙る。

 

 霊夢は湖面を見た。

 

「紅魔館は勝手に水を引いていた。河童は湖底の管に心当たりがある。守矢は水利計画を持ってきた。博麗の偽札は湖底に貼られていた」

 

 霊夢は全員を見回す。

 

「つまり、全員怪しい」

 

 魔理沙がにやりと笑った。

 

「公平だな」

 

「公平じゃないわ。面倒なだけよ」

 

 その時、湖の中心で水面が揺れた。

 

 小さな泡が、ぽつぽつと浮かぶ。

 最初は数えるほどだった。

 だが次第に泡は増え、水面が渦のように沈み始めた。

 

 チルノが叫ぶ。

 

「ほら! あれ! あれだよ!」

 

 にとりが鞄から小さな測定器を取り出す。

 

「水が吸われてる。湖底のどこかが開いてるんだ」

 

「閉じられる?」

 

 霊夢が聞く。

 

「近くまで行かないと分からない。でも、危ない。流れに巻き込まれたら」

 

「行くわよ」

 

 霊夢は即答した。

 

 魔理沙が箒にまたがる。

 

「だと思ったぜ」

 

 咲夜は紅魔館の使いたちに下がるよう合図した。

 

「湖面の移動なら、私も同行します」

 

 早苗も御幣を握った。

 

「私も行きます。守矢の杭が関係しているなら、確認しなければなりません」

 

 にとりは渋い顔をしながらも、鞄から小型の水中探査具を取り出した。

 

「分かったよ。私が案内する。ただし、水に落ちても知らないからね」

 

「落ちても魔理沙が拾うでしょ」

 

「私かよ」

 

 魔理沙が言う。

 

 一行は湖面へ向かった。

 

 霊夢と魔理沙は空を飛び、咲夜は水面近くを器用に渡る。早苗は風を使って後を追い、にとりは奇妙な浮き具を湖に浮かべて進んだ。

 

 湖の中心に近づくほど、霧は濃くなった。

 

 水面の渦は小さい。

 だが、近づくと底の方から引かれるような力がある。

 

 にとりの測定器が甲高い音を立てた。

 

「ここだ。真下に穴がある」

 

 霊夢は水面を覗き込んだ。

 

 濁った水の向こうに、何かが見える。

 鉄の輪。

 古い管。

 それに貼りついた白い札。

 

 博麗の偽札だった。

 

 しかも一枚ではない。

 

 何枚もの札が、管の周囲に貼られている。

 札が水の流れを歪め、管の奥へ水を引き込んでいるように見えた。

 

「本当に、うちの札の真似で水を動かしてる」

 

 霊夢の声が低くなる。

 

 早苗が顔をこわばらせた。

 

「こんなことができるんですか」

 

「博麗の札なら、境界や流れに干渉できる。でもこれは偽物。だから無理やり水の通り道をねじ曲げてる」

 

 にとりが言った。

 

「だから濁ってるんだ。流れを綺麗に変えてるんじゃない。壊しながら吸ってる」

 

 咲夜が目を細める。

 

「行き先は?」

 

「地下水路。どこへ繋がってるかは、図面がないと分からない」

 

 魔理沙が言った。

 

「図面なら、青筒組が持ってそうだな」

 

「でしょうね」

 

 霊夢は袖から本物の博麗札を取り出した。

 

「偽札を剥がす」

 

 にとりが慌てる。

 

「待て待て! いきなり剥がしたら水流が跳ねるかもしれない」

 

「じゃあ、どうするの」

 

「先に管の圧を抜く。それから順番に札を外す」

 

「どれくらいかかる?」

 

「道具があれば半刻。なければもっと」

 

 霊夢は湖底を睨んだ。

 

「面倒ね」

 

「水は面倒なんだよ」

 

 にとりが言う。

 

「流れを止めるのは簡単だけど、戻すのは難しい。無理に戻せば、別のところが壊れる」

 

 その言葉は、水だけの話ではなかった。

 

 霊夢は一瞬、前回の人里抗争を思い出した。

 土地。

 寺子屋。

 記録。

 隠蔽。

 

 何かを壊してから戻すのは、いつだって難しい。

 

 その時だった。

 

 湖畔の方から爆発音がした。

 

 水鳥が一斉に飛び立つ。

 霧が揺れる。

 

 咲夜がすぐに振り返った。

 

「紅魔館側です」

 

 にとりの測定器が別の反応を示す。

 

「岸の設備が壊された!」

 

「設備?」

 

 霊夢が聞く。

 

「湖底調査用に置いてあった仮設の水圧計だよ。さっきまで無事だったのに」

 

 魔理沙が箒を反転させる。

 

「戻るぞ」

 

 一行が湖畔へ戻ると、そこには壊れた機械があった。

 

 河童の測定器らしい装置が、無残に壊されている。

 煙が上がり、金属片が岸辺に散らばっていた。

 

 紅魔館の使いたちは警戒している。

 チルノは大妖精と一緒に少し離れたところから見ていた。

 

 にとりが駆け寄る。

 

「ひどいな……これ、内部まで壊されてる。水圧計だけじゃない。記録も抜かれてる」

 

 咲夜が地面に落ちていた紙片を拾った。

 

 赤い封印紙。

 紅魔館の紋に似た印が押されている。

 

 咲夜の表情が冷えた。

 

「これは」

 

 霊夢が近づく。

 

「紅魔館の封印紙?」

 

「似ています。ですが、正規のものではありません」

 

「また偽物か」

 

 魔理沙が呆れたように言う。

 

「博麗の札、守矢の杭、紅魔館の封印紙。次は何だ? 命蓮寺の荷札か、永遠亭の薬包みか?」

 

 霊夢は紙片を咲夜から受け取った。

 

 紅魔館の封印紙に似せた偽物。

 だが、紙質はさきほどの博麗偽札と同じ系統だった。

 

 河童製。

 水に強い。

 印は雑。

 だが、疑わせるには十分。

 

 咲夜が静かに言った。

 

「これは紅魔館への挑発です」

 

「河童への挑発でもある」

 

 にとりが言う。

 

「守矢も巻き込まれてます」

 

 早苗も言った。

 

 霊夢は、濡れた紙片を握った。

 

 これで三つ。

 

 博麗の偽札。

 守矢に似せた測量杭。

 紅魔館の偽封印紙。

 

 誰かが、霧の湖をめぐる全勢力に火種を置いている。

 

 水を止めるだけではない。

 水をめぐって、互いに疑わせるためだ。

 

 霊夢は湖を見た。

 

 水面は低く、霧は濁っている。

 湖の底では、偽の博麗札がまだ水を吸い込ませている。

 

 そこへ、紅魔館の方角から強い気配が近づいてきた。

 

 レミリア・スカーレットだった。

 

 小さな体に似合わない威圧感をまとい、霧を割るように歩いてくる。

 後ろにはパチュリーもいる。小悪魔が本を抱えてついてきていた。

 

 レミリアは壊れた装置と偽の封印紙を見て、静かに笑った。

 

「なるほど。うちの名を使ったのね」

 

 その声は軽い。

 だが、湖畔の空気が冷えた。

 

「お嬢様」

 

 咲夜が一礼する。

 

「説明は後でいいわ」

 

 レミリアは霊夢を見た。

 

「博麗。これはどう裁くの?」

 

 霊夢はすぐには答えなかった。

 

 レミリアは続ける。

 

「湖は荒らされ、紅魔館の名は使われ、河童は疑われ、守矢は水利を狙い、人里の井戸は濁った。放っておけば、誰かが勝手に水の王を名乗るわよ」

 

「水の王なんて趣味悪いわね」

 

「幻想郷では、趣味の悪い者ほど先に動くものよ」

 

 霊夢は偽封印紙を袖にしまった。

 

「裁く前に、犯人を引きずり出す」

 

「遅いわね」

 

「急いで間違えるよりマシでしょ」

 

 レミリアは笑った。

 

「博麗が慎重になるなんて。前の件で懲りた?」

 

「うるさい」

 

 魔理沙が横で笑いをこらえた。

 

 霊夢はにとりを見る。

 

「湖底の管を止める準備をして。魔理沙、あんたは青筒組の工房を探しなさい」

 

「任せろ。拾い物が増えそうだ」

 

「咲夜は紅魔館の封印紙の出どころを調べて。早苗は守矢の杭を全部確認。勝手に工事した河童がいないかも」

 

 早苗は頷いた。

 

「分かりました」

 

 にとりは不安そうに言った。

 

「青筒組が本当に絡んでたら、河童だけで止めるのは難しいよ」

 

「だから博麗が出るのよ」

 

 霊夢は湖を見る。

 

「水を止めた奴に、水は任せない」

 

 その言葉に、湖畔の空気が一瞬だけ静まった。

 

 紅魔館も、守矢も、河童も、魔理沙も、何も言わなかった。

 

 霧の湖の水面は、まだ低い。

 湖底のどこかで、水は無理やり吸い込まれ続けている。

 

 そして、壊された測定器の下から、にとりがもう一つの破片を見つけた。

 

 小さな青い筒。

 

 金属製の筒に、古い河童文字が刻まれている。

 

 にとりの顔が青ざめた。

 

「青筒組の印だ」

 

 魔理沙が覗き込む。

 

「じゃあ決まりか?」

 

 にとりは首を振った。

 

「分からない。これも偽物かもしれない。でも……」

 

「でも?」

 

「本物なら、あいつらはもう隠れる気がない」

 

 霊夢は青い筒を受け取った。

 

 冷たい金属の感触が、手の中に残る。

 

 霧の湖の縄張りは、もう静かな水辺ではなくなっていた。

 

 誰の水か。

 誰が流すのか。

 誰が止めるのか。

 

 水に名前をつけようとする者たちが、霧の向こうで動き始めていた。

 

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