人というのは誰しも1つは隠された一面を持つ。一目見ただけで物事を覚える人。推理力が高い人。それは取り柄や長所と言われるが、人間の多くはその自分の一面に気づけていないものだ。
「お疲れ様で〜す。お先に失礼しま〜す」
「あ、ちょっと北瀬くん」
会社勤めの俺、北瀬莫は今日も定時までに仕事を終わらせて帰宅しようとすると、同部署の先輩社員に声をかけられた。
「何ですか?」
「今日これから部署飲みあるけど君も来る?」
「いや、俺は遠慮しておきます」
先輩社員の誘いを断り、定時に自宅へと帰宅する。俺は出世よりも定時帰宅を優先する点を除けば世間一般的には極々平凡なサラリーマンだ。
だがそんな俺にも生きがいはある。
「おやすみなさい」
それは『寝る』事だ。だって夢の中では自由なのだから。
夢のなかでは何かを成すヒーローになれることは良くある話だが、俺の場合は異世界を冒険する所謂『冒険者』だ。
「こっちは朝か」
異世界では冒険者の俺こと『バク』は森の木陰で眠りについていたようで、そこをセーブポイントにしたかのように意識が覚醒する。俺はこんな幻想的な夢を子供の頃から見ていた。剣と魔法の世界で迷宮や世界を大冒険。そんな夢を今もなお夜な夜な楽しみにしている。欠点といえば妙にリアルな夢なこともあり、魔物との戦いで瀕死になってしまうと現実で飛び起きるように目が覚めてしまうことだが、まあ所詮は『夢』の話だ。
「やっぱり現実に合わせて夢の俺も成長してるな」
水辺で顔を洗い水面に写る自分の顔を見る。10歳頃から見てるこの異世界の夢。かれこれ同じ世界の夢を見続けて10年以上経つがそれに合わせて異世界の俺も成長してきた。あの頃子供だった幼い冒険者も今ではそれなりに立派な冒険者だ。
「あら、おはようバク」
「おはようマリー」
声をかけてきた白く長い髪の女性はマリアーベル。通称マリー。俺の知り合いのエルフで本人曰く100年は生きてるとのことだ。
「こんな原始的な野宿を飽きもせず何年も。私から言わせてもらえば、あなたのほうがよっぽどエルフのようだわ」
「はは、そうかな。それにしてもマリーがこんな森の奥まで来るのは珍しいね。というか今日は魔術師ギルドに用事があるって言ってなかったっけ?」
「早めにその用事を終わらせたのよ」
「そうなんだ。良かったらこれから近場の遺跡探索にでもいかない?」
「朝からさらっととんでもない場所に誘ってきたわね。普通の人間の女性でも2つ返事は多くないと思うわよ」
誘い方、ミスったかな?
「まあ、そのお弁当を分けてくれるなら行かなくはないけど」
俺は眠る際に枕元に置いた弁当なら何故か夢の世界に持ってくることができる。こっちの世界に現実の食事を持ってくる理由は単純。この異世界の食事があまり美味しくないからだ。夢だから。なんて思わず夢だからこそ楽しみたい俺は何度か彼女に持参した弁当を分けたことがあるのだが、この世界の食事があまり美味しくないと思っていたのは彼女も同じだったようで、俺の弁当を、俺の世界の食事を気に入ってくれた。今回もマリーは弁当で釣れたというわけだ。
「じゃあ遺跡に向かおうか」
ナズルナズル遺跡。
この異世界にはその昔突如として滅びてしまった文明があった。ここの遺跡は偶然かはたまた『そういう風』なのかは知らないけれど、ほとんど形を残したまま住居や建物といった文明の遺産が残されている。外的要因や病気、この都市だった場所が遺跡化した理由は色々と考えられるが・・・。
「そういった迷宮都市伝説の謎をあなたは暴く気なのかしら?」
「あまりそういった考えはないかな。ただ2人で楽しめればいいって気持ちが強くてさ」
そう。この遺跡に来た理由はなんてことはない。ただマリーと楽しく冒険がしたかった。本当にそれだけだ。
「そ、そう。それにしても中に入ると結構広いわね」
「元は都市だったからね。入り口はたぶん水路か何かだったと思う。千年以上形を維持してる技術。これを町の建物にも活用出来たらな」
「無理じゃないかしら。魔力供給じゃない地脈に食い込んだ術式だから土地の条件は限定されるわ。それに高名な術師もとなれば費用は莫大よ」
確かに予算の事を考えればそう安々とはいかないか。
「俺の国は地震大国だからこういった強度を上げる魔法技術は羨ましいな」
「地震大国って。確かに地震は怖いけどそんなに頻繁なわけないでしょうに。いったいあなたはドコの出身なのよ?」
「日本という島国さ。たぶん地図には載ってないだろうね」
ここは夢の中の異世界。日本はおそらく地図にないだろう。
「ねぇ、それよりも・・・」
彼女の視線は俺の荷物へと、言ってしまえば弁当へと向けられていた。
「あの辺りなら休めそうだ。あそこでお昼にしようか」
「それが良いわね!」
弁当で釣れたマリーはワクワクとしながら弁当箱を取り出す。これで100歳超えなんだからエルフというのは分からないものだ。
本日の弁当のメニューはいなり寿司に筑前煮といった和風なものだ。春野菜をふんだんに使っているため栄養はたっぷりである。
「これも美味しいわね!やっぱりバクについてきて正解だったわ!」
現金なことで。
「とはいえ私も勉学があるから暇ではないのよ。たまに、たまにならまぁ。誘われてあげなくもないわ」
「ありがとう。さぁ、夕方までには帰りたいからそろそろ先に行こうか」
俺とマリーは食べ終わった弁当箱を片付けて遺跡の奥へと進む。するとその道中でリザードマンの魔物が1人の人間と今まさに戦うとしてる場面に遭遇した。
「うーん、どうしようか」
魔物のリザードマンとはいえ彼は3年間意思疎通を試みて知り合いになった相手。助けたい気持ちはあるが彼もこの遺跡を護るという役目であの人間と戦うとしている。下手に手を出すのは彼のプライドに傷をつけてしまうかもしれない。
「危なくなったら手を貸してあげるか」
ひとまず戦いを見守ることにした俺はリザードマンと目が合う。リザードマンの方も手助けは望んでいないようでただ頷いて、そのまま見ているだけにしてほしいと言う意思が伝わってきた。
「たかが魔物如きが我々ワンハンドの道を妨げるとは。小賢しい」
黒いコートのフードを下ろした男の手にはカマキリのようなものが描かれた1枚のカードが握られている。
「だがこのレプリケミーカードの性能テストには丁度いい。実験台になれることを光栄に思うがいい」
カードから出てきたカマキリを取り込んだ男は複数のカマキリの鎌を銀色の包帯で強引に固定したような頭部と両腕をした亜人へと変貌を遂げる。
「な、何よあれは?」
マリーもあんなアイテムで姿を変えた亜人の存在は知らなかったようで驚いた反応をしていた。やっぱりあれはこの世界のものじゃないのかもしれない。だとすると何なんだ?この世界がただの夢なら俺の妄想が混じったものだと納得できるはずなのに、あれから感じるゾワゾワとした感覚がそれを否定させてくる。
「ハァァッ!」
カマキリの亜人、いや怪人は鎌からの斬撃を円刃状の衝撃波にして飛ばしリザードマンを攻撃した。リザードマンは槍でそれを防ごうとしたけど、槍はあっさりと真っ二つにされてしまい、リザードマンは胸を斬られて膝をついてしまう。
「斬り殺せると考えていたが、まだ少し馴染んでいないようだな」
馴染んでいないから威力不足だったと語るカマキリの怪人はリザードマンにトドメを刺そうとすると、俺は近くの石に足を当ててしまい物音を立ててしまう。
「見られたか。見られたからには消しておくか。」
見られたことに気づいたカマキリの怪人は出血の量的に放っておけば長くないリザードマンよりも目撃者である俺とマリーを消そうとこちらに近づいてきた。
「幸いここは遺跡の中、魔物に襲われて亡くなったと片付けられて、俺は知られることはないだろう」
「ッ!逃げるよマリー!」
マリーの手を引いて逃げようと駆け出すと、カマキリの怪人は斬撃の衝撃波を飛ばしてくる。逃げながら回避しているので当たりはしないが、遺跡がドンドン破壊されて逃げ道が狭まっていく。
「マリー!危ない!!」
瓦礫が落下したせいで足元が崩れそうになったのでマリーを突き飛ばす形で庇うと、俺はそのまま崩れる足場とともに下へと落下してしまった。
「ここは?」
落下した先は偶然にも水があり、それがクッションとなって大した怪我はしなかったのだが、数回層ほど落ちてしまったようだ。
「というか、何だこの扉?」
そして気になるのは目の前の謎の『白い扉』。遺跡とミスマッチなそれに俺は無意識のうちに手をかけ、開いていた。
『よくここにたどり着いた。ここは夢と異世界の狭間、君の深層心理ともいえる場所だ』
遺跡の雰囲気とは違うレトロな部屋の奥、バイクから声が聞こえたかと思えばそのバイクは人型のロボットに変形した。
『北瀬莫。夢の中で異世界に干渉できる君の事は10年間我々Codeが観測していた』
バイクが変形したロボットは俺の事を知っていたようで、あろうことか10年もの間観測と言う名の監視をしていたことを伝えてきた。
『私はコードゼロ。極秘防衛機関Codeの司令官をしている』
ロボットが司令官なのか?
『この姿は外部から遠隔操作をしているに過ぎないが、それはまだ君には話せない』
あぁ、遠隔操作でロボットを操作して俺と会話してるのか。
「あんたの事やCodeの事はこの際後でいい。俺達を襲ってきたアイツはなんなんだ?」
『彼らはワンハンド。我々もその全貌を把握している訳では無いが、夢という手段以外で異世界に干渉し、侵攻してきた組織だ』
アイツだけじゃなく、組織単位でいるのか。
『ワンハンドは異なる世界の技術を用いて異世界を支配せんとしている。君も先程の男が怪人へと変わるのを見ただろう』
人間があんな亜人に変化する技術。現実世界どころか、あの異世界にすらない。
「そうだった!はやく何とかしないとマリーが!」
『対抗手段ならある』
机に置かれていたアタッシュケースを開いたコードゼロはそこからベルトのようなアイテムとカプセルのようなものを取り出す。
『ゼッツドライバーとカプセムだ。この2つを用いて変身し、戦えれば対処が可能だ』
「分かった。やってみる」
コードゼロからゼッツドライバーとカプセムを受け取った俺は早速マリーのもとに戻ろうとする。
『随分とあっさり受け取るのだな。警戒しないのか?』
「警戒はしてる。だけどマリーを助けるには時間が惜しいし、力がいる」
『即断即決。エージェントに相応しい才能だ。・・・いいだろう。君をCodeのエージェントに任命する』
いきなりCodeのエージェントに任命してきたコードゼロは俺の返答を待たないままコードネームを告げてくる。
『セブン。君のコードネームはコードセブンだ』
俺をコードセブンに任命してきたコードゼロはバイク形態に戻る。
『急ぐなら乗るといい』
「じゃあ、ありがたく」
バイクに跨ると、正面のゲートが開いて再び異世界の遺跡へと繋がる。俺は遺跡をバイクで駆け抜けるとカマキリの怪人に追われていたマリーの姿を捉え、カマキリの怪人が鎌を振り下ろそうとしている所にバイクで体当たりを決めた。
「バク!!」
「貴様、生きていたのか!」
俺が生きて戻ってきたことに驚くマリーとカマキリの怪人。俺はバイクを降りてマリーを守るようにその間へと入るとゼッツドライバーを襷掛けのように装着する。
何故かは分からないが、俺はこのゼッツドライバーとカプセムの使い方が理解出来ていた。
【インパクト!】
インパクトカプセムをゼッツドライバーに装填した俺はそのトリガムを1回押す。
【メッツァメロ】【メッツァメロ】
「I’m on it」
左手の指をパチンと鳴らした俺はインパクトカプセムを回転させて変わるための言葉を告げる。
「変身」
【グッドモーニング!ライダー!!】
【ゼッツ!ゼッツ!ゼッツ!インパクト!!】
全身が赤黒いモヤに包まれながら真っ黒な強化被膜の素体が形成されると、赤と緑の模様が浮かび上がる。最後に仮面の複眼に赤い光が色づいて変身が完了した。
「貴様、何者だ?」
「コードセブン。仮面ライダーゼッツ」
仮面ライダーゼッツ、フィジカムインパクト。肉体を司るカテゴリ『フィジカム』系統のベース形態で身体強化や運動能力の向上による肉弾戦に特化した姿だ。
あれ?何で俺、そんな事を知っているんだ?いや、まぁいいか。
「マリーを助ける。ミッションを遂行する」
次回「変わる」