戦国時代……応仁の乱より始まり織田信長、豊臣秀吉、そして徳川家康を経て、1615年の大坂の陣をもって集結を迎えた約150年の時代。
そんな世の中の真っ只中……俺は幼なじみの信長に恋心を抱いていた。
申し遅れた、俺の名前は池田恒興(いけだ つねおき)。
織田弾正忠家(だんじょうただいえ)……尾張国の守護職である斯波家の家臣のそのまま家臣……それが幼なじみである織田信長様が家督を継承する予定の家なのである。
「池〜、おーい、池!」
「というわけで信長様、俺は家臣で貴女は当主となるのですよ」
「まーた言ってる」
目の前に居るのは織田信長その人であるが……その乳は豊満であった。
「あのねぇ、男が極端に産まれなくなって幾百年。僅かに残っていた男への権威は応仁の乱で吹き飛び、それ以後は女の大名が殆どになった世の中っていうのを婆から余達は聞いたじゃん」
「そうですねぇ」
「ただ当主として子供は作らないといけないのよ」
「そうですね……」
「余は池が良いなぁって」
もう一度言う、織田信長の乳は豊満であった。
男女比が崩壊した戦国時代に歴史オタクの俺は転生した訳であるが、正直に言おう。
歴史が殆ど役に立たない。
それもこれも織田信長含めて男女が入れ替わっていたり、男が少ない影響で血縁関係がぐっちゃぐちゃ、1人の男を取り合ってお家が割れた大名なんてのもある。
そんな戦国時代に転生して、始めて意識を取り戻したのは乳飲み子……赤ん坊の時。
俺が母親のおっぱいを吸う横で可愛らしい女の子が反対側の乳を吸っていたのが織田信長様との出会いであった。
「信長様待って!」
「はは! 恒興早く来い! 置いていくぞ!」
すくすくと成長していった俺と信長様は毎日町に繰り出したり、山に行って遊んだり、川で釣りをしたりの毎日であり、活発な信長様に俺は毎日振り回されていた。
この世界では幼名というのが無く、現代の様に親から名付けられた名前もしくは主君から名前を貰って改名するくらいしか名前が変わらなく、俺は産まれた時から恒興だし、信長様も吉法師ではなく最初から織田信長であった。
「ま、ま、ま、待ってください信長様〜」
「遅いぞ婆!」
「ひえ~」
羊の様なもこもこの癖っ毛に糸目の若い女性が信長様を追いかけて走ってくる。
彼女の乳も豊満である。
そんな彼女の名前は平手政秀……信長様は平手の婆と呼んでいたが、彼女まだ20歳にもなってない若手も若手である。
史実の平手政秀は信長様から爺と呼ばれた初老の男性だったが、この世界ではゆるふわもこもこ白髪癖っ毛の羊の様な女性である。
あと胸が滅茶苦茶デカい。
「恒興も信長様を止めてー!」
平手さんが涙目になりながら信長様を追いかけているので、見ていられなくなり、俺は信長様に声をかける。
「信長様そんなに川を進むと足を取られて危ないですよ」
「大丈夫だって……うわ!」
「おっと……」
俺は転びかけた信長様の手を取り、抱きかかえる。
「大丈夫ですか?」
「……うん、余は大丈夫……」
「顔が赤いですけど……もしかして熱でもあります?」
「だ、だ、大丈夫だと言っておろう! 余は平気だ!」
俺の手を払うと、ブンブンと腕を振って大丈夫のアピールをする。
まだ幼くて燃え上がるような赤毛の小さな信長様は可愛らしくてしょうがない。
これが本当に織田信長その人とはちょっと思えないが……。
「のぉ池」
「何でしょう信長様」
「もし、もしもだ。家督(家長になること)を継いでこの尾張で一番偉く成れたら……池をお婿さんにしちゃ駄目か?」
「うーん、そうですね。信長様なら尾張だけじゃなくて日ノ本をまとめ上げることもできるんじゃないですか?」
「余が日ノ本を?」
「ええ、日ノ本全体に号令をして、今の将軍よりも偉くなるのですよ」
「余がか? 馬鹿を言うな池……あ! そう言ってまたはぐらかそうとしておるな! その手には乗らんぞ!」
ポコポコと信長様が長い髪を振り回しながら体を叩いてくる。
俺は軽くあしらいながらも、信長様にそれじゃあと言う。
「尾張を統一するにしても仲間を集めませんと。桃太郎も犬、猿、雉を仲間にしてから鬼退治に行ったじゃないですか。信長様の父上の信秀様は尾張の虎と呼ばれるほど出来た人ではありますが、今尾張は信秀様だから纏っているのであって、信長様が家督を継承しても離反が相次ぐと思いますよ」
「うむむ……確かに」
信長様は織田家でも分家の方であり、一応尾張を纏めているのは母親の信秀様であるが、織田と名の付く親戚はこの尾張にゴロゴロ居るため、その者達を蹴落として、誰が尾張で一番偉いかを力で証明する必要がある。
「仲間……仲間かぁ……」
「仲間も色々な場所に居りますよ、町に村に山に川に海辺にも……中華に覇を唱えた曹操(中華三国志の1つの勢力の長)という人物も様々なところから人材を集めたと言います。信長様も自身の手足となる人材を集めてみてはいかがでしょうか?」
「うむうむ! そうだな! 池! 良いことを言うな!」
「信長様の乳母兄妹である自分がまずは信長様の手足になりませんと」
「うむ!」
上機嫌な信長様であるが……何か忘れているような……。
「信長様……恒興さん……待って……」
「「あ!」」
平手の姉さんがゼーハーゼーハーと息を切らし、鼻水や涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら追いかけてきた。
「婆! だ、大丈夫か!」
「平手さん、貴女運動音痴なんだから無理しないでくださいよ」
「ハァハァ……信長様に何かあったら私、切腹になっちゃうので〜」
バタリと川辺に倒れた平手さんを木陰に移動して、俺は平手さんを大きな葉っぱで仰ぐ。
「まったく平手の婆も無茶をしよる。そこが愛らしいんだけどね」
「現状使える人員は平手さんと俺だけですが、上手く人材を集めましょうか」
「ふむ、人材を集めろと池は言うが、どうすれば良いのだ?」
「そうですねぇ」
信長様が可愛らしく首に手を置き考える仕草をする。
その問いかけに俺はどうするべきか少し考えた後に色々条件を言っていく。
「きっと雇われたいと思っている人の願い事を叶えれば仲間になってくれるのではないでしょうか? 桃太郎だときびだんごを与えた様に、その者が欲しているもの……金、地位、名声……後は土地とか男とか」
「池はやらんぞ!」
「はは、俺以外にも男はいるでしょ。領主として男との縁を紡ぐのも領主の役目だと思いますが?」
「うむむ……確かに……そういうものか?」
「そういうものです」
史実の信長様も幼少期に築いた親衛隊が後々の天下統一に向かう原動力となっていた筈だ。
戦国時代に織田信長という名前を持つ彼女でないと、戦乱の世の中は終わらないだろう。
豊臣秀吉も徳川家康も……両名が天下を取れたのは織田信長という人が居てこそだからな。
「信長様」
「ん? なに?」
「きっと素敵な仲間が集まると思いますよ」
「そ、そうかな? それだといいのだがな……」
川のほとりで平手さんが落ち着くのを待っていると、どんぶらこ〜どんぶらこ〜と人が流れてきた。
「なぁ池……あれ人だよな?」
「人……ですね! 生きてるかわかりませんが助けますよ!」
俺と信長様は慌てて川に飛び込んで、流れている女性を引き上げるのであった。