翌日、宿で朝食を食べた後に俺達一行は千宗易さんの魚屋(ととや)に移動して、鑑定師の方を紹介してもらった。
「こちらが名物の鑑定を行なっている先生です☆」
「ホッホッホッよろしく頼みますよ」
恰幅の良いマダムが鑑定を行なってくれるらしい。
時代が時代なら魔女認定されそうな見た目をしているけどな……。
「さてさて、どんな代物から見定めましょうか?」
「ではまずこちらの品から」
俺は木箱から京で貴族達から購入した品々を見せていく。
「どれどれ……ほほぉ高麗茶器ですね。だいぶ古い時代のだ……保存状態は中々……そうですねぇ1個で70貫の値が付くかと」
「おばちゃん、この小汚ない茶碗がか?」
「森さん」
この茶碗に70貫の価値があると聞いて流石にそんな値段はしないだろうと森さんが突っ込みを入れたが、鑑定師のマダムは冷静に説明する。
まず価値として高い物は大陸から流れてきた物、もしくは歴代保有者に高名な方がいた場合。
そして誰が作ったかの3つが大切になってくる。
例えば京で信長様がこの刀気に入ったぞと安売りしていた中で購入した刀は備前長船派と呼ばれる刀鍛冶の集団が作った物で、
「その中でも開祖と呼ばれる鎌倉の時代に活動していた光忠の作品でありますよ。刀の靭やかさの中に花があるのが特徴で、更に刀に光忠としか彫られてない事から何時作られたか不明の作品も多いですけど、一振り1000貫はくだらない代物ですよ」
「な、なに!? 良い刀だと思ったが、買値10貫もしなかったぞ!」
「それは大変良い買物をしましたね」
他にも色々鑑定してもらう。
だいたい100品くらい鑑定してもらって、高麗茶器が10個、唐物と呼ばれる茶器が20点、名刀と言える物が25振り……。
「どれも素晴らしい品で鑑定していて楽しい限りでした。特にこの硝子の器……恐らく天竺の方より流れてきた品でしょうが、1つで5000貫出してでも欲する人が居るでしょう」
とんでもない代物が混じっていた。
この時代には珍しい硝子製の器だったので200貫で購入したが、ここまで化けるとは……。
ちなみにハズレの品も勿論あったが、それも1個や1振り10貫以下5貫以上の品で日用使いする分には十分に高価な品であると言われた。
「千宗易さんにはこれを」
「こ、これは先程鑑定して400貫の値が付いていた富士茄子……これをもしや譲ってくれるの☆」
「腕の良い鑑定師を紹介してくれた御礼ですよ。鑑定師の方にはこちらを」
「あらあら! 唐物の茶器をいただけるので?」
「ええ、ただ俺達もこれを運んで旅するのは危ないので、一部は預かってもらいたいのと、一部は換金したいのですが」
「ええ! ええ! 商人の仲間を集めましょう! 千宗易さんも手伝ってくださいね」
「はい☆池田さん、どの品を売るかどうか決めておいてくださいね☆」
「分かりました。というわけで皆には好きな刀や茶器は保有することして、残りはここで売っちゃうから」
そう言うと、皆目の色を変えて物色し始め、タッキーは茶器を、他の人達は名刀と言われる刀を持って、皆うっとりしていた。
こういうところは皆武士何だなぁって思う。
「でも売ってしまうのは勿体ないのではないか?」
「なに、信長様が偉くなれば色々な人が献上しに来るようになるので、巡り巡って戻ってくるかもしれませんし」
「そういうものか?」
「そういうものですし、名物が幾らあっても領地は肥えません。領地を富ませるのに使えるのは銭の方ですので」
「ふむ……なるほどのぉ……よし! 池の言う通りまずは銭を商人から巻き上げるぞ」
「信長さんほどほどにね☆でも値は鑑定額以上にはならないと思うけど?」
「ふふ、千宗易さん、こういう方法はどうでしょうか」
「ん?」
俺が提案したのはオークション形式。
最低落札金額を決めておいて、そこから一番値段を付けた人が買い取れる。
この方法で販売していく。
勿論最低落札金額は鑑定師のマダムが付けた額から1割引いた金額でスタートさせる。
「高麗の茶器、上物……お値段50貫から~」
「55貫!」
「60貫!」
「65貫!」
流石豪商達……200貫、300貫が軽く動いていく。
「150貫いませんかーではそこの淡い服を着たお姉さん落札。お金はこちらで支払ったら物と交換です」
「よくもまあ、こんな販売方法を思いつくね☆池田さん」
「旅する中で色々見てきたので……」
「武士よりも商人やったほうが天下に名を轟かせることができそうだけど☆どう? 私と商売しない?」
「すみません。信長様という先約がいますので」
「ちぇー☆先約が居るなら仕方がないね☆」
「千宗易! 余の池に色目を使いおってからに!」
信長様が俺に抱きつきながらプンプンと千宗易に怒るが、千宗易はカラカラと笑ってあしらう。
ちなみにオークションの進行役は千秋こと千にやってもらった。
恰幅の良いのもあるけど、宮司見習いとして神事で発声が大切な場面があるらしく、声がよく通る。
その下で明智光秀達が商人達と商品の受け渡しを行なっていた。
売ると決めた品は50点ほどあったが、あっという間に捌けて、総額が1万2000貫にもなっていた。
最初2貫分の針からスタートして交易で稼ぎ、最後に名物転がしで、莫大な金額となった。
その金を全部持ち歩く事は不可能なので、500貫だけ持ち歩き、残りは千宗易さんの貸し倉庫に預けることに。
堺の町は信用が第一なので貸し倉庫荒らしなんかしたものは死ぬよりも辛い目に遭わされるので、安心してって言われた。
額も額なので100貫ほど倉庫を貸してもらうのに支払い、俺達は堺を飛び出して、船で山口の町を目指すのであった。
「山口の町は何があるのだ?」
船の上で俺に信長様が聞いてきた。
「そもそも山口を治めている大名はご存知ですか?」
「前に池が大内と言っていたではないか」
「ちょっと歴史の勉強になりますが」
前に大内は日本一金持ちの大名と言った事があったが、その理由として、応仁の乱の時に一番上手く立ち回った大名なのである。
応仁の乱により幕府の勘合貿易が停止してしまったが、そこを大内氏が代行を行い、幕府が応仁の乱から機能を回復して再び勘合貿易を再開しようとしたら、西日本最大の海軍力の整備をすることに成功していた大内氏は幕府の船を日本の外で沈没させて、暴れまわる倭寇と呼ばれる海賊達をしばき回り、結果、本来ならその国の王様としか勘合貿易は行わないのであるが、特例として大内氏が選ばれたのである。
大陸との貿易を独占し、更には日本最大の銀山……石見銀山の発見と大内氏の大名が長年職人の育成に投資をしていたこと、そして西日本最大の領地から採れる様々な作物……これを占有している日ノ本の二大交易都市である博多で全国に売り出し、その上納金を貰った結果、400万石相当の国力を有していたのである。
石というのは米の単位で、1石2貫……米1石150キロ。
大人1人が食べる米の量が1石とされ、大内氏は事実上400万人領民を養えるだけの経済力を保有していると言える。
俺達が1万2000貫稼いで大喜びしていたが、大内氏は毎年800万貫近くの経済を動かし、税金として250万貫近く入ってくることになるのであろう。
ちなみに尾張一の金持ちと言われる織田家の毎年入ってくる金が15万貫なので規模が段違いである。
「そんなに織田家と大内氏は差があるのだな……」
「厄介ですよ……金を富ませる為に金を使うので、どんどん国力が高くなりますから……今から巻き返すには大内が何らかの理由で割れるのを願うしかありませんし」
「え? 余が天下狙えなくない?」
「大丈夫です! 1万貫あれば尾張でも色々事業を興すことができますし、もしかしたら大内領内であれば新兵器が手にはいるかもしれませんので」
「ふむ……新兵器か……織田家が強くなるのに必要なのであろう?」
「必ず必要です。その新兵器をいかに量産化できるかで戦が変わりますよ」
「うむ! 気になるな! そんな物があるなら大内が使っているのではないか?」
「革新的過ぎてあまり広まってないのですよ」
「そうなのか……」
船は瀬戸内海を通り、まずは博多の町を目指すのであった。