博多……九州の統治を行う太宰府の外港として古くから栄えた町であり、大陸との貿易で莫大な富を築いていた。
現在は大内氏の支配下に置かれ、保護された商人達の活動で賑わっている。
「ここも堺と同じくらい賑わっているんだな」
「そうですね、森さん。古くから商人の町と言われ、大陸との貿易も盛んに行われていますし、大陸から銭の輸入は基本ここを通るので、質の良い銭が手に入れたかったらここで交換するのがいいでしょう」
俺はそんな事を呟きながら、まずは博多で鉄砲が大陸から輸入されてないか探してみる。
「鉄の筒ねぇ……それらしき物は見とらんなぁ〜」
「うーん……あ、明の商人が鳥銃なるものを売っていたかも? それじゃなかと?」
手分けして聞き込みをしていると、それらしき情報が入ってきた。
早速明の商館に向かうと何丁か実銃が展示されていた。
「侍のお客さんネ。ナニを買うアルか?」
「鳥銃を買いたいんですが、射撃の方法と合わせて幾らで売ってくれます?」
「100貫で売るネ」
「もう少し安く成りませんか?」
「ビタ一文も安くしないネ。買わないんだったら帰れネ」
「足元見てるなぁ……しゃーない2丁買いますから、火薬や銃弾はまけてくださいよ」
「毎度ありネ」
大陸では鳥をも撃ち落とす事からと銃身が鳥のくちばしに似ている……ということで、鳥銃と呼ばれていたのである。
ただ日ノ本では流行らずに、火縄を使うから火縄銃や単純に銃と呼ばれることが一般的になる。
で、皆集まって実際に試写をさせてもらうことに……。
「膝立ちの状態で銃床を肩に充てて、脇を締めるネ。火縄に火が点っているのを確認して引き金を引く」
パン
軽い破裂音が響き渡ると、正面に置かれていた木の的が弾け飛んだ。
「「「おお……」」」
「上手くなれば飛んでいる鳥も落とせるネ」
「実際に試射しても」
「1発500文ネ」
「高いっす!」
丹羽があまりの値段の高さに驚くが、俺はまぁこんなもんだろと驚かずに、素直に数発分の金を支払う。
「毎度ありネ」
「池田さん、絶対ボッタクリっすよ!」
「しゃーない、現状火薬が手に入れられないからな。それぐらい値段はするんだ」
しかし謙信ちゃんが、
「1発数百文も掛かっていては、戦ではとても使えないのではないか? ましてや銃の値段が1丁100貫とは……とても揃えられないわよ」
「値段は下げられます。その努力は後々しますし、火薬を自前で作れれば1発の値段を数文まで引き下げられますよ」
俺がそれを言うと、聞いていた明の商人が、
「日本じゃ火薬は作れないアルヨ。火薬には硝石ってものが必要だけど、日本じゃ採れないハズアル」
今ムキになって色々言ってもしょうがないし、銃1丁高いとはいえ100貫って高額で売られたのであんまり気分も良くない為、早々に引き上げることにするのであった。
「これが銃……」
「1発発射するのに時間が掛かってたっすが、本当に合戦で使えるっすか?」
丹羽が疑問を抱いていたが、信長様の頭の中ですでにこれが使える目算が付いたっぽい。
「のぉ池。これ本当に量産できるのか?」
「千が熱田の腕の良い職人を十数人紹介してくれれば量産は可能かと。俺も銃を作るのに便利な道具の製作をしますので」
「ふむ、火薬はどうする?」
「硫黄と硝石、あとは炭を混ぜることで火薬になります。硫黄は日ノ本で取れる箇所は多いですし、使い道も火薬の原料になるとは当面思われないので、輸入しても問題はありません。硝石は糞尿を枯れ葉と混ぜて上手く腐らせることで作り出すことが可能です。作り方は頭に入っているのですが、5年近くの年月が必要になります」
「ふむ……あとは弾丸か」
「鉛の弾丸も輸入に当面はなりますね。まぁ硝石よりは格安で手にはいるでしょう」
「うむうむ……この武器は個人ではなく集団で使うことと、池が実戦したように、教えられれば誰でも素早く人を殺傷することができる点……か」
「流石です信長様。あと未来ではこの銃の数と性能で戦の勝敗が決することが大半になります」
大砲まで発展させれば、既存の城壁は意味を無くし、鉄砲への対策を怠れば戦で蹂躙される。
これも戦で勝つためだからね……仕方ないね!
「ふむふむ、戦の常識が変わるな」
「まぁ数を揃えるのに5年以上は掛かるのと、安くなっても運用に金が掛かるので、金稼ぎをいかにできるかが今後亡国になるか、大国に発展できるかの分かれ目になるかと」
「ふむ……国を富ませる方法は色々思いつくが、やっぱり部下の数が欲しいな」
「部屋住みの次男や三男以下の者を取り立ててみては? きっとお役に立つかと」
「よくもまあそんなに直ぐに思いつくな……池は」
「まぁ知識で使えそうなの引っ張り出してきているだけですがね」
博多の町を数日間堪能した後に、博多から船で本州に戻る。
ここからは徒歩で尾張を目指しての旅となる。
「じゃぁ最初は山口の町か」
「博多よりもさかえているのですか?」
「うーん、博多ってよりは京よりも京らしい町並みって言ったほうがいいかな光秀さん」
「ん? つまりどういう?」
「まぁ見た方が早いですよ」
というわけで港から歩いて山口の町に移動する。
徒歩で約半日……そこには区画化された町に綺羅びやかな人々や貴族の昇殿が建ち並ぶ別世界が広がっていた。
「「「おお~」」」
町並みを見て、皆思わず感嘆する。
「これよこれ、これこそが余が京で求めていた町並みよ!」
「町の作りからして別世界ですね……熱田が霞んで見える」
信長様と千も大興奮。
貴族達だけでなく職人の織る着物の腕も素晴らしく、京で作られていた着物が霞んで見える。
ちなみにであるが、京で有名な西陣織。
応仁の乱で西陣に位置する場所で着物職人達が集まり工房を開いた事が由来となるのであるが、その職人達が修行していた場所が山口なのである。
というか、織物、漆食器、陶磁器、装飾品、建築技術……どれも現在の日ノ本ではここ山口が最先端であり、大内氏が職人を保護し、莫大な金を投資している故に文化レベルがここだけ段違いなのである。
まぁ史実通りだと、色々あって、ここ山口の町は戦火で壊滅し、職人達も全国に離散することになるのであるが……。
山口は別世界というように山口独自の文化……山口文化がこの頃最盛期を迎えており、大内配下の人々はこの世の春を謳歌していた。
「のぉ池……流石にこれを見せられると尾張を発展させても勝てるという思いが湧いてこないのであるが……」
「信長様、今は逆立ちしても勝てませんが、ここを目標にすればいいのです」
「この山口をか?」
「はい、この山口の町並みを全国に広めることができれば、明にも負けない大国となっていることでしょう! 武力だけでなく文化も育む必要がありますよ」
「そういうものか」
「そういうものです」
するとタッキーが俺達に大内の姫様が町を歩くというので見に行くことに。
「「「おぉ~」」」
そこで目にしたのは桃色の長い髪をお団子を幾つも作って纏め、絹の着物を着て優雅に練り歩く女性の姿であった。
「あれが大内義隆……大層な美人で」
「美人なわけあるか……アイツのせいで俺達の家は……」
俺がぼそっと呟いていると、憎しみの目をしたみすぼらしい少女2人が優雅に歩く彼女を睨みつけていた。
「何か訳ありっぽいな。お腹でも空いてるなら何かの縁だ。飯でも奢ろう」
「本当!」
「こら隆景……知らない人だぞ……また俺達を利用するかもしれねぇ」
「初対面の同じ年くらいの少女を騙すなんかしねーよ。信長様、ちょっとこの子達と茶を飲んでいますが」
「ん、ああ。余も行こう」
護衛の皆も信長様が行くのであればとぞろぞろ場所を移動するのであった。