堺に戻った俺達は宿の確保と山口の町から持ってきた着物の売却に動いていた。
「のぉその着物全て売るのか?」
「いやいや、信長様や皆が着る分は残しているので安心してください」
「う、うむ! そうか!」
綺麗な着物が着れてお洒落できることに安堵する信長様……可愛らしいな。
「ここからは行きとは違う道で帰るのであろう?」
「そうですね。千宗易さんに預かってもらっていた銭も持っていきますので、関所を通るときに工夫が必要になりますがね」
大金を持ち歩くのはどうしてもリスクがある。
なので偽装を施す必要だ。
「どうするでござるか?」
「タッキーは今から言う物を用意してもらえるかな?」
「了解でござる!」
「千宗易さん! お久しぶりです!」
「おお☆池田君じゃん☆ちゃんとお金は預かっていたよ」
「ありがとうございます。これ御礼の着物で」
「お! 山口の着物仕入れてくれたんだ☆ありがとねー☆」
「ちょっと銭束をそのまま運ぶのは危ないので偽装させてもらいますがよろしいですか?」
「ん? どうするつもり?」
俺、明智光秀、明智秀満、岩成友通、千、丹羽、そしてタッキーの7名が借りている倉庫に向かい、俵に銭束を入れていく。
「俵に銭束を隠すか……これだと普通じゃない☆」
「その外側に」
俺は雑穀を俵の中に詰め込んでいく。
「なるほど……雑穀を入れてしまえば、銭束の重さで、銭は下に、雑穀は上に動くから、上から確認されても雑穀の俵にしか見えないって寸法ね☆」
「まぁ金や銀がもっと流通していれば銭束を持ち歩く必要も無かったんですがね」
「金銀の形も不揃いだし、大きさも品質もまちまち……商人の決算でも使いづらいからねぇー☆かと言って商人が通貨を作り出すってのは御法度だからねぇ☆」
「堺集ならやろうと思えばやれる財力はあるんじゃないの?」
「そりゃそうだけど、やっぱり金を作り出すとなると全国に行き渡らせる為の権威が必要になるからね☆商人にそんな権威はないのさ☆幕府や朝廷の権威が落ちてなかったらなー☆」
「まぁまだ宋銭明銭が入ってくるだけマシか……」
「そうなるね☆」
銭束の偽装作業も終わり、荷車に積んで運び出していく。
「堺から近江方面に向かおうと思うんだけど、何か売れそうな物って無い? 千宗易さん」
「そうだね☆やっぱり酒が無難じゃないか? そこから美濃方面に向かうなら魚の干物とかも売れると思うけど☆」
「じゃぁ酒でも仕入れて売り歩くか……お世話になりました千宗易さん」
「うん☆池田君や信長様だったら、このまま成長すれば良いところまでいけると思うから頑張りなよ☆まぁ美濃の斎藤道三も三河を飲み込んだ今川義元といった強大な敵は居るけどね☆」
「それを乗りこのさえないと尾張で終わりですからね。まぁ頑張りますよ」
そう言って千宗易さんとは別れるのであった。
「池、この服装で本当に行くのか?」
「ここからは質の良い着物を着て歩けばまた賊に襲われるのでね……我慢してください信長様」
行商人が着るような地味な服装に着替え、移動することになる。
結局岩成友通さんだけでなく、雑賀の町で雇った人夫は金払いがいいっていうのと、このまま尾張まで付いていくなら信長様が部下にしてやる……という条件を出したことで、就職活動をしていた彼らは武士に成れるのであればと喜んで荷物運びをしている。
なんだかんだ30人近くの集団になっていた。
「しっかしまな板は良い拾い物だったな。池並みに頭がキレるとは思わなかったぞ」
「誰がまな板ですか! 信長様!」
信長様がまな板と呼んでいるのは明智光秀で、信長様や毛利姉妹、丹羽なんかの若年層は胸が貧相なのは成長すれば変わるのでまだいいのであるが、少し年上の明智光秀だけが貧乳なので、愛称として定着していたのである。
「デコ広とまな板どっちがいいって聞いたであろ?」
「いや、どっちも蔑称ですよ信長様!」
うん、良い突っ込み。
信長様がボケて、明智光秀が突っ込みを入れる漫才が定着していた。
逆に言うと光秀は貧乳いじりされるくらいしか欠点らしい欠点が無い完璧超人である。
幼くして従姉妹の秀満と一緒に逃避行をしていただけあり、人の話をよく聞くし、気遣い上手だし、何でも卒なくこなすし……。
千や丹羽や毛利の姉妹なんかは明智の姉さんって言って懐いている。
「もう! 信長様が上司じゃなければ怒ってますからね!」
「じゃぁ胸もっと大きくせい。胸の大きさも武将としての格に関わってくるぞ」
馬鹿みたいな話であるが、この世界だと巨乳イコール格のある人物と見なされる。
謙信ちゃんや森さんタッキーを見ていると確かに巨乳の方が戦闘力も高まっている感じがする。
というか貧乳なのに武芸も高いレベルでできている明智光秀が異常側なのだろう。
(というか豊臣秀吉とかも巨乳なのだろうか……想像つかねぇ……)
俺の中での女体化豊臣秀吉のイメージ小柄な愛嬌ある子猿のイメージなので、巨乳のイメージがわかない。
逆に徳川家康は絶対巨乳だろうなって確信がある。
たぬきってあだ名つけられるくらいだし……。
(あとネームドだと前田利家とかか? うーんこの世界だとどんな人物なんだろうか……)
「おお、ここが内海という湖か! 本当に広いな」
堺から歩くこと2日、琵琶湖の近くを通過中。
信長様は琵琶湖の水を飲む(ちゃんと加熱殺菌はしてから)が海の水と違い、しょっぱくないと驚いていた。
「海ではないのだな」
「ええ、正確に言うと川に近いんですよね。石山近くの淀川に繋がっていて、下ることで海に出ることも可能なのですよ」
「ほほぉ……となると水運の益もすごいのではないか?」
信長様が疑問を抱いた様に、琵琶湖周辺の町は水運の利益でウハウハである。
ここらへんを領有している六角氏が幕府と度々敵対しても滅亡せずに勢力を維持できたのは、琵琶湖の水運による利益が大きい。
まぁ今の六角は将軍に忠実なので、将軍の後見役であったり、京周辺が危険になった際に避難場所として重宝されているのであるが……。
(なんでそんな大勢力の六角が史実信長様が上洛する頃には見るも無惨な弱小勢力まで落ちぶれるんだ?)
家臣を城下に集めて中央集権化に成功したり、楽市楽座による経済政策を行い莫大な富を築き、幕府を保護して権威も手に入れ、甲賀衆と密接な関係を築き、忍び衆を配下に収める……史実信長様がやった大半の事は六角が先に行なっていたのだが、なんでかな~。
琵琶湖の水運の話から六角の治世の話を信長様にするが、信長様も見習うべきものが多い大名であると理解したらしい。
「まったく、うちの母上然り、今川義元しかり、斎藤道三しかり……敵も味方も学ぶべきものは多いのぉ……」
「良いところは学び、悪いところは反面教師にする。特に信長様は家督継承後が一番の山場になると思いますからね」
「うむ……母上に今は従っている勢力も、母上が隠退すれば歯向かうであろうからな……それまでに余の家臣団をいかに整備できるか、どれだけ味方を作れるかが鍵になるのであろうな」
「はい、でも今回の旅で将来有望な家臣を多く召し抱えることができましたので、信長様はその家臣達と自らを使って自身の勢力を整備していく段階になります。私を使って家臣達を養うための種銭作りをしたり、家臣達を修行に出したり……色々できるので、色々試しましょう」
「そうだな! うむうむ! 池頼りにしているぞ」
「は!」
こうして信長様と俺達一行は琵琶湖で獲れる魚を堪能してから美濃へと向かうのであった。