「止まれ! ここの関所を通りだければ銭を払え。あと怪しいものがないか確認する」
まぁ関所が至る所にあるわな。
タッキーが知っている関所を抜ける裏道を通ってきたが、この時代関所が多すぎる。
六角の領地は開明的な領主なので、関所の数も少なかったが、美濃に入ってからはとにかく関所の数が多かった。
というのも、大名が部下に領地を与える際、分国法でも定めるか、戦国大名として下まで統率が行き届いてない場合、金策のために各自の判断で関所を作る場合がある。
あとは各村単位で、関所に偽装して金銭をせびる……なんて場合もあったりする。
そんな訳で数里進むと関所で立ち往生を繰り返し、無駄に日数が掛かるので、信長様のイラつきがどんどん高まっていた。
「絶対余が尾張を統一したら関所は国境以外は撤廃させる。商人の行き来を阻害する邪魔でしかない!」
プンプンと怒っている信長様も可愛らしい。
「ちっ! 雑穀しか積んでねぇ……通行料1人20文だ」
「そんな! 1人に20文も支払っていては座で売っても利益が出ませんよ……」
「ダメだダメだ、1人20文支払わなければここは通さん」
俺が交渉して値引きをする。
「そこを何とか……役人様こちら気持ちですが……」
「う、うむ。いや、1人5文だった気がするな。さっさと通れ」
「ははぁ……」
袖の下……賄賂を贈れば大抵値下げ交渉を行える。
まぁ1人20文程度なら支払っても良いが、足元見られると碌な目に遭わないからな。
もっとも偽の関所だった場合は次の様になる。
「オラオラ! 村人が関所を偽装するったぁ! いい度胸じゃねぇか!」
「まったく、身の程を弁えなさい!」
森さんと謙信ちゃんが大暴れして役人に扮していた村人をボッコボコにしてしまう。
この2人止めるには剣豪とか呼ばれている人達じゃないと止まりそうに無いな。
2人共、1人で十数人を圧倒できる武力持ちだし。
そんなのが村人の小娘達が相手できるわけもなく……って感じだ。
交渉をしていれば、そこが本当の関所か偽の関所か分かるし、タッキーが先に進んで関所の真偽判定をしてくれるから助かる。
持つべきは忍者と武芸巧者ってね。
「さてと、堺から運んできた酒も売れたし、後は帰るだけか」
「約半年か? 長いようで短い旅だったな……」
信長様も尾張が近づいてきて、旅の終わりを感じると、感慨に耽っていた。
「信長様」
「なんだ、まな板」
「まな板……まぁ良いですけど……ちょっと明智の里に寄っても良いでしょうか。もしかしたら生き残りがいるかもしれないので」
「うむ、もし生き残りがいるのであれば拾ってこい。ちゃんと給金は出すから」
「ありがとうございます」
というわけで明智光秀と秀満が育った明智村に立ち寄る事に。
「……やっぱり見知った顔は居ないか……」
光秀達が追い出されて一度村は滅んでいる。
そこに流民が入り込んで、新しい村を形成していたので、パット見知り合いは居ないのだとか……。
「光秀……様? 光秀様に秀満様ですよね!」
20代半ばの女性の村人が光秀達に近寄ると、汚れるのも気にせずに地面に膝を付けて、手を握る。
「間違いない……光秀様だ……」
「藤田……か? 藤田なのか?」
「はい、姫様。子守役を務めた藤田でございます!」
彼女の名前は藤田行政。
明智光秀の母親の代から明智家の家臣として従い、明智家が離散してからも明智家の生き残りがきっと戻ってくると思って、斎藤家から仕官の誘いを断り、農民として暮らしていたのだとか。
「藤田、他に明智家の生き残りはおるのか?」
「いえ、私達藤田一族以外は戻ってきていません」
「そうか……藤田、私は今尾張の織田弾正忠家の嫡女である織田信長様に仕えているのだけど、一緒に来てくれない? 藤田が家臣として再び仕えてくれると助かるのだけど」
「光秀様と秀満様の元で再び働けるのであれば……私……直ぐに家財を纏めますので少々お待ちください」
そう言うと藤田さんは一族を招集し、家財を纏めて俺達一団に合流。
「信長様、藤田行政と申します。明智光秀様と秀満様の家臣になりますので以後よろしくお願いします」
「うむ、藤田か! まな板と秀満を支えてやってくれ」
「は、はは!」
というわけで美濃で最後の勧誘をして尾張へと帰還するのであった。
「ただいま帰ったぞ」
「「の、信長様! おかえりなさいませ」」
那古野城に到着し、門番に声をかけると、慌てて返答してきた。
「お、お主らタッキーの元部下か。ちゃんと雇われていた様で何よりだ」
「はい、信長様が書いてくださった紹介状のお陰で我々くノ一達も無事に仕官することができました。今後は信長様の部下として働きますのでよろしくお願いします」
「うむ、よろしく頼むぞ」
門番の者とそんな会話をしていると、
「の、信長様〜」
白くてもこもこした平手さんが涙目になって信長様に突っ込んできた。
信長様これをひらりとかわしたことで、地面にだいぶ。
「へぶ!」
「大丈夫ですか平手さん」
「ああ、池田君ありがとうございます。よく信長様を守ってくれました。平手感激です!」
「あはは」
「ところで……人数凄い増えてませんか? 40人近くいません?」
「うむ、こやつらは旅の道中で知り合い、余の部下にした者達だ! きっと約に立つと思うぞ」
「ええ! こんなに雇ってきたのですか! うう、金銭支払えるかなぁ……」
「大丈夫だ、池が色々考えがあるらしい」
「そうなのですか池田君」
「はい、知見を広めてきましたし、種銭も稼いできたのでご安心を」
「た、種銭?」
「まぁ、まずは城に入りましょう」
俺達は城へと移動するのであった。
「な、なんですか! この銭束は!」
那古野城に入り、銭束を見せると平手さんが絶叫していた。
そりゃ2000貫以上の銭束だから。
残りの1万貫は千宗易さんに頼んで船で1ヶ月遅れて届けてもらうことになっていたので、もう少ししたら届くと思うが。
「あわわ……銭がこんなに……」
2000貫は現代換算で2億4000万円、後で1万貫送金されるが、そっちは12億相当。
織田家の年間予算より少し少ないくらいの大金で、那古野城にはそんな予算は付けられてないので、平手さんはビビりまくっていた。
「こ、これだけあれば色々なことができますよ」
「ああ、色々なことができるな。池がその金を使って色々産業を興してくれるらしい。この金はとにかく投資して使うぞ」
「は、はい! ……こんなに金を稼ぐ手腕が池田君にあったとは……鬼才ってやつなのかな?」
平手さんはビビりながらも、直ぐに頭を切り替えて、信長様と俺が雇った人物達の住処を用意し、あと先払いとして1人20貫の給金を与えるのであった。
「さて、信長様は信秀様に帰還の挨拶をしに行ったので、代わりに評定を回してもらう池田恒興になります。よろしくお願いします」
信長様から
「池、評定やっておけ!」
と言われたので、俺が評定の議長を務めることに。
まず新規加入の人々の立場は足軽組頭からスタートである。
そこから評価を高めていって出世していくという競争形式を信長様は採用した。
謙信ちゃんや護衛期間が終わっても信長様が森を引き続き雇いたいって引き止めた森さん、重臣の一族の丹羽や熱田宮司の一族の千秋こと千も全員納得の上で、ここからスタートを一緒にすると決めた。
「さて、最初の目標だけど、武芸に秀でている人達は見込みのある人物の徴用……兵を集め、鍛えること。兵数は500人は養えるからそこを現状上限に」
「農民を徴兵するのとは違うのか?」
森さんが質問してきたので答えるが、どちらかと言うと常備兵というより、将来的に足軽達の指揮官になり得る人材を育てて欲しいと伝えた。
なので狙うは武家や農民の次女以下の通称部屋住みと呼ばれている人達。
そんな人達を集めてビシバシ鍛えて欲しいということを伝えた。
「計算が強い人は平手さんの手伝いと那古野城下の整備」
具体的には商人達の要望を聞いて、商家や職人の誘致や兵を鍛錬する鍛錬場の建設、徴兵した兵士達の長屋の建設や街道の整備なんかである。
「残った面子は俺と一緒に金策をするぞ。金を稼がないと破綻するからな」
「「「おー!」」」
というわけで尾張内政編スタートです。