ムチムチって足音が聞こえてきたので、千が近づいてきたのだろう。
「池田君、熱田の商人からこんな物を贈られたんだけど」
千は布で包まれた物を見せてもらうと、それは石けんだった。
「石けんだね? ちょっと固めかな? これがどうかしたのか?」
「やっぱり知ってる物だったか……んー、これ作れたら特産品にならないかなって思って」
千曰く、石けんの値段は1個で100貫近くする高額な物で、もし作ることができれば莫大な富を築けると何人かの職人が研究をしているらしい。
「うん、作り方を知っているからその職人達の元に連れて行ってくれないか?」
「うん、わかったよ!」
「これはこれは千秋様に……織田家の……」
「池田恒興と言います。以後お見知りおきを」
どうやら熱田だけでなく津島の職人も金を出し合って研究をしていたらしく、10人ほどの職人が見本の石けんを見ながら薬草の調合などをしていた。
「彼が石けんの作り方を知っているから教える代わりに、生産規模を拡大して量産できるようにすること、利益の半分は織田家に納めること……それを条件にするけど良い?」
千が女性の職人達にそう話すが、職人達は、
「しかし千秋様……我々職人衆ができないことを少年ができるとは思えませんが……」
「しかりしかり」
男女の価値観がやや逆転しているからか、男はか弱い生き物として扱われてしまう。
まぁ応仁の乱以後男社会は崩壊しているからしゃーないが。
「千、言っても駄目なら実際作ってみるしか無いよ。材料は用意していたから実戦しますね」
俺は職人達がいる前で石けんを作り始める。
石けんの国産化に成功したのは明治になってからであり、石けんは明との交易でたまたま手に入れられた物らしい。
(多分明もポルトガル経由で手に入れたのだろうが……)
「作り方自体は簡単だよ。油と水に灰を溶かした灰汁を混ぜ合わせてから加熱する」
鍋に加熱した液体を加熱していくと石けん膠(にかわ)という物質ができるので、それを塩水で洗う。
するとニートソープ(石けん生地)とグリセリン、そして不純物に分離するので、これを何度か繰り返すと粒状の純度の高い石けん生地が出来上がるので、これに香り付けの精油を少し混ぜて型に入れて乾燥させればよく見る石けんの出来上がりである。
「ほ、本当に出来上がった……」
「妖術でも使ったのでは?」
「天才だ……」
「いや、自分も知見があっただけなので誇れる物ではありませんが……今の手順を紙に書きますので、紙と筆を借りても」
「は、はい!」
職人の女性達は慌てて俺の言うことに従い始める。
ちなみに分離したグリセリンは保湿剤として使うことができるので、これはこれで別口で売ることができる。
「灰何だけど、できれば海藻を燃やして取れる灰を使った方が上質な石けんを作りやすいよ。精油はツバキの実を搾るとツバキ油が取れるからそれを使うと香りのよい石けんになるし、香り付けは色々薬草と混ぜ合わせればできるから工夫するといいよ」
「「「は、はは!」」」
職人達は直ぐに再現を行うために材料を集めて、実験を繰り返していく。
「ほ、本当に私達でも出来た!」
「これで借金が返せる」
「投資も無駄じゃなかった!」
職人達も大喜び。
「千秋様! 池田様! この度は誠に失礼を」
頭を下げられたが、俺は気にすることなく、
「気にしてないから大丈夫。それよりも弟子を多く取って石けんの大量生産を行なってよ。作れば作るだけ売れるんだから」
「は、はい!」
こうして尾張の特産品に石けんが追加されるのであった。
石けんは邪気を祓うとして各地で人気になり、その分だけ尾張の石けんが売れて、模造品も出てきたが、尾張産のには敵わないとして、模造品は駆逐された。
そして信長様の元に毎年2000貫以上の上納金が入ってくることになるのであった。
「やったね池田君! 石けんが売れれば分前も期待できるじゃん!」
ムチムチボディの千が俺に抱きついてきた。
たわわに実ったおっぱいの感触がダイレクトに!
「千! 千! おっぱい当たってる!」
「気にしない気にしない!」
いや、気になるから!
十数秒抱きつかれた後に解放され、俺は咳払いをしながら次の金策の構想を練る。
金策……と言うより今度は農業の方かもしれないが。
「千、うどんを流行らせれば米の消費を抑えられるとは思わないか」
「うーん、確かに米を食べる量は減るかもしれないけど……それが金策になるの?」
「金策というより国力を上げる為に必要かな。結局どれだけ稼いでも食べ物が無ければ人間駄目な訳だし」
「なるほど」
「ちょっと食べ物だから謙信ちゃん呼んできてよ。大食いの彼女なら意見を色々聞けると思うし」
「そうだね! 直ぐに連れてくるよ」
「来たわよ池君。お姉さんに料理作ってくれるんだって?」
「ええ、あと加藤さんに材料の提供を協力してもらいました」
というわけで、加藤さんの家の台所を借りて品を作っていく。
「なんでそんな面白そうな事に余を誘わなんだ!」
ちょっとご立腹の信長様も居る。
忙しそうだったので呼ばなかったが、仕事を直ぐに終わらせてとんできたらしい。
謙信ちゃんと一緒に信長様と平手さんも一緒に来ていた。
「美味しい物が食べられると聞きました〜。私も食べて良いですか〜」
のんびり口調の平手さんも食い意地はるタイプだったか……。
「まぁ、米以外に主食になる料理を幾つか用意しますので、吟味してくださいな」
まず1品目……うどん。
小麦粉を練って、布を被せて踏んでコシを作り、少し寝かせて、踏んでを繰り返す。
その間にたまり味噌(醤油の代わり)と鰹節で出汁を取り、スープを作っていく。
麺を切って、湯がいて、器に盛り付けてスープを入れ、最後に油揚げと刻みネギを乗せれば完成である。
「では実食を」
「「「「いただきます」」」」
ズルズルと女性陣が麺を啜っていく。
「んん! 四国で食べた物より汁の味が深い。それに油揚げが汁にひたひたに浸かっていて、味が染み込んで美味しいぞ!」
「いくらでも食べられそうです〜」
「美味しい! お代わり!」
信長様、平手さん、謙信ちゃんそれぞれの反応であるが、まだ料理は続く。
次に出したのは蕎麦である。
蕎麦粉8に小麦粉2の二八蕎麦を作っていく。
踏んだり寝かしたりしない分、こっちのほうが出来上がるのは早い。
粉に水を入れ、こねて、混ぜて、固めて……それを伸ばしてから一定の太さにカット。
湯がく前にたまり味噌をベースにめんつゆを作り出し、湯がいて、大根おろしを添えて器に盛り付ければ完成である。
「私こっちのほうが好きかもしれません!」
「蕎麦のいい匂いがして……これなら蕎麦でも沢山食べれるわね」
「お代わり!」
千、加藤さんの2人は蕎麦の方が好きらしい。
そして相変わらずの謙信ちゃんである。
最後に作るは中華麺。
小麦粉にかんすい(焼いた重曹+塩+水)を混ぜ合わせて黄色い麺を作り、それを細くきり分けて、味噌ベースのスープに合わせる。
「はい、ラーメンの完成」
「おお、これも美味しそうだな」
「いただきます〜……んん! うどんや蕎麦とも違う味わい!」
「お代わり!」
相変わらずの謙信ちゃんであるが、信長様はラーメンを啜りながら、
「この中で保存が効き戦場でも食べられるのはどれだ?」
「そうですねぇ……どれも乾麺にしてしまえば1年から2年は保存が聞きますので、水と湯がく道具があれば味噌と一緒にかき込む事ができるでしょう。米を運ぶよりも軽いので、兵站の負担も楽になるかと思いますが……」
「なるほど……加藤。これは売れると思うか?」
「そうですね。乾麺なら売れると思いますよ。それぞれの作り立ての麺はここでしか味わうことができないでしょうが」
「ふむ……池と加藤で作り方を広めよ。作れる者を増やし、尾張の名物とするのだ!」
「はは!」
こうして、尾張でうどん、蕎麦、ラーメンが流行りだす事になるのだが、それはもう少し後のお話……。