コンクリートを作ったら、動力用水車を使う為の水路を整備していく。
「川に段差をつけることで、水流の勢いを強めるかぁ……そもそも水の流れを変えるという発想がありませんでしたよ」
俺は隆景と話していたが、隆景もそんな風に水流を操作するとは思わなかったらしい。
「後は水門を作ることで水量を調整して、川の水量が多い時は門を閉めれば水車が壊れるのを防ぐこともできるからね」
「なるほど……」
水車を建てる為の土台もなるべく頑丈の方が良いので、コンクリートで固める。
その上に水を受けて回転しやすいように、水受けの形を工夫した水車を設置する。
「んー水車を作ったのは良いですけど、これで何をするんですか?」
「この水車にこれを取り付けます」
千の質問に、俺は送風機ことフイゴを取り付けると説明する。
俺が水車を用いてやりたかったのは製鉄や金属加工で絶対必要になる炉の改造である。
日本はたたら製鉄が有名であるが、江戸時代に行われていた永代たたらという方法がある。
これはたたら製鉄をすると燃料となる木が少なくなったらたたら場を破壊して移動する……というのを繰り返していたのだが、領主が燃料となる木材と砂鉄を用意すること、たたら場ではとにかく鉄を量産するための場所と割り切るようにできれば、永代たたらができるのではと考えたのである。
鉄を取り出す時に炉を崩す必要があるが、これは炉の土台を高くすることで、下から棒で掻き出す様にできれば解決するし、炉を毎回崩さなくて済むなら、屋根を取り付けることで雨でも操業できる様にすれば鋼と鉄の生産力は跳ね上がる。
というわけで、コンクリート作りで仲良くなった大工や鍛冶屋に意見を聞きながら新しいたたら場を整えていくことになるのであった。
1ヶ月ほどで新しいたたら場は出来上がり、操業を開始。
最初は色々勝手の違いに不満が出たが、初期不良を改善すれば、製鉄の生産量は一気に跳ね上がる。
たたら製鉄の良いところは鋼と同量のくず鉄が出る点であり、鋼は刀などの武器に使われるが、質の低い鉄は農具や鉄鍋などに加工される。
たわしに用いる針金もこの鉄から作られるので、鉄を量産して値段を下げることができれば、織田領内の農民の生活は少し豊かにできるのである。
1基で通常のたたら場の数倍の生産量となれば、その量を増やすのみ。
勿論森がハゲ山にならないように注意する必要があるが、それには泥炭を補助燃料として使う。
尾張東部の知多半島北部は泥炭が産出する地域であり、領民も泥炭を乾燥させて燃料として使っていたりする。
そこに目を付けた俺は早速泥炭を商人経由で取り寄せて、燃焼力をチェック。
木材を燃やすより火力は出にくいが、補助燃料としては合格。
木や木炭2に対して泥炭1の割合であれば製鉄の妨げにはならないことも判明。
更に泥炭を燃焼させると、地中の鉄分が泥炭に吸収され、高温で熱せられることで、燃えかすと一緒に金属を取り出すことができる。
これを砂鉄と一緒に混ぜて加熱すると鋼の量を増やせる……という新しい知見を得ることができるのであった。
泥炭を使うことで、木も砂鉄の量を減らしても同等の鋼を作れる発見は増やしたたたら場の鉄と鋼の生産量を跳ね上げ、年間5000トンから7000トンの鉄を生産することができる様になるのであった。
ちなみに元の生産量が100トンとかである。
鉄と鋼の生産力を上げたが、フイゴを改良したのは他にも活用できる方法がある。
それは南蛮吹と呼ばれる金銀の抽出方法である。
「そんな方法が……なるほど、明が日本の銅を輸入して銅銭を輸出する理由が分かりました」
加藤さんに話すと、大きな胸の前で腕を組み、明の商人が日本の銅を求める理由が分かったと理解したらしい。
具体的には銅と鉛を1085度以上に加熱し融解させ、よくかき混ぜる。
それをゆっくり冷やすと銅だけが凝固して浮き上がってくるのでこの間に銅を取り除いてしまう。
こうすると高純度の銅が手にはいるのである。
そして鉛に銅の不純物として金と銀が混じっているため、それを骨灰で作った皿に入れて850度くらいに加熱すると鉛は酸化鉛になって皿に吸着し金と銀の合金だけ残る。
金と銀の合金の分離はこの時代にもある技術なので問題は無い。
この一連の流れを史実では南蛮吹と呼ばれるのである。
「つまり、この方法を行うと銅鉱石から多量の金銀を抽出できると?」
「それだけではなくて、鐚銭(ビタ銭)と呼ばれている悪銭も私造硬貨なので多くの金銀が混じっています。そこから金銀を抽出し、残った銅は鉛と錫を混ぜることで宋銭と同じ品質にすることができますよ。何なら俺が作った製鉄関連と炉の技術を応用すれば……ほぼ宋銭を作り出すことが可能かと」
「ほ、本当かい!」
「ええ、鐚銭を回収し、良貨を作る。そしてその過程で金と銀が手に入る……どれぐらい儲けられるんでしょうねぇ」
実現すれば織田家の経済力は周辺諸国を圧倒できるし、実質他国が掘り起こし、作った鐚銭を格安で入手して交換するだけで利益が出せる打ち出の小槌となる。
「まだ信長様もこのことは知りません。失敗しても揉み消せますし、成功すれば俺と加藤さんの功績は計り知れませんよ」
「是非やろう。口の硬い職人を集めるのは任せて」
「俺はたたら場を作るに見せかけて銭座を作りますので……互いにできるまで内緒で」
「ああ、内緒ね!」
というわけで、新しいたたら場が増えていく中で、秘密裏に銭座が作られていくのであった。
冬が明けて春になった頃に、南蛮吹の実験は成功。
実際に私鋳銭を作っていた連中を集め、銭を鋳造してみたところ……宋銭と遜色……いや、出回っている宋銭以上に綺麗な銭の量産に成功したのである。
全て整ってから信長様に俺と加藤さんは報告に行くと、
「何かやっていると思ったけど、銭を作っていたとは……で、どれくらいの利益が見込めるの?」
「はい、まずはこれが材料となる鐚銭と製造した銭です」
信長様に銭を見せると明らかに綺麗な銭を見て、これを家で作ったのかと感嘆していた。
鐚銭10枚で9枚の良貨が製造でき、交換比率は鐚銭5枚で良貨1枚と交換とすれば皆食い付くと加藤さんが計算してくれた。
なので鐚銭10枚で良貨2枚と交換となるので、手元には7枚の良貨が残る。
それに鐚銭1貫(1000枚)で金が5文から9文分、銀が20文から30文分抽出することができる。
銅鉱石ならもう少し高い比率となる。
この交換事業を織田家直轄にし、上手く行けば毎年十数万貫が転がり込んでくることになる。
織田領と他国で交易しているのが全て交換対象になるからだ。
他国に技術がバレるまでは莫大な金蔓として使うことができる。
「余にも成功するまで伝えなかったのは技術を秘匿するためか?」
「はい、これは知っている人が少ない方が良いので」
「……となると、加藤」
「はい」
「その銭の管理と監視をお主に任せる。多少の上前をはねるのは許すが、織田家としても領内開発にとにかく銭がいる……頼むぞ」
「は、はは!」
加藤さんは大きなおっぱいを床に擦り付けて頭を下げる。
商人が国をも揺るがす銭の鋳造を信長様が認めたとも言える。
「まったく、後で母上にも相談せねばなるまい」
「お待ちください信長様……これを信長様の資金源とした方が良いかと」
「池、どういうことだ?」
「はい」
俺はこの銭を信長様が管理することで裏金として蓄財及び兵士の維持費、武器の調達費用に充て、信長様に歯向かう勢力が家督継承後に必ず出てくるので、その時の軍資金として貯めておくのはどうかと提案する。
「ふふ、池も悪い奴だな。確かにその方が面白そうだ。加藤、絶対に秘密を外に漏らすな。一見交換で損しているように見せろ」
「は!」
「池に銭の運用は任せる。なるべく蓄財しておくよりは自領周りの整備に投資した方がバレないだろう?」
「そうですね。これでより兵士の数を増やすことができそうです」
「うむ、謙信と森に兵を鍛えているが、尾張は弱兵と言われるくらい弱いからな……十二分に鍛えんと」
こうして信長様は毎年十数万貫の裏金を手に入れることになるのであった。