「うーん、非効率だよなぁ」
「池田さん、何を悩んでいるのですか?」
ムチムチと足音と共に寄ってきたのは千だった。
「あ、千か。いや、田植えを見ていてな……これじゃあ収穫量も低いだろうなって」
「そう言えば池田さんは異世界の知識があるのでしたよね。その世界では田植えも違うのですか?」
「うん、違う」
千に説明していくが、この時代の田植えは苗を植えるのではなく、耕した地面に種籾をただ蒔いていくだけである。
均等にとかそんなんじゃなく、とにかく乱雑に蒔くので、これじゃあ芽が出ても、周りの葉に栄養を吸われてよく育たないのである。
あとは肥料の考え方も薄い。
肥料は金のある人物がやる物という考えが強く、肥料を自分達で作る……という考えには至ってないのである。
他にも田んぼの形が四角形ではなくてぐちゃぐちゃしていたりと……とにかく効率が悪いのである。
「田んぼを四角くする、種籾を蒔くのではなく苗を作ってから植える、肥料をちゃんと与える……これができれば米の収穫量は倍になると思うのだけど……」
「今年はそれどころじゃなかったですからね。んー、でも領民を説得するにはどうした方がいいんでしょうか。そのまま頭ごなしに命令しても領民はやらないでしょうし」
「なので今年は領民に得する事を与えて信用を勝ち取ろうかと」
「んー! その一環が街道や用水路の整備や水害対策の堤作りってことですか?」
「その通り。ただそれだけだと足りないと思うので、年貢の支払いが上手くいっていない村に行こうと思います。信長様も来ますので千も来ますか?」
「んー! 行きます!」
というわけで、俺は信長様と千を連れて、那古野城近くの中村という場所に行くのであった。
「これはこれは信長様……この度はどの様な要件でしょうか」
信長様がいるので腰が低い村長の女性が俺達を出迎える。
一応中村は信長様の直轄領……というわけではなく、信長様の親族が管理している土地であるが、代替わりしたばっかりで領主はまだ幼く、政務能力が乏しいとして信長様とその家臣が領地経営を代行している土地である。
それ故に年貢は他所よりも軽くしているのであるが、戦で働き手が取られたりしていて、不作が続いている状態であった。
そのため去年も年貢の減税を求めたりと若干問題がある村であった。
親族に責任を取らせて領地没収しないだけ信長様は優しいと言える。
「うむ、毎年毎年年貢を支払えないとお主ら泣きつくでな。ならば改革するしか無いと思ってな」
「改革……ですか?」
「うむ、お主らも不作続きで辛いだろうからそれをどうにかしてくれる者が居るからな。池、盛大にやれ」
「は!」
「男……ですか?」
「うむ、余の乳母兄妹の池田恒興だ。余の旦那でもある」
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
完全に村長萎縮してしまっているが、実際このままでは村の存続にも関わってくるので、どうにかしないといけないとは彼女も思っているのだろう。
「池も忙しい故にこの村に来ることは少ないだろうが、村の者を使いとして寄こしてその者に技術を教える……そしてその者に教えた技術を村人達で共有して欲しい」
「はは!」
ということになった。
で、軽く村を見渡した限り、田んぼの灌漑設備が整っていないことにより田んぼが常に湿った状態……湿田状態であることで収穫量が下がってしまっていること、土が深く掘り返されてないこと、土の栄養が足りてない事など複数悪いところが見て取れた。
これを一度にどうにかするのは難しいが、1つずつ解決していけば収量を上げるので可能である。
「どの者に教えますか?」
「そうですね……戦で母親の体が不自由だったりする子供を優先的に教えましょうか」
「であれば……秀吉なんかはどうでしょう。年は8歳(数え年)ですが、親が不自由でして……」
ドンピシャ来た!
中村から改革を進めたいと信長様に希望した理由はこれである。
秀吉を一本釣りできれば儲けだし、尾張中村出身者は秀吉の影響で結構出世しているため、秀吉でなくてもその親や姉を引き抜きワンちゃんあれば……と思ったが秀吉一本釣り。
「木下さん、木下さん」
「はい……」
村長に案内してもらい、秀吉の家を訪ねると、足に大きな傷を負った女性が現れた。
「弥右衛門さんか、ちょうどよかった」
彼女の名前は弥右衛門(やえもん)。
どうやら秀吉の母親らしい。
身分は足軽で、2年前に行われた戦で足を負傷し、それから農作業もままならず、村人の手助けと子供達のお陰で何とか生活をしていたらしい。
「おっ母、ボクが出るって言ったべさ!」
「あ、こら秀吉!」
秀吉と呼ばれた少女が出てきた。
金髪かつ左右に髪を縛って団子にし、赤い瞳が特徴的な少女であった。
胸は幼いからか小さい。
「あんたら誰だぎゃ!」
「こ、こら秀吉! この方は織田家の嫡女である信長様とその旦那さんの池田恒興様、そして熱田宮司の娘である千秋季忠様だ!」
「な!? なんでそんな偉い人らが家に!」
「村の為に秀吉、おみゃーさんが池田様に色々農業について教わってきてくれ。そうすりゃー今年の年貢を負けてくれるって話だ」
「村長、そりゃボクを人質として差し出すってことでねぇか!」
「そりゃそうだぎゃ! 村全員が助かる道を選ぶが村長の役だぎゃ!」
村長と秀吉が口論になってしまったが、俺が秀吉に、
「そうだな。真面目に勤めてくれたら毎月2貫支払おう」
「に、2貫だぎゃ!?」
普通の農民は年に10貫稼げればいい方なので、1年だと24貫を貰えるとなれば秀吉の目の色が変わる。
「そんだけありゃ、おっ母や妹達も楽させることができるべ!」
「俺が農業教えるから、それをしっかり覚えられるかい?」
「覚える! 覚えさせて欲しいべさ!」
「信長様、この子雇いますけど良いですか?」
「別に良いが、1人で大丈夫なのか? 複数人に教えた方が良いんじゃない?」
「いや、多分この子は大丈夫ですよ。家族のために必死に成れる目をしています。死ぬ気で覚えてくれるでしょう」
「そうか……秀吉と言ったな」
「は、はい!」
「貴女猿っぽいわね……猿って呼ぶから池の言うことをよく聞きなさい」
「はい!」
「じゃあこの子に俺が農業を叩き込みますので、村長さんも領民に秀吉の言うことを聞かせるようによろしく頼みますよ」
「は、はは!」
「んー、本当に大丈夫なのですか? あの子だけで」
「千も心配か?」
「はい、8歳の子供が覚えられるとは思えないのですが」
「まぁ上手くいけば儲けもんくらいに思っているし、秀吉が異世界で知る秀吉の名前を冠した人物なら……大化けするから」
「あの猿っ娘がか?」
信長様は歩きながら聞いてきた。
「えぇ、まぁ実験的な面が大きいです。成功すれば大化けが期待できますし、失敗しても少女が1人不幸になるだけです。俺も金策が中心で農業分野まで手を広げるのは難しいですし、上手くいげは儲けもんです」
「ふむ、まぁ池が決めたことならば上手く転ぶであろう。期待しているぞ」
「はは!」
こうして名古屋城に秀吉が出入りする様になるのであった。