「というわけで、秀吉には農業の事を教えていこうと思う」
「はい! ボク頑張るべ!」
「うん! じゃあ文字は書けるか?」
「す、少しだけ……」
「じゃあ文字を書く練習をしながら農業の事を覚えていこうか」
「はい!」
秀吉を登用した俺は彼女に勉強を教えながら、農業のことも教えていく。
米も大切だが、米以外の作物の育て方……例えば蕎麦の育て方について教える。
現在俺が作って加藤さんが普及させている切り蕎麦(器に入った温かい蕎麦)とざる蕎麦。
今後需要が増してくると見て量産をする必要があるので丁度良い。
蕎麦の育て方は、まず地中を30センチほど深く耕す必要がある。
耕し終わったら蕎麦の実を蒔き、軽く土を被せる。
雨が降らない様であれば水撒きをすると、数日で芽が出てくる。
結構育ってきたら間引きをする。
間引いた芽はもやしの様に美味しく食べることができ、味噌汁の具にすると良い。
せして花が咲くと蜜蜂や虫が寄ってきて受粉していき、種まきから70日くらいで収穫期を迎える。
そしたら雨の当たらない場所に吊るして1週間熟成させ、脱穀と製粉作業を行なったら蕎麦粉の完成となる。
蕎麦の茎の部分は纏めて燃やして灰にすることで、肥料の代わりになるし、蕎麦殻は布で包めば枕となる。
勿論蕎麦殻を肥料とすることもできる。
上手いこと調整すれば、年に2回収穫できるというのも蕎麦の利点だが、豆と交互に育てると、土の栄養を補完しあって、肥料がなくても土地が痩せることなく収穫し続けることができる。
「ボク達も蕎麦育ててるが、そんなに考えて育てたことなかっただぎゃ」
「必要になるのは地面を深く耕すこと、そして収穫期を間違えないこと……蕎麦は育てやすいし……小麦と組み合わせることで、色々な料理が作れるから、腹一杯食うなら蕎麦と小麦で何とかなる」
両方痩せた土地でもある程度育つのが素晴らしい。
「で、地面を深く耕すための道具がこれ」
「これは!」
「備中鍬!」
「何故備中?」
「備中で作られた鍬だからね」
「なるほど……」
備中鍬、別名を万能やマンガ。
鍬の一種で2本から6本に耕す部分が分かれているのが特徴で、普通の平鍬に比べて深く耕すことができ、湿地や泥地でも鍬に土が残りづらい。
蕎麦だけでなく、深く耕せるので、作物の根がよく育ち、米だと倒れにくく、根菜類はよく育つという性質を持っている。
また肥料を土と混ぜ込むのにも適していたりする。
「牛や馬を使えれば深く耕すのも楽になるけど、今は人力に頼るしかないからね。その場合この鍬が活躍するよ」
「なるほどだぎゃ」
秀吉は必死に俺の説明を紙に書き写しながら何度も頷いている。
ちなみに、横で毛利姉妹も聞いているが、備中にそんな鍬があったんだって驚いていた。
(まぁ備中鍬が広まったの江戸時代かららしいから、少し未来の技術だけど……鉄が量産できれば、農具を鉄製にできて、農業の効率が高まるからな)
「秀吉の中村に鉄製の備中鍬を200本用意するから米作りの合間に蕎麦畑を作って植えてみなよ。こっちからも手伝いを送るから」
「はい!」
「聴いてた元春と隆景も一緒に農業覚えようか。領地持った時に領主として領民に教えられるってのは大きいよ」
「おう、じゃあ俺もやるぞ」
「僕もやります」
というわけで、兵の一部を借りて、荷車に備中鍬や農具を乗っけて中村に移動し、道具を配りながら、蕎麦、大豆、そして小麦の育て方を農民達に教えた。
「こりゃ便利な鍬だべ!」
「軽く振るうだけで深く耕せるべな!」
農民達も大喜びである。
「それと、米の方は厳しいだろうから、今年の年貢は蕎麦で良いことにしたから」
「ありがとうございます」
村長の女性は俺に頭を下げる。
「秀吉はどうですか……粗相はしてませんか」
「大丈夫ですよ。頭も良く、言ったことを直ぐに覚えるので……今後も彼女に技術を教えていきますので、彼女の指示に従ってください」
「は、はい!」
実際、秀吉は俺からの説明を村人に分かるように自分なりに考えて動いているので文句はない。
毛利姉妹もそんな秀吉の姿に驚いていた。
「すごいですねぇ……いや、池田さんも秀吉の事を一瞬で見抜いて登用したのも凄いですが」
「才能ある奴は環境さえ整えればどんどん上に行くからな。まぁ環境が悪くても上に行くやつも居るけどね。隆景も上に行けると思うから頑張りなよ」
「直ぐに池田さんの事を抜きますから」
「言うねぇ」
「さてと、鉄も用意できたことだし、鉄砲の製造と火薬の製造について進めていくか」
秀吉に農業を教える傍らで、俺は鉄砲量産に向けての準備を開始した。
火薬は少量であれば熱田でも取り寄せる事ができる為、鉄砲の発射実験程度はできる。
俺は鉄の量産により恩恵を受けている鍛冶師を集め、組み立てられている火縄銃と俺がバラして見取り図を事細かく描いた分解された火縄銃の2丁を見せながら、これの量産を職人達に依頼した。
「最初は失敗しても良い。ただこの銃が戦の歴史を変える。故に信長様も量産することを望んでいる。難しいと思うが、予算はたんまりだそう」
そう言うと、職人達も色めき立ち、各々火縄銃銃を食い入るように眺める。
「俺もわかる部分は答えるから、定期報告で纏めて報告してくれ」
「「「はは!」」」
「それではかかれ!」
鉄砲の複製は史実でも種子島にて行えていた。
まだ鉄砲が広がるには時間が掛かるが、今から研究、量産を軌道に乗せるには、4年から5年掛かるだろう。
そうなれば火薬の製造と同じ時期くらいになるので丁度良い。
「さてと、鉄砲の複製は職人達に任せて、俺は硝石の製造に取り掛からないとな」
俺が何故秀吉に蕎麦の栽培を勧めたか……それは蕎麦殻が火薬の材料硝石作りに適した素材であるからである。
そもそも硝石とは何かというと、硝酸カリウムのことで、水に溶けやすく、アンモニアなどの窒素化合物が地中のカリウムと結びつくことで硝酸カリウムとなる。
先ほども言ったが、水に溶けやすい為、雨で簡単に流れ出してしまう、植物の肥料にもなるので、植物が育っている場所だと植物に吸収されて消費されてしまうという欠点もある。
ただ、硝石は火薬の60%から70%を占める材料なので、これを作らないと火薬には至れない。
これを手っ取り早く集めるだけなら、古い屋敷やコウモリが住む洞窟の土を集め、水で洗う。
水に溶け出した硝酸カリウムを灰と混ぜると灰の硝酸カルシウムも硝酸カリウムに変化して量が増える。
この水を濾過、濃縮して安置しておくと硝石が析出する。
ただこの方法では採取した土の1%程度しか硝石にならないので、もっと量を作るとなると、次の方法になる。
籾殻や藁、植物の捨てる部分を集める。(蕎麦だとより硝酸基が含まれているので良い)
蕎麦畑の土を用意する(硝酸菌が蕎麦を育てると地中に多くなる)
雨に濡れないように、小屋の中で植物屑と先ほどの畑の土、人の尿を混ぜて山にする。
山を時々混ぜて、空気を行き渡らせ、時々糞尿を追加する。
約4年から5年で硝石の多く含む土となり、水に溶かしてから灰と混ぜる方法で、これだと土の20%から30%が硝石として取り出すことができる。
一軒の小屋で作れる硝石土の量がおおよそ10トン前後。
そこから20%が硝石になるとしたら2トンほど。
火縄銃の1発撃つのに必要な火薬の量が3gで、硝石は2g必要となる。
計算するとこれで100万発分の硝石を作ることができる。
一見多い様に見えるが、1000人の兵だと1000発分にしか成らず、毎日3発射撃訓練をしたら1年で無くなる量であり、とてもではないが一軒だけでは足りない。
まぁこれは数十から百数十軒の小屋を硝石小屋を建てれば解決すること。
勿論それを作る人員も必要となるが、これは流民に年貢免除と給金を多少握らせれば解決できる。
今年から始まったのであと4年後だから……1548年頃には硝石を一定量採取できる様になると思われる。
まぁそれまでに鉄砲を軌道に乗せないといけないが……。