「うーむ、人材を集めろか……」
「何を悩んでいるんだ信長ちゃん」
「謙信か。いや、池(池田恒興)に色々人材を集めろって言われていてな、どうすれば人が集まるかなと思ってな」
「ふーん」
相変わらずこの女は大食らいだな……いつ見ても丼をかきこんでいるか、武芸の鍛錬をしている姿しか見ない。
それでいて平手の婆が感心する政務の腕前も持っているのが不思議だ。
寺に居たというが、もしかしたらどこかの大名の娘か何かなのかもな。
「謙信も知恵を出してくれ」
「うーん、人の縁というのは探せば案外転がっているものだと思うぞ……お代わり」
「もうお櫃が空だ。流石に食いすぎだ」
「ちぇ……でも人材を探すのであれば京に行ってみるのは良いと思うぞ。戦乱の世でも京としての格式はあるからな。アタシも行ってみたいっていうのはあるけど」
「京か……うむ、せっかくだから行ってみるのはアリか?」
余は思い立ったが吉日と、池を探しに行くのであった。
「京に行ってみたい?」
「ああ! 人材を集めるのであれば謙信が京に行ってみてはと言ってな! せっかくだから行ってみようと思ってな!」
「信長様、人材探しのコツはまず足元から探してみるのですよ」
「足元からか?」
「名古屋城近くから探していきましょうよ。幸い熱田や津島といった栄えている町が近くにあるのですから、そこから人材を探してみましょうよ」
熱田は熱田神宮のある町で津島は物流の中継地点として、それぞれ伊勢湾に面した海運の盛んな都市であり、その都市2つを領有していた織田弾正忠家こと信長様の実家が国主の家臣の家臣という立場なのに、尾張で一番強い勢力で居られたのが、その町から入ってくる上納金で兵糧も武器も大量に揃えることができるのが大きかった。
あと尾張国がそもそも豊かな土地であり、大量の米を収穫できる場所であるのも、影響していたが……。
東海道の中継地点でもあるので、熱田と津島は人、物が集まるため、そこには人材も集まってくるって寸法である。
「というわけで熱田から見ていきましょうよ信長様!」
「うむ、そう言われてみると、熱田や津島をまず見てから人材を集めた方が良いと思い始めたな。よし、それじゃあ行ってみようか」
「おー!」
というわけで、俺と謙信ちゃんを信長様は引き連れて、熱田の町に向かうのであった。
もちろん平手さんに熱田に行ってきます……と声を掛けてから出かけたが……。
熱田……熱田神宮のある大きな町である。
畿内や関東から流れてくる様々な商品が港から荷揚げされ、人、物共に溢れる町である。
「信長様、この町でどんな人物と縁を繋いだ方が良いか分かりますか? 謙信ちゃんも考えてみてください」
「ふむ、腕っぷしに優れる用心棒の様な者では?」
謙信ちゃんが答えるが、それは不正解。
すると信長様が答える。
「もしかして……商人か?」
「正確には金を動かせる者ですね。世の中を結構な頻度で金があれば動かせるので、金持ちを仲間にしますよ」
「ふむ……」
というわけで熱田神宮に向かった。
熱田神宮の宮司(宮司も結構な頻度で女性が担っているが)とまずは顔を繋ぐことにする。
「こんにちは千秋さん」
「ん? ああ! こんにちは池田さんのところの! 信長様もいらっしゃいませ!」
千秋季光(せんしゅう すえみつ)……黒髪黒目の大和撫子っ感じの巫女姿をした彼女が熱田神宮で大宮司を務めている人物で、信長様の母、信秀様の家臣でもある。
俺も母親と一緒に健康祈願に訪れることがあり、大宮司の千秋季光さんとは知り合いだった。
そして彼女の胸もまた豊満であった。
「池、彼女は母の家臣だぞ」
「ええ、そうですが、彼女なら商人との伝手も豊富ですし、色々知っていると思いますよ」
「何をお探しなのですか?」
千秋さんが聞いてきたので、信長様が将来自分の家臣となる人物を仲間にしたいとして良さげな人材を探していると聞くと、千秋さんは少し悩みながら、
「もし良ければ私の娘を紹介しましょうか?」
と、提案してきた。
「娘さんが居たのですか?」
「ええ、少し修行に出していたので数年不在でしたが、この前帰ってきて……お二人と同じ年なので気が合うと思いますよ! おーい季忠(すえただ)」
千秋さんが呼んでくると、にゅうっと物陰から背丈が170センチくらいある女性が現れた。
歩くたびにムチ、ムチって擬音が聞こえてきそうなほど下半身や上半身が発育が良い女性だった。
母親にしてこの子あり……大和撫子っぽさを受け継ぎつつ、その胸は豊満であった。
「んー、こんにちは信長様。挨拶に伺おうと思っていたのですが遅れてしまい申し訳ありません。千秋季忠と申します」
お辞儀をする際も巫女服からムチムチって擬音が聞こえてくる。
とんでもない逸材が眠っていたな。
「季忠……呼びづらいから千と呼ぶぞ」
「はい! どうとでもお呼びください」
「うむ、千は背丈が大きいな! 余と本当に同じ年の10歳(数え年)なのか?」
「はい、私こんなデカい成をしていますが、信長様や池田さんと同じ年です! 発育が良すぎて周りからも大女って言われてますけど」
「それ……悪口の様な……」
「実際大きいので仕方がありません」
俺がツッコミを入れると、千秋季忠は少し悲しそうにそう答えた。
「うむ、余は千と呼ぶから安心せよ」
「はは、それなら良いですけど……とりあえず話を聞きますので私の部屋に来ませんか?」
「うむ行こう! 謙信! 池! 行くぞ」
信長様が乗り込んでいくので、俺と謙信も一緒にお邪魔するのであった。
ムチムチムチ……
歩く所作もムチムチと季忠から聞こえてくるな……。
「粗茶ですが」
「うむ、貰おう」
お茶を出してくれたので貰うと、信長様は早速仲間集めをしていることを話す。
「商人の仲間を増やしたい……ですか」
「うむ、何か知恵はないか?」
「そうですねぇ……商人の方々はお金になりそうなことであれば食い付くと思いますが……」
「結局は銭か……池、何か意見はないか?」
いきなり俺に振られても少し困るが、簡単に作れて売れそうな物は転生者として幾つか思い当たる物がある。
「あるにはあるけど……どれだけ商人が食いついてくるかわかりませんよ」
「おお、あるのか池!」
「木の板……できればまな板と同じくらいの大きさの物ありますかね?」
「確か使わなくなったまな板があった筈だから持ってこようか。他に必要な物はあるか?」
「工具のノミがあれば」
「分かった持ってこようか」
千が部屋を出て少しするとそれらを持ってきてくれた。
「それで何をするのだ?」
「洗濯板という道具を作ろうと思ってな」
謙信の質問に答える。
洗濯板の作り方は簡単で、湾曲、またはV字にノミで凹凸を作るだけでよい。
「よしっと、これでできた」
「ただ板に溝を彫っただけじゃないか?」
「そう、この道具はその手軽さが便利なのですよ。信長様」
俺は再び千に汚れた布をと桶を持ってきてもらい、井戸の近くに移動して、洗濯板で布の汚れを落としていく。
「灰汁も加えながら擦っていくと……」
泥汚れが付いていた布が、たちまち綺麗になっていく。
端から見ればただ板に布をこすりつけているだけなのに、綺麗になるので不思議だろう。
「ほら、あっという間に綺麗になった」
「おお! これは凄い!」
「こんな簡単な事を思いつかない物なんだな」
謙信と信長様が感嘆しながら、俺は千に聞く。
「これを商人に売り込もうと思うが、それに一手間加えたいと思う」
「一手間?」
「熱田神宮の印を彫ることで、熱田神宮の神様によって汚れが落ちているように庶民に思い込ませれば……」
「その洗濯板が売れれば熱田の名前も売れるってわけか……おお! 池田さん凄いです! それなら確実に売れるでしょう!」
めっちゃ美人の千に褒められて気分がいいわ……。
「あとはどの商人に売り込むかだけど……」
「それは任せてください! 熱田町人衆にも私顔が効くので、その人達に声をかけてみますよ!」
「じゃあ千頼むぞ」
信長様が最後千に商人の選定を頼むのであった。