「うはは! 笑いが止まらんな!」
信長様は帳簿を見て大笑い。
それだけの銭や金銀が現在那古野城の蔵の中ギッチギチに詰め込まれていた。
「池、これだけ金が有ればやりたいことが色々できるのではないか?」
「ええ、半分は将来の軍資金として残しますが、残り半分は産業を発展させて、更に税収を上げる為に使いますよ」
「ふむ……それだけ銭が必要なことってなんだ?」
「治水関係にはとにかく銭が必要ですし、新規開墾にも銭は必要です。主に農業に関することと、道に関することでしょうか」
俺は忍び達に描いてもらった周辺の地図を広げる。
「まず信秀様の許可を取り、信秀様の直轄領にも石畳の街道を広げましょう。それで人の動きは活性化するはずです」
「うむ、人の流れがよくなれば税収も増えるからな」
「ええ、そして治水ですが庄内川の治水に取り掛かろうかと」
「庄内川か」
庄内川は那古野城から北東に位置する尾張を半分に分ける大きな川であり、途中で支流と合流する地点に約140年前……武衛堤と呼ばれる全長7キロにも及ぶ巨大な堤防がまだ力があった守護大名の斯波家によって築かれた。
しかし、年月が経つごとに、堤防は徐々に川の流れで削られ、その土が川底に蓄積し、下流で大雨が降るごとに氾濫する様になっていたのである。
あと、その水の排水が上手くいっておらず、現代の愛知県大我麻町付近では水が溜まって沼地になってしまい、田畑にできない状態になってしまったのである。
ここで庄内川の川の流れを整え、用水路を整備することで、今まで水田に適さなかった土地でも米作りができる様になれば……
「ふむ、織田家の国力は増すというわけだな」
「ええ、それに信長様が指揮してやったとなれば領民からは信長様が感謝されます。そうなれば当主就任後に歯向かう敵の数を減らすことにもなるかと」
「うむうむ……どれぐらい年月は掛かるか?」
「そうですね……最短で3年は掛かる大工事になるかと」
「これは母上に相談してからになるな。余も確認するから、工事全体の計画案をまとめてくれるか?」
「分かりました。忍びを使っても?」
「うむ、問題ない」
「1ヶ月でできる様に頑張ります」
庄内川の問題は現代まで続くように、1回の工事で全て解決することは不可能。
ただ、新川を掘削し、水量を調整することで多少の水害を抑えると同時に、新田開発が促進できると俺は考えていた。
新田開発を織田家主導で行えば、区画化された田んぼに整えることも出来るし、そこの住民に明治頃に行われていた米作りの農法を伝授すれば、多少は収穫量が上がるだろう。
年貢が増えれば、それだけ武家の力は増えるし、大規模工事を信長様が主導したとなれば、信長様の権威も増える。
あと幸運なことに、新川掘削地域や現在沼地になっている地域は信秀様の支配下なので、権利関係で他所と揉め事は少なく済む。
水害問題で苦しんでいる上司の清須織田家の面々も治水工事は大歓迎だろう。
忍び達や実際に街道工事の指揮をした光秀と協力して街道を敷く場所の選定や治水工事の場所、工事日数、掛かる費用の金額等を計算をしていく。
こういう時は独裁体制だと計画が素早く進む。
結果、1ヶ月と少しで大まかな全体計画は完成。
総工費70万貫、上手くいけば総延長250キロの街道と10万石分の新田が開発出来る場所が生まれることになる計画である。
必要人夫の数は3万人……戦等が無ければ3年で工事が完了する見通しである。
「さて、これが通るかどうか……」
「うむ、そこは余に任せよ」
そう言って信長様は信秀様の元に計画書を持って向かうのであった。
「池! 母上から許可が降りたぞ!」
「おお!」
数日後、信秀様から許可を勝ち取った信長様が自慢気に俺に報告してきた。
「ただ失敗したら廃嫡とも言われたがな! 絶対に失敗できんぞ」
「わかっております。工事に使う道具と建材の方は順調に生産していますので、人婦の招集を始めたいと思います」
「うむ、謙信や森といった武官達も全員使っての大工事を始めるぞ」
「は!」
というわけで、現状の信長様の家臣総出でこの大事業に取り組むことになるのだった。
あまりの規模から信秀様の家臣達からは信長様は大うつけ(大馬鹿者)だと言いふらされ、信長様=うつけ者というのが定着することになるのだった。
実際に工事が始まると、大勢の人婦が集められ、それぞれに円匙(シャベル)と猫車(一輪車 木製で使い心地は悪いが、実用たり得る)が班ごとに支給され、班対抗で競わせる方式をとった。
優秀な班にはそれだけ支給される銭が高くなる仕組みで、集められた人々は給金や食事の支給があることに驚き、強制労働じゃないことに驚いていた。
そして実際に給金が支払われると、皆やる気を出すし、こんな噂を忍びを使って流した。
「おーい、織田信長様が大規模な治水工事をするんだとよ」
「それが俺達になんの関係があるべさ?」
「働いたら2食食わしてくれるだけでなく銭が支払われるんだと」
「それは良いけど……」
「隣の村は全員参加してるべよ」
「隣の村に負けてらんねぇべ! うちらも行くぞ!」
隣の村はやってるぞという噂を広めたら想像以上に人が集まった。
そこから各村の村長や地主、その人から推薦があった者を30人程度の班のリーダーにしていき、作業を分担しながらガンガン掘削とコンクリートの敷き詰め、土の入った俵を設置し、新川と堤を作っていく。
信長様も妊婦でボテ腹になっているのに、現場に赴いて、農民達に混じって作業を手伝ったり、一緒に飯を食ったりして、領民達からの人気を高めていった。
俺は食料の調達や各人員の給金計算で死ぬほど働いた。
そして作業が始まってから1カ月後、信長様が作業場で産気が始まり、急遽天幕の中に連れ込まれて、出産に至るのだった。
「ふん!」
ニュポン。
信長様まだ11歳だから出産に対して前世の記憶がある俺は凄い不安だったのだが、出産自体は初産にも関わらず1時間で終わった。
「ずいぶんと長くかかったな」
「初産だから仕方がないんだろう」
他の家臣の皆さんは1時間の出産を長いと評価していた。
じゃあ早いとどうなるかというと、数日後に双子を出産した平手さんは20分で出産を終えていた。
女性の身体能力が前世と違って滅茶苦茶強化されているのは知っていたが、出産に関しては同じ人類とは思えない早さである。
「うむ、元気な女の子であるな」
「無事に母子共に健康そうで安心しました……」
ちなみに信長様は出産後、赤ん坊に付いていたへその緒を自ら引っ張って胎盤を引きずり出したらしい。
周りの人は流石信長様と豪快さを褒め称えていたが、俺は気が気ではなかった。
「乳が出るようになって胸が大きくなったな」
そんなことを信長様は言っていたが、体も本格的な二次成長期に入ったのか、それとも出産を経験したからか、肉付きが更に良くなり、少女から女性へと進化することになるのだった。