「少ないとはいえ家臣が揃ってきましたね」
「うむうむ、順調そのものであるな」
信長様の家臣として俺を除くと内政屋の平手さん、商人の加藤さん、軍神の謙信ちゃん、将来性抜群の千秋こと千。
なかなかバランスの取れた布陣だと思われる。
「仲間はもっと増やすのか?」
「ええ、もっと増やしていきますが、そうなると今度は人員を増やす際に色々教養を教えることができる人物が欲しくなりますね」
「教養か……うむむ……」
「まぁ人数も増えてきましたし、一度外を見てみるというのもいいかもしれませんがね」
「外! 旅行か!」
「人材集めというより息抜きですがね……伊勢神宮にでも行ってみますか?」
「行きたい!」
というわけで平手さんに頼んで信長様と旅行に行ってきて良いかの許可を貰いに行くのであった。
「駄目ですよ! 信長様は領主の跡取りであると同時に那古野城の城主なんですよ! そんな人が他国に行くなんてありえません!」
「……ほらな池、平手に言ったらこうなるであろう」
信長様は平手に言わないで行くつもりであったらしいが、流石に俺が平手さんに言わないとまずいとして、平手さんに報告を入れたら、案の定止められたのである。
「まぁそうなりますよね……コホン、平手さん。言っちゃ悪いですが信長様はこのままだと駄目になりますよ」
「ちょ! 池!」
いきなり貶された信長様はぷりぷり怒るが、手で抑えて、
「ノミのお話というのをご存知ですか?」
「「ノミの話?」」
2人共知らないらしい。
虫のノミは自身の身長よりも高くジャンプすることができるのだが、箱の中に布を被せて天井を作り、数日放置すると、布を外したとしても箱の高さよりも高くジャンプすることができなくなってしまう……という話である。
「それにこういうことわざもあります。井の中の蛙、大海を知らず……これもノミの話と同じく、井戸の中にいる蛙はその範囲でしか知見が無く、大海の広さに応じた視野が広がらない……という言葉です。何事も幼いうちに経験や知見を得ることで、人はどこまでも成長するのですよ」
「うむむ……そうかも知れませんが……」
「平手〜悩んでるようだけど、アタシと千も護衛として行くから安心しな」
「んー、私もこの大きな体をしているので、大人と間違われるでしょうし、一応武芸は嗜んでいるので安心してください!」
謙信ちゃんと千の2人には事前に話していて、平手さんを説得するのを手伝うように言っておいた。
「うむむ……」
それでもまだ粘ってくる平手さん、とどめに加藤さんが、
「用心棒をこっちで雇うので、行かせて上げては? 当主になったら知見を広めに各国を巡るなんてことはできないでしょうし」
「……皆さんがそこまで言うなら……」
平手さんも流石にとここで折れた。
ただ俺達に釘を刺してくる。
「皆さん、お願いですから全員無事に帰ってきてくださいね! 信長様や皆さんに何かあったら私……私……」
「安心してください、ちゃんと信長様を連れて帰ってきますので!」
「うう、心配だなぁ……」
というわけで、平手さんの許可も一応降りたので、俺達は旅の準備を始めるのであった。
しかし、平手さんも母親の織田信秀様に報告しなければいけなかった様で、旅に出るという話をして準備をしている最中に織田信秀様が那古野城に突撃してきた。
「信長! 信長はいるか!」
虎柄の派手な着物を着た赤髪の女性が城の中を堂々と歩く。
そして信長様を引きずって広間に連れて行くと、俺も招集されて、2人揃って頭を下げている状況である。
彼女こそ信長の母親である織田信秀様である。
「母上、急に来られてもびっくりするじゃないか」
「平手が泣きついてきてな。旅をしたいのだと」
どうやら平手さん経由で信秀様にも話が伝わっているらしい。
「だ、駄目か?」
「駄目じゃない! うちの子供達は信長以外大人しいのが多いからな! それを思うと私の活発な性格を似た信長、貴女が当主に相応しいって常々思う。けど母ちゃんに一言入れろ」
「……すみません」
「反省したならよろしい。商人から護衛を付けてもらうみたいだけど、せっかくだし、うちからも1人若いの連れて行って社会勉強させてやってくれない?」
「母上の知り合いですか?」
「うーん、重臣の娘で才能の片鱗が見え隠れしてるんだけど、せっかくならあんたにもう付けるわ。入っておいで」
部屋に入ってきた少女は俺達と同じ年くらいに見える。
「丹羽家の丹羽長秀っていう子だ。仲良くしなさい」
薄緑色のアホ毛が特徴的な少女であった。
「の、信長様お初にお目にかかります! 僕……丹羽長秀って言うっす! よろしくお願いします!」
元気な僕っ娘だ。
顔立ちも中性的だから、将来王子様系になりそう。
信長様に出会った為かアホ毛がブンブン動いて感情表現が見える見える。
「うむ、丹羽長秀か! いい名前だな! 余の部下となれ!」
「は、はいっす! 僕でよろしければ家臣の末席に加えさせてもらえれば感激っす!」
「うむうむ、可愛らしい奴だな!」
信長様も気に入ったらしい。
「旅に出るとは言うが何処に行くつもりなのだ?」
「母上、余は池達と伊勢神宮に向かおうと」
「温い……京と堺にでも行ってこい。あとは……そうだな! 西の京と言われる山口も見てこい!」
「山口ですか?」
「そうだ! 噂によれば京よりも栄えていると聞くぞ」
「なるほど……そんなところであれば行ってみたいですね!」
信長様、気楽に言ってますけど……山口って本州の最西端なのですが……。
「池田!」
「はい!」
「信長を無事に連れて帰ってこいよ! 言い出したのはお前だと聞いているからな!」
「は、はは!」
というわけで丹羽長秀という少女を加え、信長様、俺、千、謙信ちゃんプラス護衛の方の6人で本州の最果てである山口に向かう旅が始まるのであった。
「結局京に向かうことになるのだな!」
謙信ちゃんが言う様に、途中京に寄る為、謙信ちゃんが最初に行こうとしていた目的地に行く事に。
「これも巡り合わせってやつですよ」
「そういうものかな、池君」
「そういうものです」
俺は荷物を纏めて準備をしていく。
まず路銀として加藤さんが1人2貫、合計12貫用意してくれた。
「加藤さん、俺の分の路銀は全部縫い針にしてくれませんか?」
「縫い針に? 別に良いけど」
銭だと交易をしている都市だと良いが、銭が使えない農村で下宿することもあるだろうから、そういう時に物々交換できる品物の方が有難がられる場合がある。
それに針売りの行商人と護衛に扮して歩けば、怪しまれることも少なくなるだろう……という俺なりの知恵であった。
それに針であればそんなに重さがあるものでもないので、子供でも持ち歩きしやすいだろうし……。
「池、ここから最初の目的地の伊勢神宮まではどれくらいかかるのだ?」
信長様が質問してきたので、子供の歩く速さになるので、4日か5日は掛かると思った方が良いと言っておく。
毎日30キロ歩いて5日で到着する計算である。
「うむむ……結構遠いな」
「まぁ色々見物をしながらゆっくり行きましょう」
俺達が行く支度を整えていると、加藤さんが護衛の人物を連れてくるのであった。