俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第104章 物資表の上の戦争、そして双方とも高くつき始めた
松尾誠一の護送任務のあと、東京抵抗力量はようやく一つのことを認めた。
臨時の勇気だけでは支えきれない。
数人の知り合いが無理をして持ちこたえるだけでも支えきれない。
「みんな、もう少し頑張ろう」だけでは、もっと支えきれない。
猫目はシステムだ。
もし東京が互助会メンバーを守りたいのなら、東京もまたシステムにならなければならない。
たとえそのシステムが遅く、不器用で、高くつき、しょっちゅう人手不足になるとしても、システムとして動き始めなければならない。
こうして、第一回「互助会メンバー保護专项予算会」が開かれた。
場所は特調室の地下会議室ではなかった。
青い橋の小劇場だった。
多くの互助会メンバーは、そこにいるほうが話しやすいからだ。
小劇場の舞台照明は半分だけ点いていた。
舞台にはホワイトボードが置かれていた。
ホワイトボードには、こう書かれている。
護送、住処、物資、訓練、医療、飯。
最後の「飯」という字は、小野寺が自分で書いた。
彼は言った。
「笑うな。今回笑った人は、次の夜間護送の温食担当だ」
誰も笑わなかった。
もう皆、飯が小さなことではないと知っていたからだ。
空腹の人間は判断が遅くなる。
寒い人間は手が震える。
長期間、冷たいおにぎりと責任感だけで行動する人間は、いつか崩れる。
猫目は彼らを消耗させようとしている。
ならば彼らは、「消耗されないこと」を予算に書き込まなければならない。
今回の会議で、東京一般抵抗力量は、より多くの物資を投入することを決めた。
第一項は、護送車両だった。
以前は、志願運転手の自家用車、古い貨物車、臨時で借りた商用車を使うことが多かった。
問題は多い。
車況が安定しない。
車牌を覚えられやすい。
保険が統一されていない。
運転手の負担が大きい。
猫目は、よく使う数台の車を見張るだけで、護送ルートを推測できる。
だから、新しい方案は小型車両プールを作ることだった。
車は多くない。
だが登録は分散させる。
清掃会社の車。
花屋の車。
古書店の配送車。
小型冷蔵車。
地域ボランティア車。
それから、まったく目立たない中古の軽貨物車が二台。
各車両には三つの作業が必要になる。
物理検査。
術式検査。
非ネット接続式のルート記録消去。
小野寺は言った。
「猫目みたいな綺麗な車隊は買えない」
「でも、見栄えが悪くて、覚えにくくて、安くて、直せる車なら何台か買える」
天城怜司は、監督付きの資金を一筆提供した。
ただし、彼は特に説明した。
「天城は車両プールを管理しません。一回限りの設備資金を提供するだけです」
遠坂綾乃がすぐに言った。
「文書に入れてください」
天城怜司はうなずいた。
「入れます」
これが、今の皆の警戒だった。
たとえ味方がお金を出すとしても、新しい依存を防がなければならない。
第二項は、安全屋のアップグレードだった。
以前の互助会安全屋の多くは、臨時で借りた場所だった。
空き部屋。
古い事務所。
倉庫の二階。
書店の奥の部屋。
文化空間のバックヤード。
そういう場所は使いやすいが、安定しない。
猫目はすでに「東京旧文化空間と互助会の関連図」を描き始めている。
このままそういう場所だけに頼れば、いずれ把握される。
だから、彼らは三種類の安全点を作ることにした。
第一類、短時間停留点。
十五分から三十分だけ使う。
服を替える、鞄を替える、紙資料を交換する、次の車を待つための場所。
第二類、中継点。
一晩泊まれる。
簡単な寝具、湯、薬、予備の衣類がある。
第三類、長期低露出点。
特に危険な互助会メンバーが一定期間住むための場所。
これらの点は集中してはならない。
一つの組織だけで管理してはならない。
同じ種類の鍵だけを使ってはならない。
同じ一批の家具を買ってはならない。
こうしたことは細かく聞こえる。
けれど、猫目は最も細かいところから規則性を見つけるのが得意だ。
北見遥香は言った。
「北海道では、そうやって見つけられました」
「同じ一批の非常照明」
「同じ種類の電子門禁」
「同じ保険代理店」
「あとで猫目は、そうした特徴を調べるだけで、旧鎮守の予備地点をたくさん見つけました」
彼女が言い終えると、会議室で面倒だと文句を言う人はいなくなった。
第三項は、護送装備だった。
東京一般抵抗力量のこれまでの装備は、とても雑だった。
普通煙幕弾。
古い符紙。
トランシーバー。
懐中電灯。
予備の衣類。
縄。
地図。
雨合羽。
医療バッグ。
これらは今後も残す。
けれど、アップグレードが必要だった。
菅原涼は言った。
「抗圧制符が必要です」
真壁仁は言った。
「素早く設置できる小型干渉点が必要です」
小野寺は言った。
「普通人でも使える非術式の阻隔道具が必要です」
たとえば。
強光懐中電灯。
機械式警鈴。
ネットにつながないドアロック。
折り畳み式バリケード。
使い捨て番号札。
紙の身分交換パック。
位置情報チップのない安物のリュック。
それから、十秒以内に書類を三つに分けられる小型封袋。
普通の雑貨のように聞こえる。
だが、どれも役に立つ。
東京には猫目の高端装備はない。
ならば低技術、高冗余、交換可能、廃棄可能な小物で補う。
佐野美紀も、一部の材料整理に参加した。
彼女は最深部の秘密は知らない。
けれど、混乱した購買要求を表に変えることにはとても長けていた。
彼女は「強光懐中電灯」「おにぎり保温箱」「紙地図防水袋」といった項目を見て、ため息をついた。
「これ、購買表って感じじゃないですね」
小野寺が尋ねた。
「何に見える?」
「捕まらないために真剣に準備している人たちの一覧です」
彼は言った。
「その通りです」
佐野は少し沈黙した。
それから、表をもっとわかりやすく整えた。
第四項は、新人訓練だった。
これは遠坂綾乃が強く求めた。
彼女は言った。
「今の問題は、全員が少数の熟練者に頼っていることです」
「小野寺さん、菅原さん、真壁さん、榊オーナー、数人の運転手」
「このままでは、猫目は互助会メンバーを捕まえる必要すらありません。この人たちを疲弊させればいいのです」
小野寺は反論しなかった。
反論できなかったからだ。
彼はもう三週間、まともに一晩寝ていない。
東京は新人を訓練しなければならない。
新人を高手にするためではない。
具体的な小任務をできるようにするためだ。
どうやって後続車を観察するか。
あるサプライヤーが急に態度を変えたとき、異常かどうかをどう判断するか。
猫目契約にある自動绑定条項をどう見分けるか。
紙のルートカードをどう使うか。
ネットにつながずに「ルートが汚い」とどう伝えるか。
護送対象者に、もっと緊張させる質問を並べるのではなく、どう熱い水を渡すか。
猫目術師が現れたとき、どう無理に強がらないか。
自分がいつ撤退しなければならないかを、どう知るか。
そういうことを教えなければならない。
遠坂綾乃は言った。
「敗者互助会には、戦えない人がたくさんいます」
「でも、こうしたことならできます」
北見遥香がうなずいた。
「一度逃げた人は、どんな動作が恐怖を露出させるのかを一番よく知っています」
こうして、互助会メンバーはただ守られる者ではなくなった。
彼らは、保護体系の一部になり始めた。
第五項は、心理支援だった。
この項目は最初、多くの人に見落とされていた。
松尾老人の護送が終わったあと、一人の若い運転手が深夜に崩れた。
彼は怪我をしていない。
猫目にも追いつかれていない。
けれど、ずっと考えていた。
もしあの日、自分が道を間違えていたら、松尾老人は捕まっていたのではないか。
その後悔が、彼を押し潰した。
東京一般抵抗力量は、そのときようやく気づいた。
護送する側にも、ケアが必要なのだと。
そこで、心理支援が予算に書き込まれた。
綺麗な口号ではない。
実際の安排だ。
護送後は必ず復盤する。
復盤後は必ず休む。
同じ運転手に、高リスクルートを二回連続で安排してはならない。
夜間任務に参加した人は、翌日に再度排班してはならない。
互助会には流亡経験を持つ人がいる。新しく逃げてきた人の付き添いができる。
特調室の心理保護班は限定的な支援を提供する。ただし、全員に自分が尋問を受けているように感じさせてはならない。
その項目を見たとき、私は心が静かになった。
それが重要だと知っているからだ。
昔、多くの人は、私に立ち続けてほしいとばかり思っていた。
今、彼らは他の人を座らせて休ませることも学び始めている。
それは変化だった。
東京が投入を増やす一方で、猫目もまた投入を増やしていた。
桐島の復盤報告は、すぐに猫目東京辺縁行動組へ送られた。
彼らは内部戦術会議を開いた。
会議室は青い橋よりずっと明るい。
机の上に冷たいおにぎりはない。
統一された飲料水、栄養バー、標準行動パックが置かれている。
スクリーンには、東京護送ネットワークの近期変化が表示されていた。
古書店。
写真館。
花屋の車。
青果市場。
青い橋。
旧映画館。
非猫目倉庫。
小型文化空間。
紙ルート。
断裂護送。
短距離信号。
白川一音の後段支援。
桐島はスクリーンの前に立ち、言った。
「東京抵抗力量は、情緒的抵抗から低効率のシステム化抵抗へ移行している」
一人の猫目術師が尋ねた。
「低効率も脅威になるのですか?」
桐島は彼を見た。
「低効率がこちらまで低効率にできるなら、それは脅威だ」
会議室は静かになった。
その言葉が正確だったからだ。
猫目が最も得意なのは効率だ。
東京の不器用さは効率で勝つためのものではない。
猫目を遅くするためのものだ。
猫目は前段階の失敗教訓を総括した。
第一に、互助会メンバーを単独目標として扱ってはならない。
今の彼らは、ルート、偽目標、紙資料の分割、普通人ノードによって保護されている。
一人を捕まえても、全資料が手に入るとは限らない。
第二に、車両だけを見ていてはならない。
東京は複数種類の低価値車両を使い始めており、途中で身分、物品、人員を替える。
より細かい「行動パターンモデル」を作る必要がある。
第三に、術式追跡だけに依存してはならない。
白川一音と特調室は、多くの追跡符、情緒反響、物件標記を処理できるようになっている。
混合追跡へ切り替える必要がある。
合法監視。
商業予約記録。
保険見積もり記録。
サプライヤー通話パターン。
普通のアルバイトによる観察。
低出力術式。
多層断片の統合。
第四に、普通ノードを低く見積もってはならない。
古書店の主人、写真館、青果市場の商人、花屋の車の運転手は、すべて抵抗ネットワークの一部である可能性がある。
第五に、白川一音は毎回前線にいるわけではない。
だが後段で出現する可能性がある。
そのため、捕獲行動には二つの目標を設計すべきである。
表面目標:互助会メンバーの捕獲または遮断。
隠れた目標:黒弦の反応を記録し、東京支援鏈を逼出し、護送資源を消耗させること。
第六に、猫目は術師だけを派遣してはならない。
契約、保険、世論、検査、サプライチェーン圧力を一緒に動かすべきである。
護送が始まる前に、東京を先に疲れさせる。
物質投入の面でも、猫目はアップグレードした。
彼らは東京辺縁行動組に、新しい「断片追跡システム」を配備した。
このシステムは、一人を単独で追跡するものではない。
複数の小さな信号を収集する。
ある非猫目物流車が二週間以内に何回出現したか。
ある古書店の周辺で、外来人員が急に増えていないか。
ある文化空間が異常な量の紙地図を購入していないか。
ある運転手が使い捨て携帯カードを頻繁に購入していないか。
ある互助会メンバーがよく通っている診療所の予約が、最近減っていないか。
これらは単独で見れば、どれも意味がない。
だが合わせると、護送準備が進んでいると推測できる。
桐島は言った。
「ルートを探すな」
「ルート準備前の物資変動を探せ」
猫目は、使い捨て小型観察器も増やした。
精密な位置特定はしない。
ただ、ある時間帯に誰かが通ったかどうかだけを記録する。
あまりにも低級なため、かえって黒弦の注意を引きにくい。
彼らは猫目術師の防護服もアップグレードした。
黒弦を防ぐためではない。
普通の防護服で黒弦を防げると考える者はいない。
ただ、黒弦が現れる前に、半秒の反応時間を稼ぐためだ。
半秒であっても、猫目の目には投資価値がある。
彼らはさらに「軟阻断小組」を増やした。
この種の人間は戦闘装備を着ない。
捕獲にも参加しない。
サプライヤーを遅らせる。
予備車両に検査を受けさせる。
ある安全屋の近くで突然工事を発生させる。
互助会メンバーの医療予約を臨時で変更させる。
ただ、それだけを担当する。
桐島は言った。
「護送当日にだけ仕掛ければ、彼らはもう準備している」
「なら、護送前日から乱せばいい」
猫目も、高くつき始めていた。
だが、猫目には金がある。
双方が初めて本当に「投入升级」を示した対抗は、一件の医療護送任務で起きた。
目標は互助会メンバー、水原千鶴。
彼女は四国地方連合残余の出身で、慢性病を抱えており、定期的に東京の非猫目協力診療所で薬を受け取る必要があった。
猫目支配区にいたころ、彼女の病歴は猫目医療システムに触れられていた。
東京へ逃げてから、彼女は大型病院のネット接続システムを使うことを恐れ、特調室が安排した独立診療所を通じて診療を受けるしかなかった。
今回の診療所行きは、本来、通常の低リスク任務だった。
だが猫目は、重要資料が移動するときまで待つ必要はないと学んでいた。
医療、薬、生活必需品。
こうしたもののほうが、人を固定ルートへ追い込みやすい。
東京もこの点を知っている。
だから今回の任務の投入は、以前よりずっと大きくなった。
小野寺は偽車を二台安排した。
一台は空車で明らかなルートを走る。
一台は普通のボランティアを患者家族に装わせて乗せる。
本物の水原千鶴は、女性運転手と一緒に、普通の家事サービス車に乗る。
彼女は清掃員の服を着ている。
薬箱も彼女の身にはない。
診療所は事前に紙の病歴副本を用意した。
薬は二つに分けられた。
一つは診療所に。
もう一つは前日に第二安全点へ移された。
それはすでに、以前よりかなり複雑だった。
だが猫目も何もしていなかったわけではない。
彼らは車を追わなかった。
代わりに、診療所近くの協力薬局へ突然「在庫検査」を受けさせた。
検査人員は猫目術師ではない。
合法部門が委託した第三方人員だった。
文書は本物。
手続きも本物。
ただ、時間があまりにも巧すぎる。
診療所は後門通路の一部を開け渡さざるを得なくなった。
それは護送ルートを破壊する。
小野寺が知らせを受けたとき、顔色はひどく悪かった。
「あいつら、準備段階を叩き始めた」
遠坂綾乃が言った。
「予備診療所は?」
「遠すぎる」
「予備薬は?」
「第二安全点にある。でも水原本人の診察が必要だ」
北見遥香が言った。
「移動診療に変えるのは?」
全員が彼女を見た。
彼女は言った。
「北海道の冬季には、医師が車上で診察する方案がありました」
「猫目も後に使いました」
「私たちも、逆に使えます」
医師は危険を冒す意思があった。
だが、設備が必要だった。
設備は診療所にある。
こうして、本来の医療護送は、設備護送へ変わった。
東京一般抵抗力量は臨時で計画を変えた。
医師と基礎検査設備を第二安全点へ移す。
水原千鶴は診療所へ行かない。
診療所を囮にする。
この変更は大胆だった。
そして混乱していた。
だが、猫目の第一層の軟阻断を避けることには成功した。
猫目術師の桐島は、すぐにルート変更を判断した。
「彼らは診療所へ来ていない」
「設備が動いたか?」
「はい」
「設備を追え」
彼は怒らなかった。
むしろ、とても冷静だった。
東京が臨時で計画を変えられるということは、彼らが進歩しているということだ。
だが臨時変更には、必ず新しい隙が生まれる。
設備車は人よりも追いやすい。
設備には重量があり、体積があり、搬送痕跡があるからだ。
桐島は二組の術師を派遣した。
第一組は人を追わず、設備だけを追う。
第二組は第二安全点の周辺に伏せる。
同時に、軟阻断小組を使って周辺道路に小規模な渋滞を作る。
東京側も調整していた。
小野寺は設備車を途中で箱分けさせた。
一部は必要設備。
一部は偽設備。
本物の設備は古いワゴン車へ移された。
偽設備は元ルートを進み続けた。
猫目の第一組は偽設備を見破った。
だが四分遅れた。
その四分の間に、医師はすでに第二安全点へ到着した。
水原千鶴も到着していた。
しかし、猫目の第二組が近づき始めていた。
彼らはすぐには突入しなかった。
代わりに、新しい装備を起動した。
低騒音空間圧縮器。
作用は単純だった。
安全点内の扉や窓の開閉を「不自然に重く」する。
封鎖するのではない。
ただ、引っかかるようにする。
すると中の人々は不安になり、撤離速度が落ちる。
同時に、猫目術師が三方向から近づく。
大立ち回りをするためではない。
白川一音が到着する前に、東京の普通護衛に誤った選択をさせるためだ。
このとき、私はやや離れた地点で待機していた。
任務は本来、低リスク医療護送だったからだ。
状況が升級すると、眼鏡の女性はすぐに私へ連絡した。
介入が必要になるかもしれません。
私は尋ねた。
「普通人は中にいますか?」
水原、医師、護送人員二名。
「猫目戦力は?」
二組の術師。装備は升級しています。
「出発します」
彼女は止めなかった。
私が到着したとき、猫目はすでに第二安全点へ接近していた。
小野寺と菅原涼が、人を後門から逃がそうとしていた。
後門は引っかかっている。
物理的に引っかかっているのではない。
空間圧縮器が、扉と扉枠の関係をずらしているのだ。
普通人では開けられない。
菅原涼なら破れる。
だが時間が必要だった。
猫目は時間をくれない。
三名の術師が階段から上がってくる。
二名は隣のベランダから接近している。
一名は階下で監視している。
今回は彼らは急いで人を捕まえようとはしていなかった。
私を待っていた。
私はそれを感じた。
これは罠の一部だった。
ソレンセンが黒海の中で言った。
「猫が賢くなったな」
「うん」
「奴らは、お前が新しい装備をどう切るか見たいのだ」
「それでも切らなきゃ」
彼らが観察したいからといって、人を救わないわけにはいかない。
これこそが猫目の巧さだった。
それは「誰かを守ること」さえ、私を観察する機会へ変える。
私が後門に着いたとき、水原千鶴の顔色は白く、医師は設備箱を守っていた。
小野寺は片手に地図、もう片手に強光懐中電灯を持っている。
菅原涼は歯を食いしばって扉を破ろうとしていた。
私は言った。
「下がってください」
黒弦が扉の隙間へ入る。
この低騒音空間圧縮器は、以前の装備より複雑だった。
核心が一つではない。
三つの分散ノードが共同でズレを形成している。
扉を直接切れば、扉を壊してしまう。
大きく切りすぎれば、空間反発を引き起こすかもしれない。
私は焦らなかった。
まず一つ目のノードを切る。
扉の隙間が少し緩む。
猫目術師が記録を始める。
彼らが黒弦の経路を記録しているのがわかった。
二つ目のノードは階段の手すりの下に隠されていた。
切る。
三つ目のノードは、階下の空調室外機のそばにあった。
距離が遠い。
黒弦を伸ばせば、より多くの経路を露出させることになる。
私は小野寺を見た。
「強光懐中電灯」
彼はすぐに理解し、階下へ光を向けた。
強光は攻撃ではない。
ただ、猫目の記録器を一瞬だけ白飛びさせるためのものだった。
その白飛びの瞬間に、私は三つ目のノードを切断した。
後門が戻る。
小野寺が低く言った。
「行くぞ!」
水原千鶴、医師、設備箱が護送されていく。
猫目術師は深追いしなかった。
彼らはすでに一部のデータを得ていたからだ。
私は記録符を二枚切断した。
だが、すべてを綺麗に切れたかどうかはわからない。
今回、私たちは人を守ることに成功した。
だが猫目もまた、いくつかの経験を得た。
双方に得るものがあった。
単純な勝利より、そのことのほうが不安だった。
戦後、東京の復盤はとても長かった。
小野寺がまず問題を挙げた。
「医療ルートが予測されやすすぎる」
「診療所と薬局を分離しなければならない」
「医師移動方案は事前に準備するべきで、臨時で思いつくものではない」
「設備箱が目立ちすぎる」
「後門空間圧縮器への対応が不足」
「白川さんの介入時、猫目の記録試行が明確だった」
佐野美紀が補足した。
「物資リストは、医療、人身、設備の三類に分ける必要があります」
「各類に偽目標も必要です」
菅原涼は言った。
「扉を開ける、扉を破る、扉を開けない。この三種類の撤離訓練が必要です」
北見遥香は言った。
「慢性病メンバーには、長期薬物備蓄を作らなければいけません」
遠坂綾乃は言った。
「それから、猫目が医療需求を通じて人を固定行動へ追い込むことを防がなければなりません」
私は言った。
「私が介入したとき、猫目はもう私を待っていました」
会議室が静かになった。
私は続けた。
「今後は、私の支援にも偽信号が必要です」
眼鏡の女性がうなずいた。
「模擬黒弦応答点を設置します」
小野寺が固まった。
「白川さんを模擬するんですか?」
「彼女本人を模擬するのではありません」
眼鏡の女性は言った。
「白川さんが介入しようとしているかどうか、猫目が判断できない信号を作るのです」
私は少し考えた。
「不確定にする」
「はい」
これが私たちの新しい投入だった。
物資だけではない。
不確定性もだ。
猫目側では、桐島も復盤を行っていた。
彼は行動結果をこう評価した。
目標捕獲なし。医療阻止なし。白川一音による分散空間圧縮設備への対応行動サンプルを一部取得。軟阻断は有効。ただし東京の臨時計画変更能力が向上している。
経験教訓。
第一に、医療護送は有効な切入口である。ただし、薬物需要と診療所代替方案を事前に掌握しなければならない。
第二に、東京は人、薬、設備を分離する。三種類の目標を同時に追跡する必要がある。
第三に、空間圧縮設備は遅延には有効だが、白川一音に対して長期的効果はない。次回は視覚記録干渉、偽ノード、情緒圧力と組み合わせるべきである。
第四に、強光、普通煙、機械阻隔などの低技術手段はいまだ猫目記録システムを妨害できる。装備に抗低技術干渉モジュールを加える必要がある。
第五に、東京は偽黒弦信号を準備している可能性がある。真偽応答判断モデルを構築すべきである。
第六に、一度の行動で人を捕まえられたかどうかを唯一の指標にしてはならない。東京の医療資源を消耗させ、予算を増やさせ、新人ノードを露出させることも成果に含まれる。
桐島は最後に書いた。
東京抵抗力量は物質投入を増やしている。そのシステムはなお低効率だが、回復能力を持ち始めている。次段階では、その補給、交代制、信頼構造を重点的に攻撃すべきである。
代理人はその一文を読み終え、低く言った。
「彼らもシステムになり始めている」
桐島は言った。
「はい。とても小さなシステムです」
代理人は言った。
「小さくても面倒だ」
桐島はうなずいた。
「彼らは、自分たちが小さいことを理解し始めているからです」
ニャーサは、双方の物資投入が上昇している報告を見ても、非常に平静だった。
「戦争が高くつき始めたね」
代理人は言った。
「はい」
「東京は車を買い、安全点を作り、新人を訓練し、運転手に補助を出し、医療備蓄を作っています」
「我々は追跡、圧縮器、軟阻断、記録設備、低技術干渉への対応をアップグレードしています」
ニャーサは軽く笑った。
「いいね」
代理人にはわからなかった。
「我々のコストも増えます」
「彼らのコストも増える」
「彼らの資金は我々より少ない」
「人も少ない」
「精力はもっと少ない」
それは東京の地図を見た。
「でも彼らは、正しい場所に金を使うことを覚え始めた」
「それは東京を食べにくくする」
代理人は頭を下げた。
「では、進攻を加速しますか?」
「しない」
ニャーサは言った。
「コストを上げ続けさせる」
「一度誰かを守るたびに、車、飯、医師、紙地図、運転手、偽ルート、白川一音の後備、心理支援が必要になったとき、彼らは問い始める」
「そこまでして、価値があるのかと」
代理人は沈黙した。
ニャーサは続けた。
「私たちは、彼らにその問いをさせる」
「彼らが問い始めれば、内部に亀裂が生まれる」
代理人は記録した。
だが心の中では、東京側も別の答えを準備していることを知っていた。
価値がある。
もし彼らがずっとそう答え続けられるなら、猫目の消耗策はそれほど簡単には成功しない。
数日後、水原千鶴は薬を受け取った。
彼女は護送に関わった全員へ、とても短い紙片を書いた。
病気を理由に猫目の手へ戻らずに済ませてくれて、ありがとうございます。
その紙片は青い橋バックヤードの掲示板に貼られた。
その隣には、新しい予算表がある。
車両維持費。
おにぎりと熱いスープ代。
紙地図印刷費。
安全屋の鍵代。
医師移動診療補助。
新人訓練材料費。
強光懐中電灯補充。
雨合羽。
予備の靴。
心理支援用の茶菓子。
これらは、戦争のようには見えない。
だが、戦争の一部だった。
占領するためではない。
人が猫目に連れていかれないようにするために。
私は掲示板の前に立ち、長いあいだ見ていた。
小野寺が歩いてきた。
手には温かいおにぎりがある。
「何を見てるんですか?」
「東京が高くなっていくところを見ています」
彼は苦笑した。
「抵抗は昔から高いんですよ」
「以前は書き出していなかっただけ?」
「そうです」
彼はおにぎりを一つ差し出した。
「食べます?」
私は受け取った。
「ありがとうございます」
彼は掲示板を見た。
「猫目はまた総括します」
「私たちもします」
「あいつらのほうが金は多い」
「こちらは、文句を言う人のほうが多いです」
私は彼を見た。
彼は真面目に言った。
「文句は役に立ちます」
「どうして?」
「文句を言えるということは、まだ自分を道具だと思っていないということです」
私は少し笑った。
その言葉は正しかった。
猫目が欲しがるのは、滑らかな道具だ。
東京側にいるのは、滑らかでない人ばかりだ。
腹が減る。
怖がる。
泣く。
予算が足りないと文句を言う。
温かいご飯を求める。
使い捨て品として扱われることを拒む。
それはとても面倒だ。
そして、それこそがまだ猫目に呑み込まれていない証明だった。
その夜、私は備忘録に書いた。
双方とも総括している。
猫目はおそらく、人をどう捕まえるか、ルートをどう変形させるか、黒弦をどう記録するか、保護者をどう消耗させるかを総括している。
東京は、どうやってルートを断裂させるか、資料を分散するか、車両、安全屋、装備、医療、飯、新人訓練へ投入するかを総括している。
猫目は高効率装備を増やす。
東京は不器用な冗余を増やす。
猫目が私たちを疲弊させ、「価値があるのか」と問わせたいなら。
私たちは答えられなければならない。
価値がある、と。
書き終えると、私は少し止まった。
そして、さらに一文を書き加えた。
でも、少数の人だけに全員の代わりに答えさせてはいけない。
これはとても重要だった。
もし「価値がある」という言葉が、小野寺を寝かせないこと、菅原涼を怪我させ続けること、私に任務へ出続けさせることを意味するのなら、それはまた別の消耗になってしまう。
本当の「価値がある」には、交代する人がいること。
お金を出す人がいること。
ご飯を作る人がいること。
引き継ぐ人がいること。
「もう無理なら休め」と言う人がいること。
それが必要だ。
ソレンセンが黒海の中で言った。
「お前たちの戦争は、ますます雑貨屋の帳簿みたいになってきたな」
「うん」
「見栄えが悪い」
「でも、生きられる」
それはしばらく沈黙した。
「生きられるなら、それでいい」
私は本を閉じた。
窓の外で、東京はまだ明るかった。
猫目は次にどう人を捕まえるかを、まだ総括している。
東京も次にどう人を守るかを、まだ総括している。
双方とも投入を増やしている。
戦争は高くつき始めた。
そして私たちがしなければならないのは、人を守るコストがどれほど高くなっても、人が守ることを諦めるほど高くはさせないことだった。