俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第105章 第三輪護送、そして猫目は「準備段階」を攻撃し始めた
水原千鶴の医療護送のあと、東京と猫目はどちらも、すぐには次の大きな行動を起こさなかった。
表面上は、二週間静かだった。
この二週間、東京は突破されなかった。
京都内層も失守しなかった。
A大学では普段どおり授業があった。
青い橋も普段どおり小型活動を開いていた。
互助会も普段どおり地方失敗事例を整理していた。
非猫目サプライチェーンも普段どおり予算不足に文句を言っていた。
けれど全員が知っていた。
これは休息ではない。
双方が宿題を直している時間だった。
東京は護送方案を修正している。
猫目は捕獲方案を修正している。
東京の総括はこうだった。
猫目はすでに、医療、薬物、設備、そして準備段階を攻撃し始めている。
猫目は、必ずしも護送当日に現れるとは限らない。
猫目は事前に車を遅らせ、診療所へ検査を入れ、設備ルートを変化させ、護送者を疲弊させる。
だから東京は、「人が移動するその瞬間」だけを守っていてはいけない。
行動開始前の三日間も守らなければならない。
場合によっては、一週間前から。
猫目の総括はこうだった。
東京はすでに小型車両プール、安全屋の等級化、紙ルート、偽目標、移動医療、後備黒弦応答を構築し始めている。
直接遮断は、なお失敗する可能性がある。
白川一音が介入した後、普通術師小隊は主導権を保ちにくい。
だから猫目は、人を捕まえるだけではいけない。
準備段階を攻撃する必要がある。
護送が始まる前に、すでに変形し、延期され、口論になり、疲労し、予算超過するようにする。
双方とも、次が簡単ではないと知っていた。
ただ、次がどこから始まるのかは誰も知らなかった。
第三輪対抗の目標は、互助会メンバーの一人、藤沢直人だった。
彼は九州玄海鎮守連合の外縁経済部門出身だった。
術師の高手ではない。
家門の継承者でもない。
以前は、漁港保険、船舶修理補助、地方巡査隊の財務記録を担当していた。
玄海鎮守が核心神社へ退いたあと、藤沢直人は一批の紙帳簿と古いパソコンのハードディスクを持ち出した。
それらの資料は、猫目がどのようにして、まず漁港夜間照明の維持を通じて入り込み、次に保険評価を通じて船舶の出航リスクを制御し、最後に本来玄海鎮守に属していた巡査補助を猫目プラットフォーム審査項目へ変えたのかを証明できる。
これは東京にとって重要だった。
東京湾周辺にも、漁港、倉庫、活動埠頭、小型物流拠点があるからだ。
もし猫目が同じ方法で東京湾辺縁へ入り込めば、東京核心はゆっくりと締めつけられる。
藤沢直人は、新しい資料解読点へ移らなければならなかった。
そこには漁港保険に詳しい人も、古いパソコンのハードディスクを読める技術者もいる。
今回の任務は、普通の資料護送のように見えた。
けれど全員が、猫目は必ず見ていると知っていた。
東京の今回の第一の変更は、七日前から「影の準備」を始めることだった。
本当の護送日がまだ決まっていない時点で、小野寺は三批の偽購買を安排した。
一批は紙地図。
一批は医療用品。
一批は舞台設備の消耗品。
これらはすべて本物だった。
そして、実際に使われるものでもある。
ただし、今回の任務の核心ではない。
目的は単純だった。
どの購買がどの護送に対応しているのか、猫目に判断できなくさせること。
佐野美紀は、これらの購買を普通の文化活動補給申請にした。
彼女は書類を作りながら文句を言った。
「あなたたち、今度は偽購買まで本物にするんですね。予算が爆発しますよ」
小野寺は言った。
「偽物が完全に使えないものなら、見抜かれやすい」
佐野美紀はため息をついた。
「あなたたち、普通の活動主催者の十倍は面倒です」
「でも、少なくとも支払いはします」
「そこは評価できます」
彼女は口では文句を言いながら、表はとても真面目に作った。
各購買項目には合理的な用途がある。
どのサプライヤーも単一点依存にならない。
どの支出も、非猫目審査の中で説明できる。
これこそが東京の新しく学んだことだった。
反猫目は、秘密だけに頼ってはいけない。
公開部分も、検査に耐えられなければならない。
猫目もまた、これらの購買を発見した。
桐島の断片追跡システムは、いくつかの異常を捕捉した。
紙地図の購買増加。
使い捨て保温箱の購買増加。
非ネット接続トランシーバー用電池の購買増加。
青い橋周辺での志願運転手の活動増加。
ある古いパソコン修理店への匿名相談。
それらは、すべて護送を示している可能性がある。
あるいは、東京が意図的に放った雑音かもしれない。
桐島は急いで判断しなかった。
猫目辺縁行動室でスクリーンを見つめながら、彼は言った。
「彼らはノイズを作ることを覚えた」
部下が尋ねた。
「全部圧制しますか?」
「しない」
「なぜですか?」
「全部圧制すれば、こちらが全部見ていると彼らに教えることになる」
桐島はペンで三つの節点を囲んだ。
「一つだけ潰す」
「どれを?」
「古いパソコン修理店だ」
部下は少し意外そうだった。
「車両ではなく?」
「車両は彼らがこちらに注目してほしいものだ」
「地図と保温箱も同じだ」
「古いパソコン修理店は目立たない」
「九州資料に古いハードディスクがあるなら、彼らは必ず解読が必要になる」
桐島の判断は正確だった。
これこそが猫目の恐ろしいところだった。
全部を知る必要はない。
雑音の中から、最も本当の需要に近い一点を見つければいい。
その夜、古いパソコン修理店に消防安全の苦情が入った。
翌日、上階で水漏れが発生した。
三日目、修理店の主人の息子が通う学校に匿名の注意喚起が届いた。
近ごろ、誰かが父親を「違法資料処理」に利用する可能性がある、という内容だった。
術式はない。
戦闘もない。
猫目ロゴもない。
だが、主人は怖くなった。
彼は小野寺に連絡して言った。
「この仕事は受けられません」
藤沢直人の護送はまだ始まっていない。
それなのに、最初の重要準備点が猫目に潰された。
東京の復盤は速かった。
小野寺は主人を責めなかった。
彼は言った。
「彼には息子がいる」
遠坂綾乃がうなずいた。
「猫目は準備段階に家族圧力を使い始めました」
北見遥香が言った。
「北海道でもそうでした。本人を脅すのではなく、家族が巻き込まれると思わせるんです」
佐野美紀が尋ねた。
「予備の修理点は?」
小野寺は少し沈黙した。
「ある」
「遠いですか?」
「遠い」
「ルートが変わりますか?」
「変わる」
会議室の空気が少し沈んだ。
これこそが猫目の狙いだった。
必ずしも人を捕まえる必要はない。
東京にルートを変更させるだけで、後続準備は乱れる。
そのとき、ずっと横に座っていた三浦蒼介が口を開いた。
「僕が古いハードディスクを一部読めます」
全員が彼を見た。
彼は少し緊張していた。
「東北資料館でも、以前は古いシステムを使っていました」
「全部解読できるとは限りませんが、初期抽出ならできます」
小野寺が尋ねた。
「あなたは護送対象の一人でもあります。リスクが上がります」
三浦蒼介はうつむいた。
「わかっています」
北見遥香は彼を見た。
「本当にいいの?」
彼は言った。
「僕は、ずっと守られるだけの人でいたくありません」
その言葉で、会議室は静かになった。
互助会メンバーが、保護システムの一部へ変わりつつある。
それは良いことだ。
同時に、リスクでもある。
猫目が最も得意なのは、そうした「自分も役に立ちたい」という責任感を攻撃することだからだ。
遠坂綾乃は言った。
「彼にやってもらっても構いません。ただし、一人でやらせてはいけません」
小野寺はうなずいた。
「技術ボランティアを二名つけます」
佐野美紀が補足した。
「オフラインのパソコン予備も用意してください。読み取り作業を一台の機械へ集中させないように」
東京の最初の調整。
外部修理店だけを探すのをやめた。
能力を互助会内部へ分散し直したのだ。
遅い。
専門的ではない。
けれど、猫目の一通の苦情で切断されにくい。
猫目の第二歩は、車両プールへの攻撃だった。
今回は車牌を見ていなかった。
保険を見ていた。
車両プールの数台の車は、分散登録されているとはいえ、保険が必要だった。
東京はできる限り異なる保険渠道を使っていた。
だが猫目は断片追跡を通じ、数台の車が最近、似たような「文化活動臨時輸送追加保険」を購入していることを発見した。
これは正常なことだ。
だが、目立つことでもあった。
そこで猫目の軟阻断小組は、そのうちの一つの非猫目保険代理に監管問い合わせを受けさせた。
問い合わせ内容は合法だった。
一部車両の用途説明の追加を求めるものだ。
代理会社は小さく、すぐに緊張した。
保険を取消したわけではない。
だが東京側へ追加資料を求めてきた。
資料の補足には時間がかかる。
護送車は待てない。
小野寺は知らせを受けると、ペンを机へ叩きつけた。
「奴ら、車じゃなく保険を叩いてきた」
佐野美紀が言った。
「とても賢いです」
小野寺は彼女を睨んだ。
彼女は両手を広げた。
「相手が賢いと言っているだけです。褒めているわけではありません」
遠坂綾乃が言った。
「予備方案は?」
小野寺は言った。
「臨時追加保険が必要ない普通生活車を使う」
「リスクは?」
「設備が積めない」
「では、設備を減らす」
「何を減らしますか?」
全員が物資リストを見た。
強光懐中電灯。
機械警鈴。
予備の衣類。
熱いスープ用の保温箱。
紙地図バッグ。
折り畳みバリケード。
小型干渉符。
医療バッグ。
どれも減らせそうに見える。
だが、どれも減らすべきではない。
最終的に彼らは決めた。
熱いスープ用の保温箱は外さない。
小野寺はとても頑固だった。
「人は冷えます」
誰も反対しなかった。
折り畳みバリケードを半分に減らす。
機械警鈴を一つ減らす。
予備の衣類を減らす。
強光懐中電灯は残す。
医療バッグも残す。
これが、猫目による保険攻撃の効果だった。
行動を中止させたわけではない。
だが、東京に一部装備を減らさせた。
猫目は、東京の脆弱性を高めることに成功した。
第三歩で、猫目は人を攻撃した。
目標の藤沢直人ではない。
護送者だった。
一人の志願運転手の母親が入院した。
時期があまりにも巧すぎた。
病院は突然、家族に一つの資料を追加提出するよう求めた。
その運転手は、処理に向かわなければならなかった。
護送には参加できない。
もう一人の若い護送員は、勤務先から急な残業を命じられた。
理由は合理的だった。
プロジェクトが締切前だからだ。
行かなければ給料を引かれる。
三人目の無門術師は、低級異常の救援要請を受けた。
場所は護送ルートから遠い。
要請そのものは本物だった。
行かなければ、そこの住民に被害が出るかもしれない。
これが猫目の新しい策略だった。
必ずしも偽問題を作る必要はない。
ときには、本物の問題を同じ日に押し寄せさせるだけでいい。
人手は足りなくなる。
小野寺はシフト表を見て、どんどん顔色を悪くした。
「奴ら、輪番を叩き始めた」
遠坂綾乃が言った。
「それは輪番制度が有効だということです」
「有効だから攻撃してきた」
北見遥香が尋ねた。
「人は補充できますか?」
小野寺はすぐには答えなかった。
新人訓練は始まったばかりだ。
簡単な観察はできる人もいる。
だが高リスク護送へ出せる段階ではない。
最終的に、榊真理が提案した。
青い橋で今夜予定されていた小型上映を一つ中止し、現場担当の予定だった二名のボランティアを護送外縁へ回す。
そうすれば、青い橋はチケット収入を失う。
観客も失望する。
榊真理は言った。
「返金します」
「説明は私がします」
これが物質投入だった。
金だけではない。
一つの活動を諦めることでもある。
東京抵抗力量は、より具体的な代価を払うようになっていた。
護送当日、藤沢直人は古いアパートの一室で待機していた。
彼は松尾老人よりずっと若く見えたが、精神的にはずっと張りつめていた。
九州から来た風と東京の風は違う。
彼は話すとき、よく途中で止まった。
何かを言い漏らしていないか確認しているようだった。
彼の手には、古い鍵束があった。
玄海鎮守外縁倉庫から持ち出してきたものだ。
今では、その鍵はどの倉庫も開けられない。
猫目が接管したあと、錠はすべて交換された。
けれど彼は、ずっと持っていた。
私が会ったとき、彼はその鍵を服の中に隠した。
まるで私までもが、捨てろと言うのではないかと恐れているようだった。
私は言った。
「持っていて大丈夫です」
彼は固まった。
「本当に?」
「うん」
「もう役に立ちません」
「それでも、あなたのものです」
彼はうつむき、鍵を見た。
「以前は、十数棟の倉庫の鍵を持っていました」
「今は?」
「今は、音だけです」
彼は軽く鍵を揺らした。
金属がぶつかる音は小さかった。
「この音を聞くと、昔、本当にあの場所を持っていたのだと思えるんです」
私は何も言わなかった。
互助会メンバーにとって、そうした役に立たないものがとても重要だと知っていたからだ。
絵葉書。
古い帳簿。
鍵。
家書。
それらは猫目を倒せない。
けれど、自分たちが何もないところから敗れたわけではないと証明してくれる。
彼らには、かつて場所があった。
仕事があった。
倉庫があった。
家があった。
今回の護送で、東京は新しい方法を使った。
単線移動ではない。
「波紋式転移」だった。
藤沢直人本人は、短い距離だけを移動する。
そして止まる。
周囲では三本の偽線が同時に動く。
一本は偽ハードディスクを持つ。
一本は偽帳簿を持つ。
一本は無人の空車。
本物の資料は、三浦蒼介と二名の技術ボランティアが事前に分批処理し、重要目録を抽出したあと、紙の要約として移送する。
つまり、藤沢直人の身には完全な資料はない。
古いハードディスクも彼の身にはない。
彼が持っているのは、重要ではなさそうに見えるが帳簿解釈を助ける手書きの備考だけだった。
猫目が人だけを捕まえても、完全な資料は手に入らない。
ハードディスクだけを捕まえても、全部は読めない。
紙要約だけを捕まえても、文脈が欠ける。
非常に面倒だ。
東京自身にとっても面倒だ。
だが、それこそが目的だった。
どの一点も、全体ではないようにする。
猫目はすぐに三本の偽線を見つけた。
だが桐島は、すぐには追わなかった。
今回、東京には必ず偽目標があると知っていたからだ。
そこで彼が観察したのは、「誰が偽目標を守っているか」だった。
もし一つの線があまりにも真剣に守られていれば、本物かもしれない。
まったく守られていなければ、偽物かもしれない。
だが東京は、今回はさらに一歩学んでいた。
偽目標にも人をつけて守っていた。
多くはない。
だが十分に本物らしい。
小野寺は言った。
「偽物も本物みたいにしろ」
佐野美紀は文句を言った。
「だから予算が爆発するんですよ」
だが効果はよかった。
猫目は短時間では判断できなかった。
桐島は最終的に二本の線を追い、同時に軟阻断で三本目を圧迫することを選んだ。
本物の藤沢直人の線は、逆に一時的にロックされなかった。
第一段階、成功。
だが猫目は負けていなかった。
なぜならその真の目的の一つは、消耗だったからだ。
猫目は東京に、三本の偽線と一本の本線を同時に守らせた。
それぞれの線に人がいる。
車がいる。
食事がいる。
術式検査がいる。
復盤がいる。
これが消耗だ。
小野寺はもちろん、それを知っていた。
それでも彼は言った。
「金を使わされても、人を連れていかれるよりはましです」
誰も反論しなかった。
中段で、最初の正面対抗が起きた。
猫目の装備小隊が、偽ハードディスク線を遮断した。
この線は真壁仁が率いていた。
車の中には、偽ハードディスクと二名の普通護送員しかいない。
以前なら、彼らはそのまま放棄したかもしれない。
どうせ偽目標だからだ。
だが今は、それができない。
偽目標が一触れで崩れるなら、猫目は本当の目標がそこにいないと知る。
だから真壁仁は、本物のように戦わなければならなかった。
彼は二名の普通護送員を連れて、古いコミュニティセンターへ逃げ込んだ。
猫目術師四名が包囲してくる。
装備は前回より良くなっていた。
圧制器には、普通煙への干渉耐性モジュールが追加されている。
面罩も強光の点滅を濾過できる。
明らかに、青果市場と医療護送の教訓を吸収していた。
真壁仁は低く悪態をついた。
「向こうも升级が早すぎる」
一名の護送員が尋ねた。
「どうしますか?」
真壁仁は言った。
「もっと不器用なものを使う」
彼らは煙を使わなかった。
強光も使わなかった。
代わりに、コミュニティセンターの古い館内放送を起動した。
警報を流したのではない。
地域通知の録音を流したのだ。
音はうるさかった。
内容はこうだった。
今月のごみ分別説明会は三階で行われます。住民の皆様は時間どおりにご参加ください。
猫目術師は明らかに一瞬固まった。
その音には術式的意味がない。
攻撃性もない。
リズム干渉の設計もない。
ただうるさい。
非常にうるさい。
同時に、二名の護送員はコミュニティセンターの倉庫にあった折り畳み椅子を全部倒した。
廊下は一瞬で、ただの雑物の山になった。
猫目装備は術式煙を濾過できる。
強光に耐えられる。
だが、四人を大量の散らかった折り畳み椅子の中で優雅に進ませることはできない。
真壁仁はその隙に旧符で一人の圧制器接続を切った。
大勝ではない。
ただの時間稼ぎだ。
三分。
偽ハードディスク線が「本物のように苦労して撤退する」のに十分な時間だった。
猫目は、自分たちが硬い骨を噛んだと思った。
実際には、それは偽の骨だった。
だが彼らは力を使って噛まなければならない。
それが東京の新しい方法だった。
偽目標にも猫目を消耗させる。
本物の藤沢直人線は、後半で桐島本人と遭遇した。
意外ではなかった。
桐島は最終的に、いくつかの手がかりを判断していた。
資料を見つけたからではない。
本物のルートがあまりにも「普通」だったからだ。
過剰な防護がない。
偽動作も多くない。
あるのは、地域サービス車一台、老人活動センターのボランティア身分、普通の紙袋、そして二名の新人護送員だけ。
桐島は、東京が裏をかき、本物の目標を低価値移動に偽装したのだと気づいた。
彼は小型地下駐車場に現れた。
藤沢直人は、ちょうど車を乗り換えようとしていた。
二名の新人護送員の顔色が一瞬で真っ白になる。
彼らは訓練を受けている。
だが、猫目の指揮級術師と正面で遭遇するのは初めてだった。
桐島はすぐには出手しなかった。
藤沢直人を見て言った。
「藤沢さん、あなたの手元の鍵は、もうどの扉も開けられません」
藤沢直人は硬直した。
桐島は続けた。
「我々と一緒に戻ることができます」
「猫目はあなたに新しい仕事を提供できます」
「倉庫システムには、まだ旧帳簿に詳しい人材が必要です」
これは非常に精准な誘惑だった。
金ではない。
脅しでもない。
彼に、もう一度「有用な人間」になれる可能性を差し出したのだ。
藤沢直人が一番痛んでいる場所は、自分がかつて持っていた鍵が今では役に立たないことだった。
桐島は、そこを掴んだ。
二名の新人護送員は、どうすればいいのかわからなかった。
訓練では、心理誘導に遭遇したら割り込めと言われていた。
だが緊張しすぎて、すぐには声が出なかった。
藤沢直人の指が古い鍵へ伸びかけたとき、駐車場の隅から声がした。
「鍵が扉を開けられなくても、その扉がかつて誰のものだったのかは証明できます」
北見遥香だった。
彼女は本来の計画では前線ではなかった。
だが互助会の心理支援人員として、駐車場の反対側で待機していた。
小野寺は本当は、彼女をそこまで前へ出したくなかった。
彼女が押し切った。
そして今、彼女が機能した。
藤沢直人は顔を上げて彼女を見た。
北見遥香は言った。
「錠を取り替えた人に、古い鍵を渡してはいけません」
その言葉で、藤沢直人は少しだけ正気に戻った。
桐島は彼女を見た。
「北見さん、あなたも同じです。北海道を離れてこれほど経つのに、疲れませんか?」
北見遥香の顔が白くなった。
桐島は続けた。
「あなたの家族は、今も猫目支配区にいます」
「東京が本当に彼らを守れると思っていますか?」
北見遥香は答えなかった。
だが、退かなかった。
そのとき、小野寺が後備信号を押した。
心理誘導が互助会メンバーの核心を攻撃し始めたからだ。
私が信号を受け取ったとき、駐車場から二本の通りを隔てた場所にいた。
眼鏡の女性が低く言った。
「桐島です。気をつけてください。あなたを待っている可能性があります」
「わかっています」
私が到着したとき、桐島は驚かなかった。
むしろ、少し安心したようにさえ見えた。
「白川さん」
私は駐車場へ入った。
黒弦が地面に貼りついている。
「今回は何を記録したいんですか?」
桐島は少し笑った。
「あなたは、ますます直接的になりましたね」
「あなたたちは、ますます面倒になりました」
「お互いに」
彼はすぐには部下に攻撃を命じなかった。
代わりに手を上げた。
駐車場の中に十数個の小型偽ノードが現れる。
それらは猫目術式核心、圧制器、記録符、追跡標記を模していた。
本物もある。
偽物もある。
目的は、私に切り間違えさせ、ためらわせ、判断ロジックを露出させることだった。
私は立ち止まった。
急いで切らなかった。
ソレンセンが黒海の中で言った。
「猫が毛糸玉を投げている」
「うん」
「全部拾うな」
私はそれらのノードを見た。
そして、桐島が予想していなかった選択をした。
一つも切らなかった。
黒弦は地面に沿って、藤沢直人、北見遥香、二名の新人護送員の足元へ直接滑り、小範囲の保護圏を作った。
猫目のノードには触れない。
判断を露出させない。
ただ人を守る。
桐島の目が変わった。
「ノードを処理しないのですか?」
「私の任務は、彼らを連れて離れることです」
「もし本物のノードだったら?」
「それでも、あなたがここに残したものです」
私は彼を見た。
「あなたは、私に謎解きへ時間を使わせたい」
「私は解きません」
小野寺が反対側から突入してきた。
地域サービス車を連れている。
「乗れ!」
藤沢直人が護送されて車に乗る。
北見遥香も乗る。
二名の新人護送員も続く。
桐島はついに部下へ行動を命じた。
だが、私はもうすべてのノードを切る必要はなかった。
車の離脱を妨げる二本の線だけを切る。
一本。
二本。
車は駐車場を飛び出した。
桐島は追わなかった。
彼の目的の一つは、なお記録だったからだ。
だが今回、彼が記録したのはこういうことだった。
白川一音はもう、偽ノードに引きずられない。
それは彼にとって新しい情報だった。
そして私にとっても、新しい経験だった。
猫目の線すべてを切らなければならないわけではない。
中には、私に切らせるために置かれた線もある。
第三輪護送は、最終的に成功した。
藤沢直人は資料解読点へ無事到着した。
九州漁港帳簿は第一段階の整理を終えた。
三本の偽線のうち、二本は露出した。
一本は安全に撤収した。
真壁仁は軽傷。
一名の新人護送員に急性ストレス反応が出て、休息が安排された。
青い橋は一つの活動を中止し、小額の損失を出した。
車両プールの二台は、ルート身分を再変更する必要がある。
予算は超過した。
だが人員は全員いる。
資料もある。
今回は、東京の大勝ではなかった。
猫目の大敗でもなかった。
双方とも、教訓を得た。
東京が学んだこと。
猫目はすでに準備段階、保険、人手、心理弱点、判断ロジックを攻撃し始めている。
偽目標も、本物の目標のように守らなければならない。
後備支援は線を切るだけではなく、猫目が意図的に置いた線を切らないことも覚えなければならない。
互助会メンバーは保護に参加できるが、境界が必要であり、責任感を新しい弱点にしてはいけない。
猫目が学んだこと。
東京は購買ノイズを作れる。
資料を分割できる。
波紋式転移を使える。
偽目標で猫目を消耗させられる。
白川一音はすべての術式ノードを優先処理せず、直接人員の撤離を守る可能性がある。
互助会の心理支援人員自身も、護送における重要節点になり得る。
双方とも賢くなっていた。
そして、双方とも高くつくようになっていた。
復盤会で、小野寺は超過表を見つめ、顔色を重くしていた。
「今回は金がかかりすぎた」
佐野美紀が言った。
「でも成功しました」
「毎回こんなに高くつく成功では困ります」
遠坂綾乃が言った。
「猫目は、まさに私たちにその言葉を言わせたいのです」
小野寺は眉間を揉んだ。
「わかっています」
北見遥香が言った。
「なら、もっと構造的にお金を使いましょう」
三浦蒼介が補足した。
「資料処理はこちらで外部依存を減らせます」
菅原涼が言った。
「無門術師は新人を訓練する必要があります。でないと毎回同じ人が出ることになります」
真壁仁が包帯を巻いた手を上げた。
「賛成」
会議では新しい投入が列挙され始めた。
小型オフライン資料処理組の設立。
心理誘導への対応訓練の増加。
低価値で交換可能な車両の追加購入。
新人護送員は、最初から核心線へ入れず、観察担当に配置すること。
偽ノード識別訓練の設置。
護送後のストレス反応のための休息点の準備。
「切らない」訓練の追加。
最後の一項は、私が提案したものだった。
最初、皆は意味を理解できなかった。
私は説明した。
「猫目はいくつかの線を置きます。私や他の術師に処理させるために」
「私たちが毎回処理すれば、足止めされます」
「だから判断訓練が必要です」
「どの線は切らなければならないのか」
「どの線は切らなくてもいいのか」
小野寺はうなずいた。
「出なくていい電話みたいなものですね」
佐野美紀が言った。
「返さなくていいメールみたいなものですね」
遠坂綾乃が言った。
「検討しなくていい協力提案のようなものです」
皆、突然理解した。
猫目の多くの攻撃は、本質的には「あなたに応答させる」ことだった。
応答した時点で、消耗する。
だから、応答しないことを学ぶのも、抵抗の一つだった。
猫目内部の復盤も、さらに細かくなった。
桐島は報告にこう書いた。
第三輪護送において、東京は購買ノイズ、資料分割、偽目標の実質保護、心理支援の前置、波紋式転移を成功裏に使用した。
こちらの準備段階攻撃は有効であり、修理点変更、装備削減、青い橋の活動中止、予算消耗の増大を強いた。
藤沢直人の捕獲には失敗。
完整帳簿の取得にも失敗。
白川一音の最新対応傾向を確認。すべての術式ノードを処理せず、人員撤離保護を優先する。
次回提案。
一、明らかな偽ノードを減らし、実際に人員へ軽微な影響を与える半真ノードへ変更する。
二、心理支援人員を攻撃し、目標の情緒安定を妨げる。
三、準備段階における家庭圧力と職業圧力を拡大する。ただし東京の強烈な反発を招かないよう注意する。
四、互助会内部の資源分配争議を作る。
五、東京の保護コストを持続的に引き上げ、誰を守り、誰を諦めるかを選ばせる。
代理人は読み終えると、最後の一文に長く指を止めた。
誰を守り、誰を諦めるかを選ばせる。
これは最も残酷で、最も有効な方向だった。
猫目は毎回人を捕まえる必要はない。
資源不足の中で東京に口論を起こさせるだけでいい。
なぜ藤沢を守って、水原を守らないのか。
なぜ北見家の書信通道があり、他の人にはないのか。
なぜ白川一音はこの線を支援し、あの線を支援しないのか。
なぜ青い橋は活動を中止して安全を換えられるのに、他の文化空間はできないのか。
こうした問題が互助会を引き裂き始めれば、猫目は一部勝ったことになる。
代理人は報告をニャーサへ渡した。
ニャーサは読み終えると、軽く笑った。
「桐島はよく学んでいるね」
代理人が尋ねた。
「次回提案を実行しますか?」
「一部だけ実行する」
「どれを?」
「資源分配争議」
代理人はうつむいた。
ニャーサは続けた。
「急いで人を捕まえなくていい」
「先に彼らを争わせる」
「人間は保護が足りないとき、最も互いを責めやすい」
「白川一音は全員を守ろうとする」
「でも、彼女には全員を守れない」
それは東京の地図を見た。
「これは面白くなる」
数日後、互助会内部に、実際に争議が現れ始めた。
猫目が直接言ったわけではない。
いくつかの自然に見える問題だった。
ある地方残余メンバーが尋ねた。
「なぜ九州資料護送には四本の線を使えるのに、私たち家族の手紙は待たなければならないのですか?」
別の人が言った。
「水原さんの医療護送にはあれだけ投入したのに、私たちの住処のアップグレードはいつですか?」
誰かが小声で言った。
「白川さんは、いつも数人の重点人物だけを守っている」
その言葉が耳に入ったとき、心臓が強く沈んだ。
彼らに悪意があるからではない。
彼らが痛んでいるからだ。
猫目が掴んでいるのは、その痛みだった。
資源が足りないとき、人は誰でも問う。
なぜ私ではないのか。
なぜ私はまだ待たなければならないのか。
なぜ私の故郷の資料は、十分重要ではないのか。
なぜ私の家族には手紙がないのか。
なぜ彼女は他の人を救って、私を救わなかったのか。
こうした問いは、とても人間的だ。
そして、とても危険だ。
互助会は、とても長い内部会議を開いた。
遠坂綾乃が進行した。
北見遥香も発言した。
小野寺は予算表を出した。
特調室は透明説明を提供した。
私も行った。
前には立たなかった。
ただ、横に座っていた。
やがて、誰かが尋ねた。
「白川さん、あなたはもっと多くの護送を受けられませんか?」
会議室が静かになった。
私はゆっくり立ち上がった。
「私は、毎回到着できるとは保証できません」
その人の顔色はとても悪かった。
「でも、あなたが来れば成功率はかなり上がります」
「はい」
「なら、なぜもっと来ないのですか?」
その問いは刃のようだった。
私は手を握りしめた。
「私が毎回来れば、猫目は毎回私を中心に設計してきます」
「それに、私は無限ではありません」
「そして東京は、すべての護送を黒弦任務へ変えてはいけません」
「何よりも……」
私は一度止まった。
「もし私が全員を守ると約束したら、最後には必ず、私ができなかったことで絶望する人が出ます」
会議室はとても静かだった。
その人はうつむいた。
「じゃあ、私たちはどうすればいいんですか?」
私は彼を見た。
「規則をはっきりさせることです」
「どの任務を優先するのか」
「なぜ優先するのか」
「誰が決めるのか」
「どう異議を出すのか」
「どう輪番するのか」
「優先されなかった人にも、自分は見捨てられていないとわかるようにするにはどうするのか」
これは戦闘ではなかった。
けれど、戦闘より難しかった。
遠坂綾乃が言葉を引き継いだ。
「ですから、今日は互助会保護優先順位の公開規則を作ります」
北見遥香が言った。
「家書と物資通道の輪番表も必要です」
小野寺が言った。
「予算も、公開できる範囲で公開します」
誰かが尋ねた。
「それで露出しませんか?」
遠坂綾乃は言った。
「細部は公開しません」
「原則を公開します」
「秘密は、人に互いを疑わせる理由であってはなりません」
その会議は深夜まで続いた。
激しく口論した。
泣く人もいた。
怒る人もいた。
不公平だと言う人もいた。
それでも最終的に、互助会は最初の保護優先原則を作った。
医療緊急を優先。
直接露出リスクを優先。
代替不能資料の携帯を優先。
家書および故郷物資通道は輪番制。
白川一音の支援は常規承諾ではなく、高リスク後備として扱う。
予算は月に一度説明する。
これは完璧ではなかった。
けれど、沈黙よりはよかった。
猫目は資源争議で互助会を引き裂こうとした。
東京は不完全な公開規則で、裂け目を先に一層縫った。
その日、帰り道で私はとても疲れていた。
身体の疲れではない。
心の疲れだった。
ソレンセンが言った。
「猫は今回は人を捕まえなかったが、お前たちの柔らかいところを掴んだな」
「うん」
「お前たちの補修は見栄えが悪い」
「でも、補修した」
「そうだな」
「次はまた別の場所を掴んでくる」
「わかってる」
私は夜の東京を見た。
街灯が一つ一つ点いている。
その一つ一つの下に、見えない線がある。
サプライチェーン。
護送線。
手紙の線。
薬物の線。
予算の線。
感情の線。
猫目は、それらをどう弾くかを学んでいる。
私たちは、それらをどう断たれずに済ませるかを学んでいる。
私は備忘録を開き、書いた。
第三輪対抗終了。
東京は、ノイズの生成、資料分割、偽目標保護、誘導線を切らないこと、保護原則の公開を学んだ。
猫目は、準備段階、資源分配、心理支援、家庭と職業圧力への攻撃を学んだ。
双方とも投入を増やしている。
双方とも学んでいる。
猫目は私たちに問わせたい。
なぜ他人を守り、自分を守らないのか。
私たちは答えなければならない。
規則は議論できる。
だが、人は勝手に見捨てられない。
書き終えたあと、私はさらに一文を加えた。
全員を守ると約束してはいけない。
でも、待っている人に、自分はもう捨てられたのだと思わせてはいけない。
これが、たぶん次の輪の重点になる。
戦闘ではない。
待つことだ。
猫目は待つことを攻撃してくる。
そして東京は、待つことにも尊厳を残す方法を学ばなければならない。