俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第106章 白川一音が到着しなかった護送、そして猫目精鋭術師がもたらした巨大な打撃
第四輪の護送任務では、本来、私が後段支援を担当することになっていた。
全行程ではない。
それでも、新しい原則に従う。
東京一般抵抗力量が前段と中段を担当する。
互助会が目標の心理安定と資料分散を担当する。
特調室が外縁監視を担当する。
私は最後の二つの高リスク節点で待機するだけ。
猫目が組織化された術師による遮断を仕掛けた場合、あるいは互助会メンバーが強行連行される危険に直面した場合、そのとき私が介入する。
それが、ここ数回の任務のあとに形成された新しい均衡だった。
毎回、私が最前面に立つ必要はない。
けれど、一般抵抗力量を完全に猫目の手の中へ放り込むわけでもない。
その日の目標は、四国地方の旧財団残余から来た女性だった。
名前は森下理沙。
彼女の手元には、猫目がどのように地方商店街の融資と活動保険を接管したのかに関する資料があった。
その資料は、漁港帳簿ほど重要ではない。
北海道冬季安全計画のように東京を震撼させるほどのものでもない。
けれど、東京商店街の非猫目防護体系を整えるには、とても適していた。
そのため、任務等級は中高とされた。
猫目が妨害してくる可能性はある。
だが本来の判断では、猫目があまり高い戦力を投入することはないと見られていた。
なぜなら、私が後段で待機しているからだ。
猫目が人を捕まえようとするなら、黒弦がいつでも介入することを考慮しなければならない。
それは本来、東京側の威慑だった。
今回の計画に、当然のように置かれていた一つの石でもあった。
だが行動当日の朝、別のことが突然起きた。
A大学近くの学生練習空間に異常が発生した。
普通の異常ではなかった。
猫目模造術具が引き起こした連鎖汚染だった。
そこには十数人の学生がいた。
その中には、AfterToneの知り合いもいた。
特調室は、もしすぐに処理しなければ、汚染が近くの二つの練習室へ広がると判断した。
さらに厄介なことに、その練習空間はA大学外縁保護圏内にあった。
放置すれば、猫目に「東京は自分たちの学生文化空間すら守れない」という世論を作られる可能性があった。
私は行くしかなかった。
通信の中の眼鏡の女性の声は重かった。
「白川さん、護送任務のほうは調整します」
私は尋ねた。
「延期できますか?」
「森下理沙の位置は、すでに露出した疑いがあります。あまり長くは延期できません」
「練習空間の処理が終わったら、すぐ向かいます」
「時間を再計算します」
彼女は一度止まった。
「無理はしないでください」
この言葉を、彼女は何度も言ったことがある。
けれどその日、私は特に不安になった。
なぜなら、護送線の計画には本来、私が組み込まれていたからだ。
そして今、私はいない。
東京側はすぐに緊急調整を起動した。
小野寺はルートをさらに細かく分割した。
遠坂綾乃は正面移動を減らし、短時間停留点を二つ追加するよう求めた。
北見遥香は森下理沙に付き添い、臨時の計画変更で彼女が恐慌しないよう担当した。
菅原涼と真壁仁は、それぞれ二つの重要節点を守る。
特調室はさらに臨時で三名の外縁人員を調整した。
だが、全員が知っていた。
そうした調整だけでは、私の空席は埋まらない。
それは、私が万能だからではない。
猫目が今回の行動に対して用意した予案が、おそらく「黒弦が出現する」ことを前提にしているからだ。
もし彼らが私を牽制するための力量を準備していて、私がいないなら、その力量が普通抵抗線へ落ちることになる。
それは災難だ。
小野寺は地図を見て、顔色がとても悪かった。
「猫目が、こちらの予想していた投入規模で戦力を投入してきたら、俺たちでは持たない」
遠坂綾乃が尋ねた。
「中止しますか?」
「無理です」
「では、目標を資料移動に変更し、人は動かさない?」
北見遥香が首を横に振った。
「彼女の今の位置はもう安全ではありません。猫目に見つかれば、家族と債務で圧力をかけられます」
菅原涼が言った。
「なら、行くしかない」
真壁仁もうなずいた。
「行こう」
小野寺は歯を食いしばった。
「今回は、絶対に強がるな」
「どの節点でも持たないなら、偽資料を捨てて人を撤退させる」
全員がうなずいた。
だが計画図の上には、なお空白があった。
その空白こそが私だった。
白川一音、支援予定。
臨時で到着不能。
猫目側は、最初から私が来ないとは知らなかった。
少なくとも、最初は知らなかった。
桐島は今回の行動のために、大量の精鋭術師を準備していた。
しかも、行動に投入された術師は全員、少なくともB級術師相当の実力を持っていた。
それは、単に森下理沙を捕まえるためではない。
私を牽制するためだった。
彼らの配置は、非常に黒弦を意識したものだった。
三組の高機動術師が多点偽核心を作り、私に線を切らせるよう誘導する。
二組の空間圧縮術師が、私の行動範囲を制限する。
一組の記録術師が、黒弦の経路を捕捉する。
一組の普通戦闘術師が、私が牽制されている間に切り込んで目標を捕獲する。
さらに軟阻断小組が、行動前日に二つの予備サプライヤーと一名の志願運転手を攻撃していた。
この配置は、もし私がその場にいれば、非常に面倒なものになっていた。
だが、必ずしも人を捕まえられるわけではなかった。
私は关键の線を切るだろう。
特調室も介入するだろう。
普通抵抗力量は、私が猫目を牽制している隙に目標を移すだろう。
本来なら、複雑な対抗になるはずだった。
けれど行動開始後、猫目はすぐに気づいた。
黒弦が現れない。
第一節点にいない。
第二節点にもいない。
第三節点にもなお現れない。
桐島は前線報告を受け、数秒間沈黙した。
「白川一音がいない?」
部下が答えた。
「黒弦反応は観測されていません。未到着の疑いがあります」
桐島はすぐに尋ねた。
「A大学方面の状況は?」
まもなく、猫目外縁情報が入った。
A大学近辺で異常処理の兆候。
白川一音が別地点の突発汚染を処理している疑いあり。
桐島は目を閉じた。
彼はニャーサではない。
けれど十分に賢かった。
すぐに理解した。
これは猫目の本来の計画における最理想状態ではない。
しかし、機会ではある。
彼らは本来、白川一音を牽制するために大量の精鋭力量を投入していた。
今、その相手は東京一般抵抗力量だ。
これは同格対抗ではない。
猫目側の巨大な優勢だった。
桐島は躊躇しなかった。
「目標変更」
「捕獲優先度を引き上げる」
「黒弦記録任務は取消」
「すべての牽制組を圧制組へ転換」
「待つな」
「彼女が来る前に終わらせる」
最初に崩れたのは、偽資料線だった。
本来、その線はただの囮だった。
二名の新人護送員と一名の無門術師が偽資料を持ち、地域活動室を経由する予定だった。
彼らは、自分たちが本物の目標らしく振る舞えれば十分だと思っていた。
だが、猫目が送り込んできたのは普通術師ではなかった。
本来、私を足止めするための高機動組だった。
三名の精鋭術師が、地域活動室の両側から同時に切り込んだ。
動きが速すぎた。
新人護送員が機械警鈴を起動する前に、手の中の強光懐中電灯は術式でロックされた。
無門術師が旧符を展開した瞬間、猫目精鋭術師の一人が圧縮針で符路を切断した。
力任せに打ち砕いたのではない。
精准に封じた。
普通猫目術師とは、あまりにも格が違う。
二名の新人護送員は顔を真っ白にした。
彼らは訓練を受けていた。
けれど訓練対象は、この層級ではなかった。
彼らは十二秒持ちこたえた。
十二秒後、偽資料は奪われた。
人は殺されなかった。
猫目に、彼らを殺す興味はなかった。
ただ三人全員を地域活動室の倉庫に縛り付け、遅延解除術式を残した。
三分後、彼らは特調室人員に発見された。
生命の危険はない。
だが任務線は崩壊した。
そして猫目も、それが偽資料だと確認した。
確認する時間があったからだ。
もし私がいたなら、この三分は存在しなかった。
二つ目に崩れたのは、車両プールだった。
今回、猫目は保険を通じた遅延を使わなかった。
直接、空間圧縮術師を動かして車両の出入口を封鎖した。
本来、森下理沙を迎える予定だった普通の家事サービス車が、地下駐車場の出口で止められた。
運転手は方案に従ってバックしようとした。
だが後方も封じられていた。
菅原涼が処理に向かったとき、圧縮ノードが六か所もあることに気づいた。
普通の猫目辺縁術師が配置したものなら、彼女でも破れる。
だがこれは精鋭組だった。
ノード同士が互いに遮蔽している。
一か所を破ると、別の二か所が自動で補位する。
この仕組みは、明らかに私を足止めするために用意されたものだった。
今、それが菅原涼を足止めするために使われている。
過剰配置もいいところだった。
彼女は歯を食いしばって第一層を切り開いた。
第二層がすぐ補われる。
腕の古傷が震動で痛む。
運転手が車内から尋ねた。
「出られますか?」
菅原涼は息を一つ吐いた。
「出られます」
彼女は、出られると言った。
だが少なくとも五分必要だと、彼女自身はわかっていた。
護送任務において、五分は長すぎる。
小野寺は即座に弃車を命じた。
森下理沙がまだ車に乗っていなかったことが、唯一の良い知らせだった。
だが予備車は前倒しで起動せざるを得なくなった。
それによって、猫目は本当の護送方向を判断した。
第二線が露出した。
三つ目は、心理支援点だった。
北見遥香は森下理沙に付き添い、小さな手作り教室に隠れていた。
そこは本来、短時間停留点に過ぎなかった。
最大でも七分の滞在予定だった。
だが車両プールが封じられたため、彼女たちは待機時間を延長せざるを得なくなった。
森下理沙は震え始めた。
「何か起きたんですか?」
北見遥香は彼女の手を握った。
「調整中です」
「私は、行かないほうがよかったんじゃ……」
「あなたは行かなければなりません」
「家族はまだ、あちらにいます」
北見遥香は一瞬沈黙した。
その痛点を、彼女はあまりにもよく知っていた。
森下理沙は続けた。
「もし私が連れ戻されたら、もしかしたら家はひどいことをされないかもしれません」
「違います」
北見遥香は言った。
「まず彼らは、あなたにそう信じさせます」
「それから、あなたが今後逃げようとするたび、家族のことを思い出させるのです」
森下理沙は泣いた。
そのとき、猫目心理圧制組が到着した。
この組は本来、私が到着したあと、周囲の人々の恐怖を使って私の判断を牽制するためのものだった。
今、彼らは直接、北見遥香と森下理沙へ圧力をかけた。
彼らは扉を蹴破らなかった。
大声で叫びもしなかった。
ただ、手作り教室の中にとても低い音を響かせた。
海風のような音。
遠くの港の放送のような音。
それは、森下理沙の故郷近くの商店街でよく使われていた昼の案内音だった。
猫目がどこから録音を手に入れたのかはわからない。
森下理沙はそれを聞いた瞬間、全身を強張らせた。
「これは……」
北見遥香の顔色も白くなった。
猫目術師が扉の外から口を開いた。
「森下さん、あなたのお母様は今もあの商店街の近くに住んでいます」
「猫目は彼女を傷つけていません」
「あなたが東京と一緒に進み続けるなら、今後の再編過程で彼女が影響を受けないとは保証できません」
これは直接的な脅しではない。
だが猫目らしい脅しだった。
北見遥香はすぐ大声で言った。
「聞かないで!」
彼女は心理干渉符を起動しようとした。
だが相手は精鋭心理圧制組だった。
彼女の干渉符が光った瞬間、逆方向から押さえ込まれた。
北見遥香の呼吸が乱れる。
相手の第二段の音は、北海道冬季道路放送へ切り替わった。
それは彼女の弱点だった。
猫目は二人を同時に攻撃した。
一名の普通抵抗人員が、扉の装置を止めようとして駆け寄ったが、猫目術師に扉の隙間越しに一撃で圧制された。
重傷ではない。
だが行動能力を失った。
手作り教室の待機時間は、拷問に変わった。
もし私がいれば、黒弦で音と情緒の利用関係を直接切断できた。
だが私はいなかった。
北見遥香は歯を食いしばり、森下理沙を抱きしめるしかなかった。
「振り返らないで」
「聞かないで」
「彼らは、あなたが帰りたいと思う心であなたを捕まえようとしている」
「心を渡さないで」
彼女自身も震えていた。
けれど、手は離さなかった。
彼女は二分持ちこたえた。
二分後、真壁仁が到着し、強行突破して扉を開け、二人を連れ出した。
だが心理支援点はすでに露出していた。
猫目精鋭術師たちは包囲を縮め始めた。
そのとき、私はまだA大学近くにいた。
練習空間の汚染は、予想より複雑だった。
猫目模造術具は、音楽用メトロノームの形に作られていた。
それは練習時のリズムと学生の焦燥を绑定する。
数名の学生には、すでに軽い幻聴が出ていた。
私は粗暴に切ることができなかった。
そんなことをすれば、学生たちの心身に重い術式反噬の傷害が起きる可能性がある。
私は、リズム、汚染、情緒のあいだにできた誤った接続を、一条ずつ切断するしかなかった。
細かい作業だった。
遅い。
そして苛立たしい。
イヤホンの中で、眼鏡の女性が圧縮した情報を次々と伝えてくる。
「偽資料線、崩壊」
「車両プール、封鎖」
「心理支援点、圧制を受けています」
「北見遥香と森下理沙、移動中」
私の手は、どんどん冷たくなっていった。
「あとどのくらいで向かえますか?」
「少なくとも七分」
七分。
初めて、七分が壁のように感じた。
ソレンセンが黒海の中で言った。
「猫がお前を分断したな」
「知ってる」
「それこそが奴の狙いだ」
「知ってる!」
声が少し重くなった。
隣にいた学生が驚いた。
私はすぐに感情を押さえた。
駄目だ。
ここにも人がいる。
ここにも、私が必要だ。
別の場所へ急ぐために、目の前の汚染処理を粗くするわけにはいかない。
これこそが猫目の恐ろしさだった。
それは必ずしも、私を打ち負かす必要はない。
私に二つの場所のあいだで選ばせればいい。
私は歯を食いしばり、最後の汚染を切断した。
メトロノームは止まった。
学生たちの幻聴が消える。
特調室人員が現場を引き継いだ。
私はすぐに振り返った。
「今から行きます」
眼鏡の女性が言った。
「車を向かわせます」
「遅すぎます」
「白川さん——」
「地下線で行きます」
彼女が反対するのを待たなかった。
黒弦を地面に沿って展開し、最短ルート上にある二つの低級封鎖を切り開く。
けれど出力は上げなかった。
冷化もしなかった。
扉も開かなかった。
ただ、速く。
できる限り速く。
だが、私が到着したときには、第四地点はすでに崩れていた。
森下理沙は猫目に連れ去られていた。
激しい戦闘の果てではない。
血まみれの場面でもない。
とても精准な切割の中で、彼女は奪われた。
猫目は三組の精鋭術師で、真壁仁、小野寺、そして二名の特調室外縁人員を同時に圧制した。
彼らは長く戦わない。
追殺もしない。
衝突を拡大しない。
十五秒だけ隙間を作る。
一名の空間術師が、森下理沙の足元の地面と隣の廃棄店舗内部を短時間重ね合わせた。
彼女の身体は、丸ごと店舗の中へ引き込まれる。
扉が閉まる。
猫目の合法修理車が裏口から出る。
全過程は二十秒もかからなかった。
普通抵抗力量が突入したとき、そこに残っていたのは切断された束帯と、すでに焼けた猫目標記だけだった。
真壁仁は肩を負傷していた。
小野寺は圧制器の震動で耳から血を流していた。
北見遥香は森下理沙が落としたマフラーを抱え、顔色を真っ白にしていた。
私が到着したとき、見えたのはそれだけだった。
敵はいない。
目標もいない。
切断できる線もない。
猫目は終わらせていた。
私が着く前に、終わらせたのだ。
私は廃棄店舗の入口に立ち、一時、動けなかった。
イヤホンの中で眼鏡の女性の声が響いた。
「白川さん、追わないでください」
私は何も言わなかった。
彼女の声がさらに急になる。
「追わないでください。相手は二次誘導を設置している可能性があります」
私はピックを握りしめた。
指が震えていた。
追いたかった。
とても追いたかった。
黒弦は、すでに足元に浮かび上がっている。
ソレンセンが黒海の中で冷たく言った。
「追えば、猫がお前のために掘った穴を踏む」
「知ってる」
「なら、立ち止まれ」
私は目を閉じた。
長いあいだ。
そして黒弦を収めた。
「追いません」
その四文字を言うのは、戦うことより難しかった。
森下理沙が連れ去られたという知らせは、互助会を深い沈黙に落とした。
ここ数回の護送で、初めて本当に目標を失った。
資料を失ったのではない。
人が怪我をしただけでもない。
人が猫目に連れていかれたのだ。
しかも、東京核心防線内で。
一般抵抗力量がすでに物資投入を増やし、ルートを断裂させ、心理支援、偽目標、特調室外縁支援を準備したうえで。
最もつらいのは、皆が知っていたことだった。
猫目は今回、本来なら私を牽制するための力量を準備していた。
もし私がその場にいたなら、状況は違っていたかもしれない。
もしA大学側に引き止められていなければ、森下理沙は捕まらなかったかもしれない。
その考えは、非常に速く現れた。
そして非常に危険だった。
北見遥香が最初に言った。
「これは白川さんのせいではありません」
声はとてもかすれていた。
「彼女が練習空間へ行かなければ、あちらの学生たちが危なかったんです」
誰も反論しなかった。
だが沈黙はなお重かった。
理性では私のせいではないとわかっていても、感情がこう問わないわけではない。
もし彼女がいたなら?
小野寺は隅に座り、血のついたティッシュをまだ手に持っていた。
彼は低く言った。
「俺の判断ミスです」
菅原涼が首を横に振った。
「あなた一人ではない」
真壁仁は言った。
「相手の投入を低く見積もりすぎた」
遠坂綾乃は机の上の地図を見ていた。
「低く見積もったのではありません」
「相手が、白川さんを牽制するための力量を、そのままあなたたちへ押しつけてきたのです」
会議室はさらに静かになった。
それこそが、猫目勢力の私たちに対する巨大な優勢の表れだった。
東京一般抵抗力量は確かに強くなった。
だが、猫目が黒弦を想定して準備した大量の精鋭術師を前にすれば、彼らはなお高所から落ちてくる影に覆われるようなものだった。
彼らが努力していないのではない。
敵が投入してきた層級が違ったのだ。
戦後復盤は、丸六時間続いた。
誰も開きたくなかった。
けれど、開かなければならなかった。
第一の結論。
もう「白川一音の後段支援」を当然存在するものとして扱ってはならない。
たとえ私が護送予定に入っていても、私が臨時で到着できなくなる方案を用意しなければならない。
第二。
私が到着不能と確認された場合、任務等級を再評価しなければならない。
単に普通人員を数名増やすだけではない。
中止、延期、拆分、あるいは最低露出模式への移行を判断する必要がある。
第三。
猫目が黒弦牽制級の力量を投入した場合、一般抵抗力量は正面対抗してはならない。
目標は、全場を支えることではない。
すぐに断線し、偽目標を捨て、人を撤退させることだ。
たとえ資料を失っても。
第四。
「白川缺席協議」を作る必要がある。
この文字を聞くのは、とてもつらかった。
だが、それは存在しなければならない。
白川缺席協議。
意味はこうだ。
私がいない場合、もともと黒弦で処理することを前提にしていた節点は、すべて原計画どおりには進められない。
皆がもう少し頑張れば補える、というものではない。
補えない。
認めなければならない。
第五。
互助会の心理支援人員にも保護が必要だ。
北見遥香は今回、ほとんど潰されかけた。
猫目はもう、心理支援者を攻撃することを学んでいる。
第六。
猫目精鋭術師の装備と連携層級について、個別档案を作成する必要がある。
普通猫目術師と混同してはならない。
第七。
「黒弦牽制級の敵」に対する、非黒弦撤退工具を用意しなければならない。
勝つための道具ではない。
逃げるための道具だ。
これはとても現実的だった。
そして、とても痛かった。
私は会議室に座り、ほとんど何も言わなかった。
最後に、久我山統括官が私に尋ねた。
「白川さん、補足はありますか?」
私は顔を上げた。
全員が私を見ていた。
私はゆっくり言った。
「今後、私が原定ではいるからといって、他の撤退準備を下げないでください」
誰も口を開かなかった。
私は続けた。
「私は来られないかもしれません」
「別の任務に引き止められるかもしれません」
「猫目に意図的に引き離されるかもしれません」
「向かっている途中かもしれません」
「到着したときには、もう遅いかもしれません」
一言一言が、とても苦しかった。
けれど言わなければならなかった。
「だから、私を計画の中に、必ず発生するものとして書き込まないでください」
「発生するかもしれない増援として扱ってください」
眼鏡の女性はうつむき、その言葉を書き留めた。
私はさらに言った。
「それから」
「私が缺席した場合、現場の人員に、私を待つために無理に持ちこたえさせないでください」
小野寺が顔を上げて私を見た。
私は彼を見返した。
「撤退すべきなら撤退してください」
「資料が失われても」
「任務が失敗しても」
「私があとから到着しても、もう間に合わなくても」
「まず人を逃がしてください」
会議室はとても静かだった。
かなり時間が経ってから、小野寺が言った。
「今回は、それができませんでした」
私は言った。
「次はやってください」
彼は目を閉じた。
「わかりました」
猫目内部では、この行動は段階的成功として扱われた。
目標、森下理沙の捕獲。
白川一音が突発事件に牽制された場合、東京一般抵抗力量が黒弦牽制級精鋭術師の圧力に耐えられないことを確認。
心理支援点が攻撃可能であることを確認。
車両プール、保険、サプライヤー、志願運転手、文化空間活動が、すべて前置消耗点になり得ることを確認。
白川缺席時、東京側の反応に遅滞が存在することを確認。
桐島は報告に書いた。
本行動は、白川一音が東京護送体系における心理的・戦術的な二重支点であることを証明した。
多点同時危機を作り、彼女を到着不能にすれば、東京一般抵抗力量は規格外圧力へ直面せざるを得なくなる。
次段階提案。
一、多点同期事件を継続して作る。
二、毎回目標捕獲を狙う必要はない。白川缺席条件のテストを優先してよい。
三、一般抵抗力量に「なぜ彼女はいないのか」という心理裂け目を与える。
四、白川缺席協議に対して逆誘導を行い、任務中止と推進の間で内部争議を生じさせる。
五、精鋭術師予備隊を拡大し、关键時刻に局所的な巨大優勢を形成する。
代理人は報告を読み終え、胸の中が冷えた。
「今回は人を捕まえた」
桐島はうなずいた。
「はい」
「森下理沙は口を開くか?」
「確実ではありません」
「彼女の家族は支配区にいる」
「可能性は上がります」
代理人は沈黙した。
彼は猫目がどうするのかを知っていた。
すぐに拷問するわけではない。
粗暴に脅すわけでもない。
熱い水を与える。
医療を与える。
家族の近況を与える。
債務再編書類を与える。
地方生活へ戻る機会を与える。
それから、少しずつ尋ねる。
猫目はいつもそうだった。
桐島は続けた。
「今回の本当の成果は、彼女ではありません」
代理人は彼を見た。
「何だ?」
「東京が、白川一音がいないことを恐れ始めることです」
桐島は言った。
「それは一人を捕まえるより有用です」
ニャーサは報告を聞き終えても、さほど喜びを見せなかった。
それはただ言った。
「彼女は追わなかった」
代理人は一瞬固まった。
「はい。白川一音は到着後、撤離車両を追撃しませんでした」
「いいね」
「それは……」
「彼女が止まることを覚えたということだよ」
ニャーサは少し笑った。
「それは以前より面倒だ」
代理人には理解できなかった。
「我々は目標を捕獲しました」
「そうだね」
「東京は挫折しました」
「そうだね」
「なら、なぜ……」
ニャーサは東京の方角を見た。
「もし彼女が追っていたなら、そのほうがよかったかもしれない」
「彼女は罠を踏んだかもしれない」
「怒ったかもしれない」
「より大きな扉の隙間を開けたかもしれない」
「でも、彼女は止まった」
「これは、彼女が苦痛の中でもなお規則を守れるということだ」
代理人は言葉を出せなかった。
ニャーサは続けた。
「ただし、東京の裂け目は広がる」
「彼らに考え続けさせろ」
「もし白川一音がいたら、森下理沙は捕まったのか?」
「もし彼女がいないなら、誰が責任を負うべきなのか?」
「彼女が到着を保証できないなら、なぜ任務を彼女の上に建てるのか?」
「こうした問題は、人を噛む」
代理人はうつむいて記録した。
ニャーサは軽く尻尾を揺らした。
「次の輪は急がなくていい」
「先に、彼ら自身を数日痛ませる」
森下理沙が捕まってから三日後、互助会に一通の手紙が届いた。
彼女が書いたものではない。
猫目から送られてきた正式通知だった。
内容はとても穏やかだった。
森下理沙様は現在、身体状態が安定しています。
猫目側は、彼女の家族債務および地方再編に関連する事項に基づき、保護的対話を行っています。
東京側が引き続き違法な方式で地方再編資料を移転させる場合、関連人員の法律および家庭上のリスクが増加します。
手紙の中に、脅しはなかった。
一文一文が、法律文書のようだった。
けれど全員が知っていた。
これこそが脅しなのだ。
保護的対話。
家庭リスク。
地方再編資料。
そうした言葉に、互助会メンバーの顔色は悪くなった。
泣く人がいた。
怒る人もいた。
護送を続けることが、家族を傷つけるのではないかと疑い始める人もいた。
猫目のこの一撃は精准だった。
それは一人を連れ去っただけではない。
「捕まった後に何が起きるのか」を、全員の前に置いたのだ。
東京は応答しなければならなかった。
口号ではなく。
具体的な保護を示さなければならなかった。
特調室、互助会、一般抵抗力量は最終的に、失敗の一部を公開することを決めた。
普通社会へ公開するのではない。
互助会内部へ公開復盤するのだ。
すべてのメンバーに伝える。
今回の任務は失敗した。
森下理沙は連れ去られた。
原因には、猫目が規格外精鋭術師を投入したこと、白川一音が臨時で到着できなかったこと、私たちが缺席協議を迅速に起動できなかったこと、心理支援点の保護が不足していたこと、撤退判断が十分に断固としていなかったことが含まれる。
これは痛かった。
だが、言わなければならなかった。
遠坂綾乃は言った。
「私たちが言わなければ、猫目が私たちの代わりに言います」
北見遥香は隣に座り、まだかすれた声で言った。
「しかも、もっと毒のある言い方で」
だから彼らは話した。
小野寺は青い橋の舞台に立ち、互助会メンバーへ頭を下げた。
「今回は、私たちが彼女を守りきれませんでした」
誰かが低く尋ねた。
「では、次もあなたたちを信じられるんですか?」
小野寺は顔を上げた。
「無条件に信じてくださいとは言えません」
「私たちにできるのは、修正方案を出すことだけです」
そう言って彼は、白川缺席協議、任務中止基準、規格外敵出現時の撤退原則、心理支援点保護升级、家族リスク説明机制を、一つずつ示した。
私は後列に座っていて、壇上には上がらなかった。
これは私が説明すべき部分ではないからだ。
けれど最後に、誰かが尋ねた。
「白川さん、あなたはあの日、どうして来なかったんですか?」
小劇場全体が静まり返った。
私は立ち上がった。
「A大学近くの学生練習空間が汚染されていたからです」
その人は尋ねた。
「森下さんより重要だったんですか?」
その言葉が出た瞬間、多くの人の顔色が変わった。
北見遥香が口を開こうとした。
私は手を上げて止めた。
私はその人を見た。
「どう比べればいいのか、私にはわかりません」
彼は固まった。
私は続けた。
「あちらには十数人の学生がいました」
「こちらには森下さんがいました」
「猫目は、その二つを同時に発生させました」
「私は、目の前ですでに拡散し始めていた汚染を先に処理することを選びました」
「そのあと向かいました」
「でも、間に合いませんでした」
一度止まった。
「それが事実です」
言い訳はしなかった。
綺麗な言葉も言わなかった。
「今後も、私は遅れるかもしれません」
「だから、誰かの安全を、私が必ず到着するという一点だけに賭けてはいけません」
その人はうつむいた。
「あなたを責めているわけじゃないんです」
彼の声も震えていた。
「ただ、次に自分の番が来たときも、誰も来てくれなかったらと思うと怖いんです」
私は低く言った。
「わかっています」
それこそが本当の問題だった。
彼は私を憎んでいるのではない。
怖いのだ。
私は言った。
「だから、缺席協議を作らなければなりません」
「私が来たくないからではありません」
「私が来られないときにも、あなたたちに道が残っていなければならないからです」
小劇場はとても静かだった。
その日、誰も完全に慰められたわけではない。
けれど少なくとも、問題は口にされた。
その日の夜、私は安全住居へ戻り、長いあいだ床に座っていた。
スマホにはAfterToneのメッセージが届いていた。
日和が尋ねていた。
今日、大丈夫?
私はその一文を見て、たくさん文字を打ち、また消した。
最後に返した。
大丈夫じゃない。
彼女はすぐに返してきた。
通話する?
私は少し迷った。
できる。
通話がつながると、彼女は細かいことを聞かなかった。
ただ、私の沈黙を聞いてくれた。
かなり時間が経ってから、私は言った。
「間に合わなかった」
日和は軽く言った。
「うん」
「人が連れていかれた」
彼女は少し沈黙した。
「話せること?」
「あまり多くは話せない」
「じゃあ、話さなくていい」
私はうつむいた。
「全部が私のせいじゃないって、わかってる」
「うん」
「でも、つらい」
「うん」
「もし私がいたら、もしかしたら……」
日和が私の言葉を遮った。
「あなたは、別の場所で人を助けたんだよね?」
私は固まった。
「うん」
「じゃあ、何もしなかったわけじゃない」
涙が一気に落ちた。
彼女は続けた。
「でも、間に合わなかったほうも、本当に痛いんだよね」
「うん」
「どっちも本当だよ」
私は泣いて、言葉が出なかった。
どちらも本当。
私は学生を救った。
私は森下理沙に間に合わなかった。
この二つは、どちらも本当だ。
片方で片方を打ち消すことはできない。
片方に、もう片方を呑み込ませることもできない。
深夜、私は備忘録を開き、書いた。
森下理沙護送失敗。
私は支援予定だったが、臨時でA大学練習空間汚染を処理。
猫目は本来、私を牽制するための精鋭術師を投入。
東京一般抵抗力量は、猫目の巨大優勢戦力と遭遇。
森下理沙は連れ去られた。
私が到着後、追撃はしなかった。
そこまで書いて、指が長いあいだ止まった。
そして続けた。
新しい原則。
一、白川一音を、当然到着する条件として扱ってはならない。
二、缺席協議は独立して成立しなければならない。
三、規格外の敵が現れたとき、普通抵抗力量は人員撤退を優先し、無理に持ちこたえない。
四、心理支援点も保護対象に含める。
五、失敗は公開復盤し、猫目に私たちの代わりに説明させてはならない。
六、一つの場所を救ったことは、もう一つの場所の失敗が痛くないという意味ではない。
最後の一文を書き終えたあと、私は本を閉じた。
ソレンセンは黒海の中で、長いあいだ何も言わなかった。
最後に、低く言った。
「これが有限というものだ」
私は目を閉じた。
「うん」
「お前はようやく、自分が有限だと本当に知った」
「前から知ってた」
「違う」
それは言った。
「前は概念として知っていただけだ」
「今、お前は代価を見た」
私は反論しなかった。
それが正しかったからだ。
私は無限ではない。
東京も無限ではない。
一般抵抗力量も無限ではない。
猫目はまさに、私たちを何度も有限へ衝突させようとしている。
そして私たちがしなければならないのは、無限であるふりをすることではない。
有限を認めること。
そして、有限な人間でも簡単に押し潰されないようにする規則を設計することだ。
その夜、私はよく眠れなかった。
けれど翌日、私はやはり会議へ行った。
缺席協議を書き上げなければならないからだ。
私の気持ちを楽にするためではない。
次に誰かが、私がいない場所にいたとしても。
それでも、まだ道が残るようにするために。