俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第107章 投入はさらに上昇し、そして猫目は「黒弦を引き離す」価値を確認した
森下理沙が連れ去られたあと、東京はすぐに救出作戦を組織しなかった。
したくなかったのではない。
できなかったのだ。
猫目は彼女を、簡単に奇襲できる倉庫に閉じ込めたわけではなかった。
東京に明確な地点も残さなかった。
彼らは彼女を、猫目管理区の「保護的対話施設」へ送り返した。
その名前は、非常に気持ち悪かった。
法律援助センターのように聞こえる。
実際には、地方抵抗者、資料携帯者、逃亡家族の構成員を処理するために、猫目が用意した軟性控制施設だった。
そこに鉄の扉があるとは限らない。
刑具があるとは限らない。
血があるとは限らない。
けれど、医師がいる。
弁護士がいる。
家族の近況がある。
債務書類がある。
旧地方の写真がある。
温かいご飯がある。
もう一度やり直せる仕事契約がある。
そして、何度も繰り返される一言がある。
「あなたが東京との協力を続けることは、あなたにも、ご家族にも良くありません」
それは、単純な牢屋よりずっと処理しにくい。
東京には十分な情報がなかった。
軽率に救出へ動くことはできない。
乱暴に動けば、より多くの人を猫目の網へ送り込むだけになる。
だから彼らは、まず復盤するしかなかった。
そして、投入を増やすしかなかった。
猫目も同じだった。
彼らは森下理沙事件を終点とは見なしていなかった。
検証として扱っていた。
検証結果は、非常にはっきりしていた。
白川一音を引き離すことができ、そのうえで本来黒弦を牽制するための精鋭術師を十分投入すれば、互助会メンバーを捕獲できる確率は大きく上がる。
この結論は、猫目にとってあまりにも重要だった。
猫目内部で、桐島の報告はより高い階層へ上げられた。
もはや東京辺縁行動組の普通復盤ではなかった。
猫目地方管理および東京進攻合同会議へ入ったのだ。
代理人は主位の下方に座り、桐島はスクリーンの前に立っていた。
スクリーンには、森下理沙護送失敗のタイムラインが映されていた。
午前九時四十分。
A大学付近の学生練習空間で汚染起動。
白川一音が処理へ向かう。
午前十時二十分。
森下理沙の護送開始。
午前十時三十一分。
偽資料線が圧制される。
午前十時四十分。
車両プール出口が空間圧縮術で封鎖される。
午前十時四十八分。
心理支援点が圧制を受ける。
午前十時五十六分。
真目標線が切割される。
午前十一時一分。
森下理沙が連れ去られる。
午前十一時七分。
白川一音が現場到着。
六分遅れ。
六分。
その数字は赤く標記されていた。
桐島は言った。
「この六分こそが、我々の成功窓でした」
会議室の中では、誰も話さなかった。
彼は続けた。
「白川一音の戦闘能力が低下したわけではありません」
「東京一般抵抗力量も、成長していないわけではありません」
「彼らのルート、心理支援、資料分散、非猫目サプライチェーンは、以前より成熟しています」
「しかし、彼らにはなお一つの关键依存があります」
スクリーンが切り替わる。
私の名前が出た。
B-Black String:高リスク後段支援。
桐島は言った。
「彼女が場にいれば、捕獲成功率は大幅に低下します」
「彼女が場にいなければ、東京一般抵抗力量はすぐに装備差、術師層級差、心理承圧差を露出します」
彼は少し止まった。
「したがって、次段階で優先的に研究すべきなのは、白川一音をどう打ち負かすかではありません」
「彼女をどう到着不能にするかです」
その言葉が終わると、会議室の猫目術師たちは全員静かになった。
それは、策略の変更を意味していたからだ。
かつて彼らはいつも、こう問うていた。
黒弦が来たらどうする?
今、桐島の答えはこうだった。
黒弦を来られなくする。
代理人が尋ねた。
「具体的な方法は?」
桐島は次のページへ切り替えた。
多点同期危機モデル。
第一類、学生文化空間危機。
A大学周辺、独立練習室、小型LiveHouse、学生サークル会場。
これらの場所は、私と現実的な関係がある。
私は無視しにくい。
第二類、普通人群汚染。
大規模傷害である必要はない。
学生、観客、住民へ波及する可能性のある低度から中度の異常が出れば、私は牽制される。
第三類、互助会メンバー護送。
私が牽制されたあと、精鋭術師組を投入し、局所的な巨大優勢を形成する。
第四類、特調室資源牽制。
軟性事件を使い、特調室外縁人員を分散させ、彼らの補位能力を下げる。
第五類、世論の後手。
もし私が護送を選び、学生文化空間を放棄したなら、「黒弦は普通学生を守らない」という叙事を作る。
もし私が学生文化空間を選ぶなら、互助会メンバーを捕獲する。
これこそが、猫目の最も恐ろしいところだった。
それは危機を作るだけではない。
選択を作る。
そして私がどちらを選んでも、もう一方の痛みを利用する準備をしている。
代理人はそのページを見て、胸の中が冷えた。
「これは彼女に未知力量の借用を高めさせることになりませんか?」
桐島は沈黙した。
この問題は、彼が完全に判断できるものではない。
会議室の最深部で、ニャーサが口を開いた。
「そこまで急にはならない」
全員が即座に頭を下げた。
ニャーサは影の中に伏せ、声はとても軽かった。
「白川一音は苦しむ」
「けれど強度をうまく制御すれば、彼女はすぐには扉を開けない」
「彼女は規則で解決しようとする」
「協議を書く」
「東京に穴を補わせる」
「自分をさらに細かく分ける」
それは軽く笑った。
「それでいい」
「責任が増えるほど、線も増える」
「ただし、覚えておけ」
「すべての線を同時に引き千切ってはいけない」
「引き千切れば、扉が鳴るかもしれない」
会議室では、誰も口を開かなかった。
桐島は頭を下げた。
「承知しました」
ニャーサは続けた。
「次の輪では、投入を増やせ」
「ただし烈度は制御する」
「目標は彼女を殺すことではない」
「崩壊まで追い込むことでもない」
「目標は、東京に理解させることだ。彼女がいなければ、彼らはすべてを守れないと」
「そして彼女に理解させることだ。彼女がいても、すべての場所は救えないと」
東京側でも投入が増えていた。
森下理沙事件のあと、白川缺席協議は正式文書として書かれた。
数行の原則ではない。
完全な流程だった。
第一に、私が支援予定でありながら臨時で到着できなくなった場合、任務は即座に再等級化される。
第二に、猫目精鋭術師の兆候が現れた場合、普通護送線は原計画のまま推進してはならず、撤離または隠蔽模式へ移行しなければならない。
第三に、目標が露出しているが人員がまだ移動していない場合、原地深藏を優先し、強行転移はしない。
第四に、互助会メンバーと資料のどちらか一方しか守れない場合、原則として人を優先する。
第五に、目標本人が明確に要求し、かつ心理支援が安定を確認した場合を除き、自分自身を資料と交換させてはならない。
第六に、白川一音缺席時、現場人員が「彼女が来るまで持ちこたえる」ために対抗時間を延長することを禁止する。
第七に、任務前には必ず「白川なしでも致命的ではない失敗にできる」最低方案を設定すること。
第七条は非常に耳に痛い。
けれど必要だった。
致命的ではない失敗。
これが現実だった。
東京は毎回成功を保証できない。
だが失敗したとき、人が即座に呑み込まれず、資料がすべて失われず、護送者が全員崩壊しないようにしなければならない。
小野寺はその協議を見て、言った。
「これは勝利計画じゃありませんね」
遠坂綾乃は答えた。
「一度の失敗で砕けないための計画です」
北見遥香は低く言った。
「私たちには、昔こういう計画がありませんでした」
彼女が言っているのは北海道のことだった。
地方のことだった。
多くの地方が猫目に抵抗するとき、持っていたのは勝利の幻想だけだった。
失敗後にどう人を保存するかという方案はなかった。
だから一度失敗すると、全線が崩れた。
東京は違わなければならない。
物質投入もさらに増えた。
車両プールの拡充。
より良い車を買うのではない。
もっと多くの見栄えの悪い車を買うのだ。
古い地域サービス車。
引っ越し会社の中古車。
臨時冷蔵小型車。
修理用ワゴン車。
いつ廃車になってもおかしくない見た目なのに、エンジンだけは意外に信頼できる小型貨物車。
小野寺はこだわった。
「新しすぎるな」
「新しすぎる車は、誰かが本気で準備しているように見える」
佐野美紀は、車両の用途を異なる活動、異なるサプライヤー、異なる補助項目へ分散する担当だった。
彼女は表を作りながら言った。
「あなたたちの車、活動主催者より多いですよ」
小野寺は言った。
「でも猫目の車ほどじゃありません」
佐野はため息をついた。
「猫目を基準にしないでください。みんな破産します」
車のほかには、安全点もある。
新增されたのは高端安全屋ではない。
「短時間停滞点」だった。
意味は、人がその中で十分だけ隠れられる場所。
上着を替える。
鞄を替える。
水を飲む。
恐慌を押さえる。
次の段の連絡を待つ。
そういう点は小さい。
古い花屋、仕立て屋、地域キッチン、地下駐車場管理室、旧印刷工場の倉庫の中に隠されている。
各点は、自分の前後一段だけを知っている。
完整ルートは知らない。
こうすれば、たとえ猫目が一つの点を潰しても、線全体を呑み込めない。
これも猫目の「分段命令」から逆に学んだものだった。
猫目は自分たちの命令を断裂させる。
東京は自分たちの保護線を断裂させる。
双方とも、完整性を分解している。
特調室も投入を増やした。
彼らは「多点同期危機対応組」を設立した。
猫目が二つ以上の事件を同時に起こした場合に、専門で処理するためだ。
以前なら、A大学に異常が現れ、互助会の護送にリスクが出て、文化空間が襲撃されれば、特調室は緊急度に応じて臨時調度をしていた。
今ではそれでは駄目だ。
猫目は、臨時調度を利用して空白を作れると証明したからだ。
だから、事前の規則が必要だった。
A類事件:普通人への即時危険。
B類事件:互助会メンバーの捕獲リスク。
C類事件:猫目精鋭術師の出現。
D類事件:世論誘導リスク。
E類事件:私を狙った圧力の疑い。
異なる組み合わせには、異なる処理がある。
もしAとBが同時に発生しても、私がAへ行くとは限らない。
Bへ行くとも限らない。
判断基準はこうだ。
Aは普通処理組で制御できるか。
Bには超規格の敵が存在するか。
どちらがより誘導である可能性が高いか。
私は二次囲堵を受けるか。
予備力量は存在するか。
その規則は、頭が痛くなるほど複雑だった。
だが眼鏡の女性は言った。
「複雑なほうが、現場で慌てるよりいいです」
私は同意した。
森下理沙事件はすでに、現場で慌てれば人が死ぬと証明したからだ。
あるいは、より正確に言えば、人が猫目に連れていかれると証明したからだ。
私自身の訓練も変わった。
以前の訓練の重点はこうだった。
出力を制御する。
術式を切断する。
冷化しない。
追撃誘導に乗らない。
今、新しい訓練が加わった。
選択訓練。
特調室は同時に二つの模擬事件を私に提示する。
一つは学生文化空間の汚染。
一つは互助会メンバーが追跡されている事案。
私は三十秒以内に、どちらへ行くか、もう一方へどんな情報を送るか、そして自分の選択をどう説明するかを判断しなければならない。
この訓練は、とても苦しかった。
戦闘を訓練しているわけではないからだ。
自分が同時に全員を救えないことを認める訓練だった。
最初の模擬で、私は失敗した。
先に汚染を処理し、その後護送へ駆けつけるルートを設計しようとした。
結果、両方とも時間超過した。
眼鏡の女性は模擬を停止し、言った。
「あなたは、自分が同時に到着できるようにしようとしています」
私はうつむいた。
「わかっています」
「それこそが、猫目の望むことです」
私は何も言わなかった。
彼女は続けた。
「選択することは、もう一方への背信ではありません」
「しかし選択しないことは、両方を危険にします」
二回目の模擬で、私は互助会護送を選び、学生空間は普通処理組に外層制御を命じた。
結果、学生空間では中度の汚染拡散が起こり、三名の模擬学生が負傷した。
私は模擬室の中に立ち、指先が冷たくなった。
ただの模擬なのに。
それでも、つらかった。
眼鏡の女性は言った。
「続けます」
私は彼女を見た。
彼女もひどく疲れていた。
けれど、退かなかった。
猫目は私がつらいからといって、選択を作ることをやめないと、私たちは知っているからだ。
だから私は、訓練しなければならない。
互助会内部でも投入が増えた。
彼らは「待機支援組」を設立した。
この名前は普通に聞こえるが、非常に重要だった。
すべての人がすぐに護送されるわけではない。
すべての家書がすぐに届くわけではない。
すべてのメンバーが同じ保護を受けられるわけではない。
待つことそのものが、猫目に攻撃される。
だから、待っている人に付き添う人が必要だった。
優先順位を説明する。
自分が放棄されたわけではないと確認する。
小額生活支援を提供する。
心理的な付き添いを安排する。
たとえ一時的に送れなくても、家族への手紙を書くのを手伝う。
北見遥香がこの組を担当した。
彼女は言った。
「待つことがどれほど苦しいか、私は知っています」
彼女ほど適任の人はいなかった。
遠坂綾乃は規則説明を担当した。
彼女は冷静だった。
ときには冷たすぎて人を不快にさせる。
だが、彼女は残酷なことをはっきり言える。
「今回はあなたが優先ではない。それは、あなたが重要ではないという意味ではありません」
「資料の代替不能性が高いからといって、人の価値がより高いという意味ではありません」
「医療緊急を優先するのは、時間窓が短いからです」
こうしたことは、誰かが言わなければならなかった。
誰も言わなければ、猫目が彼らの代わりに説明する。
あなたは放棄された。
彼らはあなたのことを気にしていない。
白川一音はあなたを助けに来ない。
互助会は、猫目がそれを言う前に、聞きたくない真実を先に伝えることを学び始めていた。
それも投入だった。
時間の投入。
忍耐の投入。
他人の怒りを受け止める能力の投入。
猫目の次の準備は、さらに体系的だった。
彼らは「白川引き離し事件庫」を作った。
そこには、私を牽制する可能性のある事件が並んでいた。
A大学学生空間の汚染。
AfterTone関連場所の異常。
非猫目文化空間での突発術具暴走。
互助会メンバーの家書罠。
普通居民区の低級汚染拡散。
古いアパートの睡眠異常。
小型LiveHouse観客の集団不調。
各事件の後ろには、こう標記されていた。
白川一音の予想応答確率。
予想処理時間。
特調室普通組による代替可能性。
彼女の情緒波動を引き起こす可能性。
世論を引き起こす可能性。
未知の戦力を過度に刺激する可能性。
最後の項目は、非常に婉曲に書かれていた。
猫目基层は「未知の戦力」が何なのか知らない。
彼らが知っているのは、一部の事件では白川一音を過度に刺激してはならないということだけだった。
桐島は、その条目を非常に重視した。
ニャーサが、すべての線を引き千切ってはならないと言ったからだ。
私を引き離してもいい。
苦しめてもいい。
選択に直面させてもいい。
けれど、失控の境界まで押し込んではいけない。
これが猫目の危険な均衡だった。
それは私の有限を利用しようとしている。
同時に、私が有限に完全に押し潰されることを避けようとしている。
双方の次の衝突には、すぐに前兆が現れた。
正式な護送ではない。
とても小さなことだった。
互助会は一批の家書を東京から猫目管理区の辺縁へ送り、そこから地方民間ルートを通して渡そうとしていた。
その手紙に情報はない。
ほとんどは、ただの挨拶だった。
身体は大丈夫か。
まだ安全か。
帰ってこないで。
会いたい。
寒くなってきた。
そんな手紙だ。
猫目にとって、それは戦略資料ではない。
けれど互助会メンバーにとっては重要だった。
猫目はもちろん、それが重要だと知っている。
だから必ずしも遮断するとは限らない。
通すこともある。
扣留することもある。
遅らせることもある。
人をずっと待たせるために。
今回は、東京は手紙を三批に分けて送る準備をしていた。
同時に、A大学近くの学生音楽活動に、猫目標記術具が臨時に現れた。
小さいものだった。
大規模危険を引き起こすほどではない。
だが処理しなければ、活動データが記録される可能性がある。
特調室はすぐに判断した。
これは白川引き離し事件計画の低強度テストかもしれない。
眼鏡の女性が私に尋ねた。
「どう見ますか?」
私は二つの報告を見た。
家書通道。
学生音楽活動。
どちらも最高危険ではない。
そして、どちらも重要だった。
もし私が学生音楽活動を処理しに行けば、家書通道が猫目に試探される可能性がある。
もし私が家書通道を守りに行けば、学生の活動データが猫目に取られるかもしれない。
これは縮小版の選択訓練だった。
私はすぐには答えなかった。
かなり長く考えてから、言った。
「学生音楽活動のほうは、佐野美紀さんと特調室普通組にサプライヤーと設備検査を先に処理してもらいます」
「私は直接行きません」
眼鏡の女性が尋ねた。
「家書通道は?」
「私も直接護送しません」
彼女は私を見た。
私は続けた。
「私は第三地点で待機します」
「どちらにも行きません」
「猫目が本当に動くのを待ちます」
これは危険な選択だった。
どちらにも問題が起こる可能性があるからだ。
けれど私が先に動けば、猫目は私の方向を知る。
眼鏡の女性は少し考えた。
「同意します」
こうして、私たちは猫目の予想どおりには動かなかった。
私は学生音楽活動へ行かなかった。
家書通道へも行かなかった。
第三地点に座って、待った。
これは難しい。
直接任務に出るより難しい。
直接任務に出れば、少なくともすることがある。
待っていると、頭の中で問いが止まらない。
行くべきではないのか。
もう遅いのではないか。
また森下理沙のときのようになるのではないか。
ソレンセンが黒海の中で言った。
「動かないことを学ぶのも、一種の動きだ」
「その言い方、ますます謎かけみたいになってる」
「お前がますます謎かけを聞く必要があるからだ」
認めたくなかった。
けれど、それは正しかった。
猫目の試探は、半分失敗した。
学生音楽活動のほうでは、佐野美紀が普通検査組を連れて猫目標記術具を発見した。
彼女は術式を使えない。
けれど、サプライチェーンは調べられる。
彼女は、その一批の予備ケーブルの発票番号が、前回の青い橋事件で出た中間業者と似ていることを見つけた。
だから使用停止を求めた。
その後、特調室普通組が標記の存在を確認し、解体した。
全過程に私はいなかった。
家書通道のほうでは、小野寺が三批の手紙、二本の偽線、一本の遅延線を使った。
猫目辺縁人員は第一批を追跡しようとした。
だがそれは情報のない公開手紙の副本だった。
本物の手紙は第三線から出発した。
私はなお動かなかった。
猫目が二名の術師を派遣し、第三線に情緒反響捕捉を設置しようとしたところで、ようやく介入した。
距離は短い。
目標は明確。
捕捉を切断。
撤離。
追撃はしない。
猫目に余計な観察材料を与えない。
今回は、東京は引き離しを回避することに成功した。
小規模ではあった。
だが意味は大きかった。
眼鏡の女性は言った。
「これは白川缺席協議と多点危機対応組が、初めて有効に運用された事例です」
小野寺は言った。
「佐野さんが学生活動側を独力で止めた初回でもあります」
電話の中で佐野美紀が文句を言った。
「私は発票を調べただけです」
私は言った。
「発票を調べるのは大事です」
彼女は一瞬沈黙した。
「なら、今後は残業代をつけてください」
小野寺は即座に言った。
「予算に書きます」
皆が笑った。
今回は、これまでより少し軽く笑えた。
ようやく、人が連れていかれる結末ではない小さな対抗が一つできたからだ。
猫目の復盤で、桐島も失敗点を記録した。
小規模引き離しテストは完全成功せず。
白川一音は予想どおり学生音楽活動または家書通道を優先処理しなかった。
東京普通検査人員は、サプライチェーン発票から猫目標記リスクを識別可能。
家書通道は遅延線と副本線を使用し、情緒反響捕捉は失敗。
白川一音の介入時間は短く、追加の応答模式は露出せず。
桐島は報告を見て、低く言った。
「彼らも、引き離しへの対抗を学んでいる」
部下が尋ねた。
「次は強度を上げますか?」
桐島は首を横に振った。
「毎回上げればいいわけではない」
「なぜですか?」
「強度が高すぎると、彼らの最高対応を起動させる」
「それに、ニャーサ様は烈度の制御を求めている」
彼は少し考え、新しい提案を書いた。
次段階では、明確な二点誘導を避け、長期低強度多点疲労へ切り替えるべきである。白川一音と東京特調室が、いつ本当の行動なのかを判断しにくくするために。
猫目も、もう一度の引き離しだけを考えてはいなかった。
より長期的な疲労戦を準備し始めた。
東京側も、小さな勝利が問題の終わりを意味しないことを知っていた。
多点引き離しは続く。
精鋭術師も続く。
猫目は投入を続ける。
東京も投入を続けなければならない。
金はさらにかかる。
人はさらに疲れる。
訓練はさらに複雑になる。
選択はさらに痛くなる。
それでも少なくとも、森下理沙事件は無駄にはならなかった。
彼女が捕まったことは、東京に白川缺席協議を書かせた。
私が到着することを默认してはいけないと、皆に認めさせた。
多点危機対応組を成立させた。
互助会に待機支援を作らせた。
普通検査人員をサプライチェーン防護へ入れさせた。
これらはすべて、代価によって得た学びだった。
とても痛い。
けれど学ばなければ、森下理沙は本当にただ猫目に連れていかれただけになってしまう。
今も、彼女は連れていかれたままだ。
その事実が消えたわけではない。
けれど彼女が作った裂け目を、私たちは新しい規則で一層だけ補った。
その夜、私は備忘録を書いた。
猫目の結論:私を引き離すこと+大量の精鋭術師投入により、互助会メンバー捕獲成功率は大きく上がる。
東京の結論:私の到着を默认してはならない。缺席協議、多点危機対応、待機支援が必要。
猫目の投入増加疑い:精鋭術師予備隊、白川引き離し事件庫、軟阻断、心理圧制、長期疲労戦。
こちらの投入増加:車両プール、安全点、普通検査組、オフライン資料組、待機支援組、白川選択訓練、最低失敗方案。
双方とも学んでいる。
次の輪は、もっと簡単にはならない。
書き終えてから、私は少し止まった。
そして、さらに書いた。
私は同時にすべての場所へ行くことはできない。
けれど東京は、私が同時にすべての場所へ行けないからといって、人を守ることをやめてはいけない。
ソレンセンが黒海の中で言った。
「その言葉は、以前より少しまともだ」
「どこがまとも?」
「自分が神ではないと認めているところだ」
私は軽くため息をついた。
「私は最初から神じゃない」
「多くの者は、お前がそうであってほしいと思っている」
「猫目勢力も、その願望でお前を押し潰したがっている」
私は反論しなかった。
窓の外では、東京の灯が一面につながっている。
その一つ一つの灯の下に、選択があるかもしれない。
猫目は、選択の作り方を学んでいる。
東京は、選択の受け止め方を学んでいる。
そして私も、学ばなければならない。
行けない場所がある。
間に合わない人がいる。
失敗を抱えたまま、歩き続けなければならないことがある。
けれど、規則を補い、車を補い、ご飯を補い、人を補い、道を補い続けている限り、東京はまだ猫目に食べられていない。
今日、私たちはまた一層を補った。