俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第108章 人を自分から猫の車へ歩かせないこと、そして双方が「決定」を守り始めた
森下理沙事件のあと、東京抵抗力量が最初に学んだことはこうだった。
護送は、家を出るその瞬間から始まるのではない。
それは、目標が「私は行くべきか、行かないべきか」と決めるその瞬間から始まっている。
以前、皆は猫目が人を捕まえるというのは、路上で遮断し、追跡し、圧制し、連れ去ることだと思っていた。
だが、猫目はますますそうした粗暴なやり方を減らしている。
なぜなら東京はすでに、車、偽ルート、短時間停留点、心理支援、白川缺席協議を準備し始めているからだ。
だから猫目は、方向を変えた。
必ずしも、人を路上で捕まえる必要はない。
人を自分から歩き出させればいい。
自分から安全点を離れさせればいい。
自分から猫目に連絡させればいい。
自分で「もしかしたら、戻ったほうがいいのかもしれない」と思わせればいい。
これは強行捕獲よりも防ぎにくい。
黒弦は追跡符を切断できる。
術式核心を切断できる。
捕縛網を切断できる。
けれど、一人の人間が自分で鞄を持ち上げて、
「家族に会いに戻りたい」
と言ったとき。
それは、直接切断できる一本の線ではない。
それは人の心だ。
猫目が攻撃し始めたのは、まさにそこだった。
今回の事件の対象は、互助会メンバーの葉山美緒だった。
彼女は四国地方旧文化保存協会の出身だ。
術師ではない。
財団の子女でもない。
かつて地方祭礼の映像と録音資料を整理していた職員にすぎない。
猫目が四国地方文化支援プラットフォームを接管したあと、多くの古い映像、老人への聞き取り、地方祭礼の音源が、「デジタル保護」という名目で猫目プラットフォームへ移された。
葉山美緒は、一部の紙目録を持ち出した。
その目録には、どの資料がもともと地方協会に属していたのか、そしてどの資料が猫目接入後にアクセス権限を変更されたのかが記されている。
この目録は東京にとって重要だった。
東京は今、多くの小型文化空間と音声アーカイブ作業室を守っているからだ。
もし将来、猫目が「デジタル保護」を使って東京の文化資料システムへ入り込もうとするなら、葉山美緒の目録は、その手口を事前に見分ける助けになる。
そのため、彼女は高優先級保護対象に指定されていた。
だが、彼女本人はとても苦しんでいた。
彼女の父親は、まだ四国の猫目支配区にいる。
最近、体調がよくない。
猫目は、彼女が父親の消息を知ることを妨げなかった。
むしろ、その逆だった。
猫目は彼女に消息を与えた。
定期的に与えた。
とても優しく与えた。
今日の血圧は安定しています。
先週、猫目協力病院へ行きました。
彼はあなたに会いたがっています。
彼はあなたが以前整理した祭礼映像を見ました。
あなたが望むなら、猫目保護性通道を通じて彼と通話できます。
一つ一つのメッセージが、鉤のようだった。
脅しではない。
親情だった。
葉山美緒は三通目のメッセージを受け取ったあと、眠れなくなった。
五通目を受け取ったあと、彼女は互助会に尋ねた。
「ただの通話でも、駄目なんですか?」
誰もすぐには答えられなかった。
なぜなら、「通話」は禁止されるべきものには聞こえないからだ。
けれど皆、猫目の通話がただの通話で終わらないことを知っていた。
それは位置特定、情緒記録、交渉入口、帰還誘導へ変わる。
さらに重要なのは、一度彼女が猫目通道を通じて父親に連絡すれば、自分はもう猫目に借りがあると感じてしまうことだった。
一度借りれば、二度目が来る。
東京側は、すぐに小会議を開いた。
護送会議ではない。
「接触判断会」だった。
これは新しい制度だ。
互助会メンバーが猫目からの連絡、親族通話の招待、債務再編方案、医療面会要請、旧故郷の物品転送通知などを受け取った場合に、専門で処理するためのものだった。
遠坂綾乃が司会を担当した。
北見遥香が当事者に付き添う。
特調室の心理保護班は遠隔で参加する。
小野寺は、もし通話が転移誘導へ変わった場合、護送準備が必要かどうかを判断する。
私は後列に座っていた。
今回は、私は戦闘要員ではなかった。
少なくとも、最初は。
遠坂綾乃は、猫目から送られてきた情報を一条ずつホワイトボードに貼った。
彼女は評価しなかった。
ただ葉山美緒に尋ねた。
「あなたは通話したいですか?」
葉山美緒はうつむいた。
「したいです」
誰も彼女を責めなかった。
彼女はまた言った。
「罠かもしれないって、わかっています」
北見遥香が静かに言った。
「会いたい気持ちと、危険だと知っていることは、同時に存在していいんです」
葉山美緒の目が赤くなった。
「彼が本当に会いたがっていたらと思うと、怖いんです」
遠坂綾乃はうなずいた。
「それは、本当である可能性が高いです」
葉山美緒は固まった。
おそらく、皆がそれは偽物だと言うと思っていたのだろう。
遠坂綾乃は続けた。
「猫目が最も恐ろしいのは、その言葉が全部嘘であることではありません」
「本当のものを使ってくることです」
「あなたのお父様は、本当にあなたに会いたいのかもしれません」
「本当に体調が悪いのかもしれません」
「本当にあなたの映像資料を見たのかもしれません」
「けれどそれは、猫目が提示した通道が安全であることを意味しません」
葉山美緒の手が、ゆっくりと握りしめられた。
これが、東京が今学び始めた言い方だった。
感情を否定しない。
けれど、感情が本物だからといって、猫目の入口を受け入れない。
東京が出した方案は、とても面倒だった。
第一、猫目の通話通道は使用しない。
第二、待機支援組が地方民間安全線を通じて父親の近況を確認する。
第三、互助会が紙の手紙を用意し、第三方ルートで転送を試みる。
第四、どうしても音声が必要な場合は、一方向録音を用い、リアルタイム接続はしない。
第五、猫目から届く「面会」「見舞い」「安全送迎」提案は、必ず二名以上の付き添いで確認し、当事者が深夜に一人で決めることを許さない。
第六、葉山美緒は今後三日間、資料転移作業には参加せず、まず休む。
彼女は聞き終えたあと、低く尋ねた。
「これって、皆さんにすごく迷惑をかけることになりますか?」
北見遥香は言った。
「なります」
葉山美緒の顔色が白くなった。
北見遥香は彼女の手を握った。
「でも、迷惑は間違いではありません」
「猫目は、あなたに『人に迷惑をかけたくないから、猫目を受け入れたほうが便利だ』と思わせたいんです」
「だから、あなたは私たちに迷惑をかけてください」
「それも抵抗の一部です」
この言葉は後に、互助会手冊へ書き込まれた。
私たちに迷惑をかけてください。
猫目が孤独な人に最もよく言うのは、
他人に迷惑をかけなくていい。猫目があなたを助けられます。
という言葉だからだ。
東京は、その反対の言葉を差し出さなければならない。
私たちに迷惑をかけていい。
私たちは遅い。
不器用だ。
順番を待つ必要がある。
規則も必要だ。
それでも、「他人に迷惑をかけたくない」からといって、あなたが自分を猫目へ差し出す必要はない。
猫目はすぐに、葉山美緒が通話通道を使わなかったことを発見した。
桐島はフィードバックを見て、わずかに眉をひそめた。
「彼女は接続しなかった?」
部下が答えた。
「していません。東京側は接触判断流程を構築した可能性があります」
桐島が尋ねた。
「情緒波動は?」
「明らかに上昇していますが、安全点は離れていません」
「北見遥香がそばにいます」
「また北見か」
桐島は、その名前に丸をつけた。
北見遥香は、もはや単なる被保護者ではなくなっていた。
彼女は互助会心理防線の重要節点になりつつある。
それこそ、猫目が更新しなければならない点だった。
過去なら、捕獲目標本人を狙えば十分だった。
今では、目標の周りにいる付き添い、説明者、待機支援者たちが、捕獲を失敗させる可能性を持っている。
桐島は報告に書いた。
東京は目標の決定過程を保護し始めている。
次段階では、付き添い者の信頼構造を攻撃すべきである。
そこで猫目は策略を変えた。
葉山美緒に父親の消息を送り続けることはしなかった。
代わりに、互助会の別のメンバーへ匿名メッセージを送った。
なぜ葉山は父親の近況確認を優先され、あなたは二か月も家書を待っているのですか?
そのメッセージは、非常に毒だった。
葉山を直接攻撃しているわけではない。
彼女に帰るよう直接勧めているわけでもない。
それは互助会の公平感を攻撃していた。
メッセージを受け取ったのは、九州出身の若い男性だった。
彼の姉は、まだ猫目支配区にいる。
彼は確かに長く待っていた。
このメッセージを受け取ったあと、彼はすぐに爆発しなかった。
互助会がすでに待機支援規則を作っていたからだ。
彼はその情報を待機支援組へ渡した。
北見遥香はそれを見ると、顔色をとても悪くした。
遠坂綾乃は言った。
「猫目は待機列を攻撃し始めています」
これは捕獲ではない。
だが、攻撃だった。
待っている人たちが互いに恨み始めれば、互助会は裂ける。
東京の反応は速かった。
彼らは待機規則説明会を開いた。
今回は、感情が爆発するのを待たない。
先に説明する。
どのような場合に家族の近況確認を優先するのか。
どのような場合に通常輪番へ入るのか。
どのような場合に緊急繰り上げを申請できるのか。
なぜ葉山美緒の状況が「誘導リスク高」とされ、先に処理されたのか。
それは彼女がより重要だからではない。
猫目がすでに彼女の父親を入口として使っており、リスクが上昇していたからだ。
その九州の若者は、聞き終えて長いあいだ沈黙していた。
最後に言った。
「それでも、つらいです」
遠坂綾乃は言った。
「つらくて構いません」
北見遥香が言った。
「怒ってもいいです」
彼は尋ねた。
「それに意味がありますか?」
小野寺が言った。
「あります」
皆が彼を見た。
小野寺は言った。
「あなたが言ってくれれば、猫目がどこを攻撃したのか、こちらにもわかります」
「言わずに心の中だけで不公平だと思っていたら、猫目の勝ちです」
その言葉はとても素朴だった。
だが、とても有効だった。
その若者が匿名メッセージを互助会へ渡したあと、待機支援組はそれを新しい事例に加えた。
こうして東京はまた一つ学んだ。
待機列は説明可能でなければならない。
ただ「待ってください」と言うだけではいけない。
なぜ他の人が先に処理されるのかを説明しなければならない。
そして、待っている人が痛むことも認めなければならない。
これはとても時間がかかる。
だが、やらなければ猫目が彼らの代わりに説明する。
猫目もまた学んでいた。
桐島は待機支援組の反応を見ても、失敗だとは思わなかった。
彼は報告に書いた。
東京は待機不満を迅速に公開化し、単一点情緒爆発を回避できる。
匿名刺激の効果は限定的。ただし継続して説明コストを増加させることは可能。
次段階では即時分裂を狙うのではなく、コミュニケーション負担を高めるべきである。
これが猫目の新しい戦い方だった。
東京にずっと説明させる。
ずっと宥めさせる。
ずっと会議を開かせる。
ずっと規則を書かせる。
ずっと不満を処理させる。
それらは、すべて人を消耗させる。
猫目は毎回、互助会を裂けさせる必要はない。
裂けないために、互助会がずっとコストを払い続けるようにすればいい。
それもまた、捕獲の一部なのだ。
コミュニケーションコストがあまりに高くなると、誰かは疲れる。
疲れたとき、人は猫目のあのより簡単な通道へ向かいやすくなる。
「私たちは直接あなたを助けられます」
その言葉は、いつもそこに待っている。
数日後、本当の護送任務が始まった。
葉山美緒は、音声アーカイブ作業室へ移動する必要があった。
そこにはオフライン設備があり、彼女が持ち出した目録と録音番号を整理できる。
今回、東京の安排は特別だった。
高強度護送ではない。
「低波動護送」だった。
つまり、あまり大きな動きを作らないということだ。
大量の車両を動かさない。
猫目に、これは重要行動だと判断させない。
資料は事前に分割しておく。
人は短距離だけ移動する。
移動の一時間前、待機支援組は彼女に付き添い、父親への紙の手紙を書き上げさせた。
この手紙はすぐには送られない。
それでも、手紙を書くこと自体に意味があった。
葉山美緒は書き終えたあと、かなり落ち着いた。
彼女は言った。
「少なくとも、私は何もしないわけではありません」
北見遥香がうなずいた。
「そうです」
私は前段には参加しなかった。
相変わらず第三地点で待機していた。
猫目はすでに、私の存在から行動等級を判断することを学んでいるからだ。
私が早すぎる段階で現れれば、彼らは今回が本物の目標だと知る。
東京の今回の策略はこうだった。
護送が、猫目に精鋭術師を投入する価値がないように見せること。
少し皮肉に聞こえる。
だが、とても現実的だった。
しかし猫目も、完全には騙されなかった。
大量の精鋭術師は送ってこなかった。
ただ一組だけを送ってきた。
三人。
中等装備。
それに心理誘導員が一名。
彼らの目標は、強行捕獲ではない。
葉山美緒が移動しているかを確認することだった。
捕まえられれば捕まえる。
捕まえられなければ、東京の新しい流程を記録する。
猫目小組は、ある地下乗り換え通道で手がかりを見つけた。
葉山美緒の歩き方が、硬すぎたのだ。
北見遥香もそばについている。
これにより、相手は目標を確認した。
心理誘導員は、彼女の父親の声を直接流さなかった。
その手はすでに使われており、東京は防いでくる。
彼は方法を変えた。
通道の広告スクリーンに、地方祭礼の宣伝映像を流した。
猫目の広告ではない。
普通の広告枠だった。
だが画面には、葉山美緒がかつて整理した祭礼が映っていた。
太鼓の音。
提灯。
老人の唱え言葉。
人々。
その瞬間、葉山美緒は足を止めた。
術式で制御されたのではない。
記憶に打たれたのだ。
北見遥香はすぐに気づいた。
「見ないで」
だが、少しだけ遅かった。
猫目小組が接近し始める。
東京護送員が低声信号を起動した。
私が受け取ったのは第二級提示だった。
介入が必要になる可能性あり。ただし未確認。
私はすぐには動かなかった。
とても難しかった。
だが規則では、確認を待つことになっている。
猫目は、まさに私を動かしたいのかもしれないからだ。
通道の中で、北見遥香は新しい対応をした。
彼女は葉山美緒を無理に引っ張って行かなかった。
ただ言った。
「三秒だけ見ていいです」
葉山美緒は固まった。
北見遥香は言った。
「一」
「二」
「三」
「今、行きましょう」
葉山美緒は泣いた。
けれど、動いた。
この動きは重要だった。
彼女は記憶の中から強引に引きずり出されたのではない。
自分が見たいと感じていることを認めることを許された。
そして、自分で離れることを選んだ。
猫目心理誘導員は、明らかに予想していなかった。
彼らは、東京が遮断し、引きずり、見ることを禁じると思っていたからだ。
そうすれば葉山美緒は反発したかもしれない。
けれど北見遥香は、彼女に三秒を与えた。
三秒後、彼女は歩いた。
猫目小組は第二段階へ入るしかなかった。
三名の術師が接近し、中等圧制器で通道出口を封じようとした。
そのとき、東京の普通護送員が機械騒音器を起動した。
警鈴ではない。
新しく買った低技術装備だった。
音はひどく耳障りだった。
壊れた工事ドリルのような音だ。
それは人を攻撃しない。
ただ、通道の中にいる全員に、思わず眉をひそめさせる。
猫目圧制器は、安定した聴覚フィードバックを必要とする。
このひどい騒音は、その校正を二秒遅らせた。
二秒あれば、護送線が隣の旧設備室へ入るには十分だった。
設備室には、二つ目の新物資があった。
可動式の布幕壁。
普通の布。
厚い。
防火仕様。
吊るすと、視線をいくつもの段に切り分けられる。
猫目術師は追える。
けれど中へ入ったあと、一目で人がどちらにいるのか判断できない。
これも低技術冗余だった。
猫目は高技術対抗を恐れない。
だが、こういう安くて、場所を取り、非常に面倒なものを嫌う。
葉山美緒は設備室の後ろ扉から離脱した。
猫目小組は途中まで追い、ようやく升級が必要だと確認した。
そこで彼らは、一枚の猫目捕捉符を起動した。
私は第一級信号を受け取った。
介入可。
私は別の地下通道から切り込んだ。
黒弦は大範囲展開しなかった。
ただ、三つのものだけを切った。
猫目捕捉符。
出口圧制器。
心理誘導員と広告スクリーンのあいだの遠隔インターフェース。
三本の線。
切って、すぐ退く。
三名の術師は追わなかった。
任務は彼らを捕まえることではない。
葉山美緒を歩かせることだ。
猫目小組も長く戦わなかった。
彼らも撤退した。
双方とも克制していた。
けれど、克制しているからといって対抗がないわけではない。
これは、とても短く、とても細かく、とても高価な対抗だった。
東京は、待機支援、手紙、三秒規則、機械騒音器、布幕壁、低波動護送、そして後段黒弦を使った。
猫目は、親族消息、待機列刺激、広告スクリーン記憶誘導、中等圧制器、捕捉符を使った。
双方とも、前回学んだものを使っている。
葉山美緒は最終的に、音声アーカイブ作業室へ到着した。
彼女は座ると、最初にこう言った。
「さっき、本当に歩けなくなりそうでした」
北見遥香は言った。
「でも、あなたは歩きました」
葉山美緒は泣きながらうなずいた。
「はい」
作業室の責任者が、彼女に熱いお茶を淹れた。
すぐに仕事を催促しなかった。
これは新しい規則だった。
目標が到着したら、まず回復する。
すぐに資料整理を始めない。
猫目が未処理の感情を抱えたまま人を作業へ入らせ、判断に影響を与えようとする可能性があるからだ。
これは心理保護班が加えた細部だった。
以前なら、誰も気にしなかっただろう。
今では、皆が学んでいる。
私は現場の安全を確認したあと、長くは留まらなかった。
離れる前、葉山美緒が私に言った。
「最初から現れないでくれて、ありがとうございます」
私は少し固まった。
彼女は言った。
「もしあなたが最初からいたら、私はただあなたに救い出されたのだと思ったかもしれません」
「でもさっき、私は自分で歩きました」
その言葉に、胸の中が少し動いた。
私はうなずいた。
「それは、とてもよかったです」
本当に、よかった。
保護とは、人を危険の中から引きずって通過させることではない。
ときには、彼女がもう一度、自分自身の決定を下せるように付き添うことだ。
東京の復盤では、皆が今回の行動を小さな勝利だと判断した。
猫目術師を捕まえたからではない。
捕まえていない。
猫目拠点を破壊したからでもない。
破壊していない。
葉山美緒が、父親の消息、待機列刺激、故郷映像誘導に連れていかれなかったからだ。
彼女は作業室へ到着した。
資料整理が始まった。
そしてその過程で、彼女の選択感が完全に奪われなかった。
遠坂綾乃は言った。
「今回最も重要なのは『三秒規則』です」
北見遥香は首を振った。
「規則ではなく、信頼です」
小野寺は言った。
「規則にも書きます」
佐野美紀はすぐに記録した。
強記憶誘導場面では、心理支援員が目標に短時間の情緒確認を許可したうえで離脱させることができ、強引な否定は行わない。具体的時間は現場判断とする。
彼女は書き終えてから眉をひそめた。
「この文、長すぎます」
私は言った。
「三秒規則でいいと思います」
北見遥香は少し考えた。
「それでいいです」
こうして、三秒規則は正式に互助会手冊へ入った。
毎回三秒という意味ではない。
一つの原則だ。
人の想いを間違いとして扱わないこと。
彼女に見えることを許し、そのうえで一緒に離れること。
この規則は、東京が葉山美緒から学んだものだった。
猫目の復盤も速かった。
桐島は書いた。
親族消息は継続して有効。ただし東京待機支援組は単一点誘導効果を低下させられる。
待機列刺激は内部衝突を引き起こさなかったが、東京の説明コストを顕著に増加させた。
地方記憶映像誘導は、目標を短時間停滞させられる。
情報によれば、北見遥香は「三秒式情緒承認」を提出し、目標の反発と崩壊確率を下げることに成功した。
東京の低技術装備、機械騒音器および布幕壁は、中等圧制器に干渉を形成した。
白川一音は短時間介入し、关键三線のみを切断、追撃せず、露出情報は少ない。
次段階提案。
一、記憶誘導をより個体化し、三秒規則で素早く処理されることを避ける。
二、視覚以外の誘導を増やす。たとえば匂い、音、知人の語気。
三、北見遥香など心理支援節点に対する専用圧力モデルを構築する。
四、低技術装備に対しては、術式圧制だけではなく物理破拆を準備する。
五、白川一音に短時間介入と長期待機のあいだで精力を消耗させ続ける。
猫目は学ぶのが速い。
東京の小さな勝利は、猫目を止めない。
次はさらに精細になるだけだ。
数日後、互助会はまた猫目からの新しいメッセージを受け取った。
今回は、葉山美緒宛てではなかった。
北見遥香宛てだった。
内容は短い。
あなたは、他人に振り返るなと説くのが上手ですね。
では、あなた自身は?
その下には、北海道の雪道の写真が添付されていた。
脅しはない。
説明もない。
ただの写真だった。
北見遥香はその写真を見つめ、長いあいだ何も言わなかった。
これが、猫目の次の一手だった。
保護者を攻撃すること。
東京も、すでに予案を持っていた。
北見遥香は、一人で見終えなかった。
彼女はその写真を待機支援組へ渡した。
遠坂綾乃が彼女の隣に座った。
小野寺が温かいお茶を淹れた。
私も青い橋へ行った。
誰も「気にしないで」とは言わなかった。
気にしないことなど、できないからだ。
北見遥香は写真を見て、低く言った。
「帰りたいです」
遠坂綾乃は言った。
「はい」
北見遥香は言った。
「帰れないことは、わかっています」
「はい」
「それでも、帰りたいです」
「はい」
彼女は長いあいだ泣いた。
皆は、彼女が泣き終えるのを待った。
これも抵抗だった。
猫目に、想念を一人で抱える鉤へ変えさせないこと。
泣き終えたあと、北見遥香は言った。
「この写真は、档案化してください」
小野寺が尋ねた。
「どの分類にします?」
彼女は涙を拭った。
「心理支援節点への攻撃」
佐野美紀が横で小さく言った。
「分類名が長すぎます」
北見遥香は、なんと少し笑った。
「じゃあ、雪道で」
こうして、猫目のこの攻撃も東京の事例になった。
雪道事例。
保護者も攻撃される。
保護者にも保護が必要である。
その夜、私は新しい備忘録を書いた。
保護と捕獲の対抗は続いている。
猫目は、人を自分から歩き出させ始めた。
東京は、人の決定過程を守り始めた。
猫目は待機列を攻撃する。
東京は待機規則を公開説明する。
猫目は地方記憶映像で誘導する。
東京は三秒規則を形成した。
猫目は心理支援者を攻撃する。
東京は雪道事例を形成した。
双方とも学んでいる。
保護は身体を守るだけではない。
捕獲も身体を捕まえるだけではない。
次の輪で、猫目はさらに個体化する。
東京は、もっと人に付き添えるようにならなければならない。
書き終えると、ソレンセンが黒海の中で言った。
「お前たちは今、心理相談室を開いているように戦っているな」
「猫目が捕まえているのが、人の心だから」
「心は切れるのか?」
私はノートを見た。
「直接は切れない」
「なら、どうする?」
「付き添う」
ソレンセンは少し沈黙した。
「遅い」
「うん」
「不器用だ」
「うん」
「だが、あの猫もお前たちのその不器用さを嫌がっているようだな」
私は軽く笑った。
「なら、続けて不器用でいよう」
窓の外では、東京の灯りがまだついていた。
猫目は、人を自分から猫の車へ歩かせる方法を学んでいる。
東京は、人が立ち止まり、三秒見て、一度泣き、それから自分で前へ進む方法を学んでいる。
これは大勝ではない。
けれど今夜、葉山美緒は猫目へ向かわなかった。
北見遥香も、あの雪道を一人で見終えなかった。
それで十分だった。