俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第110章 ニャーサが差し出した最大の条件、そして私が言えない扉
ニャーサが、ついに直接、私へ条件を出してきた。
勧降書を通じてではない。
猫目プラットフォームを通じてでもない。
文化基金会、保険、倉庫、あるいは法律文書を通じてでもない。
今回は、私へ直接連絡する人間を送ってきた。
場所は、A大学近くの普通のカフェだった。
時間は午後四時二十分。
私は文化政策評価に関する授業を終えたばかりで、図書館へ本を返しに行こうとしていた。
相手は窓際の席に座っていた。
三十歳前後に見える女性。
短髪。
灰色のコート。
手元には、まったく口をつけていないブラックコーヒーが置かれている。
猫の目の標識はつけていない。
目立つ術具も持っていない。
けれど、店に入った瞬間、私は彼女が猫目勢力の人間だとわかった。
強い直感反応があったからではない。
彼女が、あまりにも静かだったからだ。
テーブルの上に置かれた駒のように、静かだった。
彼女は私を見ると、わずかにうなずいた。
「白川一音さん」
私は入口のところに立ったまま、近づかなかった。
彼女は言った。
「ニャーサ様が、あなたと一つの条件について話したいと望んでいます」
カフェの中には普通の学生がいた。
レポートを書いている人がいる。
おしゃべりをしている人がいる。
イヤホンをつけて動画を見ている人もいる。
私はここで手を出したくなかった。
普通人を巻き込みたくもなかった。
だから、特調室の緊急連絡を開いた。
眼鏡の女性は、ほとんど即座につながった。
見えています。公共区域から一人で離れないでください。
私は低く言った。
「猫目の人間です」
把握しています。外層は監視中です。話を聞いてください。何も約束しないで。
私は向かい側へ行き、座った。
その女性は書類を出さなかった。
パソコンも開かなかった。
その瞬間、私のイヤホンから突然「ザーッ」という音が流れ、私は特調室との連絡が遮断されたことに気づいた。
彼女はただ私を見て、言った。
「ニャーサ様の条件は、とても簡単です」
私は答えなかった。
彼女は続けた。
「あなたが、自分の身体の中にある封印をニャーサ様へ渡す意思があるなら」
私の指が、一瞬で強張った。
黒海の奥で、ソレンセンの気配もわずかに沈んだ。
女性は私の反応を見て、何かを確認したようだった。
「ニャーサ様はその力を研究します」
「完全に理解し、それを自分の力へ変えたあと、猫目をあなたに管理させます」
「そして、ニャーサ様は地球を離れます」
カフェの中で、コーヒーマシンが蒸気音を立てた。
誰かが笑った。
誰かが本をめくった。
普通の音は、まだそこにあった。
それなのに、私の耳だけが、何かに隔てられたようだった。
封印を渡す。
猫目を私に渡す。
それは地球を離れる。
まるで童話みたいだった。
ひどく気持ちの悪い童話だった。
私はすぐには話さなかった。
まず、自分の心の震えを押さえ込まなければならなかったからだ。
ニャーサはソレンセンの名を知らない。
扉の向こうに誰がいるのかも知らない。
自分が本当は何に向き合っているのかも知らない。
それはただ、私の身体の中に未知の混沌系存在が封印されていると推測している。
それが欲しい。
研究したい。
理解したい。
自分の力にしたい。
けれど実際には、それにはできない。
私はその原理をすべて知っているわけではない。
だが、ソレンセンは知っている。
黒海の奥で、それは氷が裂けるように冷笑した。
「愚かな猫だ」
私は心の中で尋ねた。
「できないの?」
「当然だ」
「私を、自分の力にできると思ってるの?」
「吾が誰なのかも知らないくせに」
ソレンセンの声には、極めて危険な傲慢が混じっていた。
「混沌は、あれが爪の中へ収めたいと思って収められる玩具ではない」
「まして、封印はお前の手の中の箱ではない」
そこが关键だった。
たとえ私が狂っていたとしても。
たとえ本当に封印をニャーサへ渡したいと思ったとしても。
私はできない。
ソレンセンは、私が持ち歩いている物品ではない。
封印は、私が解いて、差し出して、譲渡して、受領確認できるものではない。
それはプニが残した封鎖だ。
私の身体と黒海とのあいだにある扉だ。
私はただ、扉の前にいる人間にすぎない。
扉の主人ではない。
まして、鍵の製造者でもない。
だがニャーサは、それを知らない。
それは、少なくとも私に何らかの交付可能性があると思っている。
これは取引だと思っている。
それは知らないのだ。
自分が出した条件が、第一歩から成立していないということを。
女性はなお、静かに私を見ていた。
「考えてもいいですよ」
私は尋ねた。
「なぜ私なの?」
彼女は言った。
「あなたは扉の前にいる人だからです」
その言葉に、心が冷えた。
扉の前にいる人。
ニャーサは、やはりそこまで推測している。
私の力そのものではない。
私の背後にある扉。
だが、ソレンセンの名は知らない。
扉の向こうにいる存在が、今こうして聞いていることも知らない。
私はそれを知られてはならない。
深く理解しているふりをしてもいけない。
「何の扉?」
私は尋ねた。
女性はわずかに微笑んだ。
「白川さん、もう偽装を続ける必要はありません」
「ニャーサ様はすでに、あなたの体内に何らかの封印された高位混沌力量が存在すると確認しています」
私は彼女を見た。
認めなかった。
否定もしなかった。
こういうとき、余計な反応はすべて線になる。
ソレンセンが黒海で低く言った。
「吾の名を言うな」
「わかってる」
「封印を説明するな」
「わかってる」
「お前が交付できないことも知らせるな」
私は一瞬、戸惑った。
「どうして?」
「それを知れば、あれは別の方法を探す」
ソレンセンは冷たく言った。
「今、あれはまだ交渉できると思っている」
「交渉は、時間だ」
理解した。
ニャーサが、まだ取引によって封印を得られると思っている限り、そこには一つの「交渉ルート」が残る。
このルートは危険だ。
けれど、直接扉を追い詰められるよりは、少しだけましだ。
だから私は言ってはいけない。
渡したくても渡せないと。
まして、封印の中にいるのがソレンセンだと。
私は、それの誤認を続けさせなければならない。
誤認もまた、保護なのだ。
私はその女性に尋ねた。
「ニャーサは、どうして私が受け入れると思うの?」
女性は言った。
「東京が重くなっているからです」
「あなたも知っているでしょう」
「互助会メンバーを守る」
「保護者を守る」
「保護者の家族を守る」
「サプライチェーンを守る」
「文化空間を守る」
「学生を守る」
「A大学を守る」
「AfterToneを守る」
彼女は一つずつ言っていった。
一つ言われるたびに、胸の中が締めつけられる。
猫目は、ずっと見ている。
とても細かく見ている。
「あなたはもう、自分が同時にすべての人を救えないことを知っています」
女性は続けた。
「森下理沙がその例です」
私の指先が冷たくなった。
「その名前を出すの?」
「彼女の身体状態は、現在安定しています」
「その言い方、すごく気持ち悪い」
女性は怒らなかった。
「白川さん、現実とはそういうものです」
「あなたが抵抗を続ければ、猫目は投入を続けます」
「さらに多くの資金」
「さらに多くの術師」
「さらに多くの法律圧力」
「さらに多くのサプライチェーン圧力」
「さらに多くの心理圧力」
「東京はますます疲れます」
「互助会もますます疲れます」
「あなたも、ますます疲れます」
彼女は、わずかに身を乗り出した。
「ですが、あなたが条件を受け入れれば、すべて終わります」
私は彼女を見た。
その声は、とても柔らかかった。
「ニャーサ様は地球を離れます」
「猫目はあなたが管理します」
「地方は、なお運営を続けられます」
「東京と京都は消耗を止められます」
「互助会メンバーは安全な安排を得られます」
「非猫目文化空間は、新しい緩やかなフレームワークへ取り込めます」
「保護者たちがこれ以上攻撃される必要もありません」
「あなたも、もう二つの場所のあいだで選ばなくてよくなります」
これが猫目の言葉だった。
いつもそうだ。
支配を経済成長と言う。
封印を差し出すことを、苦痛の終わりと言う。
成立しない取引を、全員の救済のように言う。
なぜ人が揺らぐのか、私はほとんど理解できてしまった。
もしこれが本当なら。
もし本当に私が封印を差し出せるのなら。
もし本当にニャーサが地球を離れるのなら。
もし本当に猫目を私が管理できるのなら。
もし地方が本当に、猫の爪から抜け出し、退出可能なシステムへ戻れるのなら。
もし皆が少しでも痛まなくて済むのなら。
それは誘惑になる。
誘惑になるからこそ、危険だった。
ソレンセンが黒海で冷笑した。
「あれはお前を買おうとしている」
「うん」
「お前が一番守りたいものを使って」
「うん」
「揺らいだのか?」
私はすぐには答えなかった。
自分に嘘をつきたくなかったからだ。
一瞬だけ、確かに思った。
もし本当にニャーサを去らせられるのなら?
もし本当に猫目を止められるのなら?
もし本当に北見遥香が北海道へ帰れ、遠坂綾乃が地方へ帰れ、森下理沙が解放され、小野寺が冷たいおにぎりを食べなくて済み、榊真理が消防書類と戦わずに済み、佐野美紀が深夜に購買表を直さずに済み、日和たちが私が消えることを心配しなくてよくなるのなら?
その考えは、確かに浮かんだ。
そして、すぐに押さえ込んだ。
これは取引ではない。
罠だ。
しかも、二つの嘘の上に立っている罠だ。
一つ目の嘘。
私は封印を差し出せる。
二つ目の嘘。
ニャーサはソレンセンを理解し、その力を自分のものにできる。
どちらも成立しない。
それに、仮にそれが本当にできたとしても、それは救済などではない。
封印されている混沌の魔君を、別の猫の力に変えるということだ。
今よりもっと悪くなる。
私は低く言った。
「とてもよく聞こえるね」
女性の目がわずかに動いた。
「考える気になりましたか?」
「よく聞こえると言っただけ」
私は彼女を見た。
「信じるとは言っていない」
女性は意外そうではなかった。
「ニャーサ様は、あなたが簡単には信じないと知っています」
「なら、どうしてあなたを寄越したの?」
「なぜなら、少なくともあなたは知るべきだからです。多くの人を無意味に犠牲にしなくて済む道があるのだと」
私は思わず、少し笑ってしまった。
「多くの人を無意味に犠牲にしない道?」
女性は私を見た。
私は言った。
「猫目は、もうどれだけの人を流血させたの?」
「どれだけの地方が、自分たちの鍵を失ったの?」
「どれだけの人が東京へ逃げてきたの?」
「どれだけの保護者があなたたちに攻撃されたの?」
「どれだけの普通の文化空間が、あなたたちに息もできないところまで追い込まれたの?」
「それで今さら、多くの人を無意味に犠牲にしなくて済む道があると言うの?」
女性は静かに答えた。
「続ければ、もっと増えます」
その言葉は刃のようだった。
それは本当の脅しだった。
同時に、事実でもあった。
対抗を続ければ、傷は続く。
猫目はその事実を私の前に置く。
そして言うのだ。
見なさい、苦痛はあなたが扉を差し出さないから生まれている、と。
そこが最も気持ち悪かった。
先に絞首縄を作る。
それから、なぜ皆に呼吸させてやらないのかと問う。
私は彼女を見て、ゆっくりと言った。
「ニャーサが本当に地球を離れたいなら、今すぐ離れればいい」
女性は言った。
「それには先に、あなたの体内の力が未来の脅威にならないと確認する必要があります」
「違う」
私は言った。
「あれは、その力が欲しいだけ」
女性は否定しなかった。
ただ言った。
「強大な力は、誰にも理解されなければ災厄をもたらすだけです」
私は笑いそうになった。
「だからニャーサに渡すの?」
「ニャーサ様なら制御できます」
黒海の奥で、ソレンセンが笑った。
今度は本当に、馬鹿馬鹿しくて仕方がないという笑いだった。
「続けさせろ」
それは心の中で言った。
「吾は、これほど面白い冗談を久しく聞いていなかった」
私はそれを無視した。
ただ相手を見た。
「もし、制御できなかったら?」
女性はすぐに答えた。
「ニャーサ様は、完全に理解したあとで融合します」
その言葉で、ニャーサが本当に知らないことが証明された。
自分が何に向き合おうとしているのかを。
いわゆる「完全理解」そのものが妄想だと知らない。
封印が研究材料ではないと知らない。
ソレンセンが、剥離され、分析され、融合されるような普通の力の源ではないと知らない。
私はそれらをすべて胸の奥に押し込めた。
一切、表に出さなかった。
私は立ち上がった。
「拒否する」
女性が顔を上げた。
「今、拒否するのですか?」
「うん」
「もっと時間は必要ありませんか?」
「必要ない」
「東京が消耗し続けても?」
私は彼女を見た。
「消耗を作っているのは私じゃない」
「ですが、あなたにはそれを終わらせる機会がある」
「あなたの言う終わりは、もっと危険なものをニャーサへ渡すことだ」
女性の目がわずかに変わった。
「もっと危険なもの?」
心が強く跳ねた。
今、言い過ぎた。
ソレンセンが黒海で低く言った。
「落ち着け」
私はすぐに一言を足した。
「私が言いたいのは、あなたたちが理解していない封印力量を、ニャーサが研究のために取るべきではないということ」
女性は私を観察していた。
私は自分を平静に保った。
彼女はそれ以上追及しなかった。
おそらく、これは私が未知の力に対して普通に警戒しているだけだと思ったのだろう。
彼女は言った。
「あなたはなお、それが何なのか認めようとしない」
「あなたに話す必要がないから」
「ニャーサ様は、もう十分なことを知っています」
「なら、引き続き推測させておけばいい」
女性はついに、軽く笑った。
「その言葉、伝えておきます」
私は鞄を取った。
「それと」
彼女が私を見る。
私は言った。
「『猫目をあなたに管理させる』なんて言葉で、もう私を試さないで」
「なぜです?」
「猫目は贈り物じゃないから」
私は彼女を見た。
「それは、多すぎる人が故郷を失ったあとに残された檻だ」
「あなたたちは檻を私に差し出して、主人になれと言っている」
「私は、そんなものはいらない」
そう言って、私は背を向けた。
カフェを出ると、外はもう暗くなっていた。
特調室の車が街角に停まっている。
眼鏡の女性が車から降りて、最初に言った。
「大丈夫ですか? さっき、内容が遮蔽されました」
私は首を横に振った。
「大丈夫じゃありません」
眼鏡の女性は言った。
「私たちが受信できたのは、意味のないノイズだけです」
「通信は断絶していませんでしたが、关键語義がすべて失われていました」
「読唇も失敗しました」
「現場の術式監測では、相手が何らかの非本世界体系の遮蔽手段を使ったと出ています」
私の指が、ゆっくりと強張った。
猫目は特調室が聞こうとすることを想定していなかったわけではない。
当然、想定していた。
だから最初から、この会話を私だけに残したのだ。
単に私へ条件を出したのではない。
孤立証言を作ったのだ。
私が話せば、他人は私を信じるしかない。
私が話さなければ、猫目が叙事を握る。
私が不完全に話せば、猫目はあとから歪めた版を流せる。
私が話しすぎれば、ソレンセンが露出する可能性がある。
ニャーサは、私を非常に悪い位置へ押し込んだ。
唯一の証人にした。
唯一の証人は、最も疑われやすい。
そして、最も押し潰されやすい。
眼鏡の女性は私を見ていた。
「何を言われたんですか?」
私は口を開いた。
けれど、すぐには答えられなかった。
今回のことは、今までと違うと突然気づいたからだ。
録音がない。
書類もない。
監視証拠もない。
特調室による同時聴取もない。
私が口にする一語一語が、私自身の信用だけで支えられることになる。
そして私の信用は、もう猫目に狙われている。
特調室は私を安全会議室へ連れていった。
部屋にいる人は少なかった。
眼鏡の女性。
久我山統括官。
記録員が一人。
術式分析官が一人。
他の勢力代表はいない。
遠坂綾乃もいない。
北見遥香もいない。
天城もいない。
御影もいない。
談話内容を確認するまでは、拡散できないからだ。
久我山統括官が、先に口を開いた。
「白川さん、今回は我々には会話内容を検証できません」
私はうなずいた。
「わかっています」
「ですから、層を分けて説明してかまいません」
「どこまで記録してよいか」
「どこから口頭に留めるべきか」
「どこをあなたが言えないと考えているか」
彼はとても慎重に言った。
そのおかげで、少しだけ落ち着いた。
彼らは私に、すぐ全部を話すよう迫らなかった。
盗聴が失敗したからといって、私を疑ってもいなかった。
眼鏡の女性はペンを置いた。
「まず判断はしません」
「あなたが話せる範囲で話してください」
私は深く息を吸った。
そして言った。
「猫目の人間が、ニャーサの条件を伝えに来ました」
記録員がペンを上げる。
私は続けた。
「それは、私に裏人格の力をニャーサへ渡すよう求めました」
「その交換条件として、ニャーサはそれを研究し、理解し、自分の力にしたあと、猫目を私に管理させると約束しました」
「その後、地球を離れると」
部屋の中が、瞬間的に恐ろしいほど静かになった。
記録員のペンが紙の上で止まる。
術式分析官でさえ、キーボードを叩くのを忘れていた。
眼鏡の女性の顔色が変わった。
久我山統括官は、すぐには何も言わなかった。
「彼らは、どこまで知っている?」
「私の体内に裏人格の力があることだけです」
久我山は私を見た。
「認めたのですか?」
「いいえ」
「否定は?」
「していません」
「よろしい」
眼鏡の女性が、ごく小さく言った。
彼女がこうして割り込むことは珍しい。
今回は、本当に少し安心したのだろう。
久我山がさらに尋ねた。
「彼らは、あなたが交付できないことを知っていますか?」
心が強く沈んだ。
私は彼を見た。
彼も私を見ていた。
この問いは非常に鋭かった。
彼はソレンセンを知らない。
だが、取引の実行可能性の問題に気づいている。
私は明確に言いすぎることはできない。
しかし嘘もつけない。
私は答えた。
「それは、その点を確認していません」
「あなたは伝えなかった?」
「はい」
「理由は?」
「もしその取引ルートが完全に不可能だと知れば、より極端な方法を探す可能性があるからです」
久我山は少し沈黙した。
それから、うなずいた。
「記録。猫目側に実行可能性の詳細を確認させず、相手の誤認を保つことで時間を稼ぐ」
記録員が書き留める。
眼鏡の女性が私を一度見た。
その視線には心配と、理解があった。
彼女はようやく、私がどうしてこんなに緊張しているのかを理解した。
条件に誘惑されたからではない。
「できない」という事実でさえ、簡単に言ってはいけないからだ。
術式分析官が尋ねた。
「白川さん、相手のいう『渡す』とは、何らかの儀式、抽出、転移を含むものでしたか?」
私は言った。
「具体的な方法は示されませんでした」
「つまり、要求だけがあり、技術経路の説明はない?」
「はい」
「それは、相手も方法を知らない可能性を示します」
その言葉が出ると、会議室の空気が少し変わった。
全員が意識したのだ。
この条件は、成熟した方案ではない。
より試探に近い。
久我山は言った。
「目的は、おそらく四つあります」
「第一に、白川さんから裏人格の具体状況を自発的に漏らさせること」
「第二に、その裏人格が交付可能か確認すること」
「第三に、猫目が地球を離れる意思があるという偽象を作ること」
「第四に、猫目支配の責任を白川さんへ転嫁すること」
眼鏡の女性が補足した。
「第五に、検証不能な単独談話を作り、白川さんを唯一の情報源にすること」
その言葉で、部屋はまた静かになった。
そうだ。
そこが最も厄介なのだ。
特調室が聞いていれば、彼らは私の証人になれた。
今はできない。
彼らが言えるのは、こうだ。
白川一音は、猫目がそういう条件を提示したと主張している。
あまりにも脆い。
猫目が攻撃しやすい。
猫目は、私が誤解したと言える。
誇張したと言える。
それはただ「平和研究フレームワーク」を提示しただけだと言える。
私がニャーサを地球から離れさせる機会を拒否したと言える。
私が本当の条件を隠していると言うこともできる。
久我山は記録を見て言った。
「この件は、普通の情報として処理してはなりません」
「これは叙事武器です」
各方面の反応は、すぐに分かれた。
天城方面は初期通報を受けると、まず会話内容の技術復元を求めた。
天城美咲は言った。
「原始音声、映像、現場術式残留、カフェの監視映像、通信チャンネル記録が必要です」
眼鏡の女性は答えた。
「すでに封存しています」
天城怜司は、より慎重だった。
「相手が外来技術あるいは非本世界の力を使ったのなら、強引な復元は二次汚染を誘発する可能性がある」
天城美咲は少し沈黙した。
「なら、少なくとも白川さんが認知改変を受けていないことを証明しなければなりません」
この言葉は聞きづらかった。
だが、問わなければならないことだった。
知っているのが私一人だけだからだ。
私が影響を受けていないかを確認しなければならない。
私は検査を受けた。
認知安定性。
記憶連続性。
精神汚染。
言語誘導残留。
すべて一通り確認された。
結果はこうだった。
明確な改変なし。
強制暗示なし。
記憶植入なし。
ただし、私が述べた一語一句が完全に正確であることは証明できない。
それが現実だった。
科学的に言えば、特調室が確認できるのはこうだ。
私は確かに、遮蔽された会話を経験した。
私は明確に操作されていない。
現在復述している内容は、私の記憶の中で安定している。
しかしその内容が相手の原話そのものであるかどうかは、外部証拠がない。
この不完全さが、全員を不快にさせた。
御影方面の反応は、さらに直接的だった。
御影冬子は聞き終えると、言った。
「彼女を二度と猫目と単独接触させてはなりません」
一方、御影秋人は言った。
「相手には特調室の監聴を遮蔽する能力があります。こちらが同席を安排しても、必ず聞けるとは限りません」
旧世代代表は、さらに保守的だった。
「相手が直接、白川一音の裏人格力量を求めてきた以上、すでに白川さんを主要目標と見なしているということです」
「彼女の普通護送への参加を制限すべきです」
その言葉は即座に争論を引き起こした。
なぜなら、もし私の普通護送参加を制限すれば、猫目は別の目的も達成することになるからだ。
一度の会話で、東京は自ら私を現実層の任務から切り離すことになる。
眼鏡の女性は反対した。
「相手が取引を提示したというだけで、白川さんを彼女の裏人格の容器として隔離してはいけません」
「彼女はなお行動人員であり、学生であり、当事者でもあります」
この「当事者」という言葉は重要だった。
物ではない。
容器ではない。
封印リスクだけを持つ対象でもない。
私は交渉を受けた人間だ。
そして、これからも生きていく人間だ。
最終的に、御影方面は折衷案を受け入れた。
接触防護を増やす。
ただし、私のすべての任務は取り消さない。
京都方面の反応は、最も冷たかった。
七条は通報を聞き終えると、三つだけ質問した。
「彼女は裏人格の具体状況を言ったか?」
答えは、いいえ。
「相手は彼女が交付できないことを知っているか?」
答えは、不確定。ただし彼女は確認させていない。
「猫目はこの会話を使って互助会に裂け目を作れるか?」
答えは、極めて高い可能性。
七条はしばらく沈黙してから言った。
「なら、先に叙事を取るべきだ」
京都の老委員が補足した。
「彼女の裏人格について、詳細に話してはならない」
七条は言った。
「当然だ」
「猫目が危険な取引を提示し、白川一音へ未知の裏人格力量を差し出すよう求めた、とだけ言う」
「猫目が信用に値する証明をしていないことを強調する」
「これは平和ではなく、勒索だと強調する」
判断が非常に速かった。
京都は、こういうことにおいて東京より冷たい。
京都は「名前」と「封印」の危険をよく知っているからだ。
深く追問しない。
好奇心をリスクの上に置かない。
その点は、私を少し安心させた。
世俗財団残余の反応は、最も複雑だった。
彼らは封印を理解していない。
混沌も理解していない。
ソレンセンも理解していない。
彼らが聞いた重点はこうだった。
ニャーサは地球を離れると言った。
猫目を私に管理させると言った。
これは彼らにとって、あまりにも誘惑が強かった。
ある財団代表は閉門会議で尋ねた。
「もし猫目が本当に白川さんの管理下に入るなら、改組、清算、監管、資産分離を通じて地方を回復させることはできないのでしょうか?」
遠坂綾乃は、その場で問い返した。
「あなたは何を根拠に、ニャーサが本当に渡すと思っているのですか?」
相手は沈黙した。
彼女は続けた。
「仮に渡されたとしても、猫目が地方を支配してきた債権、保険、倉庫、資料、医療、巡回は、すべて即座に白川さん名義の問題になります」
「そのとき、すべての地方の憎しみが彼女へ向く」
「あなた方は、そうなればニャーサに向き合うより楽だと考えているのではありませんか?」
その言葉は重かった。
その代表の顔色が変わった。
遠坂綾乃は一歩も退かなかった。
「あなた方が欲しいのは平和ではありません」
「交渉でき、監管でき、責任を背負わせられる人間の猫目主人です」
「そして白川さんは、ちょうど人間です」
会議室は恐ろしいほど静かになった。
彼女は、一部の人間が口に出せなかった本心を言い当てたのだ。
ニャーサは遠すぎる。
強すぎる。
制御できなさすぎる。
もし猫目が私の管理下になるなら、たとえ私が強くても、少なくとも私は人間で、学生で、政治、道徳、世論、責任によって縛れる存在だ。
世俗勢力の一部にとって、それは確かに受け入れやすい。
だからこそ、ニャーサの提案は陰険で毒々しい。
互助会内部の反応は、最も痛かった。
説明会の前、特調室は互助会核心メンバーにだけ事前通報をした。
猫目と白川一音のあいだで、遮蔽された会話が発生した。
会話内容は外部検証できない。
白川一音が、公開可能な部分を自ら説明する。
「外部検証できない」というその一言だけで、多くの人が不安になった。
ある人が尋ねた。
「では、私たちはどうやって本当だと知ればいいのですか?」
その問いに悪意はなかった。
だが、針のように刺さった。
説明会で、私は青い橋の舞台前に立ち、話せる内容を話した。
私は言った。
「この会話は、猫目によって遮蔽されました」
「私以外、关键内容を聞いた人はいません」
「だから、あなたたちは疑っても構いません」
客席はとても静かだった。
私は続けた。
「ただ、私が覚えている内容を話します」
「猫目は、私の体内にある裏人格、つまりあなたたちが『下北沢の黒弦』と呼んでいる力を差し出すよう求めました」
「それを研究し、掌握したあと、猫目を私に管理させ、地球を離れると約束しました」
「私は拒否しました」
眉をひそめる人がいた。
拳を握る人がいた。
うつむく人がいた。
ほっとしたように見える人もいた。
そして、明らかに揺らいでいる人もいた。
一人の互助会メンバーが尋ねた。
「録音がないなら、猫目があとから違うと言ったらどうするんですか?」
私は言った。
「それは、とてもあり得ます」
「では、私たちはどうすればいいんですか?」
遠坂綾乃が立ち上がり、私のために言った。
「猫目が一語一句その通りに言ったと証明しなければ、この取引が危険だと判断できないわけではありません」
「猫目が白川さんに未知の裏人格力量を差し出すよう求めたこと、それ自体が受け入れられません」
その人は尋ねた。
「でも、その要求自体も白川さんだけが聞いたんですよね」
その言葉で、会場は沈黙した。
私はうなずいた。
「はい」
逃げなかった。
「だから今、あなたたちは選ぶしかありません」
「私を信じるかどうかを」
その言葉を口にしたとき、私自身も重さを感じた。
すべての人が、すぐに揺るぎなくなったわけではない。
北見遥香が立ち上がって、私のために話した。
彼女は「白川さんは絶対に誤解していない」と保証したわけではなかった。
彼女が話したのは、別のことだった。
「猫目は以前、私にも写真を送ってきました」
「家族の消息をくれました」
「善意に見える通道もくれました」
「その内容の多くは本当でした」
「けれど、本当の内容は鉤として使われていました」
彼女は客席を見た。
「今回も同じです」
「もしかすると、本当に地球を離れると言ったのかもしれません」
「もしかすると、本当に猫目を渡すと言ったのかもしれません」
「もしかすると、白川さんの記憶通りの一字一句ではないのかもしれません」
「でも、核心は同じです」
「一人の人間に、皆の痛みを終わらせられるように見える条件を、独りで向き合わせる」
「それが猫目のやり方です」
葉山美緒も立ち上がって、私のために話した。
「猫目が私に父の消息をくれたとき、私も電話をつなげばいいだけかもしれないと思いました」
「でも、それは普通の電話ではありませんでした」
「これは同じです」
小野寺の言い方は、もっと粗かった。
「猫目が本当に出ていきたいなら、先に出ていけ。物を要求するな」
その言葉で、一部の人が少し笑った。
短い笑いだった。
けれど、空気は少しだけ和らいだ。
最終的に、互助会は公開分裂を起こさなかった。
だが、疑いは残った。
猫目が欲しかったのは、すぐに皆を反目させることではない。
棘を一本差し込むことだ。
その棘は、もう入ってしまった。
特調室内部にも圧力が出た。
監聴が遮蔽されたことは、重大な失敗だからだ。
眼鏡の女性は自ら事故報告を提出した。
タイトルは、
猫目接触事件における外部監聴語義層遮蔽失効報告。
報告には明確に書かれていた。
一、外層通信は中断され、我方の現場支援人員が監聴できなかった。
二、关键語義は低価値の環境音および無意味な雑談に置換された。
三、映像の唇形区域には微擾が存在し、復元できなかった。
四、遮蔽手段は外来力量の疑いがあり、現有防護庫に属さない。
五、今後すべての猫目直接接触事件において、監聴有効を默认してはならない。
六、リアルタイム語義完整性校験を設置しなければならない。
七、当事者が監聴失効条件下で分層復述を行う訓練をしなければならない。
この報告は、特調室にとって非常に見栄えが悪かった。
だが久我山は内部公開を求めた。
彼は言った。
「我々は、自分たちが聞いていたかのように装ってはならない」
「聞けなかったのなら、聞けなかったのです」
「そうでなければ、次は重大な損失が出るかもしれない」
眼鏡の女性は自分を弁解しなかった。
ただ、特調室の監聴方案を再設計し始めた。
もし監聴内容の語義が突然、無意味な雑談へ変わったら、即座に談話を打断する行動を起動する。
もし映像の唇形が音声と対応しなければ、起動する。
もし当事者の表情変化と音声内容が一致しなければ、起動する。
猫目は特調室に高い授業料を払わせた。
猫目側では、代理人が各方面の反応を報告した。
「特調室は監聴失敗を確認しました」
「東京方面は本件を危険な取引および叙事攻撃と定義しました」
「互助会内部には少量の疑念が存在しますが、明確な分裂は形成されていません」
「世俗財団残余の中には、もし猫目が白川一音の管理下に入るなら、交渉可能な局面が形成される可能性があると考える者がいます」
ニャーサはそこまで聞くと、笑った。
「人間は正直だね」
代理人は頭を下げた。
「その見方を拡大しますか?」
「軽く流せ」
ニャーサは言った。
「こちらから出たように見せるな」
「彼ら自身に問いを持たせるんだ」
「もし白川一音が猫目を引き継げば、ニャーサが持つよりましなのではないか?」
「彼女が拒否したのは、平和的改組の機会を捨てたことになるのではないか?」
「会話の録音がないなら、彼女はもっと多くを隠しているのではないか?」
代理人は記録した。
ニャーサはさらに尋ねた。
「彼女は封印の中の混沌力量の名を言ったか?」
「確認されていません」
「自分が交付できないことは?」
「言っていません」
ニャーサは目を細めた。
「賢い」
それは、獲物があまりにも愚かであることを好まない。
白川一音は名を言わなかった。
できないことも言わなかった。
全員がすぐに自分を信じることも求めなかった。
それが局面をさらに面白くしている。
それはテーブルを軽く叩いた。
「交渉線は維持しろ」
「同時に、次の遮蔽接触の準備をする」
代理人が尋ねた。
「また直接彼女へ接触しますか?」
「急がない」
ニャーサは東京の方角を見た。
「まず、彼らに証拠のない会話を消化させる」
「信頼というものは、録音がないときが一番怖い」
その数日間、私は周囲の反応が明らかに変わったのを感じた。
敵意ではない。
疎遠でもない。
一種の、慎重さだった。
特調室は私に対して、より慎重になった。
黒弦の力の出所に関する話題へ触れるたび、先に聞く。
「これは記録してもいい内容ですか?」
互助会メンバーが私を見るときも、ある人はさらに強く信じ、ある人はより不安になった。
小野寺は相変わらず、いつもどおり私におにぎりを押しつけてくる。
だが一度、彼は言った。
「あなたは毎回、すべてを完全に話そうとしなくていい」
私は尋ねた。
「どうしてですか?」
彼は言った。
「完全さを、あなたを噛むために使う人間もいますから」
彼らしい言葉だった。
粗い。
でも、有用だった。
北見遥香は私に言った。
「もし誰かに『隠していることがあるのか』と聞かれたら、あると言っていいんです」
私は固まった。
彼女は続けた。
「だって、あなたは確かに言えないことを隠しているから」
「皆を安心させるために、何もかも公開できるふりをしてはいけません」
「それはあなたを壊します」
私は低く言った。
「でも、それでは疑われます」
「疑われます」
「なら、どうすれば?」
「あなたが隠しているのは彼らを裏切るためではなく、猫目により危険な手がかりを掴ませないためだと、知ってもらうんです」
とても難しい。
だが、それしかないのかもしれない。
私は最終的に、互助会の次の小会議で一つの言葉を口にした。
「あの会話について、私は確かに全部は話していません」
全員が私を見た。
私は続けた。
「言えない内容があります」
「情報をコントロールしたいからではありません」
「言えば、猫目にもっと危険な手がかりを与えることになるからです」
「あなたたちは、そのことで不安になってもいい」
「それは受け入れます」
「でも私は、自分が正直だと証明するために、言ってはいけないものを言うことはしません」
その言葉を言い終えると、青い橋の中は静かだった。
遠坂綾乃がうなずいた。
「自分には何の隠し事もないと言うより、そのほうが信用できます」
北見遥香も言った。
「互助会は、必要な不完全情報と共存することを学ぶ必要があります」
この言葉も、のちに手冊へ書き込まれた。
必要な不完全情報。
すべての秘密が背信なのではない。
だが、すべての秘密には境界が必要だ。
それもまた、東京がこれから学ばなければならないことだった。
その夜、私は安全住居へ戻った。
とても疲れていた。
任務へ出るより疲れた。
戦闘のとき、相手は外にいる。
けれど今回は、相手が戦場を人と人との信頼の中へ置いたからだ。
ソレンセンが黒海の中で言った。
「ニャーサは今回、よく掴んだな」
「うん」
「お前を唯一の証人にした」
「うん」
「人間は唯一の証人を好まない」
「知ってる」
「疑うぞ」
「知ってる」
「怖いのか?」
私はしばらく沈黙した。
「少し」
「信じられないのが怖いのか?」
「信じられすぎるのも怖いし、信じられないのも怖い」
ソレンセンは一瞬静かになった。
「それは、いかにも人間の問題だな」
私は苦笑した。
「そうだね」
それは言った。
「吾の名を言うな」
「言わない」
「信じられるために、扉を一筋でも開けるな」
「わかってる」
「なら、それで十分だ」
十分ではない。
当然、十分ではない。
けれど少なくとも、それが底線だった。
私は備忘録を開き、書いた。
猫目接触事件の後続。
关键会話は遮蔽された。
東京方面では、私以外に完整内容を知る者はいない。特調室を含む。
リスク:私が唯一の証人になる。
各方面の反応。
特調室:監聴失敗。語義完整性保障机制を構築する疑い。
天城:技術復元を要求し、認知改変を懸念。
御影:接触制限を要求し、裏人格のリスクを懸念。
京都:猫目に先に説明させないため、叙事を先に取ることを提案。
世俗財団残余:遠坂綾乃によれば、一部が揺らぎ、猫目を引き継げば交渉可能かもしれないと考えている。
互助会:大多数は理解。ただし疑念は存在。
猫目の目標:証拠のない条件を作り、信頼を戦場にすること。
私の原則。
名を言わない。
封印構造を言わない。
取引が第一歩から不可能であることを説明しない。
必要な隠蔽があることを認める。
信じられるために、言えないものを言わない。
書き終えてから、私は少し止まった。
そして、さらに書いた。
信頼は録音ではない。
けれど録音がないとき、信頼は重くなる。
私はノートを閉じた。
窓の外の東京は、まだ明るかった。
猫目は今回、人を捕まえなかった。
文化空間を襲わなかった。
サプライチェーンを切断しなかった。
ただ、一場の会話に証拠を残さなかっただけだ。
だが、それは多くの戦闘より危険だった。
なぜなら、この章から、東京はまた別の抵抗を学ばなければならなくなったからだ。
すべてを知らない。
すべてを知ることもできない。
すべてを証明する録音もない。
それでもなお、共に立ち続けるかどうかを決めることを。