俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第115章 十七歳の水桶、停電時間割、そして二つの都市にいる女子高生
東京の十七歳の女子高生は、青木梨央という。
京都の十七歳の女子高生は、橘千夏という。
二人は知り合いではない。
会ったこともない。
一人は東京東側防線内の普通の住宅区に住んでいる。
もう一人は京都内層、旧町区に近い家に住んでいる。
二人とも術師ではない。
互助会メンバーでもない。
特調室の人間でもない。
大勢力の子女でもない。
ただの高校二年生だった。
以前、彼女たちが一番気にしていたことは、とても普通だった。
試験。
部活。
友人関係。
好きな歌。
制服のスカートに皺がついていないか。
コンビニの新作スイーツ。
雨の日に傘を忘れること。
数学の小テストで赤点にならないか。
けれど猫目勢力が爪を水管と電線へ押しつけたあと、彼女たちの生活も変わった。
突然、戦場に変わったわけではない。
朝起きて最初に飲む一杯の水から、少しずつ変わっていったのだ。
青木梨央が初めて、本当に東京が変わったと感じたのは、家の洗濯機が止まったからだった。
壊れたわけではない。
母が止めたのだ。
「今日は夜九時以降に洗うわ」
梨央は浴室の入口に立ち、着替えた体操着を抱えていた。
「どうして?」
母は冷蔵庫に貼られた通知を指差した。
本区は段階的節電に入ります。大型家電はピーク時間帯を避けて使用してください。
梨央はそれを見た。
紙にはたくさんの文字があった。
供電圧力。
海水淡化設備。
病院優先。
避難点優先。
居民の使用時間分散。
彼女はそれまで、洗濯機と病院、海水淡化が関係しているなんて考えたことがなかった。
けれど今では、洗濯機が少し遅く回ることで、どこかの水処理点が少し安定するかもしれない。
その理屈は、あまりにも大きすぎた。
大きすぎて、最初は荒唐無稽に思えた。
「明日、体育の授業で着るんだけど」
母は言った。
「じゃあ、一枚だけ手洗いするわ」
梨央は急に、少しつらくなった。
「いい。自分で洗う」
彼女は浴室にしゃがみ、桶に水を受けた。
水の流れは以前より弱い。
断水ではない。
ただ、水圧が低かった。
水が桶へ落ちる音は、とても小さかった。
彼女は少しずつ上がっていく水面を見つめ、初めて思った。
水は、蛇口をひねれば当然出てくるものではないのだと。
それは多くの人が猫目の手から奪い返して、彼女の家まで送ってくれているもののようだった。
その考えは、彼女をとても居心地悪くさせた。
彼女はただ、体操着を洗いたかっただけなのに。
同じ日の朝、京都の橘千夏は学校の入口で水を受け取る列に並んでいた。
家に完全に水がないわけではない。
学校が全生徒に空の水筒を持ってこさせ、校内で予備飲用水を登録するよう求めたからだ。
京都では、より厳しい節水令が始まっていた。
学校のトイレは一部時間帯で水流制限。
給水機は休み時間だけ開放。
部活は短縮。
茶道部の稽古は停止。
プールはもちろん、ずっと前から使われていない。
橘千夏は列の中に立ち、透明な水筒を持っていた。
前の生徒が小声で文句を言う。
「東京には少なくとも海があるじゃん」
別の生徒が言った。
「海水はそのまま飲めないでしょ」
「でも淡化できるじゃん」
「京都にも井戸があるよ」
「井戸だって、どれも飲めるわけじゃないし」
千夏は、自分の水筒を見下ろした。
彼女はこういう会話が好きではなかった。
誰かが間違っているからではない。
皆、少しずつ正しいからだ。
東京には海がある。
でも海水淡化には電気がいる。
京都には井戸がある。
でも井戸には検査がいる。
彼女は以前、京都の水はおいしいと思っていた。
家の近くには古い井戸があり、子どものころ祖母が「これが昔の京都の味」と言っていた。
今、その井戸には鍵がかけられている。
そばには検査表が貼られている。
開けるたびに、誰かが記録しなければならない。
祖母はその鍵を見て、長いあいだ黙っていた。
最後に言った。
「井戸まで銀行の貸金庫みたいになったね」
千夏は、何と答えればいいのかわからなかった。
猫目は本当に井戸へ手を出すかもしれないからだ。
一つの井戸にも守衛が必要になる。
それはあまりにも奇妙だった。
そして、あまりにも現実だった。
東京の学校は、時間割を変え始めた。
青木梨央の高校では、午後の最後の授業が十分短縮された。
部活は週三回になった。
音楽室、コンピューター室、体育館の照明はすべて使用制限。
校内放送では、毎日こう流れる。
「生徒の皆さん、水と電気を節約してください。恐慌性の買い占めはしないでください。猫目の臨時給水、臨時充電サービスの広告を見つけた場合、勝手に接触せず、先生へ報告してください」
初めて聞いたとき、クラス中が笑った。
誰かが言った。
「猫目って、モバイルバッテリー持って家に来るの?」
先生は笑わなかった。
ただ、こう言った。
「本当にあり得ます」
教室は一瞬で静かになった。
数日後、校門の近くに本当にチラシが現れた。
猫目共同エネルギー支援。学生家庭へ臨時充電および浄水相談を提供できます。
チラシのデザインはとても柔らかかった。
青い水滴の図案がある。
そして一文が添えられていた。
子どもに大人の固執を背負わせないために。
梨央がその言葉を見たとき、心の中が乱れた。
学校が猫目を信じるなと言っているのは知っている。
ニュースで、猫目が東京と京都を脅していると言っているのも知っている。
それでも、その言葉はあまりにも人の心を掴むのが上手かった。
子どもに大人の固執を背負わせないために。
彼女は子どもだ。
少なくとも、多くの大人の目にはまだ子どもだ。
では、今こうして洗濯を減らし、照明を減らし、部活が短くなっているのは、大人の固執を背負わされているということなのか?
その問いが浮かんだ瞬間、彼女は自分で驚いた。
これこそ猫目が考えさせたいことだと、わかっていたからだ。
でも、わかっていることと、考えてしまわないことは別だった。
彼女はそのチラシを先生に渡した。
先生は受け取って、一目見て言った。
「報告してくれてありがとう」
梨央は尋ねた。
「先生、この言葉って、わざと私たち向けに書いてあるんですか?」
先生はうなずいた。
「そうです」
「じゃあ、どうして少し本当みたいに見えるんですか?」
先生は少し沈黙した。
「それは、本当の不快感を使って、間違った答えへ押しているからです」
梨央は、その言葉をノートに書いた。
本当の不快感は、猫目の答えが正しいという意味ではない。
試験に出るかどうかはわからない。
でも、いつか使うことがある気がした。
京都の橘千夏が初めて猫目の噂を見たのは、クラスのグループチャットだった。
誰かが一枚の写真を転送した。
山脚水源の近くにいる死んだ鳥。
添えられた文には、こうあった。
京都はまだ井戸水が安全だと言うの?
グループは一気に騒がしくなった。
本当なのかと聞く人。
学校の水を飲むなと言う人。
猫目支配区のボトル水のほうが安定していると言う人。
画像を流した人を、恐慌を作っていると責める人。
先生はすぐにメッセージを送った。
未確認の画像を拡散しないでください。午後、学校で水質説明を行います。
午後、理科教室に臨時説明会が設けられた。
水務担当の人が来た。
彼は画像をスクリーンに映し、言った。
「この写真は、少なくとも現在確認できる京都内層の水源点ではありません」
「では、どこなんですか?」
誰かが尋ねた。
水務担当者は答えた。
「不明です」
クラスの中にざわめきが広がる。
彼は続けた。
「不明だからといって、本当だと扱うべきではありません」
「同時に、不明だからといって、無視してよいわけでもありません」
「だから、私たちは追加検査を行います」
「今日の学校給水は、追加検査が終わるまで、既存備蓄水を使用します」
この説明は、完璧に安心できるものではなかった。
けれど千夏は、少なくともこの人が嘘をついていないと感じた。
わからないところは、わからないと言ったからだ。
その日から、彼女はグループチャットに流れてくる水源写真をすぐ信じなくなった。
同時に、すぐ否定もしなくなった。
まず見る。
出どころを見る。
学校の通知を見る。
検査時間を見る。
それは、とても面倒なことだった。
十七歳の彼女が本来やりたかったことではない。
けれど、これが今の京都の生活だった。
東京の梨央には、別の面倒があった。
停電課表。
学校は毎週、供電状況に応じて時間割を微調整する。
エアコンを使える教室。
使えない教室。
午後の授業を短縮する日。
オンライン教材を事前にダウンロードしておく日。
コンピューター室が使えない日。
放課後の自習室を開けない日。
梨央は最初、それにとても苛立っていた。
数学の補習が時間変更になる。
写真部の暗室が使えない。
スマホの充電を学校でできなくなる。
友人との予定も変わる。
けれど、彼女はある日、廊下に貼られた優先給電表を見た。
病院。
給水処理点。
地下避難区。
通信施設。
学校基礎照明。
居民区夜間最低電力。
その表には、写真部の暗室はなかった。
梨央は少し悲しくなった。
同時に、それが当然だとも思った。
暗室は大事だ。
でも、病院より大事ではない。
その日、写真部の顧問は言った。
「今月は暗室作業を減らして、外で記録写真を撮りましょう」
部員の一人が不満そうに言った。
「何を撮るんですか? 停電した街?」
顧問は言った。
「それも記録です」
梨央はカメラを持って、夕方の街へ出た。
東京の街は、以前より少し暗い。
けれど完全に暗くはない。
店の看板の一部は消えている。
コンビニの照明も少し落ちている。
集合住宅の廊下の灯りは弱い。
給水説明の掲示板の前に人がいる。
臨時充電を売る怪しいチラシを剥がしている大人がいる。
水桶を持って歩いている子どももいる。
梨央は、水桶を持つ子どもの後ろ姿を撮った。
撮ったあと、少し申し訳ない気持ちになった。
その子は、ただ水を運んでいるだけなのだ。
写真の被写体になりたいわけではない。
顧問は写真を見て、言った。
「いい写真です」
梨央は尋ねた。
「これ、撮っていいんですか?」
顧問は言った。
「人を傷つけない形で残すなら、意味があります」
「何の意味が?」
「今の東京が、ただ暗くなっただけではなく、誰かが水を運んでいる都市になったという記録です」
梨央は、その言葉の意味をすぐには理解できなかった。
けれど写真は消さなかった。
京都の千夏も、記録を始めた。
彼女の学校では、各クラスから一人ずつ「水電生活記録係」を出すことになった。
名前は少し変だった。
けれど先生は真面目だった。
「これは作文のためだけではありません」
「将来、私たちがどう生活を変えたのかを残すためです」
千夏は記録係になった。
理由は、字が比較的読みやすいからだ。
彼女は毎日、いくつかの項目を書く。
給水機の開放時間。
トイレ限流時間。
部活短縮状況。
井戸水検査通知。
水に関する噂。
生徒の不満。
生徒の適応。
最初、彼女は「生徒の不満」を書くのに少し躊躇した。
文句を書いていいのかと思ったからだ。
先生は言った。
「書いていいです」
「不満も生活の一部です」
この言葉は、千夏を少し安心させた。
だから彼女は書いた。
一組の生徒が「東京には海がある」と言った。
別の生徒が「京都は見捨てられているのか」と言った。
先生が「未確認情報で都市間対立を作らないこと」と説明した。
給水機の列が長く、三人が授業に遅れかけた。
茶道部の先輩が泣いていた。
それらは、あまり綺麗な記録ではない。
でも、本当だった。
東京と京都の大人たちは、すぐに十代の生活が変化していることを認識した。
最初、それは民生部門の報告に出た。
学校の時間割調整。
学生家庭の充電不安。
部活縮小。
水源噂による未成年者の不安。
猫目が学生向けの柔らかい文言を使用していること。
久我山は報告を見て、眉をひそめた。
「猫目は子どもにも叙事を投げ始めている」
眼鏡の女性は言った。
「直接接触ではありません」
「ですが、広告、噂、チラシ、SNSを通じて、すでに影響しています」
会議では、学生向けの説明が必要だと決まった。
ただし、子ども扱いしすぎてはいけない。
「大丈夫です」とだけ言ってはいけない。
本当は大丈夫ではないからだ。
同時に、猫目の言葉をそのまま飲み込ませてもいけない。
最終的に、東京と京都はそれぞれ学生向け説明資料を作った。
東京版のタイトルは、
水と電気を守るために、学生が知っておくべきこと。
京都版のタイトルは、
井戸、水源、うわさをめぐる生活の注意。
タイトルからして、二つの都市の違いが出ていた。
東京はシステムの話をする。
京都は水源とうわさの話をする。
梨央の学校では、その説明資料を特別ホームルームで配った。
担任は言った。
「皆さんが今している節水節電は、無意味な我慢ではありません」
「でも、皆さんがすべてを背負う必要もありません」
「猫目の広告やチラシが、『子どもに大人の固執を背負わせるな』と書くことがあります」
「その言葉は、皆さんの不満を利用しています」
「不満があること自体は悪くありません」
「ただ、その答えを猫目から受け取らないでください」
梨央は、あの先生の言葉と同じだと思った。
本当の不快感を使って、間違った答えへ押す。
彼女はまたノートに書いた。
不満があること自体は悪くない。
猫目から答えをもらわない。
隣の友人が小声で言った。
「梨央、めっちゃメモってる」
梨央は言った。
「後で絶対みんな聞いてくるから」
「先生かよ」
「じゃあ聞かないで」
友人は黙った。
京都の千夏の学校では、水質説明と一緒に噂対応の授業が行われた。
先生は写真を三枚見せた。
一枚は本物の京都水点写真。
一枚は古い地方災害写真。
一枚は猫目支配区の宣伝写真。
先生は尋ねた。
「どれが今の京都の写真かわかりますか?」
クラスは静かになった。
誰も確信できなかった。
先生は言った。
「確信できないとき、すぐに拡散してはいけません」
「でも、一人で怖がる必要もありません」
「学校、家族、公開検査情報、公式水点掲示を確認してください」
千夏は記録帳に書いた。
わからない写真を見たら、一人で怖がらない。
この一文は、クラスで広まった。
誰かが水源写真を見つけると、グループに貼る前にまず聞く。
「これ、一人で怖がるやつ?」
すると別の誰かが返す。
「先生に出すやつ」
少しふざけている。
けれど、有効だった。
猫目の学生向け叙事は、すぐには消えなかった。
東京では、猫目の「学生家庭充電支援」広告が繰り返し出た。
京都では、猫目支配区の「安定瓶装水供給」映像が何度も拡散された。
その映像では、同じ年頃の学生が綺麗なボトル水を受け取っている。
笑顔。
明るい教室。
正常な部活。
穏やかなナレーション。
「子どもたちの生活に、政治対立を持ち込まないために」
千夏のクラスの一人が、それを見て言った。
「向こうのほうが普通じゃん」
誰もすぐに反論できなかった。
千夏もできなかった。
映像だけを見れば、確かに向こうのほうが普通に見えたからだ。
けれどその日の放課後、彼女は祖母と一緒に、鍵のかかった井戸のそばを通った。
祖母は言った。
「あちらの水は、きっとすぐ手に入るんだろうね」
千夏は祖母を見た。
祖母は続けた。
「でも、もらった水を飲むたびに、誰からもらったかを思い出さなきゃいけない水は、疲れるよ」
千夏はその言葉を記録帳に書いた。
もらった水には、名前がついてくることがある。
この言葉は、のちに京都学生説明資料の補充欄へ入った。
東京の梨央も、似たようなことを別の形で感じていた。
ある日、クラスメイトが猫目の充電広告を見て言った。
「一回だけなら使ってもよくない? ただの充電でしょ」
梨央は答えられなかった。
その言葉も、少し本当だからだ。
スマホの充電は生活に必要だ。
猫目が無料で充電を提供するなら、それは便利だ。
けれど彼女は、チラシの水滴模様を思い出した。
子どもに大人の固執を背負わせないために。
彼女は言った。
「一回だけでも、どこの誰が使ったか記録されるかもしれない」
クラスメイトは言った。
「考えすぎじゃない?」
梨央は少し考えた。
「そうかも」
「でも、そうかもしれないって思わせる相手から、充電したくない」
この言葉は完璧ではなかった。
けれど彼女の本心だった。
そのクラスメイトは少し黙り、最後に言った。
「じゃあ、学校の充電日まで待つ」
梨央はほっとした。
その日、彼女は写真部で一枚の写真を撮った。
教室の後ろに並んだ学生のモバイルバッテリー。
一つ一つに名前のシールが貼られている。
先生が管理して、指定時間にだけ充電する。
それは、あまり美しくなかった。
でも、とても東京らしかった。
不便。
面倒。
けれど、猫目を通していない。
京都の千夏もまた、一枚の写真を撮った。
井戸の検査表だった。
日付。
検査者。
水質。
使用可。
注意事項。
表は地味だった。
でも祖母は、それを見て言った。
「これは大事だね」
千夏は尋ねた。
「どうして?」
祖母は言った。
「誰かが責任を持って見ているってわかるから」
千夏はその言葉も書いた。
記録は人を安心させる。
その週の終わり、東京と京都の学生生活記録が、それぞれ中央統合庁の民生報告へ送られた。
梨央の写真は、東京版の附録に載った。
水桶を運ぶ子ども。
名前つきモバイルバッテリー。
夜九時以降に動く洗濯機。
暗くなった商店街。
千夏の記録は、京都版の附録に載った。
井戸検査表。
鍵のかかった井戸。
短縮された部活表。
噂写真の確認流程。
「東京には海がある」と言った生徒の記録。
「京都は見捨てられているのか」と言った生徒の記録。
民生部門の担当者は、報告の最後に書いた。
未成年者は単なる保護対象ではなく、生活変化の早期感知者でもある。水電圧力は、学校生活、家庭労働、部活動、情報判断、都市間感情に直接影響している。
久我山はその報告を読んで、長く沈黙した。
眼鏡の女性は言った。
「猫目が子どもを叙事対象にしている以上、こちらも彼らを何も知らない人間として扱うことはできません」
久我山はうなずいた。
「学生向け説明を常設化してください」
「同時に、学校を猫目接触点にしないように」
その命令は重かった。
学校は防線になる。
けれど、前線にしてはいけない。
この違いを、東京と京都は学ばなければならなかった。
私はその報告を一部読んだ。
青木梨央という名前と、橘千夏という名前も、そこで初めて見た。
彼女たちが私を知らないことは、すぐにわかった。
たぶん、ニュースで「下北沢の黒弦」という言葉を聞いたことはあるかもしれない。
でも、私の生活を知らない。
私も、彼女たちの生活を知らなかった。
それでも、彼女たちの水桶、洗濯機、井戸、時間割、写真、作文が、急にとても近く感じた。
猫目が水と電気を攻撃するとき、被害は会議室の中には留まらない。
それは女子高生の体操着を洗う時間を変える。
茶道部の稽古を止める。
学校の給水機を休み時間だけにする。
写真部の暗室を閉める。
クラスのグループチャットに、不安な写真を流す。
人に、猫目の言葉が少し本当に見える瞬間を作る。
このことを知ってしまうと、私にとって水電戦は、もう図面上の線だけではなくなった。
夜、私は備忘録に書いた。
水電戦は、未成年者の日常に入っている。
東京:節電時間割、海水淡化、洗濯時間、充電管理、写真記録。
京都:井戸検査、節水令、茶道部停止、水源噂、作文記録。
猫目叙事:子どもに大人の固執を背負わせるな。政治対立を生活に持ち込むな。
危険点:この言葉は実際の不便を利用する。
対応:不満を否定しない。猫目の答えを受け入れない。学生向け説明を常設化する。学校を防線にしても、前線にしてはならない。
書き終えてから、私はさらに一文を加えた。
十七歳の水桶も、防線の一部になってしまった。
この一文を書いたとき、少し胸が苦しくなった。
本当なら、十七歳の生活は水桶で重くなるべきではない。
停電時間割を読むべきでもない。
猫目のチラシの意図を分析するべきでもない。
けれど今、それが現実だった。
ソレンセンが黒海で言った。
「人間の幼体も、ずいぶん早く学ばされているな」
私は言った。
「幼体って言い方やめて」
「十七歳は、こちらから見れば幼い」
「私も少し前まで十七歳だった」
「だからだ」
私は反論できなかった。
ソレンセンは続けた。
「猫は子どもを餌にしているわけではない」
「言い方が嫌だけど、そうだね」
「子どもの不満を餌にしている」
私は目を閉じた。
「だから、不満をなかったことにしちゃいけない」
「そうだ」
「不満を猫に渡しちゃいけない」
ソレンセンは、珍しく何も嘲笑しなかった。
数日後、東京の梨央は学校で小さな展示をした。
写真部の臨時展示。
タイトルは、
水と電気のある日。
展示された写真は、どれも派手ではなかった。
夜九時を過ぎて動く洗濯機。
学校の充電棚。
水桶を持つ子ども。
節電で暗い商店街。
剥がされた猫目チラシ。
給水説明を読む老人。
梨央は展示説明に書いた。
これは戦闘写真ではありません。でも、今の東京です。
顧問はその一文を読んで、うなずいた。
「とても大事です」
梨央は尋ねた。
「でも、綺麗じゃありません」
先生は言った。
「記録は、綺麗なものだけを撮るためにあるわけではありません」
京都の千夏は、学校で作文を書くことになった。
題は、
我が家の節水方法。
最初、彼女はつまらないと思った。
けれど書いているうちに、祖母が茶道具を片づけたことを書いた。
学校が水を検査していることを書いた。
井口の鍵を書いた。
クラスで「東京が京都を苦しめている」と言われたときに反論したことを書いた。
最後に、こう書いた。
私は以前、水は京都の風景だと思っていました。今は、水も京都の防線なのだと知りました。
国語の先生は、その文に赤丸をつけた。
評語は、
続けて書いてください。
だった。
千夏はその評語を見て、ふいに自分も少し何かをしている気がした。
井戸を守っているわけではない。
戦っているわけでもない。
ただ、感じたことを書いているだけだ。
けれど、それも保存の一つなのかもしれない。
二つの都市の女子高生は、どちらも説明単を読むことを覚えた。
梨央は読めるようになった。
一級供電。
二級限電。
臨時給水点。
浄水薬剤。
非猫目供水サービスのリスク。
以前は知らなかった言葉だ。
今では、同級生に説明できる。
「これは断水じゃなくて、検査停止」
「これは猫目の無料水じゃなくて、誘導接触だから勝手に受け取っちゃ駄目」
「この配給点は学生証と水筒が必要」
誰かが、彼女を小先生みたいだと笑った。
彼女は言った。
「じゃあ聞きに来ないで」
相手はすぐ黙った。
千夏は読めるようになった。
井戸水検査。
山脚水源。
水車ルート。
公開検査代表。
飲用不可標識。
それに、水の匂いがおかしいとき、老人が「昔から飲んでいた」と言ったからといって、そのまま飲んではいけないことも知った。
祖母がそれを聞いて、少し不機嫌そうにした。
「私だって、むやみに水を飲むほど年寄りじゃないよ」
千夏は言った。
「ただの規則だよ」
祖母は彼女を一度見た。
それから笑った。
「あなた、今はお父さんより口うるさいね」
千夏も笑った。
水電戦は、生活を完全に止めたわけではない。
人はまだ笑う。
ただ、笑い終えたあと、水桶の蓋が閉まっているかを確認するようになっただけだ。
彼女たちは、都市同士の違いも感じていた。
梨央はある日、地図で東京湾を見た。
以前、海はただの風景と港だと思っていた。
今は、広いけれど苦い予備水路のように見える。
彼女は写真部で、海沿いの臨時施設を撮った。
写真にロマンはなかった。
管線、発電車、臨時照明、守衛だけが写っている。
彼女はその写真にタイトルをつけた。
直接飲めない希望。
友人は、タイトルが変だと言った。
彼女は言った。
「だって、そうなんだもん」
京都の千夏は、放課後に山を見るようになった。
春の山は綺麗だ。
けれど今、山を見ると、山脚水源を思い出す。
猫目が上流から手を出すかもしれないことを思い出す。
防衛人員が夜に巡回していることを思い出す。
彼女は作文に一段を加えた。
昔、山は京都を抱いてくれるものだと思っていました。今は、ときどき京都を囲んでいるもののようにも見えます。でも、水もそこから来るので、私たちは山を嫌いになれません。
先生はまた赤丸をつけた。
千夏は恥ずかしくなった。
でも、消さなかった。
それが本当の気持ちだったからだ。
ある日、東京と京都の学校のあいだで遠隔交流が行われた。
テーマは、
水電緊急下の学生生活記録。
正式な大授業ではない。
二つの学校の学生代表が連線するだけのものだった。
梨央は写真部代表として参加した。
千夏は作文が選ばれた生徒として参加した。
画面越しに、二人は初めてお互いを見た。
梨央は言った。
「東京では今、海水淡化点の電気が心配です」
千夏は言った。
「京都では、水源の噂と井戸水検査が心配です」
梨央は言った。
「こっちでは、京都はもっと小さいから管理しやすいはずって言う人がいます」
千夏は言った。
「こっちでは、東京には海があるから少し楽だって言う人がいます」
二人は同時に、少し黙った。
それから梨央が言った。
「実際は、どっちも楽じゃないよね」
千夏はうなずいた。
「うん」
先生は二人に、生活の変化を一つ共有するよう求めた。
梨央は言った。
「私は今、夜に洗濯するとき、供電時間を見るようになりました」
千夏は言った。
「私は今、水を飲む前に検査日を見るようになりました」
画面の両側の生徒たちは、静かになった。
その二つは、とても小さい。
けれど、それこそ生活が変わった証拠だった。
交流の最後、梨央はあの海沿い施設の写真を見せた。
直接飲めない希望。
千夏は、自分の作文の一文を読んだ。
水も京都の防線です。
二人は、まだ親しくはなかった。
それでも、もう一つの都市にいる同じ年の人間も、自分のやり方で適応しているのだと知った。
それによって、猫目が作ろうとしていた「東京には海があるから京都のことを理解していない」「京都が東京の足を引っ張っている」という力は、少しだけ弱まった。
少なくとも、その教室の中では、そうだった。
その夜、梨央が家へ帰ると、家の水圧は正常だった。
母は言った。
「今日は洗濯できるよ」
梨央は言った。
「九時以降にする」
母は彼女を見て、笑った。
「大人になった?」
梨央は言った。
「お母さんにまた手洗いさせたくないだけ」
二人とも笑った。
京都では、千夏が祖母と一緒に茶道具を拭いていた。
使った水は、とても少ない。
拭き終わると、祖母が言った。
「今日は、少しだけお茶を淹れようか」
千夏は尋ねた。
「いいの?」
祖母は言った。
「少しだけ」
水が沸く音は、とても静かだった。
千夏はその音を聞きながら、以前よりずっと貴重なものに感じた。
お茶が高くなったからではない。
水が重くなったからだ。
同じ夜、猫目はなお外から二つの都市を観察していた。
東京の海水淡化点は、まだ低出力の灯りを点けている。
京都山脚の水源点には、夜番がいる。
青い橋の入口には、居民節水説明が貼られている。
学校のグループチャットでは、未確認の水源写真を拡散しないよう、まだ注意が流れている。
誰かが文句を言う。
誰かが怖がる。
誰かが列に並び続ける。
誰かが検査を続ける。
誰かが水桶の蓋を閉める。
二人の十七歳の女子高生も、自分の部屋で今日のことを書いていた。
梨央は写真部の記録帳に書いた。
東京は今夜、少し暗い。でも水はまだ流れている。
千夏は作文用紙の裏に書いた。
京都は今夜、とても静か。井戸にはまだ鍵がかかっていて、それでもまだそこにある。
彼女たちは、今夜の白川一音がどこにいるのか知らない。
猫目が次にどの線を攻撃するのかも知らない。
大人たちがあとどれくらい持ちこたえられるのかも知らない。
けれど、明日の登校には水筒が必要だと知っている。
検査通知を見なければならないと知っている。
電気を節約しなければならないと知っている。
猫目の綺麗なチラシを信じてはいけないと知っている。
それが、彼女たちの十七歳の生活だった。
完全に戦争に奪われたわけではない。
けれど、すでに水と電気によって書き換えられている。
そして彼女たちがそれを書き残せる限り、二つの都市はまだ、恐怖だけで満たされてはいなかった。